古村治彦です。

 アメリカの対外情報・諜報を担っているアヴリル・ヘインズ国家情報長官(Director of National Intelligence)とウィリアムズ・バーンズCIA長官(Director of  Central Intelligence Agency)がアメリカ連邦議会で証言を行った。彼らは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、状況分析について語った。プーティンは、ウクライナ国内の予想外の抵抗と西側諸国による経済制裁のレヴェルについて誤算してしまう、怒り狂っていると分析している。そして、事態をエスカレートさせる可能性が高いとも述べている。
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バーンズCIA長官(左)とヘインズ国家情報長官
 アメリカの情報・諜報部門の最高責任者を務めているアヴリル・ヘインズ、海外情報・超部門を担うCIA(中央情報局)の責任者を務めるウィリアムズ・バーンズについては、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で取り上げている。ヘインズはアメリカの「スパイマスター(スパイの親玉)」と呼ばれている。バーンズは外交官として国務省勤務が長い人物だ。バーンズは駐露米国大使を務め、ロシア語が堪能だ。バーンズは対ロシア諜報・情報の最高責任者ということになる。

 アメリカの情報・諜報機関の総力を注いでも、プーティンの頭の中を知ることは至難の業のようだ。プーティンは単純な損得勘定で動く人物ではない。そのために、西洋的な価値観から見れば、非合理な行動を取っているということになる。だから、最終的には、「プーティンは錯乱している、狂っている」と結論づける。ここで重要なことは、合理的な分析だけではなく、文化や歴史、地理的な状況も含めた複合的な分析が必要となる。

(貼り付けはじめ)

怒りが募ったプーティンがウクライナで「倍返し」すると情報長官が議員に警告(Angry Putin set to 'double down' in Ukraine, intel chiefs warn lawmakers

レベッカ・ベイッチ、イネス・カグバレ筆

2022年3月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/597406-angry-putin-set-to-double-down-in-ukraine-intel-chiefs-tell-lawmakers

情報諜報部門の専門家たちは、ロシア経済への影響や長期的な成功の見込みがないにもかかわらず、ウクライナへの侵攻を「倍返し(double down)」しようとするウラジミール・プーティン大統領の決意がますます堅固になっているとの見方を示した。

ウィリアム・バーンズCIA長官は連邦下院情報諜報委員会で毎年実施される世界規模の脅威に関するコウ長官に出席し、「プーティンは今、怒りと不満(angry and frustrated)に満ちていると思う。プーティンは、民間人の犠牲を顧みず、ウクライナ軍を粉砕しようとする可能性が高い」と語った。

バーンズは次のように述べた。「しかし、プーティンが直面している課題、そしてこれは、彼の計画に関して、私たちが何カ月も分析にかかっている最大の疑問が存在する。プーティンは、ウクライナ人の激しい抵抗が続く中で、持続可能な政治的最終目標(sustainable political end game)を保持ししていない」。

この公聴会はアメリカが直面する膨大な数の脅威を検証するために毎年開催されている。今回の公聴会では、ロシアのウクライナへの介入が起きたことで、情報諜報機関に批判的な委員が多い委員会が一致して、出席した政府高官5名を賞賛する場となった。

エリック・スウォルウェル議員(カリフォルニア州選出、共和党)は、「あなた方は国際社会において、NATOだけでなく他の重要な国々をまとめる接着剤となった」と述べ、ロシアを罰するために国々は結集することができたと述べた。

情報諜報当局は、ロシアがウクライナへの破壊的な攻撃を続ける中で、プーティンが犯した数々の誤算について証言した。

バーンズ長官は「プーティンは長年、不満と野心が混合してそれが煮詰まり爆発しやすくなっている。プーティンの側近たちが彼の判断に疑問や異議を唱えること(question or challenge his judgement)が出世につながらない(not proven career enhancing)システムを作り上げたために委縮している」と述べた。

バーンズは「つまり彼は、ロシアがこの冬にウクライナに対して武力を行使するのに有利な状況に直面していると信じるに足る、いくつかの仮定に基づいて、戦争に突入したのだと考えている」と語った。

バーンズ長官は「彼は全ての側面で間違っていることが証明されている」と述べた。

アヴリル・ヘインズ国家情報長官(Director of National Intelligence)は、プーティンは制裁(sanctions)を予期していたが、アメリカや他の国、民間企業が「西側の行動を緩和するプーティンの能力を損なう」レヴェルについては予期していなかったと述べた。

ヘインズ長官は次のように述べた。「プーティンは欧米が自分に適切な敬意を払わないことに憤りを感じ、これを負けるわけにはいかない戦争と認識している。しかし、プーティンが負担している大きなコストを考えると、勝利として受け入れる可能性のあるものは時間の経過とともに変化するかもしれない、と評価している」。

ヘインズ長官は「とはいえ、プーィンはこのような挫折があっても止まることはなく、むしろエスカレートし、実質的に倍加する可能性があると私たちは分析している」と述べた。

アメリカ政府高官たちは、ロシアは戦争が始まって約2週間で、既に2000人から4000人の死傷者を出していると語った。

モスクワはまた、何十もの学校や病院を爆撃しており、ある当局者は戦争犯罪の基準に合致する可能性があると述べた。

スコット・ベリエ国防情報局長官は「ソーシャル・メディアで見たこと以外に、直接的な証拠があるかは分からない。確かに、ウクライナ軍とは関係のない学校や施設を空爆していること可能性もあるし、もしまだ攻撃していないのであれば、その線まで踏み込んでくるだろう」と述べた。

バーンズ長官は、ロシアに対するウクライナ全体の抵抗の強さの一因は、プーティン自身のウクライナにおける過去の攻撃的な行動にあると指摘した。

バーンズ長官は「多くの点で、2014年にまで遡るクリミアに対するプーティンの侵略によって、現在彼が直面しているウクライナの民族性と主権の強い感覚を作り出した」と述べた。

バーンズ長官は続けて「しかし、ロシア国営メディアによる報道と独立系情報源の検閲が進んでいることから、ロシア国民は侵略で生じた困難と甚大な損失について知らないままであろう」と述べた。

バーンズ長官は、ウクライナが化学兵器を使用したというロシアの虚偽の主張を挙げ、「彼らは情報操作を行い(spin)、誤った物語を作り出そうとし続けるだろう」と指摘した。

バーンズ長官は更に「特に、彼らがより必死になればなるほど、将来的に容易に捏造や虚構を作り出そうとする可能性があることを物語っている」と付け加えた。

バーンズ長官はまた、ロシアが国内で1万3000から1万4000名の反戦デモ参加者を逮捕したことにも触れ、「プーティンが個人的に行った選択の結果を人々が受け入れるには、時間がかかると思う」と述べた。

アメリカ政府の情報諜報当局者たちはまた、ロシアのサイバー攻撃の可能性に備えるアメリカの準備態勢についての質問にも直面した。

マークウェイン・マリン議員(オクラホマ州選出、共和党)は、クリストファー・レイFBI長官に、ロシアのサイバー攻撃への対策として、アメリカは「リスク回避(risk averse)」なのか「積極的(proactive)」なのかと質問した。

レイ長官は、FBIは両方のアプローチを取っていると答えたが、マリン議員はすぐに遮り、両方は無理だと述べた。

マリン議員は「リスク回避と積極性を同時に実現することは不可能だ。それは、リスク回避をすると、エスカレートするのを恐れて何もできなくなるからだ」と述べた。

マリン議員は次のように述べた。「脅威はすでに私たちに迫っているのだから、私たちは非常に積極的に、“いいか、我々にはツールがある、もし私たちを追ってきたら殴り返すぞ”というアプローチに変えるべきだろう。私たちはその領域にいるのではないか?」。

レイ長官は「FBIがサイバーなど様々な手段で敵対者を追い詰める努力をしてきた」と述べた。

連邦議員たちは、アメリカ国内に巨額の資産を持つロシアの富裕層をアメリカが追いかけることに焦りを感じているようだ。

ショーン・マロニー連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は「ヨットは押収するのか? それはいいことだと思う。彼らの手から奪うものが他にも出てくるだろうか?」と質問した。

レイ長官は「合法的に押収できるものなら、何でもやるつもりだ」と答えた。

公聴会に合わせて発表された世界的な脅威に関する報告書では、気候変動、移民、世界的なテロなど、アメリカが直面する幅広い脅威に触れている。

また、中国、イラン、北朝鮮など、アメリカにとって脅威となる他の国々についてもより深く掘り下げている。

多くの人々がロシアのサイバー攻撃の可能性を懸念しているが、報告書は、石油・ガス産業などアメリカの重要なインフラを破壊する可能性のあるものも含め、中国が「米国政府および民間部門のネットワークに対して最も幅広く、最も活発で、持続的なサイバースパイ活動の脅威を与えている」と警告している。

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アメリカ政府情報諜報担当高官たち:ロシアは挫折しても攻撃をエスカレートさせる可能性が高い(Russia likely to escalate attacks despite setbacks: US intelligence officials

レベッカ・ベイッチ筆

2022年3月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/597314-russia-likely-to-escalate-attacks-despite-setbacks-us-intelligence

アメリカの情報諜報部門専門家たちは火曜日、ロシアはウクライナでの軍事行動をエスカレートさせる可能性が高いが、プーティン大統領が隣国ウクライナに対する長期的な影響力を維持できる可能性は依然として低いと語った。

アヴリル・ヘインズ国家情報長官、世界の数多くの危機に関して毎年実施されている公聴会に出席し連邦下院議員たちに対して次のように述べた。「プーティンは、西側諸国が自分に適切な敬意を払わないことに憤りを感じ、今回の戦争を負ける訳にはいかない戦争だと受け止めている。しかし、彼が負担している大きなコストを考えると、勝利として受け入れることができるかもしれない内容は変化する可能性もある」。

今回の公聴会では、ロシア政府からの偽情報(disinformation)に対抗する方法として、プーティンのウクライナに対する考えについて集めた情報をオープンに共有するというアメリカ政府の慣行が継続された。

ヘインズ長官は次のように述べた。「プーティンはおそらく、侵攻のコストを考慮しながら、現在の制裁措置の多くを予期していたと思われるが、アメリカとその同盟諸国やパートナー諸国が、欧米の行動を緩和するために彼の能力を損なうような措置を取る程度も予想していなかったと判断している」。ヘインズ長官は更に、「アメリカとヨーロッパの民間部門からの強い反応も含めて、プーティンは、アメリカと同盟諸国やパートナー諸国がここまでの

ヘインズ長官は「それでも、私たちのアナリストたちは、プーティンがそのような挫折によって抑止される可能性は低く、代わりにエスカレートし、ウクライナに対する攻撃を倍増する可能性があると評価している」と述べた。

アメリカ政府関係者によると、ロシアは侵攻から2週間が経過した時点で、既に2000人から4000人の死傷者を出していると推定している。

ビル・バーンズCIA長官は公聴会で「プーティンは何年もの間、私的にも公的にもウクライナを本当の国だとは思っていないとコメントしている。それは大間違いだ。本物の国は反撃するものであり、この12日間、ウクライナ人は極めて英雄的に行動した」と語った。

バーンズ長官は続けて「プーティンは今、怒りと苛立ちを感じているだろう。彼は、民間人の犠牲を顧みず、ウクライナ軍を粉砕しようとする可能性がある」と語った。

バーンズ長官は「しかし、プーティンが直面している課題、これは彼の計画に関して私たちが数カ月も時間をかけている分析における最大の疑問だ。プーティンは、ウクライナ人の激しい抵抗が続く中で、持続可能な政治的最終目標を持っていないのだ」と発言した。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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