古村治彦です。

 現在のアメリカのバイデン政権における複数の重要閣僚は一つのコンサルタント会社の出身だ。それは「ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社(WestExec Advisors)」という。その代表がミシェル・フロノイ(Michèle Flournoy)元国防次官だ。これまでアメリカの国防長官に女性が就任したことはない。女性初の国防長官になるならこの人だとずっと言われてきたのがミシェル・フロノイだ。フロノイが代表を務めるウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社からジョー・バイデン政権に重要閣僚が多く入っている。詳しくは拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』を読んでいただきたい。バイデン政権とアメリカの外交政策について理解するにあたり、本書はお役に立てるものと自信を持っている。以下の記事はロシアによるウクライナ侵攻に関する発言をまとめたものだ。こちらも是非お読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

元国防次官がウクライナ紛争を乗り切るための企業へのアドバイスを語る(How A Former Under Secretary Of Defense Is Advising Companies To Navigate Ukraine War Disruptions

スティーヴン・エリルリッチ筆

2022年3月8日

『フォーブス』誌

https://www.forbes.com/sites/stevenehrlich/2022/03/08/how-a-former-under-secretary-of-defense-is-advising-companies-to-navigate-ukraine-war-disruptions/?sh=561db783b54d

「物事はより良くなる前にはより悪くなる(Things will get worse before they get better)」。オバマ大統領の下で国防次官を務め、クリントン大統領の下では国防次官補代理を務めたミシェル・フロノイは、クライアントからロシアのウクライナ戦争について尋ねられた時、まずこのような助言をするそうだ。

現在、ボストンコンサルティンググループと提携し、企業の役員や民間企業に助言を行っている、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社(WestExec Advisors)の共同設立者兼マネージングパートナーであるフロノイは、1945年以来ヨーロッパで最大の地上戦に至った経緯と、今後数ヶ月から数年の間に企業が行うべき難しい選択について企業が理解できるよう日々取り組んでいる。

『フォーブス』誌とのインタヴューの中で、フロノイは、よくある誤解として、弾丸や迫撃砲が飛んでこなくなれば、いつでも元の状態に戻るという考えをすぐに否定する。実際、戦闘が終わった後も、課題はずっと続くという。フロノイは「紛争が解決するにはかなりの時間がかかるし、その後もプーティンのせいで多くの制約や制裁が残るだろう」と述べた。

フロノイは、この紛争がこれほどまでに難航するのは、プーティン側の一連の失策と間違った思い込みが、彼を泥沼に陥れたからだと言う。中でも、アメリカとヨーロッパの同盟諸国が、ロシアの金融部門と中央銀行に対して前例のない制裁措置を科したことで、厳しい統一的な対応をとることを予測できなかったことが大きい。フロノイは「NATOが見せた結束の度合いにプーティンはショックを受けたのだろう」と述べた。

フロノイはまた、プーティンの「近代的な」ロシア軍への誤った信頼も指摘しており、おそらく「イエスマン」に囲まれているために、彼は2014年のウクライナ南東部のクリミア半島の併合と同様の迅速な勝利を期待するようになったのだ。

最後に、そしておそらく最も重要なことは、ウクライナの人々の意思を否定したことである。フロノイは「彼は自軍を過大評価し、またウクライナ軍と、ウクライナ国民が冷戦終結後に経験した民主政治体制と自由のために戦おうとする度合いを過小評価した」と発言した。

これらのことは、ロシア、特にプーティンが否定的な結果、または膠着状態に陥る可能性があることを意味する。実際、従来の常識では、ロシア軍の規模の大きさから、最終的にはウクライナを敗北させると考えられてきたが、フロノイは必ずしもそうとはならない可能性を示唆している。フロノイは「現在、アメリカのロシア軍アナリストの間では、ロシア兵がキエフを包囲することはできないかもしれないとの憶測が流れている」と発言している。たとえ主要都市が陥落しても、ロシア軍に対抗するための十分な資金と洗練された抵抗軍が存在するとフロノイは予想している。

今日の紛争と歴史的な類似点を探すとき、多くのアナリストは1938年のドイツのスデーテンランド侵攻を、宥和政策(appeasement)の危険性を示す教訓として見ている。しかし、フロノイは、第二次世界大戦中のロシアのウクライナ侵攻を、1942年のヒトラーのロシア侵攻になぞらえて、別の見方をする。フロノイは、ロシアのウクライナ侵攻を、1942年のヒトラーのロシア侵攻になぞらえ、「あれは過剰拡張(オーヴァーリーチ、overreach)で戦争に負けたが、彼はそのことを知らなかった」と述べた。

フロノイは、プーティンも同じ傲慢さに屈したと言う。フロノイは次のように発言した。「ウクライナ東部や、ロシアの勢力圏を再構築するために使ってきたグレーゾーン戦術を超えるつもりだという過信(overconfidence)だ。今、私は通常の軍事力を使って他の国を侵略しようとしている。これは戦略的誤算や過剰拡張の典型的なケースとして歴史に残るだろう」。

しかし、ウクライナの支援者たちはロシアの苦戦を心強く思うかもしれないが、投資家や経営者、その他の利害関係者が心配する理由もまた存在する。紛争が解決しないまま長引けば長引くほど、制裁はより厳しくなり、ウクライナの統治は、それがどういう形であれ、より困難になる。

そうなると問題は、プーティンがどう対応するかである。また、この偶発事故(misadventure)がプーティン個人に大きな影響を与える可能性もないとは言えない。フロノイは「確率の低い出来事だ。しかし、事態が進行するにつれ、ロシア国内の抗議運動が増え、オリガルヒの間で不満が増えれば、プーティンは大統領の座から追われ、場合によっては声明を失う可能性もある」と述べた。

フロノイは、このロシアの冒険主義(adventurism)が世界最大のホットスポットの一つである台湾に与える影響についても、クライアントに助言を与えている。中国がロシアを見習い、1949年の共産主義革命以来、北京の大きな目標である台湾を武力で制圧しようとするのではないか、と多くのアナリストが考えている。

しかし、フロノイは、ロシアの挑戦と評判の大暴落が、そのような侵略がすぐに起こる可能性を低くしていると考えている。台湾の蔡英文総統と会談し、台湾の人々がウクライナの意志の強さに心を動かされたと語ったばかりだ。

加えて、中国の立場からフロノイは、習近平国家主席が国際的に孤立してしまうことに監視を持っていないと指摘している。フロノイは更に、中国がロシアと緊密な関係を築き、経済的な結びつきを強めていると思われているが、それに惑わされないことが重要であると指摘する。実際、ウクライナ戦争は両国関係を冷え込ませることになりかねないと指摘する。「今、彼らは制裁の効果を弱めようとこれまで以上の努力を傾けている。しかし、最終的には、これが、プーティンにとって、うまくいかなければ、習近平は、距離を置く方法を見つけることになると考えている」とフロノイは述べた。

台湾はアメリカにとってウクライナよりもはるかに大きな貿易相手国であり、今日の経済にとって不可欠な半導体などのハイテク製造に携わっているため、この分析は投資家にとっては多少の安心材料になるかもしれない。

しかし、アジアで事業を展開する投資家や企業は、ウクライナで起きていることと無縁でいられると考えるべきではない。フロノイは最後に、ロシアの制裁対象機関に協力する中国の銀行や企業に影響を与えかねない二次的制裁に注意するよう、クライアントたちに助言を与えた。これらの企業は、関連する制裁違反の罪を犯すことになり、最終的にアメリカの罰則に直面することになりかねない。アメリカの経済戦争に決して好意的でない中国は、おそらく報復措置を取るだろう。

フロノイは「私たちは、多くのクライアントが、中国でのビジネスに関するリスク管理とリスク軽減の戦略を練っています」と述べた。

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瀬戸際にあるロシアとウクライナ:ミシェル・フロノイとの対話(Russia and Ukraine on the Brink: A Discussion with Michèle Flournoy

2022年2月15日

ウィルソン・センター

https://www.wilsoncenter.org/event/russia-and-ukraine-brink-discussion-michele-flournoy

■概説(OVERVIEW

ロシアがウクライナとの国境に兵力を集め続ける中、アメリカとNATOは起こる可能性がある紛争を抑止するための選択肢を検討する。ウィルソン・センターは、ミシェル・フロノワ元国防次官との対話を開催し、ウクライナの現場状況の詳細、抑止力の見通し、そしてこの危機がアメリカの安全保障上の利益に与える影響について検討した。

■重要なポイント(Key Takeaways

ウクライナ東部、ベラルーシに駐留しているロシア軍、黒海のロシア海軍部隊は、ヨーロッパが戦争の瀬戸際にいることを示唆している。特殊作戦や空挺部隊投入も視野に入っている。外交的な打開策と危機の緩和の可能性はますます遠のいている。

バイデン政権は、ロシアの偽旗作戦の可能性を示す情報などを積極的に共有し、ロシアの偽情報や作為的な挑発の影響を軽減することを政策として決定した。アメリカはまた、外交と潜在的制裁への統一的アプローチを確保するため、連合軍と欧州の同盟諸国の結束を強化することに重点を置いている。

このシナリオにおける「真の成功」とは、プーティンが成功するはずがない、あるいは侵攻のコストが高すぎると、前もって説得することである。ロシアがウクライナに侵攻した場合、成功とは、ロシア軍を撤退させ、ウクライナに民主的に選出された政府を復活させることによって、クレムリンがウクライナを永久にロシアの軌道に乗せるのを阻止することである。

■抜粋(Selected Quotes

●プーティンがウクライナに侵攻したら何が起こるか?(What Can We Expect to See if Putin Invades Ukraine?

「私たちはこれらを異なる時間枠で考えることが本当に重要だと私は考えている。短期的に見れば、ロシアが軍事力をフルに発揮すれば、ウクライナはそれを止めることができないだろう。ロシアは戦術的な勝利を収め、キエフを包囲し、政府に大きな圧力をかけ、もしかしたら政府を転覆させることもできるかもしれない」。

しかし、それは終わりではなく、始まりに過ぎない。今、彼らはそこにいて、より長いゲームとして考えなければならない。まず、ウクライナの人口のわずか10%が戦うと決めたとしても、それはとんでもない抵抗軍になるだろう。そして、西側諸国は、少なくとも何カ国かは、その抵抗を可能な限り支援することは間違いないだろう。エネルギー、金融、旅行、輸出規制、保険業界への制裁など、大規模な制裁が実施され、ロシア船やロシアの輸送が妨げられ、貿易は通常通りできなくなるだろう。

「結果として、非常に重い経済的負担と、完全な外交的孤立が生じるだろう。NATOEUが会合を開き、プーティンは世界のどこでも歓迎されなくなることが予想される。北京で習近平と会談することを除いてということになるが。つまり、これは長期戦だ。プーティン対西側諸国という構図になれば、きれいな図式にはならないし、プーティンにとって勝ち目のないゲームになる。私は、そのような初期の頃を経験し、ウクライナでこの侵略が繰り広げられるのを見る必要がないことを望むが、私は、プーティンが最終的に目的を達成するとは思いません。21世紀において、権威主義的な政府が、主権国家を転覆させることができ、それが不完全な民主政治体制であっても、民主政治が成功することを誰も望んでいない」。

●アメリカとNATOにとって、ロシア・ウクライナ危機からの脱出を成功させる道筋はどのようなものになるだろうか?(What Does a Successful Avenue Out of the Russia-Ukraine Crises Look Like for the U.S. and NATO?

「本当の成功は、プーティンが成功しないこと、あるいはコストが高すぎることを前もって納得させ、状況を緩和する方法を見つけ、プーティンと交渉することだ。しかし、その可能性はますます低くなっている。もし彼が戦争を始めれば、ウクライナをロシアの軌道に永久に乗せることを阻止することが成功の鍵になると考える。そして最終的には、シナリオ通りに彼の軍隊を撤退させ、ウクライナの人々が選んだウクライナ政府を復活させることだ」。

「私たちは現在の状況からでも、現在の危機からでも多くのことを学ぶことができる、そのような教訓がたくさんあると私は考えている。ヨーロッパのエネルギーのロシアへの依存を減らすために、もっと努力する必要があります。欧州のエネルギー面でのロシアへの依存を減らすことにもっと力を入れる必要があるし、アメリカやパートナー諸国におけるサイバーの回復力にももっと力を入れる必要がある。また、バイデン大統領が検討対象から外した通常兵力の投入だけでなく、他の抑止手段についても考える必要がある。そして、どうすれば誤算を避けることができるのか、真剣に考える必要がある。まだ話していないことですが、もし戦争が進めば、ロシア軍とNATO軍が互いに直面することになります。NATO軍は実際に参戦する意図を持っていないとは思う。しかし、ロシアがバルト海の空域に侵入したり、黒海で何かが起きたりすることを想像してみて欲しい。事故の余地、誤算の余地があり、そのようなことがエスカレートにつながらないよう、細心の注意を払わねばならない」。

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元国防省トップが、ロシアが原発を押収したのは「極めて無責任」と発言(Former top defense official says Russia 'extremely irresponsible' in seizing nuclear plants

マイケル・シュニール筆

2022年3月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/sunday-talk-shows/597080-former-under-secretary-for-defense-says-russia-was-extremely

元米国国防次官ミシェル・フロノイは日曜日、ロシア軍がウクライナの原子力発電所を占拠した方法について、「極めて無責任」であると述べた。

フロノイはCNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」でキャスターのジェイク・タッパーにこの出来事について質問された際、「私の最大の懸念は、原子力発電所を砲撃するという信じられないほど無責任な方法を取ったことだ」と述べた。

フロノイは更に「実際に格納容器が破損して放射性物質が放出されなかったのは、まさに幸運としか言いようがない。だから、彼らはこの件に関して極めて無責任だ」と発言した。

オバマ政権下で3年間務めた元国防次官フロノイは、ロシア当局が「重要なインフラ、エネルギー、暖房用ガス、水、食料を支配し、再びウクライナ人を包囲下に置き、彼らの意志を挫こうとしている」と述べた。

ロシアは金曜日にウクライナのザポリジャー核施設を掌握した。同施設の訓練センターで火災が発生した。しかし、国連の監視機関である国際原子力機関(IAEA)は、この火災によって大気中に放射能が放出されることはなかったと発表している。

その数日前、モスクワは1986年に致命的な原発事故が起きたチェルノブイリ原発の敷地を占領した。

国防省高官は金曜日、記者団に対し、モスクワ軍がザポリジャー原子力発電所を占拠した後、アメリカはロシアの目先の「意図」に「深い懸念」を抱いていると述べた。

在ウクライナ米国大使館は、ロシアによる原発攻撃は「戦争犯罪(war crime)」だと述べた。

「原子力発電所を攻撃することは戦争犯罪である。プーティンはヨーロッパ最大の原子力発電所を砲撃し、恐怖の支配をさらに一歩進めた」と米国大使館は金曜日にツイッターに投稿した。

ロシア軍は現在、ウクライナの別の原子力施設に迫っていると報じられている。

リンダ・トーマス・グリーンフィールド米国連大使は国連安全保障理事会で、ウクライナ国内で2番目に大きいとされるユジノウクライナ原発にロシア軍が漸進して近づいていることを明らかにした。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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