古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

カテゴリ: ヨーロッパ政治

 古村治彦です。

 

 イギリス首相テレーザ・メイが総選挙実施を発表した時、野党に対して責任のある行動を取るように求めました。この選挙であなた方は罰を受けるのよ、という感じでした。しかし、実際に罰を受けてしまったのはテレーザ・メイ率いる保守党でした。総選挙実施発表直後は、保守党が大勝するという予想が出ていましたが、その後、過半数は維持するだろうとなり、更には過半数確保は難しいとなっていきました。選挙結果では保守党が勝利し、連立政権を組むことでメイ政権は続くことになりますが、勝利者はイギリス労働党と、時代遅れの社会主義者として冷遇されてきたジェレミー・コービン党首でした。

 

 アメリカではジョージ・W・ブッシュ、日本では小泉純一郎がリーダーであった時代、イギリスではニューレイバー(新しい労働党)を掲げたトニー・ブレアが首相でした。伝統的な労働党の路線を棄て、より中道的な政策へと転換しました。それが新しいものだと考えられてきました。古臭い社会主義の臭いのする政策は失敗だったとヘイリの如く捨てられました。

 

 日本でも新しいリベラル勢力として、一部保守的な政治家も取り込んで、民主党が生まれました。民主党は若い政党としてあっちにぶつかり、こっちにぶつかりしながらもなんとか野党として存在感を出し、参議院では自民党を追い越す議席を獲得することができるようになりました。そして、「国民の生活が第一」を掲げて、総選挙に大勝して、鳩山由紀夫政権が誕生しました。

 

 しかし、民主党内部、そして官僚、自民党からの攻撃の前に、鳩山政権は1年で瓦解し、その後は、自民党とどこが違うのか分からない、中途半端な菅直人政権、野田佳彦政権と続き、財務省の言いなりになり、増税一本槍となり、民主党は政権を失いました。また、国民からの支持も失い、この状況は現在も続いています。

 

 安倍政権がどれほどの失敗やスキャンダルを起こしても、「民進党よりもまし」と思われているというのは、民進党が国民に貢献していないということであって、このことは厳しく糾弾されるべきです。政権獲得から喪失までを分析し、反省しなければなりませんが、この時期に中心的役割を果たした人々が無反省に指導部に居座っているようでは話になりません。

 

 今回のイギリス労働党の躍進は民進党のお手本になるものです。緊縮財政に反対し、対外強硬、排外主義に反対し、「国民の生活が第一」の旗をもう一度掲げるべきです。

 

 また、イギリス労働党の再生(resurrection)は、党内の「異分子」と言われ、冷遇されてきた勢力が中心となったという点は自民党にもお手本になるものと思います。現在、自民党は安倍一強時代と言われています。安倍氏に代わって指導者になれる人材がいない(あれだけ国会議員の数がいるのに)という状況にあり、かつ官邸が力を持ち、異論を許さない状況にあります。そういった意味では、恐怖で支配する「一枚岩」という状況ですが、「一枚岩」は、状況の大きな変化に対応できません。イギリス労働党がブレア路線の人々ばかりであったなら、保守党との差異を打ち出すことができずに、潰れていたことでしょう。それと一緒で、安倍路線で一枚岩では、大きな変化の際に対応できる人材がいないということになります。

 

 ですから、少数派や異論を述べる人々は組織の中で必要とされます。今の自民党では、そのような多様性がないように見えますが、それでも、ジェレミー・コービンのように異論を堂々と語り続けることができる人が出てこなければ、自民党は変化に対応できないということになるでしょう。わが世の春はいつまでもは続かないということは歴史が証明しています。

 

 アメリカやイギリスで起きた動きは、やがて遅れて日本にもやってくるでしょう。日本の有権者や国民は愚かだという言説には私は与しません。変化を感じ取ってそれを行動で示すことができるものと確信しています。

 

(貼り付けはじめ)

 

労働党はジェレミー・コービンのものとなった(The Labour Party now belongs to Jeremy Corbyn)―ブレア時代は6月8日に本当の終焉を迎えた

 

『エコノミスト』誌

2017年6月10日

http://www.economist.com/news/britain/21723193-blair-era-truly-ended-june-8th-labour-party-now-belongs-jeremy-corbyn

 

テレーザ・メイは8週間前に総選挙の実施を発表した時、ジェレミー・コービンは、1983年のマイケル・フット以降、もしくは1935年のジョージ・ランズブリー以来、最弱の指導者であると多くの人々が考えていたコービン氏は番狂わせを演じ、復活した。イギリス議会におけるキングメイカーとなる可能性を持ち、労働党の強力な指導者となっている。

 

コービン氏が連立政権を組むことができる可能性は低い。イギリス国民は保守党に過半数に少し足りない議席を与えた。常識で考えれば、現在の与党が政権に就く第一のチャンスを持つ。しかし、スコットランド民族党と自由民主党といった野党勢力の多くが保守党よりも労働党と条件交渉をして連立政権を作る可能性も存在する。保守党が連立政権を構築できる場合、コービン氏は強力な野党勢力の強力な指導者となるだろう。コービン氏は過半数を少し超えただけの議席しか持たない連立政権率いる首相に圧力をかけ続けることができるだろう。

 

コービン氏はイギリスの左派を革命的に変化させている。1980年代中盤以降、労働党は、中道に進むことが政権獲得のための唯一の方法だと確信してきた。左翼的な政策である産業の国有化や「国家規模での解放の闘争」の支援を取り下げ、市場と西側の同盟諸国を重視する政策を掲げるようになった。コービン氏はこのような主張に反対する少数の議員の一人であった。トニー・ブレアと側近たちはコービン氏を、人々をイラつかせるような、過激な人物として処遇してきた。

 

労働党の国会議員たちの大多数はついこの間までブレアの採用した方法を支持してきた。2015年、コービン氏は労働党党首に選ばれたが、彼が勝つなど誰も考えていなかった。2016年、労働の国会議員の4分の3はコービン氏の留任に反対票を投じたが、このクーデターは失敗した。多くの議員たちにとって、コービン氏は占領軍のようであった。そして、少数の信念を持つ強硬左派の人々によってコービン氏は支えられていると考えられていた。コービン氏の首席ストラティジストである有名なセウマス・ミルンと労働組合連合(UNITE)の指導者レン・マクラスキーがコービン氏を支えてきている。また、最近まで労働党以外に所属していた活動家たちが作る草の根の圧力団体もコービン支援に参加し、勢いが出た。

 

労働党の国会議員たちは根本的に考え直すことになるだろう。コービン氏は可能性の限界を再構築し、可能性を拡大することに成功した。コービン氏は労働党が中道に進むよりも、労働党が真に信じているものを主張することで、選挙でうまくやることができるということを示している。労働党の前党首エド・ミリバンドは2015年の総選挙で敗北した。その理由の一つはミリバンドが弁解や謝罪ばかりしているように見えたからだ。

 

対照的に、コービン氏は常に社会主義者であり続けてきたことに誇りを持ってきた。彼はまた、タブロイド紙が、労働党が恐れるロットワイラー犬ではないということを示した。コービン氏とアイルランド共和国軍との関係についての記事が多く出され、その多くが真実であったが、有権者の多く、特に若い人たちにとってそれは気にするべきことではなかった。 ブレア時代は6月8日に本当に終焉したのだ。

 

コービン氏はこれから厳しい挑戦を受けることになる。労働党が連立政権を構築する場合、コービン氏は連立相手に対して妥協しなければならないだろう。野党である立場を選択する場合、党内から厳しい批判を受けることになる。労働党内部からは、コービン氏以外の指導者であれば選挙に勝てていただろうという声が上がっている。結局のところ、経済は弱いままで、人々は耐乏生活を強いられている。全国健康サーヴィスは繰り返し危機的状況に陥っている。 それにもってきて、テレーザ・メイは最近の歴史の中で、最悪の選挙戦を展開した。

 

こうした条件が揃っていたのだが、それでも労働党の躍進を予測することは難しかった。コービン氏は全ての予測を覆す強力な選挙戦を展開した。彼は選挙に勝てなかったが、保守党の指導者とは異なり、勝利者のオーラを身にまとっている。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12






 古村治彦です。

 

 『フィナンシャル・タイムズ』紙に、今回のフランス大統領選挙の結果についての分析記事が掲載されていました。学歴、所得、失業、反エスタブリッシュメント意識といった要素からの分析がなされていました。以下に箇条書きした内容の要約をご紹介します。

 

 マクロンに投票したのは、教育程度が高く、社会的に恵まれている人々であり、ルペンに投票したのは、不平不満、フラストレーションを抱えている人々でした。ルペンに投票した人々は、イギリスのEU離脱の国民投票で離脱に投票した人々と同じような特徴を示す人々でした。

 

 既存の保守政党である共和党のフィヨン、リベラル政党である社会党のアモンを支持した有権者のほとんどはマクロンへ投票し、極左のメランションの支持者も多くはマクロンに投票したようです。ルペンは第1回目の投票から支持を10%ほど伸ばしましたが、これはメランションの支持者から流れたと見られています。

 

 ルペンに投票した人々は、反EU、反ドイツ中心、反移民の考えを強く持っている人々ということになります。極右で危険なファシストと罵倒されるルペンが3割の支持を得たということは右傾化という言葉だけでは片づけられないと思います。

 

 近年の西洋諸国の政治状況を見てみると、左派・リベラル政党の退潮が顕著に見られます。イギリスの労働党、オランダの労働党、フランスの社会党、アメリカの民主党、日本の民進党(旧・民主党)といった、政権を担当したこともある諸政党は勢力を落としています。これは、グローバライゼーションが生み出すひずみや格差、マイナスに対処するための政策を打ち出すべきであったこれらの諸政党が、グローバライゼーションを促進する役割を果たしたり、人々の生活を苦しめるような内容の政策を最悪の対民で打ち出してしまったりで、人々の信任を失ったためと考えられます。

 

 こうした左派・リベラル政党の支持者の一部が更に左翼的な政党やポピュリズム(既存の政党や政治に対する怒り)へと移行しているのが現在の状況です。これは「右傾化」という言葉では片づけられないと考えます。低所得やマイノリティの有権者はリベラル政党の再分配政策を支持してきました。社会の高学歴化と都市化と中流化が進み、リベラル政党がこうした恩恵に浴する有権者からの支持を得ようとしてグローバライゼーションを受け入れ、促進する政策を選択するようになり、政権に就くことになりましたが、元は再分配重視の政党ですから、中途半端に終わり、かえって有権者の支持を失っているということが現在起きていることだと思います。

 

 日本で言えば、安倍政権は、本質的には戦前回帰、反米、反国際協調主義なのでしょうが、グローバライゼーションを促進すると主張しています。それであるならば、野党第一党である民進党は、グローバライゼーションによるひずみを解消する、格差を拡大させない、固定化させない政策を主張すべきで、それが旧・民主党が掲げた「国民の生活が第一」というスローガンであったと思います。そして、昨年、ドナルド・トランプは「アメリカ・ファースト!」を掲げて、下馬評を覆して当選しました。トランプが言う「アメリカ」は、普通の一般国民(昔、日本でもパンピー[一般ピープル]なんて言葉が使われましたが)のことですので、旧・民主党のスローガンは時代を先取りしていたということが言えます。

 

 フランスの大統領選挙は、中道マクロンの勝利ということになりましたが、彼がどんな「中道」であるのか、これからはっきりしてくるでしょう。

 

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French election results: Macron’s victory in charts(フランス大統領選挙の結果:マクロンの勝利をチャートで見る)

 

2017/5/8

Financial Times

https://www.ft.com/content/62d782d6-31a7-11e7-9555-23ef563ecf9a

 

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●総評

 

・マクロンは大差をつけて勝利した(66%対34%)。

・マクロンは、第一次投票で左派の候補だったメランションとアモンの支持した有権者の過半数の支持を受けた。中道右派のフィヨンの支持者の半数の支持も得た。

 

・ルペンの増加分はフィヨンを支持した有権者とメランションの支持者の10%の支持であった。

・メランションの支持者の3分の1は棄権したが、これが大勢に影響を与えることはなかった

 

●学歴

 

・学士号を持つ人々の数が多い地域ほど、マクロンへの投票が多かった。

・学歴が高い人が多く住む地域ではマクロンへの投票が多く、低い人々が住む地域ではルペンへの投票が多かった。

 

・このパターンは2016年のイギリスのEU離脱国民投票、アメリカの大統領選挙、オランダの総選挙でも見られた。学歴はポピュリズムに基づく投票行動を示す指標になる。学歴が低い人ほどポピュリズムを選び、学歴が高い人ほどそうではない。

 

●所得

 

・所得が高い人々ほどマクロンに投票すると予想されていた。富裕層を代表するマクロン対貧困層を代表するルペンという構図になっていた。

 

・学歴と所得とは相関関係にある。

・所得が高い人ほど都市部に住む傾向がある。都市部の場合は収入以外の社会的要因が投票行動に影響を与える。

 

・オランダの総選挙でも所得は重要な要因となった、所得が低い地域ではポピュリストのゲルト・ウィルダースへの投票が多かった。イギリスの国民投票でも同様のことが起きた。所得が低い地域ほど離脱への投票が多かった。

 

●労働者階級

 

・学歴に次いで、有権者に占める労働者階級の割合がルペンへの投票の指標となった。特にサーヴィス部門における単純作業に従事する非熟練労働者の数が顕著な指標となった。

 

・労働者階級、特に非熟練労働者は、エスタブリッシュメントに見捨てられたグローバライゼーションの被害者として語られた。

 

・しかし、FTの分析では、学歴と年齢を指標に比べると、労働者階級の人口に占める割合は有意な指標とはならなかった。

 

・大学教育を受けた人々は高い技術を必要としない仕事に就かない傾向にあり、大学教育を受けた人々の数は増加している。

 

・肉体労働者の多い地域では移民の割合も高いが、そうした人々は投票権を持っていないことが多い。

 

●失業

 

・低所得と同じく、失業問題もまたグローバライゼーションのために放置されているとルペンは主張していた。

 

・第1回投票でメランションに投票した有権者は、ルペンに投票した人々よりも失業問題を重視していた。第1回目の投票でマクロンを支持しない理由として失業問題を挙げる人の割合が多かったが、第2回目ではその割合は減少した。マクロンへの支持を巡って、こうした有権者は分裂した。

 

・ルペンは都市部で苦戦した。都市部の低所得者、失業者は第1回目の投票ではメランションに投票した。こうした人々は決選投票でルペンに投票しなかった。

 

●福利と悲観主義

 

・ルペンの支持者たちは将来についてより悲観的だという調査結果が出た。将来に対して楽観的な有権者はマクロンに投票した。

 

・親の世代よりも自分たちは恵まれないという認識を持っている人々はルペンに投票した。

 

●平均寿命

 

・マクロンに投票した地域では人々の平均寿命が長いことが分かった。

 

・平均寿命とマクロンへの投票との間には正の関係があると解釈される。平均寿命が長く福利に恵まれていると考える人々はルペンのマイナスの感情への訴えを拒絶し、マクロンのポジティヴな主張を支持した。

 

●移民

 

・移民の数とルペンへの投票との間で相関関係は発見できなかった。ルペンの支持者たちは移民を重要な問題だと考えている。

 

・イギリスのEU離脱国民投票とよく似ている。移民に対して否定的な考えを持つ人々はEU離脱に投票した。更に言うと、このような考えを持っている人々の方が投票に向かった。

 

●反エスタブリッシュメント意識

 

・左派を支持した有権者はマクロンに投票した。自分を「極左」だと分類した有権者は、「左派」「左派に近い」とした有権者よりもルペンに投票した人が多かった。

 

・西側諸国に長く続いた左右対決というパターンに変化が出てきている。それは、エスタブリッシュメント(中道)対過激勢力との間のイデオロギー上の戦いというものだ。

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

 
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