古村治彦です。

 米中関係は緊張をはらんだものとなっている。特に今年8月下旬にナンシー・ペロシ米連邦下院議長がアジア歴訪の一環で台湾を訪問し、蔡英文相当と会談を持ったことで、中国が反発し、台湾海峡周辺で軍事演習を行った。ウクライナ戦争勃発後、「次は台湾だ(中国が台湾に侵攻する)」という根拠の薄いスローガンもあり、米中間の緊張は高まった。

 アメリカも中国も直接ぶつかって戦闘状態に入る、もしくは大規模な戦争状態に入ることは望んでいない。そんなことになれば世界の成長のエンジンであるアジアに大きな青く影響が出る。その悪影響はウクライナ戦争の比ではない。しかし、「ウクライナの次は台湾だ」「アメリカに協力して日本は中国と戦うべきだ」という空虚ではあるがお勇ましいスローガンを発して、戦争の危機を煽る勢力が世界各国にいる。 日本国内には、「第三次世界大戦の到来を待ち望んでいる」かのように、安全保障に関する話題やテーマを弄ぶ現役の政治家たちが一定数いる。こうした政治家たちの多くは、暗殺された安倍晋三元首相の「遺志」である「日本の核武装」「国民皆兵(徴兵制)」実現を訴えている場合が多い。アメリカが日本の核武装を許すかどうか、少し考えてみれば分かることだ。故安倍元首相を祀り上げる勢力は親米ではあるが、いつ反米に転換するか分からない。なぜなら、彼らは「太平洋戦争で日本は悪くなかった」「日本が太平洋戦争を起こすことでアジア各国の独立が早まった」という歴史修正主義を標榜し、靖国神社・遊就館史観を後生大事に唱えているからだ。これはアメリカにしてみれば全く受け入れられないし、「極東軍事裁判の判決を否定するのですね」ということになる。そうなれば、日本は「敵国」となる。そんな一枚めくれば危うい状況で、日本に核兵器やミサイルの保有を許すことはない。日本の技術力ならば短期間で、アメリカに届く破壊力の大きい核兵器を搭載したミサイルを開発することが出来るのだから。

 話を元に戻すと、バイデン大統領と習近平国家主席の個人的な意思だけでは外交政策は決まらない。中国は独裁体制だが、何でもかんでも習近平が決める訳ではない。アメリカは連邦議会もあり、国務省もあり、ホワイトハウスの中に国家安全保障会議があり、多くのスタッフがいる。そうした人々の影響を受けることになる。国家安全保障会議でアジア太平洋政策を統括するインド太平洋担当調整官カート・キャンベルを始め、中国に対してタカ派的な姿勢を示す政府高官が多い。こうした勢力の声が大きく成れば、バイデンとしても妥協は難しいし、中国の習近平としても、妥協や低姿勢を続けることはできない。そうなれば、緊張関係は高まっていく。

 米中間が緊張をはらむものというのはアジア、太平洋、インド洋といった広範な地域を不安定化させる。これは多くの人々が肯定すると思う。従って、緊張関係を促すような声が大きくなる時にはそれを抑制するというバランスの取り方が重要だ。このバランスが崩れた時に大きな厄災が襲ってくる。

(貼り付けはじめ)

バイデン・習近平のトップ会談でも米中関係の悪化に歯止めをかけられない(Biden-Xi Meeting Unlikely to Halt U.S.-Chinese Slide

-妥協は段々と難しくなりつつある。特に台湾をめぐってはそうだ。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2022年8月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/25/biden-xi-pelosi-us-china-taiwan-meeting-g20-summit-indonesia-geopolitics/

ジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席は仕事をしなければならない。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問とその後の中国の軍事的反応を受け、米中間の二国間関係はここ数十年で最悪の状態にある。バイデンと習近平は、2022年11月にインドネシアで開催されるG20サミットで直接会談する可能性があると考えられている。もし、3カ月後に両者が会談するとしたら、両者は現在事態の収拾について考えているはずである。しかし、そのためには、なぜ台湾の情勢がこれほどまでに不安定なのかを明確に分析し、上からの介入なしには情勢が悪化する可能性が高いことを認識する必要がある。

バイデン大統領は就任以来、習近平と4回、電話やヴィデオを通じて会談している。米中関係が着実に悪化しているにもかかわらず、この2回の通話は実に生産的であった。バイデンは、新たな大国間競争(superpower competition)の時代に向けて「ガードレール(guardrails)」を確立する必要性についてしばしば語っている。一方、習近平は、既存のアジアの地域秩序(regional order)を覆す長期的な目標を抱いている。また、台湾をめぐる中国のレッドライン(red lines)についても、一貫して警告を発している。中国外務省は2022年7月の最後の電話会談での習近平の発言から「火を弄(もてあそ)ぶ者は火によって罰せられることになる」という言葉を引用し、台湾の独立に対する中国の懸念に言及した。しかし、少なくとも短期的には、習近平はアメリカとの関係において安定性と継続性を志向しているようにも見える。

バイデンと習近平の友好的な関係の記録から、両首脳は少なくとも一時的にでも関係悪化に歯止めをかけることができる可能性を示唆している。しかし、そのような期待は、2つの理由から大きく裏切られることになる。

第一に、今回の危機から両者が得た教訓である。簡単に言えば、北京とワシントンの双方は、ペロシの台湾訪問からそれなりに良い結果を得たと考えているのだろう。これでは、今後、妥協したり、同じことを繰り返さないようにしたりするインセンティヴが働かない。

中国には喜ぶべき理由がある。基本的に、北京は戦争によらない手段で、時間をかけて台湾を奪還することを目的としている。しかし、アメリカの無謀な干渉に乗せられて、台湾が正式な独立に向かうことを恐れている。しかし、アメリカの無謀な干渉に乗せられて、台湾が正式に独立するような事態になれば、少なくとも現時点では避けたい戦争に発展する可能性がある。このようなシナリオを避けるためにも、北京はペロシの台湾訪問のような動きに対して極度の不快感を示す必要があると感じている。

しかし、ここ数週間、北京は、初めて弾道ミサイルを台湾の上空に発射するなど、他の重要な目標を達成した。また、今回の軍事演習は、人民解放軍の多くの部門による共同作戦、すなわち将来の封鎖の予行演習を行うという貴重な機会を提供した。その結果、台湾海峡を挟んだ軍事的な現状は、永久に北京に有利に変化する可能性が高い。

重要なことは、中国が地域の多くの国々を味方につけながら、このようなことをやってのけたことである。この危機が勃発した頃、オーストラリアのペニー・ウォン外相は、合理的な国家はミサイルの乱射によって国際紛争を解決することを支持すべきではないとの声明を発表した。その内容は「オーストラリアは、中国が台湾沿岸の海域に弾道ミサイルを発射したことを深く憂慮している。これらの演習は不釣り合いであり、不安定化させるものだ」というものだ。しかし、少なくとも東南アジアの多くは、今回の危機の責任は北京ではなくアメリカにあると考え、ペロシの訪問は不必要な挑発行為であると見ている。

アメリカは、ペロシの台湾訪問をめぐるアジアでの広報戦に負ける危険性があることを、少なくとも認識しているようだ。米国家安全保障会議(the U.S. National Security Council)のカート・キャンベル・インド太平洋担当調整官(Indo-Pacific coordinator)は、2022年8月12日金曜日の午後、異例のオフレコで記者会見を行い、ウォンの批判を事実上繰り返した。「中国の行動は、平和と安定という目標とは根本的に相反するものだ。この作戦の目的は明確で、台湾に対して威嚇し、強要し、その回復力を弱めることだ」と示唆した。

それでも、アメリカには最近の出来事に満足する理由が他にもある。どう考えても、バイデンはペロシの訪台を望んでいなかった。しかし、ペロシが行くことが明らかになると、北京の圧力を前にしても、アメリカは引き下がらなかった。その結果、アメリカは、1997年に当時のニュート・ギングリッチ連邦下院議長が行ったように、米連邦下院議長の訪台を認めるべきという方針を再び確立した。より一般的には、ここ数週間の出来事は、アメリカがオーストラリア、日本、インドといった地域のパートナーに対して、台湾有事のために真剣に計画を立てる必要性を印象付けるのに役立っただろう。

バイデンと習近平が2022年11月の会談で何らかの安定を図るためには、双方の相対的な成功という認識を克服することが第一の関門となるだろう。第二の関門は、どちらかと言えばより複雑なものだ。中国もアメリカも、台湾をめぐる現状を支持すると言っている。しかし、実際には、中国、アメリカ、台湾の三者が何らかの形でその現状を損なっている。

中国は明らかに根本的な事実を変更しようとしている。数十年にわたり軍備増強を行い、必要なら武力で島を奪還できる軍事力を作り上げている。中国はグレーゾーンの軍事戦術と経済的威圧で台湾に対して執拗に圧力をかけている。北京が最近発表した「台湾問題と新時代の中国統一」に関する白書では、台湾に中国軍を駐留させないなど、統一中国における台湾の将来の位置づけに関するこれまでの安心感を取り除く内容になっている。

台湾の国内政治も現状を維持できない方向に進んでいる。各種世論調査によれば、バイデン・習近平会談が予定されている11月26日に行われる台湾の国政選挙では、蔡英文総統率いる民進党(Democratic Progressive Party)が勝利し、北京との関係強化を望む野党国民党(Kuomintang party)が再び敗北することが予想されている。中国の軍事演習後に行われたある世論調査では、台湾国民の5割が独立に賛成しており、台湾国民の独立志向は高まっているようだ。このようなデータは、北京に極度の警戒心を抱かせるだろう。

一方、バイデンは、北京から「サラミ・スライシング(salami-slicing 訳者註:情報や条件を小出しにして時間稼ぎをしたり、相手から譲歩を引き出したりする手法)」と非難されても、ワシントンの「一つの中国(One China)」政策を変えるつもりはないことを強調するのに必死だ。この点については、バイデンのティームも誠実だ。しかし、アメリカのエリートや連邦議会が、台湾を含めて北京に対してより厳しい態度を採る方向に動いており、現状を支える基盤が実際に変化していることは十分に明らかである。

より複雑なことには、様々な危機的状況が現状を更に悪化させる可能性がある。台北には、より多くのハイレヴェルなアメリカからの訪問者が訪れることだろう。2022年11月の中間選挙で共和党が連邦下院を奪還した場合、世論調査の通り、別の米連邦下院議長の訪問が容易に想像される。アメリカはまた、台湾を「主要な非NATO同盟国」のカテゴリーに引き上げ、台湾への武器売却を増加させる超党派の新台湾政策法案を間もなく可決する可能性もある。更に2024年の米大統領選に向けて、共和党の候補者が台湾に対して強硬な姿勢を示す可能性がある。

これらの要素を総合すると、バイデンも習近平も妥協することは難しいということになる。どちらのリーダーも弱腰になる訳にはいかない。2022年11月中旬のG20は、バイデンにとって中間選挙での敗北が痛手となった直後に開催され、バイデンは国内の支持を回復する方法を模索することになる。習近平は、ここ数カ月に習近平ティームが打ち出したような厳しい言葉を撤回することはないだろう。中国の魏鳳和国防相は6月にシンガポールで開かれたシャングリラ・サミットで「歴史の歯車は回っており、誰も中国の統一への道を止めることはできない。もし対立を望むなら、私たちは最後まで戦うだろう」と述べた。

そのような事態を避けるためには、信頼(trust)と妥協(compromise)が必要だが、どちらも危ういほど不足している。台湾をめぐって長期的な安定を得るには、バイデンと習近平が崩れかけた現状を補強するだけでなく、それを再構築することが現実的に必要であるが、現状ではほとんど不可能に見える。より現実的な問題は、両首脳に、少なくとも一時的にでも緊張を緩和させるために、双方の強硬論の主張(hard-line voices)を指導する政治的意志と権限があるかどうかである。そうでなければ、ペロシ訪台をめぐる危機を予見したに過ぎない、より重大な対立への転落は続くと思われる。

※ジェイムズ・クラブトゥリー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、アジア国際戦略研究所上級部長。著書に『億万長者による支配:インドの新しい黄金時代を通じての旅路(The Billionaire Raj: A Journey Through India’s New Gilded Age)』がある。ツイッターアカウント:@jamescrabtree
(貼り付け終わり)
(終わり)

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