古村治彦です。

 ウクライナ戦争は終わりの見えない状況になっている。2月24日に始まってすぐに、停戦交渉が行われた。停戦交渉が断続的に行われてやがて停戦に至るものと私は考えていた。これは非常に甘い見通しだったと反省している。3月末になって停戦交渉という言葉が報道から消え始めた。「ウクライナ軍が善戦してロシア軍が首都キエフを掌握することを阻止できた、西側諸国が支援しているウクライナ軍は強い、ウクライナ軍がロシア軍を追い出すまで戦う」という流れになった。いくらウクライナ軍が強いと言っても無傷では済まない。ウクライナ軍にもウクライナ国民にも犠牲者が数多く出ている。しかし、そのようなことは顧みられない。日本のいつもはリベラルな仮面をかぶった好戦主義者たち(日本版ネオコン)の人々はここを先途と「どんどんやれやれ」「自由と人権と民主政治体制を守るために犠牲になれ(自分は安全な場所にいるけど)」という最低な存在になり果てている。

 アメリカやヨーロッパ諸国がより攻撃能力の高い武器をウクライナに供与するという転換を行ったことはこのブログでも既にご紹介した。下の論稿にあるように、ウクライナ戦争は停戦交渉ということではなく、「やるかやられるか」の段階に進んだということになる。プーティンを打ち倒すか、プーティンの目的を達成させるか、ということである。更に言えば、「ロシアを弱体化させる」という究極の目的が設定されている。

 「ロシアの弱体化」というアメリカとNATO諸国へのプーティンの対応は「核攻撃」ということになる。下の記事にあるウように、これをただの脅しの言葉と楽観的に捉えているNATO幹部が多くいるようだが、なんと馬鹿な人間たちなのだろう。何かに対処するにあたり、悲観的に考慮し一度決めたら楽観的に行動するということが原則だが、楽観論で考えてしまえば痛い目に遭うということは歴史が示している。人間は学ばない生き物である。

 ジョー・バイデン大統領による新たなアプローチによって、ウクライナ戦争の終わりは見えなくなり、更に戦争がエスカレートし、核戦争に至る可能性も高まっているということが下に紹介した記事の趣旨である。これまでの状況を冷静に判断すればこのような結論に至るのが当然である。停戦交渉を双方が行って一刻も早く停戦を実現することが最良であるが、その可能性は低くなっている。何と馬鹿げた状況であろう。

(貼り付けはじめ)

バイデンの危険な新たなウクライナ戦略:終わりのない戦い(Biden’s Dangerous New Ukraine Endgame: No Endgame

-ロシアを「弱体化」させる戦略で、バイデン米大統領はウクライナ戦争を世界規模の戦争に変えようとしているのかもしれない。

マイケル・ハーシュ筆

2022年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/29/russia-ukraine-war-biden-endgame/

今週一連の劇的な変化が起きた。ジョー・バイデン米大統領とNATOの同盟諸国は、ロシアの侵攻からウクライナを守るための政策を、ロシアのパワーと影響力を弱めるための政策へとエスカレートさせている。そうすることで、降伏するか、ロシア軍を更に派遣し攻撃を強化するか、ウクライナを越えて戦争を拡大させる可能性を高めるか、といった選択肢しかロシアのウラジミール・プーティン大統領に残さないことになるのではないかと専門家の中には懸念を持っている人々がいる。

木曜日、バイデンは連邦議会に対し、ウクライナに対して330億ドル(従来の2倍以上)の軍事、経済、人道支援を追加するよう要請した。そして、プーティンに対して「ウクライナを支配することにあなたは決して成功しない」という明確なメッセージを送ると述べた。バイデンはホワイトハウスでの発言で、この新しい政策は「ロシアの侵略に懲罰を与え、将来の紛争のリスクを軽減する」ことを意図していると述べた。

バイデン大統領のこうした言動はロイド・オースティン米国防長官が今週行った明確な宣言に追随し、その中身は全く同じものとなった。オースティン国防長官は、キエフでウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領と会談した後、アメリカの目的は長期にわたってロシアの力を削ぐことであり、ウクライナへの軍事攻撃を「再現する能力」を持たせないことだと発言した。ポーランドに一時滞在中、オースティンは「ロシアがウクライナへの侵攻のようなことをできない程度に弱体化することを望んでいる」とも語った。

この変化によって、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相に、アメリカや西側諸国がロシアとの「代理戦争」に突入し、核戦争に発展する可能性のある世界大戦を再び引き起こす危険があると宣言させたのかもしれない。「危険は深刻であり、そして現実でもある。そして、私たちはそれを過小評価してはならない」とラヴロフは語った。プーティンはまた今週、2月24日の侵攻開始以来続けてきたように、NATOに対して核兵器を使用するオプションがまだ存在することを再び示唆し、「そして、必要であれば、それらを使用する」と述べた。

アメリカによる新たな攻撃的アプローチに多くの賛意が寄せられている。特に現役や元のNATO幹部たちから賛辞が送られている。こうした人々はロシアからの核兵器による反撃という脅威は空虚な脅しの言葉に過ぎないと主張している。

NATO事務総長のアンデルス・フォグ・ラスムセンはインタヴューの中で、「アメリカによる攻撃的アプローチは前進する唯一の方法だ」と述べた。ラスムセンは更に次のように述べた。「プーティンの考えでは、西側の政策はとにかくロシアを弱体化させるものということになるので、これまでのアプローチと新たなアプローチには何の違いもない。それなのに、なぜ公然と話さないのか。過去に犯した過ちは、プーティンの野心、彼の残忍性を過小評価したことである。同時に、ロシア軍の強さを過大評価したことだ」。

アメリカとNATOの新たな戦略は、プーティンがウクライナの完全征服から東部と南部での新たな攻撃へとその野望を縮小せざるを得なくなったこと、つまりウクライナが戦場で成功を収め続けていることも一因となっている。ドイツを含むNATOの同盟諸国は、今週まではウクライナにより効果の高い重攻撃用武器を送ることを躊躇していたが、現状を受けて支援を強化した。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、国内外からの政治的圧力を受け、今週初め、ウクライナに対空戦車50台を提供すると発表した。

しかし、他のロシア専門家は、アメリカと西側同盟諸国は事実上、これまで避けてきたレッドラインを踏み越えていると懸念を持っている。バイデンは、2カ月に及ぶ紛争の大半で、大規模な攻撃兵器や飛行禁止区域など、アメリカやNATO軍をロシアと直接対立させると思われるような軍事支援を承認することを拒否してきた。しかし今、追加支援と経済制裁の強化によって、バイデン大統領はプーティンを、戦い続けるか降伏するかのどちらかしかない状況に追い込んでいる、と懸念する人々もいる。降伏することは、プーティンが長年の目標としている、西側諸国に対してロシアの立場を強化するということの放棄を意味する。しかし、プーティンは長い間、欧米諸国の目的はロシアの弱体化や封じ込めだと言ってきたが、ウクライナやジョージア(グルジア)を中心とする周辺諸国に対して10年半にわたって攻撃的な動きを続けてきた中で、降伏したことは一度もない。

戦略国際問題研究所(CSIS)のヨーロッパ専門家ショーン・モナハンは「クレムリンの目には、西側がロシアを追いかけて捕まえようとしているように映っている。これは以前であれば暗黙の了解というところだったが今や現実となっている」と述べている。モナハンは更に次のように述べた。「バイデンが先月ポーランドで行った首脳会談で、“この男(プーティン)は権力の座に留まることはできない”と発言したことと合わせて考えると、領土戦争をより広い範囲の対立に変え、ウクライナ戦争を終わらせるための和平交渉をはるかに困難にし、あるいは現時点で不可能にさえするかもしれない」。バイデン政権幹部たちは後に、大統領はロシアの政権交代を求めている訳ではないと述べて火消しに努めた。

CIAでロシア担当主任分析官を務めたジョージ・ビーブは、バイデン政権は「アメリカにとっての最重要な国益とはロシアとの核衝突を回避すること」であることを忘れている可能性があると指摘している。ビーブは更に「ロシアは、自分たちも負けるのであれば、他の誰をも敗北させる能力(訳者註:核攻撃能力)を持っている。そしてそれは、私たちが向かっている場所かもしれない。今回の転換は危険な方向への転換だ」と述べた。

おそらく最も懸念されるのは、プーティンがロシア訪問をしたアントニオ・グテーレス国連事務総長に対して、交渉による解決の可能性をまだ希望していると述べたにもかかわらず、もはや交渉による解決の可能性がないように見えることである。

あるヨーロッパにある国の上級外交官は匿名を条件にして次のように述べた。「プーティンを弱体化させる政策と、それを口に出して言うことは全く別のことだ。プーティンにとって政治的解決に至る道を探さなければならないのだから、このような発言をするのは賢明ではないということになるだろう」。

アメリカ政府元高官で、現在はジョージタウン大学で国際関係の研究をしているチャールズ・カプチャンは「より危険になっている。ジャベリンや対戦車ミサイルを越えて、政治的に大詰め(endgame)、どのように戦争を終結させるかについて話し始める必要がある」と述べている。前述のビーブは次のように述べている。「国際的な解決という文脈で制裁を緩和する意思があることを、何らかの形でロシア側に控えめに伝える方法を見つける必要がある。ウクライナへの軍事支援もテコとして使えるだろう」。

しかし、そのような交渉の実現はこれまで以上に可能性が低くなりそうだ。両者とも長い戦いに身を投じているように見える。火曜日にプーティン、そしてラヴロフと会談した後、グテーレスは近々に停戦が実現する可能性はなく、戦争は「会談で終わることはない」と認めた。

ほんの1ヶ月前まで、ゼレンスキーはNATOに加盟しない中立のウクライナという考えを持ち、ウクライナ東部の分離主義勢力を認めると提案していた。しかし、ゼレンスキーはその後、ヨーロッパ連合理事会のシャルル・ミシェル議長に対し、ロシアの残虐行為に鑑み、ウクライナの世論は交渉に反対し、戦争継続に賛成していると述べた。

一方、フィンランドとスウェーデンはNATOへの加盟に関心を示しており、長年の非同盟政策を転換し、ロシア北部国境に新たな一触即発(ヘアトリガー、hair-trigger)の環境が出現する可能性がある。NATOの東方拡大をウクライナ侵攻の理由にしてきたプーティンにとってこれは大きな痛手となる。

そして、こうした緊張がすぐに緩和される見込みはほとんどない。オースティン米国防長官は今週、40カ国からなる「ウクライナ・コンタクト・グループ(Ukraine Contact Group)」を招集した。マーク・ミリー米統合参謀本部議長は「少なくとも年単位になるであろう」と述べた「長引く紛争(protracted conflict)」に備える準備をアメリカは進めている。

バイデンは、プーティンが戦術核や戦略核を配備した場合、アメリカがどのような対応を取る可能性があるかについては言及していない。更に、冷戦後の環境において、米露両国は核兵器の配備について明確なルールを設定していない。特に、中距離核戦力条約のような冷戦時代の軍備協定が棚上げされ、核兵器の運搬システムがより高速化し、自動デジタル化システムによって支配的に運営されるようになったためだ。「脱エスカレートするためにエスカレートする」と呼ばれるクレムリンの政策(西側が彼を止めようとすれば核武装すると脅す)の下、プーティンは年々、通常戦争の計算に核兵器を再導入している。政権を担ってきた20年の間に、彼はヨーロッパ大陸で、原子力巡航ミサイル、大洋上核武装魚雷、極超音速滑空機、さらに低収量の核兵器の建設を許可してきた。

しかし、プーティンはこれまで核兵器を使用すると脅したことはなく、また、使用する可能性があるかどうか、どのように使用するかを明らかにしたこともない。ウクライナ危機が起きるまで、アメリカの戦略家たちはプーティンによる核兵器の配備が脅威となるとは考えていなかった。プーティンはまずサイバー攻撃など非核兵器でエスカレートしてくるというのが大方の見方だった。

また、専門家の多くは、ロシア大統領がウクライナ国内で戦術核兵器を使用することで大きな利益を得るとは思えないと主張している。プーティンは十分に理性的な人物であり、核武装した大陸間弾道ミサイルをアメリカに発射することは考えないと見ている。しかし、プーティンは以前にも、独立したウクライナがロシアの支配から離れることは受け入れられないと示唆しており、2021年7月に発表した論稿で、そのような事態は「私たちに対する大量破壊兵器の使用に匹敵する結果になる」と書いている。

アメリカ政府の核軍備交渉官を務めたロバート・ガルーチは、ロシアの核による威嚇は新しい戦術であり、「ウクライナ周辺、つまりロシアとの国境を越えてロシア軍と直接衝突することになれば、真剣に受け止めるべきだろう」と述べた。

現在クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトで大戦略部門の部長を務めるビーブは、ウクライナ戦争は不安定な膠着状態に陥る可能性が高いが、それは冷戦時代の多くよりも不安定で危険なものになる可能性があると語った。ビーブは「ウクライナとヨーロッパを分断し、ゲームのルールがないような、ある種の長期的で不安定な対立に終わる可能性が高い。“新たな冷戦”というより、欧州の傷の化けの皮が剥がれる」と述べた。

イギリスのリズ・トラス外相が今週の講演で示唆したように、新たに強化された欧米諸国とNATOがその範囲を欧州、中央アジア、中東を越えてインド太平洋にまで拡大すれば、事態は更に複雑になる可能性がある。トラス英外相は次のように述べた。「NATOはグローバルな展望を持ち、世界的な脅威に対処する用意がなければならない。インド太平洋における脅威を先取りし、日本やオーストラリアなどの同盟国と協力して、太平洋を確実に守る必要がある。そして、台湾のような民主政体国家が自らを守れるようにしなければならない」。

このことは、ロシアだけでなく、中国とも世界的な冷戦が長引くという見通しを示している。アメリカとその同盟諸国は、「資源に恵まれたロシアと、技術的にも経済的にも強力な中国との同盟」に直面し、容易に熱が高くなる可能性があるとビーブは言う。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌上級記者。ツイッターアカウントは@michaelphirsh

(貼り付け終わり)

(終わり)


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