古村治彦です。

 2022年5月9日はロシアでは対ナチス・ドイツ戦争(大祖国戦争)勝利記念日(ベルリン陥落)だった。ウラジミール・プーティン大統領の演説に注目が集まったが、激しい言葉遣いはなかった。ウクライナ戦争については、西側諸国からの高度な武器供与を批判しながらも、対ナチス・ドイツ戦争、第二次世界大戦で連合諸国だったアメリカ、イギリス、フランス、中国に対する感謝の言葉もあった。抑制的な内容だった。

 ウクライナ戦争によって秋からになったのは、世界における深刻な分断である。この分断は「西側諸国とそれ以外の世界」というものだ。日本は先進諸国(民主政治体制)で構成される西側諸国に含まれている。西側諸国、特にアメリカが世界を主導するという構図が冷戦終結後に続いてきた訳だが、今回のウクライナ戦争によってこの構図が崩れつつあるということが明らかになった。国連の場でこれまで3回にわたりロシアを非難する決議が出されたが、これらに対して反対、棄権する国々も多く出た。それらの国々は「BRICs(ブリックス)」を中心とする、アジア、南米、中東、アフリカ諸地域にある非西側諸国だ。

 これらの国々はロシアと経済的、軍事的に緊密な関係を結んでおり、今回の戦争でそうした関係を崩したくないという意向を持っている。更に言えば、アメリカに対する不信感、アメリカが主導する西側諸国に対する不信感を持っている。

 世界の構造は変化している。昔であれば西側先進諸国の言うことは全てが正しく、これらの国々のようになりたいというのが当たり前だった。日本人である私も戦後の日本に生まれたことは幸運だったなぁと思うことは多かった。特に外国に行けばそう感じた。
 しかし、それが変化しつつあるのだ。私たちはウクライナ戦争を通じて、そのことを目撃している。現在の世界一の富豪であるイーロン・マスクは日本が消滅するという発言を行った。世界の認識はこれである。戦後西側諸国の「優等生」であった日本の衰退・没落から消滅へという流れは世界の流れを象徴している、そのように感じられる。毛沢東の大戦略である「農村が都市を包囲する」という言葉を援用するならば「それ以外の世界が西側を包囲する」ということになり、西側諸国全体の衰退・没落が始まっていくのだろう。世界は大きく変化する。

(貼り付けはじめ)

西側vsそれ以外の世界(The West vs. the Rest
-21世紀版冷戦の時代にようこそ

アンジェラ・スタント筆

2022年5月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/02/ukraine-russia-war-un-vote-condemn-global-response/

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナへの侵攻を開始する前に4つの大きな誤算をしている。ロシアの軍事的な能力と効果を過大評価し、ウクライナ人の抵抗の意志と反撃の決意を過小評価した。また、ロシアの攻撃に直面して混乱した西側諸国が政治的に団結することは不可能であり、ヨーロッパやアメリカのアジアの同盟諸国がロシアに対する広範囲な金融、貿易、エネルギー制裁を支持することは決してないと考えたことも間違いであった。

しかし、プーティンは1つだけ間違っていなかった。それは、私が「それ以外(the Rest)」と呼ぶ非西側世界がロシアを非難したり、制裁を科したりしないだろうということをプーティンは正しく予測していた。戦争が始まった日、ジョー・バイデン米大統領は、西側諸国はプーティンが「国際舞台から排除される人物(pariah on the international state)」とするだろうと言ったが、世界の多くの人々にとって、プーティンは排除される人物とはなっていない。

ロシアはこの10年間、1991年のソ連崩壊後に撤退した中東、アジア、中南米、アフリカの国々との関係を深めてきた。そして、2014年のクリミア併合以降、クレムリンは中国に積極的にアプローチしている。欧米諸国がロシアを孤立させようとすると、北京は「パワー・オブ・シベリア」という大規模なガスパイプラインの契約に署名するなど、モスクワを支援するために歩み寄った。

国連は開戦以来、ロシアの侵攻を非難する決議を2回、人権理事会のメンバーシップ停止決議を1回、計3回行っている。これらの決議は可決された。しかし、棄権や反対票を投じた国々の人口規模を集計すると、世界人口の半分以上にもなる。

簡潔に述べるならば、世界はロシアの侵略を不当とする見解で一致していないし、世界のかなりの国々がロシアの行為を罰することを望んでいないのである。実際、ロシアの現状を利用して利益を得ようとする国々もある。プーティン率いるロシアとの関係を危うくしたくないという意向があり、それによって今だけでなく戦争が終わった後も、同盟諸国などとの関係を管理する欧米諸国の能力を複雑にしていくだろう。

ロシアを非難しないことで非西側諸国を率いているのは中国である。中国が何をするにしてもロシアを支援するという理解がなければ、プーティンはウクライナに侵攻することはなかっただろう。プーティンが冬季オリンピック開催中の北京を訪れた際に署名した2月4日の露中共同声明は、「無制限」のパートナーシップと欧米の覇権主義を押し返すという約束を謳ったものである。駐アメリカ中国大使によると、習近平国家主席は北京での会談でプーティンのウクライナ侵攻計画を知らされていなかったということだ。プーティンが習近平に何を言ったか、それが何らかの示唆であったのか、それとももっと明確なものであったのか、それはおそらく誰にも分からない。

しかし、この主張をどう解釈しようとも、中国がロシアによるウクライナ侵略開始以来、ロシアを支持してきたことは否定できない。国連でのロシア非難決議の際には棄権し、人権理事会のロシアのメンバーシップ停止決議には反対票を投じた。中国メディアは、ウクライナの「非ナチ化(denazifying)」と「非軍事化(demilitarizing)」に関するロシアのプロパガンダを忠実に再現し、戦争の責任をアメリカとNATOに押し付けている。ブチャの虐殺がロシア軍によって行われたかどうかを疑問視し、独立した調査を要求している。

しかし、中国の立場にはいささかの迷いがある。また、敵対行為の停止を求め、ウクライナを含む全ての国家の領土保全と主権を信じると繰り返している。中国はウクライナにとって最大の貿易相手国であり、ウクライナは「一帯一路」プロジェクトの一部であるため、ウクライナが経験する経済的荒廃を歓迎することはできない。

しかし、習近平は同じ独裁者であるプーティンと同盟を結び、アメリカ主導の世界秩序に大きな不満を持ち、自分たちの利益をないがしろにしてきたと考える。彼らはポスト欧米の世界秩序を構築することを決意しているが、その秩序がどのようなものであるべきかについては考えが異なっている。

中国にとって、それはルールに基づく秩序であり、中国が現在よりもはるかに大きな役割を果たすことになるだろう。一方、プーティンが考えているのは、ルールの少ない破壊的な世界秩序であろう。中露両国とも、自国の国内制度や人権記録に対する欧米諸国からの批判にアレルギーがある。中国とロシアは、独裁国家にとって安全な世界を実現するために、互いを必要としている。習近平はプーティンが敗北するのを見たくないのだろう。それゆえ、中国はウクライナにおける暴力と残虐行為の規模や、より大規模な戦争へのエスカレーションの危険性に不快感を抱いているにもかかわらず、ロシアに対して発言することを躊躇している。

しかし、中国の大手金融機関はこれまで欧米諸国による制裁に従順だった。欧米諸国との関係における中国の経済的利害はロシアよりはるかに大きいのである。また、欧米諸国によるロシアへの制裁が広範囲に及んでいることから、仮に台湾に侵攻した場合、欧米諸国がどのような反応を示すか、北京は考えているはずである。中国側はこの制裁を慎重に検討しているに違いない。

もう一つ、世界最大の民主政治体制国家であり、アメリカ、日本、オーストラリアとともに「四極安全保障対話(Quadrilateral Security Dialogue)」のパートナーであるインドが、ロシア批判に消極的だ。インドは3つの国連決議に棄権し、ロシアへの制裁を拒否している。インドのナレンドラ・モディ首相は、ウクライナのブチャで起きた民間人に対する残虐行為の報告を「非常に憂慮する」とし、インドの国連大使は「これらの殺害を明確に非難し、独立調査の要請を支持する」と述べたが、モディも国連大使もロシアを非難していない。

インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、ロシアは「様々な分野で非常に重要なパートナー」であり、インドはロシアの武器と石油を購入し続けていると述べた。実際、インドは兵器の3分の2をロシアから調達しており、モスクワの最大の武器取引先である。冷戦時代、非同盟諸国のリーダーであったインドにこれ以上武器を供給したくないという意向がアメリカにあり、そのことはヴィクトリア・ヌーランド米国務次官も認めている。アメリカは現在、インドとの防衛協力の強化を考慮中だ。

モディ首相がロシアを非難しないのには複数の理由がある。中国がカギとなる。インドはロシアを中国に対する重要なバランサーと見ており、ロシアは2020年のインドと中国の国境衝突の後、インドと中国の緊張を和らげるために行動した。さらに、冷戦時代のインドの伝統である中立性とアメリカに対する懐疑心が、インド国内におけるロシアに対するインド国民のかなりの共感を生んでいる。今後、インドはロシアとの伝統的な安全保障関係とクワッドにおける米国との新たな戦略的パートナーシップのバランスを取る必要がある。

プーティンのこの10年間の外交政策の大きな成功の一つは、ロシアが中東に戻り、ソ連崩壊後に撤退した国々と再び関係を結び、それまでソ連と関係のなかった国々と新たな関係を構築したことである。

現在、ロシアは、サウジアラビアなどのイスラム教スンニ派が率いる国々、イランやシリアなどのイスラム教シーア派が率いる国々、イスラエルなど、この地域の全ての国と対話し、あらゆる紛争の全ての側のグループと関係を持っている唯一の大国である。このような中東諸国との関係の構築の成果は、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した時から顕著になった。

国連での最初の決議投票では、アラブ諸国のほとんどがロシアの侵攻を非難する票を投じたが、その後、22カ国からなるアラブ連盟は非難を行わなかった。また、人権理事会におけるロシア非難の投票では、多くのアラブ諸国が棄権した。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、イスラエルなどアメリカの強固な同盟諸国は、ロシアに制裁を科していない。実際、プーティンとサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はウクライナ戦争開戦後、2度にわたって会談を持っている。

イスラエルの立場は、ロシアとイランの両軍が存在するシリアで、アサド政権を支持するロシアによって大きく左右される。イスラエルはロシアと軍事衝突回避(deconfliction、デコンフリクション)協定を結び、シリアにいるイラン軍の攻撃目標を攻撃できるようにした。イスラエルは、ロシアと敵対することで、北部の国境を守る能力が損なわれることを恐れている。イスラエルはウクライナに野戦病院やその他の人道支援を送っているが、武器は送っていない。イスラエルのベネット首相は一時、ロシアとウクライナの仲介役を務めたが、失敗に終わった。

多くの中東諸国にとって、アメリカは信頼できないパートナーであり、これらの国々はアメリカに対して懐疑的だ。自分たちの国の人権を批判するアメリカへの苛立ちも対露姿勢を形成に影響を与えている。唯一、真に親露なのはシリアで、ロシアの軍事支援がなければ、アサド大統領はとっくに失脚していただろう。

近年、ロシアがアフリカに戻り、傭兵のワグネル・グループがアフリカで失脚した指導者たちを支援していることから、アフリカ大陸はロシアへの非難や制裁をほとんど拒否してきた。アフリカ諸国のほとんどは、ロシアの侵略を非難する投票に棄権し、人権理事会からロシアのメンバーシップを停止することに反対票を投じた。新興経済国グループであるブリックス(BRICS)の民主政体国家のメンバーである南アフリカは、ロシアを批判していない。

アフリカ諸国の多くにとって、ロシアは、反植民地闘争の際に支援したソ連の後継者とみなされている。ソ連はアパルトヘイト時代のアフリカ民族会議を支援し、現南アフリカ指導部はロシアに感謝の念を抱いている。中東と同様、アメリカに対する敵意もアフリカのロシアによるウクライナ侵略に対する考えに影響を及ぼしている。

アメリカの裏庭においてさえも、ロシアは応援団を抱えている。キューバ、ヴェネズエラ、ニカラグアは予想通りモスクワを支持したが、他の国々もウクライナ侵攻を非難することを拒否した。ブリックス(BRICS)の一員であるブラジルは「公平」な立場を表明し、ジャイル・ボルソナロ大統領は侵攻直前にモスクワを訪問しプーティンと会談を持ち、「ロシアと連帯する」ことを宣言した。ブラジルは依然としてロシアからの肥料の輸入に大きく依存している。

更に問題なのは、メキシコがアメリカ、カナダと北米共同戦線を張り、ウクライナ侵略を非難しようとしないことである。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の率いるモレナ党は、2022年3月に下院でメキシコ・ロシア友好議員連盟を発足させ、ロシア大使を招いて演説会を開いたほどである。1970年代の伝統的な左翼の反米主義が、このようなロシアの受け入れの大きな理由であり、ロシアに西側諸国との不和をもたらす新たな機会を与えているのであろう。

非西側諸国は世界人口の半分以上を占めるが、その半分は貧しい国であり、多くが後進国で構成されている。欧米諸国のGDP、経済力、地政学的な力を合わせると、侵略を非難せず、ロシアに制裁を加えることを拒否した国々の影響力をはるかに凌駕している。

それにもかかわらず、戦争終結後の世界秩序を形成するのは、現在の「西側」と「それ以外」の分断である。その鍵を握るのが中国とインドであり、プーティンが紛争終結後も国際的に孤立することがないようにするためである。実際、11月に開催されるG20サミットのホスト国であるインドネシアは、プーティンの出席を歓迎するとしている。しかし、その一方で、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領も招待している。

この残酷な戦争の後、アメリカはヨーロッパでの軍事的プレゼンスを高め、NATOの東側にある1つ以上の国に軍隊を恒久的に駐留させることになるであろう。プーティンの長年の目標の一つがNATOの弱体化であるとすれば、彼のウクライナとの戦争は目的の正反対を達成した。NATOという同盟を再活性化させただけでなく、アフガニスタン後に新たな目的を与え、スウェーデンやフィンランドが加盟すると見られることから、その拡大も期待できる。NATOは、プーティンが政権を維持している限り、そしておそらくその後も、次のロシアの指導者が誰であるかによって、ロシアに対する封じ込め強化政策に戻るだろう。

しかし、この21世紀版の冷戦では、非西側諸国は、前の冷戦で多くの人々がしたように、どちらかの側につくことを拒否するだろう。冷戦時代の非同盟運動(nonaligned movement)は、新たな形で再登場する。今回は、アメリカと同盟諸国がプーティンを排除しても、非西側諸国はロシアとの関係を維持するだろう。

ロシアは経済的に衰退するだろうが、「主権的インターネット」の構築に成功すれば、脱近代化し、中国への依存度はますます高まっていくだろう。しかし、ロシアは、多くの国家がビジネスに満足し、モスクワと敵対しないように細心の注意を払う国であることに変わりはない。

※アンジェラ・ステント:ブルッキングス研究所非常勤研究員。著書に『プーティンの世界:それ以外の世界と共に西側に対抗するロシア』。ツイッターアカウントは@AngelaStent
(貼り付け終わり)

(終わり)


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