古村治彦です。

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 アメリカ連邦下院議長(the Speaker of the U.S. House of Representatives)ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)の台湾訪問はアジア歴訪の一つであった。アメリカ政治における最重要人物の一人の台湾訪問は中国を苛立たせた。ペロシには「前科」があったようだ。1989年の天安門事件の後、1991年にアメリカ連邦議会の代表団の一人として北京を訪問したペロシは、公式のルートから抜け出して天安門事件で喧嘩をし、横断幕を掲げるというパフォーマンスを行い、その様子をマスコミに取材させていた。そのことで、中国当局は激怒し、ペロシたちを咎めることができずに、取材したマスコミの人間を拘束したそうだ。ペロシは重責を担う政治家としては不適格な、軽々しい人物である。下に当時の様子を写した写真があるが、漢字が繁字体であることから、ペロシはもともと台湾系、チャイナ・ロビー系と関係が深いということが分かる。

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 ペロシの今回の台湾訪問は日本の小中高生が行く修学旅行よりも何の成果もない、夏休み(連邦議会休会中)の旅行で会った。修学旅行で何かいたずらやルール違反をしても、それはそれで当事者たちにとっては大変なことで、先生が見回りで寝られなかったり、生徒たちが正座をさせられたり、くらいのことだが、ペロシの軽はずみな行動は数億人規模で人々の生命や財産、穏やかな日常を危険にさらす。経済活動に対する悪影響も考えられる。

 米中両国政府が自制的であるので、火遊び程度で住んでいるが、火遊びから思いがけない大火事になることもある。

 そもそも今回のペロシの台湾訪問の目的がはっきりしなかった。アメリカ政府全体はペロシの台湾訪問に懸念を持っていた。アメリカによる台湾防衛の確約ということも改めて発表された訳ではない。また、台湾を独立国として扱うということもできない。アメリカ政府は「一つの中国」政策(One China Policy)を堅持する姿勢を崩していない。ペロシの台湾訪問は、「アメリカの防衛産業が製造する武器をもっとたくさん買ってね」ということだろうと私は思う。連邦下院議員たちは2年おきに選挙がある。選挙に追いまくられていると言ってよい。そうした中で、地元への利益誘導に動く。

 今回のウクライナ戦争におけるアメリカの援助が巨額になっているのは、連邦下院で、地元に防衛産業がある議員たちが「その金額では足りないのではないか」「国防総省の要求には入っていないがこの武器も必要ではないか」とこれでもかとばかりにお手盛りでどんどんと付け加えたからだ。

 ペロシの軽率な夏休みの海外旅行、武器はいらんかねとの太平洋をまたいだ行商はアジア地域に危険をもたらした。そして結局何の成果もなかった。挑発行為は迷惑行為そのものだ。

(貼り付けはじめ)

ペロシの台湾訪問は台湾に勝算のない状況を設定する(Pelosi Visit Sets Up No-Win Situation on Taiwan

-行けば呪われ、行かなければ呪われる。

ジャック・デッチ筆

2022年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/29/pelosi-visit-taiwan-no-win-pentagon/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長は慌ただしいアジア歴訪に出発する予定であり、彼女が台湾に立ち寄る可能性が高く、物議をかもすことになる。この地域の米中間の緊張は既に煮えたぎっているが、この動きはそれを更に燃え上がらせている。

大統領に次ぐ地位にある連邦下院議長が台湾を訪れるのは初めてではなく、ニュート・ギングリッチが四半世紀以上前に訪れたことがある。しかし、中国はペロシが台湾を訪問する可能性に対して、通常、中国大使館から厳しい言葉で書かれた書簡が届くような一回限りの連邦議員の台湾訪問のように扱うのではなく、アメリカの当局者たちを繰り返し非難し、ジョー・バイデン政権に、北京が本気でペロシ議長の到着を理由に台湾海峡の危機を再び引き起こすつもりなのかと疑わせるような反応を示している。

そして、複数の専門家と議会スタッフは『フォーリン・ポリシー』誌に語ったところでは、8月1日の中国人民解放軍の95回目の創設記念日の前夜に、ペロシが訪問する可能性があり、深刻な危機を引き起こさないとしても、ジョー・バイデン米大統領ティームは勝ち目のない状況に置かれていると懸念している。

トランプ政権時代に東アジア担当国防次官補を務めたハイノ・クリンクは次のように述べている。「習近平国家主席は、ペロシ議長の台湾訪問は自分に対する侮辱だと見なすだろう。新型コロナウイルス封じ込め、住宅ローン危機、人々が街頭に立って抗議活動を行っているという事実など、彼が既に戦っている全ての国内問題に加えて、実はこれは常に中国共産党の注目を集めるもので、火に油を注ぐことになり、彼はこれを意図的な戦略の一部と解釈するだろう」。

『ブルームバーグ』誌が最初に報じたところによると、ペロシは金曜日に出発し、日本、インドネシア、シンガポールに立ち寄り、その後、台湾を訪問する可能性があるが、出発が決まった時点では未確認であった。また、連邦下院外交委員会のトップ2である民主党のグレゴリー・ミークス連邦下院議員、共和党のマイケル・マコール連邦下院議員も招待されている。ミークス議員は安全保障上の理由から、マッコール議員は日程の都合から、それぞれ同行を辞退した。国防総省の職員たちは、アジア歴訪の計画中に、ペロシのスタッフたちに訪米の影響を懸念していることを伝えた。そして、その批判の一部は連邦議会でも共有されている。

ある民主党議員のスタッフは、匿名を条件に、『フォーリン・ポリシー』誌に「何を達成するのか、それが私の疑問だ。より大きな懸念は、常に右派を利するタカ派的なアプローチに私たちを閉じ込め、将来の外交のための政治的空間を縮小してしまうことだ」と述べた。

連邦議員たちによる台湾訪問について言えば、1997年のギングリッチ議長の訪問の際、中国からほとんど反発を受けなかったという歴史的経緯がある。しかし、連邦議会では、ペロシ議長が北京からの反発の可能性について間違った計算をしていると考える人々もいる。

大きな問題はそのタイミングだ。習近平が率いる中国共産党の第20回党大会(トップリーダーの承認)を前に、バイデンは長年にわたるアメリカの戦略的曖昧さの政策に反して、台湾を軍事侵攻から守ることを短絡的に繰り返し公言した。中国が縮小しつつある経済成長目標を達成できない可能性もあり、ペロシの台湾訪問のタイミングで中国が特に強気に出ているのではないかという懸念もある。

「私の感覚では、このタイミングについては議長のオフィスに誤算があったように思う」と匿名を条件に共和党のある議会補佐官は語った。この人物は続けて「中国国内で起きているいくつかのことを考えれば、この特別なタイミングが特に挑発的なものになることは明らかだった。今すぐ危機を引き起こすことがアメリカの利益になるわけではないという程度のことがうまく選択されなかったということになるだろう」。

アメリカの高い地位の人物による台湾訪問に対して中国が拒否権を得るべきだと思っている人物は民主、共和両党に穂ほとんど存在しない。しかし、専門家や議会補佐官たちは、中国の軍事演習が活発化し、北京が2年以上続けている台湾の防空識別圏を侵犯したり、自国の防空圏を拡大しようとしたりすることを懸念していると述べた。国防総省は、中国軍は海峡両岸への侵攻(水陸両岸での上陸作戦が必要)に十分対応できていないと考えているが、専門家や議会関係者たちは、今回の訪問がこの地域の温度をさらに上昇させる可能性があると警告している。数週間前から、米政府関係者は中国軍との安全でない戦闘の危険性が増大していると警告を発している。

台湾は、1972年にニクソン政権が毛沢東と合意した外交関係再開に端を発する「一つの中国」政策の一部として、アメリカに公式に独立国として認められていないが、トランプ政権の末期、当時のアレックス・アザー米保健福祉長官が現職閣僚レベルとして初めて台湾を訪問してから、水面下で訪問のペースを上げてきている。国防総省の元職員であるクリンクは、訪問を計画する人々はリークの可能性にもっと気を配るべきだとし、議会関係者は典通常移動手段として軍用機を利用するが、今回のペロシの台湾訪問では軍用機の使用を行わずに、米政権の黙認と見られるようなことをすべきだったと述べている。

米国防総省は軍事的緊張を考慮して、通常は日本に駐留する空母ロナルド・レーガンとその関連打撃部隊を南シナ海に派遣している。

もしペロシが中国の間接的な圧力に屈して台湾に行かなかった場合、日本、オーストラリア、韓国がこの地域でより強固な軍事態勢を取ろうとしている時に、地域的に有害な影響を与えかねないと懸念を持つ人々がいる。今月初めに暗殺される前、日本の安倍晋三元首相は、自民党をよりあからさまな台湾支援政策に向かわせようとしていた。

トランプ政権時代の国家安全保障会議の主要スタッフを務め、現在は米外交政策評議会(American Foreign Policy Council)の上級フェローであるアレキサンダー・グレイは次のように述べている。「ペロシが台北に現れれば、それは素晴らしいことだ。そうすれば、ボールが前進することになるだろう。米台関係を前進させることができるだろう。抑止力を高めることができるだろう。今、政権は自らの思惑か偶然か、身動きができない状態になってしまった」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障分野特派員。ツイッターアカウントは@JackDetsch

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ナンシー・ペロシは台湾で一体何をしようと考えているのだろうか?(What Does Nancy Pelosi Think She’s Doing in Taiwan?

-リスクの高い訪問は実際の支援というよりも劇的なジェスチャーに見える。

マイク・チョニー筆

2022年7月26日

『ザ・ヒル』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/26/nancy-pelosi-taiwan-china-relations/

1991年9月、私はCNNの中国総支局長だった。当時、一階の連邦下院議員だったナンシー・ペロシに私の関心は集まった。米連邦議会代表団として北京を訪れた際、ペロシと他の議員2名が公式エスコートから離れて、天安門広場に行く計画を立てている、と彼女の同僚議員が私に教えてくれたのだ。しかし私は、彼女の計画が、報道カメラが回る中、2年前に中国人民解放軍が民主化デモ隊を鎮圧した際に亡くなった学生たちを追悼する横断幕を掲げ、花を供えることだったとは知らなかった。

ペロシと2名の議員は、このジェスチャーを行った後、車で去っていった。訪問中の外国要人をターゲットにできない中国警察は、私と他の記者を数時間にわたって手荒く拘束した。私は、ペロシが中国の共産主義者を狙い撃ちするために、結果がどうなるかは関係なく、注目を集めるようなジェスチャーをする傾向があることを初めて経験した。

今、ペロシは、より危険な瞬間に、手荒に扱われた記者ということよりもはるかに多くの問題を抱えながら、今年の8月にもっと挑発的な行動、つまり台湾訪問を行おうとしているようだ。中国が台湾を武力で奪おうとするのではないかという懸念が高まる中、米中関係はここ数十年で最低の状態にある。激怒した中国政府は既に、ペロシが台湾訪問を行えば強硬に対応すると警告を発しており、今でも緊張状態にある状況を危険なまでにエスカレートさせる恐れが出てきている。

しかし、ワシントンでは、ペロシの台湾訪問をめぐる状況は極めて混沌としている。台湾訪問の情報は、『フィナンシャル・タイムズ』紙が匿名の情報源6名から得たもので、誰が何のためにこの計画を公表したのかは疑問だ。最初のリークは、ペロシのスタッフが宣伝効果を狙ったのか? それとも、政府内の誰かがこの旅を台無しにしようとしたのか? それとも単なる不手際か? ジョー・バイデン米大統領は記者団の取材に対し、「米軍部が今は良くないと考えている(military thinks it’s not a good idea right now)」と述べただけだったが、ペロシは台湾への支持を示すことの重要性を強調しながらも、自らの意思を明確にすることを拒んだ。

しかし、この情報が流れた今、アメリカはジレンマに直面している。もしペロシが行かないのであれば、アメリカは中国政府がアメリカの台湾への関与のあり方について制限を設けることを容認しているように見えるだろう。そうなれば、アメリカは衰退しつつあり、中国の国際的な主張の強い行動が功を奏しているという、強い信念が北京の中で強まることになりかねない。確かに、中国の国際的なイメージは崩壊し、投資家は逃げ出しているが、その政策を決定する指導者に対して、不快な事実を指摘する意欲は、中国共産党内にはほとんどない。さらに、バイデンに対する共和党の批判者たちが、バイデンが中国に甘いということを非難する材料にもなる。

しかし、もしペロシが北京の警告を無視すれば、台湾をめぐる危険な新たな危機の引き金になりかねない。中国人民解放軍は、過去1年間に台湾の防空識別圏(ADIZair defense identification zone)への大胆な侵入を繰り返しており、ペロシが搭乗するアメリカ軍機の着陸を阻止しようとするかもしれない、あるいは台湾に独自のADIZを宣言するかもしれないという憶測が広まっている。ある中国研究者は、北京は「前例のない対抗措置、それは台湾海峡危機以来、最も強力な措置」で対応するだろうと警告している。

確かに、中国の台湾に関するレトリックは、実現性の極めて低い大仰な脅しばかりだ。しかし、米中関係がより険悪になった今、互いにエスカレートする危険性は否定できない。しかし、ペロシの台湾訪問の見通しが立った中で、アメリカの対中・対台湾政策への戸惑いは増すばかりだ。バイデンはここ数ヶ月の間に3度、台湾が攻撃された場合、アメリカは台湾を防衛すると宣言し、ホワイトハウスの側近がその発言を撤回したこともある。多くの問題で緊密に協力しているバイデンとペロシが、なぜこのように考えが一致していないように見えるのか、想像するのは難しい。また、国防総省がペロシに訪問の潜在的リスクについて、事前に慎重な計画プロセスの一環としてではなく、フィナンシャル・タイムズによるリーク後にしか説明しなかったのはなぜだろうか?

更に言えば、このタイミングは挑発的に見える。また、戦略的な計画というよりも、8月の連邦議会休会と連動しているようにも考えられる。北京にはアメリカの政治家にどのように振舞うかを指示する権利はない。習近平は前任者2名の前例にとらわれず、3期目の政権を獲得し、党国家に対する支配力を強化することになる。このような政治的に敏感な時期にペロシの台湾訪問を阻止できなかったことで、習近平の面目がつぶれる可能性があるため、中国が強い反応を示す可能性は高いが、この問題に関して中国がますます攻撃的 なレトリックを使用しているので、この訪問に対して これ以上融和的になるとは考え難い。

ここで不快な質問が浮かんでくる。ペロシは一体何を目指しているのだろうか? 台湾への支持を示したいという意図は明らかだ。しなしながら、中国の脅威に対処するために、アジア地域のアメリカの同盟諸国をより緊密に連携させる、ロシアのウクライナ侵攻を教訓に台湾の防衛力を向上させる、などのより幅広いアメリカの戦略とは全く関係がないように見えるのだ。ホワイトハウスからのメッセージの乱れが示すように、ここでのコミュニケーションや調整はほとんど行われていないと考えられる。

むしろ、8月に予定されている台湾訪問は、実質よりも象徴的なものであり、ペロシが過去に行ったように、北京を苛立たせるための写真撮影に過ぎないように見える。しかし、1991年の天安門訪問では、数人の記者が暴行を受け、拘束された。今、事態がエスカレートすれば、台湾の人々、そして、彼女の訪問のために動いているアメリカ軍将兵がその結果に直面することになる。

マイク・チョニー:台湾を拠点に活動。南カリフォルニア大学米中研究所非常勤上級研究員。『中国への取り組み:中華人民共和国で活動するアメリカ人ジャーナリストたちのオーラルヒストリー(Assignment China: An Oral History of American Journalists in the People’s Republic)』が間もなく発刊。

(貼り付け終わり)

(終わり)