古村治彦です。

 私が昨年翻訳した『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著)は、アメリカ国内におけるビッグテック(ツイッター、フェイスブック。アマゾン、アップル、グーグル、これらに最近はネットフリックスを入れる場合が多い)の国民への悪影響について詳しく分析し、その影響を小さくすることを訴えている。

 これらのビッグテック各社のプラットフォームが今回のロシアによるウクライナ侵攻ではウクライナのIT軍に利用されている。一方でロシア側に関しては軒並み使用停止、アカウント削除、画像や映像の削除という措置を取られている。ビッグテック各社のプラットフォームは全世界で使用されており、結果として情報戦ではウクライナ側が勝利ということになっている。

 これまでビッグテック各社は「自分たちは情報伝達の手段を提供しているのに過ぎず、情報の中身に関しては責任を負わない、免責を求める」ということを述べてきた。「自分たちはお皿を用意するがそれに乗せる料理に関しては自分たちの責任ではない」と述べてきたようなものだ。しかし、今回は情報の中身に関してロシア側は全面悪、ウクライナ側は全面善ということにすると決定した。ウクライナ側の出してくる情報は全てが正しい、ロシア側は全てが正しくないという判断・決定をビッグテック各社が下した。この意味は重い。こうした判断・決定には結果責任が伴う。これからは「自分たちも提供される情報に責任を負う」と宣言したのと同じだ。

 そして、ビッグテック各社は「戦争協力者」として「武器」を戦争の一方の当事者にだけ渡しているという状況になった。ビッグテック各社は「中立性」ということをこれからは主張できなくなった。これから戦争が起きれば自分たちが「善い者」と判断・決定した側には使用を許可するが、そうではない「悪者」とした側には使用を許さないということになる。ビッグテック各社はそこまで「偉く」「偉大な」存在になってしまった。私たちは自分たちの思考を組み立てる際に情報を基盤とするが、ビッグテック各社は「これが良い情報です」と予め私たちに選別したものを提供するということになる。これは非常に危険なことだ。世界はジョージ・オーウェルの『一九八四年〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)』で描かれた「ディストピア(dystopia)」への道を進んでいる。

 より露骨に書けば、ビッグテック各社はアメリカ政府が決めた「善い者」を応援し、アメリカ政府が決めた「悪者」を攻撃する。このようになっている。ウクライナ戦争によってこのビッグテックの性質が明らかにされた。サイバー上での戦争はアメリカが絶対的に優位ということになっているが、これから中国がこの分野でも追いつき追い越すということになっていくだろう。いつまでもアメリカとアメリカ発のビッグテックの天下ということは続かないだろう。

(貼り付けはじめ)

プーティンの戦争がビッグテックを永久に変えた4つの理由(4 Reasons Why Putin’s War Has Changed Big Tech Forever

-この紛争は主要なプラットフォームがビジネスを行う方法を永久に根底から覆した。

スティーヴン・フェルドスタイン筆

2022年3月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/29/ukraine-war-russia-putin-big-tech-social-media-internet-platforms/

戦場からのヴィデオ映像、漏洩されえたドローンの監視カメラの映像など、デジタル・コミュニケーションによって、ロシアのウクライナ侵攻は史上最もインターネットにアクセスしやすい戦争となっている。ツイッター(Twitter)やティックトック(TikTok)などのインターネット・プラットフォーム(internet platform)が戦争に関する主要なニュースソースになっている。しかし、今回のウクライナ戦争がインターネット企業にとっての分岐点となっているのはこうしたことだけが理由ではない。ロシアのウクライナ戦争は、インターネット企業に、これまでほとんど避けてきた地政学的な現実(geopolitical realities)との対峙を迫っている。デジタル・プラットフォームは、コンテンツの削除や政治に対する批判者のブロック、政府の統制が効果を持つローカルオフィスの開設など、世界中の政府からの圧力に長い間直面してきたが、欧米諸国からの圧力とロシアによる弾圧は、テック企業の運営方法のパラダイムシフト(paradigm shift)を加速している。大きな断層(fault line)が生まれ、インターネット・プラットフォームがどのようにビジネスを行うかについて、広範囲に影響を及ぼしている。

その理由は明確だ。デジタル時代において、インターネット・プラットフォームは権力と密接な関係にあるからだ。政府はツイッター、フェイスブック(Facebook)、ユーチューブ(YouTube)、ティックトックを使って、プロパガンダを広め、分裂を生み、批判者を威嚇し、政治的言説を推進する。また、市民運動や活動家も同じプラットフォームを利用して、支持者を動員し、独裁者を罵倒し、政府に対する大規模な行動を組織している。新型コロナウイルス感染拡大により、世界のかなりの部分がオンライン化され、政治と社会におけるデジタル・プラットフォームの中心性が加速された。こうした力学は、ロシアのウクライナ侵攻(新型コロナウイルス感染買う題時代における最初の大規模な国家間紛争)を、インターネット・プラットフォームにとっての兆候になっている。

特に、ウクライナ戦争がプラットフォーム・ビジネスを根底から覆すものであることが、4つの要因によって示されている。

(1)戦争は中立神話(neutrality myth)を打ち砕いた。インターネット・プラットフォームは、そのスタートから今まで、自分たちは情報を配信するだけの中立的なプラットフォームであり、コンテンツには責任を持たないと主張してきた。フェイスブックが世界中に偽情報(disinformation)やヘイトスピーチ(hate speech)を広め、外国によるある国の選挙への干渉を助長しているとして長年圧力を受けてきた後も、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は2018年のインタヴューで、ホロコースト否定論者や陰謀論者がプラットフォームで情報を発信するのを禁止するのは自社の責任ではないと明言した。2020年になって初めて、フェイスブックは控えめなコンテンツ取り締まりを導入し、軌道修正に乗り出した。しかし同時に、主要なインターネット・プラットフォームは、どんなに低劣なコンテンツであっても、情報配信者として編集者(パブリッシャー、publisher)としての機能を行使することはないと主張し、政府の責任を追及する動きに反発し続けた。驚くべきことに、ツイッターが中国やロシアの国家的プロパガンダや偽情報の発信元は中露両国政府であったと断定したのは2020年になってからのことだ。

ウクライナ戦争は、中立性の議論に残っていたものを破壊した。ウクライナ紛争に味方しないことは、抑圧的な政権の道具として奉仕することと同じだというコンセンサスの高まりを反映し、ビッグテックはクレムリンのプロパガンダを抑制するために大規模な措置を講じた。ユーチューブはロシアの国営メディアを世界規模でブロックすると発表し、1000以上のチャンネルと1万5000以上のヴィデオ映像を削除した。フェイスブックは、ヨーロッパ連合(EU)の領域内において、ロシアの公式報道機関であるエルティ―(RT)とスプートニック(Sputnik)へのアクセスを制限し、ロシアの国営メディアによる広告の掲載やプラットフォームのマネタイズを世界規模で禁止した。ツイッターはウクライナとロシアでの広告を一時停止し、ロシアの国営メディアが投稿したツイートの可視性を低下させた。しかし、行動を起こしたのはアメリカのソーシャルメディアプラットフォームだけでなく、他のハイテク企業もこれに追随している。アップルはロシアでの製品販売を全て停止した。オーディオストリーミングのスポティファイ(Spotify)はロシアのオフィスを閉鎖し、エルティ―(RT)とスプートニク(Sputnik)の全コンテンツを削除した。ネットフリックス(Netflix)もロシアでのサーヴィスを停止した。中立性という建前をようやく捨てる決断に至ったことにより、テック企業は混乱した新時代に突入した。テック企業はもはや中立的な技術の提供者として活動することはないのだ。政府が戦争継続期間中にテック企業のプラットフォームをどのように利用するか、どのような種類の表現がヘイト、暴力、プロパガンダの境界を侵すかについて、明確な価値判断を下すようになった。これらの行動は、以前のコンテンツ・ポリシーと矛盾しており、テック企業が最近の出来事に対応して、しばしばその場しのぎでルールブックを急いで書き換えていることを示している。

(2)政府の強制が急激に強まっている。権威主義的な政府からインターネット・プラットフォームに対し、コンテンツの検閲(censor content)を求める圧力(多くの場合、特定の市場でビジネスを継続するための条件として)は新しいものではなく、また、プラットフォームがこれを黙認してきた歴史もない。たとえば、ヴェトナムでは、政府当局がフェイスブックのサーバーをオフラインにした後、現地の「反国家的(anti-state)」投稿に対する検閲を大幅に強化することに同意した。ナイジェリアでは、ツイッターが同国に事務所を開設し、政府とともに「行動規範(code of conduct)」を制定することに同意するまで、ナイジェリア政府は7ヶ月間ツイッターの活動を停止させた。

戦争が始まるまでの間、ロシアの強制は加速していたようだ。『ワシントン・ポスト』紙によると、2021年9月、ロシアのスパイがモスクワのグーグル幹部の自宅にやってきて、「ロシアのウラジミール・プーティン大統領の怒りを買ったアプリを24時間以内に削除しなければ刑務所に入れる」という最後通告を冷酷に行ったということだ。フェイスブックがロシアのプロパガンダ報道をブロックする一方で、ウクライナの利用者たちが戦争でロシア兵を殺害するよう訴えることを許可したことを受けて、ロシアの裁判所は親会社のメタ(Meta)を「過激派(extremist)」とし、ロシア国内でのフェイスブックとインスタグラム(Instagram)の活動を禁止した。しかし、オンライン・プラットフォームに対する強制的な措置を強化しているのは、ロシアだけではない。インド政府はツイッターが与党議員の投稿に対して「操作されたメディア(manipulated media)」というレッテルを貼ったことに対する報復として、ツイッター社のオフィスに特殊部隊を突入させることを許可した。トルコでは、コンテンツ削除とデータローカライゼーション(data localization)の強硬法が施行され、刑事罰が科せられた。これらは、インターネット企業が直面する強制的な現実を表している。

(3)ファウスト的な交渉や不愉快な妥協に注目が集まっている。もちろん、全てのテック企業が権威主義的な政府に逆らうような方策を選ぶ訳ではなく、政府に迎合し、それによって市場への有利なアクセスを維持することを望む。多くの企業は、人権を侵害し、利用者たちを危険に晒すような妥協(compromises)を模索し続けている。たとえば、中国資本のティックトックは、アメリアのプラットフォームに倣ってロシアのプロパガンダを禁止しているが、クレムリンの検閲要求に過剰に応え、ロシアの利用者向けにコンテンツの95%を削除することを選択している。その結果、戦争に関する重要な情報源が、ロシアの一般市民から奪われてしまった。インドでは、ツイッターが農民の抗議活動に関連する数百のユーザーアカウントを停止し、政府によって物議を醸すとみなされた数百の農民支持ツイートをブロックした。グーグルはインドでも同様の政策をとり、警察とデータを共有することで、デモ参加者のためのリソースを提供する共有グーグルドキュメントを編集していた気候変動活動家たちの逮捕につながった。

抑圧的な政府にとって新たな戦略とは、自分たちの言いなりになりやすい代替アプリやプラットフォームを育成することだ。中国では、2010年頃にグーグルとフェイスブックが禁止されたことで、ウィーチャット(WeChat)が中国の主要なデジタル・プラットフォームとなる道が開かれた。便利なことに、ウィーチャットは中国政府にとって強力な監視と検閲の手段にもなっており、国家安全保障機関が公共および個人の言論を監視し、キーワードをトリガーに何十億ものメッセージをフィルタリングするために使用されている。ロシアでは、現地の検索エンジンであるヤンデェックス(Yandex)が、どのニュースサーヴィスがヘッドラインを投稿できるかを、クレムリンが承認したわずか15のメディアアウトレットに制限しています。また、インドでは、ツイッターのコンテンツ・ポリシーに不満を持つ政府が、ツイッターに代わるコミュニケーション・プラットフォームとしてクー(Koo)を積極的に推進している。残念なことに、市場シェアと利益のために抑圧的な政権と不愉快な取引をする企業は、アメリカのプラットフォームであれ、現地のプラットフォームであれ、なんでもあるというのが現実だ。

(4)戦争によってプラットフォームが負うべき新たな責任が出現している。ウクライナ紛争に関する情報を仲介するオンライン・プラットフォームの顕著な役割はそれに関連する問題を提起する。国際人道法の下でインターネット企業はどのような義務を負っているのか? ロシアの捕虜を描いた画像を頻繁にソーシャルメディアに投稿することは捕虜を公衆の好奇心にさらすことを禁じるジュネーブ条約に違反しているのか? インターネットの遮断やプラットフォームの自己検閲(self-censorship)は、民間人が救命のための人道的措置(humanitarian measures)や差し迫ったミサイル攻撃に関する情報にアクセスできないようにすることで、戦争犯罪を幇助しているのだろうか? このような規範はまだ生まれたばかりだが、ロシアの戦争におけるデジタル・プラットフォームの支配的な役割によってこれらの問題は突然スポットライトを浴びることになった。

長年にわたり、ハイテク企業はどこで活動し、どのように抑圧的な政府に対処するかについて、難しい選択をすることを避けてきた。その代わりに、検閲の要求に抗議をすることなしに応じたり、権威主義的な政府との不透明な取引に合意したりして、世界の表現の自由のために立ち上がっていると欧米諸国の利用者たちに伝えながら、この2つを両立させようとしてきたのだ。このようなアプローチは常に偽善的(hypocritical)で、多くの人々が注意を払わない限りは有効であった。ウクライナ戦争、ロシアの反対意見に対する悪質な弾圧、そして権威主義的な国での活動を抑制するよう企業に求める欧米諸国からの圧力の高まりによって、テック企業の混迷したスタンスは維持できなくなっているのだ。

テック・プラットフォームは、戦争継続期間中の情報の取り扱いについて一貫した方針を打ち出すよう迫られているだけでなく、各国の政府は自国の見解や利益を主張することにより熱心になっている、不安定な国際環境をどのように切り抜けるかを考えねばならない状況になっている。欧米諸国は、テクノロジー・プラットフォームの運用方法を制限し、表現の自由(free expression)と偽情報(disinformation)やプロパガンダ(propaganda)への対抗との適切なバランスにより重きを置いた新しい規則を追求している。また、各テック企業は困難な市場から撤退することで収益源を失うことになってもそれを正当化しようとする投資家からの圧力と戦わなければならない。一方、独裁的な政権は、ハイテク企業に対して影響力を行使し続け、市場から締め出すか、より効果的に管理できる自国内の代替企業を優先させると脅すだろう。このような状況から今後数年間は予測不可能で不安定な状況が続くと思われる。

テック企業はプラットフォームサーヴィスを提供する非政治的な企業であるという考えには常に欠陥があったが、ウクライナ戦争はその推定された中立性(neutrality)に杭を打ち込むものであった。大手ハイテク企業各社はこれからは未知の領域に踏み込んでいく。

スティーヴン・フェルドスタイン:カーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace)の民主政治体制・紛争・ガバナンスプログラムの上級研究員で、オバマ政権で民主政治体制・人権・労働担当元国務副次官補代理(former deputy secretary of state for democracy, human rights, and labor)を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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