古村治彦です。

 政治学(Political SciencePoliSci)の一分野として国際関係論(International RelationsIR)がある。国際関係論は1つの大きな学問分野として捉えられることもある。国際関係論には、3つの大きな学派(Schools)が存在する。(1)リアリズム(Realism)、(2)リベラリズム(Liberalism)、(3)コンストラクティヴィズム(Constructivism)である。これらの中でもまた細分化されていくのであるが、大きく3つあるということが分かればそれで十分だ。これらの学派の諸理論を使ってウクライナ戦争とそれを含む世界の現状を分析するとどのようなことになるかということを以下の論稿で紹介している。

 リアリズムは国家のパワー(力)と力の均衡を重視する。力の均衡が保たれていることで平和が維持される。冷戦期は米ソ二大超大国が世界秩序を形成する二極化世界だったがソ連崩壊後はアメリカ一国による世界秩序維持の一極化された世界であった。その中で、中国が経済的、軍事的に力を伸ばし、アメリカに挑戦する形になっている。世界覇権国の交代が平和裏に行われたことはなく、また、一極化から多極化へと進むと世界は不安定になり(考慮しなければならない相手国の数が増え、意図を誤解・曲解する危険性が高まる)、大国間の戦争の可能性が高まるということになる。

 リアリズムは「各国家は国益のために協力し合う」という楽観的な見方をする。そして、国際機関の役割や経済的な相互依存を重視する。「争うよりも協力し合うことで国益追求ができる」という考え方だ。しかし、国際機関は国益がぶつかり合う場所となり、経済的相互依存が平和的な関係をもたらすということもない(米中関係を考えてみれば分かる)。現在の世界は西側諸国(民主的な国々)の集まり対それ以外の国々の集まり(非民主的な国々)の断絶が深刻になっている世界であり、協力は大変に難しい状況だ。

 構成主義(Constructivism、コンストラクティヴィズム)の学者たちは、新しい考え(new ideas)、規範(norms)、アイデンティティー(identities)などの価値観を重視する学派だ。価値観の面でも世界では断絶が起きている。ソ連崩壊によって冷戦は終了し、西側が勝利した、西側の価値観である自由主義、人権、民主政治体制が勝利した、これこそが「歴史の終わり」だということになった。しかし、中国の台頭もあり、西側的な価値観に対する懐疑と批判が出てきている。それによって両者の対立は深まるばかりということになっている。

 西側諸国とそれ以外の世界の対立が激化すればそれは戦争につながるという悲観的な予測が成り立つほどに、現在の世界は不安定化し、対立は深まっている。短期的に見れば、アメリカがウクライナ戦争に大規模な支援を行っている現状で、中国と事を構えるということは考えにくい。また、中国も現在の経済力、軍事力でアメリカを圧倒することはできないので、これから10年単位で整備していかねばならない。しかし、中期的、長期的に見れば、直接対決、大国間戦争という可能性も捨てきれない。世界の大きな転換の期間がスタートしたと言いうことが言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

国際関係論の理論は大国間の争いが起きる可能性を示している(International Relations Theory Suggests Great-Power War Is Coming

-国際関係論の教科書を紐解くと、アメリカ、ロシア、そして中国は衝突するコースに乗っていることになる。

マシュー・コーニグ筆

2022年8月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/27/international-relations-theory-suggests-great-power-war-is-coming/?tpcc=recirc_latest062921

今週、世界中の何千人もの大学生が、初めて国際関係論の講義の入門編を受け始めることになる。教授たちが近年の世界の変化に敏感であれば、国際関係論の主要な諸理論が大国間の争いの到来を警告していることを教えることになるだろう。

何十年もの間、国際関係論の理論は、大国は協力的な関係を保ち、武力衝突を起こさずにその相違を解決することができるという、楽観的な根拠を与えてきた。

国際関係論の現実主義(Realism)の諸理論はパワーに焦点(power)を当て、何十年もの間、冷戦(Cold War)時代の二極世界(bipolar world)と冷戦後のアメリカが支配する一極世界(unipolar world)は、誤算(miscalculation)による戦争が起こりにくい比較的単純なシステムであると主張してきた。また、核兵器は紛争のコスト(cost of conflict)を引き上げるので、大国間の戦争は考えられないと主張した。

一方、国際関係論のリベラリズム(Liberalism)の理論家たちは、制度(institutions)、相互依存(interdependence)、民主政治体制(democracy)という3つの原因変数(causal variables)が協力(cooperation)を促進し、紛争を緩和すると主張した。第二次世界大戦後に設立され、冷戦終結後も拡張され依存している国際機関や協定(国連、世界貿易機関、核不拡散条約など)は、大国が平和的に対立を解決するための場を提供している。

更に言えば、経済のグローバライゼイションによって、武力紛争はあまりにもコストがかかりすぎるようになった。ビジネスがうまくいき、皆が豊かになっているのに、なぜ喧嘩をするのか? 最後に、この理論によれば、民主政治体制国同士が争う可能性が低く、協力する可能性が高い。過去70年間に世界中で起きた民主化(democratization)の大きな波が、地球をより平和な場所にしたのである。

同時に、構成主義(Constructivism、コンストラクティヴィズム)の学者たちは、新しい考え(new ideas)、規範(norms)、アイデンティティー(identities)が、国際政治をよりポジティブな方向に変えてきたと説明した。かつて、海賊、奴隷、拷問、侵略戦争は当たり前のように行われていた。しかし、この間、人権規範の強化や大量破壊兵器(weapons of mass destruction)の使用に対するタブーにより、国際紛争に対するガードレールが設置された。

しかし、残念なことに、これら平和をもたらす力はほとんど全て、私たちの目の前で崩壊しつつあるように見える。国際関係論の諸理論によれば、国際政治の主要な駆動力(major driving forces)は、米中露の新冷戦が平和的である可能性が低いことを示唆している。

まず、パワーポリティクスから始めよう。私たちは、より多極化した世界(more multipolar world)に入りつつある。確かに、ほとんど全ての客観的な尺度によれば、アメリカは依然として世界を主導する超大国であるが、中国は軍事力と経済力において第2位の地位を占めるまでに強力に台頭してきた。ヨーロッパは経済的、規制的な存在である。より攻撃的なロシアは、地球上で最大の核兵器備蓄を維持している。インド、インドネシア、南アフリカ、ブラジルなどの発展途上の主要諸国は、非同盟路線(nonaligned path)を選択している。

リアリズムの学者たちは、多極化体制は不安定であり、大きな誤算による戦争が起こりやすいと主張する。第一次世界大戦はその典型的な例である。

多極化体制が不安定なのは、各国が複数の潜在的敵対勢力(multiple potential adversaries)に気を配らなければならないからだ。実際、現在、米国防総省は、ヨーロッパにおいてはロシア、インド太平洋においては中国との同時衝突の可能性に頭を悩ませている。更に言えば、ジョー・バイデン米大統領は、イランの核開発問題に対処するための最後の手段として、軍事力行使の可能性を残していると述べている。アメリカによる3正面戦争もあり得ない話ではない。

誤算による戦争は、ある国家が敵国を過小評価した時に起こることが多い。国家は敵国のパワーや戦う決意を疑い、敵国を試す。敵国がハッタリで、そうした挑戦が報われることもある。しかし、敵国が自国の利益を守ろうとするのであれば、大きな戦争に発展する可能性がある。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナに侵攻する際、戦争は簡単だと誤った判断をしたのだろう。リアリズムの学者の中には、以前からロシアのウクライナ侵攻を警告していた人もいるし、ウクライナ戦争がNATOの国境を越えて波及し、米露の直接対決に発展する可能性もまだ残っている。

加えて、中国の習近平国家主席が台湾をめぐって誤算を犯す危険もある。台湾を防衛するかどうかで混乱するワシントンの「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」政策は、不安定さに拍車をかけるだけだ。バイデンは台湾を守ると言ったが、彼が率いるホワイトハウス自体がそれに反論した。多くの指導者たちが混乱しており、その中にはおそらく習近平も含まれている。習近平は、台湾への攻撃から逃れられると勘違いし、それを阻止するためにアメリカが暴力的に介入してくるかもしれない。

更に、イランの核開発問題で何人もの米大統領が何の根拠も裏付けもなく、「あらゆる選択肢がある(all options on the table)」と脅したことで、テヘランはアメリカの反応なしに核開発に踏み切れると思い込んでしまうかもしれない。もしイランがバイデンの決意を疑い、そして誤解すれば、戦争に発展する可能性がある。

また、リアリストの学者たちは力の均衡(balance of power、バランス・オブ・パワー)の変化にも注目し、中国の台頭とアメリカの相対的な衰退について懸念を持っている。権力移行理論(power transition theory)によると、支配的な大国(dominant great power)が没落し、新興の挑戦者(ascendant challenger)が台頭するとしばしば戦争に発展する。専門家の中には、米国と中国がこの「トゥキディデスの罠 (Thucydides Trap)」に陥っているのではないかと心配する人もいる。

彼らの機能不全の独裁体制により、北京やモスクワがすぐに米国から世界のリーダーシップを奪う可能性は低いが、歴史的な記録を詳しく見てみると、挑戦者は拡大する野心が妨げられた時に侵略戦争(wars of aggression)を開始することがある。第一次世界大戦中のドイツや第二次世界大戦中の日本のように、ロシアはその衰退を逆転させようとしている可能性があり、中国も弱く、そして危険である可能性がある。

核抑止力(nuclear deterrence)はまだ機能しているという意見もあるだろうが、軍事技術は変化している。人工知能(artificial intelligence)、量子コンピュータと通信(quantum computing and communications)、積層造形技術(additive manufacturing)、ロボット工学(robotics)、極超音速ミサイル(hypersonic missiles)、指向性エネルギー(directed energy)などの新技術が、世界経済、社会、戦場を一変させると予想され、世界は「第4次産業革命(Fourth Industrial Revolution)」を体験している。

多くの防衛専門家は、私たちは軍事における新たな革命の前夜にいると考えている。これらの新技術は、第二次世界大戦前夜の戦車や航空機のように、攻勢に転じた軍隊に有利に働き、戦争の可能性を高める可能性がある。少なくとも、これらの新兵器システムは力の均衡の評価を混乱させ、上記のような誤算のリスクを高める可能性がある。

例えば、中国は、極超音速ミサイル、人工知能の特定の応用、量子コンピューティングなど、こうした技術のいくつかでリードしている。こうした優位性、あるいは北京ではこうした優位性が存在するかもしれないという誤った認識が、中国を台湾に侵攻させる可能性がある。

一般に楽観的な理論(optimistic theory)であるリベラリズムでさえも、悲観主義(pessimism)になる理由がある。確かに、国際関係論のリベラル派の人々は制度、経済的相互依存(economic interdependence)、民主政治体制がリベラルな世界秩序の中での協力を促進したことは事実である。アメリカと北米、ヨーロッパ、東アジアの各地域の民主的同盟諸国は、かつてないほど結束を強めている。しかし、これらの同じ要因が、自由主義的世界秩序(liberal world order)と非自由主義的世界秩序(illiberal world order)の間の断層において、ますます対立を引き起こしている。

新たな冷戦の中で、複数の国際機関は新たな競争の場となっただけのことだ。ロシアと中国がこれらの機関に入り込み、本来の目的から反している。2月にロシア軍がウクライナに侵攻した際、ロシアが国連安全保障理事会(United Nations Security Council)の議長を務めたことを誰が忘れることができるだろうか? 同様に、中国は世界保健機関(World Health OrganizationWHO)での影響力を利用して、新型コロナウイルスの出所に関する効果的な調査を妨害した。独裁者たちは、自分たちの深刻な人権侵害が精査されないように、国連人権理事会(U.N. Human Rights Council)の議席を争っている。国際機関は協力を促進する代わりに、ますます紛争を悪化させている。

また、リベラル派の学者たちは、経済的な相互依存が紛争を緩和すると主張する。しかし、この理論には常に「鶏と卵の問題(chicken-and-egg problem)」がある。貿易が良好な関係を促進するのか、それとも良好な関係が貿易を促進するのか?私たちは、その答えをリアルタイムで見ている。

自由世界は、モスクワと北京にいる敵対的な存在に経済的に依存しすぎていることを認識し、できる限り早くその関係を断ち切ろうとしている。欧米諸国の各企業は一夜にしてロシアから撤退した。アメリカ、ヨーロッパ、日本の新しい法律や規制は、中国への貿易と投資を制限している。ウォール街が、中国人民解放軍と協力してアメリカ人殺害を目的とした兵器を開発している中国のテクノロジー企業に投資するのは、単に非合理的なことでしかない。

しかし、中国は自由な世界からも切り離されつつある。習近平は、中国のハイテク企業がウォール街に上場することを禁止しているが、これは西側の諸大国と独自情報を共有したくないからだ。自由主義国と非自由主義国の間の経済的相互依存は、紛争に対するバラスト(ballast 訳者註:船のバランスを取る装置)として機能してきたが、今や侵食されつつある。

民主平和理論(democratic peace theory)は、民主政治体制国家は他の民主国家と協力するとしている。しかし、バイデンが説明するように、今日の国際システムの中心的な断層は、「民主政治体制と独裁政治体制の戦い(the battle between democracy and autocracy)」である。

確かに、アメリカはサウジアラビアのような非民主的国家と友好的な関係を保っている。しかし、世界秩序は、アメリカとNATO、日本、韓国、オーストラリアなどの現状維持志向(status quo-oriented)の民主的同盟諸国と、中国、ロシア、イランなどの修正主義的独裁国家(revisionist autocracies)との間でますます分裂しているのである。ナチス・ドイツ、ファシスト・イタリア、大日本帝国に対する自由世界の対立の響きを探知するために聴診器(stethoscope)を必要とすることはない。

最後に、グローバルな規範の平和的効果に関するコンストラクティヴィズムの主張には、これらの規範が本当に普遍的なものかどうかという疑問が常につきまとう。中国が新疆ウイグル自治区で大量虐殺を行い、ロシアが血も凍るような核の脅威を示し、ウクライナで捕虜を去勢する中で、私たちは今、ぞっとするような答えを手に入れたのである。

更に言えば、コンストラクティヴィズムの学者たちは、国際政治における民主政治体制対独裁政治体制の対立が、単に統治(governance)の問題ではなく、生き方(way of life)の問題であることに注目するかもしれない。習近平やプーティンの演説や著作は、独裁体制の優位性や民主政治体制の欠点について、しばしばイデオロギー的な主張を展開している。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは、民主的な政府と独裁的な政府のどちらが国民のためにより良い成果を上げられるかという20世紀型の争いに戻っており、この争いにより危険なイデオロギー的要素が加わっている。

幸いなことに、良いニューズもある。国際政治を最もよく理解するには、いくつかの理論の組み合わせの中に見出すことができるかもしれない。人類の多くは自由主義的な国際秩序を好み、この秩序はアメリカとその民主的同盟諸国の現実主義的な軍事力によってのみ可能である。更に、2500年にわたる理論と歴史が示唆するのは、こうしたハードパワーによる競争では民主政治体制国家が勝利し、独裁国家は最終的に悲惨な結末を迎える傾向があるということだ。

残念ながら、歴史を正義の方向に向ける明確な瞬間は、しばしば大国間の戦争(major-power wars)の後にしか訪れない。

今日の新入生たちが卒業式で、「第三次世界大戦が始まった時、自分はどこにいたか」などと回想していないことを願おう。しかし、国際関係論の理論には、そのような未来の出現を懸念する理由を多く示している。

※マシュー・コーニグ:大西洋協議会スコウクロフト記念戦略・安全保障研究センター副部長、ジョージタウン大学政治学部、エドマンド・A・ウォルシュ記念外交関係学部教授。最新刊に『大国間競争の復活:古代世界から中国とアメリカまでの民主政治体制対独裁性体制』がある。ツイッターアカウント:@matthewkroenig

(貼り付け終わり)
(終わり)

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