古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 米中関係

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界を大きく見るための枠組みを提示しています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年は中国にとっても厳しい年となりそうだ。経済が減速し、若者たちは就職で苦労し、結果として、社会に対する幻滅や国家に対する信頼が揺らぐということになる。中国は経済運営に関して、人類史上でも類を見ないほどにうまく対応してきた。日本の戦後の成長は「奇跡の経済成長」と賞賛されてきたが、中国の経済成長は期間とその規模で日本を上回っている。

 2024年の中国に関する5つの予測という記事が出た。この記事によると、中国の2024年は暗いようだ。不動産価格の下落、若者の就職が厳しい状態、若者たちの幻滅はすでに起きており、今年も続くということだ。中国の不動産価格は下落するだろう。日本の都市部の不動産価格の高騰は中国マネーが入ってきているからであり、中国の富裕層は日本に目を向けている。中国の若者たちの厳しい現実と幻滅に中国政府は本格的に対処することになるだろう。

 中国の政治指導部で複数の閣僚の更迭が起きたが、これは、アメリカとの不適切なつながりがあったためだ。中国の最高指導層はこの点を非常に厳しく見ている。敵と不用意にかつ不適切につながっている人物を排除するということで、非常に厳しい態勢を取っている。それだけ米中関係のかじ取りが難しいということも言える。お互いに、敵対的な関係にはなりたくないが、好転するという状況にはない。ジョー・バイデン政権はウクライナとイスラエルという2つの問題を抱えて、更に中国と敵対することは不可能だ。何とか宥めながら、状況を悪化させないようにしようとしている。

 台湾の総統選挙は民進党の候補が勝利すると見られている。これで何か起きるということは米中ともに望んでいない。現状がそのまま続くことになる。台湾に関しては、バイデン政権が超党派の代表団を送り、台湾の代表もアメリカで活発に動いているようであるが、大きな変化はないだろう。アジアで何かを起こすことは、アメリカにとっても致命傷になってしまう。アジアの平穏は世界にとっても重要だ。日本も中国とは敵対的な関係にならないように配慮していく2024年になるだろう。

2024年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2024

-台湾に関する小さな危機から若者層で拡大する幻滅まで、来年(2024年)に中国が直面するであろう5つの問題について見ていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2023年12月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/26/china-predictions-2024-taiwan-economy-xi-jinping/

2020年代は今のところ、中国の失われた数十年のように感じられる。経済は減速し、若者は幻滅して、職を失い、彼らの親は資産価値の暴落を目の当たりにしている。経済は減速し、若者たちは幻滅し、職を失い、親たちは資産価値の暴落を目の当たりにしている。2023年は北京にとって困難な1年であり、次の1年もそれほど幸せなるとは見えない。以下に、2024年の中国に関する5つの予測をまとめた。

(1)台湾の小規模な危機(A Taiwan Mini-Crisis

台湾では1月13日に総統選挙が行われ、今年は海峡における小さな危機から始まる可能性がある。蔡英文(Tsai Ing-wen)総統の下で働き、民進党(Democratic Progressive PartyDPP)に所属する現台湾副総統、頼清徳(Lai Ching-te)が、世論調査の結果では僅差でリードしている。彼の選出は北京を激怒させるだろう。彼はより独立した台湾の擁護者であり、中国共産党 Chinese Communist Party (CCP) に強く反対しています。

頼は、北京の最終防衛線(レッドライン)である台湾の正式な独立や中華民国を名乗ることはないと述べているが、台湾の主権は「事実(fact)」であり、北京の基準では候補者全員が独立派であることを念押ししている。

頼が勝利すれば、海軍の作戦行動や領空侵犯など、北京の積極的な動きが予想される。先週、習近平が11月にジョー・バイデン米大統領と会談した際、台湾との統一について発言したという報道があり、ワシントンはパニックに陥ったが、侵攻の可能性は極めて低い。特に中国が他の危機と闘っているときには、それは危険で困難なことだろう。

1月13日に台湾の野党・国民党(KuomintangKMT)が勝利したとしても、いくつかの問題が生じる可能性がある。国民党は民進党よりも親中派だが、この島の鍵を中国政府に渡すことはまずないだろう。中国当局者は、国民党の選挙勝利を台湾における中国の影響力の表れとみなして、その重要性を過大評価している可能性がある。最近の調査では、台湾の有権者の17%が中国を主な関心事だと答えたが、その2倍以上が経済を選んだ。

(2)拡大する不動産苦境(Growing Property Woes

中国の住宅価格は何年にもわたって危険な状態に陥っていたが、2024年はついに危機の瀬戸際に立たされる年になるかもしれない。今年の不動産開発業者たちの危機は、カントリー・ガーデン(Country Garden)のような、かつては比較的安全と考えられていた企業にまで及んだ。しかし、中国政府が本当に恐れているのは住宅価格の下落だ。結局のところ、中国の家計資産の70%は不動産に投資されている。

政府はデータを改ざんし、解説者たちを脅迫して、中国経済が実際にどれだけ厳しい状況にあるのかについて人々が語るのを阻止しようとしているようだ。現在、公的な住宅価格指数と実際に市場で売れる不動産価格の間には大きな乖離がある。多くの都市では価格が少なくとも15%下落し、北京では最大30%下落している。

こうした傾向が広がるにつれ、公式の数字ですら現実をよりよく認識する必要が生じる可能性があり、そうなるとより広範囲にわたる信頼の危機を引き起こすことになるだろう。

(3)政治指導者の交代(Political Leadership Shake-ups

2023年には、秦剛(Qin Gang)外交部長と李尚福(Li Shangfu)国防部長という2人の最高指導層の指導者たちが失脚した。両者の解任の全容は依然として不透明だが、習近平が昨年トップポストに忠実な人物を詰め込んだにもかかわらず、中国共産党の最高指導部の政治は新年を迎えても不安定なように見える。

それは驚くべきことではない。習近平は政党政治において有能であるが、彼の統治は、特に過去3年間、中国にとって酷いものとなった。義務的な崇拝によっても、彼は不安を感じたり、多くの人がこの国の現状について自分を責めていることを認識したりするのを止めることはできない。この不安は、習近平の気まぐれに生命、富、自由が左右される他の指導部にも影響を与える。こうした緊張が来年、劇的な政治な結果を生み出す可能性が高い。

派閥や協力者たちについて語られることはあっても、中国共産党の政治はある意味で組織犯罪の力学に似ている。もし習近平に対して重大な動きがあるとすれば、それは習近平が推し進め、後援してきた人々から起こるかもしれない。

(4)若者たちの幻滅(Youth Disillusionment

先週、AP通信のデイク・カン記者は、過去3年間の中国における大衆の気分の変化を捉えた2つの微博(Weibo)メッセージを自身のアカウントで共有した。2020年6月、見知らぬ人が彼に「中国から出て行きやがれ(Get the fuck out of China)」とメッセージを送った。 今月(2023年12月)、同じアカウントから「申し訳ありません」というメッセージが届いた。

中国の若者の多くがここ数年で同じ道をたどった。国家主義的な教育は、2020年の夏に新型コロナウイルス感染症に対する明らかな勝利とともにもたらされた誇りと勝利の感情を彼らに呼び起こし、世界の他の国々が緊急体制を取る一方で、中国は比較的正常な状態に戻った。その感情は西側諸国、特にアメリカに対する敵意(hostility)の高まりと融合し、アメリカを非難するパンデミックに関する、複数の権力者共同謀議論(conspiracy theories)が定着した。

しかし、2021年と2022年の中国の新型コロナウイルス感染ゼロ政策への不満と経済危機が相まって、国民、特に若者の感覚は大きく変化している。この変化の兆候の1つは、中国の対米世論が急上昇していることである。これは、中国政府の方針に対する不満を表現する暗号化された方法である。 2024年には、2020年代の初めに既に明らかだった将来に対する悲観が更に悪化する可能性が高くなる。

民衆の間にあるナショナリズムの低下と若い新卒者たちの悲惨な経済見通しが、中国の18歳から24歳のうつ病の増加につながっているようだ。若者の失望と怒りは2022年12月に爆発し、中国は新型コロナウイルス感染ゼロ政策に反対する過去数年で最大の大規模抗議デモを経験した。来年(2024年)はそのようなことはないだろうが、虚無主義と他国への逃亡願望(そうする資力のある人々の間での)は、2024年もいわゆる逃避学(runology)を煽り続けるだろう。

10年前、中国共産党が反体制派潰しに走った主な理由の1つは、党が若者の支持を失っているという確信だった。この新たな恨みに対する政府の対応は、強制的な愛国心の誇示とネット空間の検閲強化を主張することだろう。2023年には、別のゲーム機性が終わったが、中国政府に中国の若者が望むような未来を提供する能力はほとんどない。

(5)米中関係の崩壊はないが、回復もない(No Collapse in U.S.-China Relations, but No Recovery Either

2023年11月にサンフランシスコで行われた習近平とバイデンの首脳会談は成功し、双方はこれを勝利とみなしたようだが、長年下り坂だった関係に一時的な冷却期間をもたらした。重要なのは、北京とワシントンのハイレヴェル軍事協議が再開されたことだ。中国の国営メディアでは、反米的な言動は比較的控えめだが、それでも絶え間なく流れ続けている。

それが長続きするとは思わない方がいい。両大国間の構造的緊張は十分に激しく、何らかの新たな危機が中国をいわゆる狼戦士モードに戻すことは避けられないだろう。しかし、この態勢が2020年のような高みに達することはないだろう。中国には、しばらくの間、あまり大きな問題を起こすリスクを避けるために十分な他の問題がある。

選挙期間中、ワシントンの反中レトリックが関係を悪化させるという懸念は常にある。しかし実際のところ、アメリカの有権者たちは投票箱を前にして中国を気にしていないようだ。本当に危険なのは、中国による選挙干渉の試みかもしれない。選挙干渉は、中国系有権者の多い地域の特定の政治家を狙ったものだろうが、おそらくはドナルド・トランプ支持路線に沿ったものとなるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 米中両国の貿易戦争という言葉は、ドナルド・トランプ大統領時代から使われている。お互いの輸出入に対して高関税をかけるということをやり合った。今回ご紹介するのは、米中経済戦争(economic war)についての記事だ。経済戦争とは、多くの産業分野で、敵対国に勝つ、市場のシェアを奪い、技術で優位に立つために戦いを仕掛けるということだ。現在、米中間では経済戦争が起きており、中国側が有利だというのが下の記事の筆者の分析だ。中国は経済戦争に勝つために、産業政策(Industrial Policy)を実施し、成功している。産業政策の本家本元は日本である。産業政策を世に知らしめたのは故チャルマーズ・ジョンソンの著書『通産省と日本の奇跡』である。日本はアメリカの属国であったため、日米間の戦いは、最初からアメリカの勝利と決まっていたが、中国は大胆に勝負を仕掛け、状況を有利に動かしている。

以下の記事で重要なのは、次の記述だ。

(貼り付けはじめ)

中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。
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 しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。
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アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

(貼り付け終わり)

 簡単に言うならば、中国は特定の産業分野に資源、資金、人材を集中させるための産業政策を実行した。その分野とは、「通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能」といった最先端産業である。これらの産業分野でアメリカに勝つために、官民協調、一丸となって戦う、そのために政府は目標を設定し、それに誘導するために関税や補助金などを利用するという、「産業政策」を実施している。そして、それが成功しつつある。

中国は、電気自動車やスマートフォンの分野で国産化に成功し、市場シェアを拡大させている。「国産化」が重要なのは、重要な部品を外国に頼っている場合、経済制裁などが行われると、その製品が作れなくなるが、国産化はその危険を回避できるということになる。米中間に当てはめると、スマートフォンの重要なチップをアメリカ製に頼っていては、中国は経済制裁などの不安を抱えたままになる。また、アメリカはチップの供給を止めることができるという優位な立場に立つ。しかし、中国が国産化に成功すれば、アメリカはその優位を失う。これは経済戦争において重要な要素となる。

バイデン政権は遅ればせながら、産業政策を実施しようとしている。しかし、状況を好転させるのはなかなかに難しい。

(貼り付けはじめ)

米中経済戦争を如何にして勝つか(How to Win the U.S.-China Economic War

-最初のステップは経済戦争をきちんと定義することだ

ロバート・D・アトキンソン筆

2022年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/08/us-china-economic-war-trade-industry-innovation-production-competition-biden/?tpcc=recirc062921

中国が単なる軍事的敵対者ではなく、経済的敵対者であることが、アメリカに明らかになりつつある。中国が先端産業において得た経済的利益の多くは、アメリカが失ったものであり、その逆もまた然りで、両国は技術革新と生産能力の両方において優位性を求めて争っている。この傾向は今後も続くと思われる。中国の習近平国家主席は昨年(2021年)、「技術革新が世界の主戦場となり、技術優位の競争はかつてないほど激しくなるだろう」と述べ、このことを認めている。

経済戦争(economic war)は、経済競争(economic competition)とは別物だ。例えば、カナダとアメリカは経済的に競争しているが、両国とも貿易は互いに有益な比較優位(comparative advantage)に基づいて行われることを理解している。これとは対照的に、中国はアメリカの技術や産業能力に対して大規模な正面攻撃を仕掛けてきている。2006年に発表された「科学技術発展のための国家中・長期計画(National Medium- and Long-Term Plan for the Development of Science and Technology)」は、この対立における最初の攻撃と考えることができ、2015年には習近平の「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025、中国製造2025)」戦略がそれに続く。どちらも中国が自給自足(self-sufficiency)を目指す重要技術を特定し、主要産業における外国企業の市場参入制限、広範な知的財産の盗用、技術移転の強制、中国企業への巨額の補助金などを背景としている。後者の文書では、主要産業における中国の市場占有率の数値目標も追加された。

経済戦争は前例がないということではない。1900年から1945年まで、ドイツは様々な不公正な貿易慣行を用いて世界的に経済的、政治的な力を獲得し、最終的には軍事力のために利用した。しかし、北京は経済戦争を別の次元に引き上げた。中国の長年にわたる、そして増大する攻撃は、競争相手を潰し、アメリカを経済的な属国(economic vassal state)とすることを目的としている。

ドナルド・トランプ前米大統領の貿易戦争は、アメリカの産業・技術力に対する中国の長年の攻撃に対する反応であった(不十分な表現ではあったが)。当時、ワシントンの専門家たちの多くは、アメリカが本格的な経済戦争に突入したという認識ではなく、トランプの保護主義的な傾向によるものと考えていた。中国の経済侵略の意図と程度が広く理解されるようになったのは、ここ数年のことだ。ジョー・バイデン米大統領が中国への先端チップや半導体装置の輸出を新たに禁止したのは、バイデンと政権内の一部の人々がそれに気づいた証拠だ。

バイデンの禁止令にもかかわらず、アメリカは中国との長期的な経済戦争への備えがほとんどないままである。北京の技術革新重商主義施策(innovation-mercantilist practices)は、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)が違法と見なす戦術を用いて、先端産業の生産高の大きなシェアを獲得しようとするもので、他国の産業政策(industrial policies)をはるかに超えるものである。それを無視して、中国が軌道修正すると信じたり、アメリカの多くの政策立案者たちのように、中国は民主的で自由な市場でない、あるいは高齢化が進んでいるため成功できないと思い込んだりするのは、砂の中に頭を突っ込んで最善の結果を望むのと同じことだ。賭け金は大きい。戦争に勝てば、国内の賃金や競争力を高め、経済や国家の安全保障を向上させることができる。しかし、負ければその反対となる。

アメリカの国家安全保障分野のエリートたちは、軍事戦争に対する計画を真剣に捉えている。戦争ゲームの演習や米国防総省の支援に多大な資源を費やしている。戦闘を研究するために、数多くの戦争専門大学を設立している。戦争のあらゆる側面について助言するために、数え切れないほどのコンサルタントたちを雇っている。過去の紛争から学ぶために歴史学者を雇う。そして、連邦政府内の各機関と連携する。このような動きをしている。

このようなシステムは、経済戦争にはほとんど存在しない。計画もない。評価もない。戦略もない。経済安全保障システムもない。せいぜい、個々のプログラムやイニシアチヴがあるだけで、政府全体の戦略やシステムを構成することはできない。台湾への侵攻がないこともあり、ワシントンを眠りから覚ますような、中国の大規模な経済攻撃はないだろうと人々は考えている。

ワシントンの政界関係者のほとんどは、少なくともまだ、北京との経済関係を勝ち負けで考えてはいない。政策立案者たちは、外国の敵がアメリカの国家安全保障上の重要な利益を攻撃する可能性があることは理解しているが、アメリカの経済上の重要な利益に関しても同じことが言えるということはあまり認めたくないようだ。実際、経済アドバイザーのほとんどは、貿易が相互に利益をもたらすという比較優位(comparative advantage)の概念をいまだに提唱している。例えば、アメリカは旅客機の製造が得意で、中国は5G機器の製造に長けているといった具合だ。

しかし、通信機器、高速鉄道、建設機械、航空宇宙、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、自動車、コンピュータ、人工知能など、中国の国内先端産業の育成に用いられる巨額の補助金やその他の不公正な慣行は、比較優位とは無関係だ。自国企業を強化し、外国企業の競争力を削ぐという、産業分野における破壊的侵略(industrial predation)による支配欲が反映されているのである。1995年から2018年にかけて、中国とアメリカが先進産業で占める世界生産のそれぞれのシェアの変化には強い負の相関があるのはこのためだ。言い換えると、アメリカがシェアを失った産業で、中国がシェアを獲得したということだ。

ワシントンはまた、政府の援助や戦略的指示がなくても、企業が自らの利益のために行動すれば経済厚生(economic welfare)が最大化するという自由市場の教義に固執している。しかし、経済学者アダム・スミスやフリードリヒ・ハイエクの最も熱心な信奉者でさえも、市場の力だけでは国家に必要な軍事力を生み出すことはできないと信じている。だからこそ政府が介入し、計画を立てなければならない。しかし、ワシントンの専門家の多くは、その論理を経済戦争の能力にまで広げようとしない。

確かに、経済戦争(economic war)と軍事戦争(military war)は異なる。経済戦争では直接的な死傷者はほとんど出ないが、戦闘ははるかに長期にわたって行われる。しかし、どちらの戦争も最終的には国家の自律的な存続能力(the ability of the state to exist autonomously)を脅かすことになる。

必要な戦争に対する戦略を持たないことより悪いのは、まったく戦わないことだ。ワシントンは、北京がほとんどの先端産業で世界的な主導権を獲得するのを阻止し、中国の経済的なアメリカ(および緊密な同盟諸国)への依存度を大幅に高めること(その逆ではなく)を確実にするという包括的な目標を掲げて、経済戦争を戦うことに関与する必要がある。

問題は、そのような戦略をどのように策定し、運用するかである。これまでのところ、米連邦政府は真のアメリカの経済競争力戦略を生み出すことに失敗している。アメリカの歴代政権がこのテーマについて何かを発表してきたが、それは大抵の場合、実績や有利な政策、あるいは将来の政策意図のリストでしかなかった。最近ホワイトハウスが打ち出したバイオエコノミー構想は、アメリカのバイオテクノロジー産業をいかに成長させるかを提案したものだが、競争力のある産業分析に基づいたものではなかった。また、このプログラムは、ホワイトハウス科学技術政策局が主導する、内容が狭いものだ。効果的なバイオ産業戦略、特に中国に対する戦略には、貿易政策、税制政策、規制政策、その他様々な要素を盛り込む必要がある。

アメリカの産業戦略が首尾一貫していない主な理由の一つは、戦略を策定し、全ての政府機関がそれに沿うようにすることを仕事とする主体が存在しないことである。このような戦略は、中央集権化され(centralized)、大統領の権限に裏打ちされたものでなければならない。そして適切な資金を提供する必要がある。共和制の擁護者が軍事防衛予算の増額を求めるのは当然だが、アメリカは経済防衛予算の増額も必要としている。

ワシントンが、経済戦争戦略が必要だと判断した場合、誰が経済戦争戦略を主導すべきかを最初に決めなければならない。軍事戦略を主導するのは米国防総省である。なぜなら米国防総省は軍事戦争を戦うための機関だからだ。しかし、経済戦争は多面的であるため、米商務省が単独で経済安全保障戦略を主導することはできない。

この戦線における米政府機関間の効果的な連携は、自動的に行われるとは期待できない。中国との経済戦争に勝利することがアメリカの国際経済政策の第一目標であるというコンセンサスはまだ得られておらず、様々な機関がそれぞれの狭い範囲での、時には相反する利益を推進するために行動することが多い。例えば、財務省や国務省が対中強硬策に反対し、商務省や米国防総省がそれを支持するというのはよくあることで、通常は膠着状態(stalemate)に陥る。財務省と国務省が国際協調と世界金融の調和を求めるのに対し、商務省と米国防総省は中国を弱体化させ、アメリカ企業を後押ししたいと考えているのだ。

そのため、連邦議会は、敵対者、特に中国との経済競争を管理するために、ホワイトハウス国家経済安全保障会議(White House National Economic Security Council)を設立すべきである。これは、「人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)」が提案し、超党派の連邦議員グループによって連邦議会に提出された、「技術競争力評議会(Technology Competitiveness Council)」創設のアイデアと似ている。技術競争力評議会の役割は、アメリカがどのようにして中国に経済的に勝つことができるかに関する政府全体の戦略を確立し、調整し、アメリカの主要な活動全てがこの目標の達成に向けて連携できるようにすることになる。連邦議会はまた、米中経済戦争における連邦議会自身の様々な取り組みに一貫性を与えるために、「統合経済競争力委員会(Joint Economic Competitiveness Committee)」を設立すべきである。連邦議会は現在、様々な委員会や小委員会が存在しているが、これらはまったく連携していない。

一旦、政策立案者たちが、アメリカが中国と経済戦争状態にあることを受け入れ、アメリカの取り組みを指導する組織を設立することになれば、次の問題は、「それでは、戦争に勝つために一体何をすべきか」ということになる。

いかなる経済戦争戦略も、軍事戦争戦略と同様に、2つの重要な課題を包含しなければならない。1つは、敵よりも速く行動すること(running faster than the adversary)だ。この場合、主要産業におけるアメリカの競争力を高める国内政策を通じて、迅速に行動するということになる。もう1つは、アメリカの主要産業における競争力を高めることにより、敵である中国の速度を低下させることである。そのために、アメリカから得ている経済投入と、不公平な貿易慣行から利益を得ている中国企業によるアメリカ市場へのアクセスを妨げることが必要だ。

これは、税金、貿易、独占禁止法、外交と海外援助、諜報、科学技術、製造など、多くの分野で政策を見直し、修正することを意味する。言い換えれば、中国との経済戦争に勝つためには、アメリカの経済政策と外交政策のほぼ全ての部分が連携する必要があるということだ。確かに、各政府機関はそれぞれの優先政策を持っている。それらを調整するのが大統領の仕事ということになる。

例えば、アメリカの対外援助は、受け入れ国が中国側につくかどうかという点と、明らかに関係しているだろう。財務省は人民元に対するドルの価値を下げるよう促すだろう。税制政策は、貿易部門、特に先進産業の減税に重点を置くことになる。通商政策ではアメリカの先進産業の公平な扱いが優先されるだろう。独占禁止法規制当局は大企業を解体するという取り組みを放棄するだろう。科学政策は応用研究に焦点を当てることになるだろう。国務省は、中国の経済侵略に対する行動を調整するために、私が以前から主張してきた貿易のためのNATOの組織化を主導するだろう。そして諜報機関と国内法執行機関は商業諜報活動と対諜報活動を優先するだろう。

そのためには、ワシントンは人材を必要としている。国防、情報、外交政策に携わる公務員や政治任用者(political appointees)のほとんどは、これらの分野を専門とする一流大学を卒業している。しかし、現在アメリカの大学で経済戦争について教えているところはない。ワシントンは、この新興分野に特化した大学や職業訓練プログラムに資金を提供する必要がある。また、超党派の連邦上院議員グループが提案した「グローバル競争分析室(Office of Global Competition Analysis)」のような、米中両国の先端産業の強み、弱み、機会、脅威を評価する分析能力を大幅に向上させる必要がある。

最後に、政治的分裂(political divisions)を克服しなければならない。これまで連邦政府が経済戦争のために動員してきた範囲は限られているが、二大政党が優先してきた武器は異なっている。民主党は財政支出を行い、共和党は減税と規制緩和を行っている。もしアメリカの軍事政策が、一方の政党は海軍を、もう一方の政党は空軍を支持するというように二分されていたとしたらどうだろう。しかし、経済戦争に関しては、それがアメリカの現状なのだ。共和党と民主党がそれぞれの違いを脇に置き、同じ目標を抱くことで、アメリカを中国より優位に立たせることになるのだ。

※ロバート・D・アトキンソン:情報技術・革新財団創設者兼会長、ジョージタウン大学エドマンド・A・ウォルシュ記念外交学部非常勤教授。クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデン各政権で助言役を務め、最新刊『技術革新経済:国際的な優位のための戦い(Innovation Economics: The Race for Global Advantage)』を含む4冊の著書がある。ツイッターアカウント:@RobAtkinsonITIF

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。前回の続きです。

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新しく設置された中国委員会の委員長である共和党のマイク・ギャラガー連邦下院議員は「中国への経済的依存度を下げる必要がある。台湾を守るために、日付変更線の西側にある東アジアにおけるハードパワーを急増させる必要がある」と、連邦議会が始まる前の12月に語っている。ギャラガーは「中国共産党は今日の世界における我々の最大の脅威である」とも述べた。

一方、他の米連邦議員たちも台湾に出入りし、北京の当局者を激怒させるような出張を繰り返している。

その1人が共和党のトッド・ヤング連邦上院議員で、2023年1月に台湾を訪れ、蔡英文総統に面会した。「中国共産党が強圧的な態度をとり、更に強圧的な態度をとるという脅威がある以上、私のような者が、そのような事態に直面しても引き下がらないということを示すことは理にかなっている」とヤングは本誌の取材に答えた。

アメリカ軍やバイデン政権のトップは、中国が軍事的手段を使ってでも台湾の奪還を目指していると分析評価しており、今後2年から5年以内に紛争が起こると予測する者もいるが、こうした分析評価はワシントンの全員が共有している訳ではない。

そのため、アメリカは窮地に立たされている。公式には「一つの中国(One China)」政策を堅持しており、正式な外交上の承認は北京に限定し、台北を密かに支援するだけである。しかし、バイデンは様々なインタヴューで、この政策の厳しさを超えて、中国が侵略してきた場合、台湾を軍事的に守ると宣言している。

連邦議会議事堂から同様のシグナルが発信される中、中国ウォッチャーたちは、およそ50年にわたる中国との統合計画から歯車が狂い始めた瞬間を一つだけ挙げることはできない。しかし、それは一連の出来事であり、災難であり、不祥事であった。その一つが、ミシガン州出身の若い大学卒業生と120ドルの現金、そして「アマンダ」と名乗る女性だった。

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砂嵐の中で北京の天安門前広場をパトロールする警察官(2006年4月18日)

2009年12月、ミシガン州出身の28歳、グレン・シュライヴァーは、CIA入局の手続きを開始するため、ワシントンDCに出頭するようにとの知らせを受けた。上海に住み、教師として働いていたシュライヴァーは、過去4年間、アメリカの国家安全保障に関わる仕事を求め、CIAに応募する前にアメリカの外交官試験を繰り返し受験しては失敗していた。

シュライヴァーは、秘密情報機関の職への就職活動を通じて、ある秘密を持っていた。それは、中国情報当局が彼をスパイに仕立て上げていたことである。それは、上海に住んでいたシュライヴァーが、新聞広告に掲載された米中関係のレポートを書くという仕事に応募したことから始まった。「アマンダ」と名乗る女性から120ドルの報酬を得た。そこから、「アマンダ」と中国最高峰の国家情報機関である国家安全企画部の他のエージェントたちが、彼に数万ドルを支払い、国務省やCIAのアメリカ政府の仕事に応募させるようになったことは、アメリカの弁護士が後にこの事件に関する公開文書で詳述している。

シュライヴァーはアメリカで拘束され、最終的には中国のためのスパイ活動を企てたとして有罪を認めた。しかし、シュライヴァーの事件は、アメリカの国家安全保障と情報に関わる諸機関の世界に一石を投じるものとなった。中国がアメリカでのスパイ活動を活発化させていた。シュライヴァーは、2008年から2011年の3年間だけで、中国のためにスパイ活動を試みた容疑で連邦政府に起訴された約60人の被告の1人に過ぎない。情報機関や法執行機関の関係者にとって、シュライヴァー事件は、新たな、ますます攻撃的になる中国を象徴するものだった。しかし、政策立案者たちにとっては、その認識はずっと後のことであった。

シュライヴァーがFBIに逮捕されたとき、バラク・オバマ大統領はまだサニーランズで習近平と会談しておらず、当時のヒラリー・クリントン国務長官は、アメリカのアジアへの「ピボット」(U.S. “pivot” to Asia)を宣言してからまだ1年経っていなかった。

米中関係が破局に向かう運命にないことを示唆する外交的な取り組みもたくさんあった。中国は、オバマ大統領が2015年に締結したイラン核合意を後押しした。気候変動や北朝鮮の核兵器開発の終結に向けた協力を開始し、軍事面でもオリーブの枝を差し出した。2014年、アメリカは中国に対し、太平洋で毎年行われる大規模な多国籍軍事演習、通称リムパックへの参加を要請している。

しかし、ワシントンの対中タカ派勢力は、シュライヴァーの事件や他の有名なスパイ事件が少なくとも一因となって、経済・政治面での政策論争に影響力を持ち始めている。そして、習近平がその火に油を注いだ。

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左:2015年にワシントンのホワイトハウスにおいてバラク・オバマ米大統領が中国の習近平国家主席と握手

右:2012年に訪中期間中に中国の楊潔篪中国外交部長と会談するヒラリー・クリントン米国務長官

中国は2013年、ユーラシア大陸のインフラ整備、中国の過剰な経済力の輸出、新たな世界貿易ルートの接続を目的とした、後に「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」と呼ばれる数百億ドル規模の大規模な世界規模のインフラ投資プログラムを発表した。ワシントンの一部では、北京が地政学的影響力を得るために外国のインフラプロジェクトや公的債務を行使することを可能にする経済面におけるトロイの木馬(Trojan horse)になぞらえた。そして2015年、米人事管理局(U.S. Office of Personnel Management)は、中国のハッカーが2200万人以上のアメリカ連邦政府現職職員、元職員、内定者、そしてその友人や家族の機密データを盗み見たことを明らかにした。

中国はまた、現在争われている南シナ海で人工島を建設するキャンペーンを開始した。それは、この地域の重要な国際シーレーンを脅かす可能性のある軍事能力のある飛行場とインフラを積み上げた。コーネル大学教授で、米国務省の政策計画スタッフの元上級顧問であるジェシカ・チェン・ワイスは、「特にオバマ政権の終わりに向けて、南シナ海での中国の埋め立てについて、懸念が高まり始めた」と述べた。

国際サミットの外交用語が「温かい(warm)」交流から「重要な懸念(significant concerns)」についての「率直な(candid)」議論へと変化し、大国間の緊張の高まりをかろうじて抑えていたため、オバマと習の直接会談は2013年のサニーランズ会談以降、ますます冷え込むようになった。中国では、習近平の指導の下、反米主義やナショナリズムがより積極的に浸透している。リムパックに中国を招待するという親善的なジェスチャーでさえ、気難しい注文を伴っていた。中国はこの演習に4隻の船を派遣したが、招待されていないスパイ船1隻を静かに送り込んで偵察した。

2016年後半、オバマ大統領の任期最後の年になると、中国との一体化というアメリカの戦略の高い期待は、急速に薄れ始めていた。オバマは2016年9月、CNNで「国際的なルールや規範に違反していると見られる場合、私たちは非常に毅然とした態度で臨み、結果が出ることを彼らに示してきた」と語った。

米国防情報局の元中国専門家コール・シェパードは、習金平国家主席の前任者である胡錦涛の下では「経済とおそらく政府のさらなる開放と自由化の希望がまだあった」と述べた。シェパードは続けて「しかし、習近平の2期目の5年間の任期中、習近平が胡錦濤と胡主席の前任者である江沢民の自由主義的または開放の道を歩み続けるつもりがないことが明らかになった時、状況は変わり始めた」とも述べた。

オバマのCNNインタヴューの数日後、中国の杭州で開催されたG20会議では、中国当局は大勢の世界の指導者たちにレッドカーペットを敷いて出迎えた。しかし、中国当局は米大統領専用機(エアフォース・ワン)にローリング階段を送らず、オバマは飛行機の腹にある威厳のない整備用の入り口から飛行機を降りることを余儀なくされ、これは計算された外交的無視と見なされた。

カーネギー国際平和財団の理事長で、ジョージ・W・ブッシュ(息子)、オバマの両政権下で中国、台湾、モンゴル担当の国家安全保障会議(NSC)部長を務めたポール・ヘーンルは次のように述べている。「中国は南シナ海に人工島を建設した。中国は数千億ドル規模の知的財産のインターネット上での窃盗に関与している。中国は、市場や民間セクターを犠牲にし、より国家が主導し、国家が促進する経済に移行した。そのためにアメリカは様々な経済問題の解決に取り組むことができなかった。これらは全て米中間の現実的な課題として浮上したものであり、それはトランプが大統領就任前のことだった」。

次に起きることは事態を悪化させるだけであろう。

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2017年、北京の人民大会堂内でのビジネスリーダー・イヴェントに出席するドナルド・トランプ米大統領と習近平国家主席

デイヴィッド・フィースは、米中関係の大変化を直接目撃した人物だ。2013年から2017年まで、彼は香港の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙支局に勤務し、米中両国が経済関係を深めているにもかかわらず、中国の経済的台頭によって企業スパイが急増し、国家主導の攻撃的な貿易政策が主張されている様子を追跡していた。当時、米中二国間の貿易額は年間6360億ドルで、世界最大の貿易関係であり、アメリカの対中輸出は200万人近いアメリカ人の雇用を支えていた。

フィースはまた、アメリカから遠く離れた場所から、トランプの政治的台頭と、トランプをホワイトハウスに送り込み、ワシントンのエスタブリッシュメント(そして他のほとんどの人々)を唖然とさせた劇的な2016年大統領選を目撃した。トランプは、貿易や知的財産でアメリカを騙している中国を繰り返し非難することで、これまでの大統領とは一線を画していた。2016年の選挙戦では、「われわれは泥棒に盗まれた貯金箱のようなものだ」と言い放った。トランプ派「中国が私たちの国をレイプするのを許し続けることはできない。そして、それが彼らのやっていることだ。世界史上最大の窃盗だ」とも述べた。

トランプの鋭く露骨なスタイルがアメリカ本土の有権者の神経を刺激したのなら、それはワシントンにいた対中タカ派の若手クラスにとっても同じで、彼らはアメリカの対中政策が時代遅れの希望的観測であると見て苛立ちを募らせた。

中国は、その行動によって、「アメリカが主導する自由主義的な世界秩序の責任ある利害関係者(ステイクホルダー)になることを絶対に望んでおらず、事実、その秩序に敵対し、それを修正し破壊しようとしていることを証明した」とフィース氏は述べている。

フェイスはジャーナリズムからゲームに飛び込むことを決意し、2017年初め、トランプ政権に参加した。国務省の政策企画スタッフ(国務省の社内シンクタンクのような存在)の当時の責任者であるブライアン・フックによって国務省に引き入れられ、トランプの選挙運動のプラットフォームをアメリカの外交政策に変えるための作業を開始した。それは、アメリカの対中政策に関する数十年のコンセンサスを根底から覆すものだった。

トランプ政権は、徹底的な貿易戦争(trade war)で経済関係を破壊しようとするだけでなく、中国の通信大手ファーウェイに規制をかけ、台湾への武器販売を強化し、現在は廃止されている「中国イニシアティヴ」を立ち上げた。このプログラムは、知的財産の盗難を取り締まるために作られたが、アジア系アメリカ人の研究者に対する疑念と監視の目を向けるようになった。また、マイク・ポンペオ国務長官(当時)は、任期最後の日に、離任の挨拶の中で、新疆ウイグル自治区における北京の人権侵害は大量虐殺(ジェノサイド、genocide)に相当すると宣言した。

ハドソン研究所の上級研究員で、トランプ政権下で戦略担当の大統領国家安全保障担当次席補佐官を務めたナディア・シャドローは、製造業、防衛、人権の3つの主要分野を取り巻くアメリカ国内の不満や懸念の高まりが、全てトランプ政権下でこうしたシフトに収束したと指摘する。それは「何かが起きていることを知らす冷静な目覚めの音」であったと彼女は述べた。

(つづく)

(貼り付け終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 米中関係は以前に比べて悪化している。「米中戦争は起きるのか?」という疑問ではなく、「米中戦争はいつ起きるのか?」という煽動も入った疑問が出てくるようになった。米中戦争が話題になるというのはここ最近のことだ。米中関係の悪化を反映している。

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 米中関係(アメリカと中華人民共和国との関係)は1972年2月のリチャード・ニクソン米大統領の訪中によって始まった。ハイライトは毛沢東中国共産党中央委員会主席との会談だった。そのお膳立てをしたのがヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官と周恩来国務院総理だった。中ソ対立が常態化する中で、「敵の敵は味方」で、米中は関係を改善し、1979年に正式に国交が樹立された。1973年には北京に米中連絡事務所(U.S. liaison office to the People's Republic of China)が開設され、事務所長(director、特命全権公使)が派遣された。歴代の事務所長の中には、後に大統領となったジョージ・HW・ブッシュ(父)がいる(1974-1975年)。

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 国交正常化後、米中両国は基本的に良好な関係を保った。鄧小平の改革開放路線(1978年から)もあり、1980年代の中国は「自由化」「民主化」に進んでいるように見えた。アメリカ側は「中国を国際社会に参加させ、国際経済に参加させることで、更なる国内変革を促し、最終的には中国共産党による一党独裁体制を終わらせることができる」と楽観視していた。アメリカが中国に「関与(engagement)」することで、中国の体制転覆(regime change)を行えると考えていた。ソ連が崩壊し、共産主義の魅力もがた落ちとなった。中国はこのまま一党独裁体制から転換すると考えていたところに起きた(中国側から見たら起こされた、アメリカが起こした)のが1989年6月4日の天安門事件だ。これで米中関係は冷え込むことになり、「中国は経済面では改革開放を進め、社会主義市場経済を推進するが、政治体制は維持し、思想を強化する」ということが明らかになった。

 同時期、中国は高度経済成長の道を進み始めた。政治や思想面での党勢は強化されたが、経済に関しては、鄧小平の「先に豊かになれるものから豊かになる」という「先富論」に基づいて、「世界の工場」として中国は世界の製造業の基地となった。GDPはまさに倍々ゲームで拡大していった。30年余りで、中国は世界第2位の経済大国へと変貌した。

 中国が力をつけるにつれて、アメリカは危機感を持つようになった。アメリカの世界覇権が脅かされる事態が発生した。ソ連に勝ち、1980年代の日本の経済成長も押しつぶすことに成功したアメリカであったが、中国は難敵だ。中国はソ連と日本の成功と失敗を学んでいる。更に言えば、米ソ関係で言えば、アメリカとソ連の間には大きな経済関係がなく、アメリカは経済面を気にせずに、軍事面や政治面でソ連と闘い勝利することができた。日米関係で言えば、日本はアメリカの属国であり、日本を叩き潰すことは造作のないことだった。アメリカは中国との間に重要な経済関係を持つが、中国を自分たちの言いなりに動かすことはできない。

こうした中で、アメリカ国内で「中国脅威論」が台頭し、「中国をここまで育ててモンスターにしてしまった責任はキッシンジャーにある」という主張が叫ばれるようになった。米中関係は「関与」から「対立」に変化している。アメリカ国内には「中国脅威論」が蔓延しているが、これは恐怖感の裏返しだ。

「アメリカは世界覇権国の地位から脱落するかもしれない、次の覇権は中国になる」「米ドルが世界の基軸通貨の地位を失い、豊かな生活が享受できなくなるかもしれない」という恐怖感がアメリカ国民に真実味を持って迫ってきているのだ。そのために中国を叩き潰したいと思いながらも、その方策はない。戦争をするというオプションは選べない。そんなことをすれば、アメリカや世界の経済は甚大な損害を受けることになるからだ。世界は大きな転換期を迎え、世界は分裂に向かっている。米中は2つの陣営(西洋[the West]対それ以外の世界[the Rest])の旗頭として対立を深めていく。しかし、キッシンジャーが両者の間をつないでいるうちはまだ大丈夫だろう。彼が死んだあとはどうなるか分からないが。

(貼り付けはじめ)

ワシントンの対中タカ派勢力が勢いを得ている(Washington’s China Hawks Take Flight

-数十年にわたるアメリカの対中関与の物語が離別の物語に道を譲った。

ロビー・グラマー、クリスティナ・ルー筆

2023年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/15/china-us-relations-hawks-engagement-cold-war-taiwan/

バラク・オバマと習近平は、カリフォルニア州パームスプリングス近郊の高級保養地サニーランズを気軽に散策し、温かく友好的な米中関係を笑顔でアピールしていた。2013年夏、超大国と新興大国の間では物事が順調に進んでいるように見えた。

オバマは2期目の大統領としてかなり経験を積んでいた。中国の新指導者である習近平は胡錦濤から引き継いだばかりで、ワシントンではほぼ全員が習近平を米中関係における新しい、より希望のあるチャプター(章)の体現者だと見ていた。オバマ大統領は、中国との「新しい協力モデル(new model of cooperation)」について語り、アメリカは「世界の大国としての中国の継続的な平和的台頭(continuing peaceful rise of China as a world power)」を歓迎すると述べた。それは米中関係の新時代の幕開けだった。

実際にはその通りにはならなかった。

10年後、オバマと習近平がサニーランズで築いたと思われる友好関係は、完全に消滅した。中国国内では、習近平が中国を統治している中国共産党に対する、彼自身の権威主義的な権力を強固なものにしている。アメリカが大量虐殺とみなしている、新疆ウイグル自治区のウイグル族やその他の少数民族に対する徹底的な弾圧を行い、第二次世界大戦後最も野心的な軍拡を主導してきた。ワシントンでは、中国との関わりを長く支持してきたいわゆるハト派は、完全に脇に追いやられている。政治的スペクトラムがますます広くなっている中で、政策立案者や連邦議員たちは、あるコンセンサスでまとまっている。それは、「中国に対して厳しく接するべき時だ」というものだ。

ワシントンは、北京が自国の領土とみなしている台湾への軍事支援を強化した。米軍トップの司令官は最近、2025年までに台湾をめぐって中国と戦うことになるかもしれないと、各部隊に警告するメモを発表した。2月上旬には、中国のスパイ気球とされる飛行体がアメリカ大陸を横断し、ワシントンで政治的な大炎上、大きな非難を引き起こしたため、両国の緊張を緩和する目的の、ジョー・バイデン米大統領のトップ外交官(アントニー・ブリンケン米国務長官)による北京への訪問は中止された。ブリンケン国務長官訪中は大きな注目を集めていた。

連邦上院外交委員会の民主党議員であるクリス・マーフィー連邦上院議員は、「私が恐れているのは、中国との軍事衝突が避けられないかのように振る舞うことで、最終的にその考えが現実のものとなってしまうことだ」と述べている。マーフィー議員は「中国は台湾を侵略する決断をしていないが、アメリカが中国政策の全てを台湾政策に変えてしまえば、それが彼らの意思決定に影響を与える可能性がある」とも述べた。

リチャード・ニクソン大統領の対中関係開放に始まり、オバマ大統領の時代まで続いた数十年にわたるアメリカの関与の努力は、単に成果を上げることができなかったのだろうか? それとも、習近平の登場と、世界における中国の位置づけに対する彼の積極的で修正主義的なアプローチが、それを無意味なものにしてしまったのだろうか?

欧米諸国の議員や政策立案者、中国アナリストの多くは、関係悪化の責任を習近平の足元だけに押し付けている。

アジア・ソサエティの米中関係センター部長であるオーヴィル・シェルは、「私は、関与について言えば、瀕死の状態だと思う(deader than a doornail)。習近平の統治の大きな悲劇の1つは、事実上、習近平がそれを破壊し、実行不可能にしたことだと思う」と述べた。

しかし、対中タカ派が誕生したのは、ワシントンの政策立案マシーンにおいてである。そこでは、人気のあるアイデアはすぐに法律(canon)となり、議論の余地はほとんどない。

ジョージタウン大学教授で、オバマ大統領の国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)で中国、台湾、モンゴル担当ディレクターを務めたエヴァン・メディロスは、「このようなコンセンサスを得る度に、政権を支援し、長期的な競争に必要なツールを与えるのとは対照的に、政権を囲い込む反響室現象(echo chamber 訳者註:自分と似た意見や思想を持った人々が集まる場[電子掲示板やSNSなど]にて、自分の意見や思想が肯定されることで、それらが正解であるかのごとく勘違いする現象)に発展する危険がある」と述べた。

対中タカ派が隆盛する中、危機へのゆっくりとしたしかし着実な進展から逃れる術はあるのだろうか?

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1994年、北京にて、朱敦法・中国人民解放軍上昇と会見するウィリアム・ペリー米国防長官

1994年夏、ペリー米国防長官は、米中関係の将来について、米軍の最高幹部たちにメモを送った。そのメモの中で、ペリーは、中国について「急速に世界最大の経済大国になりつつあり、国連安保理常任理事国の常任理事国の地位、政治的影響力、核兵器、近代化する軍隊と相まって、中国はアメリカが協力しなければならない相手である」と書いている。

ビル・クリントン政権が北京とより緊密な関係を築こうとしていた頃、ペリーはその秋以降に中国を訪問する準備をしていた。1989年の天安門事件に端を発した中国政府による抗議活動への残忍な弾圧の後、関係は凍結されていた。ペリーは1994年のメモで、「中国との軍事関係は、米国防総省にとって大きな利益となりうる」と指摘し、中国側との会談を開始するよう各米軍幹部たちに指示した。

ペリーのメモは、その後数十年にわたってワシントンで主流となる、楽観的な関与(optimistic engagement)という視点を示したものである。慎重な外交と継続的な経済協力(careful diplomacy and continued economic cooperation)によって、アメリカは中国を新興のグローバル・パワーとしての役割に導き、第二次世界大戦後の国際システムに統合することができる、という考え方であった。冷戦は終結し、ソヴィエト連邦は崩壊していた。アメリカの政策立案者たちは、熊(ソ連)を倒すように龍(中国)を飼いならすことができると確信していた。

クリントン政権は、特に貿易においてアウトリーチ活動を開始した。これらはジョージ・W・ブッシュ大統領の下で頂点に達し、中国はついに世界貿易機関に加盟し、20年に及ぶ行進を開始し、いくつかの手段を用いて、世界最大の経済大国になった。

この発展によって、数億人の中国人が貧困から救い出され、歴史上最も目覚ましい経済変革の1つとなった。しかし、豊かな国の人々、特にアメリカの人々にとっては犠牲が伴った。彼らは、低コストの中国との競争によって世界貿易と製造業におけるシェアが徐々に食い尽くされるのを目の当たりにした。世界の GDP に占める中国のシェアは1990年の 1.6% から2017年には16% に急上昇し、アメリカの対中貿易赤字は3750億ドル以上に急増した。

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1998年、ビル・クリントン米大統領が楽団を指揮している間、妻のヒラリー・クリントンは江沢民国務院総理と会談

ペリーのメモの内容は、今日のワシントンでは異端となっている。連邦下院共和党は民主党の幅広い支持を得て、アメリカ政府の対北京戦略転換を監督する中国に関する特別委員会を設置し、国務省は中南米、アフリカ、中東などで経済的・政治的に拡大する北京の足跡を監視して鈍らせるための「中国専門部門(China House)」の構築に奔走している。バイデン政権は、ドナルド・トランプ前大統領の下で制定された貿易関税を維持するだけでなく、中国の技術に対する攻勢をエスカレートさせている。
(つづく)
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 リチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャーが米中国交正常化を成功させたのは1972年のことだった。ニクソンは北京を訪問し、毛沢東と会談した。米中国交正常化の根回しを行ったのが国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたキッシンジャーだった。ニクソンとキッシンジャーは中ソの離間に成功し、それが冷戦の終結につながることになった。
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 1970年代から80年代、アメリカの敵は「日本」となった。日本の経済力が高まり、「ソ連と戦っていたら日本という敵が出てきた」ということになった。アメリカは「反共の防波堤(bulwark against Communism)」として日本を復興させたが、それが行きすぎだったということになる。属国である日本を抑え込むのは簡単なことだった。日本は今や衰退国家となりつつある。

 アメリカは「中国に資本主義の素晴らしさを教え、貿易で中国の製品を買ってやることで製造業を育てて国民全体が豊かになれば、アメリカのようになってくれるだろう」ということで、中国を育てた。結果は、アメリカを凌駕するほどの成長を遂げた。

 このことについて、「キッシンジャーが中国という妖怪を生み出した」という批判がなされている。「こんなに難敵になるのならば育てるようなことをしなければよかった」ということになる。キッシンジャーに対するこうした批判はここ10年ばかりずっと続いている。しかし、それは何とも悲しい話である。「引かれ者の小唄」という言葉がある。この言葉は江戸時代に死罪を申し渡された罪人が刑場まで引き立てられていく間、強がって小唄を唄っていたというところから、「負け惜しみを言う」という意味になる。キッシンジャーに対する批判は「引かれ者の小唄」である。

 アメリカの馬鹿げた理想主義(民主政治体制、資本主義、法の支配、人権思想などを世界に拡大する)は時に思わない結果を生み出す。「アメリカみたいな国になってくれる」という馬鹿げた考えに中国が付き合う必要はない。人間関係でも同じだが、「こうして欲しい、こうなって欲しいと思っていたのに」ということは親子であってもなかなか通じない。中国が豊かになればアメリカのようになる、という傲慢な考えがアメリカ自信を苦しめている。そして、米中国交正常化を成功させたキッシンジャーに対する批判となっている。

 世界覇権は交代している。アメリカがそういうことを言うならば、イギリスにしてもフランスにしても同じようなことを言いたくなるはずだ。アメリカから聞こえてくる引かれ者の小唄は世界覇権交代の軋みの音なのかもしれない。
(貼り付けはじめ)
ニクソン財団、ヘンリー・キッシンジャーと中国:「大戦略の断絶」(The Nixon Foundation, Henry Kissinger and China: The ‘Grand Strategy disconnect’

ジョセフ・ボスコ筆

2022年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3744873-the-nixon-foundation-henry-kissinger-and-china-the-grand-strategy-disconnect/

第37代アメリカ合衆国大統領リチャード・ニクソンの業績を記念するために創設されたリチャード・ニクソン財団は最近、中国の歴史的なアメリカとの国交正常化50周年を祝った。

このプログラムは、「アメリカの地政学的課題に専心するための大戦略サミット」と題され、ニクソンの初代の国家安全保障問題担当大統領補佐官で2代目の国務長官ヘンリー・キッシンジャーの基調講演から始まった。司会は、キッシンジャーの後任として国家安全保障会議を主宰したロバート・オブライエンが務めた。

キッシンジャーは、ニクソンが大統領に就任したのは、ヴェトナム、中東、ソ連の問題に直面し、中国がアメリカとの関係から外れていた、アメリカの外交政策にとって慌ただしい時期であったと指摘した。

キッシンジャーは、ニクソンの戦略的ヴィジョンと戦術的柔軟性の組み合わせを大いに賞賛した。アメリカの外交政策に戦略的思考を導入することで、ニクソンはこれら全ての重要な問題を同時に進展させることができたのだ、とキッシンジャーは発言した。

キッシンジャーは、ニクソンが外交チームの主要メンバーに送ったメモを紹介した。メモには「それぞれの問題について、いわゆる利益だけを考えて処理するようなやり方は避けるように」と指示されていた。そうでなければ、「侵略者たち(aggressors)」は、アメリカの主要な関心事に集中するのを避けるために、政策担当者たちの気を散らすことを利用し、自分たちの目的に合うように平和的な話し合いから定期的な対決へと移行してしまうからだ。これは簡単な選択であるがよくないことだ。ニクソンは6年半の在任期間中、そのようなアプローチを採用していたとキッシンジャーは述べている。 アメリカの敵は、今日、この戦略を実践している。

キッシンジャーはニクソンの国家安全保障分野の最高責任者であった。従って、ニクソン大統領のアプローチの形成に重要な役割を果たしたのは明白だ。キッシンジャーは著書『中国について』の中で、この新しいアプローチについて「アメリカがリアリズムを発見した」と書いている。これはニクソンが国際関係におけるモラリスト(訳者註:道徳重視)として知られていた訳ではないが、リアリズムこそがアメリカ外交政策への貢献としては彼のトレードマークといえるものとなった。

しかしながら、キッシンジャーがニクソンの「顕著な業績(signal achievement)」と呼んだ対中国交回復については、少なくともキッシンジャーとの中国での共同作業以前は、ニクソン的対応そのものであった。共産中国(Communist China)に対してタカ派であったニクソンは、1967年の『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した記事「ヴェトナム後のアジア(Asia After Viet Nam)」で新しい考えを示した。ニクソンは「中国は世界の問題であり、責任ある態度で対処しなければならない」と述べた。当時の言葉を借りれば、「赤い中国(Red China)がアジアにとっての急迫した脅威なった」ということになる。ニクソンは次のように書いている。「赤い中国は、アジアにとって最も差し迫った脅威となった。長い目で見れば、中国を永遠に国際社会の外に置き去りにして、そこで幻想を膨らませ、憎しみを抱き、近隣諸国を脅かしている余裕はない」。

キッシンジャーは、自身の著書やハーヴァード大学での講義は、ソ連と核兵器に焦点を当てたものばかりで、中国やアジア一般には全く関心を示していなかった。ボストン周辺の大学の教授や学生たちがヴェトナム戦争について議論していた時も、「自分の意見は表明しないことを望む」と述べていた。

キッシンジャーの側近として中国プロジェクトに参加したウィンストン・ロードは、祝賀のシンポジウムに出席したウィルソン・センターの聴衆たちに、ニクソンの目的の歴史的な偉大さを見た時に、その一員になる機会に無条件で飛びついたと語っている。ニクソンは、中国との予備交渉の主役をキッシンジャーに命じると、その進め方について指導を行った。その内容は「アメリカが何をするかという点で、あまり積極的であってはならない。私たちは台湾から手を引くことになるだろう。そして、私たちはそれを行うだろう。また、別のことをやるだろう」。

しかし、結局、ヘンリー・キッシンジャーとウィンストン・ロードの2人のリアリストは、ニクソンが毛沢東に会いに行く前に、米第7艦隊を台湾海峡から引き揚げ、台湾からアメリカ軍を撤退させるということをやってのけた。

キッシンジャーの講演の後、ニクソン財団の次の講演者はロバート・オブライエンだった。オブライエンはジャーナリストのヒュー・ヒューイットとのインタヴュー形式で講演を行った。オブライエンは、中国を「今、私たちが直面している国家安全保障上の最大の脅威」と呼び、中国共産党は、台湾が中国国民にとって民主政治の具体例であることから「台湾を破壊したいのだ」と述べた。

オブライエンは次のように述べた。「私たちが中国に接近するのは非常に困難なことだろう。中国の知的財産の盗難に目をつぶれば、製造業をアメリカから中国に移転させれば、彼らの人権侵害に目をつぶれば、新疆ウイグル自治区のウイグル弾圧であれチベット併合であれ香港の民主政治の消滅や台湾に対する脅迫であれ、それら全て許せば、中国は貿易を通じて私たちのお金で豊かになり、より自由でより民主的に、より私たちに近くなるという考え方が存在した。彼らはキッシンジャー博士を愛している。しかし、私たちがどうにかして中国に近づき、中国が私たちのようになるという考えは、無邪気すぎる希望(naive hope)であることが判明した。私たちは中国のために多くのことを行った。そして、それらはうまくいかなかった、そのことを私たちは認識する必要がある」。

ニクソン自身も、結局は自分の関与政策(engagement policy)の失敗を認識していた。それは、ロナルド・レーガン、ドナルド・トランプ、そして現在のジョー・バイデン以外の全ての後継者が踏襲し、育んできたものである。しかし、ニクソンが「私たちはフランケンシュタインを作ってしまったかもしれない」と悔やんだずっと後に、中国との関わりを自らの特別な任務として主張したのは、キャリアの後半に中国との関わりを持つようになったキッシンジャーであり、キッシンジャーは今日もそれを主張している。

台湾について言えば、キッシンジャーは一度も訪問したことがない。キッシンジャーは1972年、毛沢東が台湾を奪取するための攻撃を「100年」延期しても構わないと考えていることを冗談交じりに非難し、2007年には中国が「永遠に待つことはない」と台湾の人々に警告している。一方、ニクソンは台湾を何度も訪れ、1994年には台湾の目覚しい経済・政治的発展から、「中国と台湾は政治的に永久に分離される(China and Taiwan are permanently separated politically)」と書いている。

キッシンジャーは、2018年にウッドロー・ウィルソン・センター・フォー・インターナショナル・スカラーズのために、もう一つの50周年記念で「回顧展」を行ったとき、より深く考え直す機会を得たのである。

ニクソンが「赤い中国がアジアにおける最も差し迫った脅威となった」と警告してから半世紀以上経過した後、キッシンジャーは無意識のうちに、関与政策の死角を突く言葉を口にした。「世界の平和と繁栄は、中国とアメリカが協力する方法を見つけることができるかどうかにかかっている。これは現代の重要な問題である」。

しかし、キッシンジャーの発言で最も注目され、明らかになったのは、この禍根を残しかねない展開に対する彼の説明である。「私たちは、米中両国は、政策の遂行において例外的な性質を持っていると信じている。私たちは民主的立憲主義(democratic constitutionalism)の政治システムに基づいており、中国は少なくとも孔子までさかのぼる進化と何世紀にもわたる独自の実践に基づいている」。これは、キッシンジャーの著作でしばしば繰り返されるテーマである。

しかし、キッシンジャーはどっちつかず(どっちもどっち)態度によって、ニクソンが自ら作り出した真の怪物と称した中国共産党には全く触れていない。 キッシンジャーは、今日に至るまで、マルクス・レーニン主義を問題と認識しておらず、オブライエンが「大戦略の断絶(Grand Strategy disconnect)」と呼ぶに値する、洗練され博識ではあるが無邪気さを体現している。

※ジョセフ・ボスコ:2005年から2006年にかけて米国防長官付中国担当部長、2009年から2010年にかけて人道的支援・災害復旧担当アジア・太平洋地域部長を務めた。ウラジミール・プーティンがグルジアに侵攻した際には米国防総省に勤務し、アメリカの対応について米国防総省の議論に参加した。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.

(貼り付け終わり)
(終わり)感情に振り回されるのが人間ではあるが少し冷静になって戦争の終わり方について議論することが重要だ

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