古村治彦です。

 米中関係は世界第1位と第2位の経済大国間の関係であるため、関係の良好さが米中両国にとどまらず、世界規模で影響を与えることになる。中国が奇跡の経済成長を遂げる中で、世界経済はそれにけん引されてきた。中国以外にある程度の大きな規模で経済成長を続けてきた国はなく、中国の経済減退は世界的に大きな影響を及ぼす。アメリカは世界のGDPの25%を占める世界最大の経済大国であるので、同様の影響を持つ。

 国際関係論という学問分野の中に、リアリズムという潮流があり、スティーヴン・M・ウォルトはその潮流・学派を代表する大家(たいか)である。中国共産党大会が開催され、習近平が政権3期目を継続するにあたり、米中関係に関して冷静に分析をしている。ウォルトは、「人間は間違いを犯す存在だ(無誤謬ではない)」という基本的な原理から、1人の独裁者による支配は間違いを起こし、それを修正することが難しいとしている。それで中国が弱体化すれば、トレイドオフでアメリカにとって素晴らしいことになるとしている。

 しかし、こうしたシナリオには悪い面もあって、中国が弱体化すれば経済成長が鈍化し、世界的に悪影響を及ぼす、中国を守ろうとする国家主義的な動きが活発になり、米中関係が悪化する、習近平が自分の正統性を証明するために、より危険な動き(台湾侵攻など)を行う可能性が高まる、ということが考えられる。

 こうしたウォルトの思考は、リアリズムの基本的な諸原理に従ったものである。これらを応用して、このように分析している。彼のこうした分析は、ウォルトが中国専門家ではないので、大づかみではあるが、細かい点で足りないところがあると考えている。中国と習近平は基本的に現在の国際秩序を崩す考えはないし、非常に守勢的である。アメリカの対中強硬姿勢に受動的に対応しているだけのことであって、アメリカが敵対的な姿勢を止めれば、中国がアメリカに対して攻撃的になることはない。また、台湾侵攻はウクライナ戦争の状況を考えれば短期的には起きないと考えられるし、人的、経済的関係の深さを考えると、軍事的な侵攻を行う必要はない。こちらもアメリカが煽動しなければ自体が大きく変わることなく、淡々と進んでいく。

 問題はアメリカであり日本だ。経済的には中国と関係が深いのに、国内の諸問題や分断から、両国の一般国民の目を逸らさせるために、対中強硬姿勢を取るという愚かな行為で、結果的に不安定な状況を作り出し、平和を脅かす行為をしている。

(貼り付けはじめ)

習近平率いる中国はアメリカにとって良くて、そして悪い(Xi’s China Is Good—and Bad—for the United States

-中国共産党第20回党大会の戦略的意味合いは2つの全く異なる方向に分かれる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年11月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/01/xis-china-is-good-and-bad-for-the-united-states/

「大国間競争の新時代に入った」というのはもはや決まり文句のようなものだが、しかしながら、それが真実でない訳でもない。アメリカの新国家安全保障戦略、最近発表された国防戦略、高度なコンピューターチップや関連技術に対する強硬な輸出規制の実施などを見れば、ジョー・バイデン政権が中国を長期的な戦略的ライヴァルとして見ていることは明白だ。中国の習近平国家主席と彼の側近たちも同じような見方をしているようだ。シートベルトを締めよう。波乱万丈の展開になりそうだ。

このような状況下で、今回の中国共産党第20回全国代表大会をどう解釈すべきだろうか? 習近平の前任者である胡錦濤への屈辱と思われるドラマもあり、プロのチャイナウォッチャーたちにはたまらない内容となった。習近平は前例のない3期目の政権を獲得し、より忠実な人物を要職に登用することで支配力を強化し、経済重視のテクノクラートから国家主義志向の役人に交代し、自らが終身国家主席となる可能性が高くなった。オーストラリア元首相のケヴィン・ラッドが指摘するように、経済成長と発展はもはや最優先事項ではなく、国家の安全保障と中国共産党の権威の維持が中国にとっての最優先事項なのである。

私は中国の専門家ではない。しかし、世界最強の2国間の関係とその力の均衡(balance of power)が、世界政治の多くの側面に重大な影響を及ぼすことは、専門家でなくても理解できるだろう。ここで、当然の疑問が生じる。今回の中国共産党大会での決定は、力の均衡と米中競争にどのような影響を及ぼすのだろうか? アメリカの立場からすれば、最近北京で行われたことは良いニュースだったのか、そうでなかったのか?

私にとっての問題は、この出来事について、アメリカ人が少し落ち着くべき話と、もっと神経質になるべき話の2つを語れることだ。更に悪いことに、この対照的なストーリーは相互に排他的ではなく、相互に補強し合う可能性さえある。

まず、アメリカの立場から見て良い話から始めよう。

北京で起きたことは、中国が数十年にわたって大国としての出現を遅らせたのと同じような独裁者による統治(one-man rule)に戻りつつあることを示唆している。中国は既に大きな逆風に晒されている。経済の減速、人口の高齢化と労働力の減少、そしてそのパワーと野心に対する国際的な懸念の増大である。このような事態は避けられないものであるが(例えば、経済が成熟すれば必ず成長は鈍化し、人口動態の不均衡は一夜にして解決できない)、習近平の厳格な新型コロナウイルス・ゼロ政策、中国の高成長技術部門への抑圧、習近平の統治下で採用した外交政策への好戦的「オオカミ戦士(wolf-warrior)」アプローチによって悪化させられてきた。また、中国の問題は、アメリカが技術へのアクセスを制限しようとすることにとどまらず、アジアやヨーロッパの国々が中国との緊密な経済関係に対して警戒心を強めていることだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相らは、中国との経済関係を維持しようと努めているが、EUが投資協定の中断を決定するなど、中国の急成長を支えた開放性が閉ざされつつある。

これらの不利な展開を考えると、最近の党大会は途中で修正する機会だったかもしれないが、代わりに正反対のことが起こった。習近平は、より経済志向のテクノクラートよりも国家主義志向の政府高官を昇格させ、最高指導者機関を忠実な部下たちでいっぱいにし、毛沢東と同等の最高指導者としての地位を確立するためのキャンペーンを続けた。

これは中国企業や一般市民にとっては悪いニュースかもしれないが、アメリカにとっては良いニュースかもしれない。なぜなら、毛沢東は中国にとって多くの点で災難だったからだ。毛沢東は革命指導者としては優秀であり、戦時向けの戦略家であったかもしれないが、経済の運営や世界的な影響力を持続させるための物質的な基盤の確立については全く考えていなかった。毛沢東の指導力は、中国の潜在能力を数十年にわたり未開発のままにし、1958年の大躍進(Great Leap Forward)や1960年代の文化大革命(Cultural Revolution)などの災厄を引き起こし、中国国内だけで膨大な人的被害をもたらした。毛沢東の死後、彼の政策が放棄された後、中国は目覚しい発展を遂げた。毛沢東の後継者たちは、1人の「無誤謬」の指導者(single, “infallible” leader)に依存することの危険性を認識し、集団指導(collective leadership)の原則を確立し、過去の過ちの悲劇を繰り返さないようにしようとした。

しかしながら、習近平の時代になって、中国は逆の方向に向かっている。習近平を公然と批判することは事実上不可能であり、習近平の政策がいかに無策であっても実行に移され、その一部が裏目に出れば、元に戻すことは困難となるだろう。党大会後、経済政策に「経験豊富な大人がいない(no adults in the room)」ことが投資家たちに伝わり、中国株が急落したのは偶然ではないだろう。習近平が歴史上初めて完全無欠の政治指導者であると信じているのでなければ(彼は既にそうではないことを証明している)、習近平の権力強化は、中国が、彼の選択に疑問を持ち、行き過ぎを抑制できる仲間を持つ、それほど意志の強くない指導者のもとで行われてきたであろうよりも、富や権力、そして外国人に対する魅力が減少することを意味している。今後、習近平が間違ったことをした際に、誰がそれを指摘するのだろうか? 部下は、上司が聞きたいと思うことを伝え、悪い知らせは自分の印象が悪くならないよう封じ込める傾向がさらに強くなるのではないか? これは非効率的であり、重大なミスを引き起こす危険性を高める。結局のところ、北京の新しい権力構成は、アメリカが優位な立場を維持するための努力を支援することになる。

しかし、その反面、大きなマイナス面もある。少なくとも3つの潜在的な問題があると思う。

第一に、中国の経済成長が低下することは、アメリカと中国の間の力の均衡にとっては良いことかもしれないが、すでに不況の瀬戸際にある世界経済にとっては良いことではないだろう。習近平政権下の中国がこのまま低迷を続ければ、アメリカを含む多くの国々の経済が打撃を受け、多くの国の一般市民が傷つき、あらゆる種類の過激派が利益を得ることになるだろう。

第二に、国家安全保障の問題を優先させる(そして経済成長よりもそれを優先させる)ことは、スパイラルモデルの力学が働いていることを明白に示している。中国のパワーと野心の高まりは、アメリカなどの防衛的反応を促した。当然のことながら、北京は国際環境がより危険になったことを認識し、アメリカ主導で中国の将来の成長を抑制しようとする動きから自らを守ろうとする。

残念なことに、米中両国関係の悪化は、既に気候変動などの共通の課題への対応を難しくしており、今後、このような問題での協力はより難しくなる可能性が高い。気候変動問題では、中国とアメリカは、ナイアガラ川でカヌーを漕いでいるカップルが、滝に向かって進んでいるにもかかわらず、どちらが後ろに座って舵を取るかを争っているように見える。

第三に、数週間前に述べたように、抑制のきかない独裁者や、同じ考えを持つ小さなグループ(反対者は1人もいない)が国を率いる場合、大きな失策を犯す可能性が高く、それを修正するのも困難だ。民主国家にもこの危険性はあるが、高度に中央集権的な独裁国家にはより多く存在するように考えられる。そうであれば、習近平の権力強化は、北京が今後、毛沢東以後のほとんどの時代よりも誤りを犯しやすいと予想されることを意味している。しかし、台湾を奪還しようとするような、極めて危険な失敗をする可能性があるとすれば、それは良いニュースではない。

そこで、私の2つのストーリーが一緒になる可能性がある。習近平の中央集権化によって、中国の経済的活力が更に失われ、既に直面している構造的問題がさらに深刻化するならば、毛沢東と同等かそれ以上の中国近代最大の最高指導者として習近平にかけられている期待も危うくなるだろう。毛沢東に匹敵する、あるいは凌ぐということは、毛沢東が成し遂げられなかったこと、例えば台湾の正式な支配を取り戻すことにかかっている。もし彼が中国の相対的な力がピークに達したと疑い始めたら、まだやれるうちに行動しておこうという誘惑が高まるだろう。この目標を公然と語り、周囲を警戒させ、それを実行に移すことは大きな賭けだが、これも独裁者(あるいは閉じた意思決定集団)が犯しやすい誤算である。

もう一つ、中国が市場原理から離れ、マルクス・レーニン主義の教えを重視し、集団指導(collective leadership)を避けてワンマンな個人崇拝(one-man cult of personality)に走るのを見て、アメリカ人が満足するのを抑えなければならない理由がある。アメリカの政治体制も深刻な問題を抱えており、中間選挙後に事態が悪化することを予期させる十分な根拠がある。世界で最も強力な2つの国家は、どちらのシステムが最も早く機能不全に陥るかを執拗に競い合っているように見える。残念ながら、北京での出来事にもかかわらず、私は中国が勝っているとは思っていない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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