古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: プロフィール

 

 民間市場からスパイウェアを購入した政府はパナマ政府だけではない。イギリスを拠点とする監視団体プライヴァシー・インターナショナルが発表した2015年の報告書によると、アメリカが所有するイスラエル企業ヴェリント(Verint)は、コロンビアの治安当局に先進的な調査システムを供給した、ということだ。報告書には、「2005年以降、ヴェリントは、コロンビアの大量盗聴能力の発展において中心的な役割を果たした」と書かれている。2015年2月、コロンビアの元治安責任者は、2002年から2010年にかけてのアルヴァロ・ウリベ大統領の在任時に違法な盗聴に関わったとして訴追された。

 

 ヴェリントとイスラエルの技術企業ナイス・システムズは、カザフスタンとウズベキスタンに対してスパイ手段のハードウェアとソフトウェアを売却した、とプライヴァシー・インターナショナルと報告している。これによって両国の抑圧的な政府は、電話線、携帯電話、インターネットに対してスパイ活動が行えるようになり、政治的反対者たちに対しての弾圧が行えるようになった。報告書の共同執筆者エディン・オマノヴィッチは、2014年に『ヴァイス』誌のインタビューで次のように語った。「権威主義的諸国の野蛮で冷酷な秘密警察は、全ての国民の私生活を対象とでいる監視能力を手に入れることで、力を増している。スパイ手段産業が規制のないままに無責任な活動を続けているために、これは避けようのない悪夢のシナリオなのだ」。

 

 プライヴァシー・インターナショナルは、ヴェリントがカリフォルニアを拠点とする企業ネトロノーム(Netronome)に接触した、と指摘した。ヴェリントはネトロノームが持っている、フェイスブック、Gmail、その他のウェブサイトの暗号化を無効化できる技術をウズベキスタン政府に提供しようとした。この試みが成功したかどうかははっきりしない。この報告書が出された後、ネトロノームは声明を発表した。その中で、「我が社は人権や個人のプライヴァシーに対するいかなる侵害行為にも加担していない」と述べ、事業を展開している各国の法律を遵守していると発表した。

 

* * *

 

しかし、ここに問題がある。監視手段の大衆化と私有化は、脆弱な輸出管理と侵入的なスパイ手段に関しての自発的な国際合意の結果である。スパイシステムを規制する唯一のメカニズムは、ヴァッセナール合意である。この合意によって参加国は、通常兵器と軍民共用の道具と技術の移動に関しての情報を定期的に交換できるようになった。しかし、アメリカを含む締約国41か国を法的に拘束するものではないし、イスラエルはこの合意に参加していない。

 

 ワシントンでは、クリス・スミス連邦下院議員(ニュージャージ州選出、共和党選出)は、2013年に「アメリカ企業が、人々を弾圧する外国政府がインターネットを検閲と監視の道具に変えてしまうようなことに協力することを防ぐ」ことを意図した法案を提出した。この法案は小委員会で否決されてしまった。スパイ手段の規制に関して共和党全体の関心は低いままであるがこれは驚くに値しない。

 

 昔は、技術は市民の側に立っていた。アナログコミュニケーションが主流だった時代、大量監視は労働力投入を必要とするものだった。多くの人々と多くの電話線が対象となって捌ききれなかった。盗聴や監視をするための人員はあまりにも少なかった。しかしながら今日、進んだデジタル技術は抑圧者の側に立っている。 時計の針を基に戻すことはできない。しかし、スパイ手段に関しての厳格な規制を実施するのに遅すぎることはない。実際に実施している例が2つある。2012年、アメリカとEUは、シリアとイランに対してのスパイ手段の売却、供給、輸送、輸出を禁止した。

 

 より多くの国々が大量監視手段システムを大量破壊兵器の一つだということに合意しない限り、ジョージ・オーウェルの『1984年』の内容が現実のものとなるだろう。「あなた方は、あなた方が起こす全ての音が聞かれ、暗闇を除き、全ての動きを精査される習慣がやがて本能とまで昇華する中で生きてきた」。

 

(終わり)



野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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 古村治彦(ふるむらはるひこ)です。

 ブログの会社を引越しし、心機一転ということで、これから皆様にこのブログをご愛顧いただければと思います。しばらくは使い方の実験や初期のご挨拶といった具合になると思います。今回は、心機一転ということで、ここで自己紹介をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

◆古村治彦(ふるむらはるひこ)

一九七四年鹿児島市生まれ。鹿児島県立鶴丸高校卒業。早稲田大学社会科学部卒業、大学院社会科学研究科地球社会論専攻修士課程修了(修士)。南カリフォルニア大学大学院政治学専攻博士課程中退(政治学修士)。現在、SNSI研究員並びに愛知大学国際問題研究所補助研究員。


(単著)

・『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』(PHP研究所、2012年)



(論文・共著)

・「アメリカの黒人プロ・スポーツ選手の世界-ヒーローになるにはスポーツ選手」 副島隆彦著『からだで感じるNYの黒人英語』(講談社、2000年)所収、173-195ページ

・「アメリカの『プリウス人気』の裏に何があるのか」 副島隆彦・SNSI共著『エコロジーという洗脳』(成甲書房、2008年)所収、159-188ページ

・「国際環境制度・機関についての議論に関する一考察」 愛知大学国際問題研究所紀要133号(愛知大学国際問題研究所、2009年3月)所収、145-163ページ

・「社会工学 social engineering-文明化外科手術」 副島隆彦・SNSI副島国家戦略研究所共著『悪魔の思想辞典』(KKベストセラーズ、2009年)所収、126-133ページ

・「ロビー活動 lobby-薄汚いものだがデモクラシーには必要なもの」 副島隆彦・SNSI副島国家戦略研究所共著『日本のタブー むき出しの真実ほど恐ろしいものはない 悪魔の思想辞典〈2〉』(KKベストセラーズ、2010年)所収、230-241ページ

・「『属国』日本が展開する原発輸出とその司令塔・前田匡史」 副島隆彦・SNSI副島国家戦略研究所共著『放射能のタブー 悪魔の思想辞典〈3〉』(KKベストセラーズ、2011年)所収、172-183ページ


(翻訳)

・デイヴィッド・ボウツ著、副島隆彦訳『リバータリアニズム入門』(洋泉社、1998年)翻訳協力(下訳)

・ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト著、副島隆彦訳『イスラエル・ロビーⅠ・Ⅱ』(講談社、2007年)翻訳参加(下訳)

・トーマス・ウッズ著『メルトダウン 金融溶解』(副島隆彦・監訳、解説、ロンポール序文、成甲書房、2009年)翻訳

・アダム・レボー著『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』(副島隆彦・監訳、解説、成甲書房、2010年)翻訳

・パラグ・カンナ著『ネクスト・ルネサンス 21世紀世界の動かし方』(講談社、2011年)翻訳

・ロバート・ケーガン著『アメリカが作り上げた“素晴らしき”今の世界』(ビジネス社、2012年)翻訳

・フランシス・フクヤマ著、会田弘継訳『政治の起源(上)(下)』(講談社、2013年)翻訳参加(下訳)



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