古村治彦です。

 2022年3月1日にジョー・バイデン大統領が一般教書演説を行った。1年間の成果を誇る演説であったが、全体的に総花的で空元気の演説だった。議場にいる連邦議員たち、特に民主党所属の議員たちは何でもかんでも立ち上がって、やけのやんぱちで拍手をするものだから、バイデンとの呼吸が合わずに、バイデンはとてもやりにくそうだった。それで同じ行を二度読んだり、「ウクライナ人」と言うべきところを「イラン人」と言い間違ったりしたのだろう。

 今回は、バイデンの一般教書演説で語られなかった5つの重要な事柄について書かれている記事をご紹介する。それら5つの事柄は「(1)学生ローン債務問題、(2)アフガニスタンからの撤退(3)ドナルド・トランプ前大統領、(4)2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件、(5)中間選挙」であった。学生ローン債務問題は若者たちからの投票を得るための切り札のように思われるが、民主党内部でもいわゆる「借金の棒引き(徳政令)」には反対の声が大きい。若者全員が大学に行く訳ではなく、一部の若者のために多額の予算を使って借金を棒引きにするのは不公平だという声だ。従って、目玉政策とすることはできない。また、トランプ前大統領について語ることはどうしても批判ばかりとなってしまい、トランプ支持の有権者たちからの更なる反発を招くことは必至なので、それではアメリカ国内の分断を癒すというバイデン政権のメインテーマに反することになる。そして、中間選挙については今のところ厳しい情勢が続いており、語るべき言葉もないということだろう。

 国内の不満から人々の目を逸らすために、外国の問題に目を向けさせるというのはどんな時代のどんな政権にとっても常套手段だ。今回のロシアのウクライナ侵攻はバイデン政権にとっては外に目を向けさせる機会となるが、欧米諸国によるロシア制裁によって、アメリカ国民の生活に大きな影響が出るというジレンマを抱えている。先日もご紹介したが、アメリカ国民の多くは対ロシア制裁を支持しているが、「自分たちの生活に影響が出る」搭乗券が付くとその数字が下がってしまう。バイデン政権にとっては難しいかじ取りが続く。

(貼り付けはじめ)

バイデンが一般教書演説の中で話さなかった5つの事柄(Five things Biden didn't talk about in State of the Union

アレックス・ガンギターノ筆

2022年3月2日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/596461-five-things-biden-didnt-talk-about-in-state-of-the-union

ジョー・バイデン大統領は、火曜日に行われた自身初の一般教書演説で、いくつかの主要なトピックに言及せず、5つの重要な問題に言及しなかった。

学生ローンの負債、アフガニスタンからのアメリカ軍撤退、トランプ前大統領、2021年1月6日の暴動、そして来る中間選挙の5つが、1時間余りの演説の中で省かれた。

バイデンが演説に含まなかった5つの問題について見ていく。

(1)学生ローン(Student loans

バイデン大統領は学生ローン債務の免除について全く言及しなかった。学生ローン債務問題については、民主党の連邦議員たちがこれまでバイデン大統領に対して大統領在任中に取り組むように求めている。

連邦上院多数党(民主党)院内総務のチャールズ・シューマー(民主党)のような民主党指導者の間で広範な学生ローン免除が支持を得ているため、議員らは大統領にこの問題について透明性も提供するよう求めている。

バイデンは2020年の大統領選挙で、1人当たり少なくとも1万ドルの連邦学生ローンを免除することを選挙公約に掲げ、進歩主義派は借り手1人当たり5万ドルに引き上げるよう求めている。

2021年4月、バイデン大統領は学生ローン負債を帳消しにする権限を判断するため、教育省にメモを要求した。それ以来、政権はメモが完成しているかどうかを公には発表していない。

ホワイトハウスは最近この話題について尋ねられ、バイデンが2022年1月に5月初めまで延長した連邦学生ローンの支払い凍結を強調している。この凍結は、2020年3月に当時のトランプ大統領の下で制定されたモラトリアムによって始まり、これまで何度か延長されてきた。

(2)アフガニスタン(Afghanistan

バイデン大統領は一般教書演説の中で、政権1年目の2021年8月に行った、混乱したアフガニスタンからの撤退に言及しなかったことで、すぐに反発を受けた。

グリーンベレー出身者として初めて連邦下院議員に当選し、アフガニスタンに何度も遠征したマイク・ウォルツ下院議員(フロリダ州選出、共和党)は、撤退に言及しなかったことを恥ずべきことと指摘した。

ボバート議員は「何という不名誉な体裁をつくろう姿だろう。アメリカ国内にいる13人の戦死者(ゴールドスター勲章受章者)の母親たちと何千人ものアフガニスタンの協力者たちに答えるべきだ」と述べ、2021年8月にカブール空港で起きた自爆テロで13人のアメリカ軍兵士が犠牲になったことに言及した。

一般教書演説中、ローレン・ボバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)はバイデン大統領に対して叫び声をあげ、アメリカ軍を棺桶に入れたようなものだと非難した。この異常で衝撃的な礼儀作法に対する違反は、バイデン大統領が、イラクとアフガニスタンに駐留する多くの米軍が大規模な燃焼炉からの化学物質を含む有毒な煙にさらされて癌を発症したこと、そして有毒な燃焼炉の影響を受けたかもしれない彼の亡き息子について話していたときに起こった。

バイデンは「国旗で覆われた棺桶に被害者たちを入れてしまうような癌だ。私はこのことについて痛いほどよく知っている」と語った。

バイデン大統領は、アフガニスタンからの撤退の方法について共和党と民主党から批判を受けながらも、その決断について自己弁護してきた。先月、バイデンは、軍当局者が撤退についてバイデン政権関係者を批判したとされる陸軍の調査報告書の記述と調査結果を否定したと述べた。

(3)トランプ(Trump

バイデンは前任者であるトランプ前大統領の名前を演説の中で言及しなかった。

バイデン大統領はこれまでの複数の演説でトランプの名前に言及することは非常に稀で、前任者の名前を示唆する傾向があった。火曜日の一般教書演説では、数カ所でトランプを連想させる発言をした。

バイデンは「アメリカ人の上位1パーセントに恩恵を与えた前政権で成立した2兆ドルの減税とは異なり、アメリカン・レスキュー・プランは働く人々を助け、誰も置き去りにしない」と述べ、2017年に成立したトランプ前大統領による減税案を批判した。

その後、2021年11月に可決成立した超党派によるインフラ整備法について強調する際、「インフラ週間の話はもうたくさんだ(“we’re done talking about infrastructure weeks)」と述べた。「インフラ週間」とは、トランプが1兆ドル規模のインフラ案のイベントを1週間かけて開催したが全く盛り上がらなかったことを受けて、ワシントンでジョークとして

バイデン大統領の一般教書演説の主眼は団結であり、麻薬の蔓延への対処、子どもの精神衛生医療への資源提供、退役軍人の支援、癌の撲滅など、「団結の課題(unity agenda)」すなわち超党派での議会通過を促す4項目を提案した。

(4)2021年1月6日の連邦議事堂進入事件(Jan. 6

バイデン大統領の一般教書演説は、約1年前、2020年の大統領選挙の結果認定に抗議してトランプ支持の群衆が押し寄せた議場で行われた。しかし、バイデンは演説の中で2021年1月6日の出来事には触れなかった。

事件発生1年の節目に、バイデン大統領は連邦議事堂内のスタチュアリー・ホール(国民彫像ホール)で演説を行い、「嘘の網(web of lies)」を広げたトランプ前大統領を手厳しく非難した。彼はまた、演説の中で、トランプに言及することをしないことで、トランプを際立たせるという手法を取った。

暴動の後、数カ月間設置されていた連邦議事堂の周囲のフェンスは、火曜日の演説に先立って元のレヴェルに戻された。また、最大700名の州兵が、問題が発生した場合に地元警察を支援するために待機していた。

フェンスは、最近カナダで見られたようなトラック運転手に対する新型コロナウイルスワクチン義務化に対する抗議に備えたものでもあった。しかし、連邦議会での一般教書演説の前後にトラック運転手たちが大挙して車列を連ねてワシントンDCにやって来るという計画は頓挫したようだ。

(5)中間選挙(Midterms

2022年の中間選挙まで残り数カ月に迫る中、バイデン大統領は演説の中で、来るべき選挙について語らなかった。

民主党は今年秋の中間選挙で連邦議会での過半数を維持することに対して、大きな壁に直面しており、各種世論調査の結果では、バイデンの支持率はほとんどが40%台前半という非常に厳しい状況にある。また、バイデン大統領の所属する民主党は中間選挙で敗北する可能性が高まっている。

バイデン大統領は火曜日、インフレーション対策とアメリカ人のために物価を下げるための政権の努力について語った。インフレーション率の上昇は、バイデンの支持率に打撃を与え、今年の連邦上下両院の過半数を維持したい民主党にとって難題となっている。

バイデン大統領はまた、ロシアのウクライナへの侵攻と、アメリカと同盟諸国がモスクワを非難し、制裁措置を講じるために一致して制裁措置を取っていることについても詳しく語った。アメリカの有権者たちは、ロシアの侵攻に対抗するバイデンの努力を精査する可能性が高いため、ロシアによるウクライナ侵攻は中間選挙の結果に影響を与える可能性がある。

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一般教書演説でバイデンは4部構成で団結について提案(Biden proposes four-part unity agenda during State of the Union

ブレット・サミュエルズ筆

2022年3月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/596451-biden-proposes-four-part-unity-agenda-during-state-of-the-union

ジョー・バイデン大統領は火曜日、連邦議会に超党派で成立を促す4項目の「団結アジェンダ(課題)」について提案した。その4つの項目は、麻薬の蔓延への対処、子どもの精神衛生医療への資源提供、退役軍人への支援、がんの撲滅だ。

「国家のための団結アジェンダ、これらを私たちは達成できるのだ」 とバイデンは語った。

バイデンが主張した課題一つ一つは、議場で大きな拍手を浴びた。これらの提案は、ワシントンの分裂を緩和するという公約を掲げて選挙戦を戦ったものの、共和党の激しい抵抗に遭い、時には個人攻撃を受けてきたバイデンにとって、重要な意味を持つものとなった。

バイデン大統領は連邦議会に対し、麻薬中毒に苦しむ人々の予防と治療のための予算を増やすように要求した。

また、バイデン大統領は、子どもの精神衛生を改善する取り組みの一環として、プライヴァシー保護を強化し、子どもへのターゲット広告を違法化するよう議員たちに促した。

個人的なアピールの中で、バイデン大統領は連邦議会に対して、イラクとアフガニスタンに従軍中に有毒な化学物質に曝された退役軍人たちに対する医療を確実に提供するための法律の可決を求めた。バイデン大統領は息子ボウの死因となった脳腫瘍の原因として焼却炉からの化学物質があったのだろうと考えていると発言した。

バイデンはまた、癌、アルツハイマー病、糖尿病などの治療法を模索する機関である医療高等研究計画局に資金を提供し、「私たちが知っている癌を終わらせる」ことを支援するよう求めた。

バイデンの「団結アジェンダ」は、超党派性が定期的にしか発揮されない夜の間に行われた。バイデンがウクライナの駐米大使を称賛した際、議員たちは一斉に立ち上がって拍手を送り、バイデンが警察への予算提供を支持すると述べたときには、両党の議員が喝采を送った。

しかし、一般教書演説が実施された夜は緊張感にも満ちていた。週末に開催された白人至上ナショナリズムの集会で演説したことで話題になっている保守派の熱血漢マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)は、バイデンが移民について話した際に「壁を作れ」と叫んだ。

ローレン・ボバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)は、バイデン大統領が自身の息子の逝去について述べた際に、アフガニスタンにおけるアメリカ軍の将兵の死亡について叫び声を上げた。

複数の共和党所属の連邦議員たちは、議場への入室に際して新型コロナウイルスの検査が義務付けられたことを理由にして演説への出席自体を拒絶した。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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