古村治彦です。
 ウクライナ戦争によって、ヨーロッパ地域を覆っていた偽善と「西側諸国(the West)対それ以外の世界(the Rest)」という分断が明らかになった。「○○(国名が入る)はウクライナだ」という粗雑な主張が展開され、「防衛のために防衛費の増額と装備の増強が必要だ」「先制攻撃を行えるようにすべきだ」という主張が雨後の筍のように出てきている。他人の不幸に便乗し、他人のふんどしで相撲を取る、なんとも恥ずべき主張だ。
 ウクライナ戦争を契機にして、核兵器保有を主張する政治家たちが北東アジア諸国、具体的には日本と韓国で出てきている。核兵器を保有していることでそれが抑止力となるという考えがその根底にあるが、果たしてそうだろうか。他国が攻撃してきて、進攻してきて、たとえば日本が核兵器を使用することができるだろうか。通常兵器で攻撃してきた相手に核兵器で応酬するというのは「過剰防衛」の謗りを免れない。核兵器は特に先進諸国にとって使えない最終兵器である。また、安全保障のジレンマという考え方がある。ある国(A国)が自国の防衛能力を増強すれば、隣国(B国)はそのことを脅威に感じ、こちらも更に防衛能力を引き上げる。そうなればA国はせっかく防衛能力を高めたのに、安心感が得られずに、更に防衛能力を高めるために無理をする。このような無理が続き、両国ともに破綻するということになる。
 アジア地域、特に東南アジアには東南アジア諸国連合(ASEAN)という素晴らしい枠組みがある。国家制度や経済制度が違う国々が集い、何か問題があれば拙速に断定などをせずに話し合う。このような制度こそが平和と安全を守るために重要だ。北東アジア地域の中国、韓国、北朝鮮、台湾、中国にもこのような枠組みを構築すべきだ。EUNATOのような偽善で過度な理想主義で粉飾された、本質的には戦争を誘発するような枠組みは必要ない。
 今回のウクライナ戦争を教訓は際限なき軍拡競争に走ることではない。外交と地域の枠組みによって平和と安定を守るということであるべきだ。
(貼り付けはじめ)
ウクライナはアジアに戦争を考えさせる(Ukraine Has Asia Thinking About War
-大規模な紛争の再来はアジア諸国の軍備増強につながる。

ウィリアム・チューン筆

2022年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/29/ukraine-russia-war-asia-china-military-defense-spending-geopolitics/?tpcc=recirc_latest062921

ロシアによるウクライナ侵攻に伴って、都市の破壊と市民に対する残虐行為が発生した。これによって世界の多くの国々にハードパワーの優位性を再認識させることになった。春。ブランズは『ブルームバーグ』誌に寄稿した論稿の中で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領はポスト冷戦時代の考え方、すなわち大規模で暴力的な紛争は過去のものになったという考え方を崩壊させた。

ウクライナ戦争は、アメリカの学者アーロン・フリードバーグがかつて「大国間紛争のコックピット」と呼んだ、「インド太平洋地域が最も不安定な武力紛争のリスクにさらされている」という広範な認識も覆した。ロシアがこれまで土地の強奪や紛争の扇動を何度か行ってきたが、これまでパワーバランス(力の均衡)に大きな影響を与えることはなかったが、制度がしっかりしているヨーロッパは概して安全な場所と見なされてきた。ヨーロッパに比べ、インド太平洋は、EUNATOのような平和や安全を増進する制度がなく、アメリカ、中国、インド、日本、ロシア、朝鮮半島にある韓国と北朝鮮と世界トップ7の軍隊が集結し、南シナ海、台湾、朝鮮半島、尖閣諸島などいくつかの不安定なホットスポットがあって、更に危険な場所であると考えられてきた。

ロシア・ウクライナ戦争の前から、冷戦終結後に衰退した軍事的な国家統治手段がアジアで復活しつつあることは、専門家の間で指摘されていた。これまでアジアでは、地域経済や地域制度の進化に注目が集まる一方で、ヨーロッパと同様に軍事力が地域の力学に果たす役割の重要性が過小評価される傾向があった。

現在、変化が起きつつある。ロシア・ウクライナ戦争は多くのアジア諸国が自国の防衛力の必要性を見直すきっかけとなっている。日本や韓国などのアメリカの正式な同盟諸国は、ロシアがウクライナに侵攻し、米英露が1994年のブダペスト覚書で約束した安全保障に関する合意を踏みにじっているにもかかわらず、アメリカがロシアと敵対することを拒否していることを正確に評価している。ソウルや東京から見ると、アメリカのエスカレートへの懸念は、NATO加盟諸国や日本、韓国といった条約上の同盟諸国を守る義務に優先するように見える。西側諸国の首都がエスカレートを恐れているのなら、なぜ同盟諸国を守ることに消極的にならざるを得ないのだろうか?

ロシア・ウクライナ戦争の前から、日本は中国の急速な軍拡と北朝鮮の核開発への懸念から、既に10年連続で防衛費を引き上げてきた。今、安倍晋三元首相は、ドイツの核シェアリング協定と同様に、日本国内でアメリカの核兵器を受け入れることを検討するよう提案し、古い議論を復活させた。安倍元首相は、ウクライナは1994年に核兵器を放棄したため、より強力で修正主義的な隣国ロシアに対して脆弱になってしまったと主張している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国内の核兵器保有に対する意欲の高まりを反映している。

安倍首相の提案は、後任の岸田文雄首相によって即座に否定された。しかし、与党の自民党(LDP)内では一定の支持を得ている。自民党の意思決定機関(decision-making body)である総務会(General Council)の福田達夫総務会長は、この議論を「避けるべきでない」と述べた。自民党の高市早苗政務調査会長は、核兵器を持ち込まないというこれまでの鉄則についての議論について「抑制すべきではない」と述べた。自民党以外では、一部の保守系野党も核武装の選択肢を公に出すことを望んでいる。

韓国においても、政策立案者たちはアメリカの「核の盾」に依存し続けられるかどうかを懸念している。ユン・スギョル次期大統領は、韓国とアメリカの同盟関係の強化を公約に掲げ、先制攻撃のための能力開発を目指している。ソ・ウク国防相は、韓国は北朝鮮のミサイル発射台に対する攻撃を「正確かつ迅速に」実施することができると述べた。ユン次期大統領は、1991年に撤去されたアメリカの核兵器を韓国に戻すようアメリカに求める考えだと報じられている。その他の選択肢としては、核爆撃機や潜水艦の韓国への配備を求めることも考えられる。ユン次期大統領はまた、韓国に対弾道ミサイル防衛システムを追加配備すること(過去に中国の怒りを買った措置)や、ドナルド・トランプ前米大統領時代に中断していた年2回の米韓軍事演習(野外訓練を含む)の本格的な再開を要求している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国において核兵器保有に対する意欲が高まっていることを反映している。今年2月の世論調査では、韓国人の71%が韓国独自の核開発を望み、56%がアメリカ軍による核兵器の再配備を支持している。大統領府政策企画委員会のチョ・ギョンファン委員は、ロシア・ウクライナ戦争は、「本当に危機に瀕している時には、頼るべきは自分の力しかない、自分で自分自身を守るしかないのだ」ということを思い知らされたと述べた。

台湾では、ロシアの侵攻に対するウクライナの執拗な抵抗によって、中国による水陸両用の侵攻のシナリオに新たな光を当てる結果になった。ウクライナの非対称戦法、例えば小型で携帯性に優れた対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」は、台湾のアナリストが台湾軍の海・空における同様の戦術を強調するきっかけとなった。あるアナリストによると、トランプ政権発足後、台湾がアメリカから購入した18種類の武器のうち116種類は、高性能戦闘機や軍艦といった大規模なものではなく、こうした非対称能力の強化に重点を置いている武器だということだ。

その他の複数の措置も存在する。台湾のジョセフ・ウー外相は、アメリカの武器取引は更に発表されると述べた。国内では、台湾はミサイルの年間生産量を2倍以上にするつもりである。また、4ヶ月の徴兵期間を1年に延長する計画も存在する。

北東アジア地域に比べ、東南アジア諸国はウクライナ紛争を契機に軍事力を強化する動きは少ない。しかし、それでも、紛争時には外部からの支援よりも自助努力に頼るべきという考え方は、今回の戦争で後押しされているように見える。

シンガポールも戦略環境の変化を痛いほど実感している。リー・シェンロン首相は、ウクライナを自国のモデルと見ている。自国を守ろうとする意志は、「ウクライナ人が持ち続けているもので、この世界で自分たちの安全を守るために、シンガポール人が持たなければならないものだ」と記者たちを前にして語った。この発言は特定の国に向けられたものではないが、シンガポール軍は、島国への攻撃や、シンガポールが依存するシーレーンへの干渉を抑止することを目的としていると広く考えられている。アジアで最も高い一人当たりの国防費により、シンガポールの軍隊は既に東南アジアで最も優れた装備を保有している。

今年3月初め、シンガポールのン・エンヘン国防相は、シンガポール軍(SAF)が情報、サイバー能力、心理的防衛を組み合わせた新しいデジタル・インテリジェンス・サービスを立ち上げ、シンガポール軍をネットワーク化した部隊として再編成すると発表した。この決定はウクライナ情勢が原因ではないが、ロシアがウクライナで展開したようなハイブリッド戦争に対処するためにシンガポール軍を再構築すると述べた。

退任予定のフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はプーティンを「個人的な友人」と呼んでいるが、ドゥテルテは3月、反米主義だった過去と決別し、ロシア・ウクライナ戦争がアジアに波及した場合にフィリピン軍の事施設の利用をアメリカに提案した。4月21日には、ドゥテルテはフィリピンの国軍と警察に対し、あらゆる事態に「備える」よう呼びかけた。

ヴェトナムは、モスクワとの良好な関係を持っていることから、ロシアを直接非難することを拒否している。しかし、ワシントンの出方次第では、ハノイがアメリカの言いなりになる可能性は十分にある。現在、ヴェトナムはロシア製戦闘機の購入を意図しており、アメリカによる制裁の対象になる可能性がある。フィリピンやインドネシアがロシアの武器購入計画を撤回したのと同じアメリカ制裁法に基づいているのだ。しかし、アメリカはヴェトナムが中国、特に南シナ海で対抗するために軍備を強化することに本質的な関心を持っており、ヴェトナムは安価なロシア製ジェット機を購入する意図を持っている。したがって、アメリカ・ヴェトナム合同軍事演習の再開に関連して制裁が免除される可能性もある。

アジア各国の政府は、アジア地域で戦争がすぐに起こるとは考えていない。しかし、中国は、例えば、南シナ海でグレーゾーンやハイブリッド戦法を用いることで、ロシアのやり方を模倣する可能性がある。南シナ海では、中国は既に自国の領有権主張について、ウクライナに関するロシアと同じような歴史物語を作り出している。アメリカのインド太平洋戦略に対する北京の主張は、NATOにウクライナへの攻撃を強いられたというモスクワの主張とも平行している。3月、中国の楽玉成外務次官は、NATOの拡大が戦争を引き起こしたというロシアの主張を支持し、米国のインド太平洋戦略は「ヨーロッパの東方拡大というNATO戦略と同じくらい危険だ。放っておけば、この地域は "奈落の底に突き落とされる」と述べた。ロシアがウクライナへの攻撃を正当化するために、このようなレトリックを用いたことを考えると、アジア各国の防衛強化への決意は強まっていく。

ヨーロッパは、ハードパワーの現実を残酷なまでに再認識させられた。アジアは、第二次世界大戦後、多くの紛争を経験しているので、そのような再認識は必要ない。しかし、アジアでも、ロシアの侵攻は、将来の紛争に備えるという新たな真剣さを各国政府に植え付ける結果となった。

※ウィリアム・チョン:ISEAS・ユソフ・イシャク研究所上級研究員兼研究所の論説ウェブサイト「フルクラム」編集長。「フルクラム」は東南アジアを専門としている。ツイッターアカウントは@willschoong
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(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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