古村治彦です。
「アメリカは中国とロシアの間を引き離すように中国に働きかけるべきだ」という声が上がっている。現在、ウクライナ戦争を戦っているロシアに対して、中国は表立って支援を行ってはいない。しかし、中露両国間には正式な条約を結んでの同盟関係、相互防衛関係は存在しないが、中露間の関係は緊密になっている。中国の一帯一路計画や上海協力機構(SCO)にロシアは参加し、ユーラシア同盟としての関係を築いている。ロシアはヨーロッパ志向(思考)を捨て、ユーラシア国家として生きていくという道を選択した。
中国はウクライナとの関係も良好であり、中国初の空母「遼寧」は、ウクライナの空母「ワリヤーグ」(1988年竣工)を購入し、改造したものだ。正確に言えば、ソ連時代に建造した空母であるが、造船所がウクライナにあり、ソ連崩壊の混乱とウクライナの独立があり、造船所がウクライナに国有化されるなどしたため、ロシアとウクライナの間での交渉の結果として海外に売却するということになっていた。ウクライナは所有権を持っていただけのことで、建造したのは旧ソ連ということになる。
中国とロシアの間は離れがたく見えるが、それでも相違点は存在する。中国は現在の国際秩序の中で、自由貿易体制の利点を利用して高度経済成長を達成している。国際秩序の急速な変更は望んでいない。短期的、中期的には現状維持を望んでいる。ロシアは冷戦時代にアメリカと世界を二分して渡り合った。その前にはロシア帝国としてヨーロッパで覇を競った。ソ連崩壊でロシアはプライドを傷つけられた。ロシア国民はプーティン大統領が国民生活を改善し、ロシア帝国を復活させてくれるということで支持している。ロシアは現状に対する挑戦国となっている。ここが中露両国間の相違点だ。
アメリカは中国を潜在的な脅威として捉えていて、強硬な対中姿勢を取っている。そうなれば、中国としてはアメリカとバランスを取る必要が出てくるので、ロシアの接近を受け入れるということになる。
ドナルド・トランプ大統領時代に「ヤルタ2.0」という風刺写真が出たことがある。1945年のソ連のヤルタでの米ソ英3カ国の首脳会談(フランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領、ヨシフ・スターリンソ連共産党書記長、ウィンストン・チャーチル英首相)で戦後世界の管理体制が決められた。
このことを受けて、ドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席、ウラジミール・プーティン露大統領の米中露三帝が世界を管理するという意図が風刺写真に込められている。米中露がうまく折り合いをつけてやっていれば、世界は平和だという意図もその写真には込められている。現在は、冷戦初期のような段階になっている。アメリカが中露に対して強硬な姿勢を取り、それぞれとの戦争の可能性も出てきて、世界は第三次世界大戦に近づいている。
中国がソ連と中国を離間させて、世界政治を動かしたのはリチャード・ニクソン大統領、ヘンリー・キッシンジャーの国務長官時代のことだ。この時代のことを懐かしみ、「アメリカは中国とロシアの間を引き離すべきだ」という主張が出ている。
しかし、1970年代と現在では状況が大きく異なっている。アメリカの国力が衰退し、中国とソ連は国力を増大させている。中露は共にアメリカの衰退を待って、国際秩序の変更を行う(その規模やスピードには両国間で相違はあるが)、より露骨に言えば、西洋近代500年の支配を終わらせるという決意をしている。そして、それを西洋以外の新興の国々(the Rest)が支持している。中露は「ザ・レスト」の旗頭になっている。ここでアメリカに近づくことはもうできない。
ジョー・バイデン政権ではなく、ドナルド・トランプ政権が続いていたら現在の状況はどうなっていただろうかということを考えることがある。そんなことを考えても仕方がない、詮無き事ではあるが、現在のような世界的に厳しい状況になっていなかったのではないかと考えてしまう。2024年にジョー・バイデンが米大統領に再選されることが世界に幸せをもたらすのかということも考えてしまうと、先行きはなかなか暗いと言うしかなくなる。
(貼り付けはじめ)
ワシントンは中国をロシアに対立させる機会を失いつつある(Washington Is
Missing a Chance to Turn China Against Russia)
-稀な状況で危機が重なったことで北京が軌道修正する可能性が出てきている。
ロバート・A・マニング、ユン・サン筆
2023年1月19日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2023/01/19/us-china-russia-ukraine-allies-war/?tpcc=recirc_latest062921
直感に反するかもしれないが、ロシアのウクライナ戦争、経済の低迷、反ゼロ新型コロナウイルスの反動、中国の習近平国家主席が一連の政策を撤回したこと、これらの出来事が中国に与える政治・経済的コストによって、ウクライナに関する米中協力のスペースを開く可能性がある。また、ウクライナ戦争が台湾への世界的な支持を集めていることも、北京にとって重荷になる可能性がある。
ウクライナ戦争が始まって以来、中国はロシアを言葉の上では支援し、NATOの行動を非難してきたが、モスクワを実質的に支援することを約束することは避けてきた。中露同盟は、西側諸国でよく見られるように、修正主義的な2つの独裁国家の間の単純なイデオロギー的共感ではない。むしろ、現実的でやや取引的な関係であり、アメリカは少なくとも特定の問題に関して、両者を引き離す機会を逸している可能性がある。
第一に、昨年9月に旧ソ連のカザフスタンを訪問した際、習近平は「断固として(resolutely)」カザフスタンの主権を支持すると約束し、モスクワをけん制(a snub to)した。そして、同じ9月の上海協力機構(Shanghai
Cooperation Organization、SCO)の会議で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争をめぐる中国の「疑問と懸念(questions and concerns)」を前代未聞の形で公に認めた。2022年10月初旬、中国は国連安保理と総会の両方で、ロシアのドンバス併合を非難する投票に反対票を投じず、棄権(abstain)した。北京はまた、インドとともにウクライナ戦争の終結を訴えた。
これは、傷ついた西側諸国との傷ついた外交関係を修復しようとする試みと並行して行われた。ヨーロッパ連合(EU)当局者によれば、北京はNATOを非難する発言を止め、中国政府当局者たちが、中国はロシアの核使用を容認できないと考えていると語ったという。
中国は、「ウクライナの領土はどの範囲になるか」についてのロシアの解釈を支持する余地を十分に残しつつも、一貫してウクライナの「主権と領土保全(sovereignty and territorial integrity)」への支持を繰り返してきた。このような矛盾した、やりにくい努力を続けている。中国は侵略を正当化しているロシアを含む「当事者全て(all parties)」に自制(restraint)を呼びかけ、ウクライナの現在の状況に失望を表明してきた。それでも、
2022年2月 24日以前からウクライナとの強固な経済的および軍事的関係にもかかわらず、中国のメディアは親ロシアおよび反
NATO の偽情報を絶え間なく流しつつ、中国はウクライナに対してはわずか300万ドル程度の人道援助(humanitarian
aid)しか提供していない。
ロシアと中国は、国際秩序が自由主義的民主政治体制家によって不当に支配されているという見解とアメリカの優位性(primacy of the United States)を共有することで結びついた。中露両国は自由主義的な国際秩序に対する地政学的な脅威(geopolitical threats)として認識されており、それは当然、欧米諸国、特にアメリカに対する中露両国が持つ脅威認識と同様だ。こうした地政学的な懸念の共有は、2014年、クリミア危機でロシアが孤立し、バラク・オバマ政権のアジアへの軸足転換(pivot to Asia)で、中国の周辺地域の安全保障環境に対する不安が強まりそして加速した。加えて、習近平の冷戦時代からのロシアへの親近感、絶対的政治指導者(strongman)としてのプーティンへの憧れが、中露の緊密な連携に対するトップリーダーのお墨付きをもう1つ与えることになった。
しかし、中国も他の国と同様、自国の利益を最優先しており、その利益はウクライナをめぐるモスクワの利益とますます乖離している。中国は、農業貿易、軍事技術協力、「一帯一路(Belt and Road)」社会資本(インフラ)整備プロジェクトなどで強固な関係を築いてきたロシアがウクライナに侵攻したことで、かなり困惑している。
プーティンがウクライナに侵攻した際、ウクライナには6000人以上の中国人が滞在していた。北京にはほとんど何の事前通報もなかったために、中国人の避難作戦を開始するために中国政府は東奔西走奔走させられることになった。中国政府は非公式に、避難民の一部が殺害されたことを認めている。このことは、プーティンが習近平に対して、戦争について知らされていなかったという中国当局者の主張を裏打ちしており、何が起こるかについてロシアは中国に対して正直ではなかったことを示唆している。プーティンは中国を、ロシアとの「無制限の(no-limits)」協力と、主権と領土保全に関する基本的な外交政策原則を選択的に、自分に都合が良い形で適用するプーティンとの間で、無駄な努力をする立場に追い込んだ。
プーティンのウクライナ戦争は、中国経済が困難な時期に、中国の経済的利益を直撃することになった。ウクライナ戦争による世界経済の混乱は、中国にとって最大の海外市場のいくつかに打撃を与えている。中国は問題を抱えた発展途上諸国への最大の資金の貸し出し者であるため、ウクライナ戦争と欧米諸国の制裁の影響でエネルギー、食糧、肥料の価格が上昇し、中国の融資返済の努力を複雑にしており、中国の巨額の債務問題を悪化させている。
ウクライナは北京が嫌うアメリカとの同盟関係を強化している。そして、次は自分たちだと恐れる旧ソ連諸国とロシアの関係を弱め、これらの国々がワシントンとの対話に関心を高めるように仕向けている。ウクライナ戦争の影響は、中国の大国としての外交政策の信頼性に疑問を投げかけている。プーティンがアメリカ主導の秩序を害する混乱を自らの利益と見なす破壊者(disrupter)であるのに対し、北京は中国の利益に有利なように世界の制度を再編成することに関心を持っている。この点は、米国の政策に織り込まれるべき、両国の間の重要な違いである。
特に、台湾問題に影響を与えている。岸田首相が「東アジアは明日のウクライナになるかもしれない(East Asia could be the Ukraine of tomorrow)」と言ったように、プーティンの戦争に対する西側諸国の反応と台湾へのアナロジー(類推)は、北京が今後の台北に対する行動を考える上で新たな要素を加えたことはほぼ間違いない。
ロシア経済への制裁が強まる中、中国が半導体などの重要なテクノロジーを提供するかどうかが1つの指標になるだろう。問題を抱えるジュニアパートナーとの協力関係を制限しているのは、中国がロシアと距離を置いていることを示すというよりも、巻き込まれての副次的な制裁を恐れてのことなのかもしれない。いずれにせよ、アメリカは、ウクライナに関する米中協力を可能にするのに十分な新しい機会が開かれるかもしれないという命題を検証することで失うものはほとんどない。
もしアメリカが、ウクライナに関するロシアと中国の見解の間の政治的空間が、米中間の慎重な協力のための新たな機会を開くほど広がっている可能性を見分けるのが遅くなっているが、それは初めてのこととは言えない。冷戦時代の反共産主義の影響力は、中ソが国境で短時間ながら激しい対立を繰り広げた時でさえ、アメリカが中ソの緊張を利用するのを複雑化し遅らせた。中ソの緊張は1950年代半ばにはアメリカの情報アナリストにとっては明白であったが、当時のリチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題大統領補佐官が中国との国交回復を利用し、この時代最大の戦略転換の1つを生み出したのは1971年になってからのことであった。
米国の近視眼(myopia)と確証バイアス(confirmation bias)は、中露両国を互いに接近させ、中国の対ウクライナ政策を過度に単純化することになる。中露同盟の宣言を額面通りに受け取ることで、アメリカは中露両国のそれぞれの国益とアプローチにおける重要な相違点を捉え損ねている。そこをうまく捉えればアメリカ外交のためのスペースを開く可能性が出てくる。
ウクライナ戦争初頭から、ワシントンは中国をロシアの共犯者として糾弾する「私は糾弾する(J'accuse)[訳者註:フランスの作家エミール・ゾラがドレフェス事件で出した著作の書名]」を延々と繰り返してきた。プーティンの侵攻計画を中国が事前に知っていたというリークが何度も報道機関に流れたのは、やってもいない犯罪の責任を中国に負わせることが目的だった。プーティンが白紙委任(blank check)したロシアとの「無制限(no-limits)」の協力を進めた習近平は、確かに軽率であり賢明ではなかったと考えられる。しかし、北京の不可能に近いバランス行動、一種の親ロシア的な中立努力は、戦争への積極的参加とは決定的に異なる。
中国がロシアと経済的な関わりを継続していることは問題だが、インドやトルコ、そして南半球の多くの国々も同様である。北京はロシアへの石油・ガスプロジェクトやアジアインフラ投資銀行への融資を中止している。2022年7月までに、複数のアメリカ政府高官は、中国は、ロシアから制裁を科すという脅しを受けながらも、ロシアが制裁を逃れるのを助けず、モスクワの戦争行為に軍事支援をしなかったことを公然と認めている。
北京がロシアを非難したり、制裁を科したりすることを拒否していることは、もちろん道徳的に問題であり、政治的に役に立たないし、一貫して親ロシア的な国内メッセージも同様である。しかし、これは道徳的な問題であると同時に、実際的な問題でもある。
ワシントンは、中露同盟が確立され、揺るぎないものであるという前提で動いているが、現実には、より限定的な戦略的パートナーシップである。両国間には相互防衛に関する第5条のような協定は存在しない。
アメリカが公然と非難を繰り返したところで何の解決にもならない。アメリカとの戦略的競争が中国の対外関係における最も重要なテーマであり続ける限り、特に台湾をめぐる緊張が高まる中で、北京はアメリカに対抗するために必要なパートナーとしてモスクワを見るだろう。しかし、戦争が長引くにつれ、中国の風評被害と経済的コストは増大し、衰退しつつある戦略的資産との悪い取引と見なされつつあることから、いくつかの問題で北京を遠ざけることができるかもしれない。
アメリカは、中露両国の違いを緩和し、橋渡しするのではなく、中露両国間の断層(Sino-Russian
fault lines)を探ろうとするはずである。2022年7月にアントニー・ブリンケン米国務長官が中国側に行ったような道徳的な嘆願は、変化をもたらすというよりも、中国のナショナリズムを煽る傾向がある。戦略的競争という文脈の中で、中国との協力や非干渉という戦術的転換(pivot)は、利害が重なったときに移行し、利害に利益をもたらし、おそらくわずかな信頼を再構築することができる。北京の計算を形成するために、ワシントンは単に懲罰的な行動だけでなく、相互の脆弱性(vulnerability)と懸念の分野を指摘する必要がある。
中国が制裁体制外でロシアに経済貢献することを抑止するためのアメリカの警告は聞き入れられそうにない。中国最高指導部序列第3位である栗戦書は、2022年9月にロシアを訪問した際、貿易、インフラ、エネルギーなどに関して、ロシアとの経済協力の強化を約束した。これは昨年(2022年)12月の習近平・プーティン間のズーム会談で更に確認された。北京の見解では、アメリカは中国とロシアとの経済関係、特にエネルギー関連技術やその他の天然資源の領域での協力を永久に阻止することはできない。
ロシアの意思決定に決定的な影響力を持つ数少ない国の1つとして、中国がウクライナ危機の調停(to mediate)を早くから申し出ていることを検証しておく必要がある。中国は紛争の当事者ではないと主張するかもしれないが、紛争を助長してきたのは事実である。大国として、戦争を早期に終結させる責任から逃れることはできないことを明確にする必要がある。
ウクライナに関する米中対話の入口として考えられるのは、プーティンの核兵器使用の公然たる脅威と、77年間の歴史を持つ核に関するタブーを破ることの結果に対する相互懸念である。ジョー・バイデン米大統領は「ハルマゲドン(Armageddon)」の脅威を口にした。中国は「先制不使用(no first use)」を明言しており、ロシアの核兵器使用は北京を自衛不可能な状態に追い込むことになる。また、ウクライナでの核兵器使用が北朝鮮に対する制限を低くし、北東アジアでの核拡散に拍車をかけるという懸念が共有されているので、予防手段(preemptive measures)の議論が急がれているのであろう。
また、戦争終結の方法と手段、更にはウクライナの経済再建の将来についても、戦争の進む方向を見据えて考えなければならない。アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、日本、世界銀行、国際通貨基金、ヨーロッパ復興開発銀行が協調して経済資源を動員することは、政治的困難と資源の枯渇を考えると非常に困難であろう。世界有数の貸し手である中国に、その議論に加わる機会や努力の調整の機会が与えられなければ、中国独自の復興努力が欧米諸国の努力を複雑にしたり妨害したりすることになりかねない。協調的でグローバルなキャンペーンにおいて、中国が公正な役割を果たすための対話が模索されるべきだろう。
問題は、ウクライナに関して利害が一致する可能性のある分野を探るのに十分な政治的空間を開くために、いかにして米中間の相互不満(mutual grievances)を中断するか、あるいは少なくとも区分けする(compartmentalize)かである。アメリカは道徳的なレトリックを抑えて、まずは北京との静かなバックチャンネル・アプローチで関心を探るのが賢明であろう。また、ブリンケンが近く訪中する際には、問題の範囲が限定的かつ現実的であることを強調し、ウクライナのアジェンダを形成するよう努めるべきであろう。
北京がよりソフトなアプローチを示唆しているにもかかわらず、その困難に幻想を抱いてはならない。しかし、ウクライナ情勢がいかに悲惨なものになっているかを考えると、必要は発明の母(necessity may well be the mother of invention)ということになるかもしれない。
そのためには創造的な外交が必要だが、中露間の対立、北京の広範な利益、戦争を終結させ紛争後のウクライナを再建するために北京が果たせる積極的な役割など、冷静な判断も必要となるだろう。このような利害に基づく取引的なアプローチは、自己実現的な予言である北京・モスクワ同盟の強化を回避するのに有効であろう。
※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター、同センター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4
※ユン・サン:スティムソンセンター中国プログラム部長。
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