古村治彦です。

 アメリカの中央情報局(CIA)の対外活動(スパイ活動)はただの監視や情報収集には留まらない。非民主国家や民主国家でもアメリカに敵対的な態度を取る国家の政権を転覆させ、体制自体を変更するということもCIAにとっての重要な仕事である。政治学では「非民主的な体制の崩壊(breakdown of non-democracies)」「民主政体への移行(transition to democracy)」「民主政体の確立(consolidation of democracy)」という段階を経る体制転換を「民主化(democratization)」と呼ぶ。世界各地の「民主化」にCIAが深くかかわっているということは良く知られている。付け加えれば、日本の場合には、自民党に長年にわたりCIAから資金が流入していたということも明らかになっている。詳しく知りたい方はティム・ワイナーの『』を是非読んでいただきたい。 

CIAが民主化運動やクーデターに絡んで体制転換を行っている(行わさせている)。最近で言えば2011年に起きた「アラブの春(Arab Spring)」があるが、これにいかに国務省とCIAUSAID(米国国際開発庁、United States Agency of International Development)が関わっていたか、その源流はジョン・F・ケネディ政権にあったことについては拙著『』を読んでいただきたい。その枠組みは現在も大きく変わっていない。

 昨年あたりから、反米陣営の主要な国々である、イラン、中国、ロシア各国の国内で政権批判、反体制的なデモや騒乱が起きている。これが偶然なのか、CIAが関わっているのかということであるが、おそらくCIAが関わっている部分もあるだろうが、中国、イラン、ロシアの各国でスパイ活動を行うことはかなり難しいのではないかと思われる。

 問題は、これらの国々で反体制運動やデモが行われる場合に、「あれはCIAがやらせているんだ」「ああいう動きは外国(アメリカ)に煽動されているんだ」ということを国内外に印象付けられてしまうということだ。自発的な運動が起きたとしても、それが自発的な動きだと見られないということになる。それが、アメリカが公然もしくは非公然の形で外国に介入してきた副産物である。そして、これらの国々がこうした反対運動を抑え込む際に、「外国(アメリカ)からの介入を防ぐ」という大義名分ができることになる。

 2001年の911事件後に、「ブローバック」という言葉が知られるようになった。これは2000年に『通産省と日本の奇跡』の著者として知られる日本研究の泰斗チャルマーズ・ジョンソンが使った言葉である。ブローバックを日本語に訳すと「吹き戻し」という意味になる。そして、アメリカの外国介入が結果として反撃を食らうということである。アメリカの外国介入は20世紀にはうまくいったが21世紀に入って反撃を受け続けている。それはアメリカの国力の減退を示す兆候である。

(貼り付けはじめ)

アメリカのライヴァル諸国が騒乱に直面している。その原因は幸運(偶然)なのか、それとも作為か?(U.S. Rivals Are Facing Unrest. Is It Due to Luck or Skill?

-大規模な抗議行動は諜報機関にとって好都合な環境を作り出すが、中国、イラン、ロシアではCIAは慎重に行動すべきだろう。

ダグラス・ロンドン筆

2022年12月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/07/china-iran-protests-mass-unrest-cia-luck-or-skill/

ここ数週間、アメリカの主要な敵対国である中国とイランで大規模な街頭デモが発生し、ロシアでは経済と軍事の崩壊の中で戦闘年齢にある男性たちが大量に国外脱出している。これは幸運(偶然)なのか? 偶然の一致か? CIA長官ウィリアム・バーンズは完璧な天才なのか? それとも、アメリカの政策志向を強化するために、このような事態を招来するための周到な準備の結果なのだろうか? 答えは複雑であり、この状況を利用する際のアメリカ政府当局者たちの選択肢もまた複雑となる。

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争が欧米諸国の干渉によるものだとするのと同様に、ロシア国内の抗議行動を扇動する欧米ウ諸国を非難することを何年も前から常々行っている。中国政府は、コストのかかる新型コロナウイルスゼロ政策への怒りに端を発した中国共産党への抗議が続いていることについて、「何かしらの魂胆を持つ勢力(forces with ulterior motives)」のせいだと非難した。全国で抗議活動を行う群衆が増えるにつれ、民主政治体制と自由の拡大を求める声が上がり、中には中国の指導者である習近平の解任を求める声も出るようになった。

イランのエブラヒム・ライシ大統領と最高指導者アリ・ハメネイ師は、イラン北西部出身の22歳のクルド人女性マフサ・アミニが警察に拘束されて死亡した後に始まった抗議行動が続いていることについて、アメリカとイスラエル政府を非難している。彼女は、女性にヒジャブ(スカーフ)の着用を義務づける同国の厳しい規則に違反したとの理由で、テヘランの道徳警察(morality police)に逮捕されていた。イランはまた、反体制派のクルド人グループが騒乱を扇動したと非難し、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard)やクルド人居住区へのミサイル攻撃や無人機攻撃で対抗している。もちろん、アメリカはこの地域のクルド人グループと関係をもっている。

ロシア国内では、プーティンの戦争に対する抗議は限定的であったが、『ワシントン・ポスト』紙が最近取り上げた調査によれば、根底にある亀裂や進行中の地下の反対運動を十分に反映していないかもしれない。徴兵を避けるために何千人ものロシアの軍人たちが国外に逃亡している状況で、ロシア国内での破壊工作は、必ずしもウクライナ人だけがやっている訳ではないようだ。プーティンと彼の戦争を支持する強硬派でさえも批判を強めている。民間軍事会社ワグネル・グループの創設者エフゲニー・プリゴージンやチェチェンの指導者ラムザン・カディロフなどプーティンの取り巻きは、ロシアのセルゲイ・ショイグ防衛大臣やロシアの上級軍司令官に対する攻撃をあからさまに行っている。

アメリカの敵対諸国の中には、国内の敵対勢力に珍しく譲歩しているようにさえ見える国もある。中国では、習近平が3期目の政権を獲得し、香港を掌握し、台湾との統一を目指し、世界有数の軍事・経済大国であるアメリカに挑戦するという、言葉通りの勝利の階段を上るように見えた矢先、新型コロナウイルス規制などの不満から内乱が発生し、その混乱に対応するため、習近平が譲歩しているようにみえる。

習近平政権の国務院副総理の孫春蘭は最近、国家衛生当局に対し、上海を含むいくつかの地域で患者数が増え続けているにもかかわらず、ロックダウンを解除し始め、国は「新しい段階と使命(new stage and mission)」に入りつつあると述べた。孫副首相は、「オミクロン変異体の病原性が低下していること、ワクチン接種率が上昇していること、感染症対策と予防の経験が蓄積されていること」などを理由に変化を予測した。

同様に、イラン国内でも、政権は少なくともある程度は自制しているようだ。モハンマド・ジャファル・モンタゼリ司法長官が、「設置された場所から閉鎖された」と述べたため、その服装規定を執行する道徳警察の状況について、現在、不確実性が生じている。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、この未確認の動きをデモ隊に譲歩した可能性があると報じたが、イランの地元メディアは、モンタゼリ長官の発言は「誤解されている(misinterpreted)」とすぐに指摘した。しかし、イランの高官たちは通常、自ら台本を破ることはなく、今回の発言は試運転のようなものだったのかもしれない。

こうした興奮するような状況にもかかわらず、アメリカ国家情報長官のアヴリル・ヘインズは最近、ジャーナリストたちの取材に応じて次のように述べた「イランの政権が国内の抗議活動を彼らの安定と影響に対する差し迫った脅威と認識しているとは見ていない。一方で、彼ら実際に課題を抱えており、全国的にも散発的な事業の閉鎖が見られる。私たちの観点からは、これは時間の経過とともに不安と不安定のリスクを高める可能性があることの1つだ。イランは高インフレと経済の不確実性により、更なる不安に直面する可能性がある」。

敵を内部から弱体化させることは、プーティンのハイブリッド戦争戦略の1つである。アメリカの主要な敵対諸国の間で明らかになった不安は、機会と同じくらい多くのリスクをもたらす。私は、アメリカの諜報活動が大きな成功の時期があったと私は考えるが、ウクライナにおけるプーティンの意図と紛争に対する中国の対応に関する機密解除された報告によって最も公に反映されているように、イランと中国の現在の不安にアメリカが直接手を差し伸べることを示唆する陰謀論者は失望するだろう. .

不安の種をまくことはアメリカが持つ手段の1つではあるが、結果を制御する手段を持たずにそうすることは一般的に勝利のアプローチとはならない。不安定性は、絶望的な独裁者たちがリスクの高い解決策を海外に求める可能性があるけれども、予測不可能性とエスカレートする可能性につながることになる。国内の影響は、アメリカの利益にとって以前よりも悪化する可能性がある。イラン政府またはロシア政府が打倒された場合、後継者がより民主的で暴力的でないという保証はない。彼らはさらに残忍になる可能性がある。

体制転換を促進することも厄介なビジネスだ。そのような行為には、複雑な政治的、経済的、軍事的なリスク計算があり、その仕組みは、徹底的なアメリカの秘密行動の法的権限と要件によって管理されている。イラン、キューバ、チリ、アフガニスタン、イラクでの長年にわたるアメリカの体制転換の取り組みについては、正確に考慮されておらず、誤った前提に基づいていたが、少なくとも計画は存在した。

体制転換の利益になるか、もしくは単に敵の負担を増やすためであるかにかかわらず、市民の不安を助長することは、予測可能なものもあればそうでないものもある、一連の二次的および三次的な状況につながる可能性があり、実際にそうである。少なくとも、アメリカの諜報機関に多数いる弁護士たちは、このような騒動を助長することは暴力につながることが予想されると警告を発するだろう。その結果には必然的に人の生命が失われることが含まれ、大統領の書面による指示とその後の当局、および連邦議会指導部とその情報監視委員会への通知の覚書が必要になる。

アメリカは、イラクとアフガニスタンで軍事介入(military intervention)を行い、体制転換(regime change)を追求し、それぞれの国の反対勢力に対して、公然の関与と秘密の関与を組み合わせることにより、シリアのバシャール・アル・アサドに対抗した。結果は好ましいものではなかった。1953年8月にイランのムハンマド モサデク首相を打倒したクーデターは、冷戦時代のアメリカの政策立案者たちの目には短期的な利益をもたらしたかもしれないが、イラン人がアメリカをどのように見ているかという永続的な代償は、アメリカの安全保障上の利益に打撃を与え続けている。

CIAが2013年に発表したその役割を認めた文書によると、イギリスの諜報機関MI6とCIAは、今日のロシア、中国、またはイランよりもはるかに寛容で有利な環境で作戦を遂行してきた。1953年のイランは、比較的開放的で民主的な社会だった。クーデターを支援するにあたり、アメリカとイギリスはイスラム教聖職者の間から同盟者たちを募り、賄賂を利用してイランのマジュリス(majlis 訳者註:アラビア語で議会、集会、社交界)と軍の上級将校の協力を確保し、群衆を分断することに成功した。そのようなアプローチは、今日ではより困難になっている。

ロシア、中国、イランなどのより制限的な環境に対して、アメリカは過去に亡命グループと協力して国内の変化を促進してきた。たとえば、アメリカは、サダム・フセインのイラクに対抗して、米国防総省が支援するイラク国民会議のリーダーであるアーメド・チャラビに何よりも依存していたが、彼やそのようなグループが国を代表していないことや、人々からの支持を得ていないことに気づいたのは遅すぎた。

ロシア、中国、またはイランの国外の反体制グループの間で利用できる選択肢は限られている。イランの場合、モジャーヘディーネ・ハルグ (MEK) が存在する。アメリカ諜報機関のイランの専門家たちは、この組織は暴力を放棄し、講演会には超党派の講演者を招聘しているにもかかわらず、かなりカルト的でマルクス主義に傾倒している組織であるので、適度な距離を保つよう、歴代のホワイトハウスに長い間警告してきた。

私のCIAでのキャリアで、自国の体制を変えるための支援を求めてアメリカ政府との関係を求めている政治的反体制派や反乱グループからアプローチされることは珍しくなかった。信頼できるものはほとんどなく、中には、置き換えようとしている政権よりもアメリカの利益にとって潜在的に大きなリスクを提供したものもあった。合法的で進歩的な国内の反対運動を支持することでさえも、アメリカからの協力が暴露されてしまうとそれらの運動の信頼性を損なってしまう。そうなればアメリカの協力は諸刃の剣になる可能性がある。

全ての優れたスパイは、混沌の中にチャンスがあることを知っている。私が3月に『ウォールストリート・ジャーナル』紙に書いたように、「スパイはプーティンを滅ぼすだろう(Spies Will Doom Putin)」。そして、諜報機関のためにそのような機会を利用する幸運(偶然)は、多くの準備と適切な人々との関係の長期的な育成がもたらす。アメリカが対抗している独裁的な権力全体の不安定さと不安は、作戦上偶然で標的が多数存在する環境を作り出している。

CIA は戦略的諜報機関であり貯法活動に長けてはいるが、人々の情熱や動きを把握したり、正統な政治的反対派に関与したりすることは上手にできない。そうしたことはそもそも活動内容としては想定されていない。 CIA は、秘密と権力にアクセスできる者と内密に関与することを得意としており、ロシア、中国、およびイランでの活動はうまくやれていると私は考えている。

CIAの作戦局副局長であるデイヴィッド・マーロウは、ウクライナ侵攻はプーティンにとって大失敗であると形容し、西側諸国の諜報機関が、プーティンに不満を抱いたロシア人たちを結集させる機会につながる可能性があると主張している。マーロウは、限界に追いやられ、外国の諜報機関と協力する傾向にあるロシア人たちについて話した。こうしたロシア人たちの多くが西側諸国と協力する動機は、愛国心(patriotism)、不満(disgruntlement)、今後起こりうる困難な時代に対する保障の追求(the pursuit of an insurance policy against harder times possibly to come)である。

しかし、体制への反対派を活気づけることに成功したことが、アメリカが弱めようとしている独裁政権による建設的な対応につながったとしたらどうだろうか? そのような干渉は、市民の要求に対応するライヴァル(である独裁者たち)を実際に強化し、それによってより強力で有能な敵になることが可能となるのではないか?

 

 

中国では、習近平国家主席による新型コロナウイルス対策制限の緩和は、中国経済を回復させるための救済策になり得るだろうか? イランの神学者たちは、社会的制限の一時的かつ表面的な緩和の可能性に対する反応を測定し、国家主義的なテーマを活用することができるだろうか? プーティン大統領は民主的な譲歩を操作して、幻想の人気を作り出し、それを現実のものにするつもりなのだろうか?

中国は除外できる可能性があるが、そうした可能性は低い。イランには操縦する余地が存在しない。現在の指導者は、権力を維持するために必要な抑圧と残虐行為を正当化するために、保守的な宗教的資格を必要としている。過去の蜂起におけるイラン政権の行動は、1979年の革命から学んだ教訓を反映している。その教訓とは、「国王が失脚する前に試したような部分的な妥協はより大胆な反対を助長するだけだ」というものだ。

プーティンも同様で、彼の無敵のイメージの必要性を確信しているはずだ。「プーティンは弱い」と人々に思わせてしまうような公の場での振る舞いによって損なわれる。このことは、人々がプーティンの外見や振る舞いに慣れてしまうことが引き起こす可能性があるとプーティン自身が認識している。そして、習近平でさえ、抗議者たちの期待とリスク許容度を高めることなしに進める地点はそこまで遠くないが、政治的制限を緩和する必要はほぼないと言える。習氏の最も差し迫った課題は、政治に関して中国共産党を尊重する代償として、14億人の中国国民に強固な経済を提供するという社会契約を維持することだ。経済の安定を回復するには、厳しいロックダウンの後、いくらかの開放が必要になるかもしれない。

ロシア、中国、イランにおいて西側の諜報機関が利益を得ることができる状況と環境は、後退するのではなく、西側に有利な形で構築される可能性が高い。

アメリカは、これらの専制独裁政権の不正行為と悪意のある行動を明らかにし、限定的かつ慎重に検討された例外的な場合を除いで、冷戦中に行ったのと同じように、専制独裁政権の国々の有機的な反対政府グループを組織化し、活性化する必要がある。その支援は、勇気ある国内の努力を損なうことのない方法で必要な範囲で展開されるべきだ。それはそうした国々を正当に反映するグループに拡大されるべきであり、アメリカ政府が解決を望んでいた問題よりも更に大きな問題をアメリカ政府に残すようなことがあってはならない。

※ダグラス・ロンドン:ジョージタウン大学外交学部諜報学教授。中東研究所非常勤研究員。ロンドンは34年以上にわたり主に中東地域、南アジア、中央アジア、アフリカにおいて、ロシア語担当工作オフィサー、CIAクランデスタイン・サーヴィスを務めた。元ソヴィエトの共和国を含む3か所で責任者を務めた。著書に『リクルーター:スパイ技術とアメリカ諜報機関の失われた技術(The Recruiter: Spying and the Lost Art of American Intelligence)』がある。ツイッターアカウント:@DouglasLondon5

(貼り付け終わり)

(終わり)

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