古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が勃発し、世界は「先進諸国の西側諸国(the West)」対「新興諸国のそれ以外の国々(the Rest)」の深刻な分断構造になっていることが明らかになった。西側諸国にはアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などで、それ以外の国々は中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカなどで構成されている。人口で見れば西側諸国が15%、それ以外の国々は85%であり、GDPは拮抗状態からそれ以外の国々が上回っている状態になっている。

 世界は分断状態になっている中で、アメリカ対中国・ロシアという構造の中で、自分たちの進む方向性に悩むのは属国群である。日本はアメリカの属国であり、アメリカの意向にきちんと従わねばならないということになっている。現在、岸田文雄政権が打ち出している「防衛費GDP比2%」という基準も、「アメリカ様が決めた数字」である。現在の水準よりも倍増することになるが、増えた分の多くはアメリカ製の兵器購入に充てられることになる。お金だけの問題で済めばまだ良いのだが、「充実した」兵器を持つようになり、ミサイルによる「先制攻撃」ができるようになれば、中国と実際にぶつかる係をやらされる危険性が出てくる。日本が中国と実際にぶつかるようになれば、日本は今よりもより悲惨な状況に落ち込んでしまうことだろう。そのようなことはなんとしても避けねばならない。そのためには、積極的に中国と「対話すること」である。

 そのお手本となるのがドイツのようだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相は先月、ドイツの産業界のリーダーたちと共に中国を訪問した。ショルツ訪中は、西側諸国から大きな批判を受けた。中国とロシアに対抗するために、西側諸国は団結して臨まねばならないのに、その団結を崩す行為だという批判である。特にドイツとフランスとの間の不仲は西側諸国の団結にとっての大きな懸念材料ということになる。フランスは経済力こそ大したことはないが、ヨーロッパ大陸で唯一の核兵器保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国である。腐っても鯛、大国、昔の表現で言えば列強である。ドイツは、経済力はヨーロッパ随一であるが、軍事面では制限を持っている。フランスはドイツの大国化を懸念しており、西側からの離脱を心配しているのだろう。ドイツが中露と組んでしまえば(その可能性はかなり低いが)、フランスの存在感は消し飛んでしまう。EUNATOでドイツを抑え込んでいるのでフランスは安心していられる。

 オラフ・ショルツ(Olaf Scholz、1958年-、64歳)はドイツ社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)所属で、ハンブルク市長からアンゲラ・メルケル内閣(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、社会民主党の連立政権)の副首相兼財務大臣を務めた後、2021年12月にドイツ首相に就任した。オラフ内閣は中道左派の社会民主党、急進左派の緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、中道右派の自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権となっている。副首相兼経済・気候保護大臣には緑の党のロベルト・ハーベック(Robert Habeck、1969年-、53歳)が、外務大臣には同じく緑の党のアンナレーナ・ベアボック(1980年-、41歳)が就任している。

 問題は、ドイツ国内、ショルツ政権内から中国との関係を断ち切ることを求める声が出ていることだ。その主犯格は、連立政権の緑の党出身閣僚たち、特にアンナレーナ・ベアボック外相だ。アンナレーナ・ベアボックはアメリカで言えば、民主党内の人道的介入主義派のような存在だ。きれいごとを並べながら、実際には好戦的で、世界中の非民主的な国々の指導者たちを打倒しなければならないという狂信的な信念に凝り固まった人物である。子のような人物たちの過度な理想主義的主張が世界を戦争に陥れ、平和をかき乱す。

 「地獄への道は善意で敷き詰められている(The road to hell is paved with good intentions)」という箴言を私たちは嚙み締めねばならない。

(貼り付けはじめ)

ショルツ独首相、習中国主席と会談 ロシアへの働きかけ求める

2022115日 BBC日本語版

https://www.bbc.com/japanese/63524371

ドイツのオラフ・ショルツ首相は4日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。ショルツ氏は、ウクライナでの戦争を止めるため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた。

新型コロナウイルスの世界的な大流行が発生して以降、ヨーロッパの指導者が北京を訪れるのは初めて。習氏が先月開催された共産党大会で権力の掌握を強めてから、欧州首脳が習氏と会談するもの初めてだ。

ショルツ氏は、ロシアの核による威嚇が「無責任かつ非常に危険」だという認識で両国は一致したと述べた。

習氏はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為を非難していない。

中国の報道によると習氏は、危機を平和的に終わらせるよう国際社会が支援し、核兵器の使用や威嚇に反対すべきだと述べたという。

中国外務省は、習氏が「無責任」「非常に危険」という言葉を使ったとは説明していない。

ショルツ氏と習氏は今回、ウクライナでの戦争、世界の食料とエネルギーの安全保障、気候変動、世界的な感染流行などについて、話し合い続けることで合意した。

台湾に関しては、ショルツ氏は従来どおり、現状のいかなる変更も平和的かつ相互の合意に基づかなくてはならないとするドイツの見解を繰り返した。人権については、特に新疆地区の少数民族について保護の必要があると述べた。

●欧州で懸念広がる

ショルツ氏の今回の訪中は、滞在時間がわずか11時間。現時点での訪中の是非は、ドイツと欧州各国で懸念を呼んでいる。

中国共産党大会が終わってまもないタイミングでもあるだけに、権威主義を強める習氏の国内評価を高める材料にされかねないと、懸念されている。

これについて、ジェニー・ヒルBBCベルリン特派員は、ショルツ氏は、前首相のアンゲラ・メルケル氏と同様、世界の問題は中国との協力することでのみ解決できるという考えの持ち主だと指摘。首相は、直接会うことで、双方が強く対立する問題でも話し合いが進むと考えているという。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、ドイツは欧州連合(EU)の中で最も経済力と影響力をもつ国であり、その言動は重要だと指摘。

ショルツ氏の今回の訪中は、発表はされたものの、EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでしたとアドラー編集長は話す。

ヨーロッパがドイツを筆頭にロシア産ガスへの依存から脱却しようとする中、「ドイツはビジネスの見込みに目がくらみ、中国に近づきすぎているのではないか?」と、欧州で疑問視されているのだと、編集長は言う。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が何年も前から、EUの中国への依存を弱めるよう働きかけてきたこともあり、EUは貿易相手国の多様化は賢明なことだと考えるようになっているが、ショルツ氏はその歩調から外れていると懸念されていると、同編集長は解説した。

<解説> ジェニー・ヒル BBCベルリン特派員

ショルツ首相の前任、アンゲラ・メルケル氏も、中国訪問時には必ずドイツ経済界の幹部を同行した。メルケル氏は「貿易を通じた変化」を政策として追求し、中国やロシアといった国々との関係は、経済的な結びつきを通じて、政治的関係にも影響を与えられると考えていた。

ドイツ経済は長く、安価なロシアのエネルギーに依存してきた。しかし、ウクライナでの戦争によって、ドイツのその戦略の本質的な欠陥があらわになった。そしてかつてはパートナーだった中国のことも、ドイツ政府は今ではライバルとみなしている。

習氏は今回の会談で、ドイツとの「より深い協力」をショルツ氏に求めた。すでにドイツ経済が中国と密接すぎると考える人にとって、これはぞっとする発言だったはずだ。中国が台湾に侵攻したらどうなるのか、そういう人たちは心配している。

すでに100万人以上のドイツ人の雇用が、中国との関係に依存している。

例えば、自動車大手ダイムラーは、製造した車の3割以上を中国で販売している。化学メーカーBASFは、中国南部に新工場を開設したばかりで、年内に100億ユーロ(約1.5兆円)の投資を予定している。

ドイツ政府内で、中国との「デカップリング」(切り離し)を主張する人はほとんどいない。ショルツ首相訪中の前夜、経済界の幹部はこう述べた。「今は中国の陶器を割るべき時ではない。それが唯一のアドバイスだ」と。

とはいえ、ドイツが過度に中国に依存するのを防ぎたいと考えている人は多い。

ショルツ氏には、高度な綱渡りが求められている。ドイツ経済を守りながら、ドイツ企業の利益を最優先しているという非難を避けなくてはならないのだ(そうした非難はここ数カ月でかなり出ている)。

変化する中国にどう対応するか。ショルツ政権にとっては、それが決定的な試練となるかもしれない。

(英語記事 Scholz asks China to press Russia to end its war

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オラフ・ショルツは中国に対する西側の結束を弱めている(Olaf Scholz Is Undermining Western Unity on China

-ドイツ首相の独走(go-it-alone approach)は、ドイツ国内、EU、そして国際的なパートナーから疎外されている。

ファーガス・ハンター、ダリア・インピオンベイト筆

2022年11月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/23/germany-china-eu-scholz-xi-meeting-economy-trade-g-20/

「政治指導者たちは、変えられないものを受け入れる冷静さ(serenity)と、変えられるものを変える勇気(courage)、そしてその2つを区別する知恵(wisdom)を持つべきだ」。

中国の習近平国家主席は今月初め、北京でドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した際、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの「ニーバーの祈り(Serenity Prayer)」を愛読していた西ドイツの故ヘルムート・シュミット首相を引き合いに出して、この言葉を述べた。

この言葉の引用には明確な目的がある。習近平にとって、ショルツの訪中は、10月の中国共産党第20回全国党大会で習近平の権限が更新された後、G7首脳として初めてのことだった。シュルツの訪中は習近平にとって北京の核心的利益(core interests)を再確認する機会であった。ショルツにとって残念だったのは、習主席が平静に受け入れられることを期待していたことのリストに、中国の厄介な少数民族の扱いから南シナ海の軍事化まで、あらゆることが含まれていたことだ。

中国との外交的関与は、特に西側諸国の政府が中国との関係をますます緊張させる中で、非常に重要である。問題は、それをどのように行うかである。ジョー・バイデン米大統領をはじめとする各国首脳が今月、インドネシアのバリ島で開かれたG20サミットを習近平との二国間交渉の場としたのとは異なり、ドイツの首相は先手を打とうとした。オラフ・ショルツ首相は、新型コロナウイルスの流行により、このような二国間会談を3年間中断していたため、習主席と直接話す時期が来たと主張した。ショルツ首相は、独中関係の問題に立ち向かうのは、まさにそれが通常の事態の中ではないからだと述べた。『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に寄稿した論稿で、ショルツは「中国が変われば、私たちの中国へのアプローチも変わるはずだ」と書いている。

しかし、ショルツのドイツ第一主義のアプローチ(Germany-first approach)は、ドイツの連立政権の中国政策展開を混乱させ、ヨーロッパや世界のパートナーを遠ざけている。好戦的になりつつある中国にアプローチする最も効果的な方法は、統一戦線による対処だ。アメリカ民主党政権は、中国に関するレトリックと政策を一致させ、優位な立場でテーブルにつく必要がある。主観的な国益に基づく単独行動は、中国に利用されてしまう脆弱性をもたらす。

今回のG20サミットでは、習近平の戦略的な二国間交渉を優先する志向が顕著に表れた。習近平は、フランス、スペイン、オランダ、イタリアの各首脳と会談し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長やシャルル・ミシェル欧州理事会議長との正式な会談を避けた。つまり、習近平は、集団的利益を代表する欧州委員会の、中国に対して厳しい姿勢を取る指導者たちを避け、自国の利益と負債を優先する各国首脳を相手に運試しをした。

ショルツ首相は北京で、私的な会合においても、公的な場においても、難しい問題を提起したが、その方法はドイツとEUのそれぞれの中国政策に水を差すことになった。ショルツ首相は、ドイツの対中経済関係の強化が最優先であるという印象を強く残したが、他のヨーロッパの指導者やベルリンでの自身の連立パートナーはその反対を押し進めている。中国は、ショルツ首相のドイツを西側諸国連合の弱点と見なし、これを利用しようとする可能性がある。

ショルツ首相は北京で、ロシアのウクライナ侵攻や中国の人権侵害、台湾海峡でのエスカレート、不公正な経済行為、同じEU加盟国のリトアニアを含む他国への経済的威圧を非難する明確なメッセージを打ち出した。

今回のショルツ首相の訪中では、習近平国家主席が2つの声明を発表したことが大きな成果として挙げられたと専門家たちは強調している。中国の習近平主席は、ウクライナでの核兵器の使用に対して公式に警告し、バイオエヌテック社のワクチンを中国に住む外国人向けに承認することに同意した。これは中国におけるmRNAワクチンの初めての青信号となった。在中国欧州商工会議所会頭のヨルグ・ヴットケは、オーストラリア戦略政策研究所のポッドキャストのインタヴューで、「ショルツ首相がベルリンにとどまって中国を訪問していなかったら、習主席の公約はどれも実現しなかっただろう」と述べた。

しかし、中国は実際にどれだけのものを提供したのかについては明確にしておくべきだ。習近平はウクライナで核兵器を使用すると脅す勢力としてロシアを名指ししなかったし、中国はロシアの侵攻を非難することを拒否し続けた。中国や他の国がウクライナにおけるレッドラインとして核兵器の使用を定義することは、ロシアがそこで続けている通常兵器の侵略を容認するというシグナルを送ることになる。これは中国にとって非常に低いハードルであり、北京は自らを責任あるグローバルプレーヤーと見せかけながら、平和の実現にはほとんど貢献しないということになる。

多くの専門家たちは、今回のショルツ訪中の真の目的は、ドイツの対中商業活動の強化にあったと主張している。シュルツの訪中は、中国の海運大手コスコのハンブルク港への投資を、閣僚や治安当局の反対や懸念にもかかわらず、強引に承認した直後に行われえた。フォルクスワーゲン、シーメンス、BASFといった大企業を含む12名のドイツ産業界のトップと共にシュルツは北京に到着した。

BMWのオリバー・ジプセ会長は新華社通信の取材に対し、「この訪問は中独間の経済協力強化に向けた強いシグナルだ」と述べ、中国の外交官たちや国営メディアも同じ感想を述べた。中国政府が発表したショルツ・習近平会談の公式資料には、「ドイツは中国との貿易・経済協力を緊密化する用意があり、中国とドイツの企業間の相互投資の拡大を支持する」と記されている。もしこれが本当にショルツの立場なら、リトアニアやオーストラリアといったドイツのパートナー国が中国の市場力にさらされることで経済的圧迫に直面している今、非常に甘い態度だと感じられる。

ショルツは、経済・気候変動担当大臣(副首相)のロベルト・ハーベックや外務大臣のアンナレーナ・ベアボック(両者ともに緑の党)といった連立政権の閣僚たちと、中国への対処をめぐって対立してきた。緑の党の閣僚たちは、「これ以上の甘さはなしで(no more naivety)」、中国からの「恐喝(blackmail)」のリスクを減らす努力をするよう求めている。ショルツ連立政権の6名の閣僚はコスコの投資に反対したが、最終的にはハンブルク港における中国の出資比率に上限を設定するという妥協案に合意した。ハーベックは「ドイチェ・ヴェレ」とのインタヴューで、中国に大きく依存するドイツ企業は、台湾をめぐる潜在的な対立など中国に関して地政学的な逆風が吹くと、「ビジネスモデルを危険にさらす(risk their business model)」ことを意識する必要があると警告している。ハーベックは、先週シンガポールで開催されたアジア太平洋地域ドイツビジネス会議では、ドイツの現在の経済多角化の取り組みは適切ではなく、「私たちは中国への依存度を高めつつある」と述べた。

ショルツの行動は、連立政権の閣僚たちの言動と相容れない。今、ドイツ政府が国内企業に対して明確に伝えるべきことは、中国に対する脆弱性(vulnerability)を高めるのではなく、軽減するための支援を行うことだ。

ドイツ首相ショルツは、誤った二項対立で自らのアプローチを正当化しようとしている。ドイツなどは中国との関わりを拒むことはできないと主張し、関係切り離し(デカップリング、decoupling)は「間違った答え(wrong answer)」だと述べた。しかし、中国との本格的な関係切り離し(デカップリング)は真剣に考慮するような命題ではない。中国とドイツ、そして世界経済との融合は巨大であり、それを解体することは非常に複雑で有害な事業となる。むしろ、中国と効果的に関わりながら、特に重要な分野では市場と供給チェーンの多様化を目標に進めていくことが問題となる。例えば、フォルクスワーゲンは利益の半分を中国市場から得ており、中国に30以上の工場を持っている。これは明らかに経済的な過剰依存(economic overreliance)であり、フォルクスワーゲンとドイツの双方をリスクに晒す。

少数の強力な企業経営者たちが、政府の外交政策に不当な影響を与えることを、ショルツは許してはならない。利益至上主義のCEOたちが、北京との関係において、一本調子で近視眼的な考え以上のことを進めると期待を持ってはいけない。各種世論調査によると、ドイツの有権者は中国を信頼しておらず、コスコの港湾投資にも、人権よりも企業活動を優先させることにも反対している。ショルツ首相は、ドイツの長期的な経済的回復力と政治的・安全保障的な懸念を考慮し、より洗練された対中アプローチを展開する必要がある。

習近平はいわゆる二重循環政策(dual circulation agenda)によって、自国の自給自足を高める一方で、他国を中国の輸出品に依存させることを望んでいる。中国政府がどのような保証をしようとも、実質的な開放(opening)と相互依存(reciprocity)は実現しない。ショルツ首相は、中国との貿易に現在も存在する障壁を、自らの政策がいかに危ういものであるかを示すシグナルとして受け止めるべきだろう。

国内的には、ショルツはバーボックやべアベックと連携し、ドイツが首尾一貫して経済的な強度を高め、中国への依存に伴うリスクを確実に減らす必要がある。間もなく発表されるドイツの国家安全保障戦略(national security strategy)と中国戦略(China strategy)は、いずれもドイツ政府の団結に支えられた強固で明確な青写真(blueprint)である必要がある。ドイツの産業界が明確な方向性を示し、その脆弱性を実質的に軽減するためにこれらの文書が必要である。

首尾一貫したドイツの戦略は、EUの中国に対する位置づけにも不可欠である。ヨーロッパがロシアの天然ガスに過度に依存していることに対する高い代償を払っている時に、中国の投資を優先させることは、EUの他の国々、特にEU最大の経済力を持つ国々にとって良い手本とはならない。EUのトップ外交官(欧州連合外務・安全保障政策上級代表)であるジョセップ・ボレルは、EU各国の大使に対する最近の講演で、中国とロシアに経済的に依存することはもはや実現不可能であると述べた。「中国とロシアに経済的に依存することはもはや不可能であり、その調整は困難であり、政治的な問題を引き起こすだろう」と警告した。

ショルツは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からの北京への招待を拒否したと伝えられており、2人は効果的なパートナーシップを確立するのに苦労している。これは、欧州の最も強力な2人の指導者が、中国に関して結束を示す機会を逃したことになる。ショルツ首相は、マクロン大統領との関係を安定させ、EUの中国への取り組みを支援する必要がある。

欧州を越えて、ドイツは米国やインド太平洋地域の志を同じくするパートナーとともに、中国の悪質な行動に対抗するための協調的な戦略について、更に努力する必要がある。今のドイツは、西側諸国のパートナーの中では弱く見える。ある中国のアナリストは、ショルツ首相の中国訪問後、「ショルツ首相は、ドイツが“同盟(alliance)”という古い道を歩むつもりはないことを明確にしたのだから、中国を孤立させる訳にはいかないのだ」と主張した。ドイツのパートナーもまたやるべきことがある。たとえばアメリカは、中国の半導体産業を抑制する取り組みなど、中国との戦略的競争へのアプローチを鋭くすることで、主要な同盟諸国とより効果的な協議を行うことができるだろう。

自由主義諸国が、習近平の意思決定に真の意味で影響を与え、今後数年間に経済的・政治的な強靭さを構築することを望むなら、国家レヴェル、地域レヴェル、国際レヴェルの連帯(solidarity)が不可欠である。この連帯が信頼に足るものであるためには、戦略的な国内政策と、ベルリン、ヨーロッパ、そして世界各地での協調的な外交活動が必要である。

ファーガス・ハンター:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@fergushunter

※ダリア・インピオンベイト:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@DariImpio

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フランス・ドイツの協力関係に火がついている(The Franco-German Motor Is on Fire

-ウクライナ戦争はヨーロッパにおけるもっとも有力な国々をこれまでになく対立させている。

キャロライン・デグロイター筆

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/europe-eu-franco-german-motor-fire/

1990年代のある日、イタリア人の欧州委員会職員リカルド・ペリッシェは、ブリュッセルのオフィスビルの廊下で、当時の欧州委員会委員マヌエル・マリンとばったり会った。スペイン人のマリンは、明らかに何かに怒っている様子でにペリッシェ言った。「リカルド、君は自分が何であるか分かっているか? リカルド、自分が何者か分かっているか?」。ペリッシェが困惑した表情を浮かべると、マリンは次のように続けた。「この場所で問題提起し決定することが許されるのはフランス人とドイツ人だけだ。イギリス人は時々それらが許される。他の人間は質問することしか許されない」。

ペリシッチは、最近、この逸話を持ち出し、EUにとって独仏関係がうまく機能することが重要であると述べた。現在、フランスとドイツの間には様々な摩擦がある。ドイツは、国民や産業界への国家による多額のエネルギー補助金、中国との一方的な取引継続、ウクライナへの不十分な資金・物資支援など、ヨーロッパの国らしくない行動が非難されている。10月には独仏合同議会が中止されたほどだ。しかし、ペリシッチは、EUでは常にフランスとドイツの間で問題が起きていると指摘する。そして、その解決は他の国の問題解決より優先されることが多い。

従って、現在の独仏の摩擦の大部分は当然のことである。しかし、両国の間には、解決するのがより困難な、より深刻な倦怠感(malaise)も存在する。

戦後のヨーロッパで独仏の摩擦が常態化していたのは、単純な理由からである。1950年代に欧州統合(European unification)が始まるまで、ドイツとフランスは大陸における権力をめぐって、1870年から1871年、1914年から1918年、1939年から1945年の3度にわたる大きな戦争を戦い、何百万人もの人々が命を落とし、ヨーロッパの大部分が破壊された。そのため、欧州統合は、ルクセンブルクやデンマークが関与する紛争ではなく、この強力な2国間の紛争を管理することに焦点を当てた。今日に至るまで、EUの使命の1つは、フランスとドイツが問題を平和的に解決し続けることを保証することだ。70年間、政治的・経済的な文化が異なり、何一つ意見が一致しない両国は、一発の銃声も発しなかった。現在のヨーロッパでは、弾薬ではなく、言葉を使って撃ち合う。

ペリシッチが書いているように、他のEU諸国から来た人たちは、頻繁に起こる独仏のいさかいを「希望と苛立ち、そして実際に参加できないことへの不満が混じり合って」見ているが、70年間、そうした状況でうまくいってきたのである。

現在の独仏問題のほとんどは現在の状況から説明することができる。世界は変化し、EUも変化を余儀なくされている。エネルギー政策、予算問題、安全保障など、ロシアのウクライナ戦争による諸問題について、パリやベルリンを中心に妥協点を見出すために、EUは目下多忙を極めている。ブリュッセルの官僚たちは、いつもながら助産婦のような存在で、ヨーロッパの提案の検討や欧州各国首脳の閣僚会議・首脳会議の準備に余念がない。メディアにとっては、匿名の外交官や政治家によるオフレコのブリーフィングで相手を非難したり、密室で行われる交渉の詳細をリークしたりと、多くのドラマがある。繰り返すと次のようになる。これは普通のことだ。おそらく、何らかの妥協が手の届くところにあることを示しているのだろう。

しかし、そこには、戦後のパリとベルリンの関係の根幹に関わる、より深い倦怠感もある。フランソワ・ミッテラン大統領の特別顧問で欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)の初代総裁を務めたフランスの経済学者ジャック・アタリは最近、「長期的な戦略的利益の違い(difference of long-term strategic interests)」が生じていると指摘し、ヨーロッパが大きく前進することによってのみ対処できるとしている。しかし、独仏戦争の直接的な記憶が薄れつつある現在、両国の現在の指導者たちはこのことを十分に認識していないのではないかと危惧している。その結果は、「フランスとドイツの戦争が再び起こる可能性がある」ということだ。

現在のフランスとドイツの乖離は、EUの中核的な機能の1つである、ドイツが再びヨーロッパでこれほど支配的な存在になることを防ぐ機能にまで遡る。これまでのところ、これは大成功を収めている。欧州統合が始まって70年、ドイツ人はおそらく世界で最も優れた平和主義者になったと言えるだろう。ドイツ連邦軍(Bundeswehr)は資金不足で知られている。ドイツ人自身は、他のヨーロッパ人よりもドイツの力を恐れている、とよく言われる。だから、EUの「貿易を通しての変革(Wandel durch Handelchange through trade)」、貿易関係で政治的変化をもたらす戦略がドイツによく似合うのである。一方、経済的に遅れをとり、ドイツのユーロ保証に財政を依存しているフランスは、ヨーロッパの外交・安全保障・防衛政策の主導権を握っている。

このような独仏による役割分担は、両国だけでなく、EUにとっても長らく好都合であった。フランスとドイツは互いに補完し合い、それぞれが得意分野に集中することができた。ドイツは地政学(geopolitics)を考慮に入れずに貿易に集中でき、フランスは大陸で唯一の核保有国として本格的な軍隊を持ち、国連安全保障理事会の常任理事国として、フランスの債務や赤字をあまり指摘せずに、威勢のいい声を上げることができた。しかし、この関係がアンバランスになっていることは以前から明らかになっていた。ヨーロッパでは、ドイツは自らを小さく見せることが多いが、フランスはその逆を行う傾向がある。

ロシアのウクライナ侵攻以降、独仏間の離間がEUの政治に表面化し、双方に軋轢を生じさせている。戦争によって、ドイツは今、2つの大きな頭痛の種を抱えている。1つ目の頭痛の種としては、対露制裁と豊富なロシア産ガスの突然の遮断によって、ドイツの成長モデルが危機に瀕していることだ。EU加盟国の多くが依存するヨーロッパの中心的な経済主体が、久しぶりに輸出よりも輸入を多くすることになった。ドイツのオラフ・ショルツ首相が今月、批判を浴びた中国訪問を必死に擁護したのはこのためだ。

ドイツにとっての2つ目の頭痛の種は、ロシアの脅威からヨーロッパを守るのはフランスではなく、NATOであるという事実だ。ドイツは突然、ヨーロッパがフランスに依存できない安全保障・防衛政策を緊急に必要としていることを認識した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ヨーロッパの「戦略的自立性(strategic autonomy)」について興味深い考えを示しているが、それが何を意味し、誰のリーダーシップの下で実現されるべきかについては曖昧なままだ。だからこそ、オラフ・ショルツ独首相は対米関係の改善を新たな優先課題としたのである。ワシントンの政策立案者たちを眠らせないのは、ウクライナでもヨーロッパでもなく中国であることを知りながら、大西洋の連帯を重視していることが、そのことを物語っている。このような状況下で、ベルリンでは、「隠れ蓑(cover)」を求めている。

フランスは鼻で笑われ馬鹿にされたと感じている。フランスのコラムニストであるリュック・ド・バロシュが「ウクライナに18台の戦車を送るのがやっとだった」と書いているように、フランスが軍事的限界を露呈したことにフランスは傷ついた。その結果、パリはベルリンに批判を浴びせている。マクロン大統領の数々のヨーロッパ構想に応じなかったベルリンが、何故独自路線を歩んでいるのか? 何故ショルツは1人で中国に行ったのか? 何故ベルリンは今年、フランスのラファールではなく、アメリカのF-35戦闘機を発注したのか? ドイツがフランスとの調整なしに突然一方的なイニシアチブを取るという事実は、パリとベルリンの間の微妙なバランスを崩す。ハーヴァード大学ビジネススクールのフィリップ・ル・コレは、『ル・モンド』紙に「ドイツの態度は、リスクが十分に立証されているにもかかわらず、自己中心的で短絡的であり、ヨーロッパの利益を考慮していない」と述べている。

過去にも地政学的な変化によって、独仏の間に深い乖離が生じたことがある。指導者たちは、ヨーロッパ統合に飛躍することでこれを解決した。例えば、1989年のベルリンの壁崩壊後、東ドイツと西ドイツが統一され、フランスは突如として桁外れの相手と対峙することになったことがそうだ。この時、フランスのフランソワ・ミッテランとドイツのヘルムート・コールという2人の指導者は、他の10カ国のEU加盟国に対して、ヨーロッパ・プロジェクトの大幅なリセットが必要であると説得した。その結果、欧州共通通貨ユーロの誕生につながった。

こうした歴史的経緯を踏まえ、今、再び大規模なリセットを主張する人々がヨーロッパから出ている。例えばアタリは、大陸の防衛を欧州化すること(Europeanizing)で、独仏の乖離に対処することを提案している。しかし、EUの規模は1989年当時よりはるかに大きくなっている。ショルツとマクロンが、新たな大規模な欧州プロジェクトの必要性に同意し、25人の同僚たちを納得させることができるかどうかは分からない。しかし、現在のヨーロッパにおいて、フランスとドイツの力は以前より相対的に低下しているかもしれないが、他の大陸の国々は、マヌエル・マリン委員がいた時代と同様に、両者の良好な関係を期待しなければならないほど支配的であるということは、紛れもなく事実である。

※キャロライン・デグロイター:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、オランダ紙『ハンデルスブラット』のヨーロッパ担当特派員・コラムニスト。現在はブリュッセル在住。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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