古村治彦です。

 今回ご紹介するのは1カ月前の論稿で、「プーティンの行動する理由」についてのものだ。プーティンの行動の理由など今更知ったところで何になるという考えもあるだろう。しかし、彼の行動の理由を知ることで、これからの停戦や講和に関する交渉に役立てることができる。プーティンに条件を飲ませる手助けになるかもしれない。また、今回、なぜこんな時代遅れの侵攻を行ったのかということを西側の「常識」で把握しても難しい。だから、彼の行動の理由がどこにあるのかを知ることはこれからにとって重要だ。

 著者のスネゴヴァヤはその理由について、「(1)プーティンのウクライナを失うことの不安(EUNATOへの接近・米欧による軍事援助の増加)、(2)ウクライナ国内における新ロシア派の人物に対する攻撃(プーティンはこの裏にアメリカがいると考えた)、(3)ウクライナにドンバス地方を返して懐柔しようとして失敗したこと」を挙げている。そして、行動をエスカレートさせている環境として、(1)ヨーロッパ内で対ロシア姿勢で分裂がある(フランスな積極姿勢、ドイツは消極姿勢)、(2)アメリカの国際的な地位の低下によって、ロシアに対する強硬姿勢の範囲が狭まっており、それに対してロシアの行動の枠は広がっているとスネゴヴァヤは指摘している。

 プーティンはウクライナがEUNATOに加盟することを恐れていた、ロシアが直接NATOと国境を接することを恐れていたということになる。NATOは対ソ連防衛のための枠組みである。仮想敵国はソ連であり、今はロシアだ。それがだんだんと自国の境に迫ってくるという恐怖を感じたのだろう。NATOがロシアを攻撃するなんてありえない、と西側諸国は当然のように考えるが、ロシアを攻撃しないという確約ができるのならば、NATOなど必要ではないのだ。お互いに程度の差はあれ、お互いに対する不信、恐怖、不安があり、相互理解ができないまま、ぶつかることになり、ウクライナがその舞台になってしまった。NATOEUもウクライナの加盟申請を長年ほったらかしにしながら、ロシアを挑発するように軍事援助だけはするという、なんとも姑息な手段を取ってきたことも深刻な問題だ。ウクライナを手駒くらいにしか考えてこなかったし、「メンバーに入れていなければいざという時に兵隊を出さないで済む」ということで、加盟申請を受理してこなかったのだ。

お互いに火遊びをし過ぎて、火がついてしまい、それが消せなくなってしまったのだ。何と愚かで馬鹿げたことで、人々が死なねばならないのだろう。

(貼り付けはじめ)

プーティンが今行動するのはどうしてなのか?(Why Is Putin Acting Now?

―複数の要素が重なってロシアの対ウクライナ行動をエスカレートさせている

マリア・スネゴヴァヤ筆

2022年1月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/01/26/russia-ukraine-invasion-timeline/

ロシアは3か月連続で、ウクライナとの国境に兵力を増強し続けている。現在、10万人以上のロシア軍がウクライナを三方の国境から取り囲んでいる。

しかし、なぜ今このようなことが起こっているのか、その理由は明らかではない。ロシアのウラジミール・プーティン大統領が事態の悪化、エスカレートに踏み切ったのは、何か特別な出来事がきっかけとなったのではないようだ。例えば、ロシアが2008年に行った軍備拡張とその後のグルジアとの戦争は、NATOのブカレスト・サミットでウクライナとグルジアがいつかNATOに加盟することが約束されたことがきっかけだったのとは対照的だ。今、プーティンの策略を後押ししているのは、ある特定の出来事ではなく、最近のいくつかの動きであるように思われる。

プーティンは公の演説やインタヴュー、記事の中で、ウクライナを失うことへの懸念を常に表明してきた。2021年5月の国連安全保障理事会(United Nations Security Council)の会合で、プーティンは、「ウクライナは、ゆっくりと、しかし確実に、ロシアに対するある種の反対姿勢、ある種の反ロシアに変わってきている」と発言した。実際、ロシアのウクライナに対する影響力はここ数年、急速に低下してきた。第一に、アメリカとNATOのウクライナに対する軍事協力(military cooperation)が劇的に増加した。軍事援助パッケージの拡大、より本格的な武器供与とウクライナ軍への訓練、ロシアのサイバー脅威と戦うための支援などが実施されてきた。2016年に可決された「対ウクライナ包括的支援パッケージ(Comprehensive Assistance Package for Ukraine)」の下、NATOはウクライナの防衛と安全保障を強化することを目的とした16種類のプログラムを通じてウクライナを支援してきた。ウクライナ安全保障支援イニシアティヴ(Ukraine Security Assistance Initiative)の下、アメリカは2016年以降、多くの分野でウクライナの陸上部隊と特殊作戦部隊の強化に向けた取り組みを強化してきた。

2018年、アメリカはウクライナにジャベリン対戦車ミサイルやランチャーなどの殺傷能力の高い兵器(lethal weapons)の送付を開始した。2021年秋には、トルコが戦闘用無人機「ベイラクターTB2」をウクライナに売却した。クレムリンの当局者たちは、こうした動きはNATOがウクライナにますます多くの武器を提供し、ロシアの安全保障にとって危険で、地域の安全保障バランスを脅かすと見なす動きだと解釈していると発言した。

しかし、それは軍事的な協力だけではありません。ウクライナ国民が徐々に欧米寄りになり、各種の世論調査ではウクライナのEUNATO加盟賛成が着実に増加傾向にあることから、汚職防止や制度構築の取り組みなど、他の分野でもウクライナと欧米の協力は深まっている。

第二に、さらに追い打ちをかけるように、2021年、ウクライナはロシアの工作員とされる人物に対するキャンペーンを開始した。特に、ウクライナ国家安全保障・防衛評議会(Ukraine’s National Security and Defense Council)は、プーティンの側近でウクライナにおけるロシアの主要な同盟者であるオリガルヒ(oligarch)のヴィクトル・メドベチュクとその妻、その他複数の個人と団体に対する制裁を発表した。メドベチュクは、プーティンとの個人的な関係を強調し(メドベチュクの娘の名付け親がプーティンだ)、個人的な友人だと述べた。また、ユーロマイデン(独立広場)抗議デモ、クリミア、ウクライナの将来について、親ロシアの立場からの意見を表明し、ウクライナの分離主義を煽動したとしてアメリカから制裁を受けたことがあった。更に最近の制裁では、メドベチュクの資産が3年間凍結され、ウクライナでのビジネスができなくなった。同時に、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、親ロシア派のプロパガンダを流しているとして、メドベチュクが所有する3つのテレビ局の閉鎖を命じた。

この動きは、アントニー・ブリンケン米国務長官とウクライナのドミトロ・クレバ外相との電話会談の後に行われ、クレムリンはテレビ局閉鎖において、アメリカがテコ入れの役割を果たしたのではないかと疑ったのだ。2021年5月以降、メドベチュクは反逆罪(treason)の疑いでウクライナに自宅軟禁されている。プーティンの怒りを示すように、ウクライナのメドベチュク弾圧に続いて、2021年4月にはロシアが初めてウクライナ国境に軍備を増強した。

2014年以降、プーティンはドンバス共和国をウクライナに戻すことでウクライナへの影響力を保持しようとしたが、これも失敗したように見られる。キエフは、ロシアの条件に従ってこれらの地域をウクライナに戻すことに消極的であることが明らかになった。2021年7月の記事で、プーティンは敗北を公然と認めている。プーティンは記事の中で次のように書いている。「私はますますこう確信するようになっている。キエフはドンバスを必要としていないのだ、と」。プーティンはまた、ウクライナ国内に、悪質な、西側とつながりのある反ロシア勢力が存在し、「外部からの侵略の犠牲者(victim of external aggression)」とウクライナ国内の「ロシア恐怖症宣伝(peddle Russophobia)」を利用し、ウクライナ政府の反ロシア姿勢を促進しているのだと考えている、とも書いている。

これら3つの要因が複合的に起こり、プーティンはウクライナが自分の支配から急速に遠ざかりつつあると判断した。今後20年の間に経済的、世界的影響力が低下すると予測される、衰退する修正主義的大国(declining revisionist power)の指導者として、プーティンには早急に行動を起こすインセンティブ(誘因)が存在したのである。現在の地政学的状況は、チャンスと見れば素早く動くプーティンに、ウクライナに対する影響力を強化しようとする理想的な機会が与えられているのだ「。

第一に、ロシアをめぐるヨーロッパ連合(EU)の意見が分かれている。東ヨーロッパのEUの新規加盟諸国はロシアに対する行動強化を支持する傾向にあるが、EUの二大勢力であるドイツとフランスは、ロシア問題で対立している。フランスは2022年4月に行われる大統領選挙に気を取られている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、EUがアメリカとは別に独自にクレムリンとの協議を進める必要性を(おそらく選挙戦の一環として)主張し続けている。欧米のクレムリンへの対応に分裂が深まる懸念がある。ドイツは、ノルドストリーム2(Nord Stream 2)の完成後、ロシアからのガスのヨーロッパにおけるハブ拠点となることを切望している。ウクライナへの供給を可能にするためにエストニアへの武器供与許可を最近拒否したことからもわかるように、クレムリンに更に譲歩する用意があるようだ。

更に言えば、2021年4月以降、クレムリンはいくつかの、おそらく意図的な措置を講じて、ヨーロッパへのロシアからのガス供給を減らし、現在のEU域内の前代未聞のエネルギー価格高騰とガス不足を招いた。ヨーロッパはガス輸入の約40%をロシアからのガスに依存し続けているため、ウクライナにおけるロシアの行動への対抗能力がさらに制限されている。

第二に、昨年来のアフガニスタン撤退の混乱に見られるように、アメリカの国際的地位の相対的低下がより鮮明になってきたことである。クレムリンの発表によれば、これはアメリカの国際的影響力の低下を示すものであった。バイデン政権のロシア政策は、ノルドストリーム2に対する制裁解除、アレクセイ・ナワリヌイの毒殺事件に対する象徴的な制裁、中国を重視した「ロシア阻止(Park Russia)」の継続などがあるが、かなり弱い印象だ。更に重要なのは、クレムリンにはアメリカの中間選挙まで行動の枠が存在する。中間選挙後、共和党が連邦議会において重要な外交委員会を掌握し、ロシアをめぐる政権への圧力が強まれば、状況は一変するかもしれない。

EU同様、ウクライナの更なるエスカレートに対して、バイデン政権がロシアに強力な制裁を加えることは、現状では制約される可能性がある。深刻な複数の分野別制裁によって、原油や金属(銅、ニッケル、鉄、パラジウム)価格が再び高騰し、アメリカでインフレーションが急拡大する、あるいはスタグフレーションに陥る危険性をはらんでいる。これはプーティンの行動の枠をさらに広げることになる。

第三に、原油・ガス価格の高騰は、EUや米国を制約する一方で、プーティンに余裕を与えている。ロシアは国際舞台で、原油やガスの実質的な収入が蓄積されると、攻撃的で野心的になる典型的な石油国家(petrostate)として行動する傾向がある。大きな収入が得られると、社会問題やインフラ整備に手を付けず、軍事費を優先させることができるようになる。

このような背景から、プーティンはこのタイミングで西側への最後通告を提起したのだ。このチャンスは、アメリカの中間選挙が近づくにつれて閉じていく可能性が高い。しかし、現時点では、プーティンがEUとアメリカの弱点を利用してウクライナに関して譲歩を迫るには絶好のタイミングである。クレムリンが深刻な時間的制約に直面していることを理解することで、欧米の政策立案者たちはより効果的な政策対応をとることができるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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