古村治彦です。

 ロシアによるウクライナ戦争によって存在感を高めているのがトルコである。トルコはEU(ヨーロッパ連合)の加盟候補国であり、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国である。トルコは長年にわたりEUの加盟候補国の地位にとどめられている。ヨーロッパとトルコは一部友好的な、そしてところどころぎくしゃくした関係となっている。
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 トルコはヨーロッパと中東をつなぐ位置にあり、重要な国家である。地図を見てみればわかる通り、地中海と黒海をつなぐダーダネルス海峡とボスポラス海峡を抑えている。トルコの許可がなければこの2つの海峡を通って黒海に入ることはできない。今回のウクライナ戦争でトルコの重要性が再認識されることになった。
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 アメリカとトルコの関係はぎくしゃくしていた。トルコにおける人権弾圧やクルド人問題、民主政治体制の後退など、批判の対象となった。レジェップ・エルドアン大統領についてアメリカ国内で多くの批判の声が上がった。また、トルコとロシアの関係深化もアメリカを苛立たせていた。トルコはロシアから武器システムを導入している。ジョー・売電大統領時代になって、トルコとの関係はぎくしゃくしていた。これはアメリカだけのことではなくて、西側諸国全体でそうであった。

 しかし、ウクライナ戦争が勃発し、トルコの存在の重要性は増した。前述したように、黒海の入り口をトルコが抑えている、門番のような存在である。ウクライナ南部は黒海に面している。ウクライナの物流、海運に取って黒海は重要である。現在、ロシア黒海艦隊が黒海を抑えており、ウクライナの物流が滞っている状態だ。トルコは対ロシア制裁にも積極的に参加していない。こうした存在であるトルコが黒海の入り口を抑えているというのは、西側諸国にとってなんとも厄介なことである。

 アメリカにしてみれば、トルコ国内の人権状況や民主政治体制の後退よりも今は機嫌を取って、西側に引き付けておかねばならないということになる。これは次のブログの論稿に譲るが、トルコはアメリカからの支援とクルド人勢力(クルド労働者党)を支援しないことを条件にして、反対していたフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に賛成した。トルコにとって有利な条件を西側が受け入れるのはその存在の重要性のためである。

(貼り付けはじめ)

西側がエルドアンと今和解すべき理由(Why the West Should Make Peace With Erdogan Now

-彼は西側諸国が緊急に関係を改善する必要がある不愉快な人物である。

マクシミリアン・ヘス筆

2022年6月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/06/22/turkey-erdogan-ukraine-russia-war-west-us-geopolitics-black-sea-europe-energy/

民主政治体制の西側諸国は、世界中の独裁者たちや絶対的政治指導者たちと便宜的な同盟を結んできたという長い歴史があり、物議をかもしてきた。倫理的に問題があると非難されているが、このようなスタンスは現実主義的であり、力の均衡を重視する政治の典型である。第二次世界大戦で世界が団結してアドルフ・ヒトラーを打ち負かし、西側諸国が冷戦に勝利することができたのも、このような姿勢によるものだ。

西側諸国が現在、緊急に関係を改善する必要がある不愉快な相手の筆頭は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領である。トルコの民主政治体制を積極的に損ない、数十年にわたる自由化を台無しにし、移民を武器にし、国内と隣国シリアの少数派であるクルド人を脅かし、イランのアメリカからの制裁違反を手助けしてきた。最近では、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を阻むと脅している。西側諸国が彼を純粋に信頼できるようになるには、長い時間がかかるだろう。

しかし、現実には、西側諸国はこれまで以上にエルドアンを必要としている。ロシアのウクライナに対する残忍な全面戦争は、地政学的なチェス盤におけるトルコの存在感を大きく高めた。アンカラはキエフへのドローンの重要な供給元として浮上し、幸いにもキエフはその出荷を止めるつもりはないようだ。トルコの武器輸出が拡大すれば、ウクライナの勝利のチャンスは大きく広がるだろう。トルコ海峡から黒海へのアクセスを支配するエルドアンは、2月下旬に軍艦の航路を閉ざした。

同時に、エルドアン大統領が好機と見ているウクライナに関しても、アンカラはモスクワとの協力に前向きである。トルコのメヴルット・カヴソグル外相は6月8日、アンカラでロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相とウクライナの穀物輸出ルート確保について話し合い、その一環としてトルコの穀物購入の25%割引を要求したと伝えられている。アンカラの協力がなければ、ロシアによるウクライナの港湾封鎖を打開するための西側の提案も水の泡となる。

西側諸国は、対ロシア経済戦争においてトルコを味方につける必要がある。アンカラの支援だけで、黒海に出入りする制裁対象のロシア製品の流れを制限することが可能だ。アンカラの支援は、ロシアの資金と独裁者のルートを断つ上で極めて重要である。トルコは制裁から逃れたロシアの資金(とオリガルヒのヨット)の主要な目的地となっており、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の自国経済を支える新しい役割を強めている。トルコは、ロシアからの支払いを自由に受け入れている数少ない主要国の一つであり、欧米の銀行制裁の影響を弱めることができる位置にいる。トルコが西側諸国の対ロシア経済制裁に参加すれば、対ロシア制裁体制の最大の穴の1つを塞ぐことができる。

しかし、より重要なことは、トルコがヨーロッパのエネルギー供給の再編成において重要な役割を果たすということである。例えば、ヨーロッパの南部ガス回廊戦略(Southern Gas Corridor strategy)の鍵は、トルコのアナトリア横断パイプラインとアドリア海横断パイプライン(それぞれ2018年と2020年に開通)を通じて供給されるアゼルバイジャンのガスで、バルカン半島とイタリアのヨーロッパ・ガス網に供給されるものである。

エルドアン大統領はまた、トルコ国内のガス資源の開発にも積極的で、イスラエルやキプロスの海底ガス田をヨーロッパのパイプライン網に接続する可能性もある。もちろん、こうした努力は、キプロスとその周辺海域をめぐるギリシャとトルコの紛争によって複雑化している。東地中海の豊かなエネルギー資源を十分に活用するためには、ヨーロッパとトルコのパートナーシップを復活させるしかないだろう。このようなパートナーシップは、2020年のタークストリーム・パイプライン(TurkStream pipeline)の開通がトルコ・ロシア関係の新たな高潮を示唆したロシアに対して、エルドアンを翻意させることにもつながるだろう。

最後に、エルドアンと協力することは、ウクライナ戦争を越えて、西側諸国がクレムリンに対して地政学的なレバレッジをかけることにつながる。トルコは、ロシアが関与する3つの紛争でも重要な役割を担っている。シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの紛争である。エルドアンは過去10年間、これらの紛争に対して温和な無視政策から積極的な介入に転じたが、その動機は、西側諸国から独立した地域大国としてのトルコの役割を高めたいというものであった。エルドアンとの協力関係の再開は、モスクワの世界的影響力を抑制するための更なる圧力となる。

エルドアンの西側諸国離れとモスクワとの関係緊密化を逆転させるためには、その動機を理解することが重要である。現在、西側諸国は彼の懸念に耳を傾けなかった代償を払っている。この流れは、「アラブの春」が北アフリカと中東を席巻した2011年に始まった。エルドアンは、「アラブの春」によって、自分と同じようなイスラム主義者がこの地域で権力を握ることができると意気揚々としていた。オバマ米大統領(当時)がシリアでの安全保障政策を守らず、エジプト軍がクーデターでモハメド・モルシ大統領を追放した際には、ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)に属し、エルドアンが公然と支持していたモルシ大統領(当時)を見捨てたことに、エルドアンは裏切られたと感じている。アンカラ在住の国際関係専門家ムハメッ・ト・コカクは私に対して、「トルコは、アメリカがこの地域への投資に消極的であることを痛感している」と私に語った。同様に、トルコの安全保障政策を専門とするアムステルダム大学博士研究員エリザベッテ・アウニーナは「トルコの安全保障上の懸念は、NATOの課題において特に関連性の高い問題とは認識されていない」と述べている。

しかし、エルドアンの西側離れとモスクワへのシフトを加速させたのは、2016年のトルコのクーデター失敗後の裏切られたという感覚であり、アメリカがクーデターを助長したと公然と非難した。また、トルコが領空侵犯したロシアの戦闘機を撃墜した。この事件は、NATOとロシアやソ連の空軍が関わる事件としては60年ぶりのことであったが、NATOがほとんど反応しなかった。その結果として、エルドアンはNATOの同盟諸国から見捨てられたと感じたのであった。それ以来、エルドアンはモスクワの方がエルドアンの地域的・国内的な立場を向上させるのに有利だと感じている。

それ以来のトルコとロシアの協力には、タークストリーム・パイプライン、ロシアがトルコに200億ドルの原子力発電所を建設する計画、アンカラがモスクワのミサイル防衛システムS―400を購入すると2017年に発表したことなどがある。トルコとロシアは、シリアやリビアの内戦で異なる側を支持するなど、時折対立することもあるが、関係は概して温厚で管理しやすいものに保たれている。そのため、エルドアンの志向を覆すことができれば、西側諸国が得ることのできる戦略的な影響力はますます大きくなる。

西側諸国はモスクワを見捨てる代償にエルドアンにどんなニンジンを提供できるのだろうか? トルコの経済危機は、まさにそのチャンスかもしれない。2022年5月の年間インフレ率は73.5%に達し、外貨準備高は過去最低に近く、トルコリラは2021年の44%下落に続き、今年累計で対ドル30%下落しており、トルコのデフォルトリスクは急増している。外国人投資家はトルコ市場から逃げ出した。新らたな外国資本を必死に探すエルドアンは、地域の重要なライヴァルであるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子と関係修復まで行っている。西側諸国にとっては、モスクワを許すよりも、エルドアンに経済的な命綱を提供する方が良いだろう。例えば、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)とヨーロッパ中央銀行は、ここ数十年で大幅に拡大した安定化手段である通貨スワップラインをエルドアンに提供することを検討すべきだろう。ドルやユーロへのアクセスは、アンカラが抱える多くの経済的課題を軽減し、より協力的なパートナーシップを築くための舞台となるだろう。

エルドアンは、自分が強力な手段を持っていることを知っており、他の要求をする可能性が高い。彼は既に、スウェーデンとフィンランドが望むNATOへの加盟に対して影響力を行使し、イスラム国との戦いで西側の勇敢な同盟者であるシリアのクルド人に対してトルコがより自由に行動できるように結びつけている。今月初め、エルドアンはクルド人を標的とした新たな作戦の計画を発表した。エルドアンは地域の他の利益についても要求するかもしれないし、国内の統治に対する西側諸国の批判を鈍らせようとするのは間違いない。このような譲歩は、他の西側諸国の利益にとって高くつく可能性がある。

現時点では、エルドアンに関与することに明らかな躊躇がある。コカクによれば、西側諸国の戦略は「エルドアンが2023年6月の選挙に負ける可能性に期待する」ことのようだ。エルドアンが1年後に自由で公正な選挙と平和的な政権移譲を可能にすることを期待するのは、よく言えば理想主義的、悪く言えば絶望的にナイーブなことである。

エルドアンは不愉快な人物であり、今後もそうあり続けるだろう。しかし、プーティンを弱体化させ、ウクライナの生存を確保するためには、エルドアンがロシアの側ではなく、西側諸国の側にいることが得策である。プーティンを弱体化させ、ウクライナを存続させるためには、ロシア側ではなく、西側諸国が彼の味方になることが得策である。

※マクシミリアン・ヘス:外交政策研究所中央アジア担当研究員。

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アメリカとNATOは黒海でロシアの独占に対抗しなければならない(The US and NATO must counter Russia’s dominance in the Black Sea

ブライアン・ハリントン筆

2021年11月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/579525-the-us-and-nato-must-counter-russias-dominance-in-the-black-sea/

台湾海峡の緊張が高まり、中国を最優先事項とする包括的な国防指針が示される中、ロイド・オースティン国防長官の先週の旧ソ連圏諸国訪問は、中国と台湾の関係と、失地回復論者(revanchist)のウラジミール・プーティンや黒海の近隣諸国に対するロシアの威圧に十分に注意を払うことのバランスをとらなければならないことを思い起こさせた。2008年のグルジアでの地上戦と2014年のウクライナからのクリミア奪取は、西側が見える旧ソ連諸国が最小限の支援で危機を管理することになった。今春のロシアによるウクライナ東部国境沿いの大規模な動員は、同地域における将来の侵略を抑止するための選択肢が限られていることを示した。オースティン長官のウクライナ支援の確約、グルジアとの訓練協定、ルーマニアとの協議に続いて、黒海でロシアに対抗する具体的な取り組みが必要である。

ロシアのバスティオン型とカリブ型ミサイルは、高度な対艦巡航ミサイルと長距離陸上攻撃型があり、ロシアに恐るべき攻撃能力を提供している。このシステムをロシア占領下のクリミアに配備し、大規模な黒海艦隊に搭載すれば、中国が南シナ海で展開しているのと同様の対アクセス・領域拒否(AD2)戦術を黒海で展開することができる。さらに、ロシアの航空機は黒海におけるNATO軍の存在に常に挑戦している。最近では、10月19日にSU-30が国際空域でアメリカ軍の爆撃機を護衛したと報じられた。現在では、黒海にいるアメリカとNATOの軍艦は、ロシアの軍艦を追尾する形になり、攻撃機によってそれらの上空を通過するのが通例となっている。

アメリカ軍の司令官クラスの将官たちは、戦術的な誤算が戦略的な影響を及ぼしかねない危険な上空飛行の状況下で、正しく自制してきた。しかし、挑発的なロシアの行動は懸念に値する。ヨーロッパ戦域を担当するアメリカ海軍のロバート・バーク提督はこの夏、「指揮官に最初の一発をあごで受けるよう求めるつもりはない」と述べ、危機への対応をより良くするための措置が取られるようになった。ロタにある4隻の米駆逐艦(DDG)は、黒海での作戦に最も適したプラットフォームを提供するため、最新のイージス戦闘システムスイートを搭載した船体への入れ替えが進められている。6月には、英国海軍の軍艦「HMSディフェンダー」がロシアの航空機からブザーを受け、その進路上に物体を落とされた可能性があり、同盟諸国の団結を示した。

おそらく最も重要なことは、バイデン大統領が9月にウクライナのヴォロディミ0ル・ゼレンスキー大統領と会談し、更にオースティン国防長官がウクライナを訪問したことにより、この地域に対する関与の可視性が高まったことである。しかし、この立場を強化するために、もっとできることがある。

高度な戦争と相互運用性を示す作戦は、単なる存在感を信頼できる抑止力へと高める。モントルー条約は、黒海に常時配備できる軍艦のトン数を制限しているが、シーブリーズ演習で示されたように、同じ考えを持つ国々のグループがこの制限を克服するために相当な戦力を作り出すことができる。アメリカとウクライナが主導するこの多国籍演習は、この夏で21回目を迎え、水陸両用作戦や実弾砲撃演習を含むまでに拡大している。

同様に、NATO海上群(SNMG12は、同盟諸国全体から交代で参加し、リーダーシップを発揮することで、黒海の自由を支援するNATOの統一的なメッセージを発信することができる。しかし、このプレゼンスを実質化するためには、継続的な成長が必要となる。北ヨーロッパ戦域での多国間演習「フォーミダブル・シールド」は、オランダの発案により開始され、アメリカによる弾道弾迎撃でクライマックスを迎えた。黒海で同盟諸国やパートナーと共により高性能な能力を実証することは、クリミアから頻繁に試射を行うロシアに対抗するのに役立つことになる。

黒海の戦闘空間を形成するもっと抜本的な方法は、ロシアの支配を脅かす範囲と数量を持つ沿岸防衛巡航ミサイルCDCM)の存在である。ルーマニアはNATOの熱心な加盟国であり、防衛への最低限の貢献を超え、1000人以上のアメリカ軍をローテーションで受け入れ、ヨーロッパの弾道ミサイル防衛を担う唯一のイージス・アショア施設を保有している。このような同盟国の模範的な行動は、ルーマニアの権威主義的支配の記憶と、黒海におけるロシアの侵略が世界の海へのアクセスにもたらす直接的な脅威とが、そう遠くない時期に結びついていることは間違いない。

今年5月、ルーマニアが海上攻撃ミサイルの購入を約束し、その立場を強化した。この沿岸防衛システムは、2024年までに運用開始されれば、黒海におけるプーティンの計算を複雑にすることは間違いないだろう。しかし、それだけではクリミア半島への対抗策としては不十分だ。アメリカとNATOは、ルーマニア、ブルガリア、トルコが沿岸防衛巡航ミサイルCDCM)のカヴァー範囲を重複させて黒海艦隊を危険にさらす追加オプションを追求する必要がある。

ロシアが西方に拡大し、NATOの同盟諸国を脅かすことは、近い将来にはありえないかもしれないが、抑止力を短期間に増大させることはできない。黒海の戦闘空間はロシアがほぼ掌握している。このロシアによる支配はNATOの同盟諸国であるルーマニアとブルガリアに戦略的脅威を与え、西側に面するウクライナとグルジアにはすでに領土と人命を喪失させる結果になっている。ロシア艦隊を危険にさらすことができるハイエンドの戦争デモンストレーションと沿岸防衛巡航ミサイル(CDCM)を特徴とするアメリカとNATOの有意義なプレゼンスは、継続的な侵略を抑止し、黒海の国際水域の自由を維持する方法として追求されるべきものである。

※ブライアン・ハリントン:スタンフォード大学フーバー研究所国家安全保障問題研究員、米国海軍の水上戦担当中佐。ここで述べられた意見は著者のものであり、アメリカ海軍や国防総省を代表するものではない。

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アメリカ国務省はアメリカのトルコ政策を再考すべきだ(The State Department should rethink its Turkey policy

リチャード・ガザル筆

2021年8月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/565726-the-state-department-should-rethink-its-turkey-policy/

アメリカの対トルコ政策におけるアメリカ連邦議会とアメリカ国務省の不一致は、ワシントンの外交政策分野における最も知られざる秘密である。連邦議会は、地域的・国際的な紛争におけるトルコの役割に超党派で深い関心を示しているが、国務省は、NATO加盟の大国であるトルコの多くの悪行には目をつぶり続けているのである。

2021年7月21日、連邦上院外交委員会はトルコに関する公聴会を開き、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官(政治問題担当)の証言を通じて国務省のトルコ政策について模索した。外交委員会の委員たちはヌーランドに対し、アメリカとNATOの利益を侵害する同盟国としてのトルコの敵対的役割の増大、国内の民主化戦争、人権状況の悪化などについて、手加減なく質問した。

確かに、今回の公聴会では、ジョー・バイデン政権のトルコ政策の賞賛すべき点が浮き彫りにされた。しかし、現地の現実とは相容れない、誤った見解の例も多く、懸念材料となっている。

ヌーランドは、アメリカとトルコの関係を「多面的で複雑(multifaceted and complex)」と表現し、隠された事実を掴もうとしたようだ。「多面的で複雑」というのは、表面上は関係を正確に評価しているが、その「複雑さ」は、トルコが同盟国と敵対国の二重性を持っていることに起因していると考えられる。

連邦上院外交委員長のボブ・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)と共和党側の幹部委員ジェームズ・リッシュ上院議員(アイダホ州選出、共和党)は、トルコが何度も「出口」を提示されているにもかかわらず、ロシアの対空ミサイルシステムS-400を躊躇なく取得していることを厳しく追及した。ヌーランドは、トルコに対する対敵対者制裁措置法(CAATSA)制裁を維持し、F-35統合戦闘機計画からの除外を継続することを約束した。また、トルコがロシアの兵器システムを追加で購入した場合、さらなる制裁を求めると述べた。

公聴会の前日、トルコのエルドアン大統領は1974年からトルコが不法占拠している北キプロスを訪問し、東側緩衝地帯にあるキプロスの象徴的なリゾート地であり、トルコ侵攻以来閉鎖されているヴァロシャを、国連安保理決議550号および789号を無視した形で再開発する計画を発表した。この計画は、アメリカと国際社会の決意を明らかに試すものとして、北キプロス島にトルコの独立国家を建設するというエルドアンの構想を強調するものである。

アントニー・ブリンケン米国務長官は、トルコの発表を速やかに非難した。ヌーランドは、エルドアンが提案したキプロスの二国間解決策を拒否することを再確認し、唯一受け入れられる方法は、同島を二国間連邦として再統一することであると述べた。

しかしながら、メネンデスは、トルコが北キプロスに無人機基地を設置するとの報道に懸念を示したが、ヌーランドはコメントを避けた。トルコはシリア北部やイラク北部などでキリスト教徒に対してドローンを配備している。「デイヴィッド・シシリーン連邦下院議員(ロードアイランド州選出、民主党)とガス・ビリラキス連邦下院議員(フロリダ州、共和党)は、トルコの無人機の開発、展開、拡散を国際的な脅威として調査するよう国務省に要請している。

ヌーランドの最も問題のある発言は、「トルコ軍のシリア北部への駐留によってアサド政権による無差別標的からシリア人が守られている」というものであった。バシャール・アル・アサド政権は、数え切れないほどの人的被害に対して確かに責任を有しているが、トルコをシリア国民、特に北部のクルド人、シリア人、ヤシディ教徒の救世主とするのは、見当違いで危険なほどの見当違いである。2020年5月、ノーベル平和賞受賞者のナディア・ムラドは次のように述べている。「トルコの支援を受けた民兵たちが、シリアのアフリンでヤシディ教徒たちに対する民族浄化作戦を黙々と行っている。彼らは女性を誘拐し、民間人を殺害し、家や祠を破壊している。そして、シリア北部で誘拐されたヤジディ教徒の女性たちが、トルコ東部に続々と送られている」。

2016年以来、トルコとトルコが支援するイスラム主義民兵組織は、この地域で唯一成功した民族宗教の自由の実験である民主的なシリア北東部自治行政区(AANES)の破壊に執念を燃やしている。米外交問題評議会に寄稿したエイミー・オースティン・ホルムズは、アメリカが仲介したシリア北東部の停戦に対するトルコの違反を、動的なトルコ軍の攻撃を通じて、1年間で800件以上暴露している。

2019年10月以降、トルコと支援している民兵勢力は、イスラム国(ISIS)との戦いにおけるアメリカの重要な同盟者であるキリスト教シリア軍評議会兵士を含むシリア民主軍メンバー200人以上を誘拐したと伝えられている。捕虜たちは、ジュネーブ条約第4条違反でトルコに不法移送され、その後、拷問を受け、不法に裁判にかけられ、トルコの刑務所で終身刑を宣告されたと伝えられています。

メネンデスは、シリア北部で行われた数々の人権侵害におけるトルコの役割にどう対処しているのか、もっと明確に連邦議会に示すよう政権に要求した。

しかし、連邦上院外交委員たちは、レバノンにおけるトルコの挑発行為についてヌーランドに質問することができなかった。報道によると、トルコはレバノンに流入するシリア難民やパレスチナ難民を利用し、南部や東部のヒズボラへの対抗策として、レバノン北西部のスンニ派集中地域に武器や過激なイデオロギーを輸入しているとのことである。レバノンが外国の代理勢力によって荒廃させられた悲劇的な歴史に鑑みれば、トルコのレバノンへの関与は悲惨な結果を招きかねない。

トルコの国際的な挑発から一転して、メネンデスとヴァン・ホーレンは、トルコ国内の民主政治体制の後退に深い懸念を表明した。この加速する非自由化の傾向は、トルコの法制度がジャーナリストや思想家、政治的反対者、宗教的少数派に対して武器化していることを通して見ることができると、両者は指摘した。

ヴァン・ホーレンは次のように述べた。「エルドアンは私たちが何を言おうが気にしないと明言している。だから、声明を出すだけでは不十分なのだ。トルコは不誠実な同盟国であり、代償を払う時だけ反応するだろう。それでは、国際社会を馬鹿にするエルドアンに対して、私たちは何をするつもりなのか?」

ビル・ハガティ連邦上院議員(テネシー州選出、共和党)から再度質問を受けたヌーランドは、トルコとの戦略的対話について、「あらゆるレヴェルで関与、関与、関与ということになる。ただし、意見が異なる場合は率直に言う」と述べた。一見、良いアプローチに見えるが、重要な懸念はその詳細と定義にある。何をもって「率直な」対応とするのか、またトルコのどのような行動に対して政権が反対するのか?

今回の連邦上院公聴会では、バイデン政権がエルドアン政権の違反行為に対して、より冷静で曖昧でない、そして、そうなのだ、より厳しいアプローチを確立し実施する責任を連邦議会が持ち続ける必要性が明確に示された。もしトルコが危険な軌道に歯止めがかからないままであれば、アメリカの地域的利益は損なわれることになる。

※リチャード・ガザル:「イン・ディフェンス・オズ・クリスティアンズ」上級部長。アメリカ空軍犯罪捜査官、レヴァント地域とトルコを専門とする情報士官を務めた。

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ロシアがウクライナ国内で勢力を確立する中、アメリカは黒海に2隻の艦艇を派遣(US sending two warships to Black Sea as Russia builds up forces in Ukraine

エレン・ミッチェル筆

2021年4月9日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/547446-us-sending-two-warships-to-black-sea-as-russia-builds-up-forces-in-ukraine/

トルコ政府は金曜日、ウクライナとの国境沿いでロシアが軍事力を増強する中、アメリカは来週黒海に2隻の軍艦を派遣すると発表した。

NATOの同盟国であるトルコは、ワシントンが2週間前にアンカラに通知した後、2隻の米軍艦が水曜日から木曜日にかけて黒海に到達すると発表した。

ロイター通信が報じたところによると、トルコ外務省によれば、アンカラに海峡の支配権を与えた1936年の条約であるモントルー条約に沿って、2隻の米軍艦が黒海を通過するという通知が15日前に外交ルートで送られてきた、ということだ。ロイター通信は、「米軍の艦船は5月4日まで黒海に留まる予定だ」と報じた。

国防総省のジョン・カービー報道官は、金曜日に具体的な動きについて認めず、国防総省は日常的にこの地域に船を派遣していると記者団に語った。

カーバーは「何も新しいことではない」と述べた。

アメリカ海軍はしばしば黒海(ウクライナ南部のほぼ全ての国境に沿った海域)を航行するが、今回の動きは、ワシントンが最近のロシアの攻勢を認識していることをモスクワに示すものだ。

カービー報道官は金曜日、ウクライナ東部でのロシアの最近の行動について、モスクワが主張しているように訓練ではなく、軍の「増強(buildup)」であると複数回述べた。

先月、ウクライナ東部でモスクワが支援する分離主義勢力とウクライナ軍との戦闘が再開され、両グループが昨年夏に結んだ停戦協定が破られた。この行為にNATO諸国は懸念を抱き、在ヨーロッパ米軍司令部は警戒態勢を最高レヴェルに引き上げている。

これに対してロシアは、黒海と海岸線を接していないNATO諸国がそれぞれの国の海軍の活動を活発化させていると非難している。

ホワイトハウスは今週、ロシアがウクライナからクリミアを併合した2014年以降、いつにも増してウクライナ東部国境に多くの軍隊を配置していると述べた。

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国防総省はウクライナ支援のために黒海に海軍艦艇を送る可能性(Pentagon may send warships to Black Sea in support of Ukraine

エレン・ミッチェル筆

2021年4月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/547247-pentagon-may-send-warships-to-black-sea-in-support-of-ukraine/

ロシアがアメリカの同盟国ウクライナの東部国境に将兵と軍事物資を集めていることを受け、アメリカはウクライナへの支援を示すために黒海にアメリカ海軍の艦艇を派遣することを考慮中だ。

アメリカ海軍は定期的に黒海において艦艇を航行させている。黒海はウクライナの南部国境線のほぼ全域に接している。しかし、アメリカが海軍艦艇を黒海に新たに派遣することは、モスクワに対して、「アメリカは事態の推移を監視している」ということを示すシグナルとなる、と木曜日、国防総省のある高官はCNNの取材に対して語った。

アメリカが艦艇の派遣を行うならば、黒海内に入る意図があることを14日前にトルコに通告することになる。これは1936年に結ばれた条約でトルコ政府が黒海につながる海峡のコントロールを行うという取り決めのために必要な手続きだ。

国防総省が艦艇派遣を検討しているのか、アメリカ軍艦艇の黒海に入る意志をトルコに既に通知したのか、という本誌の質問に対して、国防総省の報道官はこれら全ての質問をアメリカ海軍ヨーロッパ派遣軍に照会した。

CNNの取材に応じた国防総省のある高官によると、アメリカ海軍は今後も国際空域で黒海上空に偵察機を飛ばし、ロシアの船の動きや2014年にモスクワがウクライナから奪取したクリミアでの部隊の動きの可能性に目を光らせていくということだ。

情報・諜報機関の複数の報告によると、ロシアは訓練や演習を行っており、追加の軍事行動に関する命令は確認されていないが、前述の米国防総省高官によると、状況は急速に変化する可能性があるということだ。

バイデン政権は、先月ロシアが東ヨーロッパに対して武力を用いての威嚇のレヴェルを上げており(saber rattling)、ウクライナ東部でモスクワが支援する分離主義勢力とウクライナ軍との戦闘が再開され、両者が昨年夏に行った停戦を終了させて以来、警戒を強めている。

バイデン大統領、ロイド・オースティン国防長官、マーク・ミリー米統合参謀本部議長、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官はその後、ウクライナの担当者たちと連絡を取っている。

一方、米欧州派遣軍司令部は警戒態勢を最高レヴェルに引き上げている。

国防総省の報道官ジョン・カービーは火曜日に記者団に対して次のように述べた。「私たちはロシアに対し、国境沿いに集結させているロシア軍が何をしているのか、その意図をより明確にするよう求めるとともに、ミンスク合意で求められた停戦を引き続き求める」。

カービーは更に、「国境沿いの緊張を緩和すること」と「ウクライナの領土と主権がロシアによって尊重されること」が重要であると付け加えた。

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は今週、ドイツのアンゲラ・メルケル首相との電話会談の中で、ウクライナ政府のウクライナ東部地域での攻撃的な行動を非難した。プーティンは「東部地域における状況の悪化させているのはキエフだ」と主張した。

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国防総省はロシアがサーベルを鳴らし始めたので警戒している(Pentagon on alert as Russia steps up saber rattling

エレン・ミッチェル筆

2021年4月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/546346-pentagon-on-alert-as-russia-steps-up-saber-rattling-in-eastern-europe-and/

ロシアは、東ヨーロッパと北極圏でサーベルを鳴らし、バイデン政権を警戒させている。

この2週間、モスクワはウクライナ東部での軍備増強、アラスカ領空での軍事飛行、北極での潜水艦活動など、陸、空、海でワシントンとその同盟諸国を試そうと動いてきた。

国防総省報道官ジョン・カービーは水曜日、「ロシアがどのような脅威を抱いているか、私たちははっきりと認識している。私たちは非常に、非常に真剣に受け止めている」と述べた。

ウクライナ東部でモスクワが支援する分離主義勢力とウクライナ軍の戦闘が再開され、両グループが昨年夏に結んだ停戦協定が終了した後、国防総省は特にロシアの活動について監視を行っている。

2021年の開始以来、双方の小競り合いでのウクライナ兵20名が死亡している。

両者は、モスクワがウクライナからクリミアを奪取・併合した2014年から戦闘を続けており、キエフが主張する紛争は、開始以来1万4000人が死亡している。

ロシアのジェット機や爆撃機も頻繁に同盟諸国の領空近くを飛行しており、NATOのジェット機は月曜日だけで10回もスクランブル発進して対応することを余儀なくされた。

加えて3月下旬には、ロシアの核弾道ミサイル潜水艦3隻が北極圏で同時に数フィートの氷を割って軍事訓練を行い、クレムリンが北極圏の防衛力を強化する動きを見せている。

ロシアの積極的な行動により、在ヨーロッパ米軍司令部は警戒態勢を最高レヴェルに引き上げ、特にウクライナでの活動は、バイデン政権の国家安全保障部門のトップが、ウクライナのカウンターパートや地域の他の指導者に電話をかけるよう促している。

米統合参謀本部議長のマーク・ミリー大将は水曜日、ウクライナのルスラン・ホムチャク参謀総長およびロシアの最高幹部であるヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長と電話で会談した。

その翌日、ロイド・オースティン国防長官はウクライナのアンドリー・タラン国防相に電話をかけ、「地域の安全保障状況について議論」し、「ウクライナ東部における最近のロシアの攻撃的で挑発的な行動のエスカレーション」を非難したと国防総省のカービー報道官は述べている。

先週、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官もウクライナ側と話した。アントニー・ブリンケン国務長官も、ドミトロ・クレバ外相と「安全保障協力強化の方法」について議論したと述べた。

全ての指導者たちは、ワシントンがキエフを支持することを約束した。

しかし、ロシアは金曜日、NATOにウクライナに軍隊を派遣しないよう警告し、そのような行動は緊張をエスカレートさせ、モスクワが対応せざるを得なくなると脅した。

クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は金曜日に記者団に対し、「このようなシナリオは、ロシアとの国境付近の緊張を更に高めることになるのは間違いない。もちろん、これはロシア側の安全を確保するための追加措置を求めるものだ」と述べた。

米軍北部司令部のトップ、グレン・ヴァンヘルク空軍大将は、米露両国が冷戦時代のような「大国間競争(great power competition)」に戻っていることが原因だと述べた。

ヴァンヘルクは水曜日に記者団に対して「明らかに、ロシアは世界的な舞台でその影響力と能力を再強化しようとしている」と述べた。

「昔と今の違いは、傍受がより複雑になっていることだ。複数アクセス、複数プラットフォームで、しばしば防空識別圏に入り込み、何時間も滞在することもある」とヴァンヘルクは付け加えた。

2020年、北アメリカ空域の防衛を担当する北アメリカ航空宇宙防衛司令部は、冷戦終結後のどの年よりも多くのロシア軍のアラスカ沖での飛行に対応した。

モスクワの好戦的な姿勢は2021年に入っても続いているようで、バイデン大統領に政権初期の外交政策上の課題を与えている。

先月、ロシアのプーティン大統領を「殺人者」だと思うかと問われたバイデンは「思う」と答え、ロシアの指導者は2020年の選挙を狙った影響力行使やその他のサイバー攻撃で「代償を払う」ことになるだろうと付け加えた。

強硬姿勢を裏付けるように、バイデンは2月下旬、ロシアから国境を守るため、ウクライナにさらに1億2500万ドル相当の安全保障支援を承認した。この資金は、クリミア併合以来、米国政府が同国に送った20億ドルを超える殺傷力の高い武器支援に追加される。

ウクライナ東部での戦闘が激化するかどうか、NATOがどう対応するかはまだ分からないが、国防総省は警戒態勢に入っていることを明らかにした。

国防総省のカービー報道官は木曜日、「私たちはウクライナ軍からの国境沿いにロシア軍を配置し、部隊を配置しているという報告に関して、状況を非常に注意深く監視している」と述べた。

カービー報道官は続けて「しかし、私たちは苦い歴史から、ロシアが主張する意図を額面通りに受け取ってはいけないことを学んできた」とも語った。

(貼り付け終わり)

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