古村治彦です。

 アメリカ政府とアメリカ連邦議会は対露制裁のレヴェルを引き上げている。アメリカにとってロシアは石油輸入国となっており、アメリカ国内の消費量の7%を占めていた。しかし、アメリカ政府はロシアからの石油輸入を禁止した。ウクライナ支援も増加させているが、アメリカ軍の派遣につながる飛行禁止区域設定と、航空機の供与は行っていないが、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領によるアメリカ連邦上下両院議員たちに対する演説で、更なる支援を行うように求める声も上がっている。アメリカのジョー・バイデン大統領に対して、事態をエスカレートさせるように求める圧力は強まっている。アメリカ軍が直接ロシア軍と戦うことになれば、ウクライナを舞台にした世界の軍事大国同士が戦うことになり、ウクライナ国民が被る被害は増大することとが予想される。

 アメリカ国内で対ウクライナ情勢について慎重な対応を求めるのが、共和党所属では極右、民主党所属では極左に分類される政治家たちだ。アメリカ連邦下院でロシアからの石油輸入禁止法案の採決が行われ、大多数の議員たちが賛成したが、十数名の議員たちが反対票を投じた。民主党はバイデン大統領を出しており、政権の対ロシア強硬姿勢を支持しているが、2名が反対票を投じた。反対した議員たちは、現在のアメリカの高いインフレーション率を懸念し、アメリカ国内の石油価格の更なる上昇を懸念しての行動だった。

 これらの議員たちは所属する政党は異なるが、「アメリカ国内の問題解決を優先する」ということで、「アメリカ・ファースト(America First)」ということで共通している。「アメリカ・ファースト」とは「アメリカが世界で一番だ」ということではなく、「外国のことではなく、アメリカ国内の問題を解決することを一番に考えよう、優先しよう」ということだ。「アイソレイショニズム(Isolationism)」と言い換えることもできる。これも「孤立主義」と訳すと本質を見誤る。「アメリカ国内問題優先主義」と訳すべきだ。ドナルド・トランプ前大統領出現以降、アメリカのこのような傾向がどんどん強まっている。

 大きな流れを見ると、21世紀のアメリカの外交政策は「介入主義(interventionism)」を基盤としてきた。共和党側で言えばネオコン(Neoconservatism)、民主党側で言えば人道的介入主義(humanitarian interventionism)をそれぞれ信奉する人物たちがそうしたアメリカの介入主義的な対外政策を主導してきた。そうした流れが変化しつつある。これまでの世界の秩序に大きな変化が起きつつあるようだ。

(貼り付けはじめ)

極左、極右がアメリカの介入主義に反対する共通基盤を見出す(Far left, far right find common ground opposing US interventionism

クリスティーナ・マルコス筆

2022年3月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/597920-far-left-far-right-common-ground-us-interventionism-oil-ban-russia

イルハン・オマル連邦下院議員(ミネソタ州選出、民主党)とマジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)が同じ投票を行うということはそこまで多くは起きない。

今週、ウクライナへの侵攻をめぐるロシアからの石油輸入禁止と更なる制裁を求める決議が超党派で行われたが、両党の連邦下院議員17人が離反し反対した。極左と極右でアメリカの介入主義に対する懸念で一致して行動するという稀な機会となっている。

オマル議員とコーリー・ブッシュ議員(モンタナ州選出、民主党)の2人の進歩主義的な議員に加え、15人の保守派の共和党議員が反対を表明したが、これらの議員たち以外は賛成した。

オマル議員は、この動きがロシアとヨーロッパの人々に「壊滅的な影響(devastating impact)」を与えるという懸念から反対したと述べ、制裁が戦争を仕掛けているクレムリンの指導者プーティンに深刻な影響を与えることになるのかという疑問を呈した。

そして、共和党側では、グリーン議員らが、ロシアからの石油輸入を禁止すれば、アメリカ国内のガソリン価格が更に上昇し、ヴェネズエラなどの独裁国家が率いる他の石油産出諸国に依存する可能性があると警告を発した。

トーマス・マッシー下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)が法案への反対投票をしたことを表明したこと受けて、「バイデン大統領がガソリン価格の急上昇に苦しむアメリカ人を傷つけることを許さない議員が少なくとも2名いるのだ」とグリーン議員はツイートした

法案に反対票を投じたもう1人の共和党所属の議員であるマット・ギーツ議員(フロリダ州選出)も同様に、この動きは「アメリカ人をより貧しく、そしてアメリカ国内より安全でなくする」と主張した。

『ザ・ナショナル・パルス』誌に寄稿した論説の中で、ギーツは「私のウクライナの人々への同情が私の手でアメリカ国民を傷つけるように強制することはできない(My compassion for Ukrainians won’t force my hand to hurt my own people)」と述べた。

確かなことは、今回の採決で、ロシアからの石油輸入を禁止する戦略に慎重な議員がいかに少数派であるかが示されたことだ。

この法案は、人権侵害に対する制裁も認め、ロシアの世界貿易機関(World Trade Organization)へのアクセスを見直すよう求める内容で、414人の下院議員が賛成票を投じ、下院をあっさり通過した。その中には、両党の連邦下院指導者たちも含まれていた。

この法案への幅広い支持は、イデオロギーの違いを超えてモスクワへの制裁を支持する国民感情を反映している。

例えば、『ウォールストリート・ジャーナル』紙が今週行った世論調査では、79%のアメリカ国民が、ガソリン価格が上昇するとしてもロシアからの石油輸入を禁止することを支持している。

ブルッキングス研究所ガバナンス研究部上級フェローであるウィリアム・ガルストンは次のように述べている。「私は、アメリカ国民の法案への支持の核心は非常に明確な道徳的な物語だと考える。今回の事例は、攻撃されるようなことを何もしていない国に対する攻撃ということで、その道徳的な物語として最も明確なものとなっている。攻撃を受けている国の指導者が元テレビコメディアンでありながら、ウィンストン・チャーチルの生まれ変わりのような人物に変身していることも人々の関心と支持を集めている。もしウィンストン・チャーチルがユダヤ系のコメディアンだったとして、その人物よりも芸能の分野で成功を収めることはできなかっただろう」と述べた。

しかし、アメリカ人は、直接的な軍事介入に関しては一線を引いている。ニューズネイションとディシジョン・ディスクHQの共同世論調査によると、ウクライナにおける紛争にアメリカ軍を派遣することに支持を表明した人の割合ははわずかに35%だった。

バイデン大統領は金曜日、アメリカとNATOの同盟諸国はウクライナでロシアとの直接戦闘に関わることはないと述べ、このシナリオは「第三次世界大戦(World War III)」となると形容した。

ウクライナに軍隊を送ることに消極的なのは、特に過去20年間のイラクとアフガニスタンでの長引く戦争への米国の関与に対する国民の疲弊を反映している。

ガルストンは「ヴェトナム戦争以来、民主党内にはどこであれ新たな軍事介入には非常に慎重である議員の一団がいたことは周知の事実だ。彼らの戦争反対の理由は理解しやすいものだが、彼らが党内で多数派となることはこれまでなかった」と語った。

また、ドナルド・トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」路線も、「共和党のある右派ポピュリストの一部で、この種の感情が尊重され、少なくとも実行可能になった」とガルストンは述べている。

先週行われたウクライナの主権を支持することを宣言する決議案の連邦下院での採決でも、同様に426対3のほぼ満場一致の支持を得て可決された。マッシー、ポール・ゴーサー(アリゾナ州選出)、マット・ローゼンデール(モンタナ州選出)の3人の共和党所属の議員たちは、この象徴的な決議案に反対することを表明した。

マッシーとゴーサーは今週、ロシアからの石油輸入を禁止する法案にも反対した。

ゴーサー議員は「この1年間、私たちは“アメリカ・ラスト(America last)を掲げる政権(America last administration)”と共存してきた。この法案はいかにアメリカ国民が最後の優先事項とされており、民主党が有権者以外の存在を助けるために屈服しているのかを示す事例である」とゴーサーは語った。

民主党に比べ共和党側からより多くの議員が今週の法案採決で反対票を投じた。以下が反対投票を行った共和党所属の下院議員たちだ。グリーン、ギーツ、ゴーサー、マッシー、アンディ・ビッグス(アリゾナ州選出)、ラウリー・ゴウマート(テキサス州選出)、ダン・ビショップ(ノースカロライナ州選出)、グレン・グロスマン(ウィスコンシン州選出)、ローレン・ボーバート(コロラド州選出)、トム・ティファニー(ウィスコンシン州選出)、クレイ・ヒギンス(ルイジアナ州選出)、スコット・デジャーレイ(テネシー州選出)、マディソン・カウソーン(ノースカロライナ州選出)、ビル・ポージー(フロリダ州選出)、チップ・ロイ(テキサス州選出)。

一方、民主党側は、自党が出しているバイデン大統領のウクライナ危機に対する戦略を反映し、法案を支持する声がより大きくなっている。この採決は、バイデン政権がロシアの石油、天然ガス、石炭の輸入を禁止することを発表した翌日に行われた。

コーリー・ブッシュ議員は、ロシアからの石油輸入禁止がアメリカ国内の石油掘削を増やすことを正当化し、権威主義的な政府を持つ産油国の石油に依存することにつながるのではないか」という「深い懸念(deep concerns)」を持っていると述べた。

「私は、殺人を行っているプーティン政権、ロシアのオリガル、そして人間の苦しみから利益を得ている化石燃料企業の経営者をターゲットとした制裁を支持したい。ロシアからの石油輸入を禁止する連邦下院の法案に反対したのは、ウクライナでの戦争をエスカレートさせないための明確な外交プロセス、停戦へのインセンティブ、ウクライナのロシア軍撤退の条件を伴わない制裁を課すという根本問題に対処できないからだ」と声明で述べている。

「このやり方は私たちの住む共同体の安全を低下させ、再生可能エネルギーへの移行を急がせることがなくなり、進行中の新型コロナウイルス感染拡大と経済危機によって既に経済的に圧迫されている一般の生活者にさらなる負担を強いるものだ」と述べた。

連邦下院は今後数日間、ウクライナへの攻撃を行ったロシアを更に罰するための措置を取る見込みだ。

ナンシー・ペロシ連邦下院議長(カリフォルニア州選出、民主党)は、ロシアとの通常の貿易関係を取り消す超党派の法案について来週採決すると発表した。バイデン大統領は金曜日にそのような動きを求めていた。

今週の連邦下院で審議される法案は、貿易政策を管轄する委員会の指導的な立場の議員たちによって作られた、ロシアとベラルーシとの正常な貿易関係を停止するという、当初の超党派の合意には及ばない内容となった。

ペロシ議長は「ロシアとの恒久的な正常貿易関係を破棄し、海外のパートナーとの歴史的なレベルの協調を行うことで、ウクライナの人々に対するプーティンの極悪非道な侵略に更に対抗する」と述べた。

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トゥルシー・ギャバ―ドがロシアについて実際に行っているのはどういうものか?(What is Tulsi Gabbard actually doing on Russia?

クリス・シリーザ筆

2022年3月1日

CNN

https://edition.cnn.com/2022/03/01/politics/tulsi-gabbard-cpac-ukraine-russia/index.html

CNN発。トゥルシー・ギャバ―ドは2020年のアメリカ大統領選挙で民主党予備選挙に立候補した。そうなると、最近の彼女の言動はより一層奇妙に見える。

考えてみよう:

(1)ロシアが先週ウクライナに侵攻した際、ギャバードは次のような明らかにロシア寄りのツイートを発信していた。「バイデン政権・NATOが、ウクライナのNATO加盟に関するロシアの正当な安全保障上の懸念を認めていれば、この戦争と苦しみは簡単に回避できたはずだ。ウクライナがNATOに加盟することは、アメリカ・NATOの軍隊がロシアの国境に迫ることを意味する」。

(2)週末、ギャバードは、民主党員にとってほぼ友好的な場所ではない、保守政治行動会議(Conservative Political Action Conference)で講演した。ギャバ―ドは演説の中で「彼らは偽善者(hypocrites)だ」と、民主党の指導者たちについて述べた。「彼らは、民主政治体制と自由を広めるために戦争に行かなければならないと宣言しているが(They proclaim that we must go to war to spread democracy and freedom)、一方で、自国アメリカでは民主的共和制(democratic republic)と自由を弱体化させるために積極的に働いているのだ」。

2019年、ヒラリー・クリントンがギャバードについてこう言ったのを覚えている人も多いだろう。「私は何の予測もしないが、現在民主党の予備選挙に参加している誰かに彼らは注目しており、彼女を第3党候補として育てているのだと思う。彼女はロシア人のお気に入りだ」。

ギャバ―ドは2020年にクリントンを名誉棄損で訴えたが、同年年末に訴えを取り下げた。「彼ら(原告側)はこの訴訟の法的メリットに確信を持っているが、新型コロナウイルス感染拡大とポスト新型コロナウイルスの世界では、ここでの過ちを正すよりも、2020年にドナルド・トランプを倒すことなど、他の優先事項に時間と注意を向ける必要があると確信している」とギャバ―ドの弁護士は取り下げについて述べた。

さて、はっきりさせておきたいが、ギャバ―ドの最近の行動は、どちらもギャバ―ドがある種のロシアの工作員である(またはあった)ことを意味するものではない。しかし、ギャバ―ドの本当の動機はロシアに対して、そしてより一般的にはアメリカの外交政策や政治に対して何なのか、という疑問を持たざるを得ないものとなっている。

これらの疑問は、ギャバ―ドが2020年の大統領選挙民主党予備選挙へ立候補して以来、ずっと持たれてきた。2019年10月、『ニューヨーク・タイムズ』紙は次のような見出しのついた記事を掲載した。それは「一体、ギャバ―ドは何をしようとしているのか?」というものだった。記事の中には次のような記述があった。

「ポッドキャストやオンラインビデオ、インタヴューやツイッターで、オルトライトのネットスター、白人優越主義者、リバータリアン活動家、トランプ氏の熱心な支持者たちがギャバ―ドを賞賛している」。

ギャバ―ドは最近、FOXニューズのタッカー・カールソンの番組の常連出演者となり、ウクライナがNATOに加盟すべきだ、アメリカはなぜそれを支持すべきだという主張に対して疑問を投げかけている。

ギャバ―ドは2月上旬、カールソンに対して「バイデン大統領や誰もが、正直な顔をして、“我々は民主主義を守っている”と言っているとは到底思えない」と語った。

ギャバ―ドはまた、ジョー・バイデン大統領がロシアのウラジミール・プーティン大統領と会談する必要があると示唆している。ギャバ―ドはCPACでの講演の後に『ニューヨーク・ポスト』紙の取材に応じ、「プーティンは何年も前から、彼の安全保障上の懸念は、NATOがますますロシアに接近し、四方を取り囲むことだと言っている。バイデン政権は、アメリカ国民に、これがどのようにあなたの最善の利益をもたらすのか、その概要を説明することができなかった。そのコストはどうなるのだろうか?」と語った。

ギャバ―ドの最終的な目的が何であるかは不明である。もし彼女が民主党から再び立候補したいのであれば、彼女の最近の決断はほとんど意味をなさない。CPACでの講演を決めた後、地元民主党は彼女を非難する決議を出した。また、ハワイ州は一般に民主党の傾向が強いので、ギャバ―ドのような立場の候補者が選挙に出られる可能性はほとんどない。

もしかしたら、彼女はFOXニューズでの仕事を狙っているのかもしれない。あるいは、近い将来、所属政党を変えるかもしれない?

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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