古村治彦です。

 私は自分ではリベラルを自認し、戦争は忌避する、政治の責任とは徹頭徹尾戦争を避けることだと考えている。戦争とは外交の失敗であり、その象徴が真珠湾攻撃だったと考えている。相手に挑発されたり、騙されたりで戦争をすることまで追い込まれた時点で負けであり、その時の政治における最高指導者たちの罪は万死に値すると考えている。従って、指導者選びは慎重にしなければならないということも考えている。

 今回のロシア軍によるウクライナ侵攻で驚いたのは、日本でリベラルを自認している人たちが好戦的になっていることだ。そのこと自体に驚いているのではなく、アメリカにおけるネオコンと人道的介入主義派の関係に丸のままそっくりだということだ。「自分たちは安全な場所にいて、無責任にお勇ましい言葉を弄して、自分の煽動的な言葉の結果としてどこかで人が死に向かっているという自覚がない」という現象は残念ながら洋の東西を問わずにどこでも容易に発生することのようだ。

 以下にご紹介する論稿は私が言いたいことを全て含んでいる。これ以上に言いたいことは今のところ存在しない。私だって切れば赤い血が出る人間だ。痛ましい映像やニューズに接すれば心が痛む。何とかならないのか、プーティンはどうして戦争を始めたんだと怨嗟の声を上げたくなる。これ以上、ウクライナ、そしてロシアの人々が死ななくて済む、情勢を好転させる方法はないのかと考える。

 しかし、そのような感情の動きに支配されるのは危険なことだ。ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』でも指摘されているように、人々が考えることができなくなる時や冷静な判断を下せなくなる時こそは権力側にとって大きなチャンスとなる。戦争を拡大させることで利益を得る人々というのがいる。そういう人々は今の状況を利用する。そして、気づいてみたら手の施しようのない更に酷い状況になっているということになってしまう。

 私たちは冷静にかつ穏やかに生きていくべきだ。SNSはエコーチェンバーのようになって、個人の声が大きく増幅される。影響力が大きい人物の声程そうなる。そういった時に、安易にお勇ましい発言をするというのは戦争を煽動しているのと同じで、私にとってみれば、非常に危険なことということになる。今の日本は非常に危険な状態にあると言わざるを得ない。第三次世界大戦が始まって、核兵器使用が現実味を帯びるようになってから、「そんなつもりで言ったのではない」と言ってみても始まらないのだ。

(貼り付けはじめ)

私たちは感情をひとまず脇にどかしてウクライナに関して厳しい問いをしなければならない(We must put emotions aside and ask the hard questions on Ukraine

ジョシュア・C・フミンスキ筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/598786-we-must-put-emotions-aside-and-ask-the-hard-questions-in-ukraine

一つの国家として、また政策レベルで、モスクワとのエスカレーション・スパイラル(escalation spiral)につながる可能性のある措置を取る前に、ウクライナにおけるアメリカとNATOの利益について真剣に話し合い、厳しい疑問を投げかける必要がある。

自分たちの優先事項は何か、私たちの戦略的利益は何か、現地で政治的解決の条件を整えることを支援するためにどのようなリスクなら受け入れられるかについて、私たちは自分たち自身に問いかけねばならない。私たちはリスクとどのような結果になるかについて澄んだ目で見なければならない。これらの問いに対する答えが、ウクライナへの支援の範囲や拡大に関する私たちの意思決定の原動力となるはずである。

家族が引き裂かれ、難民が近隣諸国に避難し、ウクライナの人々が勇敢で英雄的であるという心痛む光景が、このような計算を人間的ではないものとし、非常に困難なものにしている。ハードパワー、利益、リスクについて冷静に問いかけ、検討するよりも、ソーシャルメディアで拡散される感情的なイメージやストーリー、ロシアの侵攻に対する社会の反応というパフォーマンス的な側面に振り回される方がはるかに楽である。実際、ウクライナが情報戦に成功したことで、キエフがロシアの猛攻に耐えられるという期待が高まり、モスクワの戦争を維持する能力が過小評価されたのかもしれない。

結局のところ、私たちは厳しい問いを立て、率直な答えを求めなければならない。ウクライナにおける我々の利益は何なのか? 達成可能な政治的成果とは何か? ウクライナで政治的に許容できるコストで何が達成できるのか? 私たちの行動は暴力や被害を拡大させることになるのか? 我々の行動は危機のエスカレーションや拡大の可能性につながるか? その政治的目的のためにNATO軍やアメリカ軍を危険な状況に追い込むことをいとわないか? 核保有国との敵対関係がほぼ確実な状況にNATOや米軍を追い込むことをいとわないか? モスクワはどう反応するだろうか?

もし、飛行禁止区域の設定や人道的回廊の確立が道徳的に正しく、政治的に必要な決定であると信じるならば、2次、3次の質問に答える用意が必要であろう。NATO軍機が撃墜されたらどうなるのか? ブリュッセルやワシントンはどう対応するのだろうか? NATOが報復した場合、モスクワの必然的な対応に備えることができるのか? こうしたやりとりを、もっと悲惨な事態にエスカレートさせないようにするには、どうすればいいのか? そのような介入は前述のような挑発行為につながるのか? もしそうなら、その時に私たちはどのように対応するのか?

これらの問いに対する答えが何よりも私たちの政策決定の原動力とならなければならない。 

また、今回の危機はこれまでの危機とは異なるという認識を、私たち自身とロシアに明確に示す必要がある。誤算とエスカレーションのリスクは非常に現実的であり、潜在的な結果も同様である。これは、1991年や2003年のイラクでも、2001年のアフガニスタンでも、2011年のリビアでもない。これらの紛争は、西側諸国がせいぜいわずかな敵に対して圧倒的な通常戦力の優位のもとで実行されたものであり、現在のウクライナにはなかった条件だ。ウクライナにおけるロシアの最近の軍事的パフォーマンスはともかく、ロシアは依然として、非従来型および伝統的なパワーを行使する能力を持つ、ほぼ同格の核保有国

私たちは今、ウクライナの戦場でNATO・アメリカ軍がロシア軍と直接対峙するまで、1つか2つの決断を迫られている。もし私たちが慎重かつスマートな方法で行動しなければ、誰が最初に瞬きをするか、あるいは全く瞬きをしないかの結果は、破滅的なものになる可能性がある。私たちは、これらの問題を反応的にではなく、積極的に考えなければならない。 

国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは、CNNの「ステート・オブ・ザ・ユニオン」でこのように述べ、「核保有国によるエスカレーションのリスクは深刻で、アメリカ国民が長年見てきた他の紛争とは異なる種類の紛争だ」と警告を発した。サリヴァンは更に「アメリカの大統領であるジョー・バイデンはその責任を極めて真剣に受け止めなければならない」と述べた。

今回の危機に最も近い類似ケースは、コソボ紛争でロシアがNATO軍の進撃に先立ちプリシュティナ空港を占拠した時であろう。NATO連合国ヨーロッパ遠征軍最高司令官ウェズリー・クラーク米陸軍大将がマイク・ジャクソン英陸軍中将に空港を奪還するよう指示し、ジャクソンは「あなたのために第三次世界大戦を始めるつもりはない(I’m not going to start the third world war for you)」と言ったと伝えられている。この事件では冷静さが勝り、その深刻さは議論の余地があるが、核武装した2つの国が互いに撃ち合うことは、どのようなシナリオであれ望ましくないことである。    

エスカレーションについて言えば、それを恐れてはならない。エスカレーションを恐れることは、敵に心理的な領域を譲ることであり、ウラジミール・プーティンは間違いなくそれを利用するだろう。むしろ、西側はエスカレーションのリスクを認識し、それに対して慎重でなければならない。もし欧米諸国が、ウクライナへの関与の範囲を狭め、政治的に定義された目的を達成するためにエスカレーションを管理できると考えるなら、エスカレーションのリスクは許容範囲内である。しかし、それには非常に大きな「もし」という言葉がつく。

また、プーチン大統領がエスカレーションをどのように理解しているのか、その理解も求めなければならない。チャタムハウスのジェームズ・ニクセイは、「核による威嚇は彼の標準的なレパートリーであり、戦争ではなく、外交戦術として成功し、ロシアに何か非道なことをさせたいと思った場合にこのような行動が取られる」と書いている。

トム・マクテイグは、『アトランティック』誌の記事の中で、ウクライナをめぐって一種のパーフェクト・ストーム(perfect storm)が形成される危険性があることを正しく論じている。「プーチンの蛮行、ウクライナの成功、西側の楽観主義によって煽られた西側のウクライナ支援の拡大が、ロシア政権の弱体化と結びついて、絶望から生まれる誤算の条件を作り出す危険性がある。では、これが本当のリスクかというとそうとも言えない。ウクライナでの「特別軍事作戦(special military operation)」や限定戦争(limited war)を、NATO諸国にまで範囲を広げ、蛮行や非通常兵器の使用をエスカレートさせたり、どこか別の場所で挑発しようとしたりする誤算とエスカレーションが進むことこそがリスクである。  

私たちは、どのように行動すべきか、その行動が何をもたらすかを決定する際に、何よりも私たちの利益を考慮しなければならない。そして、これらの行動(または行動しないこと)の決定には結果が伴うため、私たちは明確な計算を行わなければならない。

※ジョシュア・C・フミンスキ:大統領・連邦議会研究センター内のマイク・ロジャース情報諜報・国際問題センター部長兼ジョージ・メイソン大学国家安全保障研究所客員研究員。

ツイッターアカウント:@joshuachuminski.

(貼り付け終わり)

(終わり)


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