古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中東政治

 古村治彦です。

 今回はアメリカとサウジアラビアの関係、更にウクライナ戦争開始以降の両国関係に関する記事を紹介する。長くなってしまって読みにくくなってしまっていることをお詫び申し上げる。ご紹介したい関連記事が複数あってこのように長くなってしまった。
 現在、世界の石油価格は高騰している。新型コロナウイルス感染拡大で石油価格が下落していたが、その騒ぎも収まりつつある中で石油価格が上昇していった。それに加えて2月末からのウクライナ戦争で対ロシア経済制裁と先行き不安のために石油価格は高騰している。

oilpricesgraph202111202204511
石油価格の推移(2021年11月から) 

 アメリカはロシアからの石油が輸入の7%を占めていたがそれが入らなくなったために、これまでさんざん虐めてきたヴェネズエラとの関係修復を試みている。しかし、世界全体では増産まで時間がかかる上に、何より最大の産油国であるサウジアラビアがアメリカに非協力的であるために、石油価格が上昇している。

 サウジアラビアのアメリカに対する非協力的な態度はサウジアラビアの実質的な支配者であるサルマン王太子のバイデン政権に対する怒りが源泉となっている。ジョー・バイデン米大統領は大統領選挙期間中からサウジアラビアとサルマン王太子に対して批判的であり、『ワシントン・ポスト』紙記者だったジャマル・カショギ殺害にサルマン王太子が関与しているというインテリジェンスレポートを公表するということを約束しており、就任後に実際に公表した。また、バイデン政権は、ドナルド・トランプ前政権との違いを強調するためもあり、サウジアラビアの人権状況に批判的となっている。更には、サウジアラビアが関与しているイエメンの内戦でサウジアラビアの立場を支持してこなかった。こうしたことはサルマン王太子とサウジアラビア政府を苛立たせてきた。そして、サルマン王太子の中国とロシアへの接近ということになった。

vladimirputincrownprincealsalman511
プーティンとサルマン王太子
 今回のウクライナ戦争で、アメリカは慌ててサウジアラビアとの関係を改善しようとしている。サルマン王太子とジョー・バイデン米大統領との直接の電話会談を実現させようとしたが、サウジアラビア側から拒否された。バイデン政権はサウジアラビアからしっぺ返しをされている。また、イエメン内戦でイランから支援を受けているフーシ派武装勢力がサウジアラビアの石油関連施設に攻撃を加えていることで、「石油の増産したいのだが、フーシ派が邪魔をしてうまくいかない」という大義名分も手に入れた。
 アメリカは理想主義的な建前外交をやって、アメリカ国民と世界の人々の生活を苦境に陥れている。実物を握っている国々はいざとなったら強い。だから、理想主義でどちらか一方に偏っていざとなったらしっぺ返しを食ってしまうという外交は結果としてよくない。汚い、裏がある、両天秤をかけて卑怯だ、そんな人々から嫌われるような外交がいざとなったら強い。「敵とも裏でつながっておく」ことが基本だ。

 

(貼り付けはじめ)

フーシ派からの攻撃の後、サウジアラビアは石油不足について「責任を持たない」と発表(Saudi Arabia says it 'won't bear any responsibility' for oil shortages after Houthi attack

クロエ・フォルマー筆

2022年3月21日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/599014-saudi-arabia-says-it-wont-bear-any

サウジアラビアは、イランに支援されたフーシ派の反政府勢力が国営石油施設を最近攻撃したことによる流通への影響について、イエメンの内戦に対処するアメリカを明らかに非難し、石油増産に対して責任を取らないことを明らかにした。

国営サウジアラビア通信は、世界最大の石油輸出国サウジアラビアは、「石油施設へ攻撃を受けたこともあり、世界市場への石油供給が不足しても、いかなる責任も負わないことを宣言する」と報じている。

サウジアラビア外務省は、「イランに支援されたテロリストのフーシ派民兵から我が国の石油施設が攻撃されたこと」を受けて声明を発表した。

サウジアラビアの指導者たちは、エネルギー市場を安定させ、禁輸されているロシアの石油を相殺するために供給を増やして欲しいというアメリカらの要請に抵抗しているため、ロシアのウクライナ侵攻でアメリカ・サウジ間の緊張は既に高まっている。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日、国営石油大手アラムコが所有する石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、製油所などがドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省は、この攻撃により「製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と述べた。

サウジアラビア外務省は、西側諸国がサウジアラビアと共にイランとフーシを非難し、「世界のエネルギー市場が目撃している、この極めて微妙な状況において、石油供給の安全に対する直接的な脅威となる彼らの悪意ある攻撃を抑止する」よう呼びかけた。

2018年にイスタンブールのサウジアラビア領事館に誘い込まれて殺害された『ワシントン・ポスト』紙のジャーナリスト、ジャマル・カショギの殺害以来、アメリカ政府はサウジアラビアへの批判を強めている。

サウジアラビアの人権記録やイエメン内戦をめぐる緊張が、アメリカ連邦議会において超党派の議員たちからの批判を招き、それがまた両国間の争いに拍車をかけている。

しかし、アメリカのジョー・バイデン政権は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に最大限の圧力をかけるために外交政策を立て直し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子との関係を再構築しようとしていると複数のメディアが報じている。

『ウォールストリート・ジャーナル』紙は日曜日、ここ数週間にわたり、アメリカはサウジアラビアに「相当数」のパトリオット迎撃ミサイルを送り込んだと報じた。サウジアラビア政府はアメリカ政府に対してフーシ派からの攻撃に対処するための防衛的な武器を送るように求めていた。

=====

フーシ派勢力がサウジアラビアのエネルギー施設に複数のミサイルを発射(Houthi's fire missiles at Saudi energy facility

オラミフィハーン・オシン筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/598959-houthis-fire-missiles-at-saudi-energy-facility?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

ロイター通信は、サウジアラビア政府は、イエメンのイランから支援を受けているフーシ派が土曜日の夜から日曜日の朝にかけて、様々なエネルギー施設や淡水化施設に向けて複数のミサイルを発射したと発表したと報じた。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日に発表した声明で、ジザン地方の石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、紅海のヤンブ港にあるヤスレフ製油所がドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省からの声明には、「ヤスレフ製油所への攻撃により、製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と書かれている。

サウジアラビアのエネルギー省はまた、多くの石油物流工場が攻撃され、ある工場で火災が発生したと付け加えた。サウジアラビア政府のある高官によると、火災は制御され、死傷者は報告されていないということだ。

フーシ派のスポークスマンであるヤシャ・サレアは、過激派グループがサウジアラビアで多くの施設を攻撃したことを認めた。

サウジアラビア主導の軍事連合によると、武装勢力フーシ派はこの他、アル・シャキークの海水淡水化プラント、ダーラン・アル・ジャヌブの発電所、カミス・ムシャイトのガス施設などを攻撃対象として攻撃を加えてきた。ロイター通信によると、サウジアラビア国防軍は弾道ミサイル1発とドローン9機を迎撃したと報じている。

ハンス・グルンドベルグ国連特使は、数万人が死亡し、数百万人が飢餓に直面している7年間の戦闘を終わらせるための条約の可能性について、双方が協議したと述べたとロイター通信は報じている。

ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は日曜日の声明の中で、フーシ派からの攻撃を非難した。

サリヴァン補佐官は声明の中で、「アメリカは内戦終結に向けた取り組みを全面的に支持し、フーシ派の攻撃から自国の領土を守るパートナーを今後も全面的に支援していく。国際社会にも同じことをするよう求める」と述べた。

=====

ムハンマド・ビン・サルマンはバイデンに対して影響力を持ち、それを利用している(Mohammed bin Salman Has Leverage on Biden—and Is Using It

-サウジアラビアの原油価格引き下げへの協力は欧米諸国の価値観の犠牲の上に成り立つ。

アンチャル・ヴォウラ筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/24/mohammed-bin-salman-saudi-ukraine-oil-biden-opec/?tpcc=recirc_trending062921

ウクライナ侵攻後にロシアへ科された制裁によって、世界のエネルギー市場には大混乱がもたらされた。西側諸国は、1バレル140ドル近くまで高騰した原油価格をどう抑制するか、ロシアのエネルギー供給への依存からどのように脱するかでパニックに陥った。アメリカとイギリスはロシアの石油購入の禁止を発表し、伝統的な同盟国であるサウジアラビアに対して石油の供給を開始し、世界の石油価格を下げるように説得することに躍起となっている。

しかし、最大の産油国であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦は、この危機を自分たちの好機と捉えて、それに応じようとはしなかった。アメリカと欧米諸国へのメッセージは明白である。サウジアラビアは、人権侵害で批判され続ける対象として扱われるには、あまりにも大きな影響力を地政学的に持っている、ということである。

サウジアラビアはアラブ首長国連邦以上に油田の鍵を握っており、油田を開放し、親ロシアの石油政策を転換する前に、アメリカから大きな譲歩を得ることを期待している。エネルギー安全保障のために人権が再び犠牲になることを、活動家たちは恐れている。アメリカもイギリスも、サウジアラビアが3月中旬に行った81人の大量処刑を公然と批判していない。欧米諸国の対サウジアラビア政策は、消費者の財布への圧力を緩和するためのおだてが中心となっている。

サウジアラビアとアラブ首長国連邦は日量300万バレル以上の余力を持ち、その一部を放出することで原油価格を下げることができる。さらに、ロシアは日量約500万バレル、その8割近くを欧州に輸出しているため、リヤドとアブダビが支援を確約すれば、欧州諸国の懸念を払拭し、ロシアへの依存を減らすよう促すことができる。

しかし、湾岸諸国は、ロシアを含む石油カルテルの拡大版である「OPEC+1」への参加を理由に、これを控えている。その理由は、ウクライナ戦争は今のところ石油の供給に大きな支障をきたしていないため、生産量を増やす必要がないためだとしている。しかし、専門家たちは、これは世界政治の大きな変化を反映した政治的決断であると見ている。ロシアの戦争マシーンをも利する価格を維持する選択は、湾岸諸国の独裁者たちがもはやアメリカの緊密な同盟諸国の地位にいる必要性を感じず、同じような権威主義者たちとの新たな同盟を受け入れていることを示すものである。過去に何度か、サウジアラビアの支配者はアメリカの同盟諸国を喜ばせるために増産や減産を行ったことがある。

しかし今回、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ジョー・バイデン米大統領に復讐をするチャンスが到来したと見ているようだ。サルマンはこれまでバイデンから数々の侮辱を受け、優遇されてこなかったと考えているようだ。バイデンはまだ大統領選挙の候補者だった時期に、サウジアラビアをパーリア国家(pariah state 訳者註:国際社会から疎外される国家)と評し、大統領就任後にサウジアラビアの反体制派でワシントン・ポスト紙の記者ジャマル・カショギの暗殺に王太子が関与したとする情報報告書を公開した。さらに、サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、イラン核合意の再開の可能性についての懸念を持っているがこれは無視され、イエメンのフーシ派が自国の船や都市を攻撃したことに対してアメリカが行動を起こさないことには、軍事同盟国としての義務を果たさなかったと感じたという。最近では、フーシ派を指定テロリストのリストに入れ続けて欲しいという嘆願さえもワシントンによって無視された。

ロシアのプーティン大統領の戦争をきっかけに燃料価格が上昇したため、ホワイトハウスはバイデンと不貞腐れた王太子の電話会談を実現しようと奔走したが拒否された。しかし、サウジアラビアの後継者サルマンはカショギ殺害を命じたという疑惑を通してプーティンの側に立ち、女性人権活動家が逮捕され囚人が大量に処刑されても非難を囁くこともなかった。サルマンはプーティンの緊密な同盟者と見られることに全く不安を感じていないのである。

サウジアラビアが同じ権威主義者プーティンに近づいたのは、当時のバラク・オバマ米大統領との関係が悪化した2015年に遡る。その1年後、ロシアがOPECに加盟した。リヤドはその後、モスクワとの関係を強化する一方、アメリカとの関係は、オバマ時代のイランとの核合意から離脱したドナルド・トランプ米大統領の在任中に改善し、バイデンが指揮を執って合意復活のための協議を再開すると再び悪化するなど、一進一退を繰り返している。トランプ政権時代、ムハンマド・ビン・サルマンは改革者として描かれていたが、バイデン政権下では、サウジアラビアのイエメン攻撃で民間人が死亡したことや、自国内の人権侵害で再び厳しく批判されるようになった。

クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトの共同設立者であり上級副会長を務めるトリタ・パルシは、サウジアラビアがロシアを支持している理由は、サルマン王太子がロシア大統領の地位をプーティンが継続し、アメリカで政権交代が起きることを確信しているからだと述べている。

パルシは次のように発言している。「サウジアラビアの王太子サルマンはプーティンに賭けている。サルマンはプーティンを信じているだけでなく、共和党が中間選挙で勝利し、バイデンがレイムダックになることを望んでいる。2025年までに、バイデンと民主党は政権を失い、プーティンはロシアの大統領に留まるとモハメド・ビン・サルマン王太子は信じているようだ」。

今回の危機は、アメリカが主張するエネルギーの独立性を改めて認識し評価することを余儀なくさせた。新型コロナウイルス感染拡大によって大きな損失を被った国内のエネルギー産業をよりよく管理するために、より首尾一貫した長期計画を打ち出すか、口を閉じて権威主義者たちを容認するかのどちらかでなければならない。

エネルギー分野の専門家たちによれば、いずれにせよ、米国のフラッキング企業(訳者註:シェールガス採掘を行う企業)が新たな井戸を掘るには数カ月かかるという。イランやヴェネズエラに対する制裁が解除されたとしても、その石油を世界市場に供給できるようになるにはまだ時間がかかるだろう。先週末、ドイツはカタールと液化天然ガス(LNG)輸入の長期契約に調印した。カタールはロシア、イランに次いで3番目に大きなガス埋蔵量を持つ国であり、この契約によりドイツは液化天然ガスを迅速に輸入することができる。この協定により、ドイツはカタールのガスを輸入できるように2つの液化天然ガス基地の建設を急ぐが、それでもそのガスがドイツの家庭に供給されるまでには何年もかかるだろう。これまでドイツは、パイプラインで輸送される安価なロシアのガスに頼っていた。

現在世界最大の産油企業であるサウジアラムコは、2021年に過去最高益となる1100億ドルを稼ぎ出し、前年の490億ドルから124%増の純利益を記録した。サウジアラムコは石油の増産に向けた一般的な投資を発表したが、短期的に供給を増やすことは何もしていない。サウジアラムコのアミン・ナセルCEO(最高経営責任者)は、「私たちは、エネルギー安全保障が世界中の何十億人もの人々にとって最も重要であると認識しており、そのために原油生産能力の増強に引き続き取り組んでいる」と述べた。

国際エネルギー機関(IEA)は、今年末までにロシアから少なくとも日量150万バレルの原油が失われる可能性があると発表している。それが更なる価格高騰につながることは間違いない。OPEC+は次回今月末に会合を開き、状況を把握して原油の生産量を決めると見られている。しかし、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の要求についてアメリカに耳を傾けてもらえたとどれだけ感じられるかに大きく左右される。

彼らは、アメリカが核取引に関する立場を変えないことを確信しているが、イエメンのフーシ派との戦いにおいて湾岸諸国を支援し、人権侵害に対する批判を減らすことができるだろうか? 厳しい国益の世界で最も低い位置にあるのは、個人の自由である。サウジアラビアの活動家たちは、世界の石油の安定と価格の引き下げのために、再び代償を払うことになるかもしれない。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、バイデンからそれ以上のものを求めるかもしれない。

=====

バイデンはロシアを支持するサウジアラビアを罰するべきだ(Biden Should Punish Saudi Arabia for Backing Russia

-リヤドは石油市場に変化をもたらすことができたが、アメリカではなく、権威主義者の仲間に味方することを選択した。

ハリド・アル・ジャブリ、アニール・シーライン筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/22/biden-mbs-oil-saudi-arabia-russia-ukraine/

アメリカとその同盟諸国が一致団結してロシアのウクライナ侵攻に反対している中、サウジアラビアはロシアに味方している。侵略を公に非難せず、OPEC+協定へのコミットメントを繰り返したことで、サウジアラビア政府はアメリカとの長年のパートナーシップに亀裂が入っていることを露呈した。

原油増産の懇願にもかかわらず、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ロシアのプーティン大統領と会談した1週間後に、ジョー・バイデン米大統領との会談を拒否したとされる。ロシアの石油の補償を拒否することで、王太子は国際社会が科す制裁に直面してエネルギーを武器として、エネルギーに依存するヨーロッパ諸国をロシアの石油とガスの人質にすることを許可し、プーティンの侵略を助長している。

月曜日になっても、サウジアラビア政府はロシアの行動を非難することを拒否している。その代わりに、サウジアラビアの外務大臣はロシア側と会談し、両国の二国間関係とそれを「強化・統合する方策」を確認した。

サウジアラビアの強硬姿勢にもかかわらず、バイデン政権は最近、フーシ派がサウジアラビアの水とエネルギー施設を攻撃したため、パトリオット対ミサイルシステムをサウジアラビアに追加配置した。サウジアラビアは、アメリカの保護が必要であることを表明し、これらの攻撃による石油供給不足の責任を否定する声明を出した。米国は、アラムコによる投資拡大の約束にもかかわらず、リヤドによる増産の保証を報告することなく防衛策を送ったのである。

バイデン米大統領から要求を受けてもサウジアラビアが石油の増産に消極的なのは、忠誠心が変化していることを示す最新の兆候である。70年にわたるパートナーシップを通じて、ワシントンはリヤドの主要な安全保障の保証人として機能し、その見返りとして、サウジアラビアの歴代国王はエネルギー問題でアメリカと緊密に協調してきた。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子が権力を掌握して以降、二国間関係は、7年間続くイエメン戦争などサウジアラビアの無謀な外交政策の決定や、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害で最も顕著に表れた人権状況の悪化によってますます緊迫してきた。

複雑な関係にもかかわらず、バイデン政権関係者の多くは、サウジアラビアの安全保障に対するアメリカのコミットメントを繰り返し表明し続けた。このような発言は、フーシの越境ミサイルやドローンによる攻撃からサウジを防衛するために最近6億5000万ドルの武器売却を行うなど、サウジアラビア主導のイエメン戦争に対するアメリカの継続的支援に裏打ちされたものである。

更に言えば、アメリカは最近、カタールを重要な非NATO加盟国に指定し、1月にアブダビで起きたフーシ派の無人機攻撃を受けてアラブ首長国連邦に追加の軍事資産を動員するなど、他の湾岸諸国のパートナーの安全確保に献身的であることを示している。このような安心感を持ちながらも、サウジアラビアは石油の増産と引き換えにイエメンでの戦争に対するアメリカの支持をもっと強要しようとしている。

現実には、サウジアラビアはアメリカの安全保障に関する保証を疑っていない。王太子が望んでいるのは、自らの支配を確実にすることである。アメリカは、湾岸諸国のパートナー諸国の物理的な安全を支援するために行動することはあっても、権威主義的なアラブの指導者が行うように、自分たちの好む体制を守るために民間人を攻撃することはないことを示してきた。湾岸諸国の支配者たちは、「アラブの春」におけるアメリカの中立的な姿勢が、エジプトにおけるワシントンの長年にわたるパートナー、ホスニー・ムバラクの失脚を許したと考えている

サウジアラビアの王室は、2011年にサウジアラビアが直接軍事介入したことでバーレーンのアル・ハリファ王家を救うことができた、マナーマの港に米海軍の第5艦隊がいたにもかかわらず、アメリカは役に立たなかったと考えている。それ以来、サウジアラビアの対米不信と国内の異論に対するパラノイア(被害者意識)は高まる一方である。サウジアラビアはサルマン国王とムハンマド・ビン・サルマン王太子の統治下で、ロシアや中国との密接な関係の育成を加速させている。

アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史も、湾岸における意味のある軍事的プレゼンスもない。

プーティンや中国の習近平のように、サウジアラビアの歴代の支配者たちは資本主義における独裁的モデルを好み、権威主義体制の生存と国家間関係からの人権の排除に基づいた代替的な世界秩序を構築しているのである。

中国やロシアが両国内のイスラム系少数民族を虐待していることに対してサウジアラビアや他の主要イスラム国家が無関心であることは、これらの政府が人権に反対していることの相性の良さを示している。中国とロシアがイスラム主義運動を政権の不安定要因と考えて偏執狂的に恐れているが、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はこうした考えを共有している。

サウジアラビアの国王と王太子は、イスラム教の重要性をサウジアラビアの国家戦略から切り離し、王室の役割を中心に据えることで、イスラム教徒を積極的に疎外しようとしてきた。例えば、2022年2月22日、サウジアラビアは初めて建国記念日を祝った。この新しい祝日は、サウジアラビアがワッハーブ派の創始者であるムハンマド・イブン・アル・ワッハーブと提携し、それによってサウジアラビアの宗教的正当性を高め、領土拡大を開始した1744年ではなく、ムハンマド・ビン・サウドが支配権を得た1727年を起源とするものであった。

西側諸国の多くは、サウジアラビア政府が宗教警察のようなアクターを無力化し、厳しい男女分離を若干緩和する決定を歓迎したが、これらの変化はまた、前例のないレヴェルの内部抑圧に対応している。人権活動家の投獄、海外での反体制派に対する弾圧、そして最近の81名の囚人の大量処刑は、ムハンマド・ビン・サルマン王太子の意図の本質を明らかにしている。それは、かつて国家権力を握っていた聖職者や保守派エリートを含む全ての反対意見を、より西側の社会規範の皮をかぶって黙らせることだ。

カショギの殺害をめぐる長引く憤慨と政治的疎外は、王太子に、欧米諸国から見たサウジアラビアのブランドを再構築する努力は失敗したと確信させたのかもしれない。その代わりに、中国とロシアは、ジャーナリストを殺害した皇太子を決して非難しないパートナーである。ロシアの場合、最近の歴史では、その行為すらも支持する可能性さえある。

しかし、中国とロシアに安全保障の保証に賭けるのはギャンブルである。アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史もなければ、湾岸地域における軍事的なプレゼンスもない。仮にサウジアラビアが米国製の軍備から移行する場合、そのプロセスには数十年と数千億ドルを要するだろう。

更に言えば、中国とロシアはイランと緊密な互恵関係にあり、サウジアラビアの顔色をうかがってこの関係を犠牲にすることはないだろう。サウジアラビアは、アメリカと対話する際、イランやイランが支援する集団に対するアメリカの保護をこれまで以上に保証するよう主張してきた。リヤドが北京やモスクワとの提携のためにそうした懸念を払拭したいと望んでいるとすれば、こうした姿勢はテヘランに対するアメリカの不信感を煽ることが主な目的であることが明らかになるであろう。

サルマン王太子のイランへの不安は本物だとしても、それ以上に国内状況への不安もまた大きい。そのためには、民間人に多大な犠牲を強いてでもシリアのアサド政権を維持しようとする姿勢を示したプーティンのようなパートナーが望ましい。今のうちにロシアと手を組んでおけば、サウジアラビア市民の大規模な抗議行動など、いざというときにクレムリンが助けてくれるだろうと期待しているのだ。

現在の米国のサウジアラビア宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているという王太子の認識を強めているだけのことだ。

ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、任期付きで選出された欧米諸国の政府高官たちのためにプーティンと敵対するリスクを冒すよりも、むしろプーティン支持という長期的なギャンブルに出るだろう。ボリス・ジョンソン英首相やジェイク・サリヴァン米国家安全保障問題担当大統領補佐官、ブレット・マクガーク米国家安全保障会議中東担当調整官らアメリカ政府高官たちによる最近の直接の懇請の失敗や、アントニー・ブリンケン米国務長官との面会を拒否したことは、サウジアラビア王太子が心を決めていることの証拠である。プーティンのエネルギー力を弱め、ロシアの石油ダラーの生命線を断つような石油政策を採用することはないだろう。彼は、ワシントンよりモスクワを選んだのだ。

同様に、バイデン政権がヨーロッパの同盟諸国にロシアの化石燃料を手放すよう圧力をかけているこの時期に、アメリカ政府がサウジアラビアに石油を懇願するのは止めるべきだ。アメリカの民主政治体制とサウジアラビアの権威主義体制は相容れず、長い間その関係を緊張させてきた。アメリカがサウジアラビアに石油をねだるのを止めるのは、もう過去のことだ。もう一つの残忍な炭化水素を基盤としている独裁国家に力を与えている場合ではないのだ。

ロシアの石油をサウジアラビア、イラン、ヴェネズエラの石油に置き換えるという不愉快な見通しに直面したとき、イラン核取引に再び参加し、イランの化石燃料を世界市場に戻すことは、最近の価格上昇に対処するためという理由はあるにしても、最悪の選択だ。イラン産原油の購入は、再交渉された核取引の条件によって制約されたままである。一方、サウジアラビア(またはヴェネズエラ)の要求に応じれば、アメリカが懸念する分野に対処するための追加の安全措置はないことになる。長期的には、バイデンは化石燃料への依存を減らし、それによって避けることができない石油価格ショックからアメリカ経済を守るよう努力しなければならない。そうしてこそ、アメリカ政府は石油を保有する権威主義者たちとの偽善的な取引を止めることができる。

リヤドは、最近の関係の冷え込みにもかかわらず、依然としてワシントンの保護を当然と考えているようだ。その理由の一つは、カショギの殺害とイエメンの荒廃についてサルマン王太子の責任を追及するというバイデン大統領の約束が守られなかったことが挙げられる。

現在のアメリカのサウジアラビアに対する宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているというムハンマド・ビン・サルマン王太子の認識を強めるだけであり、この見解は、アメリカ政府が自分を支援し続ける以外に選択肢がないと考えて、ロシアや中国とより緊密に提携することを促すだろう。

その代わり、バイデンはこの機会に、全ての武器売却を中止し、サウジアラビア軍への保守(メンテナンス)契約を停止するなど、アメリカとサウジアラビア王国の関係を根本的に見直すべきだ。そうすることで、リヤドに対して唯一の安定した安全保障上のパートナーを失う危険性があることを示すことができる。

もし、サルマン王太子が独裁者たちへの支援を強化するならば、アメリカにとって大きな損失にはならないだろう。

※ハリド・アル・ジャブリは、医療技術の起業家であり、心臓専門医でもある。サウジアラビアから追放され、兄弟2人が政治犯となっている。ツイッターアカウント:@JabriMD

※アニール・シーラインはクインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフト研究員である。ツイッターアカウント:@AnnelleSheline

(貼り付け終わり)

(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 2020年8月13日、イスラエルとアラブ首相国連邦(UAE)が外交関係樹立に向けて動くことに合意したということをアメリカのドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスの大統領執務室で発表した。トランプ大統領の後ろには、ジャレッド・クシュナー(トランプ大統領の娘イヴァンカの夫)上級補佐官、スティーヴン・ミュニーシン財務長官が並んで立っていた。このことから、今回の合意を主導したのは、トランプ政権内の関与政策派(現実主義派、穏健派)だということが分かる。
donaldtrumpuaeisraeldiplomaticrelations001

 今回の合意で、中東地域に「対話」の必要性が認識されるということが述べられている。中東地域では、2つの大国、サウジアラビアとイランが軸となり、そこにイスラエルが絡んで複雑な様相を呈している。加えて、歴史的な経緯から対話など望むべくもない状況であるが、そこにUAEとイスラエルの外交関係樹立というニュースが飛び込んできた。「イスラエルの存在を認めるのか」「イスラエルとの共存を認めるのか」という根本的な問題はある。しかし、現実的に見て、イスラエルを地上から消し去ることはできない。だが、イスラエルがあまりに傲慢に、かつ自己中心的過ぎるほどの行動を続けていくならば、そのことが存在を危うくしてしまうことは考えられる。

 イスラエルによるヨルダン川西岸地区の一部併合は、今回の合意の中では触れられていない。この併合計画はイスラエルの現実主義的なイスラエル労働党の流れではなく、中道から右派、現在のベンヤミン・ネタニヤフ政権による強行的過ぎる計画で、凍結することになるのではないかと私は考える。ジャレッド・クシュナー上級補佐官は、イスラエルの存立のために強硬な計画を凍結させ、その代償でUAEとの関係樹立を進めたということになるのだろうと思う。

 アメリカ大統領選挙に関連しては、今回の合意はあまり大きな影響は与えないだろう。アメリカ国民の関心は完全に内向きになっており、国際関係で言えば、対中脅威論に同調するという程度のことだろう。それでも、今回の合意は大統領選挙で争う、民主党のジョー・バイデンも賛意を示したことでも分かる通り、一歩前進ということになる。

(貼り付けはじめ)

イスラエルとアラブ首長国連邦の外交関係樹立についての5つの論点(5 takeaways from Israel and UAE opening diplomatic ties

ロウラ・ケリー筆

2020年8月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/national-security/511944-5-takeaways-from-israel-and-uae-opening-diplomatic-ties

トランプ大統領は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が正式な国交を樹立すると発表した。これは歴史的な外交上の前進である。

しかし、専門家の間では中東地域の変動に対する影響について意見が分かれている。一部の専門家は、これはイランに対抗するための試みの一環として現実を承認した動きだと主張し、別の専門家たちは長期的な戦略というよりも短期的な政治的目標の反映だと述べている。

一方、批判的な人々は、イスラエルがヨルダン川西岸地区の一部の併合計画を凍結することをアメリカが支持していることについて、トランプ大統領のイスラエルとパレスチナとの間の和平プランの重要な部分を損なうものだとして重大な関心を持っている。

これから中東の外交における今回の新しい進展に関する5つの論点を見ていく。

(1)トランプ大統領は外交政策面からの再選に向けた促進材料を獲得(Trump gets pre-election foreign policy boost

トランプ大統領は大統領選挙まで3カ月を切った段階で、外交政策上の勝利を売り込むことができるようになっている。イスラエルとUAEの関係正常化に向けた動きは、イスラエル・パレスチナ紛争の解決のための、トランプ政権の掲げる「繁栄のための平和(Peace to Prosperity)」枠組みの重要は要素となる。

右派、左派両派に属する多くの人々がこの動きを称賛した。その中には大統領選挙でトランプ大統領と戦う民主党の大統領候補者ジョー・バイデンも含まれている。バイデンは声明の中で、今回の合意は、オバマ政権を含む「これまでの複数の政権の努力」の積み重ねの結果だと主張している。バイデンは、合意の発表を受けて「喜ばしい」と述べた。更に、彼自身と副大統領候補であるカマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年の11月に当選した暁には、「この前進の上に更に成果を築き上げるために努力する」と述べた。

イスラエル・パレスチナの和平計画はトランプ大統領の外交政策公約の礎石であり、義理の息子で上級補佐官のジャレッド・クシュナーの2年間の努力の成果である。

UAEは今年1月に和平計画が初めて明らかにされた時に、国際社会とアラブ世界の多くの国々が拒絶を表明する中で、積極的に支持を表明した国の一つだった。

しかし、その支持も、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が今年6月にヨルダン川西岸地区を併合しようとした際に、ほぼ取り消される事態となった。これはトランプ大統領による計画に基づいたものであった。

木曜日のアメリカ、イスラエル、UAEの間での発表では、併合については議論をしていないと特に言及された。

ワシントンDCにあるシンクタンク「ファウンデーション・フォ・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ(FDD)」の研究担当の副所長を務めるジョナサン・シャンザー「今回の発表は、クシュナー・アプローチにとっての決定的な勝利だと考えられます。地域の利益と地域の平和はヨルダン川西岸地区の一部の併合よりも優先されたということなのです」と述べた。

しかし、ワシントンDCにあるシンクタンク「アラブ・センター」の上級部長ハリリ・ジャウシャンは、今回の合意は、アブダビ(UAE政府)からの強力なプッシュによるもので、それはUAE自身がトランプ大統領への支持を促進することで利益を得ようとする動きの一環であると述べている。

「公開の合意はUAEによる公の試みということが言えるでしょう。UAEはトランプ大統領が危機に瀕していると考えており、それを何とかしようと考えたのでしょう。UAEはトランプに大統領の地位にとどまって欲しいと考えているのです」。

(2)UAEによる前進は他のペルシア湾岸諸国とアラブ諸国についての疑問を持たせることになった(A step forward by the UAE raises questions for other Gulf and Arab states

イスラエルと実効的な平和条約を結んでいるのはエジプトとヨルダンだけだ。その他の全てのアラブ諸国は2002年に、パレスチナ紛争と主権を持つパレスチナ国家樹立の話し合いによる解決が実現するまでイスラエルを承認しないことで合意した。

ジャウシャンは、今回の合意は、UAEによるイスラエル不承認という考えを損なうものだと述べている。

ジャウシャンは次のように述べている。「二国共存による解決という死体を埋葬してくれる人を探してきたようなものなのです。誰もそんなことをしてくれそうにありませんでした。これはもう一つの機能不全に陥った考えにも同様なことなのです。そのもう一つの考えとはアラブ諸国がイニシアティヴを取るというものです」。

「ワシントン・インスティテュート・フォ・ニア―・イースト・ポリシー」の上級研究員ガイス・アル=オマリは、UAEによる大胆なステップはしかしながら、他の湾岸諸国とアラブ諸国からすぐに追随者が出ることはないだろうと述べている。

オマリは次のように述べた。「この種の新たな展開は広範囲の準備と裏での根回しを必要とします。UAEはペルシア湾岸諸国の中で最も活発な外交を展開している国でしょう。そして、リスクを取ることを厭いません」。

オマリは続けて次のように述べている。「今回の動きはリスクがあります。パレスチナ人の多く、カタール、トルコ、そしてイランからの攻撃に晒されることもあるでしょう。その他の湾岸諸国は事態がどのように進展するかを様子見するでしょう。より長期で見れば、追随する2国が出るでしょう。それはバーレーンとオマーンでしょう」。

(3)中東地域の政治的なダイナミクスが変化(A shifting political dynamic in Middle East

オマリは、イスラエルとの関係を樹立するというUAEの決定は、アラブ諸国間に存在する緊張関係を深めることになるだろうが、新しい関係を作り出すことはないだろうと述べた。

オマリは次のように述べている。「実質的にイランの影響を受けた国々(シリアとレバノン)、カタール、アフリカ北部の国々を含む一部のアラブ諸国は、アラブ連合におけるUAEの会員資格をはく奪、もしくは凍結することを目指す可能性があります。しかし、UAEはサウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどのアラブの大国グループの一部です。これらの国々は同盟関係が崩れることを望まないでしょう。パレスチナ自治政府は、UAEの動きに対する怒りに任せて動くのではなく、UAEのアラブ諸国中の同盟国に反感を持たせないようにすることが重要です」。

FDDのシャンザーは、UAEの動きは、イスラエルとヨルダンの関係を強める可能性があると述べている。ヨルダンはヨルダン川西岸地区の併合が進められれば大きな圧力を感じている。

シャンザーは「UAEがイスラエル国内でのヨルダン川西岸地区の併合についての議論を明確に止めたという事実は、ヨルダンとイスラエルの緊張関係を取りぞくことを意味します」とも述べている。

(4)イランはトランプ大統領、アメリカの同盟諸国の動きによって決断する方向に向かう(Iran drives decisions for Trump, allies

イスラエルとUAEの正式な関係樹立はトランプ政権がイランに対する圧力を強める中で起きた。トランプ政権はオバマ政権下でのイランとの核開発をめぐる合意の最後の部分を破壊しようと圧力をかけている。これはイラン政府に対してアメリカが圧力を強めていることを示すシグナルである。

ワシントン・インスティテュートのオマリは「イランは、イスラエルとUAEの間の利益の転換の真ん中にいます。両国はイランを自国の存在に関わる根本的な脅威と見なしています。今回の動きは対イラン枢軸の形成を促すことになるでしょう」と述べている。

大西洋協議会の「フューチャー・オブ・イラン・イニシアティヴ」のディレクターを務めるバーバラ・スラヴィンは、新たな正式な関係は、外交と対話の力を示すものであり、イラン政府はそのことを認識すべきだと述べている。

スラヴィンは次のように述べている。「イランは今回の合理について非難するでしょう。しかし、テヘランにいるイランの最高指導者層は、イスラエルを承認しないことがいかに時代遅れで、非生産的なことかを考えさせられることになるでしょう。中東地域に存在する全ての国々は、すぐに対話を持つ必要があります。特に長年にわたり敵対してきた国々の間での対話は必要です。つまり、今回のUAEとイスラエルの動きを単に“反イラン的”と形容するのは、地域の和解を更に困難にするでしょう」。

(5)しかし今回の合意は有権者の共感と支持を得られるだろうか?(But will it resonate with voters?

木曜日の発表は、ワシントンの外交政策エスタブリッシュメントから興奮をもって受け入れられた。しかし、大統領選挙に対する影響は最小限度のものとなるだろう。

エモリー大学政治学教授アラン・アブラモビッツは「外交政策は現状ではほぼ注目されていません」と述べた。

有権者たちの関心は新型コロナウイルス感染拡大、経済の危機的状況、ジョージ・フロイド殺害事件から人々の意識が高まった人種に関する正義問題に集まっている。

アブラモビッツは「今回の大統領選挙に関しては、外交政策問題は関心リストのかなり下に位置することになります」と述べた。

UAEとイスラエルの関係強化はトランプ大統領の支持基盤を強めることになるだろう。支持基盤の有権者にとって、トランプ大統領はイスラエルにとって最良の米大統領ということになる。しかし、新型コロナウイルス感染拡大と経済状態について関心を持っている、様子見の有権者たちを動かすことはほとんどないだろう。

共和党系の世論調査専門家であるウィット・アイレスは次のように述べている。「イスラエルと近隣諸国との関係についての問題はそれらに関心を持っている人々にとっては重要なのです。しかし、より多くの人々にとって、本当に関心を持っている問題は新型コロナウイルス感染拡大とその結果としての景気後退なのです。それらに加えて、人種をめぐる不正義と都市部での暴動なのです」。

トランプに対する反対者たちにとって、ヨルダン川西岸地域の併合の凍結は歓迎すべき動きだと考えられるが、トランプ大統領が独自のもしくは卓越した外交技術を持つことを示すものではない。更に言えば、進歩主義派は、併合の凍結は、併合という政策自体が破綻していることをトランプ大統領が認めたということになると考えるだろう。進歩主義派は長年にわたり、併合はパレスチナ側との交渉とアラブ諸国との関係改善いう希望を葬り去るものだと主張してきた。

「イスラエル・ポリシー・フォーラム」の政策部長マイケル・コプロウは次のように述べている。「トランプ政権とネタニヤフ首相は併合を推進してきました。しかし、徐々にではあるが、併合はイスラエルと近隣諸国との間の関係正常化を妨げる障害物だということを認識しつつあります。併合を政策から外すことこそがやらねばならないことなのです」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2020年1月3日、イラクのバグダッドの空港においてカシーム・スレイマニ(Qasem Soleimani、1957-2020年、62歳で殺害)イスラム革命防衛隊少将がアメリカ軍の空爆によって殺害された。アメリカのドナルド・トランプ大統領の命令で作戦は実行された。2019年末にイラクのバグダッドにあるアメリカ大使館に対して、カタイブ・ヒズボラ(シーア派の武装勢力)の人員殺害に抗議するデモが激化していた。
quasemsolemani001
スレイマニ
deathofquasemsoleimani001
スレイマニらの殺害現場

1月3日の空爆ではカタイブ・ヒズボラの宗教指導者アブ・マフディ・アル・ムハンディスも殺害されており、中東情勢は不安定化していくだろう。

 2020年はアメリカにとっては大統領選挙の年である。トランプ大統領は再選を目指し、民主党側はホワイトハウスの奪還を目指す。現在、予備選挙の選挙運動の真っただ中であり、1か月後にはアイオワ州から予備選挙の投票が始まる。

 トランプ大統領に対する支持は経済状況が良いこと、具体的には株価が高く、失業率が低いことが理由となっている。選挙のある2020年も何とか株高と低失業率を維持したい。しかし、米中貿易戦争の影響は大きく、2019年のGDPの伸び率は2%台前半にとどまるだろうし、2020年も経済成長は見込み薄だ。そうした中で、株価を高い水準のままこれから10カ月間も維持することは不可能だ。何度か下げて、そこから上げてを繰り返すことになる。

 年初はまだまだ株価を下げても良い時期だ。米中貿易戦争に加えて、中東情勢の不透明化による石油価格の高騰となれば株価は下がるだろう。しかし、トランプ大統領にとってはこの時期の株価下落はまだまだ大丈夫ということになる。そのためにこの時期にスレイマニの殺害ということになったのだろう。

 それではスレイマニとはどういう人物であったのか。そこで下の記事を読んで欲しいということになる。下の記事の執筆者はアメリカ軍の特殊部隊の司令官をしていたスタンリー・マクリスタル米陸軍大将(退役)だ。この記事が書かれた当時、スレイマニはまだ存命中だった。特殊部隊の経験が長く、アフガニスタン駐留軍の司令官を務めていたが、2010年に当時のバラク・オバマ政権を批判したために、オバマ大統領によって司令官職を解任され退役となった。スレイマニとはカウンターパートの位置にあった。
stanleymcchrystal001

マクリスタル
 スレイマニについてマクリスタルはスレイマニを「姿の見えない操り人形使い」、コッズ部隊を「アメリカで言えばCIAと特殊部隊を一緒にしたような組織」と呼んでいる。スレイマニはイラクやシリアでイランの代理勢力を使いながら、イランの影響力維持を図った、イランの同盟者であるシリアのアサド大統領を守ったとマクリスタルは評価している。スレイマニは優秀な軍人、軍司令官というだけではなく、諜報や政治活動もできる人物だったようだ。そのような人物はアメリカにとっては脅威ということになる。イランにとっては、イラン・イラク戦争で英雄となった優秀な軍人であり、政治的な動きもできる人物を失ったということで大きな痛手ということになる。
qudsforce001

コッズ部隊
 アメリカとイランの角逐がどの程度まで深刻化するかは不透明だ。しかし、アメリカが直接イランを攻撃すれば、大規模な戦闘状態ということになり、下手をすればイランのミサイルがイスラエルやサウジアラビアまで飛ぶということになりかねない。あくまで限定的ということになるだろうが、それでかわいそうなのはイラクだ。イラク国内でアメリカとイランが戦う、しかも代理を立ててとなれば、傷つくのはイラクということになる。そんなことをすれば、イラク国内での反米感情はますます高まり、イラク国内の情勢も一気に不安定化する。アメリカの中東介入には良いことはない。

 日本に引き付けて考えれば、これは他人事ではない。今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。この時期まで中東情勢が不安定化していれば、東京オリンピックを平穏な状態で開催することは難しい。特に開会式や閉会式にトランプ大統領が訪日するとでもなったら、警備は史上最大、最高のレヴェルにしなければならない。イランが日本を敵視していないということは救いだが、大変な負担になることは間違いない。

 戦争状態にならねば良いが、アメリカがルビコン川を渡ってしまった以上、事態がどのように転ぶかを注視するしかない。

(貼り付けはじめ)

イランの危険な操り人形使い(Iran’s Deadly Puppet Master

―スタンリー・マクリスタル将軍によるカシーム・スレイマニがどうしてそこまで危険な存在なのかについての正確な説明

スタンリー・マクリスタル筆

『フォーリン・ポリシー』誌2019年冬季版

https://foreignpolicy.com/gt-essay/irans-deadly-puppet-master-qassem-suleimani/

何も行動しないという決断は行うことが最も難しいもので、常に正しいということにはならない。2007年、私はイランからイラク北部に入る車列を目撃した。その当時、私はアメリカ軍統合特殊作戦コマンド(JSOC)司令官を務めて4年目だった。そして、地域を破壊しているテロリズムを根絶するために働いていた。私は厳しい選択を行うことに慣れてしまっていた。しかし、2007年1月のある夜、私が行う選択は複雑なものとなった。その選択とは、カシーム・スレイマニがいる車列を攻撃するかどうかであった。スレイマニはイランのエリート部隊であるコッズ部隊の司令官だった。コッズ部隊とは大雑把な言い方になるが、アメリカのCIAJSOCを合わせたような組織ということになる。

スレイマニを排除するための理由はあった。その当時、スレイマニが制作し、ばら撒き設置したイラン製の道路沿い用爆弾によってイラク国内全体に展開していたアメリカ軍将兵の生命を脅かした。しかし、銃撃戦とその後に起きるであろうと考えられた政治状況を避けるために、車列に対して即座に攻撃するのではなく、監視を継続すべきだと私は決断した。車列がイラク北部の都市アルビールに到着するまで、スレイマニは暗黒に陥る可能性があったのだがそれをうまく脱したのだ。

最近になっても、スレイマニは裏舞台で活動を続けていた。スレイマニは軍司令官から姿の見えない傀儡子(操り人形使い、a ghostly puppet master)へと成長した。イランの国際的な影響力を強めるために狡猾さと気概をもって活動を行っている。彼の優秀さ、能力の高さ、母国イランへの献身は味方からは尊敬を受け、敵方からは非難されてきた。その程度はどちらとも同程度だ。 しかしながら、全ての人々が同意するだろうと考えられるのは、謙虚な指導者スレイマニの安定した指導によってここ数十年のイランの外交政策は動いてきたということ、そして彼の戦場における成功は誰も否定できないということだ。スレイマニは現在の中東地域において最も有力でかつ最も行動において制限をしない人物だと言われている。アメリカ国防総省の幹部たちは、スレイマニが独力でシリア内線をイランの代理勢力を使って戦っていると報告している。

柔らかな話し方をするスレイマニの優秀さは若い時から明らかになっていた。イラン東部の山岳地帯の貧しい家庭に生まれたスレイマニは幼いころから圧倒的な記憶力の良さと頑健さを示した。彼の父親が負債を返済できなくなると、13歳だったスレイマニは父親に代わって労働をして借金を返済した。余暇の時間には重量挙げにいそしみ、現在のイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の弟子による宗教講義に出席するのが常だった。若者のスレイマニはイラン革命に魅了された。1979年、弱冠22歳のスレイマニはイランの軍事組織を通じて優秀さを示し始めた。彼はイランの西部アゼルバイジャン県での初陣の前にただ6週間の戦術訓練を受けただけだった。しかし、スレイマニの本領が発揮されたのは翌年に始まったイラン・イラク戦争の時期だった。スレイマニはイラク国境への侵入作戦での戦闘で血まみれの英雄となった。そして、更に重要なことは自信に満ちた、能力のある指導者として登場した。

スレイマニはただの戦士ではなくなった。彼は戦略などの計算ができ、実行力のある戦略家となった。スレイマニは非常にかつ全てを犠牲にして、中東地域におけるイランの地位を高めるために長期に継続する関係を構築した。スレイマニ以上に、レヴァント地方におけるシーア派の同盟者を提携させ、力を強めることに成功した人物はいない。スレイマニはシリアのバシャール・アル=アサド大統領を堅固に防衛している。イスラム国やシリアの反政府勢力を前進させないようにしている。スレイマニが実行しているのはアサド大統領を権力の座にとどめ、イランとの堅固な同盟を維持させることだ。重要な点は、スレイマニの指導の下、コッズ部隊は能力を拡大させていることだ。スレイマニの洞察力に満ちた実行主義によって、コッズ部隊はイラン国外での諜報、財政、政治各分野において大きな影響力を持つようになった。

しかし、スレイマニの成功をより広範な地政学的な文脈に位置づけることなしに研究することは賢いことではない。スレイマニは独特のイランの指導者である。1979年のイラン革命に続くイランの原理の産物だ。イランの利益と諸権利についてのスレイマニの拡大解釈はイランのエリート層に共通するものである。中東地域に対するアメリカの関与に対してイランは抵抗している。アメリカの中東への関与に対するイランの抵抗はイラン・イラク戦争に対するアメリカの関与の直接的な結果である。イラン・イラク戦争の時期にスレイマンの世界観は形成された。結局のところ、スレイマニは、イランの国民と指導者層の活力となっている熱烈なナショナリズムによって動かされている。

スレイマニの業績はその大部分がイランの外交政策に対する長期的なアプローチのために実行されたものだ。アメリカは国際的な諸問題に対して発作的な対応をする傾向にあるが、イランはその目的と行動が一貫している。スレイマニがコッズ部隊の司令官になって長い年月が経っている。彼が司令官に就任したのは1998年のことだった。この長期にわたる司令官在職ということももう一つの重要な要素である。イランの複雑な政治状況の副産物として、スレイマニは長期にわたり行動の自由を享受してきた。これにはアメリカ軍関係者や諜報関係者の多くが羨望の念を持つほどだった。指導者の力は究極的には指導される人々の目に映るものであり、将来の力の可能性によって増大するものである。そのために長期にわたって司令官を務めるスレイマニは短期の司令官であるよりも高い信頼を勝ち得て行動することができるのだ。

この観点からすると、スレイマニの成功は彼自身の才能と彼の権力の座にいる期間によってもたらされたものである。このタイプの指導者は現在のアメリカでは存在することはできない。アメリカ国民は軍事分野やその他の分野において、最も高い地位に数十年単位で同じ人が座り続けることを許すことはない。その理由は政治的なものでありまた経験上のものだ。J・エドガー・フーヴァーは長期にわたり公職に就き、そのために非公式の影響力を強めたことがあったが現在ではそのようなことは認められない。

スレイマニの物事をすぐに実行できる自由に対して私は羨望の念を持っていた。しかし、すぐに実行ができない、制限があるというのはアメリカの政治システムの強さであると私は確信している。チェックされない熱心な行動を重視する考えは善を促進する力となる可能性はある。しかし、間違った利益や価値観にとらわれてしまえば、その結果は酷いものとなるだろう。スレイマニは非常に危険な存在だ。彼はまた中東の将来を形作るための重要な立場に立っている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラエルの首都をイェルサレムであると承認したことに関する記事をご紹介します。著者はダグラス・フェイスという人物で、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権時代に国防次官を務めた人物で、ネオコン派、イスラエル・ロビーに属する人物です。

 

 フェイスの主張は、アメリカがイスラエルの首都をイェルサレムだと承認することで、イスラエルはなくならない、永続的なものだ、という明確なメッセージをパレスチナ、そしてアラブ諸国に伝えることで、彼らに「イスラエルをせん滅する」という考えを放棄させ、交渉のテーブルに着かせることができ、最終的に和平に到達するというものです。

 

 アラブ諸国もイスラエルの存在を公式には認められませんが、実際に戦争を仕掛けてイスラエルを滅ぼすことはもはやできないと考えているでしょう。イスラエルは人口800万の小さな国で、国内に抱えるパレスチナ人と呼ばれるイスラム教徒の数も多く、彼らに国籍を認めて選挙権を認めたら、ユダヤ人の国であり続けることはできないでしょう。ユダヤ教徒の割合は75パーセント、イスラム教徒が16パーセント、キリスト教徒が2パーセントですが、イスラム教徒の人口増加率の高さは脅威となっています。

 

 パレスチナという土地にはもともとユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒が混在して住み、近世以降はオスマントルコ帝国の領土内で、平和に暮らしてきました。イギリスの進出と国民国家という概念、更にシオニズムのために、深刻な紛争状態となりましたが、混在して平和共存してきた時代に比べればまだ短いものです。

 

 イェルサレム東イェルサレムが旧市街でキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の歴史的な建造物が密集しており、1967年の第三次中東戦争まではシリアが管理していましたが、これ以降は新興の土地西イェルサレムと一緒になってイェルサレムとなりました。イェルサレム市はイスラエルの管理下に入り、イスラエルの首都とされた訳ですが、イスラム教やキリスト教の聖地が破壊されたり、出入りが禁止されたりしている訳ではありません。そんなことをすれば、イスラエルは近代的な国家として信教の自由を認めない国として糾弾されるでしょう。

 

 今回のアメリカの措置に対して、批判や非難の声明は中東やヨーロッパの国々から出ましたが、大きな事件は今のところ起きていません。現状追認ということで、あまり問題になっていないようです。

 

 アメリカがイェルサレムを首都として承認したことは現状を追認しただけのことで、それでイェルサレム市内のキリスト教やイスラム教の信者や施設が弾圧を受けるということはありません。ですから、テロのようなことは起きる可能性は低いでしょう。

 

 パレスチナとイスラエルとの関係は「二国共存」での和平に関しては一応話がついている訳で、問題はどのような形にするかということになります。1967年以前にイスラエルが支配していなかった場所についてどうするかということでしょうが、現状を追認するしかないでしょう。中東諸国はイスラエルという国家の存在を認められないのが建前でしょうが、本音では現状で満足して和平をしてもらいたい、ということになると思います。しかし、それを表明することは難しいでしょう。

 

 ただこれからも憎しみは続いていくでしょうが、それはまた長い時間のスパンで考えると、どこかで解決するだろうという大陸的な時間感覚で解決されるものかもしれません。日本人は概してせっかちで、早く早く、なんとかしなきゃ、自分の代で解決したい、させたいという感じですが、世界的にはもっと長い時間感覚があるように思います。

 ダグラス・フェイスはネオ͡コンでイスラエル・ロビーですから、イスラエル寄りの言論になりますが、これは親イスラエル派の考えの一つとして参考になります。ただ、彼が考えるように進むとも思えませんが。

 

(貼り付けはじめ)

 

イェサレムを首都に認定することが和平にとって良い理由(Why Recognizing Jerusalem Is Good for Peace

―パレスチナ人たちがイスラエルはここにいてこれからも続くということを認識し、真摯に話し合いを開始するまでは、アメリカ政府にとっての責務は、パレスチナ人たちに対して譲歩するようにシグナルを送り続けることだ。

 

ダグラス・J・フェイス筆

2017年12月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/12/12/why-recognizing-jerusalem-is-good-for-peace/

 

アメリカは正式にイェルサレムをイスラエルの首都と承認した。アラブ諸国やイスラム教国では激しい暴力が発生すると一般に予測されていたが、そんなことは実際には起きていない。しかし、ドナルド・トランプ大統領に対する批判者たちが述べているように、アメリカの承認のために、平和に向けた見込みを大きく後退させ、アメリカの「誠意ある仲介者」としての地位を傷つけるのだろうか、という疑問は残っている。トランプは選挙公約を実行し、変えようのない現実を認めただけでなく、平和の達成の可能性をより高めるのだと宣言した。

 

誰が平和についてより良い主張を行っているのか?トランプ大統領がそうだ。ただ、彼の主張は説得力を持っていないのであるが。

 

イェルサレムに対するイスラエルの主権を認めたことはどのみち平和の実現に対して大きなインパクトを持つものではない。まず、これまで長い間、平和の実現に向けて真剣な外交が行われていない。第二に、紛争はイェサレム以外の問題をめぐって行われているのだ。

 

多くのコメンテイターたちは、当事者たちがどうして今でも戦っているのかということについて全く理解していないのに、どのようにして平和を促進するかということについて自分の考えを述べているのは驚くべきだ。さあ、パレスチナをめぐるアラブとユダヤとの間の理由をはっきりさせよう。そして、この争いがどうして1世紀以上も続いている理由も明らかにしよう。

 

問題の中心にあるのは、「パレスチナ全土がパレスチナを除く中東地域全体と同様に、アラブ人のみが所有できるのであって、アラブ人の土地にユダヤ人が主権を有することは耐えられない、大京の余地がない不正義だ」という確信である。

 

パレスチナ自治区の学校では、アラブの土地全てをアラブ人がコントロールするという最終目的は、受け入れがたい名誉の侵害があろうとも、放棄などできない、と教えている。こうした環境の中で、例えば、ベツレヘムのアイーダ難民キャンプにある、アローワッドというきれいなコミュニティーセンターの建物の壁には全面に次のような文言が書かれた横断幕が掲げられている。このセンターはヨーロッパの進歩派の人々の資金で建てられた。「帰還の権利に交渉の余地はなく、いかなる妥協にも従うことはない」。言い換えると、戦術的に有効な和平協定はまだ許されるが、イスラエルとの恒久的な和平は現状では許されないということになる。これは、パレスチナの共同体で神聖不可侵として受け入れられている宗教とナショナリズムの諸原理を基盤とする哲学的に重要な点なのである。

 

このような思考の一部や要素として、イスラエルは地域に対する外国からの侵略なのだというものがある。イスラエルは「十字軍国家」と呼ばれ、フランス領アルジェリアのようなヨーロッパの植民地主義の出先なのだというたとえがなされている。重要な点は、イスラエル国民に対しては、十字軍や半世紀前のフランス人に対してと同じく、 際限のない暴力的な抵抗によって士気を低下させ、土地を本当の所有者に残して引き上げることにつながる、というものだ。この場合の土地の秦の所有者はアブ人ということになる。フランスがアルジェリアから出ていくまでに130年かかり、聖なる土地から十字軍を追い出すのに200年かかった。この期間中、同じ言葉が繰り返された。また同じ言葉が繰り返されている。「イスラエルを追い出すのに同じくらいの時間がかかるだろうが、その時はやってくるだろう」。

 

紛争を永続的なものとしているのはこうした考え方である。

 

長年にわたって常識とされてきたのは、アラブ・イスラエル問題の核心は1967年にイスラエルが手に入れ、現在入植地となっている領域である、というものだ。しかし、これは明らかに間違っている。エジプト、シリア、ヨルダンはイスラエル側を刺激して1967年の中東戦争を始めたのはどうしてか?実際には、紛争の起源は1967年よりも前にさかのぼることができる。1948年にイスラエルが独立国となった時よりも更にさかのぼることが出来る。

 

アメリカ政府がパレスチナ・イスラエル紛争の終結に貢献できるのは、アメリカ政府が紛争の中身をきちんと把握した時だけだ。現在の常識をそのまま持ち続けるならば、外交上の失敗をこれからも数十年単位で続けることになる。新しい、そしてより根拠に基づいたアプローチを採用するのは今だ。

 

各種世論調査の結果では、イスラエル国民の大部分が、現在イスラエルが支配している土地を分割することを基礎としてパレスチナ人たちと和平を達成したいと望んでいる。パレスチナ側の指導者たちが土地と平和を交換する形で合意を結びたいと望んだら、平和が達成される。2つの大きな障害は概念上のものだ。パレスチナ側の指導者たちは、イスラエルは一時的な存在でいつの日か消滅させることが出来るという確信を放棄しなければならない。そして、パレスチナ側にとって実現可能な最高の合意をもたらすために正義に関する抽象的な概念をとりあえず棚上げすべきだ。

 

1897年に創出されて以降の政治的なシオニズムの歴史の中で、シオニズム運動の指導者たちは正義を主張したことはなかった。彼らはまたユダヤ人たちが持つ権利を持つもの100パーセントを手に入れることは期待していなかった。彼らが権力を握っても妥協を不名誉なものだとはしなかった。彼らは最善の合意を結んだ。彼らは手にできるものを手にした、そして、自由で、繁栄した、平和的な国家を建設した。パレスチナ側の指導者たちもまたパレスチナ人たちに対して同様のことを行うべきだ。

 

この分析が正しい場合、イェルサレムに対するイスラエルの主権をアメリカが承認したことは、平和に貢献することになるだろう。アメリカの承認は有効なメッセージを補強するものだ。そのメッセージとは、「イスラエルはこれからもこの場所に存在する」というものだ。ユダヤ人は歴史的にこの土地と深くつながっている。彼らは外国人でもなく、十字軍でもない。アメリカとイスラエルのつながりは緊密なもので、イスラエルの敵国からの工作によって傷つくものではない。そして、アメリカは、第三者ではなく、イスラエルの友人として、アラブ・イスラエル外交において重要な役割を果たしている。紛争が永続化することで支払わねばならない代償がある。人生は続く、そしてイスラエル国民は新たな現実を生み出し、世界はこの新しい現実に合わせていく。パレスチナ人たちは平和を拒否することで、彼らの地位を向上させていないし、地位を保ってもいない。

 

※ダグラス・J・フェイス:ハドソン研究所上級研究員。2001年から2005年にかけて米国防次官(政策担当)。現在、アラブ・イスラエル紛争の歴史に関する著作を執筆中。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 イランの大統領選挙は、強硬派が候補者を一本化したことでどうなるかと思っていましたが、ロウハニ大統領が再選されました。イランの大統領は二期までなので、ロウハニ氏はこれから4年間が最後の任期となります。

 

 ロウハニ大統領は、アメリカとの核開発をめぐる合意を前提にしての経済成長、そのための経済改革を主張しています。イランでは、諜報機関が経済部門にまで浸透しており、下に掲載した毎日新聞の記事では、「モンスター」とまで呼ばれているそうです。ロウハニは、そうした部分を改革していこうとしています。革命防衛隊、諜報機関はそれを防ぐために、最高指導者を引き込んで、ロウハニ氏を追い落とす、もしくは得票数を削ろうとしました。しかし、イランの人々はロウハニ大統領の路線を支持しました。

 

 アメリカでは、トランプ大統領がイランとの核開発合意に反対しているという報道がなされていますが、トランプ政権は核開発をめぐる合意を維持するということを既に表明しています。イランとの核開発をめぐる合意にアメリカ国内で反対しているのは、共和党ではネオコン、民主党では表立ってはいませんが(自党のバラク・オバマ前大統領が結んだ合意ですから)、人道的介入主義派です。

 

 トランプ大統領が初めての外遊で中東のサウジアラビアとイスラエルを訪問しますが、両国は宗教は違いますが、アメリカの同盟国という点では一緒です。サウジアラビアはアラブの盟主ですが、現状中東の和平と問題解決に何もしていません。オバマ政権時代は、イスラエルとアメリカの関係は悪化しました。トランプ政権ではトランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーが上級顧問として力を持っていますから、イスラエルとの関係は改善すると思われますが、機密情報の取り扱いをめぐり、イスラエル側が激怒しているという報道もなされていますので、イスラエル側に、ネオコンや人道的介入主義派と気脈を通じている人々がいると思われます。

 

 トランプ政権とすれば、傲慢になりがちな中東の同盟諸国に活を入れるために、イランを利用するでしょう。イランを利用して中東の問題を解決しようとするでしょう。国益のためならば、敵と呼んだ相手とでも手を組むのがリアリズムですから、トランプは表だってイランを賞賛はしないでしょうが、一方的に敵視することはないでしょう。

 

 ロウハニ大統領が再選されたことで、アメリカとイランの関係が大きく変化することはないということになり、これは慶賀すべきことです。

 

(貼りつけはじめ)

 

<イラン>残る制裁、正念場 ロウハニ師再選、経済回復急務

 

毎日新聞 5/21() 8:15配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170521-00000007-mai-m_est

 

 【テヘラン篠田航一】イラン大統領選で対外融和の継続を掲げる保守穏健派のロウハニ大統領(68)が20日、再選を決めた。だがイランを敵視してきた米国はトランプ政権になり、より強硬な姿勢を示している。イランは経済回復を軌道に乗せて内政を安定させるためにも、米国などが今も科す制裁の軽減に向けた外交努力を続けると見られるが、事態の打開は容易ではない。

 

 「今後4年で全ての制裁解除に全力を挙げ、イランの威厳を取り戻す」。ロウハニ師が掲げた公約だ。イランは2015年に米欧などと核合意に達し、主要な経済制裁は解除された。だが、ミサイル開発や「テロ支援」を巡る制裁は残っている。

 

 トランプ米大統領は、イスラム教シーア派国家イランの覇権拡大を警戒するスンニ派の大国サウジアラビアを初の外遊先に選び、イラン大統領選の結果が固まった20日に現地に降り立った。湾岸のアラブ諸国と連携した包囲網の強化を目指している。米国とイランは、シリアやイエメンの内戦でも対立する勢力をそれぞれ支援しており、早期に歩み寄る可能性は低い。

 

 ただ、トランプ政権はシリアでは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を優先している。イラン国連代表部で勤務経験を持つ元外交官の政治評論家ヘルミダス・ババンド氏は「シリア内戦が沈静化すれば、イランと米国の関係は改善に向かう」と分析。ロウハニ大統領が、米国と近いアラブの主要国エジプトへの働きかけを強めると見ている。

 

 内政では経済回復を進める上で、膨大な権益を持つ革命防衛隊との関係が焦点の一つになりそうだ。ロウハニ大統領は選挙戦で「経済発展を望むなら、(革命防衛隊などの)治安・政治組織を経済に関与させるべきではない」といら立ちを隠さなかった。

 

 約12万人の兵員を擁する革命防衛隊は、1979年のイスラム革命の理念防衛のため創設されたが、多くの系列企業を抱えて経済分野にも進出し、肥大ぶりは「モンスター」と称される。ロウハニ政権が今後、外資導入や経済開放を進めようとした場合、防衛隊関連企業の抵抗が予想される。

 

 内政の安定には、若年層の雇用創出も急務だ。失業率は若年層で3割近いと言われる。経済的不満から保守強硬派への傾倒を強めることを抑止するためにも経済成長の加速は不可欠だ。

 

=====

 

イランの大統領選挙で何が重要なのか?(What’s at Stake in Iran’s Elections?

 

エミリー・タムキン筆

2017年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/05/19/whats-at-stake-in-irans-elections-rouhani-raisi/

 

イラン国民は金曜日、次期大統領を誰にするかを決める投票を行う。大統領選挙には複数の候補者が立候補しているが、主要な選択肢としては、中道改革派で2期目を目指す現職大統領ハサン・ロウハニと、保守派強硬路線のイブラヒム・ライシの2人に絞られている。最も人気があったモハンマド・バーゲル・ガリバフが選挙戦から撤退し、ライシ支持を表明したためにこのような状況になった。

 

誰が大統領になるだろうか?そして、選挙結果がイランの国際関係においてどのような意味を持つであろうか?

 

コロンビア大学教授リチャード・ネヒューは本誌の取材に対して、「ロウハニが当選すると考えます」と述べた。

 

読者の皆さんがご存知のように、最高指導者と諜報機関がライシを大統領にしたいと後押しをしているという疑いがあるし、人々の間には、国際関係を改善して好景気をもたらすというロウハニの公約が果たされていないという不満が高まっている。しかし、ネヒューは、投票率が期待通りに髙ければ、ロウハニが2期目に向けた当選に困難に直面することはないだろうと述べた。

 

ロウハニが勝てば、人々の信任を示す票差での勝利であれば、イランの対西側各国への政策は大きくはそのままであろう。イランはアメリカとの間で、イラン核開発合意として知られる包括的共同行動計画を堅持するだろう。ドナルド・トランプは自身の大統領選挙期間中、合意の破棄を主張したが、現在のところトランプは合意の維持を表明している。

 

ロウハニは、更なる経済改革を進めるだろう。ロウハニは、アメリカとの合意から経済的利益を得ることができるとロウハニは主張しているが、そのためには経済改革が必要となる。そして、ロウハニは経済分野における諜報機関の存在を排除しようとするだろう。ロウハニが地滑り的勝利をした場合に不都合なことがあるのだろうか?ロウハニが圧倒的な勝利を収めた場合、最高指導者とその周辺は、ロウハニの羽を縛ろうとするだろう。

 

それではライシが勝利した場合はどうなるだろうか?ライシは他の候補者と同様に、包括的共同行動計画の維持を主張しているが、この合意からイランが利益を得るために必要な経済改革を進めることはないだろう。そうなると、イラン国民は、経済が良くならないのに、合意を維持する必要はあるのかと考えるようになるだろう。

 

しかし、ライシの勝利は状況を悪化させるだろう。特にアメリカとの関係に悪影響を与える。ネヒューは、トランプ政権がライシ勝利をイラン国内における強硬派の台頭の徴候と捉え、イラン政府との協力は望めないと捉えるならば、「強硬派同士である、トランプとライシ同士の競争が起き、良くない状態になる」と述べている。

 

投票日の金曜日、トランプは大統領としての初めての外遊をサウジアラビアから始める。大統領選挙の結果によっては、中東の情勢は更に爆発しやすくなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ