古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発に伴い、西側諸国(欧米諸国と日本)は対ロシア経済制裁を実施している。しかし、その効果は限定的だ。ヨーロッパが大きく依存しているロシアからの天然資源輸入の決済をロシア政府がルーブルで求めたために、ルーブルの価値の下落に歯止めがかかった。EUの中心国であるドイツは特にロシアからの天然資源に依存している。また、ロシア以外からの供給を受けようと躍起になっているが、そのために世界的にエネルギー価格の高騰を招き、制裁を科している西側諸国の国内では物価高騰を招いている。

 このブログでも何度もご紹介しているが、現在の状況は「西側世界対それ以外の世界(the West vs. the Rest)」という状況になっている。世界が一丸となってロシア制裁を行っているのではない。このこともこのブログでご紹介した。「ロシアの方も持たないが、ウクライナの肩も持たない」という国々も一定数存在する。

 その理由について以下に御紹介する論稿では、ヨーロッパが「建前」「きれいごと」で粉飾しながら、実際には世界各地を植民地化してきたこと、第三世界の人々が自治を求めても、「これらの人々には能力がないから自治を認めないことこそが人道的であり、人類に対する先進諸国の責務だ」というねじ曲がった論理を押し付けてきたことが原因だとしている。

 そして、重要なのは、ウクライナ戦争が世界の構造が変わる入り口だと指摘していることだ。第一次世界大戦、第二次世界大戦は共に、戦後には新しい世界秩序が生み出された。今回のウクライナ戦争ではまず何度も指摘しているが「西側対それ以外」の分裂が鮮明になった。そして、アメリカ一国による世界管理体制が崩壊していることが明らかになった。

 ヨーロッパ近代500年が生み出した様々な価値、自由、平等、人権、法の支配、資本主義、民主政治体制が挑戦を受け揺らいでいる。これらがこれから生き残ることができるのかどうかは、それらの諸価値自体が生き残るだけの力と資格と運命を持っているかにかかっている。近代500年の終わりの始まりということになるだろうが、建前やきれいごとではなく、その本当の実力が試される時代がこれから始まる。

(貼り付けはじめ)

世界が対ロシアで真剣に団結できないのは何故か(Why the World Isn’t Really United Against Russia

-国際的な諸制度は、長年にわたり、世界の大部分を二流の地位に追いやってきた。

ハワード・W・フレンチ筆

2022年4月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/19/russia-ukraine-war-un-international-condemnation/

ロシアのウラジミール・プーティン大統領の軍隊はウクライナの各都市を次々と破壊し、大砲とミサイルを雨あられとアパートが密集している地域やショッピングモールに降り注ぐことで一般市民たちを攻撃している。富裕な国々のオブザーヴァ―の多くは、国連憲章に書かれている障壁を乗り越えることができないことで、国際連合の機能不全について批判を行っている。ロシア、その前のソヴィエト連邦は国連安全保障理事会の常任理事国の一国であり、拒否権を持っているため、自国が反対する措置はすべて阻止することができる。

このような機能不全となった国連について、改革を求める声が散見されるようになった背景には、西側諸国が抱くもう一つの不満がある。ワシントンやヨーロッパ各国の首都では、ロシアによる隣国への残忍でいわれのない侵略に対して世界が結束していると高らかに宣言した。しかし、その後、状況をより慎重に把握するために立ち止まった人々は、実際には世界の多くの国がこの紛争を傍観していることに気付き始めた。

モスクワと特別な関係にある中国を除けば、インドなどの大国から小国まで、どの大陸にも傍観する国々が存在している。ウクライナ戦争については、一昔前の東西対立と同様の様相を呈しており、合計すれば世界の総人口の過半数を占める各国の政府は、どちらの立場も支持しない立場を取っている。

もし、この2つの問題が単なる偶然ではなく、実際に深く結びついているとしたらどうだろう? 私たちが何気なく「国際社会」と呼んでいるものの中心にある制度の歴史を検証してみると、そう信じるに足る強力な、しかし広く見過ごされている理由が見えてくる。

この歴史は、人類の富とエネルギーを大量に消費し、世界中に代理戦争の犠牲者を生み出した冷戦の疎外的な争いよりはるかに古いものである。そして、この歴史が明らかにするのは、20世紀初頭に始まった国際政治インフラが、「第三世界」と呼ばれる国々を永久に二流の地位に追いやることになったということである。インドの歴史家ディペッシュ・チャクラバトリーはこれを「歴史における想像上の待合室」と呼んでいる。

今日、私たちがよく知る国際市民社会の誕生は、第一次世界大戦終結後にヴェルサイユ条約が締結され、高邁な言辞に基づいて国際連盟が結成された時期に位置づけられるだろう。

国際連盟が失敗した理由は数多く存在するが、新しい国際統治システムを早くから提唱していたアメリカが加盟しなかったことが大きい。しかし、ヴェルサイユで始まった進歩的と思われる外交が、世界の大多数の人々の利益を優先せず、あるいは考慮さえしなかったために失敗したことは、あまり知られていない。例えば、中国の民族主義政府は、英仏伊の3カ国が中心となった覇権に関する会議の結果、日本が第一次世界大戦前にドイツに支配されていた中国の領土を獲得することを認めたことに驚き、条約への調印を拒否している。

日本は、国際連盟が当時の西側諸国が守って来た人種的なヒエラルキーの概念について改革しようとしないことに嫌気がさしていた。学者であるG・ジョン・アイケンベリーは、最近の著書『民主主義にとって安全な世界:リベラルな国際主義と世界秩序の様々な危機』で次のように述べている。ウッドロウ・ウィルソン元米国大統領は「権利と価値における普遍主義のヴィジョンを提示したが、都合の良い時にはすぐに妥協した」。日本が「人種や国籍による区別をしない国家間の平等を確認する」という決議案を提出したとき、ワシントンは、このような考えは当時オーストラリアで進行中だった入植者植民地計画の正当性を脅かすと考えたイギリスに配慮して引き下がった。しかし、当時のアメリカは、白人至上主義や分離主義を合法的に実践している国であったことも忘れてはならない。ウィルソン自身、クー・クラックス・クランを賛美し、連邦政府職員に対する人種差別的対応を監督する立場にあった。

しかし、中国と日本が国際外交時代に受けた屈辱は、当時まだ植民地化されていた多くの国々が受けた侮辱に比べれば、とても小さなものであった。国際連盟は、西側諸国の帝国主義を強力に支持し、ヨーロッパ諸国に委任統治という名目で支配地域を拡大する権限を与えた。

特にアフリカ大陸は、このような取り決めの対象となった。アフリカ大陸の植民地は、第一次世界大戦中、ヨーロッパの主人に何十万人もの軍隊と貴重な経済援助を提供した。そして戦争からのアフリカ人の帰還兵たちは独立を切望していた。これに対してヨーロッパ諸国は、アフリカ人はまだ自治を考えるに必要な文明のレベルに達していないと主張した。ヨーロッパ諸国は自分たちが歴史上最も野蛮な戦争から脱したばかりであったことは、歴史的に見て何とも皮肉なことだった。

しかし、侮辱はこれだけでは終わらなかった。アフリカの数少ない独立国に自分たちの権威を押し付けるために、ヨーロッパ諸国からの指示を受けて国際連盟はリベリアとエチオピアの自治に異議を唱え、独立に異議を唱えることは、これらの国々で奴隷制度が続行されていることもあり、人道的な責務だと主張した。政治学者アドム・ゲタチュウは、最近の著書『帝国後の世界創造:自決の台頭と崩壊』の中で次のように述べている。大西洋横断奴隷貿易とアメリカ大陸での奴隷制においてヨーロッパが中心的な役割を果たしただけでなく、20世紀の植民地化されたアフリカを特徴づける労働慣行からも、奴隷制の告発が黒人の自治を弱体化させることを正当化する常套句となったことは、私たちの神経を酷く逆なでするものである」。しかし、当時、そしてその後数十年にわたり、ヨーロッパ列強は、ゴムや綿といった需要の高い原材料の高い生産率を確保するために、アフリカの植民地に残忍なまでに強制労働を課していたのである。

欧米主導の国際社会が国際的な統治システムに民主的な特徴と公平性を導入するための、次の大きな機会は、次の世界大戦の後に訪れた。第一次世界大戦後と同じような高尚な言辞が弄され、全世界の植民地の人々を犠牲にして、同じような妥協が行われた。ヨーロッパの戦争で戦った植民地兵士の命に換算すると、より多くの犠牲と富の収奪が帝国列強の経済を維持するために行われた後、今度は特にアフリカ人の間で、大国が進んで彼らの独立への道を開くだろうという期待がより高くなった。

自由、説明責任、自治実現のためのタイムスケジュールといった進歩的な美しい言辞が新たに飛び交う中、大西洋憲章を作成するための話し合いがこの楽観主義に拍車をかけた。しかし、ウィルソンが国家間の平等を求める日本人の期待に応えることがなかったように、フランクリン・D・ルーズヴェルト元米国大統領も、ソ連に対する大国間競争の勃興を主な懸念材料として、イギリスをはじめとするヨーロッパ帝国主義諸国の利害に屈して、植民地の普遍的自治と独立の話を先延ばしにしてしまったのである。ハーヴァード大学のキャロライン・エルキンス教授が細心の著作『暴力の遺産』で指摘しているように。ルーズヴェルトは、植民地化された人々への約束は、大きな志を抱いたものではあったが、単に「宣言」に過ぎず、自治と独立の実現には時期を待たなければならないとして、大西洋憲章発表後の人々の高揚感を無駄にした。

新しい世界秩序が設計されようとしていたこの時期、欧米諸国の権力の中枢にあった精神は、その最も重要な建築家の一人である経済学者ジョン・メイナード・ケインズの言葉から看取することができるだろう。44カ国の代表がアメリカのニューハンプシャー州に集まり、新しい国際通貨システムを設計していた時、ケインズは、やがて第三世界として知られるようになる国々の代表が出席していることを嘆いた。歴史家のビジェイ・プラシャードは、その著書『より暗黒の国々:第三世界の人々の歴史』の中で述べているように、ケインズは代表団の構成を「何年もかけて集められた最も巨大な猿たちの小屋」と非難し、より貧しく弱い国々の代表は「明らかに何の貢献もせず、ただ地面を汚すだけのことだ」と述べた。

数年のうちに、このような「二律背反」的な世界観が明らかになっていった。アメリカが第二次世界大戦の荒廃したヨーロッパ経済の再建に何十億ドルもの資金を投入したことは有名な話である。しかし、当時も、そしてその後も、西欧諸国が新たに植民地から独立した国々に対して負っている知られざる義務に対処しないままであった。最新の著書『黒く生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代世界の創出。1471年から第二次世界大戦まで』の中で、数世紀にわたるアフリカからの富と労働力の搾取は、近代におけるヨーロッパの繁栄に中心的な役割を果たしたにもかかわらず、ほとんど認識されていないと私は主張している。

実際、アフリカでの人間の略奪によって、私たちが「西洋 」と呼ぶものが作り出された。最近ではその定義に立ち止まる人は少ないが、これはもちろん大西洋に面したヨーロッパとアフリカ大陸の植民地、そして後には同盟国であるアメリカ大陸との間の共同体を意味するものである。1820年まで、アフリカから新世界に運ばれた人の数は、ヨーロッパから運ばれた人の数の4倍であった。そして、砂糖や綿などの商品を大規模に生産し、土地を開墾し、その他あらゆる種類の無報酬労働を行う、奴隷となった何百万人もの人々の労働力が、アメリカ大陸における植民地をヨーロッパにとって有益なものにし、いわゆる旧世界を新たに豊かにしたのだ。

このことを古代の歴史のように感じる人もいるかもしれないが、植民地化された人々、特に奴隷制に苦しんだ民族と土地に対する正義の従属は、ここで論じた歴史の他の全ての章と一体のものであり、人々が無視したいと思ったり、難解で煩わしいと思ったりしたからといって、この話題が魔法のように消えることはないのである。

実際、現在の国連の構造は、ウクライナ戦争のような道徳的恐怖に直面して無力であることを嘆く人々もいる。国連安全保障理事会を通じて一部の国々だけの特別な権利に留保されている。このような仕組みは、植民地化された人々は文明化されておらず、完全な権利が認められないというウィルソン時代の主張とほとんど変わらない。

国連安全保障理事会は、1971年に中国が常任理事国になったことである程度民主化された。中国はその大きさゆえに存在を否定しがたい国である。中国以外の国連安保理メンバーは、帝国支配の歴史に縛られた白人国家が中心となって構成されている。アメリカは唯一、人口が非常に多く、現在世界第3位である。経済規模がイタリアとほぼ同じロシアは、まもなく人口の多い国のトップ10から脱落する。フランスとイギリスはロシアの後塵を拝している。インドはどうなっているのか。アフリカはどうだろう。今世紀半ばには、ナイジェリアの人口がアメリカを上回り、2100年にはインドと中国に次ぐ人口になると予測される。ブラジルやメキシコやインドネシアはどうなっているのだろうか?

歴史家エドワード・モーティマーは、著書『FDR(フランクリン・D・ルーズヴェルト)が築いた世界』の中で、「世界大戦はかまどのようなものだ。世界大戦はかまどのようなもので、世界を溶かし、形を変えやすくする。ウクライナへの侵攻についてはまだ定義されてはいないものの、新しい世界秩序への入り口として、多くの人がこのような言葉で語り始めている。しかし、第三世界の人々を完全に蚊帳の外に置いた20世紀の大きな国際秩序のやり残しへの対処については、真剣な目的意識と緊急性をもって取り組み始めた人はほとんどいない。このことは、文明や人種を理由に正当化できるのだろうか? それとも、富や権力の問題で力が正義とされるのだろうか?」。

道徳を別にして、今世紀に人類が直面する大きな問題のうち、このような規模の排除に基づいてうまく対処できるものはほぼないと言える。繁栄と不平等、地球温暖化、移民、戦争と平和でさえも排除を基本にしてはうまく対処できることはできない。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新刊に『黒く生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代世界の創出。1471年から第二次世界大戦まで』がある。ツイッターアカウントは@hofrench

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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