古村治彦です。

 地球規模の世界の支配構造という大きな枠組みで考えると、近代世界以降は、一極(unipolarity)、二極(bipolarity)、多極(multipolarity)ということになる。「極(polarity)」は「軸」冷戦終結後、ソヴィエト連邦崩壊以降の世界は、アメリカが世界で唯一の超大国(superpower)となり、アメリカが支配する一極世界ということになった。第二次世界大戦後の冷戦期は、アメリカとソ連の二極構造であり、一時期のヨーロッパは複数の大国がせめぎ合う多極世界であった。イマニュエル・ウォーラスティンは世界システム論という考えを提唱し、その中で支配的な国家について覇権(hegemony)という概念を用いて説明している。17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、20世紀のアメリカがこの覇権(国家)に該当している。

 アメリカ一極世界が崩れつつあるのではないかという考えを多くの人が持つようになっている。アメリカの国力の低下によって、軍事的優位性、経済的優位性が崩れるのではないかと考える人が増えている。それは中国の急速な台頭が原因だ。世界GDPに占める割合ということはこのブログでも再三取り上げている。大まかに言えばアメリカが25%、中国が19%、日本が5%、ドイツが4.5%、インドが3.5%となっている。1968年に日本は西ドイツ(当時)を抜いて世界第2位となったが、現在のアメリカと中国の比率ほどにはアメリカに迫ることはできなかった。アメリカは第二次世界大戦以降、最大の強敵に迫られていることになる。ここで日本について取り上げるのは話を広げ過ぎではあるが、日本はこのままでいけば、インドに抜かれてしまう可能性が高く、中長期的に見てドイツにも抜かれてしまう可能性もある。30年以上にわたり経済成長がなかった国なのでそれも仕方がない。

 アメリカとしては一極世界を維持したいということになる。中露はそれに挑戦する形となる。しかし、中露間には微妙に差がある。ロシアは冷戦期に世界を二分した共産主義陣営の旗頭ソヴィエト連邦の後継国であり、「元超大国」としてのプライドが冷戦終結以降にずたずたに切り裂かれその屈辱からの復活を目指す。プーティンはロシアの復活を目指す。中国はアメリカに経済的にべったりとくっつき、高度経済成長を続けてきた。中国としては世界的なプレイヤーとしての役割を果たしつつも、アメリカとは本格的に衝突することはしたくない。また、アジア太平洋地域、具体的には西太平洋から東南アジアにかけての地域でアメリカの影響力を削ぎたいということもある。

 アメリカとしては中露を引き離したい。中国とロシアを各個撃破したい。しかし、中国もロシアも緊密な関係を保つことでアメリカに対抗できるということは分かっている。両国が1国だけでアメリカと対校することは難しい。ウクライナ戦争によって、「西側世界」対「それ以外の世界」という分裂が明確になり、アメリカとヨーロッパ諸国対中露という構図が明らかになった。下の記事で興味深いのは、最近娘ダリア・ドゥギナが自動車に乗っているところを爆殺されたアレクサンドル・ドゥーギンが「アメリカとヨーロッパを分断する」という「2つの西洋」ということを述べている点だ。そして、中露の関係を深化するように主張している点だ。

 アメリカが中露を離間させることは難しい。そして、ヨーロッパではウクライナ戦争の長期化で「早く停戦して欲しい」という声が高まっている。その声の向かう先はアメリカだ。アメリカが99億ドル(約1兆3000億円)規模の支援を行っているのだから、アメリカがウクライナ戦争を「やらせている」ということになる。ヨーロッパ諸国で反米意識が高まれば、ドゥーギンの主張の実現性も高まるということになる。「自分の陣営が割れないようにして、相手の陣営に楔を打ち込んで分裂させる」というのが戦いの基本のようだ。

(貼り付けはじめ)

上海協力機構首脳会議:多極勢力としての中国の龍とロシアの熊(SCO SUMMIT: CHINESE DRAGON AND RUSSIAN BEAR AS MULTIPOLARITY FORCES

アレクサンドル・ドゥーギン筆

2018年6月14日

『ジオポリティカ』誌

https://www.geopolitika.ru/en/article/sco-summit-chinese-dragon-and-russian-bear-multipolarity-forces

ご親切な招待をいただき感謝申し上げる。まず復旦大学のジャン・ウェイウェイ氏に感謝を申し上げる。今回、私は初めて中国を訪れ、大変に感銘を受けた。私は中国について1冊著作を出している。『黄色い龍(Yellow Dragon)』というタイトルだ。この本で私は中国の歴史、文明、アイデンティティについて書いた。皆さんが中国文化についてのロシア的な見方にご興味がおありならば、そして翻訳することに関心がおありならば、復旦大学に著書をお贈りする。私はアムステルダムで開催された会議にウェイウェイ氏とともに出席した。その会議で、私たちは一極(unipolarity)に対抗する、多極(multipolarity)と新しい世界秩序の側に立っていた。

●一極の時代(Unipolar moment

まず、私は多極世界についての私の考えを明らかにしたい。私は多くの著作を書いてきた(これまでに60冊以上)。その中の一冊のタイトルは『多極世界の理論』だ。科学的なレヴェルで多極性に関する議論を進めることが極めて重要だ。

私たちは今でも一極性の時代の中に生きている。一極性の時代はソヴィエト連邦崩壊、そして二極性(bipolarity)の終焉とともにやってきた。チャールズ・クラウトハマーはそれを「一極性の時代(The Unipolar Moment)」と呼んだ。そして、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり(The End of the History)」と呼んだ。

一極性の時代は今でも続いてはいるが、衰退の一途をたどっている。それは熱狂を呼び起こすようなものではない。グローバライゼーションは続き、西洋の覇権はまだ存在してはいるが、明らかに衰退の一途をたどっている。

私たちは今、一極時代の終焉の瞬間に生きている。それは、グローバルな西洋の価値観が普遍的なものとして受け入れられている一極性から移行している。そして、より多くの人々がこの新しいパラダイムのことを多極性と呼ぶことに同意している。

●多極主義と多極性(Multilateralism and multipolarity

多極主義と多極性の間には非常に重要な違いがある。

バラク・オバマが提唱した多極主義の考え方は、西側から中国へ力を分配するという考えに基づくものだった。例えば、ヒラリー・クリントンが提案したG2(米国の指導の下、中国と一緒に統治すること)はその一例である。

しかし、これは本当の多極性とは全く異なるものだ。私は、多極性とは何かということについてのロシアの理解を明らかにしたいと思う。多極性についてのロシアの理解には、西洋の近代そしてポストモダン文化の理解には普遍性というものがないという考えに基づいている。人類には普遍的なものはなく、どの社会にも適用できるような人間の価値の概念もなく、普遍的なものは何もない。異なる文化や文明における人間の理解は全く異なるものとなる。人間についての規範的な概念がないのだから、普遍的な人権の概念を扱うことはできない。西洋文化では、個人という概念があるが、これは人間に対する自由主義的なイデオロギー的な理解である。イスラム文化には、神との個人的な関係という文脈での人間についての別の理解があり、そこでは超越的なレヴェルが絶対的に重要である。中国文化には「仁(Ren)」[1]という概念があり、それは個人というより社会的なものである。また、キリスト教正教会では、人間を個人性(individuality)ではなく、人格(Personality)として理解し、それは人間の社会的関係と神との精神的関係の交差に依存している。ヒンズー教の文化では、人間の概念は仏教文化の伝統であるアドヴァイタ(Advaita)に基づいており、宇宙の幻想があり、人間の運命はこの幻想から自らを解放することであることを暗示している。

従って、人権の概念は普遍的なものではない。私たちが普遍的な価値として受け入れている人権は、人間とは何か、何が正しいかという近代西洋の理解の投影だ。それは西洋のイデオロギー的な概念が私たちに投影されたものだ。

多極性は、このような様々な民族の異質性を肯定的に認識することに基づいている。「人間」という概念は一つではないし、「正しい」「秩序」「普通」「普遍」という概念も一つではない。例えば、中国やロシアの文化は普遍的だが、ヨーロッパや西洋の文化はまた別の意味で普遍的だ。私たちは、西洋とは異なる方法で普遍性を理解している。

つまり、多極性とは、他者を肯定的に理解し、多元的な価値体系を受け入れることに基づいている。科学、文化、政治における最も重要な概念についての議論に基づくものであり、リベラルなアングロサクソンの概念を押しつけるような一極集中的な投影に基づくものではない。

●知的世界における脱植民地化(Intellectual decolonization

多極性のプロジェクトは、西洋の覇権、西洋の帝国主義、西洋の植民地主義を取り除くことであり、経済的、政治的にだけでなく、それは既に実行されている。政治的な意味では、脱植民地化のための戦いは終わっている。経済的な戦いは現在進行中で、中国はここをリードしている。これは、西洋を真似ることなく経済的に成功することができた好例だ。中国モデルは、ミシェル・アグリエッタ氏が規制理論(regulation theory)という観点から説明した。共産党は秩序を守り、中国版民主政治体制を推進する重要な役割を担っており、社会が重要なファクターとなっている。

1990年代のロシアの問題は、西側諸国の模倣をしたことだった。国家、独立、主権、産業など、ほとんど全てを失い、プーティンによって初めて復活を遂げた。中国の経済成長には政治的秩序が不可欠だが、ここには中国の経済的主権と経済的方法による脱植民地化のための戦いの例が見られる。

しかし、植民地主義の最も重要な形態、すなわち、私たちの知性、思考の占有がある。私たちは、思想、哲学、理論、科学、良心の分野で、依然として一極集中の大きな影響下にある。従って、西洋の世界支配を終わらせるべき多極化した世界秩序の中で最も重要なことは、知的脱植民地化なのだ。私たちは、西洋の普遍的な概念言語という幻想から自らを解放しなければならない。私たちはそれを理解し、学び、解体し、西洋を西洋文明の論理的かつ自然な限界の中に置くべきだ。

つまり、西洋の言説は西洋の部分で評価されるのであって、私たちの側では評価されない。従って、私たちは自分の考えを脱植民地化し、西洋文明を通常の植民地以前の限界に戻さなければならない。これは非常に重要なことだ。

中国では、時間の複数性について話すのは簡単だ。なぜなら、中国の文化では、直線的な時間ではなく、周期的な時間を扱っているからだ。だから、戻ることは常に可能だ。多極性は、オスマン帝国、ペルシャ帝国、中国帝国、ロシア帝国、ヨーロッパ帝国といった大帝国が共存していた時代、すなわちコロンブス以前の時代への回帰を基本にしている。それは、この西洋の世界進出に先立つバランスであった。ルネサンスというのは非常に興味深い瞬間だが、近代、つまり啓蒙主義の時代には、ルネサンスは近代への導入のようなものだと考えられていた。しかし、これは直線的な時間の概念に過ぎない。しかし、これは直線的な時間の概念に過ぎず、実際にはルネサンスは文明の失われた機会でもある。ルネサンスに留まるならば、近代化、つまりグローバル資本主義に向かうのとは別の道を歩むことになる。

資本主義の真の力は、民主政治体制や人権とは無関係であり、それは戦争の継続である。戦争は、近代資本主義的力の真の源泉である。フェルナン・ブローデル、カール・シュミット、ジョン・ホブソンたちがそれを証明した。つまり、自由、自由貿易、資本主義の特別な発展形態に関するこれらの神話は全て、植民地化の壮大な物語(metanarrative)だ。カール・フォン・クラウゼヴィッツは「戦争は他の手段による政治の継続である」と述べたが、その言葉を敷衍すれば、現実には、経済とは、他の手段によって政治を継続することである。経済とは政治の継続のもう1つの形態である。

つまり、資本主義とは、武器(weapon)に他ならないということになる。そして、この武器を使う主体は、国家、社会、国民である。このシステムを武器とするなら、誰がこの武器を使うのかを定義する必要がある。中国は、社会主義、資本主義、他の世界との関係の変化を、中国人に有利になるように利用することができる。これは素晴らしい例である。中国人は歴史の主体であり、中国文化は歴史の主体であり、これは多極性の好例である。

さて、多極性のもっと現実的な側面を考えてみよう。多極性は、西側諸国における世界的な決定のポイントが1つではなく、異なるポイントが存在することを前提としている。いわゆる主権国家の多くは主権者ではないので、主権国家の数がそのまま局になることはありえない。彼らは十分に強力ではなく、この主権に対する決定的な重みを持っていない。だから、いわゆる主権から真の主権へと移行する必要がある。多極化した世界は、これらの真の主権国家のバランスに基づいているはずだ。つまり、多極化システムの極の数量は、いわゆる主権国家の数よりも制限されるべきだ。

●2つの西洋(Two Wests

この多極化の特徴をいくつか説明することができる。第一に、西洋を分割する必要がある。アメリカは文明の一つの極であるが、ヨーロッパはそれと同じではない。両者には多くの共通点は存在するが、アメリカとヨーロッパをより分裂させているものがたくさんある。今、これらの違いに形を与える時が来た。このプロセスは、ますます自国中心的になり、ますますグローバリストでなくなっていくトランプ政権の統治によって促進されている。そして、トランプのこの攻撃的なスタイルは、ヨーロッパが自らのアイデンティティ、地政学的位置、利益、そしておそらく軍事的・戦略的独立を再定義する機会を与えることになる。これは非常に良い兆候である。つまり、ヨーロッパがアメリカとはまったく異なる存在として登場することは、重要な変化であり、多極化の重要な現象になる可能性がある。

唯一の決定権を持つように装うグローバルな西側ではなく、2つの西側が存在することになる。この分裂は、他の極を出現させるのに役立つだろう。

●ロシア、中国そして他の様々な極(Russia, China and other poles

多極性の第二の側面について述べる。それはロシアの復活だ。世界政治の多くの側面でそれを見ることができる。プーティンは、独立した国際的なプレイヤーとしてのロシアの主権を回復し始めた。ロシアは経済的には弱いが、軍事的、政治的には強い。ユーラシアの極が出現し、中国の極(独立した国際的なプレイヤーとなり、経済的には中国の方がはるかに発展している)があり、その他がある。上海協力機構はまさにその中核であり、この多極性がどのように作られるかの例である。これはまだ多極ではないが、多極化の方向性を示している。

従って、ロシアと中国という少なくとも2つの多極化の大きな極があると考えている。また、この多極化の文脈には、人口動態、経済、政治的な巨人であるインドが存在する。これは、ロシア、中国、西洋から完全に独立している。イスラム諸国の側では、一極に対する抵抗が高まっており、彼らの文明は、異なる方法で西洋の覇権主義に対抗している。イスラムの人々が国ごとに分かれている場合は克服できない。一国ごとであれば、リビアやイラクのように簡単に破壊することができる。しかし、もしロシアのような新しい極がこれらのイスラム国家を助けるようになれば(シリアの場合のように)、状況は違ってくるだろう。そして、シリアに対する中国の政治的・外交的支援と他の地域大国の関与があれば、イスラム国家を西側からの攻撃から救うことができる(イスラム国は、イスラム世界における社会主義・親ソ連傾向との戦いでCIAが作り出し支援したツールであることは既に知られている。現在は制御不能になっているが、それでも西側の戦略の継続であることには変わりはない)。異なる極が協力して多極化を促進すれば、多極世界が実現する可能性がある。イスラムは、この抵抗、この主権の宗教的な極である。イスラム世界には、イラン、トルコ、サウジアラビア、インドネシア、パキスタンなどのシーア派を中心とするさまざまな極があり、現在はあまり統一されていない。しかし、これらの極は、一極集中を拒否することでは一致している。この極は非常に重要で活発な力であり、台頭しつつある。

ラテンアメリカでは、統一的な立場への第一歩を踏み出した。アフリカ諸国は正式な占領から解放されたが、依然として西洋に依存しており、自分たちが植民地化されていると感じている。このポストコロニアル構造から脱却し、他のプレイヤーの力を借りて汎アフリカ的なプロジェクトで統一することも可能だろう。

私たちは、一極集中から多極への移行期を生きている。一極はまだここにあり、多極性への移行期だ。西洋覇権のドラゴンはまだ生きている。傷つき、弱体化しているが、まだ生きている。黄色い龍とロシアの熊は、覇権を譲ろうとしないこの怪物と戦っている。つまり、私たちはこの戦いの終盤に生きている。私は、最終的に私たちが勝つことを望んでいる。中露は一緒に戦っている。二極支配の夢は捨てよう。それはソヴィエト連邦時代における私たちの過ちだった。中国はG2支配の提案を拒否したがこれは非常に賢明だった。私たちは、多極化した世界のバランスを共に創り上げるべきだ。

[]仁(Ren):繁栄する人間社会を促進するために、模範となる人間が示すべき姿勢や行動を特徴づけるものである。(大英百科事典)

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中国とロシアはより緊密な関係を進めそれがバイデン政権にとっての軍事的な挑戦となっている(China and Russia Turn Deeper Ties into a Military Challenge for Biden

-トランプ政権の高官だったある人物は「私たちは二正面作戦に対応できる群を持たずに二正面作戦をする可能性に対峙している」と述べた。

ジャック・デッチ、エイミー・マキノン筆

2021年4月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/04/20/china-russia-military-attention-us-policy-xi-putin-biden-taiwan-ukraine/

ロシアと中国の軍事・外交協力の深化は、アメリカの国防計画担当者たちを悩ませている。軍事技術と多くの外交政策目標を共有する2つの宿敵が、アメリカのリーダーシップを再び発揮するというバイデン政権の計画を複雑にしてしまうことを恐れているのだ。

中国は、ウクライナとの国境付近におけるロシアの軍備増強を注意深く監視しており、米国防総省は今週、台湾と南シナ海に対する独自の圧力作戦を視野に入れて、2014年当時の配備よりも規模が大きいと発表した。先週、中国は過去最多の爆撃機と戦闘機を台湾の防空圏に派遣し優位性を誇示した。米軍トップは、北京が今後6年のうちに台湾を武力で奪取しようとする可能性があると警告している。

米国防総省のある高官は匿名を条件に次のように語った。「ロシアがウクライナで最初に行った時と同様に、今起こっていることについて中国は非常に注意を払っているというのが我々の感覚だ。中国は、学んだ教訓をどのように自国の国益に生かすことができるかを見極めるために、注意深く見ていると言ってもよいだろう」。

本誌は現役と元政府高官や専門家11名に取材を行った。北京とモスクワが並行して行っている圧力キャンペーンについては、両国が実際に調整しながら行っていることを示す証拠は今のところない。しかし、両国による軍備増強は、特に悪い時期にジョー・バイデン米大統領の注意を引き伸ばしている。米国防総省は、2つの主要な戦争を同時に計画するという1990年代の考え方を放棄しているので、台湾上空の中国の戦闘機とウクライナ付近に集結するロシア軍の分割画面は、国防総省の戦略立案者たちに、将来起こりうることについて、特に不快感を持って予見させることになった。

ドナルド・トランプ政権時代に国防次官補を務めたエルブリッジ・コルビーは次のように述べた。「2正面作戦の軍隊(two-front military)を持っていないところで、2正面戦争(two-front war)に直面することになる。NATOが台湾をめぐる戦いと同時期にアメリカ軍に救済を期待しても私たちはその両方を行うことはできない。私たちには資産がない。それは私たちにとって大きな問題を引き起こす可能性がある」。

ジョー・バイデン政権は、西太平洋に多くの軍事資産を配置することで、長らく遅れていた「アジアへの軸足転換(pivot to Asia)」を実現しようと躍起になっているが、北京とモスクワの軸足の関係をどう管理するかについては、2019年の米情報機関の評価で、過去60年間のどの時点よりも連携していると評されたままだ。中国の習近平国家主席はかつて、ロシアのウラジミール・プーティン大統領を「親友であり同僚(best friend and colleague)」と表現したことがあった。

ウクライナ国境付近でのロシアによる最近の軍備増強について言えば、モスクワにはまだヨーロッパに大混乱をもたらす能力があることを思い起こさせるものとなった。しかし、今後数年間は中国が戦略的優先事項となる可能性が高い。

バラク・オバマ前大統領の下で駐ロシア大使を務めたマイケル・マクフォールは、「アジアへの軸足転換を望むが、今日のプーティンの脅威に焦点を当てることを犠牲にして欲しくはない」と述べた。

長年にわたり、中国とロシアは、国連安全保障理事会(United Nations Security Council)で戦術的な連携を取り、経済制裁や軍事介入を自由に行うアメリカとヨーロッパにおける同盟国である英仏の影響力に対抗してきた。中露は近年、シリア問題などでも連携が強まっている。国連本部以外では、ロシアと中国は近年、エネルギーや武器などの主要分野で二国間貿易を倍増させ、かつては冷え込んでいた関係を強めている。中露両国とも、アメリカが主導する金融秩序を回避し、ワシントンの世界支配を弱体化させることに関心を抱いている。また、民主政治体制と人権を推進するアメリカの努力に深く懐疑的な点でも一致している。

新アメリカ安全保障センターで大西洋安全保障プログラムのディレクターを務めるアンドレア・ケンドール=テイラーは「中露両国がもたらす課題を増幅させるような相乗効果を生み出す方法についても考え始めなければならない」と指摘する。

1961年の中ソ分裂後、数十年にわたり、2つの大国間の関係は深い不信感によって特徴づけられていた。しかし、冷戦終結後に両国関係は雪解けし始め、2014年にロシアがクリミアに侵攻して併合し、欧米諸国の雪崩式制裁を誘発した後に本格的に動き出した。

その結果、ロシアは東アジアに新たな経済的・政治的パートナーを見つけ、ロシアのガスと中国のエネルギー需要をつなぐ天然ガスパイプラインの30年間で4000億ドルの契約をほぼ即決し、その後、中国のロシアの石油に対する依存度も高まった。

その代わりに、北京はモスクワが西側諸国からもはや入手できない資金やハイテク部品を提供している。中国の防衛産業は急速に発展しているが、ミサイル防衛システムS-400や戦闘機スホイSu-35など、武器輸入の約80%は依然としてロシアからのものだ。中国のJ-11とJ-15戦闘機は、地対空ミサイルの一部と同様に、ロシアの設計をベースにしている。これは双方向の関係だ。新アメリカ安全保障センターの最近の報告書によると、ロシアは西側の制裁に直面し、電子部品や海軍のディーゼルエンジンも中国に頼ってきたということだ。新アメリカ安全保障センターは、ロシアのミサイルや戦闘機の技術は、中国に「より優れた戦略的防空能力と、特に台湾や南シナ海におけるアメリカの優位に対抗する能力の向上」をもたらすと結論づけている。

2009年から2013年までNATOのヨーロッパ統合最高司令官を務めたジェームズ・スタブリディス退役海軍大将は、「古い映画『ジェリー・マグワイア』の言葉を借りれば、彼らはお互いを補完し合っているということになる」と述べた。

中露間における軍事的な関係はどんどん緊密化している。ロシアの2018年の「ボストーク」演習には、旧ソ連以外の軍隊が初めて参加し、数千人の中国人民解放軍部隊が参加した。翌年、プーティンは、ロシアが中国のミサイル攻撃早期警戒システムの開発を支援していることを明らかにした。ロシアと中国はイランとともに2019年にインド洋で大規模な海軍訓練を実施し、中国が日本と領有権を争う東シナ海でも中露両国が合同で演習を行った。

ロシア・ウラジオストクにある極東連邦大学の准教授で、アジア太平洋における中国の専門家であるアルチョム・ルキンは、中露両国は正式な防衛協定を結んでいないが、この関係は事実上「準同盟または協商(quasi-alliance or entente)」であると述べている。

しかし、中露の関係はしばしば便宜上の結婚とみなされる。カーネギー・モスクワ・センターのアジア太平洋プログラムのロシア担当のアレクサンダー・ガブエフは「よく計算された、現実的なパートナーシップであって、愛情はない。中南海(中国の中枢部)でもクレムリンでも、誰も錯覚していないと思う」と語っている。

最近強化された防衛関係も、長くは続かないかもしれない。2014年に行われたロシアに関する国防評価では、北京がロシアの軍事技術から離脱するのに10年以上かかると結論づけている。「中国が南シナ海でより積極的に行動し、アメリカに対抗するためには、このハードウェアが必要だ」とガブエフは述べている。

バイデンの国家安全保障会議でロシア・中央アジア担当上級部長を短期間務めたケンダル=テイラーは、「モスクワがこの関係におけるジュニアパートナーであることは疑いようがなく、プーティンもその地位に長くとどまることはないだろう」と述べ、アメリカ政府当局者たちはこの関係の深さと耐久性に疑問を呈している。

テイラーは次のように述べた。「兄貴は成長する過程で比喩的に言えば弟を殴り、パンツをわざと食い込ませるとか小突いたりとかして虐めていた。しかし、弟が兄貴より大きく、より強くなった。そして今、兄貴は自分がパートナーとして下になったことで、将来どうなるかを恐れているようなものだ」。

リチャード・ニクソン政権時代、ワシントンが中国とロシアを戦わせたのは有名な話だ。近年の和解の度合いを考えると、明らかにそれと同じことはできないのだが、米政府関係者たちはそうした試みを継続している。

例えば、2020年10月に当時のロバート・オブライエン国家安全保障問題担当大統領補佐官とロシアのニコライ・パトルシェフとの外交分野のトップ会談について、トランプ政権のある高官は本誌の取材に対して、オブライエンの次の地位である次席補佐官のマシュー・ポッティンジャーがロシア側に対して中国との提携について警告を発したと述べた。ポッティンジャーは、中露両国には歴史上、数多くの領土争いがあり、それにはシベリアも含まれている。そして、シベリアでは北京官話を話す人の人口が増えているとポッティンジャーは述べた。ポッティンジャーは広報担当を通じてこの記事についてのコメントを拒否した。アメリカはまた、中国の人口の優位性を、二国間協議でロシアの弱さが増していることの表れとして演じたとトランプ政権の元高官2名が述べた。

ワシントンはまた、中国の核兵器の増強と頻繁なミサイル発射に対するロシアの警戒心を高めようと試みた。昨年(2020年)の米露軍備管理協議でロシア当局に脅威を説明するために北京の備蓄に関する膨大な情報の機密指定を解除した。トランプ政権の元高官は、中国が複数の独立した弾頭と道路移動可能な生存システムを開発したことで、米政府関係者が神経質になる中、ロシア政府関係者が核戦力の一部を中国の軍備に向けて氷人を合わせていると米政府関係者に述べた例もあると語った。米国防当局者たちは、ロシア東部軍は数年にわたる大規模な近代化プログラム遂行の只中にあり、長距離対艦ミサイルや戦闘機からハンターキラー潜水艦まで、全てを中国との国境近くに配備していると評価している。

しかし、3か国間の力関係のバランスを取るために、アメリカは中国との会談でロシアの脅威を強調したこともある。2名の元米政府高官によると、トランプ政権は、ロシアが協定内容に虚偽で従わなかった事例があった後、冷戦時代の中距離核戦力条約から2019年に離脱したことを利用して、アメリカの長距離ミサイルがアジアに出現することを恐れる中国に圧力をかけたということだ。「中距離ミサイルが太平洋に現れたら、我々を責めないでプーティンを責めろ」というメッセージを送ったとトランプ政権のある元高官は述べた。

問題は、強力な経済力、強力な海軍を合わせ持つ台頭する大国と、大国からの地位から転落したことで怒りを持つ元大国を抑止する唯一の解決策がないことだ。この元大国は、軍事的威嚇だけでなくハイブリッド戦争と経済的威圧に頼って近隣諸国を屈服させている。

別の米国防総省当局者が匿名を条件に、「私たちは両方を同時に抑止する方法を検討している。しかし、個々に、一方に有効なことが他方に有効でない場合もある」と語っている。

正式な同盟のようなものがなくても、中国とロシアの暗黙の協力関係や、ウクライナと台湾の両方をめぐる緊張の高まりがバイデン政権を窮地に陥れている。

ヨーロッパ・NATO政策担当の国防次官補を務めたジム・タウンゼントは、「今、あなたは2つの敵対する2つの舞台を見ている。これは、プランナーたちが夜中に起きて汗をかくようにするものと同じだ」と語っている。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌米国防総省・国家安全保障担当記者。

※エイミー・マキノン:『フォーリン・ポリシー』誌国家安全保障・情報諜報担当記者。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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