古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中国政治

 古村治彦です。

 

 今回は、中国の国際的な動きを分析した記事をご紹介します。タイトルに付けた通り、「既存の秩序をより良くする協力者となるか、新たな秩序を構築しようとする競争者となるか」が最大の関心ということになります。筆者自身は答えを出していませんが、私は、単純な二分法ではなく、この2つはそれぞれに当てはまると考えます。そして、前の記事でも書きましたが、中国が覇権国となる動きは止められないだろうと考えます。

 

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中国はどのようなタイプの大国になりたいのか?(What Type of Great Power Does China Want to Be?

 

ロバート・A・マニング筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/what-type-of-great-power-does-china-want-to-be/

 

 アメリカ、日本、その他の同盟諸国である世界の諸大国にとって、中国の台頭に対する懸念は1つの流れとなっている。中国は世界経済と既存の国際機関に積極的に参加している。しかし、既存の地域的、世界的秩序に挑戦することになる代替の組織を創設することで大国としての役割を果たそうとしている。ここ数カ月の一連の動き、その中でも特に気になる中東において中国が始めた積極的な外交姿勢は、中国の世界戦略を判断を下す際に、それを複雑なものとしている。

 

 ここ最近の数カ月、世界は、中国外交の興味深い、そして少なくとも戦術的な動きを目撃している。2008年以降、中国は「喧嘩腰」の攻撃的な外交姿勢を取ってきた。それが、より穏やかで友好的な関与へと変わってきている。その一例が昨年の9月に開かれた中国の習近平国家主席とアメリカのバラク・オバマ大統領との間で行われた首脳会談である。この会談で、習近平は、米中間の間で争いの種となっていたインターネット上の安全保障に関してアメリカと協力することを表明した。また、アジア地域に対してはこれまでの姿勢とは全く逆の姿勢を取るようになった。習近平は日本の安倍晋三首相と2度にわたって会談した。また、日中韓の三国メカニズムを復活させた。そして、ヴェトナム、フィリピンとの間の関係を正常化させた。習近平の行動の中で最も創造的で、前例のないものとなったのが、シンガポールでの馬英九台湾総統との会見であった。

 

 ヴェトナム政府とフィリピン政府は南シナ海の南沙諸島をめぐり中国と激しく争っている。中国は友好的な姿勢を打ち出す魅力攻勢を行っているが、これは、攻撃的な姿勢は意図とは逆の結果しか生み出さないこと、そして、アジア地域全体、日本やインドといった国々がアメリカとの同盟やそれぞれとの間の同盟を強化する動きを見せるという、アメリカに対して思いがけない利益を与えてしまっていることに中国が気付いたということを示している。習近平の外交攻勢策の中核をなすのは恐らく、彼のアメリカのアジアにおける「勢力均衡の再構築」に対応するためのユーラシア大陸を西に進むという「軸足の転換」ということである。: 「一帯一路」計画によって、中国は近隣諸国に対して気前の良い援助を行うようになっている。

 

 ここで大きな疑問がわいてくる。それは、中国の気前の良い外交は戦術的な転換に過ぎないのか、それとも中国中心の秩序作りという自分の能力を超えた課題を行うことは困難でありそこから方向転換した方が良いということに気付いたのだろうか、というものだ。

 

 例えば、中国が初めてアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提案した時に起きた懸念は、世界銀行、IMF、アジア開発銀行のようなブレトンウッズ体制を構成する諸機関に取って代わることを意図したものではないのか、というものであった。中国は、AIIBは、基準を共有できる世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなり、競争者にはならないと主張した。AIIBが正式に発足してから、しかし現在までのところ、答えは出ていない。

 

しかし、AIIB、BRICS銀行、上海協力機構、習近平が進める「アジア人のためのアジア」という新しい安全保障の枠組み、世界の準備通貨としての人民元、ボアオ・フォーラム(ダボス世界経済フォーラムの代替になる)の存在は、既存の世界秩序と競合するものである。これらは中国が恥辱の世紀を過ごした後に世界においてふさわしい地位を得ようとする努力を示すものである。

 

 それともこうした中国の動きは危険分散戦略に基づいたものなのだろうか?最近の一連の動きは別の流れを示しているとも言える。それは、改革された国際システムの中江中国は、経済的、地政学的な地位にふさわしいより重要な役割を果たそうとしているというものだ。その一例が、IMFにおける中国の役割の拡大である。IMFは最近、特別引出権(SDR)と呼ばれる様々な貨幣のバスケットに人民元を加えることを決定した。その割合は、アメリカ・ドルに次いで第二位(10.9%)となり、イギリス・ポンド、日本・円、ユーロを超えるものとなった。加えて、アメリカ連邦議会が最終的に2010年のIMF改革案を承認したことで、中国はIMFにおける投票権の割合を7.9%にまで拡大させた。

 

 中国は気候変動分野でアメリカと緊密に協力してきている。最近、パリで締結されたCOP21気候変動に関する協定においても重要な役割を果たした。中国は、アメリカとその他のG7諸国が受け入れられる合意内容を認めるように発展途上諸国に対して様々な働きかけを行った。気候変動に関するアメリカの交渉責任者トッド・スターンは後に、「中国以上に我々と協力した国は存在しない」と述べた。

 

 より興味深い動きは、中国が新たに中東全域でより積極的な外交を展開していることである。中国は、アメリカ主導の国際システムの中で、アメリカに対してタダ乗りをすることを中核的な外交指針として正当化してきた。ASEAN加盟諸国がそうしているように、他国の国内問題には不介入という原理を堅持してきている。しかし、2015年12月26日、北京でシリア政府関係者とシリアの反体制の各グループの代表者たちが一堂に会した。この時、中国はシリアの内戦の解決に貢献するという決意を内外に示した。シリア内戦では30万人以上が死亡し、数百万の難民がシリアから避難している状況だ。

 

 国連安全保障理事会は昨年12月に、シリアの和平プロセスの道筋を示すロードマップとなる決議を可決した。その直後、中国はシリア政府関係者を中国に読んで、和平プロセスについて協議した。この動きは、習近平が国家の最高指導者に就任して以降の、中国の積極的な外交姿勢の一環と言える。習近平は、中国の偉大な指導者であった鄧小平の遺した指導方針である「韜光養晦(低姿勢で長時間耐えて力を蓄える)」を明確に否定した。

 

 同様に、アメリカがアフガニスタンからの撤兵を進めている中、中国は、タリバンとアフガニスタン政府との間を仲介しようとしている。中国はより積極的な役割を果たそうとしている。10年前、アメリカと同盟諸国はアフガニスタンで戦った。この時、中国は傍観者としての立場を崩さなかった。そして、アフガニスタンの鉱物生産分野に数十億ドル規模の投資を行い、目立たないようにして利益を得ていた。

 

 中国が中東で果たす役割は大きくなっているが、これは国際社会における地位を高めたいという希望だけではなく、中東における経済的利害が大きくなっていることを反映している。中国は国内で消費する石油の60%を輸入に頼っている。そのほとんどは中東から輸入している。中国の国有石油企業は各社とも中東、特にイラクとイランにおいて油田やガス田に対して積極的に投資を行っている。

 

 中東における中国の新たな積極的外交姿勢は良い結果を生み出すかと言うと、それは難しいと言わざるを得ない。シリアで始まっているが、中東での政治プロセスは大変に難しく、骨の折れるものとなるであろう。そして、イラン、ロシア、サウジアラビアといった内戦に介入している諸大国がそれぞれ受け入れることが出来る結果となるものが生み出されるまで、中国が主導しての内戦終結は難しい。同様に、アフガニスタンにおける内戦状態も終結の気配を見せていない。実際のところ、状況はより複雑化している。それは、イスラミック・ステイト勢力が争いに加わっているからだ。更に言うと、争いが絶えないこれらの地域における中国の影響力は現在のところ限定的なものにとどまっている。

 

 しかし、重要な点は、シリアとアフガニスタンでの中国外交は、アメリカの外交政策に沿ったものとなっているということだ。中東では、複雑に入り組んだ形で民族と宗教を基にした争いがこれからの10年も続くであろうと考えられている。そして、中国がこれからも新しい外交姿勢を堅持すると仮定する。そうするとその結果は、アメリカ外交にとって悩ましいものを中国が肩代わりしてくれるということになり、望ましいということになる。

 

 より大きな疑問は、中国の中東におけるより積極的な動きから、中国の世界システムに対する意図を読み取ることが出来るか、何か結論めいたものを導き出せるのか、というものである。それ以外にも様々な疑問がわいてくる。中国は、既存のシステムの中で更なる力を自国に与えてくれる現在の流れをそのまま受け入れるだろうか?それもと、中国の積極的な外交姿勢は、見直された、中国主導の秩序構築に向けた踏み石なのであろうか?AIIBは世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなるのか、それともその懸念は解消されていない競争者となるのか、どちらだろうか? 南シナ海における争いにおいて中国は妥協の方向に進むのだろうか?中国政府は、アメリカとの間で二国間の投資協定を結び、国内最優先の政策からアメリカ企業が中国市場に参加しやすくするだろうか?また、その中でも特に気になる疑問は、中国は争いが起きやすい分野である、インターネット、航空、宇宙、海上において、国際的な規範を受け入れるだろうか、というものである。

 

 アメリカと日本にとって、何が中国の意図を示す重要な指標となるのかを決定することは重要だ。これまで述べてきた諸問題は、そうした指標策定の手始めとなる。中国の動きのいくつかは、アメリカが推奨している、国際システムにおける「責任ある利害保持者」としての動きとしてはふさわしくないものであるように見える。中国の積極的な動きは、既存の秩序の見直しを求めていることを明確に示している。しかし、現在の時点で、何か結論を出すということは困難である。それは、状況は複雑であることを示しているからだ。この複雑な状況はこれからの20年の間にはっきりと理解しやすいものになっていくだろう。

 

(終わり)

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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 カナダ生まれで現在、北京の清華大学で教鞭を執るダニエル・A・ベルが『中国モデル』という本を出版しました。この本の中でベルは、西洋型の民主政治体制で行われている選挙による政治指導者選びよりも、試験を基にした「実力主義」の選抜の方が優れており、それが中国をここまで発展させた要因だと主張しています。
 

 最近の日本の政界を見ていても、「政治家は選挙に出る前に試験を受けて合格した人だけ選挙に出て欲しいな」と単純に思ってしまうような事件や出来事が多く起きています。首相を含めて「家計や出自以外に取り立てて優れた点がないのに、どうしてこの人が政治家をやっているんだろう?」と思う人が多数政治家をやっています。こうした憤懣や疑問は、民主政治体制には付き物のようです。

 


 政治指導者の選び方は古代から続く人類の悩みのようで、家系や血筋のような伝統的な決め方から選挙(これも間接、直接と分かれますが)による決め方に移っています。この本の書評をやっている人たち(共に西洋民主国家に暮らす人々)は、ベルの本の内容に大変批判的です。

 

私がこれは言えるなと思っているのは、ある家系や人物がずっと政治権力を握り続けることの危うさです。日本では民主的な選挙が行われていますが、「地盤、看板、かばん」と呼ばれるように、地元との関係、知名度、おカネの面から、世襲、それも三代目、四代目の政治家たちが多くなっています。戦前からの家系もありますから100年近く政治家家系となっている家もあります。中国の最高指導者層は、人民の選挙で選ばれるわけではありませんが、共青団系と太子党系の2つの流れがあって、牽制し合っています。そしてある家系やグループに権力がずっと握られないようになっています。指導者層の交代があるかないか、ここが重要なポイントだと思います。

 

選挙があっても「選挙に落ちることなんてないや」と我儘勝手にできることが民主的ではありません。そして、こうした構造を作り出しているのは私たち有権者側に民主政治体制に対する理解が欠如していること、そして政治と自分たちの関係についての考えが前近代的、封建的であることが理由だと思います。

 

 前講釈が長くなりましたが、是非読んでみて民主政治体制についてお考えいただければと思います。

 

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書評:『中国モデル』(ダニエル・ベル著)

 

評者:ギデオン・ラックマン

2015年6月19日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/6105bd40-15a4-11e5-8e6a-00144feabdc0.html

 

中国の成功によって、中国の統治システムは自由主義的民主政治体制より上だということになるのか?

 

 孫文は1912年に新帝国の崩壊後の中国初の総統に就任した。彼はアメリカの民主政治体制にそこまで感心していなかった。「アメリカの連邦下院議員の連中ときたらアホで、何にも知らない奴らばかりだ」と不平を漏らしていた。この孫文が行った評価は現在のアメリカ国民の多くも同意するものであろう。

 

 この問題を解決するためとして、孫文は選挙によって選ばれる公務員は全員、地位に就く前に試験を受けてそれに合格した人のみが実際に地位に就くようにすべきだと提案した。この提案は実際に提出され検討されなかったが、これは長きにわたる中国の伝統に影響されている。この伝統とは、「役人は人気ではなく、“実力”を測るための厳しい試験を通して選ばれるべきだ」というものだ。

 

 本書『中国モデル』の著者ダニエル・ベルはカナダ出身の政治哲学者で北京の清華大学で教鞭を執っている。彼はこの中国の伝統に深く影響されている。彼は最新刊の中で、中国式の実力主義に基づいた統治システムは、重要な諸点において、西洋諸国の自由主義的民主政治体制よりも優れた統治システムだという野心的な主張を行っている。

 

 本書『中国モデル』は中国国内のリベラル派を仰天させ、西側諸国の主流となる意見に賛成の人々を怒らせることだろう。この本は一党支配と政治的な抑圧を正当化するためのものだと見る人たちもいるだろう。しかし、本書は常識的な思考に挑戦する根源的な問いを発する学術的な仕事の成果である。ベルはこの役割を適切にこなしている。明瞭で、専門用語を使わない文章で、現代中国の経験を通して、読者を政治哲学の最も根源的な疑問にまで誘うことに成功している。

 

 ベルが明確に書いているように、プラトン、ミル、ハイエクのような西洋の重要な思想家たちの中には、実力主義に基づいた政治に魅了されていた。自由主義的民主政治体制が知的な世界で一種の覇権を握ったのは比較的最近のことに過ぎない。その結果、指導者を選ぶ際に選挙以外の方法があるのではないかと議論することはなくなってしまった。

 

 『中国モデル』はこの議論を再開させようと試みている。この本はまず2つの前提から論を始めている。1つ目は、「西洋の民主政治体制諸国における統治の危機」であり、2つ目は、中国は経済的に大きく発展しているが、これが示しているのは、中国がより良く統治されているということ、である。これら2つの前提に対しては反論もある。しかし、これら2つの前提について読者にそうだと納得させるだけの事実も存在している。それらは、ワシントンの機能不全、ユーロ危機、中国における貧困の大幅な減少である。

 

『中国モデル』の前半部では、民主政治体制の抱える哲学上の及び実践上の弱点の明確な分析がなされている。この部分は私が最も納得できた部分である。例えば、選挙で選ばれた政治家たちは有権者たちの利益を重視しているというのは明確な真実だ。しかし、未来の世代の利益を損なう可能性はある。例えば、現在の政治家たちは現在の有権者たちによって、気候変動や年金の問題を先送りしてしまうのである。孫文が述べたように、西洋型の民主政治体制は、重要な地位にアホや間抜けを据えてしまう危険性を抱えている。

 

 この西洋型の民主政治体制に対して、ベルは理想化された「中国モデル」を対置させている。この中国モデルでは、社会における最も能力の高い人々を、試験を通じて選抜して国を動かしてもらうとなる。彼らの業績は、地方の低いレヴェルから始めて長い年月をかけて様々な地位を経験することで測定される。地方の指導者の地位まで行くことで、その人物は、良いアイディアを持ち、良い指導者になれるというお墨付きを得ることが出来、そして中央に進むのである。このシステムによって、中国は諸問題を解決し、経済発展を達成している。そして、その結果として、一般の人々から見て、指導者たちの統治には正統性があるということになる。

 

 ベルの本が難しいのは、彼が学問的に誠実すぎる故に起きているのだ。彼の本の大部分には、実力主義に基づいた政治に反対する主張を取り上げている。そして、ベルは、これらの反論の多くもまた正しい点を含んでいることを分かっている。民主的な制度城のチェック機能が欠如していることで、汚職が蔓延することになる。しかし、ベルも指摘しているように、民主国家インドでは汚職問題を解決できてはいない。実力主義に基づいて選抜されたエリートたちもまた傲慢になり、自己利益追求になってしまう。試験に合格するための能力と複雑な問題を解決する能力を持つ指導者が、人々への共感と高い独特性を併せて持つとは限らない。

 

 経済的な統計数字によると、現在の中国はより良く統治されている。しかし、ベルが認めているように、他の指標は良くない数字を示している。彼は残念そうに次のように書いている。「汚職、貧富の格差、環境汚染、政治家たちの権力の濫用、政治的に反対の主張を持つ人々に対する厳しい対処は、政治システムがより実力主義的になればなるほど、より激しくなっているように見える」。

 

 中国が実力主義に基づいた政治だという考えに対しては明確な反論が存在する。それは、現在、中国の最高指導者となっている習近平の父親は毛沢東と親密な側近であった、というものだ。ベルは、習近平とその他の「太子党」(中国共産党最高幹部の子孫たち)の人々の台頭は、1990年代初めの統治機構改革の前に始まっていたと答えている。この改革によって党幹部の選考の基礎に試験が置かれる制度が復活したのだ。

 

 しかし、太子党の台頭に関するこの説明は論理的な矛盾を抱えている。中国の実力主義に基づいた政治によって、1979年からのこれまでの急速な経済発展が達成されたという主張がある。しかし、ベル自身の説明では、適切な実力主義が回復したのは1990年代初頭であって、結果としてその効果が出てくるのはそれから更に数年はかかることになる。従って、現在までの中国の急速な経済発展は、統治における実力主義システムの結果ではないのではないだろうか?

 

 ベルは、彼が好んでいるシステムをじっくりと分析した結果として、躊躇しながらであるが、西洋型の自由主義民主政治体制をしっかり検討しようという考えに戻っている。政治指導者たちが生き残りのために暴力以外のものに頼ろうとすれば、それは正統性ということになる。ベルは本の中で、「実力による選択と経済成長があったとしても、中国の政治指導者たちの正統性は将来において長く担保されるものではない」と結論付けている。その理由として、彼らに対する支持は突然の危機的状況によって覆される可能性があるということが挙げられる。ベルが提案している解決策は、中国人民に向かって、指導者の選出は実力が良いか、それとも定期的な選挙が良いかを問う一回限りの住民棟梁を行うことである。

 

 この提案は独特であるが、中国のリベラル派やリスクを取ることを嫌う中国共産党の指導部からは支持を得られるだろう。

 

 私は『中国モデル』が提案している政策のアイディアに納得していないが、ベルが提示したいくつかの疑問は刺激的であると思う。格差の拡大、エリート主義の蔓延、政治におけるお金の役割といった現代中国が直面している諸問題に関する彼の分析は、奇妙なほどに親しみやすく、理解しやすい。もしかしたら、アメリカと中国は私たちが考えているよりも、より多くの共通点を持っているのだろうか?

 

(終わり)

 

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小さな政治を賞賛する(In Praise of Petty Politics

―現代のアメリカ人はジェファーソンやリンカーンのような人物が選挙に出てきても、投票してホワイトハウスの主にしないかもしれないが、少なくとも民主政治体制は私たちに選ぶ機会は与えてくれている

 

フェリペ・フェルナンディス=アルメスト筆

2015年6月8日

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

http://www.wsj.com/articles/in-praise-of-petty-politics-1433804916

 

 「会議にはちゃんと出て下さいね?」と私は言われた。私は会議に出るのが嫌だった。「私がいなくても最高の決定が下されると信じています」と私は答えた。 学部長は険しい顔をしていた。「アメリカでは何でも民主的に決めるんですよ。会議に出席してご自分の考えをはっきりと述べて下さいよ」と学部長は言った。私がアメリカの大学で教える最初の日の出来事であった。同僚たちは会議で学部長の提案について議論した。1時間以上も議論をした後、ある参加者は自分が行った提案に反対するかのような発言をするようになった。私は驚き、私はそのことについて説明を求めた。学部長は「そうですね、彼自身が自分の出した提案の欠点を見つけたということなんでしょうね」と答えた。最終的に、私はアメリカにおけるデモクラシーの何たるかを知った。立法府の議員たちは都合の良いように選挙区の区割りをし(ゲリマンダー)、行政府は金権まみれであるが、デモクラシーにおける誰でも意思決定へ参加でき、議論ができるという柱は、地域、学校、職場などで息づいている。

 

 ダニエル・A・ベルはこのことに気付いていないようだ。彼は最新刊で、アメリカ・モデルをけなし、鄧小平から習近平までの中国の政治家たちが作り上げた、卓越した統治方式を評価している。彼の視点ではこれは「賞賛に値する」ということだ。彼は「民主政治体制はこれからも実力主義に基づいた政治よりもより良く機能するだろう」という考えに疑問を呈するために『中国モデル』を書いた。

 

 『中国モデル』の中で、ベルは、「中国に対しては権威主義的な悪評があるが、中国の統治においては“下部のデモクラシー”が存在し、それが中国の統治を強化している。“村落委員会”」は村民のイデオロギー教育と監督の責任を折ってはいるが、高次の当局によって政治的な諸権利は奪われている。ベルが賞賛している村落委員会は民主的な偽装を施され、抑制されている。そして、中国共産党の官僚たちと政府によって抑えつけられていることに、村落委員会は不満を持っている。それでもベルは、「中国の大きな変化の真の理由は、中央政府が地方の諸問題にはタッチしない方針を取っていることである」と述べている。

 

 ベルが中国で「最も高いところ」に位置付けている実力主義に基づいた政治も、彼自身が認めているように、欠点だらけであり、ベルが好む言い方だと「十分に発達していない」となる。政治指導者たちの「選抜と昇進は、政治的な忠誠心、社会的なつながり、家族の背景によってなされている」のである。中国の指導者選出は実力主義的ではなく、官僚主義的である。実力による振るい落としと言うよりも、試験による選抜が基にあり、汚職と親分子分関係に基づいた行為である。私たち学者の殆どがそうであるが、ベルは勉強ができて試験が得意だったのだろう。しかし、彼は自分自身が実力や「政治において重要な知的水準」を分かることが出来る能力を持つと考えているようだが、その点では、底抜けの楽天家のアホだと言うしかない。ニコラ・サルコジは下級官吏がラファイエット夫人の小説に関する知識を持つことの有効性について質問された時、試験は、階級や文化の背景を持つ人物たちが権力に近づくための道になると非公式に答えた。試験はうまく設計すればテクノクラートの採用の役に立つだろう。しかし、ベルが追い求める「能力」「感動的な知性」「社会生活を送る上での技術」「徳」の質は現場以外ではテストをして測定することはできない。

 

 ベルが何度も賞賛しているシンガポールにおいてさえ、指導者たちは「良い価値観や気概、徳を基にして選ばれてはいない」のである。「中国は高度の政治的な正統性(人々が政府は道徳的に正しいことをしていると考えること)を有している」と書いてあるのを読んだ時、ネヴァーランドや北朝鮮でもそうだろうと感じた。ベルが主張するモデルは、中国にも、シンガポールにも、歴史上にも実際に存在したことはなく、彼の頭の中にだけ存在するのだ。彼の頭の中にある国はさぞかし素晴らしいだろう。

 

 ベルは民主政治体制のどの点よりも正義の点を嘆いている。そうなのだ、有権者たちは愚鈍で、腐敗しており、騙されやすくかつ我儘だが、選挙に立候補する人々もまた道徳的には酷いもので、機会主義的だ。多くの有権者を長期間欺くことは可能だ。そして、世界で最も強烈な諸問題は孤立無援の民主政治体制では解決できないのは真実だ。なぜなら、七面鳥は感謝祭のために投票しないからだ。人間は将来の世代や地球、消費の削減のためには投票しないし、耐久生活も嫌いだ。一方で、民主的に選ばれた指導者は独裁者たちに比べて戦争を始めにくいし、有権者が指導者たちの不正や無能力を発見したら、権力を取り上げることが出来るのが民主政だ。現代の選挙にトマス・ジェファーソンが出てきたとして、私たちは彼に投票せず、大統領に選ばないかもしれないが、民主政治体制は少なくとも選ぶ機会は与えてくれる。私たちはチャーチルのような傑出した人物ではなく、チェンバレンのような人物を選ぶことが多いかもしれないが、偶然でもチャーチルのような人物を選ぶこともある。

 

 ベルは、「中国は、比較可能な規模を持つ民主政治体制を持つ国々と比較して、より良く統治を行っている」と主張している。厳格に言えば、そのような国は確かに存在しない。アメリカを除いて、そしていくつかの経済的な指標を基に判断し、自由、人権、自己実現、環境を重視しなかったら、ブラジル、インド、インドネシア、フィリピンといった、複数政党制の民主政体を採用する人口の多い国々は経済発展の点で、中国と比肩しうる存在である。ベルは、アメリカン・ドリームについて批判的に見ている。アメリカ人は、アメリカン・ドリームという言葉によって、腐敗や不誠実なことをしなくても、「貧しさからスタートして豊かになることが出来る」と希望を持っているが、それは騙されているのだとベルは言う。確かにそうだが、少なくともディズニーランドにおいてはそんなことはない。

 

 ベルの中で致命的に認識が欠落しているのは、法の支配と独立した司法府が立法府と行政を抑制している限り、民主政治体制は村落の機構だけではなく、一国の中央政府においても導入可能な点である。ベルは、「民主国家においては、司法の専門家たちは、民主的に選ばれた指導者たちに間接的に説明責任を果たせねばならない」と考えている。しかし、彼の考えは大きな誤解を生むことにつながる。アメリカにおいては判事の中には民主的に選ばれる人たちもいるが、高次の裁判所において例外が影響力を持つことはない。イギリス、ドイツ、アメリカの立法府の議員たちは裁判官を罷免する力を持つが、これまでその力が実際に行使されたことはない。

 

 とにかく、プラトン流の万能な保護者ではなく普通の人々、超人や聖人ではなくサバルタン(従属的社会集団)を政治指導者に選んで何が悪いのか?徳は結婚関係において重要であるが、政治支配者にとっては曖昧なものである。マキャベリが述べたように、政治支配者は良い人間であるべきだが、必要なときには残忍なことをしなければならないのだ。神は私たちが知的にもそして物理的な力の面においても過剰にならないようにして下さっている。私たちごく普通の臣民や国民がそれに反対し対抗することが出来るだろうか?

 

※フェルナンデス=アルメストはノートルダム大学教授で数冊の本を出版している。最新刊『私たちのアメリカ:アメリカ合衆国におけるヒスパニック史』。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は習近平国家主席が慣習を破って2022年以降も権力を握り続けるのではないかという内容の記事をご紹介します。この記事を読むと、「習近平が独裁者となるのか」と思わされますが、国際情勢で考えますと、2017年からアメリカはヒラリーが大統領になって2021年までやる訳ですが、その間にどういう「大きな戦争」を東アジアに仕掛けてくるか分かりません。彼女は国務長官時代には「アジアへの回帰(Pivot to Asia)」路線を打ち出したこともありますし、それに対応するための非常的措置ということも考えられるかと思います。また、世界の覇権がアメリカから離れていく時期に、中国国内をしっかり固めておきたいという考えもあるのではないかと思います。

 

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習近平は永遠に(Xi Jinping Forever

―中国の力を増しつつある国家主席・習近平は伝統を破壊し、彼の支配を永続させようとしているのか?

 

ウィリー・ラム(Willy Lam)筆

2015年4月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/04/01/xi-jinping-forever-china-president-term-limits/

 

 外国の専門家、そして中国国内の専門家は、中国の最高指導者習近平(Xi Jinping)の中国共産党にショックを与えて体制を刷新する巧妙な手腕に驚いている。彼は党、国家、軍の権力を自分に集約しているように見えるがこれもまた人々を驚かせているに違いない。彼が最高指導者の地位に就いて2年半経ったが、国家の最高指導者の支配する期間は10年という制限を壊し、ここ最近のどの指導者よりも長い期間中国を支配しようとしているように見受けられる。

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習近平 
 

 中国共産党最高幹部に近い3人の人物に取材をしたところ、習近平と彼の側近たちは、習近平が少なくとも2027年までは中国を支配できるようにするための計画を立てているということだ。2027年の段階では彼はまだ74才であり、健康であると思われる。

 

私が取材した3名は全員が匿名を希望した。それはエリート政治を議論することはとても微妙なことであるからだ。そのうちの1人は次のように語った。「習近平は党・国家・軍を全て一手に支配している。そして、現在のところ、彼の後継者と目される人物は出ていないし、その人物を訓練しているということもない。この事実が示しているのは、彼が2022年に中国共産党中央委員会総書記の地位を退くことに影響されることなく、それ以降も中国の最高指導者の地位に留まり続けるということである」。習近平の計画は、ライヴァルたちからの反撃、国際社会や国内の危機、健康問題などで覆される可能性もあるが、彼が出来るだけ長く権力の座に就こうと計画しているのは明らかである。

 

 習近平は10年を超えて中国を支配したいと望んでいる。彼の願いを如実に表しているのは、彼が公式の場で自分の後継者となりうる人物を明らかにすることを拒んでいることだ。中国では一般的に、指導者たちは世代によってくくられる。習近平は第五世代に属している。この世代は1950年代に生まれた人々である。そして、習近平は第六世代、もしくは第七世代から後継者を選び出していない。

 

 それでは、習近平の前任者であった胡錦濤(Hu Jintao)の行動について考えてみよう。1942年生まれの胡錦濤は、第四世代の中心的な人物で、2002年から2012年まで中国共産党中央委員会総書記を務めた。1992年にエリートである中国共産党中央政治局常務委員に就任してすぐに、胡錦濤は、習近平(当時は浙江省党委書記)と李克強(Li Keqiang、現・国務院総理で当時は遼寧省党委書記)を含む第五世代の人々を25名の最高幹部で構成される、中国の統治機関である中央政治局に昇格させた。胡錦濤はまた下級の幹部たちも昇進させた。1990年代半ばまでに、第五世代に属する20名ほどの若手のスターたちが各省の副部長以上の地位に就いた。

 

 2007年の第17期中国共産党大会(党大会は5年おきに開催される重要な会議)までの時期に、胡錦濤は30名ほどの第六世代の若手のスターたちを選別し、重要な地位に昇進させたことも見逃せない動きであった。

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胡錦濤、江沢民、温家宝

 

 2005年までに、胡錦濤と江沢民(Jiang Zemin)は、習近平と李克強を、胡錦濤と当時の国務院総理である温家宝を後継者として中国共産党中央政治局常務委員会に入れることを決めたのは明らかであった。そして、2005年末までに、第六世代の20名ほどが各省の副部長以上の地位に昇進した。

 

 支配エリートに新しい血を入れるという中国共産党の伝統に習近平が従うならば、2015年末までに、第七世代の20名ほどを各省の部長、副部長級にまで昇進させているはずである。しかしながら、習近平が2012年11月に党総書記に就任して以降、第七世代では1人だけ、上海市副市長の時光輝(Shi Guanghui、1970年生まれ)だけが副部長級の地位に昇進した。習近平が2015年中にこの他の指導者たちを昇進させる可能性は低いと見られている。

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 時光輝
 

 習近平はもう一つの不文律を破ろうともしているようだ。1980年代末から、中国共産党の最高幹部は非公式ではあるが、「七上八下(七は入れて八は出す)」政策に従ってきた。67歳までの最高幹部は中央政治局常務委員会に入ることが出来るが、68歳以上の人物は入ることが出来ない。5年に1度開催される党大会で、その時に68歳以上の中央政治局常務委員は引退すると予想され、68歳以下の人物は地位に留まる。現在の中央政治局常務委員7名のうち、習近平と李克強を除く5名は2017年までに68才を超えるので、その時の党大会で引退することになる。しかし、その5名の代わりに誰が中央政治局常務委員会に入るのだろうか?

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栗戦書

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王滬寧

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趙楽際

 

 取材に答えてくれた3名の匿名の中国共産党関係者たちは、習近平の信頼の厚い第五世代に属する3名の人物が2017年に中央政治局常務委員に昇格するだろうと語った。その3名は、栗戦書(Li Zhanshu、1950年生まれ)、王滬寧(Wang Huning、1955年生まれ)、趙楽際(Zhao Leji、1957年生まれ)である。更に重要なことは、現在の常務委員であり、腐敗根絶の責任者である王岐山(Wang Qishan、1948年)はそのまま地位に留まる可能性が高いことだ。王岐山は習近平と同じ太子党であり、2人は1950年代からの友人であるが、2017年の第19期中国共産党大会の段階で王岐山は69歳となっている。取材に答えてくれたある人物は、2022年の第20期党大会まで第五世代は党指導部の防波堤として留まる可能性が高く、そうなると、習近平は少なくとも2027年の党大会までは現在の地位に留まろうとしているということになる。

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王岐山

 最高指導者は10年間しかその地位に留まれないという不文律がある中で、習近平はこの確立された伝統をどのように避けようとしているのか?

 

 中華人民共和国憲法は、国務院総理を含む、各省の部長が10年以上地位に留まることを禁止している。しかし、中国共産党の憲法である党憲章には、各省の部長級以上に相当する党の役職の就任期間の制限について明文化された規定は存在しない。その代り、1980年代から90年代にかけて中国の最高指導者であった鄧小平(Deng Xiaoping)が確立した不文律があり、それによると、中央政治局常務委員は10年以上その地位に留まれないことになっている。

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鄧小平

 

 しかし、習近平は国家主席の座を降りてもなお国のトップであり続けることは可能なのである。中国では、中国共産党と政府の組織は並行して存在しているが、実質的には、党が政府に対して優越し、コントロールしている。例えば、湖北省の最高責任者は党委書記である。省長は2番目にランクされる。国政レヴェルでもこれは同じだ。習近平が持つ3つの肩書、国家主席、中国共産党中央委員会総書記、中国人民解放軍を統括する中国中央軍事委員会主席のうち、中国共産党中央委員会総書記の地位が最も重要なのである。

 

 中国共産党中央委員会総書記の地位に留まる以外にも、習近平には他の選択肢がある。1つのシナリオとしては、毛沢東の遺風を弱める一環として鄧小平が1982年に廃止した、中国共産党中央委員会主席の地位を復活させ、自分が主席に就任することがある。これが実現すると、未来の総書記は主席である習近平に従わねばならなくなる。

 

 もう1つのシナリオとしては、中国共産党中央委員会総書記と国家主席を退任しても、中央軍事委員会主席には留まるということが考えられる。これにはいくつかの前例がある。1980年代、鄧小平は中央軍事委員会主席の地位に就いて、中国を支配した。また、江沢民は国家主席を退いてからの2年間、中央軍事委員会主席の地位に留まって影響力を保持し続けた。

 

 2013年末、権力を掌握してから1年後、習近平は党の最高指導部の中に2つの大きな力を持つ組織、中央国家安全委員会と中央全面深化改革領導小組を作った。この2つの組織はそれぞれ、半警察国家と経済政策を一手にコントロールしている。習近平が中央軍事委員会とこの新たに創設された2つの組織の主席に留まるならば、誰が中国共産党中央委員会総書記になろうとも、習近平に従属しなければならない。

 

 もちろん、習近平の権力掌握と彼の徹底した反腐敗キャンペーンは、党内のライヴァルたちの反撃を呼び込む可能性も高い。また、彼が国内政策と外交政策を全てコントロールするとなると、国内や国際社会で予期できない危機が起きた際に、スケープゴートにされることもあるだろう。

 

 習近平の前には困難な仕事が一つ待っている。2022年を越えても権力を保持できるだけの権力基盤の構築に彼が失敗してしまうことも十分にありうる。しかし、習近平が定まった期間に縛られないで最高権力を持つ指導者だけが中国と共産党を版得させることが出来ると考えたらどうだろうか。彼は自分こそそれをやる男とだと考えるだろう。

 

(終わり)










 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12






 中央国家安全委員会と同じく、中央全面深化改革領導小組は、習近平の行政スタイルが持つ2つの特徴を示している。1つ目の特徴は、情報公開がほとんどなされない党機関が国務院を超えて大きな責任を持つというものである。第18期中国共産党大会が開催されるまでは、経済改革といった主要な政策の立案と実行において国務院は主要な役割を果たした。更に言うと、習近平の指示は12以上の党と政府の各部に対して、習近平に忠実な王滬寧によって調整される。結果、習近平は個人の権力を更にふるうことができるようになり、集団指導体制において同僚たちからの監督を受けなくなるということも起きるだろう。中央国家安全委員会をはじめとし、改革グループの構造はトップダウンになっており、官僚の複層的な各段階を通じて命令が下される。(
“Xi’s Power Grab Towers over Market Reforms,” China Brief, November 20, 2013を参照のこと)

 

 中央互聯網安全情報化改革領導小組は習近平によって設置された最新の超機関であるが、詳細な情報はほとんど公表されていない。このグループはインターネット上の安全保障の強化と中国のIT産業の育成発展を目的としている。このグループの主席は習近平で、副主席は国務院総理の李克強と中国共産党中央精神文明建設指導委員会主任の劉雲山の2人である。総書記は、国家互聯網情報センター(State Internet Information CenterSIIC)の主任である魯煒(Lu Wei、ろい、1960年~)だ。国家互聯網情報センターは、国務院公安部の互聯網(インターネット)局と共に、その主要な責務として「インターネット上から“不安定要素”を取り除くこと」を掲げている。国家互聯網情報センター主任に任命される前、魯煒は新華社通信常務副社長と国務院情報室主任を務めた。中央互聯網安全情報化改革領導小組に参画している党と政府の諸機関には、国務院公安部、国務院酷寒安全部、国家情報室、国家互聯網情報センター、国務院工業情報化部(Ministry of Industry and Information Technology)、党中央宣伝部である。(新華社通信、2014年2月28日;Guancha.cn、2014年2月28日;民報、2014年3月28日)

 

 これら3つの高位の意思決定・調整機関の設置は、習近平が改革手法の「トップレベルでのデザイン」作りに没頭していることを示している。 しかし、こうしたトップダウン式の改革手法にはリスクが伴う。国家情報センターのジャン・ジーヨンは次のように指摘している。「現在の改革の動きは党の最高部から出てきている。トップが主導権を握り、命令が中央と地方の行政部の各レベルで実行されるようになっている。」ジャンはまた次のように語っている。「中位のそして下位の幹部たちはこうしたトップダウン方式に関しては対処法をよく分かっているので、新しい改革はスピード感のない官僚たちによって遅滞させられることになるだろう。地方幹部の典型的な戦略は命令を丸投げして何もしないというものとなるだろう」(人民日報フォーラム、2014年3月25日;大公報、2014年3月17日)

 

習近平が直接タッチしていない党と国家の主要な機関は、腐敗に対処する機関である、中国共産党中央規律検査委員会(Central Commission for Disciplinary InspectionCCDI)と国務院監察部(Ministry of SupervisionMOS)だけだという事実は重要だ。これら2つの機関はウェブサイトを共有し、「1つの事務室に2つの看板」システムの下で運営されている。中央規律検査委員会書記の王岐山(Wang Qishan、おうきざん、1948年~)は、中央国家安全委員会と中央全面深化改革領導小組に関与していない中央政治局常務委員2名のうちの1人である。2012年末に中央規律検査委員会書記に就任して以降、王岐山は中国共産党の反腐敗闘争の規模を拡大し、その先頭に立って活動している。それぞれが一定数の党と政府機関(中央と地方)を担当する規律検査室の数は10から12に増やされた。王岐山は太子党で、国務院副総理を務めた人物であり、習近平とは深い関係にあると見られている。王岐山は中央規律検査委員会と国務院監察部のスタッフを監察するための事務室を新設した。王岐山は地方レベルの腐敗を根絶するために定期的に地方を巡回させる監察グループを拡充した。この事実もまた重要である。(大公報、2014年3月18日;チャイナ・デイリー、2014年1月15日)王岐山が書記に就任して以降、中央規律検査委員会は、20名以上の国務院副部長級以上の高級幹部を摘発してきた。そのうちの少なくとも半分の「虎たち」は、中央政治局常務員であった周永康(Zhou Yongkang、しゅうえいこう、1942年~)につながりがある人々である。周永康は習近平の政敵の1人である。習近平は、「反腐敗カード」を使って政敵を攻撃している。加えて、中央規律検査委員会は監察能力を高め、トップからの命令を効率良く実行できない地方幹部たちを摘発している。(聯合報[台北]、2014年2月10日;BBC中国語放送、2013年11月4日)

 

 習近平の支配哲学は、鄧小平の定めた集団指導体制という原理に挑戦しているだけでなく、鄧小平が定めた他の2つの原理にも反している。それらの原理は、①党と政府の分離(separation of party and government)、そして、②「五湖四海(five lakes and four seas)」である。(新華フォーラム、2011年7月2日;人民日報、2010年9月3日)党と政府の分離は1987年の第13期中国共産党大会政治報告で明確に規定されたもので、中国共産党は長期にわたる計画のような大きな問題に集中し、国家における日常の行政は政府に任せて処理させるというものである。「五湖四海」原理とは、高級幹部は、「5つの湖、4つの海」、つまりあらゆる場所から登用しなくてはならないとするものだ。そして、この原理は、様々に異なる経歴やつながりを持つ幹部たちをバランスよく登用するというものでもある。しかし、習近平に直属する高位グループが設置されたことは、習近平が毛沢東流の権力集中主義を志向していることを示している。習近平は、監督やチェック&バランス機能を導入せずに、個人のネットワークを基にしてこれらのグループを立ち上げた。こうした劇的な権力の集中化が習近平の掲げる「中国夢(チャイニーズ・ドリーム)」の実現を加速するか、失速させるか、これからも観察し続ける必要がある。

 

(終わり)





 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





 古村治彦です。

 今回から2回に分けて、中国政治の最新論文をご紹介します。

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新しい高位グループが党と政府との間の区別に脅威を与える(
New High-Level Groups Threaten Line Between Party and Government

 

Publication: China Brief Volume: 14 Issue: 7

2014年4月9日 

ウィリー・ラム(Willy Lam)筆

 

http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42208&tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=9c04fb8086372aa9cd6deb00e61e01e7#.U1PR4X-KD4g

 

 

 習近平(Xi Jinping、しゅうきんぺい、1953年~)は、複数の情報が非公開の指導的なグループや委員会に実権を集中させている。中国共産党(Chinese Communist Party)の最高指導者である習近平に、これらの機関は直属している。これらのトップレベルの意思決定・調整機関は、習近平の側近たちは、最高指導者(supremo)である習近平に直属し、報告を行っている。それらの機関とは、中央国家安全委員会(the Central National Security CommissionCNSC)、中央全面深化改革領導小組(the Central Leading Group on Comprehensively Deepening Reforms)、中央互聯網(インターネット)安全情報化改革領導小組(the Central Leading Group on Internet Security and Informatization)である。このような機関に関しては、透明性とチェック&バランス機能の欠如に関する疑問が拭えない。李克強(Li Keqiang、りこっきょう、1955年~)国務院総理は全国人民代表者会議(National People’s CongressNPC)で国務院は「自己革命(self-revolution)を行う決意である」と表明している。この意味は、中央政府の各部(日本で言うと各官庁)は合理化を行い、それぞれが持つ力を縮小し、市場と社会がより大きな役割を果たせるようにするというものである。(チャイナ・ニュース・サーヴィス、2014年3月5日;人民日報、2014年3月5日)

 

 昨年(2013年)11月に開催された中国共産党中央委員会三中全会(the Third Central Committee Plenum)において、中央国家安全委員会と中央全面深化改革領導小組の設置が決定されたが、既に重要な役割を果たすようになっている。しかし、これらの機関に関する情報はほとんど公表されていない。そのスタッフの陣容、中央国家安全委員会の構成と目標は明らかにされていない。ただ、その規約として、党、政府、軍の各機関の連携を図り、国内の安定と「敵意を持った外国勢力」が起因する脅威に対処するというものがある。トップの3名の名前と役職だけが明らかにされている。それぞれ委員長の習近平、副委員長の李克強、そして全人代常務委員会委員長の張徳江(Zhang Dejiang、ちょうとくこう、1946年~)である。この3名のメンバーは、中国最高指導部で強大な力を持つ中国共産党中央政治局常務員会(Politburo Standing CommitteePBSC)に所属している。いくつかのメディアは、中央国家安全委員会を構成することになるであろう諸機関のリストを発表した。しかし、この情報の真偽はまだ確定していない。諸機関には、中国人民解放軍(People’s Liberation Army)、中国人民武装警察部隊(People’s Armed Police)、外交部(Ministry of Foreign Affairs)、公安部(Ministry of Public Security)、国家安全部(Ministry of State Security)、中国共産党中央対外連絡部(CCP’s International Liaison Department)、中国共産党中央宣伝部(Propaganda department)の名前が挙げられている。(文匯報[香港]、2013年3月7日;グローバル・タイムズ・フォーラム、2013年1月25日)

 

公的メディアと香港のマスコミは、複数の全人代の高級幹部たちの「習近平の腹心の一人である栗戦書(Li Zhanshu、りつせんしょ、1950年~)が中央国家安全委員会の総書記となり、あらゆるトラブルに対処している」という発言を引用している。栗戦書は、第18期中国共産党中央政治局委員であり、現在は中国共産党中央弁公庁(Central Committee General OfficeCCGO)主任を務めている。中国共産党中央弁公庁は党全体の神経集中センターのようなものであり、中央政治局常務委員会から中央、地方のあらゆる党機関に対して指示を出す機関である。また、定期的に中国全土に対して発表される主要政策の文書を作成する機関でもある。中央弁公庁は、中央国家安全委員会のために総局と情報センターの規模を倍に拡大した。(チャイナ・ビジネス・ニュース[上海]、2014年3月10日;民報[香港]、2014年3月10日)

 

 栗戦書は、西安市党委書記を務めた経験を持ち、習近平率いる陝西ギャングの中心メンバーである。栗戦書には外交政策の面での経験がない。このことから、中央国家安全委員会が主に国内の治安維持に特化した機関であるという主張には信憑性があることが分かる。栗戦書と彼の親分である習近平は深いつながりを持っている。このことから、最高指導者である習近平が、中央国家安全委員会の名の下で警察国家機能を利用することは難しいことではない。彼は中央国家安全委員会を利用して、反体制活動家たちを厳しく取り締まることから、急速に勢力を拡大しつつある習近平派に敵対する政敵たちを攻撃することまでできるのだ。(大公報[香港]、2014年3月7日;サウスチャイナ・モーニング・ポスト、2014年3月7日)習近平は中央国家安全委員会を支配している。その結果、習近平は、中国の国内治安に関して幅広く独立した力を持ち、コントロールができるようになるだろう。そして、鄧小平(Deng Xiaoping、とうしょうへい、1904~1997年)によって確立された集団指導体制に対して脅威を与えることになるだろう。

 

中央国家安全委員会の顔ぶれを見ると、この改革志向の委員会により大きな権力が集中することが容易に予想される。中央国家安全委員会の主席は習近平であり、副主席は、李克強国務院総理、イデオロギーと宣伝を担当する劉雲山(Liu Yunshan、りゅううんざん、1947年~)中国共産党中央精神文明建設指導委員会主任、張高麗(Zhang Gaoli、ちょうこうれい、1946年~)国務院常務副総理の3名が副主席となっている。彼らは全て党中央政治局常務委員である。彼らの下には、10名の政治局委員が配置されている。その中には、劉延東(Liu Yandong、りゅうえんとう、1945年~)国務院副総理、汪洋(Wang Yang、おうよう、1955年~)国務院副総理、馬凱(Ma Kai、ばがい、1946年~)国務院副総理といった国務院の閣僚級の人々や中国共産党中央各部の責任者たちが含まれている。党の中央各部の責任者で言えば、党中央弁公庁主任の栗戦書、党中央政策研究室(Central Policy Research OfficeCPRO)主任の王滬寧(Wang Huning、おうこねい、1955年~)、党中央宣伝部長の劉奇葆(Liu Qibao、りゅうきほう、1953年~)、党中央組織部長の趙楽際(Zhao Leji、ちょうらくさい、1957年~)が配置されている。更には、全国人民代表者大会常務委員会副委員長の李建国(Li Jianguo、りけんこく、1946年~)、中央軍事委員会(Central Military Commission)副主席の許其亮(Xu Qiliang、きょぎりょう、1950年~)人民解放軍空軍上将、中国共産党中央政法委員会(Central Political-Legal Commission)書記の孟建柱(Meng Jianzhu、もうけんちゅう、1947年~)といった人々も含まれている。(中国青年報、2014年3月13日;民報、2014年1月23日)

 

 王滬寧は上海にある復旦大学の教授を務めた人物であり、国家主席時代の江沢民と胡錦濤の政治アドヴァイザーであった。そして、習近平によって、中央国家安全委員会の総書記に任命された。王滬寧は現在、党中央政策研究室(Central Policy Research OfficeCPRO)主任を務めている。党中央政策研究室は目立たない部署で、公式メディアでその活動が伝えられることはほとんどない。しかし、党中央政策研究室は中国で最高レベルの、国内政策、外交政策に関するシンクタンクなのである。党中央政策研究室はシンクタンク機能の他に、中央国家安全委員会の事務局と情報集積センターの役割を果たしている。中央国家安全委員会には、党中央政策研究室副主任の潘盛洲(Pan Shengzhou、はんせいしゅう)と国務院国家発展和改革委員会(National Development and Reform CommissionNDRC)副主任の穆虹(Mu Hong、むこう)の2人の副総書記がいる。潘盛洲は農業の専門家だ。穆虹の国家発展和改革委員会での仕事は、資産投資管理と主要なプロジェクトの監督である。(Finance.12cn.com、2014年3月10日;香港エコノミック・タイムズ、2014年3月10日)





 

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