古村治彦です。

 今回は少し変わった内容のウクライナに関する記事をご紹介する。現在、ウクライナに関しては何でもかんでも素晴らしい素晴らしい、頑張れ頑張れということになる。批判は一切許されない、批判する奴はロシアの味方、プーティンの手先ということで袋叩きに遭う。このような状況は、人々の間に少しずつウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に対する疑問が広がっていく中で少しは弱まってはいるが。

 下に紹介する記事では、ウクライナ国内の2つの問題点についてまとめられている。具体的にはウクライナ国内のオリガルヒ(その中の一人とジョー・バイデン米大統領の息子ハンター・バイデンの関係が取り沙汰されている)とネオナチ・グループのアゾフ大隊だ。ウクライナの富を横領し、ウクライナを食い物にしているオリガルヒの存在は、戦後の復興の時期にも厄介な存在になる。欧米諸国からの復興資金はオリガルヒたちに横領され、一般国民に届くのはごくわずかということになりかねない。また、オリガルヒたちの経営する企業が仕事を受注することにもなるが、それで彼らをますます肥え太らせることになるが、オリガルヒたちが西側諸国で贅沢三昧をすればそうした資金は結局帰ってくるという構図になる。いってこい、という言葉そのもので、苦しむ一般国民の生活の向上につながるのか甚だ疑問ということになる。

 ちなみに、ウクライナの1980年代末からの経済成長率とGDPのグラフを以下に掲載しておくが、これらを見ると、アメリカのネオコンが関わり出した2008年と2014年、それぞれ「革命」が起きた(起こされた)時に共に下がっている。2008年までは独立後の混乱期もあったが経済はおおむね順調であったが、それ以降は乱高下を繰り返しているが、親欧米派の政権の時代には経済の調子が良くないということは申し添えておく。
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GDPの年額(単位:10億ドル)
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GDP成長率の変遷

 アゾフ大隊についてはその狂暴性が少しずつ報道されるようになっているが、フェイスブック公認の「愛国的、英雄的なネオナチ」ということになる。下の論稿で筆者が心配しているのは、彼らに欧米からの最新式の武器が渡って、戦後もそれらを持ち続けるとするならば、その武器が向かう先はどこかということだ。国内のロシア系住民やユダヤ系住民に向かうことになれば本末転倒だ。また、「欧米諸国は結局自分たちを見捨てたのだ」という考えに至り、欧米諸国に対して敵意をむき出しにするのではないかという懸念もある。アフガニスタン国内でアメリカの支援を受け、ソ連と戦ったムジャヒディンの中にオサマ・ビンラディンがいたことを忘れてはいけない。
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アゾフ大隊
 ウクライナ戦争によって世界の目はウクライナに集まった。人々の関心も大きくなっている。現在は「美しい」姿であるが、やはり現実に目を向けねばならない時がやって来る。人々の関心が高まっている以上、ウクライナ自身もこれから変化をしていかねばならない。

(貼り付けはじめ)

汝の味方を知れ(Know your Ally

-勇気のあるウクライナの友人たちとはどんな人たちなのか?

マーク・アーモンド筆

2022年3月8日

『ザ・クリティック』誌

https://thecritic.co.uk/know-your-ally/

「汝の敵を知れ(Know Your Enemy)」は戦時中によく使われる常套句だ。しかし、敵とその意図を明確に把握することが当然のように必要であるならば、「味方を知る(Know Your Ally)」ことも同じく必要不可欠ではないか?

欧米諸国の人々にとって戦争が観戦スポーツ(spectator sport)の1つとなり、サイバースペースで口先だけでプーチンを殺し、パラリンピックでロシアの障害者を蹴落として喜んでいる時でさえ、ウクライナ人にとって恐ろしい、そして私たちヨーロッパの沖合の島民にとっても、ヨーロッパ全体にとっても深刻な影響を与える現実の紛争が進行中なのだ。

自分たちの選んだ側にロマンを感じ、その敵をけなすのは自然な反応だ。しかし、おとぎ話のような紛争では、同盟国の欠点は侵略者の悪徳に比べれば見劣りするとしても、しばしば隠蔽される。

●ウクライナは不正選挙に悩まされている(Election fraud has bedevilled Ukraine

1914年、「勇敢な小さなベルギー人(Plucky Little Belgium)」は、文字通り怪物的なフン族に犯されそうになっている乙女として描かれていたことを思い出して欲しい。しかし、1914年8月までは、ベルギーの被害者としての立場は、明らかに加害者の側にあった。コンラッドの『闇の奥(Heart of Darkness)』によって小説として描かれたように、ベルギー領コンゴの人々がレオポルド王の欲のために奴隷として搾取されていたことは、ロジャー・ケースメント卿とED・モレルによって暴露されており、彼らはともにベルギー防衛を拒否した。

ケースメントは、公然と、しかも自虐的に帝政ドイツに味方した。一方、モレルは、兵士に入隊しないよう勧めたために投獄した。彼らはドイツについて大きく誤解していたが、ベルギーの同盟国の道徳的記録については知っていた。

しかし、1939年のポーランドの軍事政権(junta)は、1982年のアルゼンチンの軍事政権と同様、軍事的に無能であった。一般のポーランド人兵士の勇気によって、ポーランドの軍事政権が1938年にヒトラーと共謀してチェコを攻撃したことを忘れるようなことがあってはならない。もう一つの同盟国であるソ連のスターリンは、その後、彼独特の方法でポーランド人を「解放」した。ナチスを打ち負かした取引と同盟関係の姿は極めて醜いものだった。

今日のウクライナに目を向けると、強大なロシア軍に反撃するウクライナ兵や、1914年にイギリス国民が賞賛した「ロシアの蒸気機関車(Russian steamroller)」の行く手を阻む民間人の写真に、簡単にそして心温まるように振り回されてしまう。ゼレンスキー大統領は、1991年の独立以来、ウクライナ人が手にした大統領の中で断トツに優れている。前任者たちがいかに低いハードルを設定していたかを考えると、これは褒め殺しになる(back-handed compliment)かもしれない。しかし、西側メディアは、クレムリンの「偉大な独裁者」に逆らうこの本物のチャーリー・チャップリン(訳者註:ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領)に焦点を当て、出来の良い「リアリティ番組」を作っているが、ウクライナの実際の権力構造を見落としている。

ゼレンスキー大統領は自国の大義のための優れたプロパガンダの広報担当であるが、チャーチル以上に平和を勝ち取ることができるだろうか?

ウクライナがロシアの猛攻をかわし、一般市民にとってより良い場所になり、欧米諸国にとってより快適な隣人になるとは思わないで欲しい。

プーティンの侵略を正当化するものは何もないが、ウクライナが一夜にして崩壊するとプーティンが考えた理由の一つは、1991年以降にウクライナに出現した深く欠陥のあるシステムだった。欧米諸国の指導者たちは、ウクライナは30年間民主政治体制を享受してきたと述べているが、実際には不正選挙が多発している。2004年の「オレンジ革命(Orange Revolution)」で良い統治(good governance)の誕生を告げるはずだった大規模デモを思い出して欲しい。そのエピソードとその時の英雄的指導者たちは、西側メディアの記憶の穴の中に消えてしまった。「善良なオリガルヒ(good oligarch)」であるポロシェンコ大統領は、西側に支援された2014年の大規模蜂起の余波で当選したが、2019年にはコメディ俳優によって屈辱を味わうことになった。 

この度重なる不安定な状況は、もともと豊かではなかった1991年以降のウクライナ人のひどい没落ぶりを反映している。一般市民は、一連の経済危機によって困窮している。それにもかかわらず、オリガルヒたちは天然資源を乗っ取り、世界通貨基金(IMF)からの融資や西側の援助を横領することによって驚異的に豊かになっている。

●誰がこれらの機動兵器を手にして戦うのかについては、こうした人々はほとんど何も考えてもいない(They have given little thought to who is getting their hands on these mobile weapons

今回の戦争直前、ボリス・ジョンソン英首相はキエフに滞在した際、イギリスにいるロシアのオリガルヒに対して行動を起こすと警告を発した。ゼレンスキー大統領の「ウクライナのオリガルヒに対しても」という舞台上でのささやきについては発言の重要性に見合うだけの報道はされなかった。イギリス議会もメディアは、例えばロンドンで目に付く説明のつかないウクライナの富について沈黙を保っている。これらのオリガルヒが復興支援のパイに指を入れることになれば、ロシアのオリガルヒが排除されることによってイギリスの銀行や法律事務所が被害を受けるという心配は、欧米諸国の納税者の資金がウクライナのオリガルヒに流れ、彼らが投資した不動産や株式市場に還流することによって軽減されることになるだろう。

彼らの鼻はすでに、粉々になったウクライナの再建のためという名目で、欧米諸国の納税者や慈善団体から寄せられた多額の資金を横領する機会の匂いを嗅ぎ取っている。

ゼレンスキーの当選以来、ウクライナの脱オリガルヒ化は進まず、30年以上にわたって一般のウクライナ人を困窮させてきた人物たちが、国家行政や金融部門の要職についたままになっている。ゼレンスキーのテレビチャンネルの後援者だったイーゴリ・コロモイスキーのプリヴァト銀行の経営方法は、ブレヒトの「なぜ銀行強盗が犯罪なのかは理解できるが、なぜ銀行を所有することが犯罪でないのかは理解できない(he could understand why robbing a bank was a crime, but he couldn’t understand why owning one wasn’t)」という言葉に信憑性を与えている。 ウクライナ政府当局も最終的に取り締まったが、それが預金者のためになった訳ではない。

ウクライナに最新式の肩撃ち式対戦車・対空兵器を大量に供与するという決定は、インターネットのヘビーユーザーたち、SNSのヘビーユーザーたちからは「少なすぎかつ遅すぎる(too little, too late)」と揶揄されるが、誰がこれらの機動兵器を手にして戦うのかについては、こうした人々はほとんど何も考えてもいないようだ

ウクライナ軍における過激な民族主義者や白人至上主義者の民兵が果たしている役割を考えると、新しいタリバン風のグループを武装させているのではないと断言できるだろうか。今はプーティンに対する憎悪に燃えて西側諸国の支援を受けて戦っているが、戦争の結果として勝利もしくは敗北が決まってから、彼らが自由主義的民主政治体制を標榜する西側諸国の価値観に対する暴力的な拒絶を行うようなことはないと誰が確信を持って言えるだろうか。

マンチェスターの人々は、2011年にカダフィと戦うために渡航したマンチェスター在住のリビア人たちがメディアによって英雄視されたことを覚えているはずだ。その後、何人かは2017年に致命的な復讐をするために戻ってきた。マンチェスター・アリーナの爆破犯を訓練した彼らの役割を忘れているのは、私たちの政府と「人道的介入(humanitarian intervention)」の応援団だけだ。

1980年代にアフガニスタンのムジャヒディンを武装させたことが、欧米の政策立案者の脳裏を離れないのは奇妙なことだ。ポーランドをヨーロッパのパキスタンにして、プーティンと戦うための武器の供給源にすることは、今日における「賢い行動(smart move)」である。しかし、明日、十分に武装したウクライナの民族主義者が、西側諸国がロシアに全面的に対抗できなかったことに憤り、ポーランド人に対するあらゆる不満を思い出し、それ以前のアフガン人やリビア人のように厄介な存在になってしまったらどうだろうか?

欧米諸国による難民支援への感謝が「反撃(Blowback)」を防ぐと期待するのは、過去の実績に対する風当たりの強さだろう。ウクライナ人は「私たちと同じ(just like us)」だから、一部のイスラム教徒のように「完全に馬鹿げた(full tonto)」ようになることはないかもしれない。もちろん、株式市場のパンフレットが警告しているように、「過去の実績は将来の結果を導くものではない(past performance is no guide to future outcomes)」。ウクライナ人は、自分たちが勝つことで愛国心がオリガルヒの欲を抑えてくれると確信を持っているだろうか? 政治家を含む西側諸国の人々は、本当に先のことを考えているのか? 彼らは同盟諸国についてきちんと知っているのだろうか?

※マーク・アーモンド(Mark Almond):オックスフォードにある危機研究所部長。ビルケント大学(アンカラ)客員教授、アヤソフィア論争については著書『世俗化されたトルコ:小史(Secular Turkey - A Short History)』にまとめている。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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