古村治彦です。

 ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がアメリカ連邦議会でヴィデオ演説を行った。悲惨な映像を駆使し、アメリカ連邦議会の議員たち、アメリカ国民に強く訴えるものとなり、アピールは成功ということになった。イギリスやカナダ(歴史的にウクライナ移民が多い)でも同様の演説を行っており、ゼレンスキー大統領のアピールは成功しているという評価がある。しかし、ゼレンスキー大統領のアピールが成功するということは、アメリカをはじめとする西側諸国がこれまでよりもより強力な武器をウクライナに供与すること、飛行禁止区域の設定やミグ戦闘機の供与ということにつながる。

既にアメリカ連邦議会内では、より強硬な姿勢を取る声が高まっている。そうなれば、アメリカ軍とロシア軍の直接対決ということになる。ウクライナ国内で米露直接対決ということになる。そうなればウクライナの国土と国民はもっと傷つくことになる。そして、事態がエスカレートし、アメリカ軍の被害が増大すれば、アメリカとしても後には引けなくなる。ロシアの体制転換を含めた、全面戦争ということにもなりかねない。そうなれば核兵器使用ということまでつながる。そんなところまでは深刻化するはずがない、などと誰が確信を持って言えるのか。神ならぬ人間の身で、あらゆるレヴェルでうっかりミスを繰り返してきたちっぽけな人間の身で、そんなことが起きないなどと誰が言えるのか。

 ウクライナは日本の国会でもゼレンスキー大統領に演説をさせて欲しいと要求してきた。これは慎重に対処すべきことだと思う。ただ平和を訴えるという程度の内容だったら良いが、熱しやすくて冷めやすい日本国民の特性を利用されて、日本が戦争に巻き込まれてしまう可能性をも秘めていると思う。日本とロシアは実際に国境を接しているのだ。ゼレンスキー大統領は演説の中で相手が聞きたい言葉を良いタイミングで述べている。日本とロシアは複雑な歴史的関係を持っており、そう単純にはいかない。日露戦争、太平洋戦況末期のソ連により日ソ不可侵条約違反、北方領土問題などをゼレンスキー大統領が演説の中で取り上げて、日本国民が単純にカッとなってしまったら、何が起きるか分からない。

 ゼレンスキー大統領の演説は危険だ。ゼレンスキー大統領は自分たちのために、戦争に巻き込むという戦略を持っているようだが、それがどのような結果を引き起こすか、事態をエスカレートさせるとどのような事態が起きるのかを考えているとは思われない。日本の敗戦時の玉音放送では、「而モ尚交戰ヲ繼續(継続)セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ」「然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス」という言葉があった。事態のエスカレートは何としても避けるべきだ。ゼレンスキー大統領の国会での演説は慎重に対処しなければ、日本が戦争に巻き込まれることになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンはプーチティンの戦争に巻き込まれるのか?(Is Biden Getting Sucked Into Putin’s War?

-ウクライナ大統領の連邦議会への強力なアピールはワシントンの慎重な計算を変える可能性がある。

マイケル・ハーシュ筆

2022年3月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/16/biden-zelensky-speech-putin-ukraine-russia/

ロシアから攻撃を受けているウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は水曜日、アメリカ連邦議会でヴィデオ演説を行い、英国のウィンストン・チャーチル元首相の戦時中の演説を引用し、真珠湾攻撃から2001年9月11日までの、自分たちの過去のトラウマを思い出すようアメリカ国民に訴えた。ゼレンスキーは、ウクライナが自国の消滅を企む敵との存亡をかけた戦いに直面する中、ジョー・バイデン大統領にもっとリーダーシップを発揮するよう強く促した。

ゼレンスキーはヴィデオ演説の中で、血まみれの子どもたちや溝に投げ込まれた死体といった痛ましい映像を見せた後、「あなたはこの国のリーダーだ。そして世界のリーダーであって欲しいと私は願っている。世界のリーダーになることとは、平和のリーダーになることだ」とバイデンに向けて語った。ゼレンスキーは、議場を埋めた聴衆からスタンディングオベーションを受けた。聴衆である議員たちの多くは、バイデンに更なる行動を求めている。その同じ人たちの多くは、ドナルド・トランプ前米大統領の最初の弾劾審問で、トランプがウクライナへの同種の支援を削減しようしたことについて無罪に投票したのだ。

ゼレンスキー大統領の演説は、イギリスとカナダに対して行われた演説と同じく、パーソナルで良く練られたアピールとなった。チャーチルの有名な「われわれは決して降伏しない(we shall never surrender)」という演説を引用し、カナダのジャスティン・トルドー首相に、オタワ国際空港が爆撃されたら「あなたやあなたの子供たちがこの激しい爆発音を聞くことを想像して欲しい」と懇願した。

ゼレンスキー大統領の雄弁な訴えは、バイデンが今、地政学的にいかに窮地に立たされているかを浮き彫りにした。一方で、バイデンは大西洋の向こう側にいる残忍な侵略者プーティンに直面している。ロシアのプーティン大統領は、アメリカやNATOがウクライナに直接介入すれば、核戦争を始めると脅している。もう一方、バイデンは、ソーシャルメディア、ヴィデオ、毎晩のニュースで放送される戦争でウクライナを助けるために、より強硬な手段を取るように迫られていることを認識している。

ロシアの侵攻から3週間ほどが経過し、バイデンはこの2つの間の境界線を慎重に、そして巧みに歩んできた。西側諸国をまとめ、ロシアに対する前例のない経済制裁とウクライナへの軍事支援を発表する一方、プーティンの怒りを買わないよう、アメリカと航空機を紛争から遠ざけてきたのである。しかし、バイデン大統領に対する政治的圧力が強まるにつれ、その境界線は曖昧になり、より危険なものになっている可能性がある。

更に、ポーランド、チェコ、スロヴェニアのNATO加盟3カ国の首相がウクライナの首都キエフに赴き、ゼレンスキーと会談し、命がけでウクライナを支持する姿勢を示したことで、危機感が高まった。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は水曜日、バイデン大統領が述べたように、ウクライナに飛行禁止区域(no-fly zone)は設定しないと繰り返したが、これは同盟自体に亀裂が入る可能性を示唆するものであった。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は同日、バイデン大統領が24日に開催される、臨時のNATO首脳会議に飛び、継続的な抑止力と防衛努力について話し合うと述べた。

テンプル大学の歴史学者で国家安全保障の専門家であるリチャード・イマーマンは、「バイデンが置かれているのは、根本的に前例のない状況だ。ヴェトナム戦争が市場初のテレビ戦争だと話題になったように、今は史上初のソーシャルメディア戦争が起きている」と述べた。しかし同時に、アメリカ大統領は核兵器によるハルマゲドンを考慮して介入を決定しなければならないが、そのような立場に置かれたアメリカ大統領は、少なくとも1956年にドワイト・D・アイゼンハワー米大統領(当時)がモスクワのハンガリー侵攻に反対しなかった時以来、存在しなかったとイマーマンは発言した。「朝鮮半島でもヴェトナムでも、核の問題はなかった」とイマーマンは述べた。

ゼレンスキーの演説を受けて、連邦上院外交委員会の共和党側筆頭委員であるジェイムズ・リッシュ上院議員は、バイデンに「より強硬な姿勢を取り、リードせよ(step up and lead)」と呼びかけた。リッシュ議員は声明の中では次のように述べている。「飛行機を送ろう。防空システムを送ろう。そしてそれらをもっと早く実行しよう」。連邦上院情報委員会委員長の民主党のマーク・ウォーナー連邦上院議員も「対戦車兵器や対空ミサイルを含む追加の防衛援助を求めるゼレンスキー大統領の呼びかけに耳を傾けるべきだ」と述べ、更なる行動を要求した。

ゼレンスキーは、バイデンに飛行禁止区域を設けるよう再度要求した。飛行禁止区域の設定によって、アメリカ軍のパイロットをロシアの飛行機や防空システムと直接対決させる可能性が高まる。バイデンはこれを拒否している。ゼレンスキーは飛行禁止区域設定が行われない可能性を認めた上で、それでも飛行禁止区域を設けるよう求めた。

ゼレンスキーは次のように述べた。「もしこれが無理な要求なら、別の方法を提案する(If this is too much to ask, we offer an alternative)。どのような防衛システムが必要かはご存じのはずだ」。バイデンはNATOの同盟国が使用しているs-300のような旧ソ連の武器を含め、既に使用されているスティンガーやジャヴェリンよりも高い位置に届く、はるかに洗練された地対空ミサイルシステムを提供するように圧力がかかっている。CNNによれば、ソ連時代のSA-8SA-10SA-12SA-14などの移動式防空システムも納入される可能性があるとのことだ。

しかし、NATO諸国から国境を越えて供与される追加の兵器システム、特にロシア製の武器は、バイデンが必死になって避けようとしてきたエスカレートと同じようなリスクをはらんでいる。火曜日の定例記者会見で、サキはバイデンがポーランドからロシアのMiG-29ジェット機を空輸してウクライナに送ることを拒否したことが、地上から送られるものと大きく異なるかどうか、繰り返し質問された。彼女は、両者の区別について詳しく説明することを避けた。

バイデン大統領は水曜日、ゼレンスキー大統領の後に国民に向けて演説し、政権は今週初めに発表した2億ドルに加え、新たに8億ドルの対ウクライナ安全保障支援を発表した。バイデンはまた、アメリカとNATOはウクライナがより長距離のミサイルシステムを獲得できるよう取り組んでいると述べたが詳細には触れなかった。それでも、対空システム800基、対装甲システム9000基を含むウクライナへの「武器と装備の急増を約束する」と述べた。しかし、バイデンは飛行禁止区域と戦闘機の譲渡に反対する姿勢を崩さなかった。

バイデンは136億ドルの援助を含むいくつかの法案をまとめた、オムニバス法案に署名し、ウクライナに対人・防空兵器など、国を守るために効果的に使用している種類の武器を提供するための4つの緊急治安支援パッケージを承認したことを指摘し、事態のエスカレートにつながる流れを止めようと努めた。サキはまた、ロシアにおけるプーティンのオリガルヒの盟友たちに対する制裁を強化しており、彼らの海外のヨットの差し押さえなども行っていると述べた。

バイデンが副大統領だった2014年のクリミア併合後にプーティンに厳しく接することを繰り返し拒否した、バラク・オバマ元米大統領の臆病なアプローチがあったために、現在の大統領であるバイデンが陥っている政治的苦境はより切迫したものとなっている。アメリカはロシアに対して、エネルギー、防衛、金融分野を含む限定的な制裁を実施したが、モスクワからの脅威を軽視した。

しかし、何よりも、おそらくゼレンスキーの雄弁さが、計算を変える可能性がある。ゼレンスキーは演説の中で、防衛装備の増強だけでなく、プーティンの侵略を公然と否定しないロシアの政治家や役人への制裁を訴えた。また、アメリカ国内の港を閉鎖してロシア製品を持ち込まないようにし、議員たちの選挙区にあるアメリカ企業を直ちにロシア市場から撤退させるよう、議会関係者に呼びかけた。「我々の血が流れているのだ(It is flooded with our blood)」とゼレンスキーは語った。

バイデン大統領の最大の希望は、ウクライナの泥(mud)とロシアの無策(ineptitude)の中にあるのかもしれない。大規模な侵攻が3週間の戦争で泥沼化し、ロシア軍がキエフに迫り、マリウポリで市民を殺害している時でさえも、外交努力は積み重ねられている。ゼレンスキーはアメリカ連邦議会での演説で、NATOEUに加盟したいとは言わなかった。これは、モスクワが戦争の災禍(dogs of war)をやめさせるための重要なロシアの要求だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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