古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 米中関係

 古村治彦です。

 ワシントンにある有名なシンクタンクである戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)の副理事長を務めたマイケル・グリーンがシドニー大学アメリカ研究センター(U.S. Studies CentreUSSCCEOに転身したのが今年3月のことだった。これは都落ちの感がある異動であったが、別の面で考えれば、対中封じ込めのために、オーストラリアを取り込むため、最前線にグリーンが移動したということも言えるだろう。今年3月1日には、グリーンは、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも取り上げた、ミッシェル・フロノイ、ミーガン・オサリヴァンらと台湾を訪問している。グリーンはジャパンハンドラーズであるとともに、対アジア外交専門家として活動している。このブログでもマイケル・グリーンの動きは既にご紹介している。
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右端がマイケル・グリーン、隣はミッシェル・フロノイ

※「20220610日 ミッシェル・フロノイ創設のウエストエグゼク社がテネオに買収される予定:ミッシェル・フロノイがバイデン政権入りするのではないかと考えられる」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86261152.html

 マイケル・グリーンの論稿では、アメリカは対中強硬姿勢で、民主党と共和党、ジョー・バイデン大統領(民主党)が率いるホワイトハウスと共和党が過半数を握る連邦下院が協力するということになるということだ。アメリカ社会の分断は深刻になっている。政治の世界でもなかなか一致点が見いだせない。そうした場合、外に敵を作って、団結するということはよくあることだ。ドナルド・トランプ政権で始まった米中貿易戦争路線を、ジョー・バイデン政権も引き継いでいる。そして、中間選挙で共和党が連邦下院で過半数を握っても大丈夫、対中強硬路線は引き継がれるということがマイケル・グリーンの主張だ。アメリカがまとまるには外敵をつくるしかないというのは、如何にアメリカ社会の分断が深刻化しているかを物がっている。

(貼り付けはじめ)

アメリカ中間選挙の結果は、国家安全保障にとって正味のプラスになる(U.S. Midterm Results Are a Net Plus for National Security

-トランプ主義が縮小する中、国際主義の共和党(internationalist Republicans)は中国、防衛、貿易でバイデン政権に圧力をかけるだろう。

マイケル・J・グリーン筆

2022年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/11/us-midterm-election-republicans-biden-national-security-foreign-policy-defense-china-house-committees/

2022年の中間選挙の直前、私は『フォーリン・ポリシー』誌上で、共和党が連邦下院で勝利しても、アメリカの対中戦略競争にとって悪いことばかりではないと論じた。それは、共和党が国防費や貿易政策に対して注意を払い、バイデン政権のインド太平洋における同盟中心戦略(alliance-centric strategy)を中心に幅広い超党派的な支持を集めているからである。最終的な結果は数日から数週間は分からないにしても、実際の結果はそれ以上に良さそうだ。確かに、連邦下院共和党はハンター・バイデンや議員を退くリズ・チェイニー連邦下院議員を追及するかもしれない。そして、一般的には、バイデン米大統領の弱さを示し、アメリカの同盟諸国には連邦議会が機能不全に見えるような、パンとサーカスを共和党の支持基盤に提供するかもしれない。しかし、共和党が連邦下院の重要な委員会を支配することで、人々は表面に出てくる騒ぎを楽しむにしても、バイデン政権のタカ派と現実主義者が助かるという事実は変わらない。ケーブルテレビでジャコバン裁判を見ながら、外交政策の専門家たちは、作家のマーク・トウェインがドイツの作曲家リチャード・ワーグナーの音楽について言ったことを思い出すことだろう。それは、「そこまで酷いことはない(It's not as bad as it sounds)」だ。

まず、前回の論稿で評価分析したように、連邦下院の国防、国際関係、通商の主要委員会と小委員会のリーダーたちは、いずれも国際主義者で現実主義者(internationalists and realists)であり、国防への資源投入を推進するとともに、原子力潜水艦と先進防衛力を構築する豪英米協定(Australia-U.K.-U.S. agreementAUKUS)など、能力構築や同盟諸国との野心的な構想の進捗状況を精査することになろう。これは、多くの政策分野、特に貿易と抑止力拡大が、政権内の左翼保護主義者たち(left-wing protectionists)と軍備管理信者たち(arms control purists)の妨害に直面するバイデン政権を律するものである。

しかし、それに加えて、選挙の結果によって、共和党が連邦下院を支配し、連邦上院はこの原稿を書いている時点ではまだ未決定であることが予想され、中国との戦略的競争に向けた政権の組織化努力をより促進することになるだろう。

第一に、ドナルド・トランプ前米大統領とトランプ主義全般の縮小は、アメリカの民主政治体制が崩壊しているという有害なシナリオと戦っている海外のアメリカの外交官たちを助けることになる。例えばオーストラリアでは、最近、アメリカの選挙に関する報道がオーストラリアの国政選挙の報道を凌駕しているほどだ。2021年1月6日の暴動、選挙否定論、民主的な規範に対するトランプの非道な攻撃、民主的な選挙プロセスを制限しようとする過激派の運動という醜い光景をオーストラリア人たちが無視することは非常に困難だった。中国の脅威が同盟諸国をアメリカに接近させている今、友好国の政府が民主政治体制の方向性を見失ったかのようなアメリカへの依存を強めることを考えるのは不安であり、ワシントンの外交政策の急変は大統領選挙1回で起きる可能性がある。

先月発表された、アメリカ研究センターの調査では、オーストラリア国民の約半数がアメリカの民主政治体制の方向性について、「非常に懸念する(very concerned)」と答えている。これは、欧米諸国の同盟が共通の脅威(common threat)だけでなく共通の価値観(common values)に基づいている場合の問題点である。中国の公式な対米シナリオでは、中国のモデルよりも民主政治体制とその原則を強く支持する調査結果があるにもかかわらず、民主政治体制は最良の政府形態ではないことの証拠として1月6日の事件を定期的に取り上げている。中間選挙はこのシナリオを変え、世界中でアメリカの外交官の仕事を容易にする可能性が高い。投票率、当選者の多様性、中絶権に関する連邦最高裁の判決に対する反発、そして特にトランプ派の候補者が世論調査で劣勢だったことは、ワシントンの責任者が共和党と民主党のどちらを好むかにかかわらず、アメリカの友人にとって心強いものになる。

第二に、連邦下院での共和党の勝利の規模は、防衛と貿易に関してバイデン政権を後押しするために関連委員会に力を与えるにはちょうど良いと考えられるが、アメリカの関与(engagement)と長期戦略(long-term strategy)を弱めることを求める破壊者たちを更に増やすほど圧倒的なものではないだろう。もしケヴィン・マッカーシー連邦下院議員が連邦下院議長に選出されれば、ウクライナへの支援を削減しようとしたり、NATOに対するアメリカの関与(commitment)に疑問を呈したりする議員たちは、予想以上に少なくなるであろう。連邦上院を民主党が握れば、「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派の国家安全保障分野での行き過ぎた行動を更に封じることができるだろう。連邦議会での戦略的競争に対する超党派の強い支持は、アメリカ研究センターなどの調査によるアメリカ国民の感情を反映しており、それが中間選挙の結果によって裏付けられた。

このことは、バイデンが率いるホワイトハウスが共和党の支配する連邦下院との取引を行うことができるとか、アメリカの同盟諸国がアメリカ政治の極端な部分を心配するのをやめるとか、極端な部分がなくなるとか、そういうことではない。しかし、過去3回の国政選挙(2018年、2020年、2022年)を貫くパターンがあるとすれば、選挙地図には反トランプの強い壁があり、連邦議会は、選挙の度に、最重要な外交政策問題について、分裂よりも統一された形になっているのだ。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

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共和党の中間選挙勝利がアメリカの中国戦略を活性化させる(A Republican Midterm Win Will Boost U.S. China Strategy

-バイデン政権の中国政策の下でアメリカ国民を団結させるためには、ホワイトハウスと連邦議会の分裂が本当に必要なのかもしれない。

マイケル・J・グリーン筆

2022年10月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/31/us-midterm-elections-republicans-china-biden-trade-geopolitics-strategy/

来週の米中間選挙を前にして、両極化(polarization)が進んでいることは、バイデン政権にとって決して良い兆候ではない。世論調査の通り、共和党が米連邦下院の過半数を握れば、バイデン政権に対する党派的な攻撃の奔流が繰り広げられるだろう。2021年1月6日の事件を調査する委員会は解散し、ジョー・バイデン米大統領の息子、ハンター・バイデンは調査され、バイデンは弾劾手続きに直面する可能性がある。また、フォックスニューズの司会者タッカー・カールソンと彼のクレムリンへの崇拝に従う共和党の一部グループは、ウクライナへの資金提供を阻止すると脅迫するだろう。連邦議会による監視の目が厳しくなるのは歓迎すべきことだが、例えば、アフガニスタン撤退の失敗を検証するなど、ホワイトハウスにとっては苦痛であり、アメリカの指導力を懸念する同盟諸国にとっては不安なことだろう。

しかし、中国との競争に関する限り、バイデン政権の戦略でアメリカ国民を団結させるためには、政府の分裂が本当に必要なことかもしれない。なぜなら、共和党は民主党政権に対して、中国との競争において重要な2つの柱である防衛(defense)と貿易(trade)の公約を実現するよう求める傾向があるからである。同時に、米連邦議会と一般的なアメリカ国民は、中国という課題に立ち向かうという点では、他のどんなことよりも一致しているという事実が、潜在的な分裂を和らげることになるだろう。

歴史的な先例を考えてみよう。1994年の中間選挙に向け、ビル・クリントン政権は医療保険制度改革などの野心的な国内政策に政治的資源の大半を費やしていた。国防費は長期にわたって減少傾向にあり、外交政策は日本との保護主義をめぐる戦いや中国に対する最恵国待遇(most-favored nation status)をめぐる内輪もめに陥っていた。共和党が連邦下院を支配し、当時のクリントン大統領の国内政策が実質的に阻止された後、クリントンは国家安全保障にその努力と政治的資源を集中させた。日本との争いは急停止し、1996年には当時の橋本龍太郎首相が、北朝鮮や台湾など地域の有事に対処するために日米同盟を初めて強化・拡大する共同宣言を出し、わずか数年前まで酷い状態で漂流していた同盟を拡大させた。また、共和党が支配する連邦下院は国防費の削減を撤回し、アメリカ軍予算を着実に増加軌道に乗せた。2010年、バラク・オバマ大統領(当時)の最初の中間選挙で共和党が民主党から連邦下院と連邦上院を奪い、超党派連合が誕生し、オバマ政権が2011年に環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific PartnershipTPP)の枠組み合意文書に署名したときと同じことが起こった。この12カ国の貿易・投資協定は、2017年にドナルド・トランプ政権が協定から離脱しなければ、アジアにおける戦略的バランスを変化させることになっただろう。

懐疑論者たちは、「国防と貿易に前向きな共和党はもはや存在しない、つまり2016年にドナルド・トランプが大統領に当選した時に破壊された」と主張するだろう。確かに、共和党の支持層は貿易協定に懐疑的で、党内の「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派からは危険な国内問題優先主義的な主張(isolationist voices)が出ている。しかし、中国との競争について、連邦議会ではかつてないほど超党派的な意見が交わされているのも事実だ。実際、中国との競争については最近のワシントンでは数少ないコンセンサスのある分野である。今年8月にCHIPS法(CHIPS and Science Act)を連邦議会で可決成立させたのは超党派の議員たちであり、その内容は、アメリカの半導体産業を活性化し、同盟諸国からの投資をアメリカに呼び込み、半導体開発をめぐる競争で中国に対する自由世界の優位性を維持するために、バイデン政権に500億ドル規模の予算を提供するというものだ。人工知能のような新興技術を支配するために。その法案の最初の作成者は、保守派でインディアナ州選出の共和党議員であるトッド・ヤング連邦上院議員であり、ニューヨーク州選出のリベラルなチャック・シューマー連邦上院議員が共同提案者となった。中国の脅威は、実に奇妙な仲間の、呉越同舟の枠組みを生み出している。

連邦下院司法委員会の委員長になると予想されるフリーダム議連所属のポピュリスト、共和党のジム・ジョーダン連邦下院議員は、弾劾審問やFBI・司法省への攻撃で見出しを独占するだろうが、国防、外交、貿易を管轄する委員会は、レーガン時代の国際主義者の指揮下に置かれることになるであろう。連邦下院軍事委員会の委員長に、共和党のマイク・ロジャース連邦下院議員が就任すれば、原子力潜水艦の建造や最先端技術の軍事力利用での協力に関する豪英米協定(通称AUKUS)のような同盟諸国との取り組みを遅らせている官僚的障害(bureaucratic obstacles)を取り除くよう米国防総省に働きかけることが予想される。委員会の共和党議員たちは1兆ドルを超える国防予算について話しており、周辺部の国内問題優先主義者(アイソレーショニスト)の声がどうであれ、インド太平洋のための軍事力の強化を図る可能性が高い。連邦下院貿易委員会の共和党筆頭委員であるエイドリアン・スミス連邦下院議員は、農産物輸出州であるネブラスカ州の出身であり、貿易に関する惰性的な習慣を克服し、アジアで新しい取引を行い、市場を開放するよう、バイデン政権に働きかけることは間違いないだろう。連邦下院外交委員会の共和党筆頭委員であるマイケル・マッコール連邦下院議員は、米国司法省の元テロ対策タスクフォースリーダー、連邦下院国土安全保障委員会委員長という確かな国家安全保障上の信条を持つ人物である。中国の強圧に対抗するため、より強固な同盟関係の構築を明確に打ち出している。

アメリカ国民は、同盟関係の強化、技術競争の加速、より野心的な通商政策も支持している。私が所長を務めるシドニー大学アメリカ研究センター(USSC)の依頼で実施した新しい調査の結果は、シカゴ世界問題評議会、戦略国際問題研究所、ピュー研究所など他の機関による調査結果を補強するもので、アメリカ国民が日本、オーストラリア、韓国との同盟関係を強く支持していることが明らかになった。2年前に行われたUSSCの世論調査と比較すると、これらの同盟がアメリカをより安全にしていると考えるアメリカ国民の割合は14ポイントも上昇している。ロシアのウクライナ侵攻や核の脅威、中国の台湾海峡での妨害行為などを受けて、アメリカ国民は同盟が単なる国際的な善意やワシントンの足かせではない、アメリカ自身の安全保障のためのものだと認識したということだろう。中国との完全な経済的分断(デカップリング)を支持するアメリカ人は20%に過ぎないが、アメリカ、日本、オーストラリアでは、自国が経済的に中国に依存しすぎていると考え、中国製でないスマートフォンにかなり高い金額を支払っても良いと考えており、中国と競争するために民主的同盟諸国の技術革新を支持する人が過半数を占めている。

貿易に関しても、共和党が支配する連邦議会は、予想以上に政権を後押しする可能性がある。バイデンを支持する有権者の過半数は、アメリカはTPPのような貿易協定に参加すべきだと答え、トランプを支持する有権者の大多数は参加すべきでないと答えているが、アメリカ国民全体の3分の2は、「アジアとの貿易と投資を拡大することが重要だ」という意見に同意している。数カ月後にスミス議員が連邦下院貿易小委員会の委員長を務めることになれば、より野心的な貿易政策を求める彼の主張がアメリカ国民に支持されていることに気づくだろう。スミス議員はおそらく、消極的な米国通商代表部に対して、「貿易協定」や「TPP」と呼ばれない限り、「インド太平洋経済枠組み」(単なる対話に過ぎない空想上の名称)を実質的なルール設定のための協定にするように働きかけるだろう。

このことは、アメリカ政治におけるポピュリズム(populism)、分極化(polarization)、ポスト真実の言説(post-truth discourse)の台頭が戦略的帰結をもたらさないことを論じるものではない。ヨルダンによるアメリカ政府機関への焼き討ち攻撃は、国防、外交、貿易に関する立法を行う委員会の平凡で手間のかかる仕事よりも、世界中で確実に注目を集めるだろう。海外の人々は、今回の中間選挙について懸念を持って見ている。USSCの調査によると、日本国民とオーストラリア国民の4分の3が、米中間選挙を自国にとって重要だと考えており、オーストラリア国民の半数はアメリカの民主政治体制の現状を憂慮しているという。しかし、もしバイデンが予想通り連邦下院を、そしておそらく連邦上院も失うことになれば、バイデン政権はインド太平洋における中国との競争について、連邦議会が新たな機運を高めていることに驚くかもしれない。どちらかといえば、最近の連邦下院共和党指導部の公約から判断すると、バイデン政権は連邦議会が中国を追いかけようとする熱意を抑えなければならないかもしれない。バイデンは、このような機会を捉え、中国とインド太平洋の戦略の欠けている部分(ミッシングピース)を埋めるべきである。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領の側近であるジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、中国側のカンターパートである楊潔篪中国共産党中央政治局委員・中国共産党中央外事工領導弁公室主任とローマで7時間にわたって会談を行った。この会談はロシアによるウクライナ侵攻の前から予定された会談であったが、図らずも今回、米中の外交関係のトップ高官による話し合いでウクライナ情勢が取り上げられることになった。
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楊潔篪とジェイク・サリヴァン

今回アメリカ側の代表者となったジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官については拙著『アメリカ政治の秘密』『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で取り上げているので、ここで詳しい人物紹介はしない。中国側の代表者である中国共産党中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔篪(ようけっち、Yang Jiechi)は最年少で駐米中国大使を務めて、英語に関して全く問題ない中国にとっての対米人材のトップの人物である。娘はアメリカの名門校からイェール大学を卒業している。反米的な発言を刷ることでも知られているが、冷静な知米派外交官だ。

 両者の会談は7時間も続いたということで、ウクライナ情勢だけが議題ではなかったということになるが、やはり最重要の議題はウクライナ情勢だろう。アメリカ側は、中国がロシアを支援することをけん制し、中国は原則論を述べ、速やかな停戦を求めたということになる。ロシアは中国に対して支援を求めるということはこれまでの関係上、まあ自然なことだ。中国としては軍事物資の支援はさすがに慎重になるだろう。ウクライナへの人道支援を行っていることから、ロシアの一般国民への人道支援という名目で、民生用の食料や医薬品の提供に留めるのではないかと思う。

 重要なことは、ジェイク・サリヴァンがバイデン政権の中で、対中チャンネルのトップの位置にいるという点だ。サリヴァンは対中共存派であり、直接対決をせずに、うまく付き合っていくべきだという考えを持っている。米中間が外交チャンネルをオープンにして、話し合うということが、これからの世界の動きを決めていくということで、新しい形になっていくだろう。ヘンリー・キッシンジャーが敷いた「G2」路線ということになる。中国としてもロシアに対してはある程度のところで矛を収めるようにと諭しているだろう。ロシアとしても後ろに中国がいるのといないのとではこれからの動きが変わってくるので、中国の意向を無視することはできない。世界は米中二極(bilateral)体制の確立へと進んでいる。

(貼り付けはじめ)

●「楊潔篪氏、ウクライナ情勢に対する立場述べる 米大統領補佐官と会談」

2022315 12:34 発信地:中国 [ 中国 中国・台湾 ]

新華社

https://www.afpbb.com/articles/-/3395053

315 Xinhua News】楊潔篪(Yang Jiechi)中国共産党中央政治局委員・中央外事工作委員会弁公室主任は14日、イタリアの首都ローマで米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談し、その中でウクライナ情勢について中国の立場を詳しく述べた。

https://www.afpbb.com/articles/-/3395053

 楊潔篪氏は次のように指摘した。ウクライナ情勢の今日の事態は中国が願わないものだ。中国は一貫して各国の主権と領土保全を尊重し、国連憲章の趣旨と原則を順守することを主張している。中国は和平交渉の推進に尽力しており、国際社会はロシアとウクライナの和平交渉が早期に実質的成果を収めることを共同で支持し、情勢の迅速な鎮静化を図るべきだ。各国は最大限の自制を保ち、一般市民を保護し、大規模な人道危機を防がなければならない。中国はすでにウクライナに緊急人道援助を行っており、今後も引き続き努力する。

 楊潔篪氏は次のように表明した。ウクライナ問題の歴史的経緯、原因と結果、根源を整理し、各国の合理的懸念に対応すべきだ。将来を見据え、共同・総合・協力・持続可能な安全保障観を積極的に提唱し、関係各方面の対等な対話を奨励し、安全保障の不可分性の原則に従って、均衡、有効、持続可能な欧州安全保障の枠組み構築を探り、欧州と世界の平和を守ることを呼び掛ける。

 楊潔篪氏は、事実でない情報を流し、中国の立場をねじ曲げ、中傷するいかなる言動にも断固反対すると強調した。(c)Xinhua News/AFPBB News

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報告:ロシアがウクライナとの戦争を戦いながら、中国に軍用食品支援を求めた(Russia requested military food aid from China amid war with Ukraine: report

モニク・ビールズ筆

2022年3月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/598200-russia-requested-military-food-aid-from-china-amid-war-with-ukraine

今回の問題について取材源2名がCNNの取材に対して、「ロシアは、アメリカで“ミールズ、レディ・トゥ・イート”として知られている食料を含む、包装された非生鮮性の軍用食品の提供を中国に要求した」と述べた。

情報筋の1人はCNNに対し、中国がこの要求に応じる可能性があるのは、それが致命的ではない支援であり、西側を刺激するような状況であるためだと語った。

ある西側政府の関係者とアメリカ外交官もCNNに対し、中国がロシアに軍事・財政支援を行う意向を示したという情報を持っていると述べた。

しかし、CNNは、中国が実際にその援助を行うかどうかはまだ不明である、と報じている。

ロシアから中国への要請は、ロシアの侵攻に対する全体的な準備態勢と、専門家が言うロシアの攻撃の進展を妨げている後方ロジスティックス問題をめぐる疑問を提起している。

CNNは、公開されている報告書や報道では、ロシア軍では特定の物資が不足しているため、ロシア軍が食料品店に押し入って食料を調達している様子が示されていると報じた。

一方、ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官はローマで、中国がロシアを支援した場合の「潜在的な影響と結果(potential implications and consequences)」について中国側に警告を発した。

バイデン政権のある幹部は、サリヴァンと中国側との会談後のブリーフィングで記者団に対し、「私たちは現時点で中国のロシアとの連携に深い懸念を持っており、サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官はそうした懸念と、ある行動がもたらす潜在的な影響や結果について率直に述べた」と述べた。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はまた、サリヴァンが、中国がロシアに「制裁違反や戦争努力の支援(violates sanctions or supports the war effort)」となる軍事支援やその他の支援を行った場合、「重大な結果(significant consequences)」に直面すると示唆したと述べている。

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報告:ロシアが中国からの軍事装備を求めている(Russia seeking military equipment from China: report

オラフィミハン・オシン筆

2022年313

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/europe/598041-russia-seeking-military-equipment-from-china-report

複数の報道によると、モスクワのウクライナ侵攻が続く中、ロシア政府の複数の高官たちが中国政府の高官たちに対して、軍事装備の入手について接触したということだ。

アメリカ政府関係者は『ワシントン・ポスト』紙と『ニューヨーク・タイムズ』紙に武器取引の可能性を伝えたが、ロシアがどのような兵器を要求したか、詳細は明らかにしなかった。

ニューヨーク・タイムズは、世界の多くがロシアを孤立させようとしている中、ロシアにとって重要な同盟国となっている北京からの追加的な経済支援についても、モスクワが要求していると報じた。

ロイター通信によると、ワシントンの中国大使館の広報担当者は、モスクワからの支援要請について「聞いていない」と述べたということだ。

ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は今週、中国共産党中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔篪と会談する予定だが、日曜日、中国はロシアが世界的な制裁に対処するための物質的支援を提供しないよう警告した。

サリヴァンはCNNの取材に対して、「私たちは北京に対し、大規模な制裁逃れやロシアへの裏付け支援には絶対に結果が伴うと、直接そして内々に伝えている」と語った。

サリヴァンは更に「私たちはそのようなことを許さないし、世界のどの国からも、どの場所からも、この経済制裁からロシアへの命綱が投げられることを許さない」とも述べた。

『ワシントン・ポスト』紙によると、ロシアのアントン・シルアノフ財務相は日曜日のテレビインタヴューで、ロシアの金と外貨準備の一部が中国通貨であることを打ち明けたということだ。

シルアノフ財務相はインタヴューの中で「西側諸国が中国に対して、相互の貿易を制限するためにどのような圧力をかけているかを注視しいている」と述べた。

シルアノフは続けて「しかし、中国とのパートナーシップは、西側市場が閉鎖される環境下でも、これまで達成した協力関係を維持するだけでなく、拡大することも可能だと思う」とも述べた。

ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシアは西側諸国から制裁を受けており、制裁の程度がエスカレートしている。アメリカとイギリスの両国政府は最近、ロシアの石油、天然ガス、石炭の輸入を段階的に停止すると述べている。

アメリカ政府関係者の中には、危機的状況が続く中、ロシアは一部の死類の弾薬が不足していると話す関係者もいるとワシントン・ポストは報じている。

元米国インド・太平洋軍顧問のエリック・セイヤーズはワシントン・ポストの取材に対して、「北京がウクライナでのモスクワの戦争を支援するために何らかの軍事的援助を提供しているとすれば、米中政策への波及効果は甚大なものになるだろう」と述べた。

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サリヴァンは中国政府高官たちとの会談の中でロシアに関する懸念を表明(Sullivan raises Russia concerns in meeting with Chinese official

モーガン・チャルファント筆

2022年3月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/598140-sullivan-raises-russia-concerns-in-meeting-with-chinese-official

ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、月曜日に行われた米中当局者の長時間の会談で、中国のロシアとの連携について懸念を示したと、あるバイデン政権幹部が語った。

米中当局者はローマで7時間会談し、ロシアのウクライナ侵攻を一部取り上げたと同高官は述べた。サリヴァンは、中国共産党中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔篪に対し、中国がロシアを支持した場合、重大な結果に直面する可能性があると警告したということだ。

バイデン政権関係者によると、この会談は激しく率直なものとなり、ウクライナ侵攻の中でロシアが中国に軍事・経済支援を求めたとの報道を受けたものとなった。この高官は、これらの報道について直接言及することを避けた。 

この政権高官は「私たちは現時点で中国がロシアと連携することに深い懸念を抱いており、サリヴァン大統領補佐官はそうした懸念と、ある行動がもたらす潜在的な影響や結果について率直に語った」と会談後のブリーフィングで記者団に語った。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、サリヴァンが中国側に対して、中国がロシアに「制裁違反や戦争努力の支援」となる軍事的またはその他の支援を提供した場合、「重大な結果(significant consequences)」に直面することになると伝えたと述べた。しかし、崎報道官はそれらの「結果」について具体的な情報を提供することを避け、アメリカの同盟諸国と調整されるだろうと述べた。

サキ報道官は月曜日、サリヴァンと楊潔篪の会談の日程は、ロシアが約3週間前にウクライナに侵攻する前から計画されていたと語った。それにもかかわらず、今回の会談はウクライナを攻撃したロシアに対して、アメリカが国際的な圧力をかけ続けようとしている、タイムリーで差し迫った瞬間に行われた。

ホワイトハウスの発表によると、この会談では「様々な問題」が取り上げられ、ロシアのウクライナ侵攻について「実質的な議論(substantial discussion)」が行われたということだ。

また、サリヴァンと楊潔篪は、「米中間の開かれたコミュニケイション・ラインを維持することの重要性を強調した」という。

複数のバイデン政権関係者は、ロシアとそのウクライナ侵攻に関連する中国の行動を注視していくと述べた。

今回の会談は、バイデン大統領が2021年11月に中国の習近平国家主席と行った会談のフォローアップとして計画され、北朝鮮や台湾付近での中国の挑発的な行動についても取り上げられた。 

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アメリカ、中国の政府高官たちがロシア・ウクライナ戦争について会談を持つ予定(US, Chinese officials to meet in Rome over Russia-Ukraine war

ジョセフ・チョイ筆

2022年313

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/598028-us-chinese-officials-to-meet-in-rome-on-monday-to-discuss-impact-of

中国とアメリカの政府高官たちが月曜日にローマで会談を持つ予定になっている。両者はロシアのウクライナ侵攻とその世界規模での安全保障に与える衝撃について議論を行うことになる。

国家安全保障会議のエミリー・ホーン報道官は声明の中で次のように述べた。「月曜日、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官と国家安全保障会議の高官たちがローマに向かう。サリヴァンは、アメリカと中華人民共和国との間のコミュニケイションのラインを維持する継続的な試みの一環として、中国共産党政治局員であり、中国共産党中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔篪と会談を持つ予定だ」。

ホーン報道官は続けて「「両者は、両国の競争を管理するための進行中の取り組みについて話し合い、ロシアのウクライナに対する戦争が地域および世界の安全保障に与える影響について議論する」と述べた。

ローマ滞在中、サリヴァンはイタリアのマリオ・ドラギ首相の外交顧問であるルイジ・マッティオーロとも会談し、「プーティン大統領の選択戦争に対する強力で統一された国際的対応の調整」について話し合う予定だ。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、中国に対して、欧米とモスクワ(北京の最も近い同盟国)の仲介役を務めるように求める声が高まっている。中国はこれまでロシアの行動を非難することはせず、紛争当事者双方に自制を呼びかけてきた。

欧米諸国によるロシアへの厳しい制裁措置を受けて、中国がロシア経済への支援に乗り出すのではないかという見方もある。ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題対東大雨量補佐官は日曜日、経済制裁の影響を打ち消すためにロシアを支援しようとする国には影響が及ぶと警告した。

サリヴァンはNBCの「ミート・ザ・プレス」に出演し、「私たちは北京だけでなく、世界中の全ての国に対して次のように明言したい。もし彼らが基本的にロシアを救済することができる、我々が科した制裁を回避する方法をロシアに与えることができると考えるなら、彼らは全く別の結果を得ることになるだろう。私たちは中国であろうと他の国であろうと、ロシアの被る損失をロシアが挽回できるようにはさせないからだ」と語った。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2021年5月29日に最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)が発売になりました。全国の大型書店に置いてあります。是非手に取ってお読みください。アマゾンにもブックレヴューが掲載されています。

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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 バイデン政権は大規模なインフラ整備を行おうとしている。その財源として、大企業への税率引き上げと富裕層への増税を考えている。しかし、それだけでは到底間に合わない。そこでどうしても出てくるのが国債発行だ。現在のところ、物価上昇率も低く、インフレ懸念も少ないので、国債発行で資金を調達して、インフラ整備を行う、そのことが引いては、中国との競争に打ち勝つことにつながるということである。

 今回ご紹介する記事は、「バイデンは中国が改革開放以来、成功させてきたインフラ整備を真似たいと考えている。しかし、それは不可能だ」という内容だ。その理由は、そもそも論として、中国は市場経済に転換して数十年で、土地の価値が上昇し、それを担保にして、資金を調達してインフラ整備を行ってきた。これが資本主義発生期から勃興期の、原資蓄積というものなのだろう。この方式が限界に近付きつつあるというのが記事の筆者の認識であるが、アメリカはそれができない。アメリカは国債の信頼性でお金を集めるしかない。

 しかし、ここで面白い現象が起きる。アメリカ国債を買っているのは誰か。それは中国と日本とサウジアラビアだ。中国の資金で、中国に打ち勝つために、インフラ整備を行うということになる。中国にしてみれば、アメリカが景気回復することで、時刻の対米輸出も回復するのだから、アメリカには頑張ってもらいたいという考えもある。日本にしても、アメリカに貢ぐことでアメリカが景気回復して、アメリカがけん引する景気回復の波に乗ることができる。こうしたメカニズムが機能するためには、アメリカ国債が安定していなければならない。

 米中は激しく対立している。しかし、米中はある意味では運命共同体だ。この点を見落として、お勇ましく、「中国と戦うぞ(だけど日本一国では駄目だからアメリカの尻馬に乗って)」と言っているようでは、いざという時にはしごを外される、「日本が悪いよね」と共通の敵、スケープゴートにされる可能性もある。馬鹿の一つ覚えみたいに「中国の脅威」をお題目のように唱え続けているだけでは駄目だ。常に2つ、3つのプランを持っていなければならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンは中国のインフラ建設の奇跡を真似たいと望む(Biden Wants to Replicate China’s Infrastructure Miracle

-しかし、彼にそれを実現することは不可能だ。その理由を説明する。

ユーコン・ファン、ジョシュア・レヴィ筆

2021年55

『フォーリン・ポリシー』誌

MAY 5, 2021, 3:58 PM

https://foreignpolicy.com/2021/05/05/china-infrastructure-debt-land-prices-biden/

今年(2021年)3月、ジョー・バイデン大統領は、アメリカ国内のインフラの修理と新設のために2兆ドル(約220兆円)を超える規模の投資を行うと発表した。しかし、バイデンは、表向きは国内政策についての演説を行ったのだが、実際には外交政策、「中国との世界規模での競争」という挑戦について語っていたのだ。これは荒唐無稽なことではない。ワシントンでは、民主、共和両党は共に中国の台頭に懸念を持っている。中国の支配という幻影によって、バイデンは自身の政策に対する支持を構築することになる。

中国の怒りはアメリカ、インド、ブラジルにとっていつものことだ。そして、他の新興諸国は中国に追いつくことを夢見ている。しかし、これら新興諸国の野望は、機能不全に陥った都市部での各種サーヴィス、古くなった交通システム、停電が多い電力供給システムなどによって、成就できないようになっている。これらの国々にとって、中国との競争は、新しいインフラ建設に投資することを意味する。

しかし、アメリカ政府はこれら新興諸国と同じ悩みを抱えている。それはそのような投資のためのどのように資金を確保するかというジレンマに陥っている。バイデンの提案については、財政上の実現可能性について疑念が高まっている。バイデンは、その財源について、キャピタルゲインの税率の引き上げ、相続税の新設、税金回収システムの改善で賄うとしている。これらは根強い反対、もしくは実現性の制限に直面する。

一方、中国の経済構造と金融メカニズムは根本的にアメリカのものとは大きく異なる。中国のインフラ投資について見れば、アメリカで模倣することがどれほど困難なことかということが明らかになるだろう。

中国の一人当たりの収入はアメリカの7分の1である。そして、中国の財政、金融システムはアメリカに比べてほとんど洗練されていない。しかし、中国は経済状態を変更させるための資源を見つけることができる。中国国民の過半数は近代的な巨大都市に住んでおり、高速鉄道と高速道路のネットワークが中国全土を覆うようになっている。そして、中国の世界的な大企業は、他国の競争相手と激しい競争を行うようになっている。中国はこうしたことが可能であったが、その理由は高い投資レヴェルを維持するために必要な資金を中国政府が保有できたからだ。実際のところ、こうしたインフラなどへの投資は30年の間、中国のGDPの約40%を占めてきた。対照的に、アメリカにおける投資は約20%である。中程度の収入である国々がアメリカに追いつこうとして行う公共事業への投資は25から30%となる。

中国のインフラ投資の模倣がバイデンの提案の中でどれほど重要かということについて、これまで述べてきた指摘は議論を促進している。しかし、ここに根本的な疑問が生じてしまう。それは、世界各国の政府が中国ほどではないインフラ整備計画を立案しても、税率を引き上げたり、資本市場から資金を引き出そうとしたりしても、それらのための財源を確保することができないのに、中国はあれほど大規模なインフラ投資のための財源をどのようにして確保することができたのだろうか?

中国が採用した方法はあまり理解されない方法であった。中国が社会主義経済から市場経済へと移行した時期、開発のために、土地の隠された価値を引き出したことで、中国政府は成功を収めたのだ。改革開放前の社会主義時代には、中国の土地は、所有権も使用権も国家に帰属していたので、商業利用に制限があった。住居用そして商業用の財産市場が確立し始めたのは1990年代後半であった。この時期、中国政府は住宅を私有化し、商業利用のために土地のオークションを開始した。

この政策の結果、市場が商業的価値を確立しようとしたことで、土地を基にした財産価格は急上昇した。土地の一部を名義上所有していた人々、各世帯、各企業、各地方政府は突然、自分たちの財産の価値が急上昇するという幸運に恵まれた。中国の住宅用土地価格指数で見ると、2004年から2017年までに土地の価値は8倍になった。ロシアの財産市場でも同様のことが起きた。ソヴィエト連邦崩壊と住宅地の私有化が始まって以降、財産価値は急上昇した。1990年から1996年までに、モスクワの土地価格は12倍も増加した。

土地価格の急上昇によって、地方政府や市政府は、地方政府金融制度(local government financing vehiclesLGFVs)と呼ばれる制度を確立することができた。この制度では、資金を集め、インフラに投資することができた。国有企業から転換した各企業や地方政府金融制度は、上級の政府による保証を受け、土地財産を担保にして借金をしたり、新しい債券を発行したりできた。そうして各企業や各地方政府は発電所から地下鉄まで、あらゆるものを建設することができた。

銀行や企業の債権市場における利率の上昇よりも土地価格の上昇率の方が高ければ、借り手は資金を借りて、以前に借りた借金の返済にその資金を回すことができる。しかし、このようなメカニズムは永久に機能するということはない。土地価格の上昇は続くかもしれないが、土地価格が均衡点まで到達する時、利率の上昇率を上回る上昇率を保つことはない。若い世代は資金の使い道について前の世代よりもより多くの選択肢を持つので、前の世代に比べて貯金をするということは少ない。そうなると、利率は上昇する。更に言えば、政府によるインフラ計画に対する投資のリターンは小さくなっていく。政府のインフラ投資計画は、公正の面、そして戦略的な面の理由によって、より内陸部へと進んでいく。そして損失が出る可能性はどんどん高まっていく。 従って地方政府金融制度による借り入れは、北京の中央政府の負債レヴェルに関する懸念を受けて、より金額が小さくなっていく。インフラ投資の拡大ペースはこれから落ちていくことになるだろう。

世界中で、財産市場は何世紀前からではないが、数十年間から既に存在していた。これが意味するところは、各国政府は、中国の現在の指導部が市場改革によって手に入れることができた、「棚からぼた餅」式の利益を手にすることはできないだろうということだ。

バイデンにとって、税金を引き上げることができないとなれば、インフラ投資のほとんどには新たな借金が必要ということになる。バイデンは不動産などの財産を担保にすることはできず、アメリカ財務省の信頼性を担保にするしかない。アメリカ国債に依存することで、アメリカの地方政府はインフラを建設し、また既存のインフラの修理を行うチャンスを手にすることができるということだ。そして、中国が他の西洋諸国と同法に金融上の限界に直面することで、アメリカと中国との差は縮まっていくだろう。

不安定なインフレ圧力は確かに存在する。しかし、信頼性の高いアメリカ国債に大きく依存することは、中国の土地を基にした資金調達法と同様にうまくいくだろう。しかし、アメリカ・ドルが事実上の国際規模での準備通貨の地位から転落しているならば、アメリカ国債に大きく依存する方法にもまた最終期限が設定されることになる。

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 少し前にアメリカのドナルド・トランプ大統領が世界初の核実験75周年で、ロシアと中国に軍縮を呼びかけたというニュースを見た。「アメリカが偉大である」ためには「核兵器の優位」が必要だとでも言うのかと思ったが、核兵器に関しては軍拡競争はしたくないという姿勢を見せた。

 太平洋戦争の最終盤で日本の広島と長崎にそれぞれ原子爆弾が投下されてから、実際の戦争で核兵器が使用されたことはない。アメリカ一国のみが核兵器を保有しているという状態は長くは続かず、1949年にソ連が核実験に成功し、核保有国となった。1964年には中国も核実験を成功させた。世界の核保有国は10か国程度である。第二次世界大戦後の冷戦時代、核兵器の使用はなかったが、キューバ危機では核戦争の危機が高まった。

 核不拡散条約(Non-Proliferation Treaty)は、1968年に締結された。この条約はアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国以外の国々の核兵器保有を禁止するというもので、国連常任理事国以外には核兵器を持たせないぞ、というものだ。戦後国際体制を作った戦勝国が世界を支配し、それら以外は従えというものだ。インド、パキスタン、イスラエルはこの条約には加盟していない。また、北朝鮮は1993年に条約から脱退した。そのために、五大国の思惑とは異なり、核兵器は拡散している。

アメリカとロシアはそれぞれ6450発、6490発の核弾頭を保有し、1600発を実戦配備している。イギリス、フランス、中国はそれぞれ200発から300発の核弾頭を保有している。NPTに批准していないインド、パキスタンは100発以上の核弾頭を保有していない。また北朝鮮も100発以内の核弾頭を保有している。イスラエルは正式な核兵器保有を認めていないが、保有が確実視されている。イランは核開発の疑いを持たれている。

 アメリカもロシアも世界を何度も全滅させることができるほどの核弾頭を保有しているが、核兵器軍縮について、「囚人のジレンマ(prisoner’s dilemma)」という考えから見ていこう。

ジレンマとは「板挟み状態」のことだ。2人の犯罪者ABが捕まり、別の場所で取り調べを受ける。ABが両者ともに完全に黙秘をすれば、2人とも懲役2年となる。どちらか一方が自白をすれば、自白をした人間は懲役がなく、もう一方は10年の懲役となる。どちらともに自白をすれば2人とも懲役5年となる。この条件はそれぞれに伝えられているが、ABとも相手が自白をしたかどうかは分からない。

 この場合、Aの置かれている立場を考えてみる。Bが黙秘する場合、Aが黙秘したら懲役2年、Aが自白をしたら懲役0年」となる。これだとAは自白したほうが得となる。Bが自白する場合、「Aも自白をしたら懲役5年、Aが黙秘をしたら懲役10年」となる。この場合もAは自白したほうが懲役が短くなるので得となる。従って、Aは自白をするという選択肢になる。Bにとっても同じことになる。お互いを信じて黙っていたら2年で済むものが結局お互いに自白をして5年の懲役となるが、これが「合理的な」選択となる。懲役なしという最善の結果を得ることはできなくても、自分だけ10年の懲役を喰らうという最悪の事態を避けることができるからだ。ここで黙秘を「協調」、自白を「裏切り」と規定すると、裏切ることがABお互いにとって一番合理的な選択ということになる。

 囚人のジレンマで考えて見ると、一番良い結果は、お互いが協調することだ。しかし、それを阻むのはABが別の場所で取り調べを受けていて、全く連絡が取れないことだ。そのために結局裏切った方が得ということになり、お互いが最善の結果を得ることができないということになる。それならば、お互いが連絡を取り合えれば、「黙秘をした方が得」という合意ができることになる。これを応用すると、核保有諸国は、お互いに他国の意思が分からなければ軍拡競争を続けざるを得ない。使いもしない、使えもしない核弾道を数千発も保有して大きな負担だと嘆いてしまうという不合理な結果になってしまう。しかし、軍縮のためには「協調」が必要ということになる。そのためには「交渉」の枠組みが必要だ。

 アメリカとロシアは6000発以上の核弾頭を保有しているが、冷戦期の馬鹿げた軍拡競争の果ての負の遺産ということになるだろう。管理にかかる予算だけでも膨大なものとなり、かなり負担になるはずだ。米露は年間数十発ずつ減らすことを続けているが、今のペースでは数百年かかるだろう。それなら中国が求めているように、数百発にまで減らしてから何か言ってこい、ということになる。まずは米露で数百発単位の削減を数年間続けて見せてから、本気なのだということを示してから何か言えよ、ということだ。そうでなければ対等に話し合いなどできないということだ。

 新しい冷戦を迎えるためにはまずは古い冷戦の負の遺産を清算してからということだと思う。

(貼り付けはじめ)

核実験75 “ロシアと中国は核軍縮協力を” トランプ大統領

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200717/k10012519961000.html

アメリカが人類史上初の核実験を行ってから75年となったのにあわせ、トランプ大統領は声明を発表し、核戦力の強化を進めて抑止力を高めると強調する一方、ロシアと中国に対して核軍縮に向けた協力を呼びかけました。

アメリカは75年前の1945716日に西部ニューメキシコ州で人類史上初めてとなる原爆の実験を行いました。

トランプ大統領は16日、声明を出し「実験は第2次世界大戦の終結につながり、世界に前例のない安定をもたらしたすばらしい偉業だ」と称賛しました。そのうえで「強固で多様な核の能力があれば核の拡散を防ぎ、敵を抑止できる」として、核戦力の強化を進め、抑止力を高める方針を強調しました。

その一方で、トランプ大統領はロシアが爆発を伴う核実験を行い中国も実験を行ったおそれがあると指摘し「ロシアと中国には世界を安全にし、軍拡競争を防ぐため、改めて協力を求める」として、核軍縮に向けた協力を呼びかけました。

トランプ政権は、核弾頭の数などを制限したロシアとの核軍縮条約「新START」の有効期限が来年2月に迫る中、条約への参加を拒否している中国に参加を求めるねらいがあるものとみられます。

一方、声明については国務省で軍縮を担当した元高官がツイッターに「このようなつらい日にアメリカが軍拡競争で勝っていると強調するのはこの政権だけだ」と投稿するなど、批判も出ています。

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中国は米露との核兵器削減交渉への参加を拒否(China turns down nuclear arms control talks with US and Russia

マーティー・ジョンソン筆

2020年7月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/506792-china-turns-down-nuclear-arms-control-talks-with-us-and-russia

中国はこの問題についての自分たちの姿勢は「明確だ」と繰り返し、中国は米露との核兵器をめぐる交渉に参加しないという姿勢を改めて強調した。

中国外務省のツァオ・リージアン報道官は金曜日、アメリカからのロシアとの交渉に中国も参加してはどうかという提案について「真剣なものでもないし、誠実なものでもない」と述べた。

AP通信によると、ツァオ報道官は記者団に対して次のように述べた。「いわゆる三カ国による兵器削減交渉に対する中国の反対は明確なものです。アメリカ側もそのことをしっかりと認識しています。しかしながら、アメリカは中国の交渉への参加にこだわり、中国の地位を落とそうとしています」。

米露は冷戦期には敵同士で、現在でも世界の中で最大の核兵器を保有する大国同士でもある。両国は先月末ウィーンに集まり、「新スタート(New Start)条約」の延長について動き始めた。新スタート条約は2010年に合意され、来年2月に期限を迎える。

新しいスタート条約にはいくつかの条項が含まれている。その中には、配備済み核弾頭の数を少なくとも1550発までに制限するという条項、そして核弾頭を装備できる武器の配備を規制するという条項がある。条約ではまた、年間18か所の核兵器関連基地の査察を実施するプログラムも創設されている。

トランプ政権は米露に続き世界第3位の核弾頭保有国である中国に対して条約への参加を強く求めているが、中国政府は条約参加への反対を強硬に示している。

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中国がアメリカへ保有核兵器の削減を求める(China urges US to reduce nuclear arsenal

ジョン・バウデン筆

2020年7月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/china/506353-china-urges-us-to-reduce-nuclear-arsenal

水曜日、中国の複数の政府高官は、アメリカが進んで中国のレヴェルにまで保有核兵器を削減するならば、米露との三カ国による核兵器に関する交渉に喜んで参加するだろうがそれは実際には無理な話だと述べた。

新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction TreatySTART)に関する、新たな核兵器に関する交渉を先月から開始した。先月、トランプ政権の軍縮担当の責任者は次のようにツィートした。「中国もまた会議に招待された。中国の代表団は姿を現し、誠意を持って交渉に参加するだろうか?」

ロイター通信は次のように報じている。中国外務省の報道官は、トランプ政権とロシアとの核兵器をめぐる交渉に参加するようにアメリカから招待を受けた件について、アメリカがロシアとの新たな核兵器をめぐる交渉から離脱するという目的のために「関心を別に向けるための謀略以外のものではない」と述べた。

ロイター通信によると、中国外務省の兵器削減部門の責任者であるフー・ツォンは次のように述べた。「私は皆さんに明言しますが、アメリカが中国の核兵器保有レヴェルまで下がってくる用意があると言うならば、中国は明日にでも喜んで話し合いに応じます。しかし、現実には、そんなことは起きないことを私たちは分かっています」。

ツォンは「アメリカの真の目的は、全ての制限を撤廃して、現実のもしくは仮想の敵に対して軍事上の優位を追求するためのフリーハンドを持つことです」とも述べた。

新しいスタート条約はオバマ政権下で交渉されたもので、米露両国で配備できる核弾頭の数を1550に制限するというものだ。条約の有効期限は来年の2月だ。

スタート条約に関する中国側からのコメントがなされたのは、トランプ政権が世界保健機関(WHO)によってアメリカが正式に脱退した次の日のことだった。トランプ大統領は、世界保健機関が中国寄りだと繰り返し非難してきた。そして、コロナウイルス感染拡大への対処が遅すぎたと攻撃している。

世界保健機関と中国を批判する人々は、国際的なコロナウイルス感染拡大への対応が妨害されたのは、感染拡大の初期段階で中国の透明性の欠如が原因だと主張している。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大はアメリカと中国の争いの最前線となっている。アメリカは「中国が初期対応を誤ったために世界中に感染拡大してしまった、責任を取れ」「国際調査団に中国のウイルス学研究所の徹底調査をさせろ」ということを主張している。中国政府は新型コロナウイルスが実験室などで人の手によって造られたものではないと主張し、また、中国が発祥ということはないと反発している。

 「新型コロナウイルスはアメリカが作った、いやいや中国が作った」という討論がずっと続いている。そうした中で、アメリカのドナルド・トランプ大統領とトランプ政権は中国に対して厳しい姿勢を維持している。その急先鋒は、マイク・ポンぺオ国務長官だ。ポンぺオ国務長官は最近になってトーンダウンしたが、「新型コロナウイルス発祥は中国だという証拠はたくさんある」と述べ、世界的な感染拡大の責任は中国にあると述べてきた。

 2020年5月24日の段階で、世界中で約540万の感染者、死者数が34万3000、回復者数が約225万となっている。アメリカは感染者数約167万、死者数が約9万8000、回復者数が約45万となっている。日本は感染者数約1万6500、死者数は808、回復者数は約1万3000となっている。アメリカは感染者数、死者数で世界の約30%を占めている。新型コロナウイルスは今年初めには中国、特に武漢市で猛威を振るったが、今や欧米、特にアメリカで猛威を振るっていると言ことになる。トランプ政権の初期対応の誤りによってアメリカが最大の感染者数年者数を出すということになったという批判もなされている。そうした批判をかわすためにもトランプ政権としては、中国に責任を押しつけたいということになる。

 マイク・ポンぺオという人物が中央政界で知られるようになったのは、2010年の連邦下院議員選挙からだ。2008年にバラク・オバマが大統領選挙で勝利した直後から、アメリカでは保守派の草の根運動としてティーパーティー運動が始まった。小さな政府を標榜し、国民皆保険を目指すオバマケアに反対する、「納税者」の運動を展開した。この運動の資金源は、世界的な大富豪であるコーク兄弟であった。ポンぺオはティーパーティー運動に参加し、2010年の中間選挙で連邦下院議員に当選した。その後、4期連続で当選した。トランプ政権のマイク・ペンス副大統領とポンぺオ国務長官はそれぞれ連邦下院議員の経験があるが、その時のスポンサーだったのはコーク兄弟だった。

 2016年の大統領選挙でドナルド・トランプが勝利を収めると、アメリカの情報・諜報機関CIAの長官に就任した。2018年にレックス・ティラーソンがトランプ大統領のツイッターでの書き込みによって解任された後、ポンぺオが国務長官に就任した。

 マイク・ポンぺオという人物はコーク兄弟の後ろ盾を受けて、中央政界に進出し、CIA長官を務め、現在は最重要閣僚である国務長官を務めている。ポンぺオはコーク兄弟の代理人だ、という記事もあったが、現状を見ればそれはとても甘い見方であったことが分かる。コーク兄弟をはじめとするリバータリアンは対外戦争に反対だ。しかし、ポンぺオの言動や行動はとても危なっかしい。中国やロシアとはいつでもやってやるぞという姿勢だし、トランプ大統領が始めた北朝鮮との直接交渉にしても、北朝鮮側から「ポンぺオ国務長官を外して欲しい」という要請をされてしまうほどだ。

 ポンぺオは複数の勢力とつながり、利用してここまでやってきたと考えることが妥当だろう。それはマイク・ペンス副大統領にも言えることだ。その勢力の中には、アメリカを対外戦争に引きずり込もうという勢力もある。表面ではネオコンや人道的介入派として出ている勢力であるが、その裏がどうなっているのか分からないが、かなり恐ろしい勢力がいるのではないかと私は考えている。トランプ政権は反中央政府、反ワシントン既成政治を旗印に誕生したが、更に一回り大きな勢力に利用されているのではないかと私は危惧を持っている。

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●「沈黙のバットウーマン 武漢の研究者、コロナで先駆  米中対立の火種に」

2020/5/20   日経新聞   北京=多部田俊輔、編集委員 滝順一

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59338010Q0A520C2EA1000/

 中国の湖北省武漢市で世界で初めて感染が確認された新型コロナウイルスの発生源を巡って、米中の対立が止まらない。武漢ウイルス研究所が発生源だと主張する米国側に対し、中国側は「捏造(ねつぞう)」だと否定する。真相のカギを握るとみられているのが同研究所の石正麗氏だ。コウモリ由来のウイルス研究者の石氏は「バットウーマン(コウモリ女)」の異名も持つが、このところ動静が途絶えている。

「石氏が家族とともに1千ページに及ぶ秘密文書を持って欧州に逃亡した」。5月はじめ、武漢研究所「発生源」説がくすぶる中、こんな情報が米欧を駆け巡った。すぐに中国メディアは石氏が中国のSNS(交流サイト)に「国を裏切り亡命したとのデマはありえない」と投稿したと報じ、亡命説を否定。しかし石氏は表に出てこない。

「新型コロナウイルスは自然が人類に与えた懲罰であり、自分の命をかけて研究所か

らの流出はない」。石氏は2月初旬に中国のSNSで友人らにこのような趣旨の投稿をしてから、新型コロナの発生源に関して発言を控えている。

石氏は1964年生まれ。大学で遺伝学を学んだ後、政府直属の最高研究機関「中国科学院」傘下の武漢ウイルス研究所に入った。医学などの研究で名門とされる仏モンペリエ大学で2000年にウイルス学の博士号を取得し、武漢に戻った。

石氏が有名になったのは0203年に中国で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生源究明での実績だ。各地の洞窟で野生コウモリを捕まえて体液を分析し、SARSウイルスの起源がコウモリだと証明した。13年に英科学誌ネイチャーで発表し、「バットウーマン」と呼ばれるきっかけにもなった。

15年には今回の新型コロナを予言したともいえる研究成果も、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリク教授と共同で公表していた。バリク氏はコロナウイルス研究の第一人者。2人はコウモリのコロナウイルスが変異すると、SARSウイルスの治療薬が効かない新種のウイルスが生まれる恐れがあると、ネイチャー姉妹誌で公表した。

さらに石氏らの研究チームは1月に湖北省政府から新型コロナの研究を命じられると、22月初旬にいち早く、新型コロナもコウモリ由来の可能性が高いと発表していた。

一方、トランプ米大統領やポンペオ米国務長官は武漢ウイルス研究所が新型コロナの発生源だと主張する。最も危険性の高い病原体を扱える「バイオセーフティーレベル(BSL―4」の施設で、最初に感染者が出たとされる野生動物を売買する市場からも約30キロしか離れていない。

米ワシントン・ポストによると、18年に同研究所を視察した米当局者が「コロナウイルスの研究をしているが安全対策が不十分」と警告する公電を米国へ送っていた。ポンペオ氏は研究所の立ち入り検査を求めている。

ただウイルスが意図的に研究所から漏れたとみる専門家は少ない。米メディアによると、カリフォルニア大学の感染症専門家のジョナ・マゼット氏は新型コロナの感染が始まる前に「石氏の研究所には新型コロナウイルスはなかった」と指摘。武漢研究所が発生源だとする米政権の主張に反論する。実情を知る石氏は口を閉ざしたままだ。

大統領選を控えるトランプ政権は「中国たたき」が得票につながるとみて強硬姿勢に傾く。習近平(シー・ジンピン)指導部はポンペオ氏を標的に「人類共通の敵」などと対米批判を繰り返す一方、国内では研究者を含めた情報統制を強める。

「共産党の指導が厳しく愛国的なテーマを掲げないと研究が難しくなっている」。中国の有力大学で教える外国人専門家は漏らす。関係者によると、新型コロナも研究者らが自由に発信することは許されない。コロナ禍の克服には変異を繰り返しながら感染を広げるウイルスの正体を突き止めることが必要だ。中国の情報開示が問われている。

(北京=多部田俊輔、編集委員 滝順一)

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●「ポンペオ氏、新型コロナ発生源は「不明」 武漢研究所説から転換」

2020.05.18 Mon posted at 10:15 JST CNN

https://www.cnn.co.jp/usa/35153896.html

ワシントン(CNN) ポンペオ米国務長官は新型コロナウイルスが中国・武漢のウイルス研究所から発生したとの説から方向転換し、発生源は不明との立場を示した。米ニュースサイト、ブライトバートが16日に配信したインタビューの中で語った。

ポンペオ氏はこの中で、新型ウイルスの発生源を特定するため、支援チームの派遣を繰り返し要請してきたと述べた。

同氏はまた、ワクチン開発に取り組む研究者らにとって、発生源を知ることは重要な「鍵」になると強調。そのうえで中国の対応は透明性を欠くと改めて非難し、米国による制裁の可能性に言及した。

ただし制裁の具体的な手段については、トランプ大統領が十分な説明を受けたうえで決断を下すことを望むと述べた。

ポンペオ氏はこれまで、新型ウイルスが武漢のウイルス研究所から発生したと主張。今月初めのインタビューでは「大量の証拠」があると述べたが、その後「確信はない」と軌道修正していた。

トランプ氏も同様に「証拠を見たことがある」と主張したが、研究者らや国際情報共有網からは「可能性は極めて低い」との見解が出され、米情報機関は両方の可能性を検討中と述べていた。

中国政府は研究所説を、トランプ氏の再選に向けた中傷作戦だと批判している。

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ポンぺオ国務長官が険悪な雰囲気の記者会見の中で武漢の実験室をめぐる主張を擁護した(Pompeo defends Wuhan lab claims in combative press conference

ロウラ・ケリー筆

2020年5月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/496356-pompeo-defends-wuhan-lab-claims-in-combative-press-conference

マイク・ポンぺオ国務長官は水曜日、記者たちと言い争いを行った。中国のある実験室から新型コロナウイルスの感染拡大が始まったのかどうかという疑問についてやり合った。こうした主張は情報諜報機関の幹部や衛生の専門家たちから否定されている。

ポンぺオはBBCの記者バーバラ・プレット・アッシャーからのウイルスの起源に関する諜報について質問に対して次のように答えた。「バーバラ、バーバラ、いったん落ち着きましょう。」

Your efforts to try and find — just to spend your whole life trying to drive a little wedge between senior American officials … it's just false,”

ポンぺオは、中国の武漢ウイルス学研究所でウイルスに接したことで新型コロナウイルスの感染が始まったという理論を主張している。中国の武漢ウイルス学研究所である科学者がウイルスに接触したことが始まりという話だ。こうした主張を基にして、アメリカ政府は感染拡大に関して中国政府が国際的な調査団による中国国内の調査を許可すること、世界規模の拡大に責任を取ることを求めている。

ポンぺオは日曜日に行ったあるインタヴューの中で、「武漢という中国の都市にあるある実験室からウイルスが流出したことを示す“多くの証拠”が存在する」と述べた。しかし、この発言に対しては政府高官と衛生の専門家たちから否定されている。

米統合参謀本部議長であるマーク・ミリー大将は火曜日、ウイルスの発生は自然なものであり、実験室から偶然にもしくは意図的に流出したことを示す「決定的な証拠」は存在しないと述べた。

世界的な科学者たちの合意は、今回の新型コロナウイルスはある動物の中に発生して、人間に感染したというものだ。アメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長でホワイトハウスの対コロナウイルスのタスクフォースの主要メンバーであるアンソニー・ファウチは、ウイルスはある実験室から流出したものという主張を否定し、この疾病は野生から出てきたと述べた。

国務省は「多くの証拠」を肯定する新しい情報を得ているのかと問われ、ポンぺオは、アメリカ政府はウイルスがある実験室から発生したのかどうか、そして証拠があるのかどうかについて関知していないと答えた。

ポンぺオ国務長官は「これらの噺はどちらも全体として首尾一貫しています」と述べた。

ポンぺオは次のように述べた。「あなたが分からないことについて私も確実なことは何も言えないのですよ。新型コロナウイルスがある実験室から発生したという主張には確実性はなく、明らかな証拠もありません。ウイルス発生の起源と証拠についてのアメリカ政府の声明はどちらも正しい可能性があります。渡したこれら2つの主張を行います。政権幹部も同様に2つの主張を行います。これらはすべて真実です」。

先週、アメリカの情報機関の幹部たちは公開声明を発表した。これは極めて珍しいことだ。この声明の中で、幹部たちは今回の新型コロナウイルスはある動物の中で発生したという世界的な科学者たちの合意に同意したが、ある実験室での事故で発生した結果であるのかどうかについて調査を継続しなければならないと主張した。

中国は昨年12月末に世界保健機関(WHO)に対して肺炎の「奇妙な」ケースの発生を報告した。そして同時に、武漢市の海鮮市場での販売員と消費者のクラスターが発生したとも報告した。

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中国との言論戦の中で、ポンぺオが先鋒として登場(Pompeo Emerges as Point Man in War of Words With China

―ポンぺオを批判する人々は、ポンぺオは感染拡大に対する世界規模での対応のために強調するよりも中国攻撃に狂奔していると述べている。ポンぺオを支持する人々は、ポンぺオは中国の責任追及をしているのだと述べている。

ロビー・グラマー筆

2020年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/01/coronavirus-trump-pandemic-pompeo-attack-china/

最近の数週間、マイク・ポンぺオ米国務長官は、トランプ政権の強硬な対中国戦略の顔として出てきている。コロナウイルス感染拡大に関して中国非難のメッセージの拡散のために保守系メディアに依存している。多くのフォックスニュースや保守系のラジオのトークショーで中国叩きが行われており、ポンぺオはそれらに依存している。

ポンぺオはダン・“オックス”・オクスナーに対して「私たちの姿勢は明確であり、それは中国共産党は特別の責任を負っているというものだ」と述べた。オクスナーは保守系のラジオのトークショーの司会者であり、ポンぺオは木曜日だけでこうしたラジオのトークショー4番組に出演した。その中にオクスナーの番組も含まれていた。「このウイルスは武漢で発生しました。中国は世界とデータ、情報を共有する特別な責任を持っています。そして、透明性を確保する必要があります」。

外交分野以外の人々と元外交官たちにとっては、ポンぺオ国務長官のメディアを使った大規模な宣伝によって保守派の人気を高めている。これはドナルド・トランプ大統領の支持基盤を活性化するように見える。感染拡大によるロックダウンによって世界経済は減退し、アメリカ国内の失業数は急増している。このような状態の中で、保守派の活性化は2020年の選挙にとって重要である。批判者たちは、ポンぺオ国務長官が感染拡大に対する世界的な反応を協調させることではなく、政権による攻撃の急先鋒になっていると述べている。ポンぺオ国務長官の支持者たちはこうした批判を党派性の強い情報操作(spin)に過ぎないとしている。

中国はポンぺオ国務長官に反撃をしている。先週、中国は国営メディアを使って、通常では考えられない規模で個人攻撃を行った。この時、中国政府は、「中国がウイルスの感染拡大の初期段階で対応を誤り、世界規模で感染が拡大した」というアメリカからの批判をかわそうと躍起になっていた。中国共産党機関紙『人民日報』紙のある論説には次のような一節があった。「ポンぺオのような政治家の頭の中には、偏見、憎悪、個人の利益しか存在しない。ポンぺオの発言や行動は人々を困惑させている。そのようないじめと荒唐無稽な発言で“アメリカを再び偉大にできる”などと彼は考えているのか、と」。

今年の4月だけで、ポンぺオ国務長官は90以上のアメリカ国内と外国の報道機関のインタヴューに応じた。これは感染拡大初期と比べると大きな変化である。4月、ポンぺオ国務長官は米国務省内でほぼ定期的な記者会見も開いていた。様々な報道機関からの記者たちが彼に質問をすることができる機会だ。加えて、国務省は、感染拡大やその他の問題についての国務省の対応について、国務省の幹部職員たちにほぼ毎日電話でのブリーフィングを行ってきた。

外交官出身者の中には、ポンぺオ国務長官が特定の政治的志向を持つ選ばれた国内の聴衆に集中し過ぎていると批判している。ポンぺオ国務長官が一対一のインタヴューやトークショーに出演しているが、その多くは保守系メディアである。国務省は一般の人々にも利用できるように、ポンぺオと報道機関のインタヴューの文字起こしを発表している。複数の元外交官たちは本誌の取材に対して、ポンぺオ国務長官がトランプを擁護しているメディアにこだわっているのは、こうしたメディアにばかり出ることで、厳しい質問を受けることがないからだ。また、外国メディアからのインタヴュー受ける代わりに保守系メディアのインタヴューを受けている。外国メディアの取材に応じることは、アメリカの政策について諸外国の人々により良く説明する機会となるがそれを放棄している。

職業外交官出身で、バラク・オバマ大統領時代のホワイトハウスで国際社会関与担当の部長を務めたブレット。ブラエンは次のように述べた。「ポンぺオ国務長官は、トランプ政権が採用している政策の理由について世界とコミュニケーションするためにほとんど時間を使っていません。彼は、国務長官の役割をより党派性の強いものにしてしまいました。歴史的に見て、国務長官は争いから超然としていようとしてきました。私が現在の政権の政策に同意できないにしても、国務長官の仕事は、世界各国のメディアに対して、アメリカ政府の政策の正当性を説明することであり、そのために最前線に立つことなのです」。

アメリカ国務省は、感染拡大によって民間航空のキャンセルが相次ぎ、渡航禁止などを実施する外国が増えている中で、海外で足止め状態になっている数万単位のアメリカ国民の帰国というこれまでにない仕事を実行しなければならなくなっている。そうした中で、ポンぺオ国務長官は国内のメディアにばかり登場しているのはこれらの仕事の実行に役立たないと指摘している人々もいる。世界各国に置かれているアメリカ大使館と領事館は今年1月以降、これまでに7万人以上のアメリカ国民の帰国を援助している。国務省の幹部たちは、在外公館は民間航空とチャーター機を使ってアメリカ国民を帰国させていると述べている。

ポンぺオ国務長官がメディアに頻繁に登場しているのは、トランプ政権のより大枠の戦略である、中国が感染拡大への対応を誤ったのかどうかについての独立機関による調査を求めることとウイルスの起源について疑問が多く出ている中で国際機関による調査官たちに中国国内のウイルス研究施設の調査を許可するように中国政府に圧力をかけること、この2点に沿った動きなのである。トランプ政権はまた、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)の世界的な感染拡大への対応における役割について非難している。WHOは中国からの圧力に屈ししていると攻撃している。トランプ政権を批判している人々は、政権が感染拡大に対する対応が遅れたことを隠すために批判を行っていると述べている。アメリカ国内では110万以上の感染者数を確認し、死者は約6万5000名に達している。

トランプ政権は、世界保健機関が中国の圧力に屈しているかを調査するために、しばらくの間予算供与を停止すると発表した。

民主党所属の連邦議員たちはこのような手段を批判している。彼らは、確かにWHOは失敗をしたが、アメリカからの支援を必要としている、と発言した。連邦上院少数派(民主党)院内総務チャック・シューマー連邦上院議員、連邦上院外交委員会で民主党側の最上位のメンバーであるボブ・メレンデス連邦上院議員、その他の連邦上院議員たちは4月20日付で書簡をポンぺオ国務長官に送付した。その中で次のように述べている。「感染拡大への対応と封じ込めに関しては複雑さを増している。そうした中で、国際的な対応を強調させるためには更なるアメリカの指導色が必要となる。WHOにおける中国の影響力の増大に対する解決策は、アメリカの指導力と関与であって、アメリカが不在となることではない」。

水曜日の記者会見でポンぺオは次のように述べた。「アメリカは世界保健機関に最大の資金提供を行っています。世界保健機関は目的達成に失敗しました。きちんとした結果を得るためにアメリカの納税者のお金をどのように使うべきかを把握するために調査を行っています。私たちは“健康(保健、health)”を名前につけているある故草木機関が実際に私たちが必要としている結果をもたらしていると言いつくろいながら、ウソをつくようなことをすべきではないのです」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌の外交と国家安全保障担当記者

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