古村治彦です。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻について様々な分析がなされている。「冷戦の戦後処理の失敗」という分析があることは既にご紹介したが、その冷戦の戦後処理の失敗によって、第二次世界大戦後に作られた国際秩序が動揺しているとする分析記事をご紹介する。

 冷戦終結後、アメリカ一人勝ちの世界、超大国アメリカ一極体制(unipolar system)が構築された。1990年代の「歴史の終わり時代」は、資本主義とデモクラシーの優越性を過度に喧伝し、「アメリカ型のシステム」の拡散が盛んにおこなわれた。「世界中がアメリカのようになれば皆が幸せになれる」という無邪気な幻想がふりまかれた。

 その幻想を打ち砕いたのは2001年のアメリカ同時多発テロ事件だった。チャルマーズ・ジョンソンはこのアメリカへの攻撃を「ブローバック(blowback)」と呼んだ。アメリカの介入主義に対する、介入されて社会や経済を壊された側からの「反撃」だった。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻もこの「ブローバック」という点からも分析ができる。冷戦終結後のロシアは徹底的に馬鹿にされ続けた。「お前らバカだから共産主義なんてやってよ、それで第二次世界大戦後には散々アメリカに迷惑をかけてよ、それで負けて様ねぇぜ」ということになった。ロシア人たちからしてみれば、ロシアの偉大さとソ連の過ちは別物だと言いたかっただろうが、ロシア人たちの言葉をまともに受け止める人などいなかった。ロシアは世界の半分を支配した共産主義帝国から解体され、経済力も落ちた。しかし、ソ連と共産主義は負けたが、ロシアは負けていないということでナショナリズムが勃興していった。ここでロシアのプライドもある程度尊重し、ロシアの程度に合わせた改革を西側が進めていればここまでの事態にはなっていなかっただろう。

 プーティン率いるロシアは第二次世界大戦後の秩序に挑戦する姿勢を取るようになった。世界の安定に対する不安要因という位置づけになった。そして、今回のウクライナ侵攻である。ウクライナ侵攻は世界を震撼させた。そして、NATOだ、EUだと対ロシアの地域的な国際機関を作っていてもいざとなれば全く役に立たないということを露呈させた。また、国連においては中露が安保理常任理事国である限り、実効性のある措置を取ることができないということも明らかになった。ロシアが暴発したという見方ではロシアにだけ責任があることになるが、ロシアを暴発させたという見方に立つと、ロシアをさんざん愚弄し、挑発し、不安感を与えてきた西側諸国にも今回の事態に対して責任があるということになる。

 中露との対決姿勢だけでは今回の事態、そしてこれから予想される厳しい状況を乗り切ることができない。中露をはじめとする国々を排除して国際社会を形成することはできない。西側諸国は外交におけるリアリズムへと進む方針を固め、戦略的に共存する道を模索する道を選ばねば、その先に待っているのは破滅である。

(貼り付けはじめ)

プーティンの戦争は西側にとって第二次世界大戦後の最大の試練なるのはどうしてか(Why Putin’s War Is the West’s Biggest Test Since World War II

―ロシアのウクライナ侵攻は、世界的なインパクトを最大限にするために計画されたものであることがよく分かる。

マイケル・ハーシュ筆

2022年2月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/24/russia-ukraine-war-west-world-war-2/

民主政治体制の西側諸国にとって、ロシアのウラジミール・プーティン大統領によるウクライナへの本格的な侵攻は、ナチス・ドイツが降伏して以来77年間、その力と誠実さが試される最大の試練である。それは、ロシアは核兵器を保有しており、プーティンは西側が反撃した場合、核兵器を使用する可能性も示唆しているからだ。ある意味、プーティンの作戦はアドルフ・ヒトラーよりも大きな試練になるかもしれない。

ブルッキングス研究所の欧州関係専門家コンスタンツェ・シュテルゼンミューラーは次のように述べた。「プーティンは、もし私たちがウクライナを助けようとするなら、核兵器を使うと脅した。これは事実上、冷戦後の取り決め(post-Cold War arrangement)の終わりを意味する。ウクライナへの攻撃は、ヨーロッパや大西洋を越えて、私たち全員への攻撃であることを理解しなければならない」。

第二次世界大戦後、アメリカとその同盟諸国は、再び大規模な戦争が起こらないようにするために、平和維持と経済に関する制度を導入した。この制度は80年近く、冷戦時代においても、かなり効果的に機能してきた。しかし、今、このシステムは最大の難題に直面している。それは、プーティンが国連安全保障理事会(the United Nations Security Council)の拒否権(veto)によって、国際連合(United Nations)を国際連盟(League of Nations)へといとも簡単に変えてしまおうとしているからだ。国際連盟は、1930年代にアドルフ・ヒトラーやイタリアのファシスト、ベニート・ムッソリーニが世界の舞台において嘲笑した、何の力も持たないただの話し相手だった。

シュテルゼンミューラーをはじめとする複数の専門家は、中国やインドなどこれまでプーティンに好意的だったいくつかの国々も含め、全ての大国はある種の態度を取ることを余儀なくされるだろうと確信している。中国やインドはこれまで、プーティンのウクライナやグルジアなどのロシアの周辺諸国への侵攻を批判することに消極的であった。ヨーロッパ諸国、特にドイツにとっては、重要なインフラ、特にエネルギー面でのロシアへの依存を見直す時期に来ている。

第二次世界大戦後の世界で起きた深刻な危機のほとんどは、プーティンが仕掛けた今回の出来事に比べれば、比較的小さな出来事のように見える。1956年、ソ連がハンガリーに侵攻した際、アイゼンハワー大統領は介入することなく、そのためにアメリカ国内で批判を浴びたが、当時の世界は東と西に大きく分かれていた。冷戦の真っ只中であり、孤立した東欧諸国をソ連が完全に支配していたため、ハンガリーへのロシアの侵攻を止める国際システムは存在しなった。1968年の「プラハの春」でも、ソ連はワルシャワ条約機構との共同作戦の体裁をとって、プラハを攻撃し、破壊した。

1990年、イラクの独裁者サダム・フセインがクウェートに侵攻した際、ジョージ・HW・ブッシュ大統領はフセインに対する国連安保理決議(U.N. Security Council resolutions)を使い、多国籍軍(multinational force)を動員し、フセインを国際社会から完全に孤立させた。ユーゴスラビアの独裁者スロボダン・ミロシェビッチはボスニアとコソボのイスラム教徒に対する大量虐殺を行ったが、この時はロシアが主に傍観し、コソボの場合は外交的解決に協力したくらいである。

結局、それぞれの危機は、酷いものだったが、限定されたものにとどまった。今回の危機はもっと広範囲に及ぶと思われる。元米国務省高官でハーヴァード大学の研究者であるジョセフ・ナイは、「隣国の領土を武力で奪わないという1945年以降の規範は過去に曲げられたこと(bent)があるが、今回はむしろ壊れている(broken)ように見える」と述べた。

1930年代のヒトラーとのもう一つの類似点は、プーティンが神話と事実を織り交ぜた妄想に基づいて行動していることだ。ナチスの独裁者ヒットラーは、ドイツ語圏の民族を統一し、ヴェルサイユ条約の不正を解消するという考えに基づいて、非武装化されたラインラントの占領やオーストリア・アンシュルス(ドイツとオーストリアの合邦国)のような初期の動きを正当化した。同様に、プーティンはウクライナやグルジアなどの旧ソ連圏のロシア語圏の民族の長い歴史や、NATOの旧ソ連圏への東方拡大について語ることを常にしている。

モスクワが大規模な攻撃を仕掛けてきたため、世界中の指導者たちが強硬な対応を行うと表明している。

プーティンはまた、ロシアを過去の帝国の偉大さ、全盛期のソビエト連邦のレヴェルにまで回復させるという彼の長年の野望を実現するための機が熟したと計算しているようだ。プーティンは2014年にクリミアを併合し、ウクライナのドンバス地方を一部占領した最初の侵攻以来、ロシアに対する制裁の効果を分析評価し、耐えられると判断したのだ。そして、今行動しなければ、ウクライナがNATO加盟という野望を実現し、北大西洋条約第5条により、西側諸国による軍事的対応を義務付けられるかもしれないと判断したようだ。

ロシア大統領プーティンも、ロシアがエネルギー輸出を除けば、中国など他の主要国に比べて世界経済への統合が進んでいないことを自覚しているはずだ。かつてジョン・マケイン連邦上院議員はロシアを「国の仮面をかぶったガソリンスタンド(gas station masquerading as a country.)」と揶揄した。

元米国国務副長官で、現在はジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究所(SAIS)の学長を務めるジェームズ・スタインバーグは、ロシアが経済的に比較的孤立しているため、「私たちの影響力ははるかに小さい。プーティンは、石油とガスが必要だから、いずれ人々が買い戻しに来ることを期待しているのだろう。彼はこのことについて考え抜いていると思う」と語った。

結局のところ、プーティンは核抑止力の他に、強力なサイバー能力を構築していることを知っている。2022年1月下旬、CNNはアメリカ国土安全保障省の情報速報について取り上げ、ロシアのウクライナ侵攻に対するアメリカやNATOの対応がロシアの「長期的な国家安全保障」を脅かすと見なされた場合、モスクワはアメリカ本土への大規模なサイバー攻撃で対応するかもしれないと報じている。CNNは、「ロシアは、アメリカのネットワークに対して、低レヴェルのサーヴィス拒否から重要インフラを標的とした破壊的な攻撃まで、さまざまな攻撃的サイバーツールを保持している」と報じている。

しかし、明るい兆しも見られる。ナショナリズムが多くの国々を巻き込み、国際協力が停滞している今、プーティンの攻撃は、ジョー・バイデン米大統領が就任後の主要目標の1つとした、民主的統一の必要性をあらためて認識させる機会となり得る。木曜日の発言でバイデン大統領は、アメリカとNATOの長期的な対応は、ロシアの指導者、企業、銀行に対する厳しい制裁を通じて、ロシアの軍事力と経済力を低下させることであると述べた。彼は、プーティンの侵攻を「世界平和を支える原理そのものへの攻撃(assault on the very principles that uphold the global peace)」と呼んだ。

現時点では、その考えが分からない男プーティンの行動に多くを依存し、彼が合理的に行動しているのかどうかという疑問も残る。しかし、少なくともプーティンンは、西側諸国と戦後の国際システムを、かつて試されたことのない限界まで追い詰めようとしている。スタインバーグは「これは第二次世界大戦以降に構築されたものの限界を認識するための警鐘(wake-up call)だ」と発言した。

(貼り付け終わり)

(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505