古村治彦です。

 ネオコンという言葉はジョージ・W・ブッシュ(子)政権(2001-2008年)時代に日本でも知られるようになった言葉だ。私の師匠である副島隆彦先生が『現代アメリカ政治思想の大研究 <世界覇権国>を動かす政治家と知識人たち』(筑摩書房)でネオコンについて日本でほぼ初めて紹介したのが1995年で、2000年代に入ってネオコンという言葉が日本のマスコミで使われるようになって「何を今更」の感があった。今回のロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカのネオコンの動きがあったということで、ヴィクトリア・ヌーランドの名前を挙げて説明している論稿もあるが、こちらもまた「何を今更」である。私は2012年に出した『アメリカ政治の秘密』でネオコン(共和党)とカウンターパートとして「人道的介入主義派(humanitarian interventionists)」(民主党)について詳しく説明した。ネオコンだけではなく、人道的介入主義派も危険だということは早い段階で指摘した。

 アメリカ政治に詳しい方なら「ネオコンは共和党のジョージ・W・ブッシュ政権の時にアメリカの外交政策と軍事政策を牛耳った人々ではないか。それが民主党のジョー・バイデン政権で重要な政策決定に関与できるのか」という疑問を持つだろう。だから大事なのは、民主党内のネオコンのカウンターパートである、人道的介入主義派なのである。今度は人道的介入主義派の出番ということになるのだ。ネオコンと人道的介入主義派は立場が近い。ネオコンの論客ロバート・ケーガン(共和党員)は2016年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ当選を阻止したいと考え、民主党のヒラリー・クリントンの政治資金集めのためのパーティを計画したことがあった。アイソレイショニズムのトランプよりも党は違うヒラリーの考えの方が近いということになるのだ。

 昨年出版した『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』について、ありがたいことに最近になって評価をして下さる方が少しずつであるが増えてきている。私の主張や思考はとにかくシンプルで、バイデン政権とはヒラリー政権が4年遅れでやって来た存在に過ぎず、ヒラリーが当目である人道的介入主義派が多く政権に入ればそれだけ危険だということから思考を組み立てている。私のこれまでの著作を是非お読みいただきたい。

 バイデン政権はウクライナ戦争が勃発してから武器や物資の供与は行うがアメリカ軍が直接関与することは回避している。ウクライナの国土とウクライナ人の生命と財産が失われる状況でアメリカの軍需産業は大儲けをしている。その原資はアメリカ国民の血税であるが、日本人もまた高みの見物ということはできない。日本もまた相応の負担を強いられることになる。急速に進んだ円安とエネルギーコストの急上昇によって生活が苦しくなる一方であるが、それに加えて戦争税が課されることは間違いない。

 アメリカ国内でもアメリカ軍の直接的な関与を求める声が高まっている。そのためのキーワードが「戦争犯罪(war crime)」だ。ロシアによる戦争犯罪を裁く、もしくはウラジミール・プーティンを権力の座から引きずり下ろすためにはアメリカ軍が出張っていってロシア軍を破らねばならない。しかし、そんなことをすれば戦争は拡大し、エスカレートし、その行き着く先がどうなるか予想ができない。核戦争の可能性が大いに高まる。アメリカ国内も安全ということはなくなる。ネオコンと人道的介入主義派の動きは非常に危険だ。私たちは感情と思考を区別して置かれた状況でより賢い選択をするという思考ができるようにしなければ大きく騙されて大事な生命と財産を危険に晒すことになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンにとっての最大のウクライナ問題はプーティンではない。それは戦争マシーンだ(Biden’s Biggest Ukraine Challenge Isn’t Putin, It’s the War Machine

-ウクライナ国境で軍事紛争が起きる場合、バイデン政権はアメリカによる介入を煽る応援団に抵抗しなければならない。

マイケル・トマスキー筆

2022年2月16日

『ニュー・リパブリック』誌

https://newrepublic.com/article/165380/ukraine-russia-neocon-media-war

ウラジミール・プーティンは手を引きつつあるのか? 火曜日の朝の『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ワシントン・ポスト』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙の見出しは、ロシアがウクライナ国境からいくつかの部隊を撤退させ、他の軍事演習が続いている間にも、そのことを伝えている。プーティンは今日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、侵攻は水曜日に行われると一見警戒しているように見えたが、メディアを通過する際に訳がわからなくなった皮肉な発言であったことが判明した。とはいえ、アメリカ政府は一時的に米国大使館をキエフからより安全な西のリヴィウに移した。

このようにまだ明らかになっていないことは多いが、バイデン政権にとっての明確な最低ラインは明確になっている。それは、「戦争に行くな、以上(Don’t go to war. Period.)」だ。

今日のニュースが一時的な休息、あるいは策略であることが判明し、ロシアが侵攻した場合、ケーブルニュースは少なくとも数日間は侵攻の映像を流し続けることになる。ロシアの残虐行為やウクライナ市民の死が強調されることになるだろう。アメリカのネオコンとその一部の上院議員、特に民主党のロバート・メネンデスと共和党のマルコ・ルビオは、ドナルド・トランプの犯罪を謝罪していない時に侵略が進む場合、多くの放送時間を得るだろう。ちなみに、この最後の点は、主流メディアが民主政治体制(democracy)を失敗させている重要な点の一つである。外交政策について優れた演説ができる人物は、たとえ10年か20年の間全てを間違っていたとしても、テレビはその人物を専門家として任命する。

太鼓が鳴り、衣服が裂け始めるだろう。これを見よ! スターリンが再びやって来るぞ!これは民主政治体制の死だ。バイデンを見てみろ、何もしていない! アフガニスタン、そし

て今はウクライナ。そして、この展開を見ている中国が何を考えているか想像してみよう。

しかし、バイデンはこれら全ての誇大広告に対して毅然とした態度で臨まなければならない。バイデン政権はこれまで、ウクライナでいかなる状況が起きてもアメリカ軍を駐留させないという、見事なまでに明確な態度を示してきた。これは良いスタートだ。しかし、プーティンが引き金を引くようなことがあれば、政権も踏ん張らなければならない。

バイデン政権の立場は変わらないと思う。しかし、私は少しばかり神経質になっている。バイデンは連邦上院議員時代、ウクライナをNATOに加盟させることを支持していたが、私はいつもそれを恐れていた。バルト三国の場合はそうだろうが、そこでも私は疑問に思った。アメリカ国民の何%が、聞いたこともないエストニアの町(ナルヴァ)を守るためにアメリカ人の命が失われることを喜んで支持するのだろうか? 世論が外交政策を左右するべきだというわけではない。少なくともヒトラーが宣戦布告をするまでは、ほとんどのアメリカ人は第二次世界大戦でドイツと戦うことに反対していた。しかし、民主的に選ばれた指導者は、ある状況がなぜアメリカの介入を必要とするのか、アメリカ国民に説明しなければならない。ウクライナの場合、それは無理な話だ。

そう、そこにネオコンがいるのだ。ありがたいことに、彼らは2002年から2003年にかけてのイラク戦争のときのように電波を支配しているわけではない。昨年12月、フレデリック・ケーガンは『ザ・ヒル』誌に、アメリカは戦争マシーン(war machine)を強化する必要があると書いた。彼は賢いので「戦争」という言葉は使わなかったが、これらの文章はそのポイントを伝えている。そのポイントは次の通りだ。

・本当に問題なのは、西側諸国がこの戦いに対する気概(stomach)を持っていないことだ。

・空軍力だけでは攻勢を止めるのには十分ではない。

・ティーム・バイデンはプーティンがウクライナを攻撃した場合の防衛について不安を払拭しなければならない。

こうした人々は何事も学ばない。もっとありそうなのは、自分たちの世界観から学ぶべきことを学ぶということだ。つまり、もう少し強力な決意と火力があれば、そして宥和派からの干渉がもっと少なければ、今日の軍事介入は大成功だっただろうという風に考えるということだ。

しかし、私には、歴史的な大成功の記憶はない。その代わり、記録にあるのは、ヴェトナムとイラクの悲惨な泥沼(disastrous quagmires)である。また、軍事や情報諜報の観点から「成功」したとされる介入(interventions)も、広い意味では悲惨な結果に終わったものがほとんどである。1954年、私たちはイランで迅速なクーデターを起こしたが、その後どうなったか。私たちは冷酷な親米政権を設立し、イラン国民は1979年についにこれを追放した。この政権は、ネオコンの好戦によって、冷酷な反米政権に取って代わられ、世界的とは言わないまでも、恐らくすぐに核兵器能力を持つ地域大国に変貌することになった。イランが本格的に核開発を始めたのは、ジョージ・W・ブッシュがイランを「悪の枢軸(axis of evil)」の一部と烙印を押した後であることを思い出そう。

私はかつて、当時の流行語であった「人道的介入(human interventions)」というものをアメリカがうまくやってのけると信じたかった。当時、スーザン・ソンタグやクリストファー・ヒッチェンスといった人々が、血と土(blood-and-soil 訳者註:民族主義的なイデオロギーのスローガン)の暴君に対抗するために、西側はまだ始まったばかりの多民族民主主義を支援しなければならないという道徳的説得力を持つ主張をしていた。その中心となったのは1990年代のボスニアだった。当時のベイカー国務長官が議会で「私たちはこの戦いに関与しない」と発言したことに私は愕然とした。

ボスニアは、ある種の軍事介入が正当化されるケースだった。主にNATOの空爆が行われ、最終的には和平合意(peace accords)に至った。しかし、その10年後、ボスニアのような人道的介入になるという理由で、イラク侵攻を主張する人たちがいたことをよく覚えている。何だと? ある国に攻め込んで、その国の隅々まで作り直すことと、大量殺人者が別の国で大量虐殺を行うのを阻止することが、どうして同じことだと言うのだろう?

そう、違うのだ。そして、ウクライナの状況と似たような比較をするような強制は避けるべきだ。教訓は次のようなものだ。歴史的類似性(historical parallels)を安易に使うことには常に注意を払うこと。ウクライナに軍事的に関与するということは、ロシアとの戦争に巻き込まれるということであり、脅威冷戦時代の越えられない一線、核兵器による消滅というを越えることである。プーティンは引き下がるかもしれない。しかし、彼が引き下がらなかったとしても、ここでの戦いはあくまで経済的なものだ。バイデンがかつてウクライナをNATOに加盟させることを熱望していたとしても、彼は今の状況を理解している。もしプーティンが参戦し、好戦派が国を熱狂の渦に巻き込もうとし始めたら、彼は自分の戦争への非関与を貫くべきだ。

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ネオコンたちがウクライナで新たな惨事を引き起こそうとしている(Neocons bent on starting another disaster in Ukraine

-アメリカの外交政策は、明らかに、毒舌で欲張り、そして何よりも無謀なエリート集団の人質となっている。

ジェイムズ・カーデン筆

2021年12月15日

『アジア・タイムズ』紙

https://asiatimes.com/2021/12/neocons-bent-on-starting-another-disaster-in-ukraine/

いずれにしても、ワシントンのネオコンたちは、生き残るための正確な本能を持っている。2001年9月11日のテロ攻撃以来20年間、イラク戦争からリビアとシリアでの大失敗に至るまで、数々の惨事を引き起こしてきたネオコンたちは、失敗の芸術を完成させているようだ。

ハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルトは「ネオコンであることは、決して謝る必要がないということを意味する」と述べたことがある。この点でケーガン一族の話は参考になる。

『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであり、ブルッキングス研究所の上級研究員で、『ザ・ジャングル・グロウズ・バック(The Jungle Grows Back)』のような偽史の著者でもあるロバート・ケーガンは、長年にわたってアメリカの軍国主義(American militarism)の主唱者であった。

弟のフレデリックはネオコンが主流派となっているアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員である。2021年12月7日付の『ザ・ヒル』にフレデリック・ケーガンが寄稿し、ロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにも存亡の危機が訪れると主張し、それは新しい鉄のカーテン(Iron Curtain)となりうるものだ、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開させることによってのみその状況に対応できる、と主張した。

フレデリック・ケーガンと妻キンバリーは戦争研究所を率いている。夫妻は失脚した元CIA長官デーヴィッド・ペトレイアスの側近だった。実際、フレデリック夫妻は、2007年から2008年にかけて、ジョージ・W・ブッシュ政権が追求した米軍増派戦略のブレインとして頻繁に言及される存在だった。

しかし、ケーガン一族で最も有力なのは、フレデリックの兄ロバートの妻で政治担当国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドだ。

バラク・オバマ政権で、ヌーランドは米国務省報道官を務めた。彼女は明らかに不適格であり(現報道官の資質を考慮すればなおさらだ)、その後、ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補に就任した。

2014年2月にウクライナで民主的に選ばれたヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領の転覆を画策し、国連によると1万3000人以上が死亡した内戦(civil war)を招いたのは、ヌーランドがその役割を担っていたからだ。

アメリカがロシアとの戦争という重大なリスクに晒されている理由の一つは、ここまでに至った政策についてほとんど議論されていないが、ワシントンの外交政策が事実上、排他的なサークルによって行われていることだ。

そして、このサークルはケーガン一族のような人々によって独占され、支配されている。

ワシントンの既存メディアは、官僚機構のための永続的なエコーチェンバーとして機能することで、こうした外交政策を永続させる役割を担っているのである。その証拠としては、『ワシントン・ポスト』の社説では、ウクライナ危機が始まった当初から、外交と関与を求める声を軽率に退け、その代わりに、完全な戦争(outright war)を呼びかけている。

その一例が2014年8月21日にワシントン・ポスト紙の社説に掲載された見解だ。

「停戦や、外交交渉につながる何らかの一時的な停止を模索したくなるところだ。しかし、一時停止と外交で何が達成されるだろうか? ウクライナに禍根を残すような交渉は避けなければならない。受け入れられる唯一の解決策は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略を撤回させることだ」。

『ナショナル・インタレスト』誌の編集者ジェイコブ・ヘリブラウンと私が当時次のようにコメントした。「無慈悲な態度とほぼ同程度に悪いのは、率直さの欠如である。ワシントン・ポストは、プーティンの侵略を逆転させるためにどのような提案をするのかについて何一つ実際に説明していない」。

これは現在でも変わらない。ウクライナをめぐってロシアと戦争すると豪語するアームチェア・ウォリアー(安楽椅子に座って戦争を論じる言葉だけお勇ましい人)たちは、そのような「逆転」がどのように行われるのか、更に言えば、米露間の戦争が成功する確率はどの程度なのか、まったく議論していないのだ。

ウクライナ危機が始まった約8年前からあまり変わっていない。2021年12月7日のアメリカ連邦上院外交委員会(SFRC)でヌーランドが行った「米露政策の最新情報」に関する証言について少し考えてみよう。

ヌーランドは次のように証言した。

"ロシアのプーティン大統領がウクライナへの攻撃や政府転覆を決定したかどうかは分からない。しかし、そのための能力を高めていることは確かだ。この多くは、2014年のプーティンの脚本に沿ったものだが、今回は、より大規模で致命的な規模である。したがって、正確な意図やタイミングが不明であるにもかかわらず、私たちはロシアに方向転換を促すとしても、あらゆる事態に備えなければならない」。

ヌーランドは更に、アメリカ政府は2014年以来、ウクライナに24億ドルの「安全保障分野での支援」を行い、本年度分としてこれまで4億5千万ドルがその中に含まれていると指摘した。

この巨額の投資に対して、アメリカはどのような見返りを得たのだろうか?

連邦上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、ロシアが自国の国境で圧倒的な軍事的優位性を持っていないという印象を抱いているようだ。同様に、民主党のベン・カーディン連邦上院議員は、ロシアがウクライナに侵攻すれば「私たち(アメリカ)にはエスカレートする必要がある」と言い切った。

一方、共和党所属のトッド・ヤング連邦上院議員は、ヌーランドに対して「ロシアの侵略に対抗するために、政権はどのような方策を検討しているのか」と迫り、民主党所属のジャンヌ・シャヒー連邦上院議員は、エストニアの国会議員との対話の中で「ウクライナ問題に関するヨーロッパの結束」の重要性について語られたと述べた。

また、エストニアの国会議員共に、ポーランドなどの東欧諸国の国会議員たちも、「バルト諸国にさらに軍隊を駐留させるか、させないかについて懸念を表明したとシャヒーン議員は述べた。

この日、最も鋭いコメントをしたのは共和党のロン・ジョンソン連邦上院議員だった。ジョンソン委員は外交委員会が珍しく超党派の合意を達成したことに明らかに誇らしげだった。彼はさらに、アメリカはウクライナを支持し、ロシアに対抗するために「団結」しているのだと強調した。

そしてジョンソンの発言内容は全く正しいものだ。外交委員会は、アメリカが何の条約上の義務も負っていないウクライナをめぐる紛争を望むことで完全に一致した。

実際、ヌーランドも連邦上院外交委員会も、アメリカの国益が存在しない場所を見ているようだ。より心配されるのは、制裁と軍事的脅威を組み合わせることで、アメリカから何千キロも離れた場所で起きている紛争の結果を形成する、アメリカの能力、いや、義務に対する盲信のようなものを持っているように見えることである。

今回の連邦上院外交委員会の公聴会が明確に示したことは、アメリカの外交政策が毒と欲にまみれたおり、そして何よりも無謀なエリート集団の人質になっていることだ。そのエリートには、外交委員会の委員たち、公聴会で証言する政府高官たち、外交委員会にブリーフィングするスタッフたち、スタッフが信頼する学者や政策担当者たち、そして「匿名」の政府筋から聞いたことを無批判に書き写す記者やジャーナリストが含まれる。

このように、われわれが直面している最も緊急な問題は、次のようなものだ。手遅れになる前に、良心のあるアメリカ人はどうやって彼らの権力支配を断ち切るか?、である。

※ジェイムズ・W・カーディン:『ザ・ネイション』誌の外交専門記者を6年間務めた。その他に様々な出版物に記事や論稿を掲載してきた。それまでは米国務省の顧問を務めたサイモン・ウィール政治哲学センター理事、アメリカ・ロシア協力アメリカ委員会上級コンサルタントを務めている。

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ネオコンであることは決して謝罪する必要がないということだ(Being a Neocon Means Never Having to Say You’re Sorry

-この人たちはイラクのあらゆる面で間違っていた。なぜまだ彼らの言うことを聞かなければならないのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2014年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2014/06/20/being-a-neocon-means-never-having-to-say-youre-sorry/

2001年から2006年のある時点まで、アメリカはネオコンヴァティヴィズムを信奉する人々(ネオコン)が外交政策の中核をなすプログラムに従った。この巨大な社会科学的実験の悲惨な結果(disastrous results of this vast social science experiment)は、これ以上ないほどに明らかである。ネオコンのプログラムは、米国に数兆ドルとアメリカ軍将兵の数千人の死傷をもたらし、イラクとその他の地域に殺戮と混沌をもたらした。

リンドバーグやマコーミックのようなアイソレイショニズムの信奉者たちが、第二次世界大戦で、ディーン・ラスク元国務長官がヴェトナム戦争で疎外されたように、ネオコンたちの信用は永遠に失墜するのではないかと考える人もいるだろう。たとえ、ネオコンが自分たちの愚行が引き起こした失敗にもめげず、自分たちの主張に固執し続けるとしても、合理的な社会は彼らにほとんど注意を払わないだろうと予想される。

しかし、アンドリュー・バセヴィッツ、ジュアン・コール、ポール・ウォルドマン、アンドリュー・サリヴァン、サイモン・ジェンキンス、ジェイムズ・ファローズといった、多くの論客が落胆したように、ネオコンの論客たちは今日も健在である。CNNをはじめとするニュースチャンネルの一般視聴者たちは、ポール・ウォルフォヴィッツ、ディック・チェイニー、ビル・クリストルらの空疎な(vacuous)分析に接しているのである。

より懸念されることは、バラク・オバマ大統領が圧力に屈して、イラクの無能で悩めるマリキ政権を助けるために300人のアメリカ軍顧問団を派遣したと思われることだ。いつものように、オバマ大統領は新たな泥沼を警戒し、アメリカの関与を制限しようとしているようだ。しかし、彼は滑りやすい坂道への第一歩を踏み出し、この最初の動きが成功しなければ、もっとやるようにという追加の圧力に直面することになるだろう。

一体何が起こっているのか? ネオコンの最新の戦争推進キャンペーンの論理を破壊している人々がいる。ネオコンの一連の悪いアドヴァイスに対する強力な再反論は、前述の論客たちの記事を読むとよい。あるいは、バリー・ポーゼンが『ポリティコ』誌に寄稿した、ネオコンのあまりにも有名な妨害行為に対する有効な警告を提供している記事も読んで欲しい。

しかし、過去の失敗を考えると、ネオコンがあらゆるレヴェルの説明責任(accountability)から免れているように見えるのはどうしてだろうか? 一つのグループが、これほど頻繁に、これほど高いコストをかけて間違いを犯しながら、それでもなお、上層部でかなりの尊敬と影響力を維持できるのはなぜなのか? アメリカがネオコンに少しでも耳を傾けることは、ワイリー・E・コヨーテにロードランナーの捕まえ方を聞いたり、故ミッキー・ルーニーに結婚のアドヴァイスを求めたり、バーニー・マドフに退職金の運用を任せたりするようなものである。

私の知る限り、ネオコンが奇妙なほど持続しているのは、相互に関連する4つの要因によるものである。

(1)厚顔無恥(No. 1: Shamelessness

ネオコンサヴァティヴィズムが生き残っている理由として、そのメンバーが、自分たちがどれだけ間違っていたか、あるいは善悪そのものを気にしていないことである。トロツキー派やシュトラウス派のルーツに忠実なネオコンは、政治的目標を達成するために、常に真実を弄ぶことを厭わない。例えば、彼らはイラク戦争を売り込むために、情報を捏造し、とんでもない虚偽の主張をした。そして今日、彼らは現在のイラクの混乱に対する自らの責任を否定し、オバマによって浪費された戦争の大成功を描くために、同様に虚偽の物語を構築しているのだ。そして、この運動全体が先天的に誤りを認めることができず、自分たちが浪費したり取り返しのつかない損害を与えたりした何千人もの人々に謝罪することができないようだ。

著名なネオコンの知識人で、イラク戦争の初期の推進者ロバート・ケーガンが、来月行われるヒラリー・クリントンの選挙資金調達パーティのトップを務めることが、『フォーリン・ポリシー』誌によって明らかにされた。この動きは、クリントン陣営が著名な共和党員と関わりを持とうとする姿勢の変化を示すものであり、ドナルド・トランプ大統領の誕生を阻止するために、共和党の離反者がどこまでやる気があるかを示す最新の兆候である。

つまり、リチャード・ニクソンやシルヴィオ・ベルルスコーニと同様に、ネオコンたちは、自分たちが何度間違っていたかを気にせず、世間の注目を浴びるためならどんなことでもする、あるいは言う、という姿勢でカムバックを繰り返している。また、自分たちの度重なる政策の失敗がもたらす悲劇的な人的結果には、まったく無関心であるように見える。ネオコンであることは、決して「申し訳ございません」と言う必要がないことを意味するようだ。

(2)資金援助(No. 2: Financial Support

ネオコンの生き残りの第二の源泉は資金だ。アメリカの開かれた政策アリーナでは、雇用を維持し、活動するためのプラットフォームと組織を提供する資源さえあれば、ほとんど誰でもプレイヤーになることができる。2003年にアメリカを崖っぷちに追い込んだネオコンは、ベルトウェイ(ワシントンの内部)で疎外されるどころか、『ウィークリー・スタンダード』誌、アメリカン・エンタープライズ研究所、カーネギー財団、外交問題評議会、戦争研究所、ハドソン研究所など、資金力のあるシンクタンク、雑誌などを出す組織から支持され続けている。エリオット・エイブラムスのように何度失敗しても、資金力のある外交評議会の上級研究員になれるのなら、アメリカの政策論議において間違ったアドヴァイスが目立つようになるだろう。

(3)言い分をそのまま受け入れ共感するメディア(No. 3: A Receptive and Sympathetic Media

ネオコンは、主流メディアが彼らに注目し続けなければ、その影響力はかなり小さくなる。彼らは自分たちの雑誌を出版したり、フォックス・ニューズに出演したりすることもできるが、大きな力を発揮するのは、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ワシントン・ポスト』紙などのメディアで彼らが注目され続けていることだ。ネオコンは依然として論説ページに頻繁に登場し、外交政策の様々な問題について記者たちからよく引用されている。

このような傾向は、主要メディアの重要なメンバーが、自らネオコンであったり、その基本的な世界観に強く同調していたりすることも一因となっている。ニューヨーク・タイムズのデイヴィッド・ブルックス、ワシントン・ポストのチャールズ・クラウトハマーとフレッド・ハイアット、ウォールストリート・ジャーナルのブレット・スティーヴンスは、いずれもネオコン信奉者で、もちろん当初から戦争推進派では著名な発言者だった。ニューヨーク・タイムズ紙は2005年にクリストルを起用し、論説コラムを書かせたが、それはイラク情勢が既に悪化していた後だった。クリストルの論稿がそれほど退屈で杜撰な内容でなかったなら、彼は今日もまだコラムニストを続けているかもしれない。

しかし、ネオコンが主要な報道機関に存在し続けるということだけが問題ではないのだ。

ネオコンが影響力を持ち続けているのは、アメリカの他のメディアが「バランス」にこだわっているからであり、無頓着な記者たちは、オバマ政権やよりハト派的な声から何を言われても、いつでもタカ派のネオコンの言葉を引用してバランスを取れることを知っているからである。記者が正確さよりもバランスが重要だと考えている限り、新保守主義者は自分たち特有の外交政策に関する当てにならない商品(スネークオイル、snake oil)を売り込む場所をたくさん見つけることができるのだ。

(4)リベラル派の同盟者(No. 4: Liberal Allies

ネオコンの持続性にとっての最後の源泉は、彼らの近いいとこである、リベラル派の介入主義者(liberal interventionists)から継続的な支持を得ていることである。ネオコンは、イラク侵略というアイデアを作り出したかもしれないが、様々な種類のリベラルなタカ派から多くの支持を得ていたのである。前にも述べたように、この2つのグループが唯一意見を異にする主要な問題は、国際機関の役割についてであり、リベラル派は国際機関を便利な道具と見なし、ネオコンはアメリカの行動の自由を妨げる危険な制約と見なしている。つまり、ネオコンはリベラルな帝国主義者のステロイド版であり、リベラルなタカ派は実際にはより親切で優しいネオコンに過ぎないのだ(Neoconservatives, in short, are liberal imperialists on steroids, and liberal hawks are really just kinder, gentler neocons.)。

リベラル派の介入主義者たちはネオコンの計画に加担しているため、ネオコンをあまり批判したがらない。それは、そんなことをしてしまうと、ネオコンの悲惨な計画における自らの過失に注目が集まるからだ。したがって、ピーター・ベイナートやジョナサン・チェイトのようなリベラルなタカ派が、イラク戦争を支持していたにもかかわらず、最近になって、ネオコンの立場を厳しく批判しつつ、イラクをめぐる新しい議論に参加するネオコンを擁護していることは、驚くにはあたらない。

ネオコンとリベラル派の同盟は、事実上、ネオコンの世界観を再正当化し、アメリカ主導の戦争に対する彼らの継続的な熱意を「正常(normal)」に見せているのである。オバマ政権にサマンサ・パワーやスーザン・ライスのような熱心な介入支持者がいて、アン・マリー・スローターのような元オバマ高官が、シリアに武器を送る必要性についてネオコン的な議論をしているとき、ネオコンは米国政策コミュニティの中で完全に立派な一派のように聞こえ、むしろ彼らの考えが実際にはどれほど極端で信用できないものであるかが強調されているのである。

圧倒的な証拠を前にしてもなお、影響力と地位を維持するゾンビのような能力は、F・スコット・フィッツジェラルドが間違っていたことを教えてくれる。アメリカの人生には実際、無限の「セカンドチャンス」があり、アメリカの政治システムにはほとんど、あるいはまったく説明責任がない。ネオコンの持続力はまた、アメリカが無責任な言説から逃れられるのは、それが非常に安全だからだということを思い起こさせる。イラクは大失敗で、アフガニスタンでの敗北への道を開くことになった。しかし、一日の終わりには、アメリカは帰ってきて、おそらくちょうどいい状態になる。確かに、ネオコンの空想に耳を傾けなければ、何千人もの市民が今日も元気に暮らしていただろうし、1993年以降の彼らの処方箋を儀礼的に無視していれば、アメリカ人は海外でもっと人気があり、国内ではもっと繁栄していただろう。何十万人ものイラク人も生きていただろうし、中東の状態もいくらか良くなっていただろう(これ以上悪くなりようがない)。

ネオコンの影響力を適切な次元(つまり、ほとんどゼロ)まで低下させるものがあるとすればそれは何だろうか? もし、この10年間がネオコンの信用を失墜させなかったとすれば、これからどうなるかは明確ではないということだ。モスクワや北京の指導者たちは、この事実から大きな安心感を得ているに違いない。アメリカが危機から危機へ、そして泥沼から泥沼へと転落し続けることを確実にするためのより良い方法はどんなものだろうか? この社会が、確実に間違っている人ではなく、一貫して正しい人の意見に耳を傾けるようになるまでは、私たちは同じ過ちを繰り返し、同じ悲惨な結果を招くだろう。ネオコンはそんなことを気にしないだろうが。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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