古村治彦です。

 今回は、シカゴ大学教授ジョン・J・ミアシャイマー教授のインタヴュー記事をご紹介する。ミアシャイマー教授は、このブログで良く取り上げるハーヴァード大学教授のスティーヴン・M・ウォルト教授と一緒に『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1』を書いた人物だ。また、日本語で読める文献としては、『新装完全版 大国政治の悲劇』『なぜリーダーはウソをつくのか - 国際政治で使われる5つの「戦略的なウソ」 (中公文庫) 』がある。国際関係論の中でもリアリズムという流れに属する学者だ。
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ミアシャイマー
 ミアシャイマーはウクライナ危機をアメリカの介入主義に責任があると断じている。ミアシャイマーは「2008年4月、ルーマニアのブカレストで開催されたNATOサミットで、NATOはウクライナとグルジアをNATOの一部にするだろうという声明を発表したのが、この問題の始まりだと考える。ロシアは当時、これを存亡に関わる危機(existential threat)と見なし、越えてはならない一線を明確に設定した。それでも、時間の経過とともに何が起こったかと言うと、ウクライナをロシアとの国境の西側の防波堤(bulwark)にするために、ウクライナを西側に入れるという方向に進んだ。もちろん、これにはNATOの拡大だけではない。NATOの拡大は戦略の中心ですが、EUの拡大も含まれるし、ウクライナを親米の自由主義民主政治体制国家(pro-American liberal democracy)に変える(turning)ことも含まれ、ロシアから見れば、これは存亡に関わる危機なのだ」と述べている。

 ロシアが軍事侵攻を行ったことは断罪されるべきだ。ウクライナの国民にしてみれば、ロシアの都合など私たちとは関係ないということになる。しかし、大きな勢力や大国の近くにある中小国は常にそれらの角逐に神経を尖らせ、どちらか一方に賭けるのではなく、常に両方とつながるということが生き残る秘訣だ。日本はどうだろうかと考えると、ため息しか出ない。

(貼り付けはじめ)

ジョン・ミアシャイマーはなぜウクライナ危機をアメリカの責任だと批判するのか(Why John Mearsheimer Blames the U.S. for the Crisis in Ukraine

-政治学者ジョン・ミアシャイマーは長年、プーティンのウクライナへの侵略は西側諸国の介入(Western intervention)によるものだと主張してきた。最近の出来事で彼の考えは変わったのだろうか?

アイザック・コテイナー筆

2022年3月1日

『ニューヨーカー』誌

https://www.newyorker.com/news/q-and-a/why-john-mearsheimer-blames-the-us-for-the-crisis-in-ukraine?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=onsite-share&utm_brand=the-new-yorker&utm_social-type=earned

政治学者のジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer)は、冷戦終結後のアメリカの外交政策に対する最も有名な批評家の一人である。ミアシャイマーは、スティーヴン・ウォルトと共著した著作『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』で最も良く知られているだろうが、大国間政治の主唱者だ。国家の安全を守るために、国家は敵対者を想定して事前に行動するとする国際関係論の一派であるリアリズムを信奉者である。ミアシャイマーは長年にわたり、アメリカがNATOの東方への拡大(to expand NATO eastward)やウクライナとの友好関係を推進した(establishing friendly relations with Ukraine)結果、核武装した大国間の戦争の可能性(likelihood of war between nuclear-armed powers)が高まり、ウラジミール・プーティンのウクライナに対する攻撃的な姿勢の下地(groundwork)ができたと主張してきた。実際、ロシアがクリミアを併合した後の2014年、ミアシャイマーは「この危機の責任の大半はアメリカとヨーロッパの同盟国が負っている(the United States and its European allies share most of the responsibility for this crisis)」と書いている。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、米露関係をめぐるいくつかの長年の議論を再燃させるものだ。プーティンは欧米の関与に関係なく旧ソ連圏内で積極的な外交政策を取るという批判が多いが、ミアシャイマーはプーティンを刺激したアメリカに責任があるとする立場を貫く。最近、私はミアシャイマーと電話で話した。ミアシャイマーとの会話の中で、今回の戦争は防げたのか(the current war could have been prevented)、ロシアを帝国主義的大国と考えることができるのか(whether it makes sense to think of Russia as an imperial power)、プーティンのウクライナに対する最終的な計画(Putin’s ultimate plans for Ukraine)などについて、長さと分かりやすさを重視して編集したものとなっている。

コテイナー:現在のロシアとウクライナの状況を見て、世界はどうしてこうなったのだと考えるか?

ミアシャイマー:2008年4月、ルーマニアのブカレストで開催されたNATOサミットで、NATOはウクライナとグルジアをNATOの一部にするだろうという声明を発表したのが、この問題の始まりだと考える。ロシアは当時、これを存亡に関わる危機(existential threat)と見なし、越えてはならない一線を明確に設定した。それでも、時間の経過とともに何が起こったかと言うと、ウクライナをロシアとの国境の西側の防波堤(bulwark)にするために、ウクライナを西側に入れるという方向に進んだ。もちろん、これにはNATOの拡大だけではない。NATOの拡大は戦略の中心ですが、EUの拡大も含まれるし、ウクライナを親米の自由主義民主政治体制国家(pro-American liberal democracy)に変える(turning)ことも含まれ、ロシアから見れば、これは存亡に関わる危機なのだ。

コテイナー:あなたは、「ウクライナを親米的な自由民主主義国家に変えること」と述べた。私は、アメリカがある場所を自由主義民主政治体制国家に「変える」ということに(“turning” places into liberal democracies)、あまり信頼や信用を置いていない。アメリカがそのようなことは実施するのは難しいと考えている。ウクライナが、ウクライナの人々が実際に本心から、親米的な自由民主主義国家に住みたいと言ったらどうするのか?

ミアシャイマー:ウクライナが親米的な自由主義的民主政治体制国家になり、NATOに加盟し、EUに加盟すれば、ロシアはそれを断固として容認しないだろう。もしNATOの拡大やEUの拡大がなく、ウクライナが単に自由主義的民主政治体制国家となり、アメリカや西側諸国と一般的に友好的であれば、おそらくそれで済ませることができるだろう。ここでは、3つの戦略が存在することを理解する必要がある。EUの拡大、NATOの拡大、そしてウクライナを親米的な自由主義的民主政治体制国家にすることだ。

コテイナー:NATOは誰を受け入れるかを決めることができる。しかし、2014年には多くのウクライナ人がヨーロッパの一部とみなされることを望んでいるように見受けられた。自由主義的民主政治体制国家になれないと言うことは、ほとんどある種の帝国主義(imperialism)のように思われる。

ミアシャイマー:それは帝国主義ではなく、大国間政治(great-power politics)だ。ウクライナのような国が、ロシアのような大国の隣に住んでいる場合、ロシアが何を考えているのか、注意深く観察しなければならない。棒で相手の目を突けば報復されるだろう。西半球の国々は、アメリカに関して、このことを十分に理解している。

コテイナー:本質的にモンロー・ドクトリン(Monroe Doctrine)だ。

ミアシャイマー:もちろんだ。西半球には遠い大国が軍隊を持ち込むことをアメリカから許されるような国は存在しない。

コテイナー:そうだ。しかし、西半球の国々(その多くは民主政治体制国家)が自分たちの外交政策を決めることをアメリカは許さないというのは、それが良いとも悪いとも言えるが、それは帝国主義ではないのか?私たちは本質的に、民主政治体制国家がどのように政策を決定し実施するかについて、アメリカに対してある種の発言権を持っていると私は考える。

ミアシャイマー:私たちが言えることは、冷戦時代には民主的に選ばれた西半球の国々の指導者たちをその政策に不満があるからということでアメリカが倒したことがある。これが大国の行動なのだ。

コテイナー:もちろん、アメリカはそのようなことを行った。しかし、そのような行動をするべきなのかについて私は疑念を持っている。外交政策について考える時、アメリカもロシアもそのような行動をしない世界を作ろうと考えるべきなのだろうか?

ミアシャイマー:それは世界が機能する方法ではない。そのような世界を作ろうとすると、アメリカが一極集中時代(unipolar moment)に追求した悲惨な政策に行き着く。私たちは自由主義的民主政治体制を構築するために世界中に手を出した。もちろん、主な対象は中東たったが、それがどれほどうまくいったかあなたは知っているはずだ。知っての通り、あまりうまくはいかなかった。

コテイナー:第二次世界大戦後の75年間、あるいは冷戦終結後の30年間のアメリカの中東政策は、中東に自由主義的民主政治体制国家を作ることだったと言い難いと私は考える。

ミアシャイマー:一極集中時代のブッシュ・ドクトリンがそうだったと思う。

コテイナー:イラクでそうだった。しかし、パレスチナ自治区やサウジアラビア、エジプト、その他の場所ではそうではなかったはずだが?

ミアシャイマー:いや、そうではない。サウジアラビアもエジプトではそうではなかった。そもそもブッシュ・ドクトリンでは、イラクで自由主義的民主政治体制を実現できれば、それがドミノ効果(domino effect)を起こして、シリアやイラン、ひいてはサウジアラビアやエジプトといった国々が民主政治体制に転換すると考えていた。それがブッシュ・ドクトリンの基本的な考え方だった。ブッシュ・ドクトリンは、イラクを民主化するためだけに作られたわけではない。もっと壮大な構想(grander scheme)があった。

コテイナー:ブッシュ政権の責任者たちが、どれだけ中東を民主政治体制国家の集まりにしたかったのか、本当にそうなると思っていたのかは、議論の余地がある。私の考えでは、サウジアラビアを民主政治体制に転換しようという実際の熱意はほぼなかったということだ。

ミアシャイマー:そうだ、サウジアラビアに焦点を当てるというのは、あなたの立場からすると、容易な事例だと思う。サウジアラビアは石油のために私たちに対して大きな影響力を持っており、民主政治体制国家ではないことは確かだ。しかし、当時のブッシュ・ドクトリンは、中東を民主化できるという信念に基づいている。一朝一夕にはいかないかもしれないが、いずれは実現するはずだ。これがブッシュ・ドクトリンの基本信念だ。

コテイナー:私が言いたいのは「行動は言葉よりも雄弁である(actions speak louder than words)」ということだ。ブッシュの華々しい演説がどうであれ、アメリカの最近の歴史のどの時点でも、世界中の自由主義的民主政治体制を保証しようとする政策が取られてきたとは思えない。

ミアシャイマー:一極集中の時代にアメリカが取った行動と、これまでの歴史の中でアメリカが取った行動には大きな違いがある。アメリカの外交政策について、広範な歴史の流れの中であなたは語るが、その大きな流れについて私はあなたに同意する。しかし、一極集中の時期は、非常に特殊な時期だった。一極集中の時代、私たちは民主政治体制を広めることに深く関与していたと思う。

ウクライナについては、2014年まで、ロシアを封じ込める(containing Russia)ための政策としてNATOの拡大やEUの拡大を想定していなかったことを理解することが非常に重要だ。2014年2月22日以前、誰もロシアが脅威だとは本気で思っていなかった。NATOの拡大、EUの拡大、ウクライナやグルジアなどを自由主義的民主政治体制国にすることは、ヨーロッパ全域に広がる、東ヨーロッパと西ヨーロッパを含む巨大な平和地帯を作るためのものだった。ロシアを封じ込めることが目的ではなかった。しかし、このような大きな危機が発生し、私たちは責任を負わなければならなくなった。もちろん、私たちは自分たちを責めるつもりなど微塵もなく、ロシアだけを責めるつもりだった。そこで私たちは、ロシアが東欧への侵略を企んでいるというストーリーを作り上げた。プーティンは大ロシア、あるいはソヴィエト連邦の再興に関心を持っているというストーリーを作り上げた。

コテイナー:その時期とクリミア併合について話を移そう。古い記事を読んでいたら、「欧米の通説では、ウクライナ危機はほぼ全面的にロシアの侵略のせいとされている」とあなたは書いていた。「ロシアのプーティン大統領は、ソヴィエト帝国を復活させたいという長年の願望からクリミアを併合し、いずれはウクライナの他の地域や東欧諸国を狙うかもしれない」というのが通説だ。そして、あなたは「しかし、この説明は間違っている」と述べた。ここ数週間の出来事で、通説が思ったより真実に近かったと思うことはないか?

ミアシャイマー:いや、私は正しかったと考えている。2014年2月22日以前は、彼が侵略者だとは思っていなかったという証拠は明らかにあると思う。これは、私たちが彼を非難するために捏造した話なのだ。私の主張は、西側、特にアメリカがこうした厄災の主な原因であるということだ。しかし、アメリカの政策立案者は誰も、そしてアメリカの外交政策の確立者のほとんど誰も、その論旨を認めようとはせず、ロシアに責任があると言うだろう。

コテイナー:あなたはそれでロシアが併合して侵攻したと言うのか?

ミアシャイマー:その通りだ。

コテイナー:その論稿に非常に関心を持った。それは論稿の中で、プーティンがいずれウクライナの他の地域や東欧諸国を狙うかもしれないという考え方は間違っているとあなたが書いていたからだ。現在、プーティンはウクライナの他の地域を狙っているようだが、その当時は分からなかったとしても、後から考えると、その主張の方が正しいかもしれないと考えるか?

ミアシャイマー:ウクライナの他の地域を狙うというのは、細かいことを言うようだが、ウクライナ全土を征服し、バルト三国に目を向け、大ロシアやソ連の再興を目指すことを意味する。それが本当だという証拠は今のところ見当たらない。現在進行中の紛争の地図を見ても、彼が何をしようとしているのか、正確に把握することは困難だ。ドンバス地方を占領し、ドンバスを2つの独立国か1つの大きな独立国にするつもりであることは明らかなようだが、その先どうするつもりなのかは不明だ。つまり、プーティンはウクライナ西部には手を出さないように見える。

コテイナー:プーティンの爆弾が実際に降っているではないか?

ミアシャイマー:しかし、それは重要な問題ではない。重要な問題は以下の通りだ。「どの領土を征服し、どの領土に固執するのか?」というものだ。先日、クリミアから出てきた部隊がどうなるかについてある人と話したのだが、その人は、彼らは西に回ってオデッサを取ると考えると言っていた。最近、別の人と話したら、それはないだろうと言っていた。何が起こるかを分かることがあるだろうか? いや、何が起こるかは誰にも分からない。

コテイナー:プーティンがキエフを狙っているとは考えないか?

ミアシャイマー:いや、私はプーティンがキエフに侵攻意図を持っているとは考えない。彼は少なくともドンバスを、そしておそらく更にウクライナ東部の領土を奪おうと考えている。そして2つ目は、キエフに親ロシア政府、つまりモスクワの利益に同調する政府を設置しようと考えているだろう。

コテイナー:あなたはキエフを手に入れることに興味はないと私に言ったのではないか?

ミアシャイマー:いや、プーティンは体制転換(regime change)のためにキエフを手に入れることに興味があるということだ。分かるだろうか?

コテイナー:何がどう違うのか?

ミアシャイマー:キエフを永続的に征服することはないということだ。

コテイナー:ロシアに友好的な政府が樹立され、プーティンは何らかの発言権を持つということか?

ミアシャイマー:その通り。しかし、それはキエフを征服して保持することとは根本的に異なることを理解することが重要だ。私の言っている内容を理解できるか?

コテイナー:帝国の領地では、たとえ本国が実質的に支配していても、ある種の人物が形式的に王位に就いていることは、誰しも考えることではないか? そのような場所は征服されていることになるではないか?

ミアシャイマー:「帝国」という言葉の使い方に問題がある。この問題を帝国主義という観点から語る人がいることを私は承知していない。これは大国間政治であり、ロシアが望んでいるのは、ロシアの利益に同調するキエフの政権だ。最終的には、ロシアは中立的なウクライナと共存することを望んでおり、モスクワがキエフの政府を全面的に支配する必要はないと考える。親米的でなく中立的な政権を望んでいるだけかもしれないのだ。

コテイナー:「誰も帝国主義として語らない」とあなたは述べた。しかし、プーティンの演説では、特に「旧ロシア帝国の領土(territory of the former Russian Empire)」に言及し、それを失うことを嘆いている。プーティンが帝国主義について話しているではないか?

ミアシャイマー:あなたの発言内容は間違っていると考える。なぜなら、西側諸国のほとんどの人がそうしているように、あなたはプーティンの演説原稿の前半からのみ引用しているからだ。彼は「ソヴィエト連邦を恋しく思わない者は心がない(Whoever does not miss the Soviet Union has no heart)」と述べた。そしてその後で、「それを取り戻したいと思う者は考えが足りない(Whoever wants it back has no brain)」と続けたのだ。

コテイナー:プーティンはウクライナが本質的にでっち上げの国家(essentially a made-up nation)だと述べ、そして現在侵略しているように見える。そうではないか?

ミアシャイマー:分かった。それでは、この2つの出来事を合わせて、その意味を私に教えて欲しい。私はよく理解できないのだ。プーティンはウクライナがでっち上げだと確信している。私は彼に、「全ての国家はでっち上げである」と指摘したい。ナショナリズムを勉強している学者や学生たちなら誰でもそう言うはずだ。私たちは国家のアイデンティティという概念を作り上げた。あらゆる種類の神話(myths)で構成されている。だから、ウクライナについては、アメリカやドイツについてそうであるように、プーティンが正しいのだ。もっと重要なのは、ウクライナを征服して、大ロシアや旧ソヴィエト連邦の再興に組み込むことはできないということをプーティンが理解しているということだ。彼にはそれが不可能だ。プーティンがウクライナで行っていることは、大ロシアや旧ソ連の再興とは根本的に異なっている。彼は明らかにいくつかの領土を切り取っている。2014年にクリミアで起きたことに加え、ウクライナから領土を奪おうとしている。更に言えば、彼は間違いなく体制転換(regime change)に関心を持っている。その先に何があるのかは、彼がウクライナ全土を征服するつもりがないことを除けば、はっきりとしたことは言えない。そんなことをしようものなら、プーティンは極めて深刻な失態を犯すことになるだろう。

コテイナー:もしプーティンが大ロシアや旧ソ連の再興を試みようとしたら、私たちが目撃した事柄についての分析内容も変化すると考えているか?

ミアシャイマー:全くその通りだ。私の主張は、プーティンはソヴィエト連邦の再興や大ロシアを築こうとはしていない、ウクライナを征服してロシアに統合しようとはしていない、というものだ。プーティンは非常に攻撃的で、このウクライナの危機の主な原因は彼にあるというストーリーを私たちが作り出したということを理解することが非常に重要だ。アメリカや西側諸国の外交政策当局が作り出した議論は、プーティンが大ロシアや旧ソヴィエト連邦の再興に関心を抱いているという主張を中心に展開されている。ウクライナを征服し終えたら、バルト三国に目を向けるだろうと考えている人たちがいる。彼はバルト三国には向かわないだろう。まずもって、バルト三国はNATOのメンバーなのだから。

コテイナー:それは良いことか?

ミアシャイマー:そうではない。

コテイナー:あなたはNATOの一部だから侵攻しないということを理由の一つとして挙げている。しかし、ウクライナはNATOに加盟してはいけないとも述べているが?

ミアシャイマー:その通りだ。しかし、この2つは全く異なる問題だ。なぜこの2つを結びつけるのか分からない。私がNATOに加盟すべきだと考えることと、実際に加盟しているかどうかとは無関係だ。バルト三国はNATOに加盟している。北大西洋条約第5条で保証されている、それが全てだ。更に言えば、プーティンはバルト三国を征服することに関心があるという証拠を示したことはない。また、実際、彼はウクライナを征服することに関心があるという証拠を示したことはない。

コテイナー:プーティンが復活させたいのは、ソ連より前にあったロシア帝国のように思える。彼はソ連にとても批判的なようだが?

ミアシャイマー:どうだろうか、プーティンが旧ソ連に対して批判的かどうかは分からない。

コテイナー:プーティンは昨年書いた重要な論稿でもそう言ったし、最近の演説でもそう述べたが、ウクライナなどのソヴィエト共和国にある程度の自治を認めたことを本質的にソ連の政策の失敗だと述べている。

ミアシャイマー:しかし、私が以前にあなたにお知らせしたように、プーティンは「ソヴィエト連邦を恋しく思わない者は心がない」とも語っている。今の話とは少し矛盾している。つまり、プーティンは事実上、ソ連を恋しがっていると言っている訳だが? 彼はそう言っているのだ。ここで言っているのは、彼の外交政策だ。自問自答しなければならないのは、ウクライナにその能力があると考えるかどうかです。ウクライナはテキサスより小さなGNPしかない国だと分かっているはずだ。

コテイナー:国家というものは常々能力のないことをやろうとするものだ。「アメリカがイラクの電力システムをすぐに使えるようにできるなんて誰が思うんだ、アメリカ国内にだって同じような問題が山積しているのに?」とあなたは言うかもしれない。その通りだ。しかし、それでも私たちはそれができると考え、実行しようとして、失敗したのだ。そうではないか? ヴェトナム戦争でアメリカはやりたいことができなかった。それが、様々な戦争をしない理由だとあなたは言うだろうし、私もそう考える。しかし、だからと言って、私たちの能力について正しかった、もしくは合理的だったということにはならない。

私が言っているのは、ロシアの潜在的な力、つまり経済力の大きさについてだ。軍事力は経済力の上に成り立っている。本当に強力な軍隊を作るには経済的な基盤が必要だ。ウクライナやバルト諸国を征服し、東欧に旧ソ連や旧ソ連帝国を再興するには、大規模な軍隊が必要であり、それには現代のロシアが持っていない経済的基盤が必要となる。それでもロシアがヨーロッパの地域覇権(regional hegemony)を握ることを恐れる理由はない。ロシアはアメリカにとって深刻な脅威ではない。しかし、私たちは国際システムにおいて深刻な脅威に直面している。私たちは、同世代の競争相手に直面している。それは中国である。東欧における私たちの政策は、今日私たちが直面している最も危険な脅威に対処する私たちの能力を損なっている。

コテイナー:今、ウクライナに対してどのような政策を取るべきだと考えるか? また、中国政策が損なわれるようなことをしているのではないかという懸念はないだろうか?

ミアシャイマー:第一に、ヨーロッパから中国にレーザーのような方法で対処するための軸足を移すべきだろう。そして第二に、ロシアとの友好的な関係を構築するために時間をかけて取り組むべきだ。ロシアは中国に対する均衡連合(balancing coalition)の一員となる。中国、ロシア、アメリカという3つの大国が存在し、そのうちの1つである中国が同党の競争者となる世界において、アメリカが望むことは、ロシアを味方につけることだ。しかし、私たちが東欧で行った愚かな政策は、ロシアを中国の側に引き入れさせることになってしまった。これは力の均衡政治学入門のレッスンに反するものだ。

コテイナー:2006年に『ロンドン・レヴュー・オブ・ブックス』誌に掲載された、イスラエル・ロビーについてのあなたの記事を読み返してみた。あなたはパレスチナ問題について書いていたが、私はその内容に非常に同意する。「ここには道徳的な側面もある。アメリカ国内でのロビー活動のおかげで、占領地におけるイスラエルの占領政策を事実上容認することになり、結果としてパレスチナ人に対して行われた犯罪にアメリカが加担することになってしまった」とあなたは書いている。あなたは自分を道徳について語らないタフで堅苦しい老人のように思っているよう見える。私には、ここに道徳的な側面があることをあなたが示唆しているように思えた。現在ウクライナで起きていることに道徳的な側面があるとすれば、それについてはどう考えるか?

ミアシャイマー:国際政治におけるほとんど全ての問題には、戦略的な側面と道徳的な側面があると考える。その道徳的な側面と戦略的な側面が一直線に並ぶこともあると思う。つまり、1941年から1945年までナチスドイツのことを考えれば、理解できると思う。一方、戦略的に正しいことをしても道徳的に間違っているような、それらの矢印が反対方向を向いている場面もある。ナチスドイツと戦うためにソ連と同盟を結んだことは、それは戦略的には賢明な方策だったが、道徳的には間違った方策だったと私は考える。しかし、戦略的に仕方がないからそうするしかなかったのだ。言い換えれば、私があなたに言いたいのは、いざとなれば、戦略的配慮が道徳的配慮を圧倒するということだ。理想的な世界では、ウクライナ人が自分たちの政治体制を自由に選択し、自分たちの外交政策を選択することができれば素晴らしいことではあるのだが。

しかし、現実の世界では、それは不可能なことなのだ。ロシア人が自分たちに何を求めているのかに真剣に耳を傾けることがウクライナ人にとっての国益となるのだ。もし、根本的なところでロシアを疎外するようなことがあれば、大変なリスクを負うことになる。ウクライナがアメリカや西ヨーロッパの同盟諸国と協調していることが、ロシアにとって存亡に関わる危機であるとロシア側が考えるなら、それはウクライナに甚大な損害を与えることになる。もちろん、現在まさにそれが起こっている。従って、私の主張は、ウクライナにとって戦略的に賢明な戦略は、西側諸国、特にアメリカとの緊密な関係を断ち、ロシアに迎合しようとすることである、ということだ。もしNATOを当方に拡大してウクライナを含めるという決定がなければ、クリミアとドンバスは現在もウクライナの一部であり、ウクライナでの戦争もなかっただろう。

コテイナー:その忠告は、今となってはちょっと現実的ではないと思われる。現地の状況から見て、ウクライナがロシアを何とかなだめる時間はまだあるだろうか?

ミアシャイマー:私は、ウクライナ人がロシア人とある種の共存関係(modus vivendi)を築ける可能性は十分にあると考える。それは、ロシア側は、ウクライナを占領してウクライナの政治を動かそうとすると、大きなトラブルを招くことに気付きつつあるからだ。

コテイナー:つまり、ウクライナを占領するのは大変なことになるということか?

ミアシャイマー:その通りだ。だから私は、ロシアが長期的にウクライナを占領するとは思えないと言ったのだ。しかし、はっきりさせておきたいのは、少なくともドンバスは占領するだろうし、できればウクライナの最東部をこれ以上占領しないだろうと言いたい。ロシア人は頭が良いので、ウクライナの全土占領を行うことはないと考える。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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