古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中国政治

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)が発売になりました。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界は、「西側諸国(ザ・ウエスト、the West)」と「西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」の分立構造になっている。中国は西側以外の国々の旗頭(はたがしら)になっている。中国は、自国の政治モデルや経済モデルを他国に宣伝し広めるということも視野に入れている。「魅力攻勢(charm offensive)」という言葉になるが、外交には厳しく対応する面と、相手を取り込もうとする面が存在する。

 中国の外交では「戦狼外交(せんろうがいこう、Wolf warrior diplomacy)」という言葉が有名である。これは中国版「ランボー」と呼ばれる映画のタイトルから引っ張ってこられた言葉だ。外交部長(外相)にまで昇進したがその後失脚した秦剛や最近まで外交部報道局副局長を務めた趙立堅がこの戦狼外交の代表的な外交官だった。

 中国の外交姿勢は鄧小平以来の「韜光養晦(とうこうようかい)」、爪を隠して低姿勢で時期が来るのを待つというのが基本だった。しかし、21世紀に入り、日本を抜いて世界第2位の経済大国となり、アメリカにも迫ろうという状況で、攻撃的、積極的な外交姿勢を取るということになり、これが戦狼外交である。アフリカへの積極的な進出や経済面での圧力など、これまでの中国にはなかった外交姿勢である。

 そうした中で、重要なのは、「魅力攻勢」である。厳しいだけ、経済面だけの外交進出だけでは、他国を中国になびかせることは難しい。より包括的な、より多方面の外交姿勢が重要である。そのためには、中国の芸術文化やスポーツなどの進出も必要である。これは、アメリカの学者ジョセフ・ナイが提唱した「ソフト・パワー」にも通じる考え方である。更に言えば、中国の成功、発展をアピールし、政治モデルや経済モデル、社会モデルを積極的に外国に売り込む、そのために海外からの留学生を積極的に受け入れ、手厚く遇するということも重要になっている。中国は実際に留学生の受け入れを拡大している。ここで重要なのは、アメリカがやる「押し付ける」方法は駄目だということだ。

 中国はその点で、自国の価値観を押し付けるということは少ない。それは西側以外の国々、様々な政治体制を保持する国々にとって魅力的である。日本はアメリカの一部となって、価値観外交を行おうとしているが、それは時代遅れのものとなりつつある。

(貼り付けはじめ)

中国は「魅力攻勢」を成功させられるか?(Can China Pull Off Its Charm Offensive?

-北京の外交リセットはなぜうまくいくのか、あるいはなぜうまくいかないのか。

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年1月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/23/can-china-pull-off-its-charm-offensive/

独裁国家の利点の1つは、状況の変化に応じて急対応できることだと言われている。1人の人間が最高の権力を持ち、官僚の硬直性(bureaucratic rigidity)、厄介な報道機関、国内の反対勢力、影響力のある利益団体、独立した司法機関、その他民主政治体制に付随する厄介なもの全てを心配する必要がないのであれば、理論的には、ただ新しい勅令を発し、国家という船を新たな航路に進ませることができる。

俊敏で順応性のある独裁者というこのイメージは、おそらく間違いか、少なくとも不完全なものだろう。一見無敵に見える独裁者でも、潜在的なライヴァルや権力中枢の競合、遠く離れた役人たちが指示を実際に効果的に実行するかどうかなどを心配するのが普通だ。専制君主は、部下が本当のことを教えてくれないために、時には失敗した政策に行き詰まることもあるし、弱いと思われたくないために軌道修正を拒むこともある。さらに、ナマケモノのように機能不全に陥っているはずの民主政治体制国家が、特に緊急時には驚くほどの活力と迅速さで行動することもある。

これらの注意点はともかく、習近平国家主席が最近行なった変革の範囲とスピードには目を見張るものがある。2022年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会で権力を固めた習近平は、予期せぬ国民の抗議デモの発生に対応するため、それまで支持してきた硬直的でコストのかかる新型コロナウイルス・ゼロ政策を突然放棄した。習近平は中国経済に対する国家主義的、レーニン主義的アプローチを部分的に緩和し、貧弱な経済成長とアリババ社のような飛ぶ鳥を落とす勢いのある中国企業の翼を切り取ろうとした過去の努力に直面して、中国の民間部門を安心させ、再活性化させようとしている。(これらの措置の詳細については、アジア・ソサエティの有益な論文を参照されたい)。

私たちの目的にとって最も重要なことは、中国は現在、世界的なイメージを向上させ、経済成長を再燃させ、いくつかの主要国を緩やかな反中連合にまとめようとするアメリカの努力を妨害するための広範な努力の一環として、外の世界と仲直りしようとしていることである。この最新の「魅力攻勢(charm offensive)」はうまくいくだろうか?

習近平がなぜこのような行動をとるのか、天才でなくとも理解できるだろう。習近平の外交政策に対する基本的なアプローチがうまくいかなかっただけなのだ。今世紀半ばまでに(世界一ではないにせよ)世界をリードする大国になるという目標を公然と宣言したのは間違いだった。それは立派な目標かもしれないが、そのような大胆な自慢は確実にアメリカを警戒させ、他の多くの国も警戒させた。大規模な軍備増強と南シナ海での軍事化された「島建設(island-building)」を組み合わせたのは間違いだった。この重要な水路における中国の領有権主張を退けた国際法廷の判決を拒否したのは近視眼的であり、紛争地域に飛行機や船を送り込んで台湾や日本を脅したのは逆効果だった。中国軍が人里離れたヒマラヤ山脈でインド軍と衝突するのは、ほとんど意味がない。ロシアがウクライナに侵攻する前夜に、中国をロシアと密接に連携させたのは間違いだった。習近平が騙されたのか(ロシアのプーティン大統領が習近平に計画を伝えていなかったとすれば)、それとも習近平が考えていたよりも能力も実力もないことが判明した残忍なパートナーを黙認する道を選んだのか。いずれにせよ、良い印象ではない。最悪なのは、こうした懸念すべき政策が、攻撃的で超戦闘的な「戦狼(wolf-warrior)」外交によって追求し、擁護されてきたことだ。外国の外交官や政府高官を繰り返しいじめ、侮蔑することで、友好国を獲得し、中国の影響力を高めることができるという奇妙な考えに基づいている。

習主席の外交政策の対応の結果はあまりにも明白だ。アメリカでは「中国の脅威(China threat)」に対抗することを支持する超党派の合意が得られた。中国のハイテク産業を阻害することを目的とした輸出規制を含む、ますます激化するハイテク貿易戦争が起きている。アメリカ、日本、インド、オーストラリアのいわゆるクアッド連合(Quad coalition)の強化も進んでいる。日本は、2027年までに防衛費を倍増させ、アメリカと更に緊密に協力するという決定をした。韓国は核兵器を取得する可能性をほのめかしているが、これは部分的には北朝鮮の行動への反応であるが、中国に対する懸念の反映でもある。そして欧州連合、オーストラリア、その他いくつかの場所における中国の公的イメージの劇的な悪化が起きている。

リセットの必要性は明らかであったため、中国はこのところ仲良くしている。習近平とジョー・バイデン米大統領はバリG20サミットでそれなりに友好的な会談を行った。習近平はドイツのオラフ・ショルツ首相を国賓として北京に迎え、習近平自身も東南アジアの国家元首と会談し、サウジアラビアの指導者ムハンマド・ビン・サルマンが企画した一連の首脳会談のためにサウジアラビアを訪れた。中国の劉鶴副首相はダボス会議の聴衆に「中国は復活した」「ビジネスのために開かれている」と語り、党の中央経済工作会議は経済成長を促進することを目的としたビジネスに優しい指針を発表している。劉はまた、ジャネット・イエレン米財務長官と面会し、彼女を北京に招待した。

短期的には、狼戦外交を放棄し、中国が他国との緊密な経済関係を望んでいることを改めて表明すれば、多くの地域で受け入れられよう。今日の中国の世界における地位と影響力は、その経済規模と高度化する技術力によるものである。対照的に、その軍事力の増大は他国を神経質にさせている。アメリカの親密な同盟国でさえ、中国の人権慣行や地域の現状に挑戦しようとする努力には異論があるにもかかわらず、中国との経済的関係を断ち切ろうとはしていない(はっきり言って、多くのアメリカ企業も同様である)。オランダのマーク・ルッテ首相が先週のダボス会議の聴衆に語ったように、「『正当な安全保障上の懸念』が存在するとしても、中国は『巨大な可能性を秘めた巨大な経済であり、巨大なイノベーションの基盤』である」。フランスのブリュノ・ルメール財務相もこの意見に賛同し、「アメリカは中国に対抗したがっているが、私たちは中国に関与したい。私は、世界のゲームにおいて、中国は参加しなければならず、中国は参加できないことはないと強く信じている」と述べている。

この言葉から分かるのは、中国は無理に変化のペースを上げようとするのを止め、戦略的忍耐の政策を採用すべきだということだ。特に先端技術という重要な分野での国内経済発展に重点を置くべきで、そうすることで他国は中国との緊密な関係を維持したいと思うようになり、ワシントンが中国の成長を減速させるために展開しているアメリカの輸出規制やその他の措置に全面的に参加することを思いとどまるだろう。中国はまた、既存の国際機関の中で影響力を構築する努力を続けるべきである。この努力は、他の国家が北京の影響力強化を将来どのように利用するかを心配しなければ、成功する可能性が高くなる。

このアプローチは、ウェストファリア式の国民主権に対する中国の強いコミットメント(完全に一貫しているわけではないにせよ)を利用するものでもある。中国独自の政治モデルは普遍的な魅力に乏しいが、他国に内政のあり方を指図することはほとんどなく、自国がどのように統治されたいかは各国が自ら決めるべきだという考え方を明確に受け入れている。対照的にアメリカは、他国がどのように統治すべきかについて説教するのが大好きで、他国にリベラルな価値観を受け入れさせようとし続けている。他の条件が同じであれば、二国間関係に対する北京のあまり押しつけがましくないアプローチは、他の非民主政体国家にとって特に魅力的であろう。ここで、今日の世界では非民主政体国家が真の民主政体国家をかなりの差で上回っていることを覚えておく価値がある。

しかし、中国が以前の「平和的台頭(peaceful rise)」戦略に近いものに戻ることができなければ、中国が現在試みているリセットは失敗に終わるだろう。習近平が存命中に特定の目標(台湾との統一など)を達成することに全力を注いでいるため、台湾への軍事攻撃は危険な提案であり、中国に対する恐怖心を新たな高みへと押し上げることになるにもかかわらず、リセットは失敗するかもしれない。あるいは、中国の指導者たちが、中国の力はピークに達しており、人口動態、経済の停滞、地域の均衡が重なって手が届かなくなる前に、必要な現状変更(necessary changes in the status quo)を達成し、それを強固なものにする必要があると考えているために、失敗するかもしれない。

ここには、すべての大国(および一部の小国も)の指導者が熟考すべき、より広範な教訓がある。外国経済が急速に成長している場合、国際システム内の国家が強く否定的な反応を示すことはほとんどない。それどころか、経済的機会の拡大から恩恵を受けることができるため、歓迎することが多いものだ。この政策により、挑戦者が他の政策よりも早く立ち上がることができるのであれば、近視眼的かもしれないが、依然として広く普及している傾向であるようだ。台頭する大国が新たに獲得した勢力を振りかざし始めたとき、特に、ロシアが現在ウクライナで試みているように、力による現状変更を試みることによって初めて、他の国々が完全に警戒し、問題に対して直接行動をとり始めるのである。問題を含んでいる。

アメリカは非常に幸運だった。19世紀のアメリカの台頭は、他の大国から遠く離れていたため、敵対的な反応を引き起こすことはなく、諸大国はお互いをより心配しており、アメリカは諸大国と戦う必要がなく、北米全域に拡大することができた。現在の中国の立場はそれほど好ましいものではなく、台湾の国民は依然として北京による統治に強く反対しており、軍事行動を通じてのみ統一を強いられる可能性がある。中国政府の最新の魅力攻勢が成功するかどうかは主に、習主席とその仲間たちがこの問題を認識し、国家主義的な野心を抑制し、国内の経済力の構築を継続することに努力を集中するかどうかにかかっている。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今や世界において中国の動向は重要な要素となっている。中国がどのように動くかで国際社会の動向が決まるということになっている。アメリカも重要であるが、中国もその重要度を増している。2023年の中国はどのように動くかということに多くの人々は関心を持っている。

 最近の中国に関する報道と言えば、「新型コロナウイルスゼロ」政策を放棄し、行動の緩和が実施されている。そのために新型コロナウイルス感染者数が増大しているが、公式発表では死者数が極端に抑えられているということだ。中国はこれだから信用できないということになる。

対外的には台湾問題に注目が集まっている。昨年2月24日のウクライナ戦争勃発後、「ウクライナの次は台湾だ」、つまり「中国が台湾に侵攻する」という主張が声高に叫ばれ、米中間の関係も緊張をはらむものとなった。最近では台湾からも「あまり危機感を煽らないで欲しい(特に日米両国)」という声が出ている。中国は国内問題もあり、また、現在の国際秩序の中で経済力を高める段階にあり、保守的な状況である。

 下に紹介にした論稿では5つのポイントで中国に関する予測を行っている。簡単にまとめると、「(1)新型コロナウイルス感染拡大で死者数が増える、(2)経済の回復は遅い、(3)旅行業界だけは活況を呈する、(4)人々の不満が小規模な抗議活動ということで噴出する、(5)米中関係は穏やかになり、台湾問題は静けさを保つ」ということになる。

 上記の予測ポイントについて、私なりの考えを書いていきたい。新型コロナウイルス感染拡大に関しては、中国は世界で最初に対処した国であり、その対処方法を模索し、開発し、改善してきた。病院の整備などのスピード感は群を抜いていた。自然免疫に方向転換を行っても、ある程度の管理を行うものと思われる。経済活動は、世界経済と連動している部分もあるが、国内需要がこれから増大していくだろう。そのスピードと規模をうまく予測できる人はいないだろう。ただ、国内需要が経済回復をけん引するだろう。旅行については既に私たちが目撃しているように活況を呈している。人々の不満が収まれば抗議活動は沈静化するだろう。国際関係について言えば、アメリカが敵対姿勢を弱めれば中国も穏やかになるだろうし、台湾問題もアメリカが煽動しなければ落ち着いたまま進んでいくだろう。

 新型コロナウイルス対策もウィズコロナに変更されていく中で、経済と社会が少しずつ動き始めているのは世界共通だ。中国も例外ではない。巨大船舶と同じで、少しの動きが他の小さな船舶に比べれば大きなものとなる。あまりに急激な動きは世界に及ぼす波も大きくなってしまう。中国はそろりそろりと動いてくれるのが最善なのである。

(貼り付けはじめ)

2023年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2023

-新型コロナウイルスをめぐる悲劇から弱体化する習近平まで、来年に起こる可能性があることを述べていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/28/china-predictions-2023-covid-xi-jinping/

今年(2022年)は中国にとって非常に悪い年であった。しかし、このニューズレターが昨年予測したように、事態は常に更に悪くなる可能性がある。14億人の人口を抱える国について推測するのは難しいし、中南海(中国政府中枢)のシャッターの内側を覗き込もうとするのもまた難しい。しかし、2023年にどのような悪いことが起き、そしてどのような良いことが起こるかについて、以下に私が最善を尽くして行った予想を書いていく。

(1)新型コロナウイルスに関する悲劇(A COVID-19 Tragedy

中国はつい2度目の新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面しており、その様相は悲惨なものとなっている。中国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and PreventionCDC)の内部ブリーフィングによると、2022年12月1日から12月20日の間に2億5000万人が感染したと推定され、12月7日に政府が新型コロナウイルスゼロ政策を解除したのは封じ込めシステムの失敗に対する性急な対応だったことが明白に確認された。中国疾病予防管理センターの推定では、先週の火曜日の1日だけでおよそ3700万人が感染していることになる。

中国の医療制度は、長年の準備不足と治療よりも封じ込めに重点を置いてきたこともあり、既に対応に追われている状況だ。オミクロンBA.2亜型の致死率0.3%に基づいて計算すると、2億5000万人の感染者の中から75万人が死亡する可能性があることになる。この指数関数的な増加率からすると、第一波は2023年1月末までに中国の人口の60%に到達する可能性があります。この場合、9億人が感染し、270万人が死亡することになる。

もちろん、未知の部分も多く、現在中国で流行している変異株は致死率が低い可能性もある。私はそうであって欲しいと願っている。『フォーリン・ポリシー』が正式に確認したのではないが、中国の友人たちは、家から一歩も出ていないのに、新型コロナウイルスに感染したという話を語っており、アパートの集中空調システムを通じて感染している可能性を示唆している。

多数の死者が出れば、特に新型コロナウイルスゼロの価値があるかどうかという点では、心理的に大きな影響を与えるだろう。インドの新型コロナウイルス感染拡大の経験から、中国でもウイルスが猛威を振るえば、2020年には数百万人の死者が出る可能性があった。しかし、救われた命では、それぞれの喪失の悲しみや辛さを軽減することはできない。しかし、中国で公的な政治的危機が起こるとは思わないで欲しい。新型コロナウイルスによる死亡の影響は、犠牲者の多い国においても、世界的には驚くほど小さい。

更に言えば、2億5千万人の感染を経て、12月23日現在、中国が公式に報告した死者はわずか8人である。中国が死者数について明らかに嘘をつき、馬鹿げた計算方法を用い、メディアで危機を取り上げないようにしているのは、国民の怒りを恐れてのことだ。たとえ公式発表の数字が事実でないと分かっていても、危機的状況をテレビ画面から遠ざけることで、かえって危機を身近なものとして感じられるかもしれない。

(2)弱含みの経済回復(Weak Economic Recovery

中国の新型コロナウイルスの死者数は2023年の怪しいデータだけしか存在しないのではない。政治体制は、プロパガンダのためと内部の政治的理由のために、たとえ判断が不可能であっても統計事態は要求する。今回の新型コロナウイルス感染の波の規模からすると、ヴェトナムなどのように新型コロナウイルス感染対策を解除したからと言って、中国経済が以前のレヴェルに回復することはないだろう。

中国においては、消費者の潜在的な需要はたくさん存在が、新型コロナウイルスに感染することへの不安やリスクを回避しようとする志向が強いため、その需要は少しずつ出てくるのではないかと考えられる。厳しい2年間を経て、地方政府も中央政府もポジティブなデータを出すようにという政治的圧力が非常に強くなっている。それは人口の数字にも影響を及ぼしている。研究者たちは、中国の人口はすでに減少しており、新型コロナウイルスによる死亡はその問題をより厳しいものにすると主張している。

更に言えば、新型コロナウイルスは、病気や死亡によって主要な労働者がいなくなることで、サプライチェインに打撃を与える。また、最悪のシナリオでは、大きな流行を経験していない村や小さな町が、感染拡大当初と同じように、訪問者を隔離し、旅行を阻止する方法を採用する可能性がある。中央政府は2020年よりもずっとこうした方法を敵視するだろうが、地方における中央政府の執行能力は遅くしかも弱くなる可能性が高い。

挙句の果てに、中国は新型コロナウイルス感染拡大の結果ではない、多くの経済問題を抱えている。経済成長の大半を支えてきた不動産セクターはゆっくりとした崩壊を続け、アメリカは自国経済と中国経済を切り離す試みを本格化させ、世界的な景気後退の危機が迫っている。中国政府は、景気刺激策で不動産ブームを少しは下支えできるかもしれないが、いつかは現実を直視しなければならないだろう。

同様に、中国のテクノロジーを標的にしたアメリカの政策は、中国のテクノロジー産業に対する中国の公式な巨額の投資を生み出す可能性が高い。しかし、それは政府のコネに依存し、半導体向けのビッグファンドの失敗のように、多くの腐敗を伴うことになるだろう。

(3)旅行ブーム(A Travel Boom

2023年に甦る可能性があるのは旅行業界だ。国内需要は現在の新型コロナウイルス感染の波が過ぎるまで回復しないが、10月の大型連休には過去最高を記録する可能性がある。また、海外旅行もより早く回復するだろう。検疫期間が短縮され、完全に終了する可能性が高いため、中国人は大量に海外旅行に出かけることになる。この記事はクリスマス前に書いたが、検疫は12月26日に終了し、飛行機の予約ラッシュとなった。3年間も世界から隔離されていたため、旅行する余裕のある人は、アメリカの学校に通う子供たちを訪ねたり、タイのビーチに行ったりなど、国外に出ることに必死だ。

また、若者の間では、常に後退しているように見えるこの国から移住したいという願望も存在する。欧米諸国は、移民に対する偏執的な嫌悪感を維持するのではなく、潜在的な才能の大きな波を拾い上げることに目を向けるべきだ。

(4)より小規模な抗議運動(More Small Protests

2022年末の抗議デモの波の後、中国では来年も小規模なデモが続くと考えられる。新型コロナウイルスゼロ政策終了を求めるデモのような統一されたシナリオはないだろう。しかし、不正な金融会社から盗まれたお金を取り戻すか、新型コロナウイルス感染拡大による封鎖を終わらせるかにかかわらず、当局に圧力がかかる可能性があることは明白だ。

習近平国家主席の退陣を求める思想的なデモ参加者は嫌がらせや逮捕を受けたが、新型コロナウイルスゼロ政策反対のデモ参加者のほとんどは報復を免れた。このことは、人々が他の問題についても限界に挑戦することを促すかもしれない。残念ながら、不動産業界にとっては更に悪いニュースだ。過去10年間、中国で最も一般的で成功した抗議活動の1つは、資産税導入の試みに反対するものであった。

また、習近平の立場も非常に弱くなっている。習近平は、中国メディアが常にその成功を誇っていた「新型コロナウイルスゼロ」政策と密接に結びついていた。これに加えて、経済が減速しているため、中国の政治エリートは習近平の指導力に対して深刻な疑念を抱いている。問題は、2022年10月の中国共産党大会で習近平がいかにうまく立ち回ったかを考えると、彼らが何かできるのかということだ。

今年、習近平が国民と中国共産党の両方に対する権力を再強化するために、政治的統制を強化することはあり得る。しかし、長年にわたるイデオロギー的な弾圧の後に、何を締め付けるのだろうか?

(5)より穏健な言葉と静かな海峡(Softer Words and a Quiet Strait

中国の国内問題の数々は、国際舞台では、主に非公式な場でではあるが、より良い言葉につながっているようだ。アメリカをはじめとする外交官たちは、中国側が以前よりも対話に前向きになっていると報告しており、2022年11月のG20サミットでジョー・バイデン米大統領と会談した習近平国家主席は、両国間の経済摩擦の激しさにもかかわらず、笑顔のトーンを維持する可能性がある。

しかし、その部分的な雪解けは非常に不透明であり、ちょっとした危機でも関係が再び凍結する可能性がある。中国の国営メディアは、10年前よりも外国嫌いで反米的であり、中国の問題をアメリカのせいにしようとする強い動機がある。

これら全ての問題は、今年、台湾をめぐる大きなトラブルを期待しない方が良いということを示唆している。中国政府は単に国内で対処すべき問題が多すぎて、戦争はおろか、新たな危機を迎える余裕もないのだ。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問をめぐる一時的な騒動は、結局のところ大げさなものであったことが判明した。だからといって、いわゆる統一への執着や台湾への政治的干渉がなくなる訳ではなく、おそらく現状維持にとどまるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年12月28日に副島隆彦先生の最新刊『習近平独裁は欧米白人(カバール)を本気で打ち倒す』(ビジネス社)が発売になる。年末年始の関係で、全国の書店に並ぶのは来年2023年1月上旬になるが、アマゾンでは日時通りの発売になるとのことだ。

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習近平独裁は欧米白人(カバール)を本気で打ち倒す

 以下にまえがき、目次、あとがきを貼り付ける。

 是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき

どうやら中国は、本気で欧米白人の支配者たち(カバール)と戦うと決意したようだ。戦いになれば、自分も大きな打撃を受ける。それでも戦う、と。

この中国人の大きな決意を、私たち日本人はまだ甘く考えている。「いや、そんなこと(戦争)にはならない」と。さて、それで、これからの世界が無事で済むか、だ。私たちは、甘い考えを捨てるべきなのである。

中国は、習近平の独裁体制を確立した。

2022年10月23日、第20回中国共産党大会の翌日に、新しい指導部7人、即(すなわ)ち「チャイナナセブン」が決まったときだ。何とすべて全員、習近平の子分であった。習近平は「いつでも戦争ができる体制」を構築した。それは、P5の迷彩服(軍服)姿の習近平とその記事によって明らかである。

習近平が、今すぐアメリカと核戦争を含めた第3次世界大戦を始めることはしない。だが、中国はアメリカを含む西欧との厳しい戦いを覚悟している。中国はウクライナ戦争の始まり(2月24日)から、ロシアのプーチン政権が欧米支配層(ディープステートとカバール)によって、大きく罠(わな)に嵌(は)められ苦戦している事実(すぐに1年になる)を厳しく凝視(ぎょうし)してきた。だから中国は甘い考えを捨てている。

 中国は、もう決断したのである。欧米諸国(カバール)との戦争も辞さず、と。その前に、世界金融や貿易などの経済取引の分野でも規制がかかって混乱が起きて、自国に大きな打撃が行くことも中国はすでに覚悟した。
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 さあ、日本はどういう態度をとるのか。

中国は、私たち日本に対して「日本はどっちの側につくのか。はっきりさせろ」という決断を迫っているのである。ところが日本人は、「そんなことは知りませーん」という態度でヘラヘラと逃げ回っている。まるで「我関せず」、傍観者の構えである。これは決定的にまずい。私はこの本で、厳しい問い詰めを日本人に対して行う。

死んだ(殺された)安倍晋三が盛んに言っていた「台湾有事(ゆうじ)は日本の有事」という考えのままで日本がいて、中国の強さを舐(な)めきって台湾にまで日本軍(自衛隊)を出す、というような甘えた態度をいつまでもとっていると、ヒドいことになるぞ、と中国は警告してきている。

「アメリカ様(さま)の言うとおりにしていれば日本は大丈夫」などと、いつまで言っていられるか、だ。後(うし)ろのP115の記事に載せるとおり、中国は「日本は台湾問題に干渉するな」という激しい警告を発している。

日本政府(岸田政権)が安倍晋三の亡霊に引きずられていると、おそらく日本は今後激しく追い詰められる。

 あと1つ、私ははっきり未来予測をする。習近平の独裁体制が確立したので、これからの習近平3期目の5年間のあいだに、うまくゆけば欧米白人カバール勢力との一触即発の戦争危機を乗り越える目算である。そして、中国が優勢となって世界覇権(ワールド・ヘジェモニー)を握る段階に入るだろう。

そのとき、李克強(りこっきょう)たち〝冷や飯食い〟の共青団(きょうせいだん)の勢力は、中国共産党から集団で脱退して、中国民主党を作る。そして、共産党と政権獲(と)りを競い合う。この時、中国に、① 複数政党制(マルチ・パーティー・システム)ができる。そして普通選挙(ユニヴァーサル・サフレッジ)を行う。この2つでデモクラシー(民主政体[せいたい])である。私は、これまでにもこのように書いてきた。

 だから、今度の党大会の政変ドラマでも、李克強たち共青団(きょうせいだん)は何ら動揺することなく平然とひな壇に座っていた。習近平独裁体制からほぼ排除されて、370人の中央委員およびその候補に、胡春華(こしゅんか)がようやく1人入っているだけに追い詰められた。だが共青団系は、何ら恥じることなく淡々としている。しばらくは冷や飯食いが続くだろうが、それでも構わない。

 ここで大事なのは、欧米白人支配層(カバール)との激しい血みどろの戦争を習近平にやらせる、だ。そこで、500万人、1000万人が死んでも構わない。そのあと、共青団の民主党が政権を獲る時代が来るだろう。

私、副島隆彦はそこまで考えて、先へ先へと近未来の予言をしてきた。だから、習近平の今度の体制は明らかに独裁であるが、これからの5年間の2027年までの予定である。このことがはっきりした。

後ろに載せるP 62の日経新聞の中沢克二記者の、「党の長老たち老人パワーが、習近平への個人崇拝と習近平思想を否定した」が重要である。個人崇拝を英語で、character cult「キャラクター・カルト」と言う。

習近平を毛沢東の再来としなかった。それが中国共産党の規約(パーティー・レギュレイション。中国では憲法よりも重要)となったのである。

これらのことを、この本ではっきりさせる。

なぜ欧米白人を頂点から支配する者たちを、カバールと称するかは、この本のあとのほうで説明する。

副島隆彦

=====

◎習近平独裁は欧米白人(カバール)を本気で打ち倒す◎ もくじ

まえがき ……

第1章 中国衰退論と日本核武装論から見る世界政治の現実

〝知の巨人〟エマニュエル・トッドの「中国崩壊論」の大きな過ち ……16

日本が核を持てばアメリカが喜ぶ、という大きな勘違い ……19

戦争の責任をアメリカとイギリスに求めるトッドの意見は正しい ……24

アメリカに食い荒らされていくヨーロッパ ……27

世界の火薬庫はヨーロッパとアジアしかない ……30

小国がいくら団結しても勝てないという世界政治の大原則 ……33

「日本核武装論」と「中国衰退論」をめぐる争い ……38

そもそもエマニュエル・トッドとは何者なのか? ……47

中国はたとえ核戦争になっても欧米白人と闘い抜く ……52

第2章 習近平は本気で欧米白人支配を打ち破る

党大会で何が本当に起きたのか ……60

習近平は戦争がいつでもできる体制を整えた ……72

すでに5年前に予言していた習近平体制3期目の本質 ……78

鄧小平の思想をいちばん引き継いでいるのが習近平 ……82

衰えゆく善人集団の共青団 ……86

新しい指導者はどういう人物が選ばれたのか ……93

田舎で泥だらけの苦労をした習近平 ……98

習近平はまだまだ虎もハエも叩くことをやめない ……105

第3章 台湾で戦争を起こしたいのはネオコン、ディープステ―ト、そしてカバールだ

習近平の横綱相撲で終わった米中首脳会談 ……110

台湾は平和的に中国の1つの省となる ……114

台湾は国家ではない ……126

台湾は自ら中国へと歩み寄っていく ……129

中国を食い物にしたのはそもそもイギリスである ……134

今の台湾は、アメリカの中国権益の成れの果て ……136

台湾人の多数派も台湾が独立国でありたいとは思っていない ……140

世界中で戦争の臭いを嗅ぎつけ火をつけて回る狂ったネオコンとムーニー ……145

第4章 中国が盟主となる新しい世界の枠組み

戦争を止めに来たキッシンジャー、火をつけに来たヒラリー ……152

世界金融システムに先制攻撃を加える中国 ……159

中間選挙で露わになったアメリカのさらなる没落 ……165

トランプは見抜いていたペロシの正体 ……172

「カバール」という恐ろしい欧米白人の最上流人種たち ……174

上海協力機構が次の世界をまとめるプラットフォーム ……178

トルコが加盟してがらりと変わった地政学的な意義 ……184

第5章 着々と野望を実現する中国の強靭な経済

最悪の状態を脱した不動産業界 ……192

半導体を止められても6G(シックス・ジー)がある ……196

SKハイニックスの裏は中国資本である ……204

追い詰められたヨーロッパは、中国以外に頼る国がない ……212

宇宙強国の橋頭保となる新しい宇宙ステーション「天宮」 ……215

ゼロコロナ抗議の「白紙運動」は、反政府活動家あぶり出しの一環 ……222

汚れきった江沢民の死と上海閥の終焉 ……228

あとがき ……232

=====

あとがき

私のこの、今年の中国研究本を書き終わって思うこと。

それは、本書の中でも書いたが、私は「習近平と父習仲勲(しゅうちょうくん)の親子2代の苦難の人生の物語」を書き残したことだ。

それを、遠藤誉(ほまれ)女史の近著で、大著の『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社刊、2021年3月刊)の、詳細で正確な記述を使いながら、私はこの「親子2代」を描こうと思った。ところが、これを本書に積み込むと、この本が積載過重[せきさいかいじゅう]overload [オウヴァーロウド])になってしまうことが分かった。

私は「父習仲勲と息子習近平の親子2代の物語」を書いて、どうしても日本人に、中国共産党の創立以来の100年(1921年から)の真実の大きな全体像を分からせたい。この仕事は、来年の私の中国本でやります。乞うご期待。

この本を完成させるために、ビジネス社編集部の大森勇輝氏の多大のエネルギーの投入があった。記して感謝します。

私たちは、普通の著者たちのような、読者に甘えきった、上から目線の本づくりはしない。お前たちが書く本はくだらない、つまらない。

私は、この世の本当の真実を、読者(読み手)の脳(頭)に、弾丸をビシッと撃ち込む決意で作っている。

2022年12月

副島隆彦

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(終わり)

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 古村治彦です。

 2022年11月30日、江沢民元中国国家主席が96歳で死去した。一強体制を構築しつつある習近平国家主席にとっては、煙たい「長老」の1人だったということになるだろう。10月の第20回中国共産党大会に出席しなかったことで、色々と憶測が流れていたが、結局体調面で出席が叶わなかったということになるだろう。江沢民は天安門事件(1989年6月4日)前後の政治的な混乱状況の中から、鄧小平によって次期指導者に抜擢された。ヒールのイメージがあり、汚職の話が付きまとうということもあり、日本での評価は芳しくないが、江沢民は、政治的動乱状況を抑え、中国の改革開放と経済成長の道筋をつけた人物ということになる。

 以下で、江沢民についての記事を紹介する。江沢民は叔父が江上青という、国共合作時代の中国南部で創設された抗日軍である新四軍(国民革命軍新編第四軍)の指揮官という英雄だったことで、共産中国時代に徴用されることになった。叔父の戦友たちが共産中国で重職を担うことになり、江沢民は彼らの引き上げを受けて、ソ連に留学し、自動車製造の上級テクノクラートとして出世していた。

 1966年からの文化大革命では、紅衛兵側に参加せず、中国革命を成し遂げた先輩革命家たちと共に強制収容所で苦労するという道を選び、これが結果として、文革後に「信頼できる人物」という評価を得ることになった。「禍福は糾(あざな)える縄の如し」という言葉通りの人生だ。

 1985年に上海市長になり、その後、上海市党委書記に昇格し、中央政治局入りを果たした。そして、1980年代後半の政治的動乱状況の中で、最高指導者の座を射止めた。江沢民の指導の下で、中国は世界貿易機関(WTO)に参加し、輸出指導型経済を開始した。その後の急激な経済成長は誰もが知るところだ。その道筋をつけたのが江沢民ということになる。江沢民の基盤となったのが新四軍派閥だったということは、それが主体になって上海閥が形成されたということになる。

 江沢民の治政下で、汚職が激増し経済格差が拡大したという負の面はあった。しかし、中国を現在のような世界第2位の経済大国に導いたというのは、鄧小平という設計者がいたことは確かだが、江沢民が鄧小平の設計図を実行者として実現したという、その手腕はやはり評価されるべきだろう。

(貼り付けはじめ)

江沢民氏の追悼大会を北京で開催 習近平氏が追悼演説、功績たたえる

12/6() 12:10配信 朝日新聞デジタル

https://news.yahoo.co.jp/articles/c6a6255b16e32169298cda2c9715c2f38fdf4842

 1130日に死去した中国の江沢民・元国家主席(元中国共産党総書記)の追悼大会が6日午前10時(日本時間同午前11時)から北京の人民大会堂で開かれた。葬儀委員会の主任委員を務める習近平(シーチンピン)国家主席が追悼演説を行い、江氏の功績をたたえるとともに「社会主義現代化国家」の建設へ、団結を誓った。

 追悼大会は中国のテレビやラジオで中継され、政府や党の主要機関に半旗が掲げられる中、3分間の黙禱(もくとう)が行われた。哀悼を表するため全国一斉に汽笛や防空警報が鳴らされたほか、銀行間の債券市場や外国為替市場なども3分間取引が停止された。「ユニバーサル・スタジオ・北京」などの娯楽施設は6日の営業を休んだ。

 江氏は毛沢東、鄧小平両氏に続く国家指導者に位置づけられ、追悼大会は1997年に死去した鄧氏と同格の扱いで行われた。党・政府の幹部や各界の代表らが出席したが、前例に従い外国要人の参列はなく、市民の弔問も受け付けなかった。江氏の遺体は5日に火葬され、追悼大会には遺骨が置かれたとみられる。(冨名腰隆)

=====

江沢民は中国が世界の大国になるのを助けた(Jiang Zemin Helped China Become a Global Powerhouse

-揺るぎない手腕と批判に直面することへのいくらかの意欲によって、彼は中国を世界経済へと導いた。

ヴィクター・シン筆

2022年11月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/30/jiang-zemin-dead-obituary-china-ccp/

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江沢民中国国家主席がワシントンのホワイトハウス訪問(1997年10月29日)。

2002年に中国共産党総書記の座を退いた江沢民(1926-2022年、96歳で没)が、2000年に香港の記者を「単純過ぎ、かつ世間知らずだ」と叱責したエピソードを思い出すと、中国人は時々苦笑いを浮かべることがある。香港の次期指導者についての無邪気な質問に対する江沢民の大げさな返答は、困惑したようなつぶやきと多くの皮肉を引き起こした。香港の次期指導者について、何気ない質問に対しての江沢民の大げさな返答に困惑の声と皮肉が漏れた。

実際のところ、11月30日、上海で96歳の生涯を閉じた江沢民は、中国国民の生活を大きく変え、向上させた2つの重要な変遷を監督し、主導した。第一に、何十年もかけて互いに粛清し合い、時に大きな痛みと悲しみを与えた中国建国の革命家たちの影から国を平和的に導き出したことである。第二に、当初は躊躇しながらも、江沢民は市場経済を受け入れるようになった。中国がゼロ新型コロナウイルス政策の圧力に苦闘し、先週末には全国的な抗議運動が起こった後、江沢民の統治は多くの人にとって相対的な希望の期間となったように思われる。

江沢民は、その直前の鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で没)を含むどの指導者よりも、まず外国からの直接投資を歓迎し、最終的には世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)への加盟によって中国を世界経済に溶け込ませた。そして、世界貿易機関への加盟を実現し、中国を世界的な経済大国に押し上げた。

しかし、江沢民の生い立ちには、このようなダイナミックな役割を果たすことを示唆するようなものはほとんどなかった。

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習近平中国国家主席(左)と話す江沢民。2017年10月24日、北京の人民大会堂で開催された第19回中国共産党大会の終盤にて。

江沢民は江蘇省の揚州市で育った。当時、伝統的な農業中心主義と近代的な工業化経済の間で移行期にあった社会であり、政治的混乱が絶えない場所だった。揚州での子供時代、江沢民は中国医学の有名な開業医としての祖父の地位と富の恩恵を受け継いだ。彼の父親は訓練を受けた技術者で、西洋様式の企業で働き、家族に比較的快適な環境を提供していた。

しかし、江沢民に最も大きな影響を与えたのは、叔父の江上青(Jiang Shangqing、1911-1939年、28歳で死)であった。日本軍、国民党政府、軍閥と戦う共産主義者のリーダーとして、江上青は幼い頃からその浮き沈みの激しいキャリアを目の当たりにしてきた。江沢民が9歳になる前、日本が中国中央部を侵略する前、国民党当局は江上青が教えていた学校で共産主義のプロパガンダを広めたとして2度投獄している。

1930年代後半、日本軍が中国東部の主要都市を征服した後、共産主義ゲリラ軍は、安徽省、江蘇省、浙江省で日本の占領者に対して複雑な闘争を繰り広げた。共産軍は中国国民党軍と地主たちが組織する民兵と協力して戦った。共産党新路軍の地方司令官である張勁夫(Zhang Jingfu、1914-2015年、101歳で没)は、江上青を安徽省北部の共産党軍の副司令官という重要な地位に任命した。しかし、それからわずか数カ月後、江上青に対して個人的な恨みを抱いていた地元の地主が共謀して彼を殺害した。 1939年の彼の死の状況は不明のままだが、江上青は死後、故人の近親者に公式および非公式の利益を与える「革命的殉教者(revolutionary martyr)」という名誉を与えられた。江上青の場合、彼の甥であり、死後に養子となった江沢民は、彼の殉教者の地位の最大の受益者になった。

江沢民は叔父の活躍ぶりを聞かされていたはずだ。そして、革命は毛沢東の言うように「晩餐会ではない(not a dinner party)」ことも幼い頃から知っていた。江沢民は高校、大学の前半までほとんど政治から遠ざかっていた。しかし、1940年代半ば、国民党と毛沢東率いる中国共産党との間で内戦が激化すると、江沢民は密かに共産党に入党する。

1949年、中国共産党が国民党との内戦に勝利すると、江沢民と彼の世代の共産主義知識人たちは活躍の場を得ることができた。中国共産党の大軍は、文盲の農民兵が主力であり、国民党の官僚が去った後の中央・地方の複雑な官僚機構を動かすには力不足であった。中国共産党は、1949年以降、数千の工業会社を国有化し、統治上の問題をさらに深刻化させた。

中国共産党は、絶望的なまでの人材不足を補うために、1949年以前に入党した大学や高校の卒業生を直ちに権威ある地位に押し上げた。江沢民は、有名な上海交通大学の工学部を卒業し、1949年以前に働いていた上海のアイスキャンデー工場のチーフエンジニアになった。

殉職した叔父とのつながりが、江沢民のキャリアにさらなる追い風となった。新四軍で叔父の戦友だった汪道涵(Wang Daohan、1915-2005年、90歳で没)は、中国東部の工業会社を全て任された。そして、当時20代半ばだった江沢民をアイスキャンデー工場の最高経営責任者に抜擢した。この昇進は、江沢民の運命を汪道涵と新四軍閥が結びついたものだった。

1952年に汪道涵は、拡大していた第一機械省の副大臣に任命された。第一機械省は、中国におけるエンジンと通信機器の全ての民間生産を監督していた。江沢民は汪道涵の幕下に加わり、すぐに自動車製造の訓練のためにモスクワに派遣された。中国に戻ると、江沢民は第一自動車工場の上級職に任命された。このプロジェクトは、寒冷な気候の中国北東部の長春にあるソ連が支援した産業プロジェクトで、第一機械省が管理していた。次の10年間、第一自動車工場の上級職に就いた江沢民は、後に江の主要な支援者となった、周建南(Zhou Jiannan、1917-1995年、77歳で没)をはじめとする第一機械省の他の幹部たちと親しくなった。周建南は中国人民銀行総裁を務めた周小川(Zhou Xiaochuan、1948年-、74歳)の父親だ。
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当時、上海市長を務めた江沢民の写真(1985年10月)

毛沢東が1966年に文化大革命(Cultural Revolution)を開始し、中国政府と社会から「不純な(impure)」要素を排除した時、江沢民の有望なキャリアは運命づけられたように見えた。毛沢東は共産党高官の大多数を粛清し、第一機械省を含むほとんどの省庁を空洞化させた。江沢民が所属する第一機械省や他の​​省庁の若い幹部の一部は、上司と「闘う(struggle)」ために紅衛兵(Red Guards)を結成したが、江沢民は参加しなかった。その代わりに、江沢民は紅衛兵の批判の侮辱を受け、「5月7日幹部学校(May 7 cadre school)」(強制労働収容所に党がつけた婉曲的な名前)で厳しい 4年間を過ごした。

中国共産革命を成し遂げた上級のヴェテランと苦楽を共にするという江沢民の確固たる意志は、最終的に信頼できる若い同志としての彼の評判を強化することにつながった。激動の文化大革命の終盤、新四軍の派閥が鄧小平の新たな連合に加わり、権力を握って中国を統治するようになった。

汪道涵は、新4軍派閥の上級メンバーとして、重要な国務院の役職を次々と与えられた。そして、その後に上海市長に任命された。あらゆる段階で、汪道涵は彼の主要な弟子である江沢民を自分と一緒のペースで昇進させた。一方、江沢民の叔父である江上青の元新第四軍の上級司令官だった張勁夫は、中国で2番目に強力な経済機関である国家経済委員会(State Economic Commission)の局長になった。

汪道涵が対外貿易と対外直接投資を統括する新しい機関の責任者になると、江沢民もその機関の幹部になった。この経験を通じて、江沢民は、中国共産党内で数少ない対外貿易の専門家となることができた。1985年、汪道涵は上海市長を退任する際、後任に江沢民を据えるよう中央幹部に積極的に働きかけ、それを実現した。

江沢民にとって、上海市長就任は重要な出来事となった。上海市長は、上海市党委書記の1つ下の職位であるが、上海市党委書記になれば、自動的に政治局(Politburo)の局員の座に就くことができる。1987年、現職の上海市党委書記だった芮杏文(Rui Xingwen、1927-2005年、78歳で没)が北京の中央書記局に昇進すると、江沢民は芮杏文の後任として政治局入りを果たした。

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深圳経済特区創設10周年で北京において演説を行う江沢民(1990年11月26日)

1980年代末の政治的混乱状況での複数の出来事によって、江沢民は自分の野心以上にキャリア昇進加速させた。胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳で没)、趙紫陽(Zhao Ziyang、1919-2005年、85歳で没)という2人の党最高幹部が、学生による抗議活動の奨励とイデオロギーの逸脱という「政治的誤り(political errors)」によって粛清され、新任の政治局員である江沢民の出番となった。1989年5月、江沢民は新四軍派閥とその盟友の支持を受け、外国貿易の専門家であることを武器に、失脚した趙紫陽の後継者として中国共産党の指導者に選ばれた。鄧小平は他の候補者を新総書記に推すこともできたが、新四軍派閥とその盟友の強い働きかけにより、江沢民を推すことになった。

江沢民の最初の数年間、不安と心配の連続であった。1989年6月4日、天安門事件で流血の弾圧を受け、中国共産党中央委員会(Central Committee)は、6月23日に急遽招集され、江沢民を総書記に「選出(vote)」した。鄧小平は数カ月で中央軍事委員会主席(chairmanship of the Central Military Commission)から退き、軍隊を指揮したことのない江沢民に軍の統制権を渡すと発表した。1989年11月末には、江沢民は中国共産党の最も重要な役職を全て名目上、兼任することになった。

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中国共産党総書記江沢民(左)は最高指導者を引退した鄧小平と握手している。1992年10月の北京での第14回中国共産党大会にて

鄧小平と親交のあった楊尚昆(Yang Shangkun、1907―1998年、91歳で没)と弟の楊白氷(Yang Baibing、1920-2013年、93で没)を中心とする人民解放軍幹部は、早くも軍部の権力強化に乗り出し、江沢民はますます人民解放軍の表看板(figurehead)に過ぎない存在になった。しかし、江沢民は革命家の子息である曾慶紅(Zeng Qinghong、1939年-、83歳)の協力を得て、1992年の第14回中国共産党大会で楊兄弟を権力の座から引きずりおろした。

この時、もう1つの危機が訪れた。1991年、鄧小平は国営経済の急速な規制緩和(deregulation)を提唱し、江沢民は窮地に立たされた。鄧小平は、国営企業で働いた経験から、鄧小平の主張を受け入れることに躊躇し、ライヴァルたちから厳しい批判を浴びることになった。しかし、江沢民はすぐに軌道修正し、鄧小平の自由化路線(liberalization drive)を支持することになる。

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1992年10月12日、第14回中国共産党大会の開幕で演説を行う江沢民

政治面で完璧な接近戦を得意とする戦士である江沢民の最大の功績は、振り返ってみると、彼が中国を革命時代から遠ざける一方で、その初期の時期を特徴付ける暴力を回避したことにあるかもしれない。

1989年から2002年まで江沢民が統治した中国では、高官の大規模な粛清は行われなかった。1997年に鄧小平が死去した際も、中国共産党の幹部はほとんど動揺することなく統治を続けた。遠華密輸事件(数十億ドル規模の文官・軍幹部が関与した事件)の反腐敗運動でさえ、数人の中国共産党幹部とその子女、そして福建省の数多くの下級幹部が罷免されたに過ぎない。

このような政治的安定が腐敗を生むことになったが、新興の民間企業や外資が国家レヴェルの激変にほとんど影響されずに成長することを可能にした。江沢民は、政治的謀略(political scheming)もさることながら、直感的な権力共有の意思によって、統治期間中、団結と前例のない政治的な平穏(tranquility)を維持した。

これに加ええて、江沢民は国家官僚としての経験を、中国の指導者としての経済政策に反映させることはなかった。鄧小平の規制緩和(deregulation)を支持し、上海の歴史的なウォーターフロントから対岸に経済特区を建設し、金融の分権化(decentralization)を支持した(その後、インフレにより金融統制が強化された)。1990年代から2000年代にかけての中国の成長にとってより重要なことは、江沢民が一貫して海外直接投資を支持し、台湾や香港を含む海外投資家への優遇策を支持したことである。

1990年代後半、WTO加盟交渉が過熱する中、江沢民は国営企業の中核層に対して、輸出量を大幅に増やす代わりに関税率の大幅な引き下げを受け入れるよう説得した。しかし、これは容易なことではなかった。新しい輸出の利益は、競争力のない国営企業ではなく、主に外国人投資家と民間企業にもたらされるからだ。しかし、江沢民の圧力と補助金増額の約束が功を奏し、中国はWTOに加盟した。

江沢民は、中国のエレクトロニクス産業で上級テクノクラートを務めた経験から、外国や国内の民間投資家たちが立ち上げた企業を含む中国のハードウェアおよびソフトウェア産業にも大きな支援を行っていた。例えば、国営小売業の多くを駆逐したアリババは、江沢民時代に創業し、後継者の胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)の統治下でも繁栄を続けた。

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1993年11月20日、シアトルで開催されたアジア太平洋経済協力会議(Asia-Pacific Economic Cooperation conference)江沢民(左から3人目)とビル・クリントン米大統領(左から4人目)が他の各国首脳たちと共に

中国のWTO加盟は、中国の国営企業にストレスを与えたが、中国全体としては紛れもなく利益をもたらした。2000年から2019年末の間に、中国の輸出は2500億ドルから2兆5000億ドルへ、10倍も増加した。1人当たりの可処分所得も同様に同期間に8倍以上に増え、数億人の中国人、特に都市部に居住する人々の生活を大幅に向上させた。

振り返ってみれば、2000年に江沢民が香港の記者を罵倒したのも、あれほどの嘲笑を浴びるには値しなかった。ある意味で、このエピソードは江沢民支配の典型である開放性と自信を明らかにした。香港が既に中国の統治下にあったにもかかわらず、香港の自由な報道を容認し、記者と会って台本にない質問にも答えた。この記者の質問は気に入らなかったようだが、それ以上の処分は受けず、彼女は中国の指導者と対立したことを伝え続けた。

江沢民は、党の抑圧力で組織的な異論を封じ込める一方、知識人による政策批判には寛容だった。また、古典と現代、両方の外国文化を好み、外国からの訪問客にお気に入りの西洋のメロディーを聞かせるのが常だった。エイブラハム・リンカーンのゲティスバーグの演説を暗唱することもあった。このような特異性は、当時は鼻で笑われ、嘲笑されたが、現在の指導部層が、西洋文化や広い世界への江の純粋な関心を共有していないことは残念なことだ。

江沢民統治下の中国は自由でも民主的な場所でもなかったが、この地域の多くの人々は今では郷愁を覚えているかもしれない。江沢民の堅実性、彼の開放性、そして政権をマスコミや社会全体からの批判に晒す彼の意欲を人々は懐かしがっているのだろう。

※ヴィクター・シン:カリフォルニア大学サンディエゴ校国際政策・戦略大学院ホウ・ミウ・ラム記念中国・太平洋関係プログラム主任、准教授。著書に『弱者たちの連合:毛沢東の軍略から習近平の台頭まで(Coalitions of the Weak: Elite Politics in China From Mao’s Stratagem to the Rise of Xi Jinping)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 先月、中国共産党第20回党大会が閉幕した。人事面で習近平派が大多数を占め、中国国内政治で影響力を誇った、胡錦涛前国家主席を領袖とする中国共産主義青年団(共青団)の派閥(共青団派、団派)と江沢民元国家主席が率いる上海閥が最高指導者層(中央政治局)から排除された。政治局常務委員7名、政治局委員24名にこれら2つの派閥から登用されなかった。

 しかし、長老たちは派閥間の抗争を乗り越えて、習近平の個人崇拝体制確立阻止のために提携したということを以下の日本経済新聞の記事は伝えている。習近平は「二つの確立」という言葉を党綱領に入れることで、「習近平思想」を確立し、自分を毛沢東と並ぶ中国の偉大な指導者ということにしようと試みた。以下に舌の記事から重要な部分を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

「二つの確立」とは、習の核心として地位の確立、そして「習近平新時代中国特色社会主義思想」(中国語で16文字)の指導的地位の確立を指す。重要なのは後者だ。個人名を冠した思想の指導的地位が確立されれば、長い表現も「習近平思想」と短縮される。2つはセットだ。

それは「習近平思想」が、党の公式ルール上も「鄧小平理論」を超えて「毛沢東思想」に並び立つ革命的な変化を意味する。理論より権威ある思想は、毛沢東と習近平だけになる。

習に毛沢東に倣う「領袖」の呼称を使うことが公認され、最後は共産党中央主席(党主席)ポストの復活で、トップ「終身制」に道を開く。個人崇拝禁止も事実上、消える。これが習が狙った段取りだ。

(貼り付け終わり)

 中国において毛沢東と比肩する存在になるということは、現在の中国の繁栄の柱石となった鄧小平を超える存在になるということを意味する。鄧小平に育てられた、もしくは抜擢された長老たちはそれだけは阻止する、個人崇拝の阻止だけは断固としても行うということで団結して習近平に対抗したということだ。そして、それが奏功したということだ。

 習近平が個人に力を集中させる体制作りはこれからの不安定な世界情勢、最悪の場合には第三次世界大戦に対応するためのものだ。しかし、習近平の行き過ぎ、個人崇拝体制の確立は中国を誤らせるものと長老たちは判断し、行動したようだ。中国国内政治の暗闘を生き抜いてきた長老たちは最終ライン、超えてはいけないラインを設定し、それを守らせる。彼らの存在意義はそこにある。彼らはまた、文化大革命期に粛清された鄧小平を守ったように、共青団派や上海閥の人材を自分の羽の下で保護し、情勢が変化すれば、こうした人々を利用できるように準備しているということになるだろう。中国の二段構えは奥が深いということになるようだ。

(貼り付けはじめ)

●「習近平崇拝だけは許すな」 長老が守り切った最後の砦  

編集委員 中沢克二

2022112日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD277QK0X21C22A0000000/

誰もが、3期目入りした共産党総書記、習近平(シー・ジンピン、69)の完全な勝利で閉幕したと思っていた共産党大会。それは片面にすぎなかった。完勝と言い切れるのは人事だけだったのだ。

「退職した老人は黙ってろ」。5カ月前、現役ワンマン社長から怒鳴られて鬱屈していた創業に尽力した老人らは、裏でひそかに動き出していた。驚きの成果が突然、明らかになったのは、閉会から4日が過ぎた1026日のことだった。

習がこだわり続けた改正後の共産党規約全文に、彼への忠誠を示す「二つの確立」というスローガンが全く見当たらない。多くの指導者が口にし、北京の街角には横断幕も掲げられた。党大会決議でも言及されたのに、肝心の本文では完全に無視された。

短縮された「習近平思想」「人民の領袖」という文言もない。あの騒々しい前宣伝は何だったのか。この異変にはもちろん裏がある。カギは「老人パワー」だった。

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20回中国共産党大会の開幕式で言葉を交わす105歳の最長老、宋平氏㊧と曽慶紅・元国家副主席(1016日、北京の人民大会堂)=共同

習が狙った表現は、簡単にいえば鄧小平を超えて、毛沢東と並び立つ地位を得るための政治的な道具だった。だが、党大会のひな壇に並ぶ長老は全員、鄧小平時代の申し子だ。人生の矜持(きょうじ)にかかわるだけに、簡単に通すはずがない。

闘いの火蓋を先に切ったのは、意外にも習サイドだ。515日に表に出た「老人は黙れ」という命令である。伝達者は今回、序列6位で最高指導部入りした実力秘書、丁薛祥(ディン・シュエシアン、60)だ。

「党中央の大きな政治方針をみだりに論じるな」という異例の中央弁公庁通達の主眼は、習が面談で勝手に決める仕組みが出来上がった指導部人事ではなかった。中国憲法より権威ある共産党規約の抜本改正を有利に導く言論統制だったのだ。

北京・中南海での改正に向けた「小組」全体会議初会合(530日) を前にした「口封じ」。それは完全に裏目に出た。長老、一般の退職幹部からも「ふざけるな」という散々な反応だったのだ。

■江沢民、曽慶紅両氏まで「ゆるゆる連携」

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党大会閉幕式で、習近平総書記㊧の書類に手を伸ばす胡錦濤前総書記㊨(10月22日、北京の人民大会堂)=共同

党規約には、毛沢東のような独裁者を永遠に生まぬよう「いかなる形式の個人崇拝もこれを禁止する」という金言がある。文化大革命(文革、196676年)時の失脚から復活した鄧小平による829月の党規約抜本改正の根幹だ。

「『習近平崇拝』だけは許すな」。これが5月以降、長老、退職幹部らの緩やかな連帯の合言葉になっていった。会談で示し合わせたわけでもないあうんの呼吸。「ゆるゆるの連携」にすぎないが、それぞれ声を発するなら、習への大きな圧力になる。

もちろん奇怪な「宮廷政治劇」の主人公、胡錦濤(フー・ジンタオ、79)も、40年続く信念を胸に抱きながら退場したに違いない。挙手採決の直前だった紅(あか)いファイル内の改正最終案が、彼にとって心から賛同できるものだったかは不明のままである。自分が苦労の末、作り上げた公正な幹部任用規定は既にズタズタだからだ。

高齢の元総書記の江沢民(ジアン・ズォーミン、96)は、党大会に出ていない。だが、やはり鄧小平の遺志を継ぐ後継者だ。習が党規約改正を道具に使って、自分ばかりか、師匠までないがしろにするのは許せない。

胡錦濤は、江沢民、元国家副主席の曽慶紅(83)ら「上海閥」といがみ合ってきた。とはいえ「習近平崇拝は許すな」の1点だけなら思いは同じだ。タッグは組めなくても、それぞれ異論をぶつければ圧力は増す。盟友の前首相、温家宝(80)、「胡・温」コンビを見いだした名伯楽で105歳の最長老、宋平は当然、同志である。

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香港紙がインターネット上に出回ったと報じた中国の江沢民・元国家主席㊨の近影とみられる写真=共同

長老はもはや人事には口を挟みにくい。だが今や9600万人を超す共産党員がこの40年、大事にしてきた根本の崩壊だけは阻止する。中国の発展を止めないために、という「大義」は賛同を集めやすい。こうして今回も鄧小平の金言は維持された。

「個人崇拝禁止と『二つの確立』は相いれず、矛盾する。両立が無理なのだから、どちらかが落ちる。今回は『二つの確立』が負けた。当然の結果だ。『老人』は最後の力を出した」。老共産党員の説明は理路整然としている。

客観的な証拠がある。国営通信の新華社は、改正党規約誕生のドキュメント記事で「現行党規約は、829月の第12回党大会の改正で制定された。40年来、党規約の基本内容を安定的に保持する前提の下・・」という大前提をわざわざ紹介している。5年前、10年前のドキュメントにはない特別な表現だ。

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党大会閉幕式を途中退席する胡錦濤氏㊥。手前左から2番目は温家宝氏(10月22日、北京の人民大会堂)=比奈田悠佑撮影

後段では「党内で合意が形成された内容だけを修正する」とした。こちらは毎回の決まり文句だが、前段と合わせれば意味は明らかだ。「鄧小平以来の基本を守り、合意重視で改正した」という説明になる。長老らの抵抗で習は事実上、挫折した。その蹉跌(さてつ)に直接、触れない苦心の作文である。共産党政治の表と裏は全く違う。

「二つの確立」とは、習の核心として地位の確立、そして「習近平新時代中国特色社会主義思想」(中国語で16文字)の指導的地位の確立を指す。重要なのは後者だ。個人名を冠した思想の指導的地位が確立されれば、長い表現も「習近平思想」と短縮される。2つはセットだ。

それは「習近平思想」が、党の公式ルール上も「鄧小平理論」を超えて「毛沢東思想」に並び立つ革命的な変化を意味する。理論より権威ある思想は、毛沢東と習近平だけになる。

習に毛沢東に倣う「領袖」の呼称を使うことが公認され、最後は共産党中央主席(党主席)ポストの復活で、トップ「終身制」に道を開く。個人崇拝禁止も事実上、消える。これが習が狙った段取りだ。

■一矢報いた胡錦濤氏、「鄧小平超え」却下

終身制だけは阻みたい長老らは、代償として一つだけ妥協した。それが「二つの維持」の容認だ。これは核心の地位を守り、集中統一指導を守るにすぎない。核心は、毛沢東、鄧小平、江沢民も同じで、個人崇拝、終身制に直結しない。

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街中に記された「二つの確立」の文言(10月13日、北京市)=比奈田悠佑撮影

「この規約ならトップが彼(習)でなくなった時代にも何とか通用する」。82年改正の経緯から知る老識者の指摘にはハッとさせられた。

仮に2027年に権力を委譲してもすぐには問題が出ないのだ。最終的に習は「二つの確立」を党員に要請するだけの党大会決議採択で面目を保つしかなかった。苦渋の妥協だ。

胡錦濤は人事では弟分、子分を守れなかった。それでも最後のとりでの党規約だけはギリギリ守り切った。一矢報いたのだ。習と一心同体ではない共産党という大組織が党の憲法上、習の「鄧小平超え」という野望の実現をひとまず却下したのである。これが「胡錦濤劇場」の幕切れ後にわかった極めて重大な内幕と歴史的な意義だ。

これを踏まえ党大会評価の角度を少し変えるべきかもしれない。習は人事で完勝し、党規約抜本改正=「鄧小平超え」で挫折したのではなく、「鄧小平超え」を体現する党規約改正で勝てないのが明白だから、人事だけは完璧な勝利を必要とした。そんな見方も成り立つ。改正難航は8月の「北戴河会議」後にはわかったはずだ。

首相の李克強(リー・クォーチャン、67)は北戴河会議明けの816日から広東省深圳に入り、鄧小平像に献花。港湾視察で改革開放に触れ、「黄河、長江が逆流することはない」と言い切った。鄧小平に由来する党規約の根幹維持を意味していた。
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鄧小平像に献花する李克強首相(817日の中央テレビニュースの画面から)

一方、これが人事を指すという解釈は誤解だった。人事は究極的には習の独断で決まる。「面談重視」は、習に圧倒的に有利なのだ。

5年後に再挑戦する戦略転換を強いられた習は、極端な最高指導部人事に走る。李強(リー・チャン、63)、蔡奇(ツァイ・チー、66)、丁薛祥、李希(リー・シー、66)の側近4人を引き入れ、政治局からも胡錦濤派を一掃した。リベンジに向けた体制立て直しである。

■「新四人組」連れて毛沢東詣で

「これは『新四人組』を使った新たな整風運動だ」。中国政治をよく知る人物の分析は少しオーバーに感じたが、その例えは的外れではないことがすぐ証明された。習は党大会が終わると真っ先に、「新四人組」と評された面々を含む6人を連れて陝西省・延安に入った。

内陸部の黄土高原にある延安は、1940年代に毛沢東が反対派を迫害した「延安整風運動」の地だ。毛沢東はその20年後、本当の「四人組」を使った文革の悲劇を引き起こす。習は延安の毛沢東旧居でリベンジを誓っただろう。

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毛沢東の革命根拠地だった陝西省延安の記念館に並ぶ習氏㊥ら新最高指導部メンバー=新華社・共同

長老の政治力は年々、衰える。中央委員まで自派で固めれば、5年後に熟柿(じゅくし)が落ちるように望みがかなう。ただし、「新四人組」のうち半数以上は5年後にお払い箱になり、「新新四人組」に入れ替わるかもしれない。習の腹ひとつである。

人事完勝と対照的に思い通りにならなかった「鄧小平超え」を体現する党ルールの抜本改正。習はなお「闘争」を口にしている。少なくても今後5年、再び激しい政治的な闘いが続くのは間違いない。

「胡錦濤劇場」は宮廷政治劇である以上、観衆の共産党の現役幹部からアンコールを求める拍手が起きることはあり得ない。主役の胡錦濤が舞台あいさつのため再び登場するのは難しいだろう。

それでも、表では決して上演されない第2幕、第3幕が必ず内部で用意されているはずだ。今回の長老と退職幹部のうごめきのように。それを竹のカーテンの隙間からのぞいてみたいという衝動に駆られる。永遠の謎として封印される前に。(敬称略)

(貼り付け終わり)

(終わり)

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