古村治彦です。

 ウクライナ情勢は妥協や交渉もできないままに、ついに具体的な戦闘状態に入った。日本のメディアを含めて西側諸国のメディアはプーティンを不倶戴天の敵のように報じている。国際政治は、映画やドラマの白黒をつけて、良い方と悪い方が出てきて、悪を叩きのめせば済む、善悪物語ではない。戦争をしないためにも必死になって落としどころを見つけて、火の手が上がらないようにするのが大人の態度である。

 アメリカ国内でもそうだが、いつもは平和主義者のふりをして、人権や自由を声高に叫ぶ理想主義者ほど、今回のような事態になったら突然好戦的になって、「アメリカは軍隊を送って、ロシア軍を叩きのめせ」などと言い出す。そうならないように事前の段階で、清濁併せ吞む形で交渉して、棚上げ、現状維持などをしておけば良いのに、それをしないで、火の手が上がってからガソリンをかけるようなことを言い出す。

 アメリカがウクライナに軍隊を送って、ロシア軍と直接矛を交えることになったらそれはもう冷戦ではない。世界大戦につながる動きであり、核戦争にまで発展しかねない。そのようなことが分かって、勇ましいことを言うのかどうか分からないが、「そんなことになるなんて思いもしなかった」と焼け野が原で呆然としながら、後悔しても遅いのである。そのために、抑制的に、鈍重に動くことが重要である。しかし、もう事態が悪化する前にできたであろうことはもはや達成不可能だ。

 ウクライナに関して言えば、西側諸国とウクライナは2つの地域の分離独立は認めない、ロシア側はウクライナのEU加盟とNATO加盟は認めない、ということであったのだから、それぞれに妥協して、2つの地域にある程度の自治権は認めてもウクライナからの分離独立は認めない、ウクライナのEU加盟に関しては正式メンバーではなく、特別メンバーという形で、経済関係は強化するが、NATO加盟は認めない(申請しない)、ということで現状を維持するということができたと私は考える。しかし、今ではもう手遅れだ。

 結局ウクライナからの2つの地域の分離独立は認めるがロシアによる併合は認めないという形でしか妥協の道はないように思われる。それだったら、事態がここまで行かないうちに交渉して妥協の道を探るべきだった。ここまで来てしまえば、世界大戦クラスの事態にならないように抑制することが次善の策ということになる。何とも馬鹿げた話だ。

 アメリカは自分の理想主義のために世界を壊して回っている、何とも迷惑な存在になり果ててしまった。

(貼り付けはじめ)

バイデンのトルーマンと同じ状況がウクライナ危機の状況で訪れている(Biden’s Truman Moment Has Arrived in Ukraine

-アメリカ大統領ジョー・バイデンはロシアに対する封じ込めを公約している。しかしどんな種類の封じ込めなのだろうか?

ジェイムズ・トラウブ筆

2022年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/15/bidens-truman-moment-has-arrived-in-ukraine/

75年前、冷戦の開始とともに、ソ連の膨張の脅威にどう対処するかをめぐって、アメリカの外交政策専門家たちは3つの陣営に分かれた。左派は、1948年のアメリカ大統領選挙で進歩党(Progressive Party)の候補者となったヘンリー・ウォレスが率いたもので、当時のソヴィエト連邦の指導者であったヨシフ・スターリンの西側に対する正当な安全保障上の懸念を受け入れるべきだと主張した。右派の人々は、哲学者であり激しい論客だったジェームス・バーナム(『1947年:世界のための闘争』の著者)を含め、スターリンは世界革命の育成に固執しており、第三次世界大戦を戦ってでも阻止しなければならないと主張した。当時のハリー・トルーマン大統領周辺の政治家たちを含む中間派の人々は、ソ連を危険で攻撃的な大国(power)とみなしながらも、米国の外交官ジョージ・ケナンが提案したように、ソ連の体制が軟化するか消滅するまで、その拡大を「封じ込めること(contained)」ができると主張した。

現在、ロシアのウラジミール・プーティン大統領がウクライナに侵攻し、トルーマンが築いた国際秩序を崩壊させると脅している。冷戦時代に発生した3つの傾向全てが再び登場している。コラムニストのピーター・ベイナートは、プーティンは近隣諸国に対する支配権を主張しながらも、アメリカは自由主義的な価値観を持ちつつも、ロシアと共存するようにすべきだと主張している。ドナルド・トランプ前大統領時代の、好戦的で短気な国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトンは、モンロー・ドクトリンが「健在(alive and well)」と宣言している。他方、外交政策専門家のコーリ・シェイクは、ロシアの報復主義(revanchism、レバニズム)に屈しないアメリカの意思表示として、ジョー・バイデン米大統領にウクライナにアメリカ軍を駐留させるように訴えている。

バイデンは、既に多くの点でトルーマンに似ており、トルーマンの冷戦時代の役割を再現しているように見える。しかし、現在の危機において、封じ込めが何を意味するのか、もし封じ込めがあるとすれば、それがどのようなものになるかの具体像は明らかではない。

現代における融和(accommodation)や巻き返し(rollback)は、その前の時代のものがそうであったように、見当違いである。アメリカは、自国の世界観と根本的に異なる世界観を受け入れねば、プーティンの要求を受け入れて妥協することはできない。プーティンの「ロシアには辺境にある国々を支配する権利がある」という信念には、小国は大国と同じ主権を享受できないという考え方が含まれているからだ。もちろん、研究者のアナトール・リーベンが最近『フォーリン・ポリシー』誌の論稿で主張したように、「ルールに基づく世界秩序(rule-based global order)」とは「米国優位(U.S. primacy)」の婉曲表現である。また、ベイナートが主張するように、アメリカが中央アメリカを、ロシアがグルジアやウクライナを同様に冷笑的に見ていると考えるならば、プーティンの要求を受け入れても何も失うことはないはずだ。

ウクライナにアメリカ軍を駐留させ、プーティンにあえてウクライナ攻撃させて、戦争を拡大させることについて、アメリカは負けてはいけない賭けをするべきではない。アメリカは、西側諸国がロシアをヨーロッパから締め出そうとしている、したがってゼロサムゲームに負ける危険があるというプーティンの信念の真意や深さを疑うべきではない。プーティンが本当にそう信じており、たとえそれが間違いであっても、彼が考えるロシアの正当な地位を回復させるために尽力することに変わりはない。プーティンはハッタリをかけているようには見えないので、抑止力(deterrence)はうまく機能しない可能性がある。プーティンは国境を越えて戦車を送ることを断念し、一部の軍隊を帰国させていると最近のニュースで報じられているが、たとえプーティンがウクライナのインフラを破壊したりドンバスで敵対行為を再燃させようとしたりしても、アメリカ軍の存在はその抑止にはあまり助けにならないだろう。

冷戦時代が、現在の状況について理解を手助けするために、説得力を持つアナロジー(analogy、類似性)を提供することはできない。それは、冷戦下、ロシア(ソ連)は西側が妥協して東側に手渡した領域内でしか活動できなかったからだ。トルーマン大統領は1948年にチェコスロバキアで起きたソ連の主導によるクーデターを受け入れ、ドワイト・アイゼンハワー大統領は1956年にハンガリーで起きたクーデターを受け入れた。対照的に、現状では、ウクライナは独立国家であるが、プーティン大統領はそのことを受け入れていない。冷戦と現状をつなぐのは、トルーマン大統領やアチソン、マーシャル両元国務長官たちが、ロシア(ソ連)の侵略の正当性を認めることはなかったが、現実を追認する行動と発言のあり方を模索しなければならなかったということである。トルーマンは、1948年のソ連によるベルリン封鎖を受け入れず、また武力行使による封鎖の解除提案にも同意しなかったが、空輸(airlift)によってそれを回避する方法を見いだした。

それが今日の状況では意味するところは何だろうか? まず、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が提起したと言われている、ウクライナやグルジア、その他の旧ソ連諸国を「フィンランド化する(Finlandize)」という提案を拒絶することである。危険な敵をなだめるために、不本意な国家に中立を押し付けることは、非常に滑りやすい坂道を大きく踏み外すことになる。このことは、政治学者のサミュエル・チャラップが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌上で提案したように、安全保障と引き換えに各国が自発的に「非同盟」の地位(“nonaligned” status)を受け入れるような地域的解決策には当てはまらないかもしれない。ウクライナ政府関係者は、このような結末を受け入れる可能性があると暫定的に示唆し始めている。

それが可能だとしても、ウクライナなどの中立化をプーティンが満足を持って受け入れるかどうかは明確ではない。西側諸国にとっては、彼が主張するような安心感を求めているだけなのかどうか分からない。ロシアが2021年12月に配布した条約案には、外交によって穏健化し、相互譲歩に変えることができるかもしれない一連の要求が含まれていた。例えば、ロシアが中距離ミサイルをヨーロッパから撤退させるか、その数を減らすことならば、NATOもヨーロッパで同様の措置を取ることに同意する可能性がある。あるいはプーティンは、NATOが東ヨーロッパ諸国に駐留する部隊(2014年のロシアによるクリミア占領後に配備された)を撤収または削減することを約束する代わりに、ロシア軍の再配備に合意することもできるだろう。プーティンがNATOにウクライナの門戸を閉ざすようにと主張するのであれば、加盟は規定された年数の間は実現しないという、強固だが非公式な約束でごまかすことができるだろう。キューバ・ミサイル危機でさえ、最終的にはトルコから米国のミサイルを撤去するという非公式な約束によって解決された。当事者たちがそのようにしたいと望む必要があった。

アイゼンハワーやレーガンといった元米大統領のような冷戦の戦士(Cold War worriers)は、政策立案と実行において柔軟性のないレトリックと柔軟な戦術を組み合わせていことが確認されている。バイデン大統領も同様のことを行うべきだ。しかし、もしプーティンがアメリカの持つ手札を見て、テーブルからそれを一掃したらどうだろうか? ウクライナへの侵攻や、厄介な隣国であるウクライナを完全に支配するための政権転覆の口実として、アメリカ側の提案を拒否する方に賭けるとしたらどうだろうか? より広範に言えば、プーティンは、ロシアが台頭するためには、西側が没落しなければならないと確信しているようだ。ロシアと中国は、共同コミュニケの中で、民主政治体制について高邁な言葉を並べた後、グルジアとウクライナの両方でロシアの従属政権(client regimes)を転覆させたカラー革命に抵抗すること表明した。もし彼らが本気なら、東西の境界線の再調整よりももっと大きな問題が生じることになる。

バイデンは、受け入れられる条件を満足させるために、ある種の真のリスクを取る必要がある。なぜなら、ヨーロッパの同盟諸国は、アメリカとは別の方法で、対立の結果を受け入れなければならないからである。しかし、プーティンが、最も遠大な野望を追求することを決定した場合に支払うべき代償について、彼自身がはっきりと明確に理解しなければならない。自由主義的な世界秩序は、ボロボロになってはいるが、守るべき価値はいまだに十分にあるのだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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