古村治彦です。

 今回はアメリカのネオコン内の「名家」ケーガン一族の次男フレデリック・ケーガンの論稿をご紹介する。ケーガン一族はネオコンの「名家」ということになる。まず父親のドナルド・ケーガン(Donald Kagan、1932-2021年、89歳で没)がネオコンの第一世代ということになる。父ドナルドはコーネル大学やイェール大学で教鞭を執った歴史学者(専攻はギリシア古代史)だ。ドナルドはリトアニア生まれのユダヤ人であり、1970年代まではリベラル派であったが転向した。これはネオコン第一世代の特徴である。トロツキー主義から反共主義へと転向し、対外的には対ソ強硬路線、国内的にはリベラルな政策志向というのが特徴だ。対ソ連、対ロシア強硬というのはドナルドがリトアニア出身のユダヤ人ということも影響しているだろう。リトアニアは歴史的にポーランドと近く(同君連合を形成していた時期も長かった)、その影響もあり、ロシアに対しては複雑な感情を持つ人々が多い。ネオコンについては拙著『』(PHP研究所)『』(秀和システム)を是非読んでいただきたい。

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ドナルド・ケーガン

 ドナルドにはロバート・ケーガンとフレデリック・ケーガンという息子たちがいる。彼らは現在のネオコン派の論客ということになる。ブルッキング研究所研究員である長男ロバート・ケーガン(Robert Kagan、1958年-、63歳)について、私は早い段階で『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』(ビジネス社)という著書を翻訳して日本に紹介した。ケーガンは1997年に発足した「アメリカ新世紀プロジェクト(Project for the New American Century)」というネオコン系のシンクタンクの共同設立者であり、現在も理事を務めている。

ロバート・ケーガンは2001年の911同時多発テロ事件後に軍事力でテロを抑え込み、イラクとアフガニスタンの体制転換を図ることを狙ったジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカとそれに批判的なヨーロッパ諸国を対比させて、「火星人と木星人」ほども違い、お互いに理解ができない存在になっているとし、ヨーロッパ諸国を非難した。これが大きな議論を呼んだ。現在のウクライナ戦争について米欧は一致して行動しているが、これはロバート・ケーガンにとっては何とも望ましい状態ということになる。

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ロバート・ケーガン

ロバート・ケーガンの配偶者ヴィクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland、1961年-、60歳)についてはここではもう詳しく書かない。現在は国務省序列第3位の政治問題担当国務次官の地位にある。このブログの記事についているタグでヌーランドに関する記事を検索してお読みいただきたい。

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ヴィクトリア・ヌーランド

さて、今回ご紹介するのはロバートの弟フレデリックの論稿である。アメリカン・エンタープライズ研究所研究員を務めるフレデリック・ケーガン(Frederick Kagan、1970年-、52歳)もまたネオコンの論客である。フレデリックはウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校の戦史担当の教授を務めた経歴を持つ。フレデリックは2010年に国際治安支援部隊(ISAF)司令官兼アフガニスタン駐留アメリカ軍司令官に任命されたデイヴィッド・ペトレイアスから政治腐敗担当の顧問に任命された。以下の論稿にあるように、NATOの対ロシア方策の強化を訴えてきた。

フレデリックの配偶者キンバリー・ケーガン(Kimberly Kagan、1972年-、50歳)は、2007年に自ら戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクを立ち上げ、現在も所長を務めている。このシンクタンクは毎日ウクライナ戦争に関するレポートを発表し、所属している研究員たちは活発にマスコミに出て発言を行っている。キンバリーも2010年からアフガニスタン駐留アメリカ軍司令官となったペトレイアスの顧問を務めた。

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イラク訪問時のフレデリックとキンバリー

 ケーガン一族については、2022年4月8日にインターネット上で発表されたエマニュエル・トッドの『文藝春秋』に掲載された記事(有料)でも言及があり、トッドはキンバリー・ケーガンが所長を務める戦争研究所が発表している分析(これが西側マスコミの報道でも使われている)について、その内容に疑義を呈している。

 このブログでも繰り返し指摘しているように、現在の状況はネオコンにとって非常に好ましい状況となっている。しかし、それは世界にとっては大きな不幸ということになる。

(貼り付けはじめ)

ロシアと戦うウクライナをアメリカはどのように支援しているか(How the US is helping Ukraine fight Russia

ジョーダン・ウィリアムズ筆

2022年3月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/596824-how-the-us-is-helping-ukraine-fight-russia

アメリカは過去1年間、ウクライナ軍を支援するために10億ドル以上を供与し、ロシアによるウクライナに対する1週間にわたる戦争が続く中、更なる支援を約束している。

アメリカ政府は、最新の防衛支援(package of defensive aid)の一部として数百発のスティンガーミサイルを送ったと伝えられている。一方、ホワイトハウスは水曜日、ウクライナに対する安全保障、人道、経済支援として更に100億ドルを承認するよう議会に求めた。

しかし、戦争が進むにつれて、アメリカは支援をどのようにウクライナに届けるかについての戦略を変更しなければならないし、安全保障と人道的援助を通じてウクライナがより長期的な紛争を生き残るのを助ける方法を評価しなければならないだろう。

バイデン大統領は過去6カ月間に3度、立法府の承認なしに大統領が不測の事態に対応できる権限である大統領権限を行使している。

バイデン大統領がこの権限を最近使う機会となったのは2月26日に3億5千万ドルの安全保障支援を承認したことだ。

政治・軍事問題担当国務次官補ジェシカ・ルイスは木曜日に連邦下院軍事委員会に出席し、支援パッケージには、一人で持ち運び発射できる、ジャヴェリン対戦車ミサイルが含まれていると述べた。

アメリカン・エンタープライズ研究所のクリティカル・スレッツ・プロジェクト(Critical Threats Project)のフレデリック・ケーガン部長は、「ジャヴェリン対戦車ミサイルはおそらく、アメリカがウクライナに提供できる最もインパクトのある武器だろう。それは、ジャヴェリン対戦車ミサイルは待ち伏せや様々な状況において個人で使用でき、かなり確実にロシア戦車を倒せるからだ」と語った。

アメリカはまた、ウクライナに数百のスティンガー対空ミサイル防衛システムを送ったと伝えられている。このシステムは、地上軍が空中の標的を撃つために配備することができる。

ケーガンは、対空システムでロシアの航空機を落とすのは難しいが、「ロシアのヘリコプターにとっては絶対に悪夢になる」と述べた。

アントニー・ブリンケン米国務長官は水曜日、アメリカは二国間パートナー協定を結んでいる諸国と協力してウクライナに防衛用装備を急いで送るようにし、そうした装備はロシアと戦う部隊に届けられつつあると述べた。

しかし、ロシアが侵攻を続ける中、ウクライナに追加の装備を送ることは難しくなるだろう。

時間的な制約もあることから、ウクライナ軍は、すぐに訓練できる武器、つまり弾薬やジャヴェリン対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイルといった武器を必要とするだろう。

「戦略国際問題研究所(CSIS)の国際安全保障プログラムの上級アドヴァイザーであるマーク・カンシアンは、「これは、非常に短期間に集中しなければならないので、私たちが提供できる支援には大きな制約がつくことになる」と述べた。

カンシアンは「現代の戦争では弾薬が大量に消費されるため、時間が経つにつれて、より多くの弾薬が提供されると思う。それは、現代の戦争は弾薬を大量に使うが、軍隊は通常そこまでの弾薬を貯蔵していないからだ。従って、私たちは弾薬のような武器を提供することになるだろう」と述べた。

アメリカは、紛争状態によりウクライナ領空を直接飛行機で飛ぶことができないため、兵器の運搬方法も考え直さなければならない。しかし、小型の兵器システムであれば、地上輸送(ground transportation)で送ることができる。

国防総省に勤務した経験を持ち、現在は大西洋評議会に所属するリー・ショイネマンは、安全保障上の支援を届けるために使われている地上ルートの一部は、紛争から逃れようとするウクライナ人の退避にも利用されていると指摘する。

ショイネマンは「アメリカ軍ほどロジスティクスが得意な国はない。現在、連邦議会で検討されている支援計画について話す時、その支援が実際に国に届く必要があるように、私たちはこれらの重要な陸路を維持するのを助けることができる」と述べた。

バイデン政権は、過去数ヶ月の間にNATOの東側陣地を強化するためにおよそ15千人の軍隊を送ったが、紛争に直接アメリカ軍を送らないことを明確に表明している。

ウクライナ領空に飛行禁止区域を設けるというアイデアは、ワシントンでは却下された。不幸禁止区域を設定すれば、アメリカ軍がロシアの航空機を撃墜する可能性があり、事態が急速にエスカレートする懸念が高まるからだ。

複数の専門家によれば、アメリカ軍を直接紛争に投入しないが、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するためには、まだ他の選択肢があるということだ。

カンシアンは「戦争が長引く場合、他にできることがあるはずだ。ウクライナ国外にいるウクライナ人を訓練することもできる。新しいタイプの装備の導入も考えられるが、それは戦争が何カ月も続けばの話だ」と述べた。

ウクライナの人々が戦争に対処できるように、食料、医薬品、燃料の供給などの人道支援を送ることも同様に重要だろう。

ケーガンは「ウクライナ人に武器を届けることに注力する一方で、紛争を乗り越え、ウクライナ人に必要なすべての生命維持装置を届けることにも注力する必要があると思う」と述べた。

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プーティンは世界を変えてしまった。そして、アメリカはそれに適応するか負けるかだ(Putin has changed the world — and the US must adapt or lose

フレデリック・W・ケーガン筆

2022年2月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/595304-putin-has-changed-the-world-and-the-us-must-adapt-or-lose

ウラジミール・プーティンは、私たちが知っている冷戦終結後の世界を根本的に変えてしまった。

冷戦後の秩序は、ロシアの通常兵器による深刻な脅威が存在しないことを前提に構築された。アメリカの軍事態勢、NATOの軍事費と配備、戦争計画、国家安全保障戦略は、30年間にわたり、ヨーロッパにおける大規模な通常兵器による紛争のリスクを想定してこなかった。

今日、ウクライナの周辺やウクライナに進出している何千台ものロシア軍の戦車は、その前提を足元から打ち砕いているのである。アメリカとNATOは、国家安全保障戦略、防衛予算、配備を根本的にそして長期的に考え直さなければならない。

プーティンはこの10年間、ロシアの通常戦力を再構築するために多額の資金を投入してきた。ロシアが経済的に困窮しているにもかかわらず、これほどまでに軍事費を投入するのは、武力のために国民の幸福を犠牲にするソ連的な意思(Soviet-like willingness)を示すものだ。このプロセスは、2008年のグルジア侵攻におけるロシア軍の不振の後に始まり、過去数年間で劇的に加速した。ロシア軍の地上部隊は、大規模な機動戦を行えるように再編成された。プーティンは全軍をより近代的な装備になるように再整備している。最も重要なことは、ロシア軍は年に数回、陸海空、核、サイバー軍を含む大規模な軍事演習を予告なしに定期的に行っていることだ。このような演習は非常にコストがかかる。また、軍隊を戦争に備えるために不可欠なものでもある。

プーティンは、ベラルーシ軍のロシア軍への事実上の編入を完了し、ロシア軍をポーランドとベラルーシの国境に移動させることによって、ロシア国境を300マイル西に静かに移動させたことになるのだ。ロシアはすでにカリーニングラード外郭(Kaliningrad exclave)にあらゆる種類の軍隊を多く集中させ、ポーランドとリトアニアの両国に脅威を与えていた。この飛び地はロシアの他の地域から孤立しているため、これらの軍隊を使ってNATOを攻撃することは考えにくく、非常に危険なことだった。カリーニングラードから攻撃するロシア軍は、ベラルーシからの迅速な増援を期待できるようになり、ポーランド、リトアニア、あるいはその両方への挟撃が考えられるようになったのである。

プーティンは、NATOの境界付近にいる部隊だけでなく、NATOを脅かすために全軍を動員する能力を実証している。彼は、ロシアの極東と中央アジア地域から何万人もの軍隊を移動させ、ポーランドとウクライナの国境に駐留させている。太平洋からベラルーシまで、これほど多くの軍隊を移動させたことは、西側諸国が受け取り、対応しなければならないメッセージである(繰り返すが、非常にコストがかかるものである)。NATOに対するロシアの通常兵器による脅威は、大きく、現実的で、永続的である。

プーティンは、今回の危機における要求の中で、NATOに別のメッセージを送っているが、その中でウクライナに言及しているのは一部だけだ。プーティンは、冷戦終結後にNATOに加盟した国々、つまり東欧とバルカン半島から軍事インフラをすべて撤退させるようNATOに要求している。NATOの拡大凍結は、少なくとも旧ソ連諸国全体に対する宗主権(suzerainty)という大きな要求に包含されている。彼はまだバルト三国に同盟からの脱退を要求していないが、彼の動きをけん制しなければ、そこまで要求をエスカレートさせる可能性がある。

プーティンの最終目的について言えば、ヒトラーについて推測する必要があったのと同じように、疑うべくもないものだ。プーティンは、NATOを破壊し、アメリカをヨーロッパから追い出し、ソ連の勢力圏を再確立するつもりだと、いつ私たちに示唆している。

冷戦後のNATO加盟国に関するプーティンの要求は、彼がその勢力圏を旧ソ連の国境にとどまるものとは考えていないことを強く示唆している。彼は、NATOが現在東側加盟諸国に保有している軍に真剣に挑戦し、場合によっては打ち負かすことができる軍を構築するために膨大な資金を投入してきた。

ウクライナで何が起ころうとも、この脅威を真剣に受け止め、それが何事もなく過ぎ去ってしまうことはないと理解するための時は、遅きに失した感は否めないが、それを理解する時とはまさに今だ。

アメリカは国家安全保障と国家防衛に関するこれまでの戦略草案を破り捨てることから始めるべきだ。中国は1つの脅威であるが、ロシアは別の脅威である。この2つの脅威は大きく異なる課題を提起し、それらに対応するためには異なる要件を課すことになる。

プーティンは従来の機械化部隊を再現し、大規模に使用する意思を示した。そうした状況下で、アメリカは、現在の文書や予算が提案するような、従来の機械化戦争に必要な戦力から太平洋での戦闘に不可欠な航空・海軍戦力に転換することはできないということが明らかになった。アメリカ軍は、ロシアのような「レガシー」軍隊による大規模な攻撃を打ち負かす能力の再建を犠牲にして、中国が提起している課題である近代化に注力することもできないのである。

アメリカはまた、ヨーロッパでの迅速で前例のない攻撃に備えて、軍の態勢を再構築しなければならない。2000年代に始まった、ほとんどのアメリカ軍機械化部隊のヨーロッパからアメリカへの撤退は常に誤りであった。アメリカとヨーロッパの間には大西洋が存在し、起こりうる紛争を抑止することが難しくなった。現在の状況下でその誤りを続けることは許しがたいことである。アメリカは、NATOに対するロシアの攻撃を事実上予告なしに阻止するために必要な規模で、ヨーロッパに大規模な部隊を恒久的に再配置する必要がある。世界最先端の防空・防波堤システムを突破するために必要なステルス機やその他の航空・海事資産をヨーロッパにおいて維持しなければならない。

同時に、アジアでの前方展開を強化し、中国の侵略を抑止し、必要なら打ち負かすために緊急に必要な空・海・陸軍を増強し、中国の技術的進歩に対応し、それを上回るよう近代化する必要がある。さらに、アメリカは中東、アフリカ、南北アメリカ大陸に依然として重要な国家安全保障上の利益を有している。アメリカは、冷戦終結後初めて、広く分離した複数の戦域で同時に戦い、勝利する能力を再構築する必要に迫られているのだ。

当然のことだが、それはアメリカだけではできない。NATOは軍事費を大幅に増やし、東側諸国の防衛のために通常戦力を再配置しなければならない。NATOは、東方からの主要な通常兵器の脅威を阻止し、防衛するという本来の目的を再認識しなければならない。プーティンが冷戦を復活させ、鉄のカーテンを再び打ち立てようとしていることを認識する必要がある。

これらの提案は、費用がかかり、不人気なものになるだろう。アメリカ人もヨーロッパ人も、どこでもいいからとにかく戦いたいとは思っていない。軍拡競争も、戦争も、冷戦も、熱戦も好んでいる訳ではないのだ。

しかし、私たちは現実を直視しなければならない。戦争をするのは1人であり、2人ではない。プーティンは、自分が望むものを得るためには戦うことを避けるようなことはしないと示した。彼が望むものは、70年以上にわたってヨーロッパの平和を守ってきた西側同盟の破壊である。私たちは、それを守るために戦う意志を持たなければならない。そして、そのための代償を払う意志も持たなければならない。

※フレデリック・W・ケーガン:「クリティカル・スレッツ・プロジェクト」の部長、ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員を務めている。また、戦争研究所のロシア専門ティームに助言を行っている。

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NATOは今すぐ東側陣地を強化せねばならない(NATO must reinforce its Eastern flank right now

フレデリック・ケーガン、ジョージ・バロス筆

2022年1月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/591008-nato-must-reinforce-its-eastern-flank-right-now

現在ベラルーシに進出しているロシアの機械化部隊は、ウクライナだけでなく、NATOに対しても直接的に脅威を与えている。アメリカと同盟諸国は、ロシアによるウクライナ侵攻の明白な準備に注目し、モスクワを抑止しようとするのは当然の動きだ。ベラルーシ南東部の陣地に移動するロシア軍は侵略の準備をしている可能性があり、西側諸国はその文脈で対応する必要がある。しかし、ロシア軍はワルシャワから約100マイル以内のポーランド国境やその付近、リトアニア国境付近にも陣地を構えている。 このような場所への配備は、ウクライナ侵攻計画の一環としてはほとんど意味をなさない。しかし、ポーランドに対するロシアの脅威を劇的に増大させ、NATOがバルト諸国を防衛する能力をさらに低下させることになる。アメリカと西ヨーロッパの同盟諸国は、ロシアがウクライナを攻撃するか否かにかかわらず、同盟に対するこの脅威に対応しなければならない。

7個から10個の機械化大隊(2個から3個の旅団に相当、兵力は4200人から9000人)がロシア極東からベラルーシに移動している。また、ロシアの最新鋭防空システムS-400の2個大隊と最新鋭戦闘機Su-35 12機もベラルーシに配備された。ロシア国防省は、これらの部隊は2月中旬までベラルーシで演習を行うと発表している。演習は主にブレスト(ポーランド国境)、バラノビチ(ブレストの北東)、グロドノ(リトアニアとポーランド国境付近)、ミンスク付近の訓練場で行われるとされる。これらの地域はウクライナ侵攻に最適な場所ではないが、バラノビチはロシア軍が攻撃の準備をするのに適した後方基地である。しかし、ベラルーシ南東部にはすでにロシア軍の一部が出現しており、発表された訓練地から遠く離れ、ウクライナ侵攻に理想的な立地の1つとなっている。つまり、ロシア新軍はウクライナとNATOの両方を同時に脅かしている。

ロシアのベラルーシへの進出は、突発的なもの(spur-of-the-moment)でも、日和見的なもの(opportunistic)でもない。プーティンが何年も前から進めてきた長期計画の一部であり、だからこそ我々は何カ月も前から予測してきた。プーティンは少なくとも2015年から、ベラルーシに軍事空軍基地を開設する意向を示してきた。ロシアは、ベラルーシとの合同演習の強化を通じて、少なくとも2020年9月からベラルーシに戦力を投射する準備を進めてきた。また、ロシア軍は、燃料や弾薬などの必需品をベラルーシの近くで供給するなど、ロシア軍をベラルーシに投入するために必要な兵站や指揮統制のリハーサルを行ってきた。

ここ数年、ベラルーシで演習するロシアの地上軍は、プーティンがS-300防空システムとロシア航空機を常駐させてベラルーシで共同航空パトロールを行い、2021年8月にベラルーシに共同訓練センター(航空基地)を開設したが、いつもロシアに帰っている。今ベラルーシに移動している部隊も、はっきり言って帰国するかもしれない。しかし、プーティンがベラルーシに軍隊を常駐させることに対するベラルーシの政治的制約をついに克服したため、彼らは今回留まるかもしれないし、急速に他の軍隊に取って代わられるかもしれない。

プーティンとベラルーシのアレキサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシがロシアとの連合国家の一部となるための条件を20年以上にわたって交渉してきた。ルカシェンコ大統領は、モスクワからの独立の名残を保とうと、このプロセスを引き延ばしてきた。しかし、2021年11月、ルカシェンコはついに、ロシアとベラルーシの共同軍事ドクトリンの改訂を含む、これまで引き延ばしてきた協定の全て、あるいはほとんどを批准した。また、2021年12月末には新憲法草案を発表し、今年2月に採択される可能性が高い。新憲法は、ベラルーシの中立を約束し、ベラルーシに核兵器を駐留させることを禁止する2つの重要な条項を現行憲法から削除している。ベラルーシのロシアとの政治的・法的統合は、ここ数カ月で急速に完了に向かって進み、ベラルーシにロシア軍を恒久的に配備するための条件が整った。

こうした活動は全て、ウクライナへの侵攻を脅かすロシアの積極的な準備よりずっと前に、ロシアが長年にわたって行ってきた入念な計画と努力の結晶である。プーティンが単にチャンスを掴むだけでなく、長期にわたって首尾一貫した戦略を構想し、追求する能力を備えていることを示すもう一つの例である。そして、プーティンは常に、ウクライナだけでなくNATOを脅かすことを意図している。

ベラルーシにロシア軍が地上軍を展開することによるポーランドとバルト三国への脅威は、私たちが他の場所で論じたように、非常に深刻だ。NATOはこの脅威に対して緊急に対応しなければならない。アメリカ、カナダ、西ヨーロッパのパートナー諸国は、ポーランド北東部と東部への機械化部隊の配備を直ちに開始し、それらの部隊を無期限に維持する準備をしなければならない。

NATOがロシアのウクライナ侵攻に軍事的に対応しない場合、部隊と戦闘車両の移動だけでは、NATO最東端の加盟国に同盟が引き続き防衛する意思と能力があることを安心させるには十分ではないだろう。

また、今ポーランドに軍を配備することは、軍事的脅威に対するアメリカの軍事的対応を考慮する意思を示すことで、プーティンのウクライナでの冒険主義を抑止するのに役立つ。また、プーティンがウクライナを攻撃すればコストを負わせると脅すだけでなく、危機を長引かせることでプーティンに実際のコストを負わせることで、これまでのアメリカとNATOの危機対応のもう1つの弱点を緩和することができるだろう。

2022年1月19日のバイデン大統領の発言を受けて、具体的な行動が急がれる。NATOの東側陣地を強化することは、プーティンの冒険主義を止め、NATOとウクライナを守るには十分ではないが、必要な次のステップとなる。

※フレデリック・W・ケーガン:ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼常勤研究員。戦争研究所(インスティテュート・フォ・ザ・スタディ・オブ・ウォー、ISW)においてロシア担当ティームに助言をしている。

※ジョージ・バロス:戦争研究所ロシア・ウクライナ研究の研究員。戦争研究所に参加する前、連邦下院外交委員会の委員に対するウクライナとロシア専門補佐官として連邦下院に勤務した。ツイッター:@georgewbarros.

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ウクライナで何が起きているのか、なぜそれがアメリカと同盟諸国にとって重要なのか(What's at risk in Ukraine, and why it matters to America and its allies

フレデリック・ケーガン

2021年12月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/584646-whats-at-risk-in-ukraine-and-why-it-matters-to-america-and-its

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させたが、それを使うつもりはさらさらないようだ。しかし、プーティンはウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させている。バイデン政権とNATOは、プーティンを抑止するために必要な声明を出し、いくつかの軍事行動を起こしたが、西側諸国のコミットメントは依然として曖昧なままである。

そうであってはならない。アメリカ人とヨーロッパ人は、ウクライナの独立が、私たちにとってもウクライナにとっても極めて重要であることを理解し、ウクライナの独立が保持されるように行動しなければならない。それがプーティンを抑止する最良の方法でもある。

1991年のソ連崩壊後、ウクライナとベラルーシが独立したことで、ロシアの国境は数百マイル東に移動し、ロシアと中欧の間に事実上の緩衝地帯(a de facto buffer)が形成された。アメリカとヨーロッパはこの緩衝地帯を頼りにして軍備を大幅に縮小してきた。

しかし、ロシアがウクライナを占領する場合、ポーランドとルーマニアの国境にロシアの深刻な通常兵器の脅威が再び出現し、ヨーロッパの戦略的状況は一変する。NATO諸国は再動員され、これらの国境に大規模な軍隊を配備する必要がある。黒海はロシアの湖と化し(Black Sea into a Russian lake)、トルコ(問題はあるにせよ、依然としてNATOの同盟国である)への圧力が高まるだろう。アメリカ、ヨーロッパ連合、NATONATOの東側諸国を防衛する意思に重大な疑問を投げかけることになる。ウクライナの4500万の人口と重工業基盤(heavy industrial base)がロシアに加わることになる。そして、中国や他の略奪者たちに西側の弱さを示す壊滅的なシグナルを送ることになる。特に、アメリカがアフガニスタンから不名誉な撤退をした後ではそうである。

プーティンのウクライナに対する脅威は、ベラルーシを着実に吸収していることを背景にしている。プーティンは既にロシア軍をベラルーシに戻し、更に多くのロシア軍を送り込もうとしている。ポーランドとリトアニアは、NATOのバルト諸国と他の同盟諸国を結ぶ唯一の地上連絡線である重要なスウォーキー回廊(Suwalki Corridor)の近くで、ロシアの機械化部隊に直面することになりそうだ。更にロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにさえも存亡の危機が訪れるだろう。このような危機には、新たな鉄のカーテン(Iron Curtain)となり得る場所に、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開することでしか対応できないだろう。

欧米諸国がウクライナ防衛に対して曖昧な態度を取らざるを得ないのは、ウクライナの独立国家としての存在意義に対する混乱が一因である。ロシアのプロパガンダや専門家の一部が、ウクライナがロシアから独立していることの「社会文化的」根拠、少なくともウクライナ東部がウクライナ一国に含まれることの「社会文化的」根拠を疑問視している。しかし、主権国家はその社会文化的独自性(socio-cultural uniqueness)を証明する義務はない。国際社会と国連に無条件で承認されれば、いかなる国家も、それがどんなに小さく、弱く、文化的に他の国家と似ていても、他の国家と同じ主権的権利を持つ。

ウクライナは30年前に現在の国境(クリミアと東部を含む)内において独立国家として、当時独立したばかりのロシア連邦にも承認されたのである。ドイツがフランスからアルザスやロレーヌの返還を要求したり、チェコ、オーストリア、ポーランドに住むドイツ系住民を守る権利を主張したりしたのと同様、ロシアがウクライナの一部の返還を主張する法的根拠はない。他国の領土に対するロシアの特別な権利の主張に同意することは、全ての国の主権を損なう。それは、世界をホッブズ的な状態に戻そうとする国際的な捕食者(international predators)を招き入れることになる。

ウクライナ国境付近へのロシアの配備は防衛的な性格のものではなく、侵略の恐れがある。ウクライナはロシアにとって軍事的な脅威ではない。プーティンは、ウクライナ政府が自国の領土であるロシア占領下のドンバス地域への侵攻を準備していると誤った主張をしている。しかし、欧米の議論では、キエフがドンバス奪還に動いたとしても、ロシアには対応する権利があるという、同様に誤った根拠を受け入れることが多い。この問題におけるロシアの想定される権利は、2014年にロシアがクリミアを掌握・併合して始めた紛争を凍結し、その後ドンバスへの暗号侵攻と占領を開始したミンスクII協定に由来している。プーティンは、ウクライナが奪ったものを取り戻すのを阻止する権利を主張している。なぜ西側諸国はその主張を尊重しなければならないのか?

状況は実にシンプルだ。ロシアは2014年にウクライナに侵攻し、その一部を併合し、代理人を通じて別の一部を占領し、そして今、残りの国土に対して更なる侵略をすると脅している。

本当に困ったことに、西側諸国はこの戦いに対して気迫がなくかなり困難な状況にある。

プーティンはウクライナの近くに十分な戦力を集めており、ほとんど予告なしに侵攻を開始することができる。アメリカ地上軍の大半がヨーロッパから撤退し、ヨーロッパ自体の軍事力が低下しているため、ロシアの侵攻を阻止するために西側諸国の機械化部隊を展開することは不可能である。そのため、NATOはウクライナの持つ防衛力、あるいはNATOが共有する意思のある防衛力に主として依存することになる。NATOの航空戦力やミサイル戦力を利用するにしても、ロシアの高性能な防空システムには問題がある。NATOは、ロシアの攻撃を阻止するために、艦船や潜水艦発射のミサイルとともに、多くのステルス航空機を配備しなければならないだろう。

航空戦力だけではその攻勢を止めることはできないだろうが、ロシアの軍隊に多大な犠牲を強いることができる。そこに、そもそも攻撃を抑止するための鍵がある。

ロシアは貧しい国で、実のところ、経済が機能していない。泥棒経済(kleptocracy)が確立されている。ロシアのGDPはアメリカやヨーロッパの10分の1以下、NATO諸国合計の20分の1以下である。西側諸国は、戦闘で失われた高価な兵器システムも交換する余裕があるが、ロシアにはない。プーティンはそれを知っている。

ロシアの軍事ドクトリンは、軍隊が動員されたNATOに対してロシアは通常戦争で勝てないという前提のもとに成り立っている。プーティンは、NATOがウクライナ防衛のためにそのような戦争をしないだろうと考えているが、このことは彼が侵略を考える上で重要な要素となる。この信念を、NATOは本当に戦ってくれるという確信に置き換えることが、プーティンを抑止する鍵である。

バイデン政権とNATOは、この方向でいくつかの重要なステップを踏んだが、さらに多くのステップを踏まなければならない。キエフにミンスク協定を守らせる必要性について、侵略の脅威を感じながら話すのは止めなければならない。このような状況でウクライナ国内の問題解決について議論することはないのだということをプーティンに明確に伝えなければならない。プーティンに侵略の代償を示すために、航空機を配備し、艦船を配備し続けなければならない。そして、プーティンが攻めてきた時にウクライナを守れるかどうかの不安を払拭しなければならない。

プーティンは、こうした行動はすべて挑発(provocations)だと主張するだろう。それは侵略者や独裁者がよく使う言葉だ。しかし、NATOはロシアと同様に、自国の国境と領海内に軍を展開する権利を持っており、脅威を受けているパートナー国に防衛兵器を提供したり売却したりする権利も持っている。これらの活動は、攻撃を意図し、優位性を失うことを恐れる人間にとってのみ憂慮すべきものである。もし、それを行うことでロシアの侵攻を促すのであれば、ロシアの侵攻はすでに始まっているとも言えるのだ。

西側諸国は、侵略を「誘発する(provoke)」ことを恐れるよりも、ウクライナとロシアと中欧の間の重要な緩衝地帯(vital buffer)を失うことを心配することにもっとエネルギーを使わなければならない。国際システムの中核をなす原則を失い、世界が混沌に陥ることを心配しなければならない。

それらは今日のウクライナにおける重要な問題である。西側が戦う準備をしなければならない利害関係に関わる問題だ。

※フレデリック・ケーガン:ワシトンDCにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼研究員。『勝利の選択(Choosing Victory)』の著者でイラクにおける香華的軍事戦略の立案者となった。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505