古村治彦です。

 日曜日に閉会した中国共産党第20回党大会では、最後に、胡錦涛前国家主席が複数の係員に促され、習近平の隣の椅子から退場させられる場面があった。この時、習近平とは言葉を交わし、李克強首相の方を軽くたたく様子が見られた。栗戦書全国人民代表大会常務委員長が大汗をかきながら胡錦涛から書類を取り上げる姿が映像で写された。
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 この胡錦涛の突然の退出については様々な分析がなされている。健康不安説、特に認知症を患っている胡錦涛が最後にどんな行動を取るのか分からないということで退出させたということが言われていたがそれは不自然だ。健康不安だけならば欠席でも良い訳だし(もう引退しているのだから実務などに影響はない)、最高幹部たちもあのような冷淡な態度を取ることはなかったはずだ。不測の事態ということであれば、テレビ中継は途中で停止されるか、全く別の場所を映すかできるはずだが、その様子を中継し続けた。これは、最初からそのように仕組まれたと考えるのが自然なことだ。
 やはり、今回の退出劇は、習近平と側近たちだけで事前に作って、一部の幹部たちだけに知らされたシナリオに沿った動きだったということになるのだろう。現在の最高指導部層は文化大革命時代を生年として過ごして苦労してきた人たちだ。そこから叩き上げ、幾多の競争を勝ち抜き、無数の修羅場を生き抜いてきた人たちだ。どんなに不測の事態が起ころうとも平静を保つことが出来るのだろう。今回の出来事で皆微動だにしなかったのはそういうことだろう。そして、頭脳をフル回転させながら、事態を把握していったはずだ。そして、「共青団派排除の仕上げとしての胡錦涛前主席の排除なのだ」ということをコンマ数秒で理解したのだろう。

 習近平は、この10年で自分の権力基盤を固めることに成功した。江沢民元国家主席をトップとする上海閥を追い落とした。そして、今回の人事では露骨に共青団派を追い落とした。そして、独裁体制を確立した。私はこのブログでも何度も書いているが、習近平が不文律を破って3期目も最高指導者の地位を確保したことは、第二次世界大戦中のアメリカ大統領フランクリン・D・ルーズヴェルトの事績を類推させるものだ。今回、中国は平時モードから戦時モードに切り替えたのだ。「平時の改革などには役立つ共青団系はエリート、お公家様集団で乱世には役に立たない」ということで、切り捨てたということになる。

 習近平が確立しようとしている戦時体制は、中国が世界に出ていって戦争をしようというものではない。アメリカが火をつけて回っている世界の動乱的状況、第三次世界大戦に備えてのものだ。ウクライナ戦争が第三次世界大戦に拡大する可能性もある中、自国の防衛と経済を守るということでの「戦時体制」ということになる。

 共青団(中国共産主義青年団)という組織が潰れた訳ではないし、これからもエリート機関として存続する。そこで育った人材たちは、動乱期を乗り切った後に必要とされる。現在の状況を乗り切るために、幾多の英才を切るということが出来ることは中国の強さということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

一体全体、胡錦涛に何が起きたのか?(What the Hell Just Happened to Hu Jintao?

-習近平の前任者は党大会の場から強制的に追い出された。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年10月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/22/china-xi-jinping-hu-jintao-ccp-congress/?tpcc=recirc_trending062921

中国共産党第20回党大会は土曜日に、珍しくも衝撃的なライヴドラマで幕を閉じた。2002年から2012年まで中国共産党の指導者であった胡錦濤は、党大会の最終投票の直前に、明らかに混乱し動揺した状態で、スタッフによって公然と大会から退場させられた。胡錦濤は習近平国家主席の隣の席で、習主席と李克強首相に質問し、習主席が頷く様子をカメラに収めたが、胡錦濤は書類に手をかけ、書類を取るのを妨げたという。胡錦濤は習近平と李克強首相に質問し、習近平は頷いたが、胡錦濤が書類を取るのを習近平が手で制止し、同じく党幹部の栗戦書は立ち上がり、胡を助けようとしたが、隣に座っていた政治理論家の王滬寧に背広の上着を引っ張られ引き戻された。

胡錦濤は習近平のような権力を持ってはいなかった。胡錦涛はいわゆる集団指導の時代の最高指導者だった。前任の江沢民の強大な影響力と戦わなければならなかった。胡錦濤の在任中、汚職は増加した。そして共産党にとってより危険なことに、汚職に関する報道も増加し、ネット上での言論の自由も、限定的ではあるが市民社会団体やNGOの活動も増加した。これは、胡錦濤が自由主義に傾倒したからではなく、党員の多くが党の方針を貫くことよりも金儲けに夢中になっていたからである。

2012年に中国共産党の最高指導者を退任して以来、習近平とは対照的に、胡錦濤は党メディアから称賛されたが、力は失われた。習近平の粛清により、かつての盟友の多くが逮捕され、特に2015年には胡錦涛の首席補佐官の令計劃が逮捕されている。胡錦濤は、自分と同じ共産主義青年団の元リーダーたちの権力ネットワークと関係があったが、その派閥は事実上壊滅したように見える。

一体、何が起こったのだろうか? 土曜日に中国の国営通信社である新華社が発表した中国共産党大会総会メンバーのリストに胡錦濤の名前はあるが、この事件についての説明はなされておらず、当然のことながら、この件についてオンラインで議論しようとすると厳しく検閲される。中国共産党大会は、実際の政治が数週間から数カ月も前に行われる、極めて厳格に演出されたイヴェントであることを念頭に置いてほしい。つまり、胡錦濤の予告なしの不手際な解任は、不手際もしくは陰謀(a cock-up—or a conspiracy)のどちらかである。

第一の可能性は、健康上の危機ということである。胡錦濤は党大会の期間中、目に見えて衰えていた。中国の指導者は皆、髪を染めているので、過去の時代であれば、それだけで権力を完全に放棄したことになっただろうが、習近平政権では白髪が入り込むことが許されている。しかし、カメラが回っている中で、緊急に彼を排除する必要があり、かつ、彼が深いところでそれを嫌がっているというのは、どのような状態なのかが見えにくい。また、秘密主義と慎重さが常識である中国共産党の内部でさえ、なぜ他の人は体の弱い元同僚を助けないのだろうか?

一つの可能性は、胡錦涛に知らされないで、予想外に新型コロナウイルス感染の診断が出ていたことである。しかし、その場合、指導者に近づく者全員に実施された迅速検査で何も検出されなかったのに、タイミング悪くPCR検査が実施され、陽性となったことになる。

第二の可能性は、習近平が、党大会の全会一致の投票で、胡錦濤が棄権するか、反対票を投じるかもしれないという、恐れるような情報が突然出てきた可能性である。それは、胡錦濤が舞台裏でかつての同僚に言った言葉かもしれないし、あるいは認知症の兆候があって、何かが間違っているかもしれないと思って突然パニックに陥ったのかもしれない。そう考えれば、胡錦濤の混乱は理解できる。

習近平が前任者を意図的に公然と貶めたのは、党の規律と司法による処分を行使する前触れだったのかもしれない。党大会では、習近平が党の「核心(core)」であることがしばしば修正され、ほとんど象徴的な憲法に明記され、前例のない3期目を迎えるにあたって、習近平が前面に立ち、中心的存在であることが強調されたのである。

習近平は冒頭の業務報告で、胡錦濤らには言及しなかったが、「党の指導が弱く、空虚で、水増しされていた」と極めて厳しい表現で就任当時の党内情勢を語っていることに留意してほしい。胡錦濤のマルクス主義理論への貢献である『科学的発展展望』についても、習近平の演説の中でわずかに言及されただけである。 このように胡錦濤を貶めることは、長らく党内で勢力を保ってきた元最高幹部層である「退役長老(retired elders)」に対して、習近平の権力は縛られていないという明確なシグナルを送ることにもなる。その場合、栗戦書が胡錦濤に手を差し伸べたのは、かつての仲間に対する本能的な、しかし危険な優しさであったろう。

しかし、それはまた、外の世界に完全に知られていなかった陰謀を除けば、ほとんど不必要な動きだと言える。中国共産主義青年団派(共青団派)の破壊と胡錦涛の仲間たちの追放または逮捕を考えると、胡錦涛がかつて党内で持っていた力はとっくに失われている。他の引退した指導者との関係を除けば、胡錦涛が習近平にとってもっともらしい脅威であると考えるのは非常に難しい。

また、中国のようなレーニン主義体制に見られる官僚劇を好んで行う、残酷極まりない行為でもあった。このシナリオでは、胡錦濤は単に拘束されるか、健康を理由に内密に軟禁される可能性があった。たとえ恥をかかせるにしても、毛沢東が自分に逆らった指導者に繰り返し行ったように、非公開の会議の中で行うことができたはずだ。中国共産党独自の内部秘密警察である中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)は、習近平の下で拷問を使う頻度が高くなるなど、厳しい態度で臨んでいることは有名である。軍高官の徐才厚は2014年、がん治療の最中に拘束され、翌年死亡した。

何年も正確な事実が明らかにならない可能性が高い。胡錦濤の健康状態について発表があるかもしれないし、単に事件が公的に説明されないだけかもしれない。万が一、胡錦濤が中央規律検査委員会に正式に拘束されれば、それは事態が大きく深刻化し、いつものように刑事告発と投獄に至るだろう。

胡錦濤に対して何が起きたとしても、習近平の権力は日曜日にはより明白になる。中央委員会の初期名簿(土曜の会議で指導部の中核である常務委員会を名目上決定し、日曜に発表する約200人)には、現首相で胡錦涛の子飼いの李克強や、汪洋、劉鶴といった比較的経済改革に熱心な人物が含まれていなかった。つまり、常務委員会はほとんど習近平の盟友ばかりになる可能性が高い。

2013年頃から、中国ウォッチャーたちは「胡錦濤の下での自由主義の黄金時代(golden age of liberalism under Hu Jintao)」という冗談を言うようになった。当時は、市民社会がゆっくりと、そしてたどたどしく進歩しながらも、政治的に保守的だった時代をそのように考えるのは不条理に思えた。しかし、その後10年間で、この話は冗談では済まなくなった。相対的に見れば、胡錦濤の時代は今やとんでもなく自由で開放的でありそれが、残酷なフィナーレを迎えているように見える。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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