古村治彦です。
前回の大統領選挙中に、ジョー・バイデン民主党大統領選挙候補(当時)がアメリカの有名な外交専門誌である『フォーリン・アフェアーズ』誌(外交評議会発行)に掲載した記事について見ていく。
私は最近のアメリカの政権における外交政策について、バラク・オバマ政権は基本的にリアリズム(ヒラリーが国務長官時代は人道的介入主義)、ドナルド・トランプ政権はアイソレイショニズムであったと考えている。オバマ政権は他国に関して干渉を控え、シリア問題でアメリカが泥沼に陥ることを回避した。トランプ政権については「アメリカ・ファースト」、つまり「アメリカ国内問題の解決を第一に、最優先に考えよう。海外のことは海外に任せればよい」ということで、こちらも海外に関与することには消極的であった。しかし、政権内部には対中強硬派もおり、対中関係は悪化していった。
ジョー・バイデン政権はオバマ政権時代の人物たちが多く再登場している。私は拙著『』でバイデン政権は「4年越しで成立したヒラリー・クリントン政権であり、第三次バラク・オバマ政権だ」と書いたが、正確には「オバマ政権(ヒラリーが国務長官を務めた前半)」と書くべきだった。
バイデン政権はトランプ政権の外交政策から転換し、再び外国の諸問題に対して積極的に関与する姿勢を強めてきた。オバマ政権にしても、トランプ政権にしてもアメリカが世界唯一の超大国として世界の中心で警察官として機能するということは放棄していた。しかし、バイデンはアメリカを再びその役割に戻そうとしている。そして、世界第2位の中国に対して警戒感を強め、強硬姿勢を取るようになっている。
バイデンは副大統領時代にウクライナに軍事支援を含めて深く関与していた。息子(次男でバカ息子)のハンター・バイデンはウクライナの政商に取り込まれ、天ネスガス会社ブリスマ・ホールディングスの取締役を務め、何も仕事をしていないのに毎月5万ドルの「お手当」が渡されていた。バイデンのウクライナ関与に関して、ドナルド・トランプ大統領はヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に調査を行うように求めたが(軍事支援の一時停止にも言及)、ゼレンスキーは拒否した。トランプがウクライナに対する軍事支援を停止しようとしたのは今から思えば、ロシアの危機感を正確に理解していたということが言えるのではないか。バイデンが推進したウクライナへの軍事支援がロシアの危機感を強め、最終的にウクライナ戦争にまで進んでしまったという見方もできる。
バイデンの中露に対する強硬姿勢はあまりにも馬鹿げている。敵視している2つの国に厳しく当たることで、中露両国が緊密に協力し合う状況を作り出してしまっている。本来であれば、両国を離間させ、各個撃破を図るべきである。しかし、中露が緊密に協力することで、「反アメリカ」「反西洋」の中核を作り出してしまい、「西側以外の国々(the Rest)」のまとまりを作り出してしまっている。バイデン政権が続くことは、アメリカ国民と世界の人々にとって不幸なことである。
(貼り付けはじめ)
アメリカが再び世界を主導しなければならない理由(Why America Must Lead Again)
―トランプ後のアメリカの外交政策を救出する
ジョセフ・R・バイデン・ジュニア筆
2020年3・4月
『フォーリン・アフェアーズ』誌
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-01-23/why-america-must-lead-again
2017年1月20日にバラク・オバマ大統領と私がホワイトハウスを離れて以来、あらゆる手段が用いられて、世界におけるアメリカの信頼性と影響力は縮小させられてきた。ドナルド・トランプ大統領はアメリカの同盟諸国とパートナーたちを馬鹿にし、過小評価し、時には捨て去るということを行ってきた。トランプは自国アメリカの情報専門家、外交官、軍隊を敵に回した。北朝鮮からイラン、シリア、アフガニスタン、ヴェネズエラまで、国家安全保障上の課題に対処するために、敵対者を増長させ、我々の力を無駄にし、実質的に何の成果も上げていない。彼は、アメリカの友人や敵に対して、無分別な貿易戦争を開始し、アメリカの中産階級を苦しめている。彼は、新しい脅威、特に今世紀に特有の脅威に対応するための集団行動を動員する米国のリーダーシップを放棄した。最も深刻なのは、わが国に力を与え、国民としてわれわれを団結させる民主的価値観から背を向けたことだ。
一方、気候変動や移民の大量流入、技術的混乱や感染症など、アメリカが直面する世界規模の課題はより複雑で緊急性を増している。権威主義(authoritarianism)、ナショナリズム、非自由主義の急速な進展は、これらの課題に集団で対処する我々の能力を損なっている。民主政治体制国家は、過剰な党派主義によって麻痺し、腐敗に足をとられ、極端な不平等によって重荷を負い、国民に貢献することが難しくなってきている。民主的な諸制度に対する信頼が低下している。他者への恐怖が高まっている。そして、アメリカが慎重に構築した国際システムは、綻びを見せ始めている。トランプと世界中の扇動政治家たちは、自分たちの個人的・政治的利益のために、これらの力に傾倒している。
次期アメリカ大統領は、2021年1月の世界情勢に対応しなければならず、その収拾は大変な作業となる。彼もしくは彼女はそのために、アメリカの評判を回復し、指導力に対する信頼を取り戻さなければならない。そして、新たな課題に迅速に対応するために、我が国と同盟国の力を動員しなければならない。そのために無駄にできる時間はない。
私は大統領として、アメリカの民主政治体制と同盟関係を刷新し、アメリカ経済の未来を守り、アメリカが世界を再び主導するための措置を即座に講じる意図を持っている。これを恐れている時ではない。今こそ、2つの世界大戦を勝利に導き、鉄のカーテンを崩壊させた強さと大胆さを発揮する時だ。
ファシズムと独裁政治に対する民主主義と自由主義の勝利が自由な世界を創出した。しかし、この戦いは、単に私たちの過去を定義するものではない。それは、私たちの未来をも定義するものだ。
●アメリカ国内の民主政治体制を刷新する(RENEWING DEMOCRACY AT HOME)
第一に、そして最重要なことは、私たちは自国アメリカの民主政治体制を修復し、再活性化しなければならない。同時に、私たちの側に立つ、世界各地に広がっている民主国家の連合を強化しなければならない。アメリカが世界を進歩させる力となり、集団行動を動員する能力はアメリカの自国の国内から始まる。だからこそ私は、子どもの人生の機会が郵便番号(住んでいる場所)や人種によって決定されないよう、教育システムを作り直し、不公平な格差をなくし、大量投獄の蔓延を終わらせるために刑事司法制度を改革し、誰もが意見を聞くことができるよう投票権法を回復し、政府の透明性と説明責任を回復させたいと考えている。
しかし、民主政治体制はアメリカ社会の基盤であるばかりでなく、私たちの力の源泉(wellspring)でもある。それはまた、私たちの力の源泉でもある。民主政治体制は、私たちのリーダーシップを強化し、増幅して、世界の安全を守っている。また、経済的繁栄の原動力となる創意工夫のエンジンでもある。それは、私たちが誰であるか、そして私たちが世界をどう見ているか、世界が私たちをどう見ているかの核心となる。そのおかげで、私たちは自己修正し、時間をかけて理想に到達するために努力し続けることができる。
国家として、私たちはアメリカが再び世界をリードする用意があることを世界に証明しなければならない。私たちの力を示す具体例(example of our power)だけでなく、私たちが行ってきた具体例が持つ力(power of our example)によって世界をリードしていく。そのために、大統領として、私は私たちの核心的価値(core value)を刷新するための決定的なステップを踏んでいく。私は、国境で親子を引き離すトランプ政権の残酷で無意味な政策を直ちに撤回し、トランプの有害な亡命政策を終わらせ、渡航禁止を解除し、脆弱な人々のための一時保護資格の見直しを命じ、年間の難民受け入れを12万5000人とし、私たちの責任と価値に見合った時間をかけて引き上げるよう努力するつもりだ。私は、拷問の禁止を再確認し、民間人の犠牲を減らすためにオバマ・バイデン政権時代に制定された政策を含め、アメリカ軍の活動の透明性をより高めることを回復する。私は、世界中の女性と少女の地位向上に向けた政府全体の取り組みを回復させる。そして、報道の自由の尊重から、神聖な投票権の保護と確保、司法の独立の支持に至るまで、民主的価値の中核となる柱や制度について、ホワイトハウスが再び、第一の攻撃者ではなく、偉大な擁護者となることを保証する。これらの変更は手始めに過ぎず、自国の民主的価値観に従うという、私たちの関与における初めの一歩に過ぎない。
私は、トランプ大統領のように特定のコミュニティを標的にしたり、適正手続きに違反したり、家族を引き裂いたりすることなく、アメリカの法律を執行する。私は、移民の尊厳を確保し、亡命を求める法的権利を堅持しながら、国境を確保する。私は、これらの政策の詳細を説明する計画を発表し、アメリカが移民を南西部の国境に追いやる根本的な原因にどのように焦点を当てるかについて説明した。私は副大統領として、エルサルヴァドル、グアテマラ、ホンジュラスの指導者たちが、腐敗、暴力、貧困が原因で故郷を追われた人々に立ち向かうことを約束するために、7億5000万ドルの支援プログラムを超党派で確保した。エルサルヴァドルなどでは治安が改善され、移民の流入が減少し始めた。私は大統領として、4年間で40億ドルの包括的な地域戦略を策定し、このイニシアティヴを基に、各国に自国の資源を使用し、検証可能な具体的かつ重要な改革を行うことを求める。
私はまた、自己売買、利益相反、闇の資金、そして、狭い私的な、あるいは外国の意図に奉仕し、民主政治体制を損ねるような腐敗に取り組むための措置を講じるつもりだ。そのために、連邦選挙から私的資金を完全に排除するための憲法修正を目指すことから始める。更に、私は、外国人や外国政府がアメリカの連邦・州・地方の各レヴェルの選挙に影響を与えようとすることを禁止する法律を提案し、この法律やその他の腐敗防止法を強力かつ統一的に執行するための新しい独立機関、連邦倫理委員会を指示する。選挙資金制度の透明性の欠如は、外国の広範なマネーロンダリングと相まって、重大な脆弱性を作り出している。私たちは、民主政治体制を腐敗させる抜け穴を塞ぐ必要がある。
私はアメリカの民主政治体制の基盤を強化し、他国の行動を鼓舞するために、このような不可欠な措置を講じる。そして、世界中の民主政体国家の指導者たちに、民主政体の強化を世界的な議題に戻すよう呼びかけたい。今日、民主政治体制は、1930年代以降のどの時期よりも大きな圧力にさらされている。フリーダムハウスは、1985年から2005年まで一貫して「自由」であった41カ国のうち、22カ国が過去5年間で自由度の減少を記録したと報告している。
香港からスーダン、チリからレバノンまで、市民はもう一度、誠実な統治への共通の憧れと汚職への普遍的な嫌悪を私たちに思い起こさせている。腐敗は陰湿な流行病(insidious pandemic)であり、抑圧に拍車をかけ、人間の尊厳を蝕み、権威主義的な指導者たちに世界中の民主政治体制を分裂させ弱める強力な道具を与えている。しかし、世界の民主諸国が、アメリカが国を統合する価値のために立ち上がり、真に自由な世界をリードすることを期待している時、トランプは、独裁者たちの言うことを聞き、民主政体擁護者たちを軽蔑しており、私たちとは別のティームにいるようだ。アメリカ現代史の中で最も腐敗した政権を率いることで、トランプは世界中の独裁者たちにライセンスを与えている。
私の就任1年目に、アメリカは、自由世界の国々の精神と共通の目的を新たにするため、世界規模の民主政体サミット(Summit for Democracy)を組織し開催する予定だ。このサミットは、世界の民主諸国を集め、民主政治制度を強化し、後退している国々に誠実に向き合い、共通の課題を形成するものだ。オバマ・バイデン政権時代に核安全保障サミットで確立された成功モデルに基づき、アメリカは、汚職との戦い、権威主義からの防衛、自国および海外における人権の推進という3つの分野で、新たに重要な諸国の関与を結集し、成果を優先させるだろう。アメリカのサミットに対する関与として、私は、腐敗との戦いを国家安全保障の中核的利益および民主政治体制の責任として確立する大統領政策指令を出す。また、私は、世界の金融システムに透明性をもたらし、不正なタックスヘイヴンを追及し、盗まれた資産を押収し、国民から盗む指導者が匿名のフロント企業の背後に身を隠すことをより困難にする国際的努力を主導していきたいと考えている。
民主政体サミットには、民主主義を守るために最前線に立っている世界中の市民社会組織も含まれるだろう。そして、サミットのメンバーたちは、テクノロジー企業やソーシャルメディア大手を含む民間企業に対し、民主社会の維持と言論の自由の保護に対する責任と圧倒的な利益を認識するよう行動を呼びかける予定だ。同時に、言論の自由は、テクノロジー企業やソーシャルメディア企業が悪意ある嘘の拡散を促進するためのライセンスとして機能することは不可能だ。これらの企業は、自社のツールやプラットフォームが、監視国家に力を与えたり、プライヴァシーを侵害したり、中国やその他の地域での弾圧を助長したり、憎悪や誤った情報を広めたり、人々を暴力に駆り立てたり、その他の悪用に晒されたりしないよう、行動しなければならない。
●中産階級ための外交政策(A FOREIGN POLICY FOR THE MIDDLE CLASS)
第二に、私の政権は、中産階級のための外交政策により、アメリカ人が世界経済で成功するための装備を整える。中国や他の国々との未来に向けた競争に勝つためには、アメリカは革新的な強みを向上させ、世界中の民主政治体制国家の経済力を結集して、暴力的な経済慣行に対抗し、不平等を縮小させねばならない。
経済安全保障は国家安全保障である。そして、人種、性別、郵便番号(住んでいる場所)、宗教、性的指向、障害の有無にかかわらず、誰もがこの国の成功を分かち合えるようにすることだ。そのためには、ブロードバンド、高速道路、鉄道、エネルギー網、スマートシティなどのインフラストラクチャ(社会資本)と教育への莫大な投資が必要だ。また、最低賃金を時給15ドルに引き上げ、クリーン・エコノミー革命を主導し、組合員たちの仕事を含め、アメリカ国内で1千万件の良質な新規雇用を創出しなければならない。
私は、研究開発への投資を自分の大統領の仕事の要とし、アメリカが技術革新の先頭に立つようにする。クリーン・エネルギー、量子コンピュータ、人工知能、5G、高速鉄道、がん撲滅レースなどで、中国や他国に後れを取ってはならない。私たちには、世界で最も優れた研究大学が存在する。法の支配の強い伝統がある。そして最も重要なことは、我が国を決して失望させることのない、並外れた労働者と革新者が存在することだ。
中産階級のための外交政策は、国際経済のルールがアメリカに対して不正に操作されないようにすることにもつながる。私は公正な貿易を信じる。世界人口の95%以上が国境を越えて生活しており、私たちはそうした市場に参入したいと考えている。アメリカで最高のものを作り、世界で最高のものを売ることができるようにしなければならない。そのためには、アメリカ人を不利にする貿易障壁(trade barriers)を撤廃し、保護主義(protectionism)に傾く危険な世界情勢に抵抗する必要がある。100年前の第一次世界大戦後、このようなことが起こり、世界恐慌を悪化させ、第二次世界大戦につながったのである。
間違ったことは、砂の中に頭を突っ込んで、もう貿易取引はしない、と言うことである。各国はアメリカがあろうがなかろうが、貿易を行うだろう。問題は、誰が貿易を管理するルールを書くかである。労働者、環境、透明性、中流階級の賃金を守るようにするのは誰なのか?
中国ではなく、アメリカがその努力を主導すべきである。
大統領として、私はアメリカ人に投資し、世界経済で成功するための装備を整えるまでは、いかなる新しい貿易協定も結ばないつもりだ。また、労働と環境のリーダーが有意義な形でテーブルにつくことなく、またパートナーに締結した協定を守らせるための強力な執行規定を盛り込むことなく、新たな協定を交渉することはないだろう。
中国はアメリカにとって特別な挑戦(問題)だ。私は中国の指導者たちと何時間も過ごし、私たちが何に直面しているのかを理解した。中国は、世界規模に触手を伸ばし、独自の政治モデルを推進し、未来のテクノロジーに投資することで、長期的なゲームを展開している。一方、トランプ大統領は、有害かつ無謀な関税を課すために、カナダからヨーロッパ連合(EU)に至るまで、アメリカの最も近い同盟諸国からの輸入品を国家安全保障上の脅威に指定した。トランプは同盟諸国の経済力を遮断することで、真の経済的脅威に対抗するアメリカの能力を麻痺させたのだ。
アメリカは中国に厳しく対応する必要がある。中国がその気になれば、アメリカとアメリカ企業の技術や知的財産を奪い続けるだろう。また、補助金を使って国有企業を不当に優位に立たせ、未来の技術と産業を支配する足がかりを構築し続けるだろう。
この課題に対する最も効果的な方法は、気候変動、核不拡散、国際保健医療安全保障など私たちの利益が一致する問題で北京と協力しながらも、中国の乱暴な行動や人権侵害に立ち向かうためにアメリカの同盟諸国やパートナーと一致団結することである。アメリカは単独で世界のGDPの約4分の1を占めている。アメリカは単独で世界のGDPの約4分の1を占めているが、他の民主主義諸国と力を合わせれば、その力は2倍以上になる。中国は世界経済の半分以上の力を無視することはできない。このことは、環境から労働、貿易、技術、透明性に至るまで、民主的な利益と価値観を反映し続けるためのルールを形成する上で、私たちに大きな影響力を与えている。
●テーブルの先頭に戻る(BACK AT THE HEAD OF THE TABLE)
バイデン政権の外交政策諸課題は、アメリカを再びテーブルの先頭に立たせ、同盟諸国やパートナーと協力して、世界の脅威に対して集団的行動を動員する立場に置くことだ。世界は自ら組織化することはない。アメリカは70年間、民主党と共和党の大統領の下で、ルールを作り、合意を形成し、国家間の関係を導き、集団的安全保障と繁栄(collective security and prosperity)を促進する制度を活性化する上で主導的な役割を果たしてきたが、トランプ大統領はその役割を放棄してしまった。もし、トランプ大統領がその責任を放棄し続ければ、次の2つのうちの1つが起こるだろう。他の誰かがアメリカの代わりを務めるが、アメリカの利益と価値を向上させる方法ではない、または誰もそうせず、混乱が起こるだろう。いずれにせよ、それはアメリカにとって良いことではない。
アメリカのリーダーシップは絶対的なものではなく、これまでにも失策や失敗を繰り返してきた。あまりにも頻繁に、私たちは私たちの強みをフルに活用する代わりに、軍の力だけに頼ってきた。トランプの悲惨な外交政策の記録は、バランスの悪い支離滅裂なアプローチの危険性、そして、外交の役割を軽視し、否定するアプローチの危険性を常に私たちに思い起こさせる。
私は、必要な場合には武力を行使することも含め、アメリカ国民を守ることを決してためらわない。アメリカ大統領が果たすべき役割全ての中で、最高司令官(commander in chief)の役割ほど重大なものはない。アメリカは世界で最も強力な軍隊を持っている。大統領として、私はその状態を確実に維持し、前世紀ではなく今世紀の挑戦に備えるために軍隊に必要な投資を行う。しかし、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきで、最初の手段ではない。武力行使は、アメリカの死活的利益を守るためにのみ、その目的が明確で達成可能であり、アメリカ国民の十分な情報提供を受けた上での同意がある場合にのみ行われるべきだ。
アメリカに膨大な血と財を費やした永遠の戦争(forever wars)を終わらせるのは過去のことである。私が長年主張してきたように、アフガニスタンと中東の戦争から大部分の軍隊を帰還させ、アルカイダと「イスラム国」(ISIS)の打倒という使命を狭く定義するべきだ。また、サウジアラビア主導のイエメン戦争への支援も打ち切るべきである。しかし、勝ち目のない紛争に固執することは、私たちの注意を必要とする他の問題を主導する能力を奪い、アメリカの他の力の手段を再構築することを妨げることになる。
私たちは、強さと賢さを同時に手に入れることができる。何万人ものアメリカ軍兵士が大規模かつ無制限に展開されること(そしてそれは終わらせねばならない)と、数百人の特殊部隊兵士と情報資産を用いて共通の敵に対抗する現地のパートナーを支援することの間には、大きな違いがある。こうした小規模な任務は、軍事的、経済的、政治的に持続可能であり、国益を増進させる。
しかし、外交はアメリカの力の最初の道具であるべきだ。私は、気候変動に関するパリ協定を発効させるための世界的な取り組みを推進し、西アフリカでのエボラ出血熱の流行を食い止めるための国際的な対応を主導し、イランの核武装を阻止するための画期的な多国間合意を確保するなど、オバマ・バイデン政権時代にアメリカの外交が成し遂げたことを誇りにしている。外交とは、単に握手や写真撮影を繰り返すことではない。外交とは、握手や写真撮影だけでなく、人間関係を築き、共通の関心事を見つけ、複数の対立点(points of conflict)を克服することだ。そのためには、規律、一貫した政策決定プロセス、そして経験と権限を持った専門家のティームが必要だ。大統領として、私は外交をアメリカの外交政策の主要な手段として高めていく。私は、トランプ政権が空洞化させた外交団に再投資し、アメリカの外交を真のプロフェッショナルの手に取り戻すつもりだ。
外交には信頼性も必要だが、トランプ大統領はそれを打ち砕いてしまった。外交政策において、特に危機(crisis)の際には、国家の言葉は最も貴重な資産である。条約から次々と手を引き、政策を次々と反故にし、アメリカの責任から逃げ、大小の事柄について嘘をつくことで、トランプは世界におけるアメリカの言葉を破綻させた。
トランプ大統領はまた、アメリカが最も必要とする民主的な同盟諸国からアメリカを遠ざけた。トランプはNATO同盟に打撃を与え、アメリカが運営する保護団体のように扱った。だからこそ私は、オバマ・バイデン政権がNATO加盟諸国の防衛費増額を確保するために交渉した公約を誇りに思っている(トランプ大統領は現在、この公約を高く評価している)。しかし、同盟はドルやセントを超越している。アメリカの関与は神聖なものであり、取引上のものではないのだ。NATOはアメリカの国家安全保障の中核であり、自由民主政治の理想の防波堤(bulwark)である。価値観の同盟であるので、強制や現金によって築かれるパートナーシップよりもはるかに耐久性があり、信頼性が高く、強力である。
大統領として、私は歴史的なパートナーシップを回復するだけでなく、今日私たちが直面する世界のためにそれらを再構築する努力を主導するつもりである。クレムリンは、現代史において最も効果的な政治的・軍事的同盟である強力なNATOを恐れている。ロシアの侵略に対抗するためには、同盟の軍事力を維持する一方で、武器にまで昇華した腐敗、偽情報、サイバー上の詐欺などの非伝統的な脅威に対抗する能力を拡大する必要がある。私たちは、ロシアが国際規範を侵害したことに対して真のコストを課し、プーティン大統領の独裁的権威主義体制(kleptocratic authoritarian system)に対して何度も勇敢に立ち上がってきたロシアの市民社会と協力する必要がある。
アメリカと価値観や目標を共有する他の国々と協力することは、アメリカを弱体化するものだ。アメリカをより安全でより成功した国にすることになるのだ。私たちは自らの力を増幅し、世界中に存在感を示し、意欲的なパートナーと世界的な責任を分かち合いながら、その影響力を拡大することができる。私たちは、オーストラリア、日本、韓国との条約同盟に再投資し、インドからインドネシアまでのパートナーシップを深めることによって、北米やヨーロッパ以外の民主的な友人との共同能力を強化し、アメリカの将来を決定する地域で共通の価値を推進する必要がある。私たちは、イスラエルの安全保障に対する鉄壁の関与を維持する必要がある。また、中南米やアフリカの友好国をより広範な民主政治国家のネットワークに統合し、これらの地域で協力する機会をつかむために、より努力する必要がある。
世界の信頼を回復するためには、アメリカが何を意味し、何を言っているのかを証明する必要がある。このことは、気候変動(climate change)、核戦争の新たな脅威(renewed threat of nuclear war)、破壊的技術(disruptive technology)と言った、私たちの時代を特徴付ける課題に関して言えば、特に重要である。
アメリカは世界を主導して、私たちが直面している存亡の危機である気候変動に立ち向かわなければならない。もし、私たちがこの問題に取り組まなければ、他のことは何も意味をなさなくなるだろう。私は、アメリカが2050年までに排出量ゼロのクリーン・エネルギー経済を実現できるよう、国内で大規模かつ緊急の投資を行うつもりだ。同様に重要なことは、アメリカは世界の排出量の15%しか生み出していないため、私はアメリカの経済的、道徳的権威を活用し、世界に断固とした行動を促すことだ。私はバイデン政権の初日にパリ協定に再び参加し、その後、世界の主要な炭素排出諸国の首脳会議を開催し、各国が野心を高め、進歩をより加速させるよう呼びかけるつもりだ。私たちは、世界の海運と航空における排出量を削減する強制力のある約束を取り付ける。また、私たちが約束を果たす際に、他の国々が経済的にアメリカを過小評価することができないようにするための強力な措置を追求する。これには、世界最大の二酸化炭素排出国である中国に対し、石炭輸出への助成や、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)を通じて何十億ドルもの化石燃料を使用するエネルギープロジェクトに融資し、汚染を他国にアウトソーシングすることをやめるよう主張することも含まれる。
核不拡散(nonproliferation)と核安全保障(nuclear security)に関して、アメリカは、自らが交渉した取引を放棄している間は、信頼できる声となることはできない。イランから北朝鮮、ロシアからサウジアラビアまで、トランプは核拡散(nuclear proliferation)、新たな核軍拡競争(new nuclear arms race)、更には核兵器の使用の可能性を高めている。私は大統領として、新しい時代の軍備管理(arms control)への関与を新たにする。以前にオバマ・バイデン政権が交渉した歴史的なイランとの核開発に関する合意は、イランの核兵器保有を阻止するものだった。しかし、トランプ大統領は軽率にもこの協定を破棄し、イランが核開発を再開して挑発的(provocative)になり、地域で再び悲惨な戦争が起こる危険性を高めている。中東全域で不安定化させる行動をとり、国内ではデモ隊を残酷に取り締まり、アメリカ人を不当に拘束しているイラン政権に幻想を抱いている訳ではない。しかし、イランが私たちの国益にもたらす脅威に対抗するには、賢いやり方と自滅的なやり方があり、トランプは後者を選んだ。イランのゴドス軍(コッズ部隊)の司令官であったガーセム・ソレイマーニーが最近殺害されたことは、危険な行為者を取り除いたが、同時にこの地域における暴力の連鎖がますます激化するとの見通しを生じさせ、核合意のための交渉の中で定められた核制限を投げ出すようテヘランを促した。テヘランは核協定の厳格な遵守に戻らなければならない。そうすれば、私は協定に再び参加し、外交への新たな関与を用いて同盟諸国と協力し、協定の強化と延長を図るとともに、イランの他の不安定化する活動をより効果的に押しとどめるだろう。
北朝鮮に関しては、私は交渉担当者の権限を強化し、北朝鮮の非核化という共通の目標を達成するために、同盟諸国や中国を含む他の国々と持続的かつ協調的なキャンペーンを開始する。私はまた、米露間の戦略的安定の礎である新START条約の延長を追求し、それを新たな軍備管理の取り決めの土台としたい。そして、核兵器の役割を減らすという取り組みに対する我々の関与を示すために、他のステップも踏むつもりだ。2017年に述べたように、私はアメリカの核兵器の唯一の目的は、核攻撃を抑止し、必要であれば報復することであるべきだと考えている。私は大統領として、アメリカ軍やアメリカの同盟諸国と協議しながら、その信念を実践するために努力する。
5Gや人工知能などの未来技術については、アメリカ以外の国々が国家資源を投入してその開発を支配し、利用方法を決定している。アメリカは、これらの技術が、国内外の自由と機会を抑制するためではなく、民主政治体制と繁栄のより大きな共有のために使われることを保証するために、もっと努力する必要がある。
例えば、バイデン政権は、米国の民主的同盟国と協力し、地方や低所得者層など、いかなる共同体も取り残さない、安全な民間主導の5Gネットワークを開発することになるだろう。新しいテクノロジーが我々の経済と社会を再構築する時、我々はこれらの進歩の原動力が、これまでの歴史の技術的転換点で行ってきたように、法と倫理に縛られることを保証し、デジタル時代の規則が中国とロシアによって書かれるような底辺への競争を避けなければならない。アメリカは今こそ、民主政治体制社会が繁栄し、繁栄が広く共有されることを可能にする技術の未来を切り開くために、主導権を握るべき時なのだ。
これらは野心的な目標であり、アメリカが民主国家群を主導することなしには達成できないものだ。私たちは、内外の敵に直面している。敵は、私たちの社会の亀裂を利用し、民主政治体制を弱体化させ、同盟関係を崩壊させ、「力が正義である(might determines right)」が基本となる国際システムの復活を望んでいる。この脅威に対する答えは、より開放的になることであり、その逆になってはいけない。より多くの友好関係、より多くの協力、より多くの同盟、より多くの民主政治体制こそが必要なのだ。
●主導するための準備(PREPARED TO LEAD)
プーティンは、リベラルな考え方は「時代遅れだ」と、自分自身に、そして自分が騙せる他の誰にでも言いたいのだ。しかし、彼がそうするのは、リベラルな考え方が持つ力を恐れているからだ。自由という伝播性を持つ概念が、人から人へ、国境を越えて、言語や文化を超えて自由に伝わり、一般市民のコミュニティを活動家や組織者、変革の担い手へと高めていく様子は、地球上のどの軍隊をもってしてもかなわないだろう。
私たちは、もう一度その力を発揮し、自由世界の国々を結集して、今日の世界が直面する課題に立ち向かわなければならない。その先頭に立つのは米国である。他のどの国もそのような能力を持っていない。アメリカが持つ思想を基にして成り立っている国家は他にない。私たちは自由と民主主義を擁護し、信頼を取り戻し、絶え間ない楽観と決意を持って私たちの未来に目を向けなければならない。
※ジョセフ・R・バイデン・ジュニア:2009年から2017年までアメリカ合衆国副大統領を務めた。アメリカ大統領選挙民主党候補。
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(終わり)

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