古村治彦です。

 2022年2月26日にウクライナ戦争が勃発して7カ月以上が経過している。状況は膠着状態だ。ウクライナ戦争勃発後、「次は台湾だ」という馬鹿げたスローガンが聞かれるようになった。ロシアがウクライナに侵攻したのと同様に、中国が台湾に侵攻するだろうという主張だ。日本国内でこのような危機感を煽り、日本の更なる防衛予算増大、核武装まで話を進めようという危険な人間たちが出た。自民党や野党の一部の政治家たちも散々に危機を煽った。

 ロシアはウクライナ侵攻で首都キエフ奪取を目指したがその企ては頓挫した。そして、ウクライナ東部の確保に注力することになった。首都キエフ奪取失敗やロシア軍の幹部たちの狙い撃ちによる殺害は西側諸国からウクライナに供与されたジャヴェリン対戦車ミサイル、スティンガーミサイルが効果を発揮したこと、ウクライナ軍が強固な抵抗を示したこと、ロシア軍の装備が古かったことや通信手段が平時のままであったことなどが理由として挙げられる。私が注目したいのは、ロシア黒海艦隊の旗艦モスクワがウクライナ軍のハープーンミサイルで撃沈されたことだ。

 中国が台湾に侵攻するためには、台湾海峡を渡らねばならない。このロシア黒海艦隊機関の撃沈は中国側に大きな教訓になったことと思う。対艦ミサイルの威力は大きく、艦隊側もかなりの防衛能力を持っていなければ相当な被害が出るということを学んだはずだ。そのためには、中国が台湾に侵攻する場合にはまず徹底的な空爆やミサイル攻撃で防衛能力を叩いておかねばならないが、そういうことをすれば台湾の民間人に大きな被害が出て、犠牲者の数は計り知れない。台湾の人々に深い恨みを残すという大きなコストを相殺しておつりが出るほどの軍事侵攻するメリットは今のところない。

 また、台湾と中国との経済的結びつきも深まっており、台湾を攻撃して失われる経済的メリットを考えると軍事侵攻など得策ではない。中国を代表する世界的大企業ファーウェイ(華為技術)と台湾の巨大企業フォックスコン(鴻海科技集団 / 富士康科技集団)のつながりは深いことは中退の経済的つながりの象徴だ。それぞれの創業者である任正非と郭台銘の個人的なつながりも深い。急激な現状変更など中台どちらも望んでいない。

台湾独立というような動きは、大きくは「一つの中国」政策に反するもので、アメリカも容認はできない。「一つの中国」政策堅持はアメリカの歴代政権が建前だけとは言いながらも述べてきたことだ。それを破るような行為は中国に対する背信行為と同様なことであり、情勢は一気に不安定化する。

 中国がウクライナ戦争から学ぶ教訓は軍事侵攻のメリットは少ない(海を渡っての作戦は難しい)、基本は現状維持で危険な動きは小さい段階で解決して置く、アメリカに関与させない、熟柿作戦で機会が到来するのを待つ(機会がやって来るように仕向けることまではする)、急激な動きはコストばかり大きくて駄目だ、というものだと思う。「ウクライナの次は台湾だ」というような短絡的な危機を煽動する言論には冷静に対応すべきだ。

 

 

 

(貼り付けはじめ)

北京に対してどのようにしてウクライナでの教訓を教えるか(How to Teach Beijing a Lesson in Ukraine

-ロシアのウクライナ侵攻から得る教訓は台湾に対する意思決定に活かされるだろう。

ロバート・C・オブライエン筆

2022年9月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/01/china-taiwan-ukraine-war-lessons/

世界はより危険になっている。ロシアのウクライナ戦争は7カ月目に入り、中国は最近、台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、台湾海峡を分断する中央線を戦闘機が定期的に横断するなど、台湾への攻撃性を強めている。中国共産党(CCP)がモスクワのウクライナ侵攻から得る教訓は、台湾に対する北京の意思決定に活かされることになる。

中国を「名ばかり共産主義(communist in name only)」とするダヴォス会議的な見方は薄れつつある。それに代わって、中国指導部の民族主義的ナショナリズム(ethnonationalist)に基づいた信念とマルクス・レーニン主義的な信念の両方が強いという理解が定着しつつある。かつては、アメリカが譲歩を続け、不公正な貿易慣行、知的財産の窃盗、大量虐殺を無視し続ければ、中国はより自由な政治に変容すると考えられていたが、正反対のことが起こっている。中国は、特にこの10年間、着実に権威主義的で攻撃的な姿勢を強めてきた。アメリカは、過去の純朴さと北京への宥和的な傾向の代償を払うことになっている。

中国の習近平国家主席とロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻前夜に「無制限(no limits)」の提携を公言して以来、この機に乗じて台湾を侵略・併合するのではないかと心配されるようになった。中国国内では経済危機や重要な第20回中国共産党大会が控えているため、直ちに台湾が侵略される可能性は低いものの、その脅威は依然として残っている。

習近平と中国共産党がウクライナ情勢を注視する上で重要視しているのは4つの要素である。第一は、標的となる国家の弾力性(resilience)である。ロシアは近代的な国民国家への侵攻が困難であることを見抜いている。プーティンはウクライナで迅速な勝利を収めることができなかったが、これは小国でも十分な物資と士気があれば戦闘で勝てる可能性があることを示している。台湾は侵略を抑止、あるいは撃退するために、中国が食欲をそそられないように、よく手入れされたヤマアラシになるべきである。ウクライナの成功は、中国に対する抑止力として活用できる。

台湾は西側諸国の支援を受け、海上または陸上から発射可能で射程距離100カイリ(nautical miles)の対艦兵器「海軍打撃ミサイル(Naval Strike Missile)」を含む主要兵器システムを直ちに増設する必要がある。このミサイルは、海上や陸上から発射でき、射程距離が100カイリの対艦ミサイルで、統合軽戦車に搭載すれば、射撃と狙撃の任務に非常に有効である。また、アメリカのクイックストライク(Quickstrike)空中投下型機雷やその他の高度な機雷技術が大量に配備されれば、水陸両用軍に大損害を与えることができる。有名なジャヴェリン対戦車ミサイルは、上陸した中国の装甲車に対処するのに非常に有効であろう。スティンガー対空ミサイルは、中国の回転翼艦隊に真の危険をもたらす。最後に、対ドローン領域防衛システム「アンドゥリル・アンビル(Anduril Anvil)」は、中国軍の小型ドローンの幅広い利用が予想されるため、これにも有効である。これらの兵器は、複雑なプラットフォームではありません。ジャヴェリンやスティンガーミサイルの使用が極めて効果的であったウクライナで見られたように、こうしたプラットフォームが十分な数で展開されれば、より優れた装備の侵略軍を壊滅させることが可能である。

台湾では、兵役の義務期間を現在の4カ月間から1年間、あるいはそれ以上に延長することを求める声が多く聞かれる。台湾の経済を破綻させることなく、どのような方法でこれを行うかについては議論が続いているが、時代の緊急性を考慮すれば、台湾が当面の軍事的予備力を向上させる方法はある。例えば、バルト諸国やポーランドで普及している「射撃クラブ(shooting clubs)」を組織し、銃器の使用と戦闘時の安全確保を国民に周知させることが考えられる。このような取り組みは、銃撃戦が始まるよりかなり前に行えば、容易に実施でき、結果としてはるかに効果的となる。

第二に、侵攻軍の能力である。ロシアの軍事力は、特に統合兵器や機動作戦において、アナリストたちの予想をはるかに下回るものであることが判明した。そのことに習近平は衝撃を受けたことだろう。中露両軍は共同訓練や合同軍事演習を行っている。また、中国はロシアの軍備を購入したり、国産化したりしているが、宣伝文句通りの性能を発揮していない。

チェチェン、ウクライナ、グルジア、モルドヴァ、シリア、リビアと数十年にわたる戦争を続けてきたロシアと異なり、中国の最後の武力衝突は1979年のヴェトナムとの戦いだ。中国は過去数年間、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)を中心に行われた大規模な合同演習で、戦闘訓練を経験豊富なパートナーであるロシアに頼ってきた。そして、それで最先端の演習ができると考えてきた。しかし、現在、ロシアの戦術、技術、手順、戦闘方式は特に優れているようには見えず、ロシア製武器の品質に関しても深刻な懸念が存在する。

第三の要因は、侵略に対する地域の諸国家の反応だ。ウクライナ侵攻後のNATOの急拡大は、ゲームチェンジャーとなった。中国は震撼し注目した。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を「冷戦時代のメンタリティ(Cold War mentality)」への回帰と呼んだ。プーティンは同盟にくさびを打ち込むつもりでウクライナに侵攻した。しかし、ドイツ、イタリア、ハンガリーは、アメリカ、イギリス、カナダ、フランスといった西側の歴史的同盟諸国から切り離される代わりに、NATOは新たに2つの加盟国を獲得し、ロシアはNATOとの間に800マイルを超える拡大した戦線に直面することになった。

NATOの拡大は中国にとって深刻な懸念となる。中国は、周辺諸国間の安全保障の多国間主義(multilateralism)の試み、特にワシントンから促された場合は、常にこれを非難している。台湾への侵攻が成功した場合でも、アジアにおけるアメリカのパワーに壊滅的な打撃を与えるのではなく、この地域の安全保障上の同盟関係を更に強化する可能性がある。もちろん、攻撃が失敗すれば、中国の野心にさらに大きな打撃を与えることになる。

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は、主にレトリック的な組織であるが、このような同盟のモデルとなる可能性がある。中立国として知られるインドと軍事同盟を結ぶ可能性は低いが、アメリカは既に他の2つのクアッドのメンバー、日本およびオーストラリアと安全保障協定を結んでいる。東京とキャンベラの両国は互いに協力を強化している。韓国の尹錫悦新大統領は最近、招待されればクアッドに参加することに関心を示しており、フィリピンなど他のアメリカの同盟諸国やパートナーも参加する可能性がある。さらに、AUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア)の3国間協定に続いて、フランスとイギリスが加盟を目指すという話もある。北京にとって、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、中国が台湾に対して軍事行動を起こした場合にアジアで起こり得る悪い前兆である。

第四に、侵略された場合、侵略者にどのような経済的制裁を加えるかということである。この点は、ウクライナ危機を抱える西側諸国にとって問題であり、アメリカは早急に是正しなければならない。ロシアによる侵略戦争に対し、経済制裁の進展と実施は遅々として進まず、効果的とは言えない。

中国の国内宣伝が西側の信用を落とすために、制裁を軽視している証拠もある。中国は、中国企業に影響を与える二次的制裁の可能性をまだ気にしているかもしれないが、本当に恐れているのは、中国がロシアと行っている膨大な石油・ガス取引が西側の制裁の対象となった場合のみだ。今のところ、このような事態は起きていない。ヨーロッパ諸国は戦後半年以上経った今でも、燃料の購入を通じて1日当たり約10億ユーロをロシア経済に送り込んでいるのだ。

習近平は、中国が台湾に侵攻した場合、ヨーロッパ諸国とアメリカから包括的な制裁を受けることは許されない。中国共産党は中国の自立を目指した政策を実施しているが、西側と完全に関係を切り離す覚悟はない。

よって、ロシアが西側諸国による懲罰的な経済手段でどれだけ打撃を受けるかで、中国の今後の動きに影響を与えるだろう。すでに、中国のシンクタンクの1つである中国人民大学重慶金融研究所は、プーティンは制裁に打ち勝つだけでなく、原油価格の高騰により制裁に直面した戦争で大量の利益を上げていると断言している。中国共産党にとって経済は重要だ。金持ちになれば、北京は大規模な軍備増強に取り組み、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)の資金を調達することができる。

従って、アメリカと西側諸国は、現在の中途半端な対露制裁から拡大する必要がある。つまり、ロシアの中央銀行に対する完全な制裁と、国際的な決済メッセージシステムであるSWIFTからロシアの全取引を排除することである。プーティンの戦争マシーンに資金を提供し、習近平に強いメッセージを送るときが来た。西側諸国は、独裁国家が近隣諸国を侵略した場合、その経済活動を停止させることができるし、そうするつもりだ。

短期的には、アメリカは決意を示し、ウクライナ人の抵抗を助け、台湾に効果的な武器を供与し、西側諸国の経済的な力を全部活用してロシアを罰することで、潜在的に台湾の人々を侵略から救うことができるかもしれない。

国家安全保障会議首席スタッフを務めたアレックス・グレイ、国家安全保障会議アジア問題上級部長を務めたアリソン・フッカーも本稿の作成に貢献した。

※ロバート・C・オブライエン:2019年から2021年(ドナルド・トランプ政権)まで国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。ツイッターアカウント:@robertcobrien
(貼り付け終わり)

(終わり)

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