古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

 2022年10月16日に第20回中国共産党大会が開催される。今回の党大会の焦点は人事であり、それについて前回、林和立の記事をご紹介した。林は今回の党大会における人事は、国防・航空宇宙産業(中国語では工航天系、jungonghangtianxi)出身者たちの登用が特徴となるだろうと書いている。今回は、アメリカの有名シンクタンクであるブルッキングス研究所のチェン・リーの記事をご紹介する。チェン・リーは航空宇宙産業出身者たちを「宇宙クラブ(cosmos club)」、中国語では「航天系(hangtianxi)」、「宇宙帮(yuzhoubang)」という言葉で一つのエリート集団としてまとめ、今回の中国共産党大会で多くが中央委員会入り、2から3人ほどが政治局(25人)入りするだろうと主張している。第7世代(1970年代生まれ)と合わせて、こうした人々がどれだけ登用されるのかに注目が集まる。

 習近平体制3期目、4期目は宇宙開発で中国がアメリカをリードすることを目指しているという論調であるが、これはより露骨に言えば、宇宙戦争などアメリカとの軍事衝突を含む、不測の国家安全保障に大きな危機を与える状況に即応できる体制を作るということになるだろう。これまでの兵士たちが銃を撃ち合う、戦車や航空機が戦うという戦争のイメージから大きく変化した戦争に備えるということになると思う。そして、習近平体制で後継者と次の政権の主要メンバーを決めておくということになる。そのキーワードが「第7世代」と「宇宙クラブ」ということになる。

 こうして見ると、中国の国家指導者層作りの精密さには驚くばかりだ。日米はまずオールドタイマーがいつまでも居座り、新陳代謝がうまくいかず、加えて能力選定や判定の手続きも機能していないように見える。日米は昔のソ連の国家指導者と同様に機能不全に陥っているのではないかとすら思えてしまう。結果として、こうしたところに国力の減退が見えてしまう。日本の閉塞状況、終わりの始まりを実感する。

(貼り付けはじめ)

習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン(The rapid rise of 'the cosmos club' in the Xi Jinping era: Countdown to the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントンセンター部長)筆

2022年9月9日

『シンク・アジア』

https://www.thinkchina.sg/rapid-rise-cosmos-club-xi-jinping-era-countdown-20th-party-congress

中国共産党中央委員会に航空宇宙分野の出身者がいることは目新しいことではないが、習近平時代ほど、このグループがこれほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導層に浸透したことは歴史上ない。ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長であるチェン・リーは、彼らのうち2人、あるいは3人が第20回党大会の政治局有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすだろうと語っている。

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2021年10月19日、中国東部浙江省の杭州で開催されたクラウドコンピューティングと人工知能(AI)の会議「アプサラ会議」で展示された中国の宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」の模型

過去10年間、中国の宇宙開発における野心と成果は、世界中で大いに注目されてきた。それほど注目されていないが、おそらく同じように注目されているのが、中国の政治指導層における航空宇宙産業の経営者の台頭である。最近、「宇宙クラブ(the cosmos club、航天系 [hangtianxi]、宇宙帮[yuzhoubang])」という新しい言葉が生まれた。この言葉は、中国の宇宙・航空産業から国家・省レヴェルの指導者にまで上り詰めた、独特のテクノクラート集団を指す。

いくつかの中国語メディアの論評によると、第20回中国共産党大会の前夜、宇宙クラブは新たな「政治的高地(political highland、政[]高地[zhengtan gaodì])」を占拠している。新疆ウイグル自治区党委書記の馬行瑞(Ma Xingrui、1959年-)、湖南省党委書記の張慶偉(Zhang Qingwei、1961年-)、浙江省党委書記の袁家軍(Yuan Jiajun、1962年-)、国務委員の王勇(Wang Yong、1955年-)、国務院国有資産監督管理委員会(state-owned Assets Supervision and Administration Commission SASAC)委員長の郝鵬(Hao Peng、1960年-)、国務院工業情報化部長の金壮龍(Jin Zhuanglong、1964年-)などが名を連ねている。

この6人の指導者たちは、中国の宇宙・航空産業で数十年の実務経験があり、現在、中国共産党中央委員会の正式メンバーである。このうち2人、あるいは3人は今秋の第20回党大会で政治局(訳者註:25名)の有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすことになる。

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左から:(上段)張慶偉湖南省党委書記、馬興瑞新疆ウイグル自治区党委書記、王勇国務委員、(下段)金壮龍国務院工業情報化部長、郝鵬国有資産監督管理委員会委員長、袁家軍浙江省党委書記

中国共産党中央委員会に航空宇宙関連の経歴を持つ指導者たちが存在することは、もちろん新しいことではない。しかし、このグループは習近平時代におけるほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導部に浸透したことはない。過去10年間、これらの指導者の一部は省長(党委書記や知事)を務め、長い間、国のトップへの足がかりとされてきたポジションに就いた。また、国務院の重要な閣僚ポストを務める者もいる。第19期中央委員会メンバー376人のうち、宇宙クラブ所属と呼べる指導者(文官、軍人を含む)は46人もおり、全体の12.2%を占めている。

中国共産党指導部内のこのような独特のグループの強さは、間違いなく、中国が「宇宙開発クラブ(space club)」において重要な役割を果たそうとする願望を反映している。イギリスの学者マーク・ヒルボーンが2020年の研究で述べたように、中国の宇宙計画は「特に印象的で、ここ2年間だけでも多くの国の宇宙での全成果を凌ぐ発展を示している」のである。中国の指導者たちにとって、昨年の天宮宇宙ステーションの打ち上げほど、中国の愛国心を喚起するのに有効なものはないだろう。新浪微博(Sina Weibo)のライヴビューは3億1千万回に及んだ。このエリート集団の強い代表性は、中国共産党指導部の中に、宇宙産業の「加速的発展(accelerated development)」に対するより広い支持があることの表れと見ることができるだろう。

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2022年7月24日、中国南部の文昌宇宙基地から飛び立つ、中国の天宮宇宙ステーション第2モジュールを搭載したロケット

エリート形成の観点からは、この集団は党指導部内の新たなテクノクラート集団に凝集される可能性がある。これは、将来の政治指導者の採用ルートを広げるだけでなく、民生と軍事の融合を含む中国指導部全体の方向性に大きな影響を与え、今後の政策選択や最高レヴェルの意思決定に影響を与える可能性が高い。

●航空宇宙産業出身の指導者たちが中央委員会に多数昇進(The prevalence of leaders with aerospace backgrounds in the Central Committee

これまでこのシリーズでは、中国共産党指導部における国有企業や金融機関出身の経営者の重要性が、特に若い年齢層で高まっていることを分析してきた。しかし、CEOから政治家に転身した人々の中で、航空宇宙・航空部門からキャリアを積んだ指導者ほど、今日の高位指導層で優位に立っているグループはない。

この2つの分野の構造的発展について、中国当局は、「航空能力と宇宙開発能力の統合(integrated air and space capability、空天一体[kongtian yiti])」として、同一のカテゴリーに(商業的にも軍事的にも)分類している。

図表1は、第19期中国共産党中央委員会に宇宙クラブから参加した人々の産業背景を、他の産業と比較したものである。航空宇宙産業が最も多く、委員12人、委員候補16人の合計28人である。このグループの代表は、2位の銀行・金融グループの代表の2倍である。

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石油・化学分野での勤務経験者はわずか6人で、航空宇宙・航空機分野の4分の1以下である。これは、過去20年のいくつかの中央委員会では、上位のリーダーにとって石油分野が他の産業分野よりも高い、唯一最も重要なビジネス経歴だったことと比べると大きな変化である。

●航空宇宙産業出身の指導者たちを登用する習近平の強い意向(Xi Jinping’s strong inclination to promote leaders with aerospace backgrounds

習近平は長い間、中国の宇宙開発計画、つまり軍事と民生の両面における航空宇宙産業を優先させることを提唱しており、それは中国の国力と世界舞台での地位を示す最高の証であると考えている。習近平が2013年にトップ(国家主席)に就任して間もなく、試作品の宇宙ステーションで宇宙飛行士と時間を共有したが、中国の宇宙開発の夢(China’s space dream)は「中国をより強くする夢の一部」であると述べた。より大きく言えば、宇宙開発計画は国の再興(national rejuvenation)という長期的なヴィジョンに不可欠な部分である。

2016年以降、中国は1970年に中国初の人工地球衛星「東方紅1号(Dongfanghong-1)」が打ち上げられた4月24日を「中国宇宙の日(China’s Space Day)」と定めている。習近平をはじめとする中国共産党の指導者たちにとって、中華人民共和国は今、宇宙の次のフロンティアを開拓するための惑星間競争に全速力で取り組んでいるのである。

2017年1月、習近平は、習近平自身をトップとする「軍民融合発展委員会(Military-Civilian Fusion Commission)」という軍民の開発統合を監督する新しい委員会を設立した。軍民融合開発についての最も重要な技術提供者は、月探査計画(Lunar Exploration Programme、通称:嫦娥計画)、有人宇宙飛行計画(神舟計画)、天宮宇宙ステーションなど、注目の大型プロジェクトを実施してきた航空宇宙産業であると言ってよいだろう。

習近平が航空宇宙産業出身者を登用する重要な理由は他にもある。(1)エリートの選別ルートの拡大、(2)政治権力基盤の拡大・多様化、(3)技術革新志向の強い新世代のテクノクラートの育成、(4)経済ローカル主義と地方政治派閥を弱めるために「アウトサイダー」を省や市の指導層に登用する、(5)経済効率と地方の国際競争力を高めるため、中国の主要企業の元CEOを省長に任命する、(6)軍民企業の一体的発展を促進する、(7)より近代化した防衛産業を構築し国家安全を強化する、などが挙げられる。

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中国有人宇宙機関(China Manned Space Agency CMSA)が2022年9月2日に撮影・公開した配布資料画像で、6時間の宇宙遊泳を成功させ、船室モジュールに戻る中国の宇宙飛行士、陳冬と劉洋

「メイド・イン・チャイナ2025」計画に基づく中国の積極的な産業政策は、航空宇宙、造船、ロボット工学など、中国指導部が「戦略的に重要な分野」で国家が支援する国内プレイヤーを促進することを目的としている。宇宙クラブのメンバーたちは、中国が最重要視するハイテク分野でキャリアを積んできた。

中国の反体制派で中央党校の機関誌『学習時報』の元編集者である鄧禹文は、最近『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙の取材に対して、「習近平は航空宇宙・防衛分野で活躍した人物をより信頼している」と述べている。ある意味、中国の航空宇宙・防衛産業におけるこれらのテクノクラートは、中国共産党の指導者が「中国の特色ある社会主義(socialism with Chinese characteristics)」と呼ぶもの、あるいは批評家が「国家資本主義(state capitalism)」と表現するものを最もよく実現できているのだ。

航空宇宙産業出身の指導者たちの台頭は、政治的な考慮によっても説明することができる。これらの指導者たちは、専門家としてのキャリアのほとんどを技術分野で過ごし、省・市の指導者としての在職期間も比較的短かった。その結果、国のトップに対して忠実に動く傾向が強い。このことは、宇宙クラブに所属する有力者の経歴を詳しく見てみると明確だ。

●「宇宙クラブ」出身で注目される著名な候補者たち(Prominent candidates to watch from 'the cosmos club'

中国共産党中央委員会には、長い間、数人のロケット科学者がいた。いわゆる「2つの爆弾、1つの衛星(两一星、two bombs, one satellite)」計画(原爆、大陸間弾道ミサイル、人工衛星を指す中国の一般的な表現)の主要な貢献者の何人かは、中国共産党中央委員会の委員を務めた。国際的に著名な科学者である銭学森(Qian Xuesen、1911-2009年、97歳で没)は第9-12期中央委員候補、朱光亜(Zhu Guangya、1924-2011年、86歳で没)は第9-10期中央委員候補、第11-14期中央委員、鄧稼先(Deng Jiaxian、1924-1986年、62歳で没)は第12期中央委員、宋健(Song Jian、1931年-、90歳)は第12期中央委員候補、第13-15期中央委員、周光召(Zhou Guangzhao、1929年-、93歳)は第13-15期中央委員、羅恩杰(Luan Enjie)は第13-15期中央委員候補)をそれぞれ務めた。

最近では、中国航空工業集団公司の元会長で党委書記を務めた林左鳴(Lin Zuoming、1957年-)が第16,17期中央委員候補、第18期中央委員を務めた。しかし、上記の航空宇宙産業のテクノクラートは、いずれも省・市の指導者を務めたことはない。航空宇宙産業の発展初期における唯一の例外は河北省党委書記を務めた張雲川(、1946年-)だ。

張はハルビン軍事工程学院(Harbin Institute of Military Engineering)で教育を受けたテクノクラートで、江西省、新疆ウイグル自治区、湖南省で省レヴェルの指導部を経験した。その後、2003年から2007年にかけて、国家国防科技工業局(State Administration of Science, Technology, and Industry for National DefenseSASTIND)局長、「嫦娥プロジェクト」指導グループ長を歴任した。退任前の2007年から2011年まで河北省党委書記を務めた。第16、17期の中央委員も務めた。

表1は、第20期中央委員会入りが予想されている、航空宇宙産業での指導者経験を持つ著名な候補者20人を紹介したものである。彼らは、科学技術研究や軍産複合体に専従することが多かった一昔前の航空宇宙業界の先輩たちに比べ、政治的・職業的なキャリアパスが多様であるように見える。これらの新星たちの最も特徴的な点は、彼らの仕事の経験のほとんどが、4つの領域にまたがっていることが多いということである。科学技術研究、軍産複合体での管理業務、国務院での閣僚としての指導、省レヴェルのトップでの経験である。

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航空宇宙と航空部門で実質的な指導者経験を共有している (30年または 40 年にわたって働いている人たちもいる) ことに加えて、現在、6人が省レヴェルの指導者を務めている (3人は党委書記、1人は省長)。国務院閣僚クラスの郝鵬、懐進鵬(Huai Jinpeng、1962年-)、唐登傑(Tang Dengjie、1964年-)を含むその他の人々は、以前は省長や省党委副書記を務めていた。その半数以上 (11人) は国務院副部長または部長としての指導経験があり、そのうち5人は現在国務院の部長を務めている。馬興瑞、懐進鵬、曹淑敏(Cao Shumin、1966年-)、張広軍(Zhang Guangjun、1965年-)などの一部の人々は、大学の党委書記、学長、学部長も務めた。

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懐進鵬

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唐登傑

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曹淑敏

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張広軍

これらの有力な昇進候補の中には、既に中央委員会で長い在職期間を持つ者たちもいる。例えば、張慶偉は1960年代以降の世代(第6世代)のメンバーとして初めて中央委員会に在籍した。2002年、41歳の時に第16期中央委員会の委員となり、その後3期の委員会でもその座を守っている。袁家軍と金壮龍は、第17期中央委員会に中央委員候補として初参加した。劉石泉(Liu Shiquan、1963年-)は第16期中央委員会から4期連続委員候補を務めている。

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劉石泉

4人の指導者は、これまで中央委員会に参加したことがない。黄強(Huang Qiang、1963年-)は現在四川省長であることから、第20期中央委員会で委員になる可能性が高い。陝西省組織部長の程福波(Cheng Fubo、1970年-)と安徽省副省長の張紅文(Zhang Hongwen、1975年-)の、第7世代に属するリーダー2人は、今秋の第20回党大会で、中央委員会の委員候補補欠に任命されると見られる、第7世代の有力候補たちである。

最も重要なことは、第20回中国共産党大会において、中国史上初めて航空宇宙分野の指導的立場にある民間人指導者のうち2人、あるいは3人政治局(25人)入りすることが期待されていることだ。全体として、宇宙クラブのメンバーは、この秋に決定される中国共産党中央委員会で記録的な割合で代表占めることになるであろう。

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黄強

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程福波

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張紅文

この記事は最初に『チャイナ・USフォーカス』の「人事改造リポート(Reshuffling Report)」シリーズの一環で、「習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン」として掲載された。このシリーズはブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長チェン・リーによる実証的な研究を基礎にした一連の記事で構成されている。このシリーズは第20回中国共産党大会に向けた記事の内容になっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 第20回中国共産党大会が2022年10月16日に開催される。中国共産党大会は5年おきに開催される。今回の中国共産党大会は習近平体制の継続と人事面での変更が行われると考えられている。中国共産党は約9500万人の党員を擁している。中央委員200名から上が最高幹部で、そのうちの25名が政治局を構成し、更に7名が政治局常務委員(チャイナ・セヴンと呼ばれている)。中央委員に登用されることが中国の最高幹部に入ることになる。今回の第20回中国共産党大会でどのような人物が中央委員や政治局員に登用されるかに注目されている。
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 そもそも習近平はこれまで中国共産党総書記を2期10年務めた。前任の江沢民と胡錦涛は2期10年で引退した。習近平は3期目更には4期目を目指していると見られている。習近平体制を強化するためにも人事の変更が行われるようだ。習近平の3期目継続というのは、歴史的な類推(アナロジー)で考えると、第二次世界大戦中のフランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領を思い起こさせる。ルーズヴェルトはアメリカ史上唯一の4選を果たした大統領である。戦時下という特殊な状況であったが、アメリカの戦時体制確立と推進を行ったことで現在でも評価が高い大統領となっている。習近平も国外での厳しい状況に対処するために強固な体制を築こうとしているようだ。

国外での厳しい状況とは具体的には戦争だ。具体的にはサイバー戦争や宇宙戦争に備える体制づくりだ。習近平は既にそのための布石を打っていたようだ。下に掲載した記事の著者林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)は「この10年間で、領袖(袖、leader)である習近平は国防・航空宇宙産業(工航天系、jungonghangtianxi)の幹部や科学者を民間人のトップに登用した」と書いている。下の記事にいろいろと名前が出てくるか、こうした人々が3期目以降の習近平体制を支えていくということになるのだろう。

 これからしばらく、第20回中国共産党大会に向けでの記事をいくつかご紹介していく。

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第20回中国共産党大会:習近平は次期指導者グループの構成で大きな成功を収めようと動き出している(The 20th Party Congress: Xi Set to Score Big in Composition of Next Leadership Corps

ウィリー・ウー=ラップ・ラム筆

2022年8月12日

『チャイナ・ブリーフ』

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-set-to-score-big-in-composition-of-next-leadership-corps/

●導入(Introduction

中国の習近平国家主席を中心に執拗に作り上げられた個人崇拝に多くの幹部が反発している。今秋の第20回中国共産党大会で中央政治局(Politburo)などの最高指導部の顔ぶれが披露されることになるが、マキャベリストの習近平はトップに君臨し続けることになるだろう。中国共産党総書記(CCP General Secretary)は、中国共産党と中国の「全ての主席(chairman of everything)」として、企業や地方行政の債務超過など経済状況の悪化に対応する最終責任を負っている(チャイナ・ブリーフ:7月18日付)。外交面では、北京のロシアとの「無制限の」準同盟(quasi-alliance)や、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の訪台に伴う台湾周辺での軍事訓練の長期化は、民主化を進める西側同盟と、中国、ロシア、北朝鮮などの権威主義国家(authoritarian states)による「独裁軸(autocratic axis)」のと間の「新冷戦(new Cold War)」を深刻化させるものだ。

習近平は、経済・外交の両分野で優れた政策立案者というわけではないが、最高指導者は、個人的な帝国建設の達人であり、特に中国共産党政治におけるいわゆる「習近平派」の影響力を拡大させることに、その手腕を発揮している。2012年末に習近平が中国共産党総書記に就任した時には小派閥は、今や中国共産党の支配的な派閥となった。そのメンバーには、習近平が1985年から2007年まで務めた福建省や浙江省時代の側近や取り巻きが含まれている。習近平の出身地である陝西省や、習近平の母校である清華大学には、習近平の子飼いの者が多い。この10年間で、領袖(leader)である習近平は国防・航空宇宙産業(军工航天系jungonghangtianxi)の幹部や科学者を民間人のトップに登用した(Chinafocus.com:7月15日;チャイナ・ブリーフ:5月27日)。

一方、かつて党内で優勢だった2つの閥、共産主義青年団派(Communist Youth League Faction CYLF)と上海閥(Shanghai Faction)の重要性は低下している。李克強国務院総理(Li Keqiang、1955年-)と汪洋中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference CPPCC)主席(1955年-)の2人の中央政治局政治局常務委員(Politburo Standing Committee)は共青団派であり、政治局常務委員で胡春華政治国務院副総理(Hu Chunhua、1963年-)も共青団派だ。上海派とつながりのあった韓正政治局常務委員兼国務院常務副総理(Han Zheng、1954年-)とイデオロギー面の責任者である王滬寧政治局常務委員兼中国共産党中央書記処常務書記(Wang Huning、1955年-)は、習近平陣営に移ったようである。習近平は次の第20回党大会で3期目、いや4期目の5年制指導を目指し、長年の党の慣例を破る構えだ。また、「七上八下」(68歳で定年、67歳はもう1期できる)という有名なルールが、今大会では選択的に適用されるにとどまる可能性もある。

●中国共産党中央委員会政治局と政治局常務委員会の顔ぶれを予測する(Predicting the Politburo and its Standing Committee

中国共産党の力の均衡(バランス・オブ・パウア、balance of power)と今後の政策の方向性は、1週間の大会に出席する2300人あまりの代議員が承認する3つの組織のメンバーの派閥的な方向性に大きく左右されることになる。中央委員会には約205人の委員と約170人の委員候補(投票権のない委員という意味)がいる。中央委員会の委員は「選挙」の後、25人程度の政治局員を自分たちの中から選ぶ。そして、政治局は、常務委員会を構成する国内最高実力者7人を選ぶ(アジア社会政策研究所:8月4日付)。しかし、いわゆる代議員による投票は、トップの3段階の名簿は、派閥指導者や元代議員の意見を考慮しながら、現職の中共と政治局メンバーによって事前に決定されているため、形式的なものに過ぎない(HK01.com:1月1日;Reuters Chinese:2021年11月18日)。

2017年の第19回党大会で決定された現在の政治局は習近平派が既に支配している。この習近平に忠実なグループには、党中央弁公庁主任の丁薛祥(Ding Xuexiang、1962年-)、党組織部長の陳希(Chen Xi、1953年-)、宣伝部長の黄坤明(Huang Kunming、1956年-)、中央軍事委員会副委員長の張又侠(Zhang Youxia、1950年-)と許其亮(Xu Qiliang、1950年-)の2人の人民解放軍上将、中央政法委員会書記の郭声琨(Guo Shengkun、1954年-)らが含まれる。また、政治局には、北京市、上海市、重慶市、天津市、広東捷の党委員会書記である蔡奇(Cai Qi、1955年-)、李強(Li Qiang、1957年-)、陳敏爾(Chen Min’er、1960年-)、李鴻忠(Li Hongzhong、1956年-)、李希(Li Xi、1956年-)ら省・大都市代表が名を連ねる(VOAChinese:7月18日付)。

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丁薛祥

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黄坤明

これら習近平派の幹部たちのうち、習近平の分身と呼ばれることもある丁薛祥は、今回の第20回党大会で決定される政治局常務委員会に参加することが確実視されている。習近平は、重慶市の陳敏爾党委書記や上海市の李強党委書記など、1人か2人の地方の新星を中国共産党の最高幹部に登用したがっていることが知られている(Chinanewscenter:7月23日付;VOAChinese:3月21日付)。習近平が1期か2期の任期延長に成功し、3人の子飼いを7人で編成される政治局常務委員会に登用すれば、習派がこの最高意思決定機関を支配することが可能になる。しかし、李強の評判は、上海の新型コロナウイルス感染拡大による2ヶ月間の閉鎖という大失態によって低下している。また、広東省の党委書記である李希も最近の広東省の不甲斐ない経済状況により、昇進の可能性は低くなっている(『連合日報』:6月29日付;『網易』:5月24日付)。

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陳敏爾

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李強

2人の共青団派の有力者が政治局常務委員会に留まる、もしくは参加する可能性がある。67歳になる李克強国務院総理は、ここ数ヶ月、経済の難問に対処して得た信用を考えれば、最高会議である政治局常務委員会に留まる可能性がある。憲法上、李総理は中央政府のトップを2期しか務めることができないため、習近平の盟友である栗戦書(Li Zhanshu、1950年-)が非公式な定年である68歳をはるかに超えている全国人民代表大会常務委員長に移るかもしれない(ANI news:5月18日付)。また、李克強は、胡春華副総理が自分に代わって国務院総理になることを主張するかもしれない(Mingjingnews.com:7月27日付)。国務院総理の候補者の中で、副総理の経験を持っているのは胡春華だけである。汪洋と王滬寧はともに67歳で退くと言われている。

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栗戦書

習近平にとって最も問題なのは、1957年生まれの趙楽際(Zhao Leji)であろう。2007年から2012年まで陝西省党委書記を務めた趙は、もともと習近平と親しいとされていた。しかし、陝西省の秦山沿いで民間の別荘を違法に建設し、大規模な森林破壊を行ったことをきっかけに、2人は不仲になった(Chinaaffairs.org:1月23日付、BBC中国語版 :2019年1月17日付)。風水や中国の地占いの迷信的な観点から、秦山は中国史における皇帝や独裁者の「霊的背骨(spiritual backbone)」であり「錨(anchor)」であるとされている。習近平は政権に就いた後、この別荘を取り壊すよう何度も個人的な指示を出していたが、違法建築物が取り壊されたのは2018年になってからだった。趙楽際は中国共産党中央規律検査委員会(国家最高レベルの反腐敗部門)を書記として所管しており、その責任の一端を担わなければならないと言われている。さらに、杭州の趙建勇(Zhao Jiangyong)党書記と鄭州の徐立栄(Xu Liyi)党書記という習氏のお気に入り2人の最近の懲戒・汚職関連の調査は趙書記が担当した(サウスチャイナ・モーニング・ポスト:4月11日付;環球時報:1月21日付)。

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趙楽際

●「銃、ナイフ、ペン」の管理(Control of “The Gun, the Knife and the Pen”

政治局内では、軍や警察、思想・宣伝機構を誰が統制するかが注目される。中国共産党が権力を維持するためには、「銃とナイフとペン」の組み合わせが第一と考えられているからだ。習近平は自分の息のかかっている人物で政治局常務委員会のメンバーを占めることに苦闘するだろうが、25人の政治局員のうち高い割合を占めており、軍と警察のトップポストもスムーズに引き継ぐことができる。政治局員である張又侠、許其亮の2人の人民解放軍上将は共に退任する予定である。後任の有力候補は人民解放軍参謀本部長の李作成(Li Zuocheng)と人民解放軍政務工作部長の苗華(Miao Hua)である。習近平は李と個人的に親交があり、大会開催時に李は69歳であるが、年齢を理由に候補から外れることはないだろう。苗(1955年-)は以前、福建省や旧南京軍区に勤務しており、習近平と交わったことがある。習近平の腹心で、最近、公安部長官に昇進した王小洪(Wang Xiaohong)も福建省で20年余り勤務した。王(1957年-)は警察、秘密警察、裁判所などを管轄する中央政法委員会のトップとして政治局入りが有力視されている。

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王小洪

現職の黄坤明(1956年-)宣伝部長は、理論上はもう1期、党の「ペン」、つまり代弁者として留まることができる。しかし、習近平の浙江省時代の取り巻きは、最高指導者の周りに毛沢東的な個人崇拝を復活させていると反対派のメンバーから非難されている。このため、習近平は退任前に全国人民大会副委員長か全国政治協商会議副主席に就任する見込みである。宣伝担当の新政治局員は、著名な学者の李(書)Li Shulei、1964年-)で、最近、同部常務副部長に昇進した。李は2007年から2012年まで中央党校で習近平の代理人を務め、最高指導者のスピーチライターを務めている(Jfdaily.com66日付;Sohu.com65日付)。幹部の力と忠誠心を維持するために同様に重要なのが、組織部長である。習近平の腹心である陳希の後任には、現国務院文化部長の胡和平(Hu Heping)がダークホース的な存在として取りざたされている。胡和平(1962年-)は習近平の清華大学同窓会ネットワークと密接な関係にあり、陝西省長、党委書記の他、浙江省党委の要職を歴任してきた。胡和平は、「習近平同志の権威を党の中核として堅持することが必須である」と繰り返し強調する最も声高な地方幹部の一人である(Radio Free Asia:2021年10月29日付;Chinaaffairs.org:2021年10月26日付)。 組織部長のもう一人の候補は、現部長の陳希の副官を務める姜信治(Jiang Xinzhi、1958年-)である。姜信治は2011年から2015年まで、習のもう一つの権力基盤である福建省の組織部長を務めていた。

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(書)磊

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胡和平

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姜信治

●新世代のテクノクラートたちの一団(A New Breed of Technocrats

習近平は「終身指導者(leader for life)」の称号を手に入れ、派閥による政治委員会の支配を維持するとの見方が強いため、今回の大会では急激な政策変更は発表されないと見られている(Radio Free Asia:4月7日付;Radio French International:5月3日付 )。しかし、新しい中央委員会と政治局の資質と政治的性向については疑問が呈されている。その最たるものは、新指導層の中に市場志向の専門的なテクノクラートが欠けているのではないかという認識である。

朱鎔基元首相が1998年から2003年まで中央政府のトップだった時、彼は優秀な金融専門家であるテクノクラートを、中国人民銀行、財政部、銀行・保険監視機関などの官僚機構の大臣や次官に大量に登用した(Netease:2020年8月5日付)。しかし、改革志向の強い楼継偉元財政相部長(Lou Jiwei、1950年-)(Aisixiang.com: 6月21日付)をはじめ、こうしたテクノクラート系幹部はほぼ全員が引退、あるいは辞めようとしている。第20回党大会で昇進が確実視されている経済関連の最高幹部、首相の座を狙う胡春華と財政担当副首相の有力候補、何立峰(He Lifeng、1955年-)は、プロの管理者というよりヴェテラン党員である(Radio Free Asia:7月27日付;Newscenter.com:3月11日付)。彼らは、習近平派や共産主義青年団派などの強力な派閥のリーダーであることが、その地位の確立の主な理由だ。

習近平がこの10年で育てたテクノクラートたちは、航空宇宙分野(aerospace)を中心とした防衛産業の専門家やトップマネジメント担当者たちで構成されている。新疆ウイグル自治区党委書記には通常、政治局員の席が与えられるため、中国航空宇宙科学技術公司(CASC)の元総経理で中国国家宇宙局長を務めた馬興瑞(Ma Xingrui、1959年-)は、工航天系(jungonghangtianxi)のメンバーとして初めて政治局に入ることになるだろう(日経アジア、2021年12月28日付)。この習近平派閥の他の傑出した代表として、湖南省の張慶偉(Zhang Qingwei)党委書記がいる(The Diplomat:2月19日)。著名なロケット科学者であり、中国航空宇宙科学技術公司の元責任者である張慶偉(Zhang Qingwei、1961年-)は、中国の月探査プロジェクトで重要な役割を担った。2002年、41歳の若さで中央委員会の委員に就任した。もう1人、同分野の新星は浙江省党委書記の袁家軍(Yuan Jiajun、1962年-)である。浙江省は習主席の重要な権力基盤であるため、同じく中国航空宇宙科学技術公司の出身者である袁は5年後の政治局入りが有力視されている(Reddit.com:2021年12月8日付)。

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馬興瑞

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張慶偉

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袁家軍

アメリカやヨーロッパの同盟諸国だけでなく、日本やオーストラリアなどアジアの大国が北京の対ウクライナ姿勢に否定的な反応を示し、更にナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問に対する中国人民解放軍の「過剰反応(overreaction)」が明らかになったことを考えると、習近平は自国の逞しい「戦狼外交(wolf warrior diplomacy、訳者註:攻撃的、論争的な外交スタイル)」よりもパートナーシップ構築について詳しいプロの外交官のティームを配置する必要がある。外交担当の政治局員で前駐米大使の楊潔篪(Yang Jiechi、1950年-)の後任として最も可能性が高いのは、現外相の王毅Wang Yi、1953年-)である。王毅は69歳(通常の定年である68歳を1歳上回る)であることを除けば、「戦狼外交」の提唱者として知られ、中国が世界秩序の中で相対的に孤立する原因となっている(VOAChinese:7月23日付;Financial Review:7月7日付)。今年5月まで王毅の代理を務めていた楽玉成外務副部長(Le Yucheng、1963年-)は、ロシア語に堪能な彼がウクライナ危機への対応を誤ったため、突然国家ラジオ・テレビ局に異動させられた(日経アジア:7月23日付)。欧米諸国は、北京に外交政策担当の有力な政治局員がいなくなれば、国家安全保障問題で人民解放軍の将官たちがさらに大きな影響力を行使することになると懸念している。

●結論(Conclusion

政治局への昇進の可能性がある、いわゆる第7世代(Seventh-Generation7G)幹部の少なさも問題である。1970年代生まれの最高幹部は次官級にとどまり、第20回党大会で中央委員や中央委員候補になるのは比較的少ない数に留まるである(SCMP:5月23日付)。もし習近平が予想通り2032年の第22回党大会まで、あるいはそれ以降も最高指導者にとどまるとすれば、その頃には多くの第6世代政治局員が68歳の定年に達していることになる(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日付)。これに対し、2002年から2012年まで政権を担っていた胡錦濤前国家主席は、新進気鋭の第6世代(Sixth-Generation6G)の育成に大きな関心を寄せていた(Saiscsr.org:2021年7月31日付)。習近平が第7世代の幹部のキャリアアップに関心を示さないのは、習近平が20年の長期政権を志向しており、その場合、第7世代の後継者を若い子弟から決めるために、後10年の猶予があるからかもしれない。

習近平は昇進に関して「忠誠心(loyalty)」が「実力(competence)」に勝ることを繰り返し強調し、新政権メンバーのプロ意識の欠如を過度に懸念していないようだ(人民日報:3月24日付;Prnewswire.com:2021年9月4日付)。この1カ月余り、胡春華のような反対派罰の有力メンバーでさえ、自身が担当する習近平の農民政策の「並外れた知恵」を称える記事を書いている(Gov.cn:7月27日付)。しかし、最高指導者の子飼い、部下で構成される中央委員会(Central Committee)、政治局(Politburo)、政治局常務委員会(PBSC)は、中国共産党の統治の質を大きく低下させることになる。しかし、習近平が「中国共産党の終身核心(party core for life)」の地位確保に注力していることから、21世紀の毛沢東を自称する習近平にとって、このことは最大の関心事ではないようである。

※林和立(Willy Wo-Lap Lam、ウィリー・ウー=ラップ・ラム)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員。『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済修士プログラム非常勤教授。中国に関する6冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来ための戦い』(ルートレッジ・パブリッシング、2020年)。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今回は少し難しい話になる。と言っても、「そんなことは当たり前ではないか」ということでもある。そして、「学者たちは物事をどんどん細かくしていって、かえって物事が見えなくなり、大きな理解ができなくなっているんだ」ということが分かってもらえる話になると思う。

 政治学という学問は大きなくくりであり、その中に様々な学問分野がある。方法論、比較政治、政治思想、日本政治やアメリカ政治など一国の国内政治、国際関係論といった分野が存在する。そして、それぞれの中でまた細分化がなされている。政治学の教授もしくは研究者というのは政治学全体の大隊の知識は持っているが、当然のことながら自分の専門を深く研究することになる。そうなると、たこつぼ的な状況が出てきてしまうのは仕方がない。医学を例にして考えてみても、内科から外科、泌尿器科、産婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科などなど多岐にわたる。それぞれを全て極めた医師は存在しなのではないかと思う。

 政治学に統合されたアプローチが必要という議論がある。これは理解できることであるが、これは非常に難しいことだ。政治学を含む社会科学の目的とは、社会で起きる様々な現象を分析し説明することから最終的には法則の発見であるが、これは大変に難しい。法則とは全ての環境で機能するもので、これが分かれば「予測」ができるということになるが、人間が絡む社会においてはそのような予測は難しい。統合されたアプローチは今のところ不可能である。

 ただ、政治という人間の営為ということになればそうも言ってはいられない。国家を運営する、政策を立案し、実行するということになれば、諸理論に経験や知識をプラスして、「大戦略」を作らねばならない。専門家のような狭く深い見方ではなく、深さは少なくても広さは気宇壮大なものであるべきだ。

 アメリカの外交政策や安全保障政策分野で考えてみると、弁護士や外交官として経験を積み、もしくは研究者として研究をしながら、抜擢されて国務次官補代理や国防次官補代理になって外交や安全保障の分野で経験と専門性を高め、評価を高めていくパターンが多い。そうした中で、専門性と知識と経験を高め、より多くの材料や要素を取り入れながら、また時には多くの材料を取捨選択しながら、政策を立案し、政策判断を下すということになる。

 日本に「大戦略」があるだろうか? 残念ながら見当たらない。場当たり的でかつアメリカの言いなりになっておけばよいということが大戦略の代わりになっている。しかし、それではアメリカの衰退が進む中で、羅針盤がない中で公開をする船と同じになってしまう。つまり、どこの港にも着けないということになる。

(貼り付けはじめ)

大戦略は十分に壮大ではない(Grand Strategy Isn’t Grand Enough

―世界最高の国家安全保障の専門家たちは、外交政策のあらゆる側面を研究することを知っている。しかし、それだけでは十分ではない。

アラスディア・ロバーツ筆

2018年2月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/02/20/grand-strategy-isnt-grand-enough/?utm_content=bufferf8a38&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

大戦略(Grand Strategy)は、外交政策と国家安全保障の専門家たちにとってよく知られている概念だ。大戦略の意味は長年にわたり膨張してきた。専門家の中には、肥大化しすぎてもはや役に立たないと考える人もいる。しかし、それは間違いである。大戦略の本当の問題は、それが十分に壮大でない(not grand enough)ということだ。

19世紀、大戦略とは実際に戦争をすることであった。一つの作戦地域にいる司令官は、敵を倒すための戦略を持っており、最高司令官は、多くの作戦地域に軍隊を展開するための大規模な計画を持っていた。ある文筆家は、1904年に、大戦略とは「陸上と水上にある国家の全武力」のことだと説明した。

総力戦の到来で、その概念は拡大した。エーリッヒ・ルーデンドルフ元帥が主張したように、戦争の勝利が国家の物理的、精神的な力の総動員に依存するならば、戦時計画も同様の大規模な範囲を持つべきであると考えたのである。BH・リデル・ハートは、大戦略を「社会・経済活動のあらゆる側面を戦争目的の達成に向けて指導する国家政策」と定義した。他の専門家も1942年に、「大戦略の基本は戦争と戦争が起こる社会との相互関係である」 ということに同意している。

冷戦が始まると、その概念は再び拡大した。大戦略は、依然として社会のあらゆる資源を動員することに関係していた。しかし、その目的はより曖昧になった。2度の世界大戦期間中、各国首脳は実際の戦争に関心を寄せていた。対照的に、第二次世界大戦後、各大国は数十年にわたる地位の優位をめぐる争いに巻き込まれた。このように、今日の大戦略は、トーマス・クリステンセンが定義するように、平時においても戦時においても「力と国家の安全を高めるために設計された国内および国際政策のフルパッケージ」である。

大戦略の理論化は、実際の意思決定のあり方とほとんど関係がない、と批判する人々もいる。現実の世界では、国内政策と国際政策の適切な調整はほぼ不可能であるという議論もある。指導者たちは先見性を備えていないし、明確に定義された目標に向かって安定したコースを維持することはない。むしろ、現状維持(status quo)を変化させ、実験をし、危機から危機へ移らせることが多い。

このような批判は、ほとんど見当違いである。漸進主義(incrementalism)や実験主義(experimentalism)は、不確実性(uncertainty)や政治的党派性(political polarization)がある状況では、多くは妥当な反応ということになる。更に重要なのは、実際の政策の方向性が不規則であったり、効果がなかったりするからといって、指導者たちが戦略を軽視していることにはならないことである。戦略的に振る舞おうとしても、それがあまり得意でない指導者もいる。しかし、下手な作家がやはり作家であるように、無能な戦略家もやはり戦略家である。また、どんなに綿密な計画を立てていても、出来事によって混乱に陥ることがある。

指導者たちは状況に応じて戦略を立てなければならない。世界は激動する危険な場所であり、指導者たちは重要な利益を損なわないようにするために、外交領域を無視することはできない。指導者たちは外交に携わらなければならない。それぞれの決断は、目的と手段、そして他の決断への影響について、何らかの計算(some calculation)によってなされなければならない。これらは、大戦略の基本である。専門家は戦略の質を高めようとするが、指導者たちが戦略的に行動しようとする衝動は既に存在している。

しかし、ここに難しさがある。国内政治の世界もまた同様に裏切りの世界だ。現実主義の大御所マキャベリは、君主は二つの恐怖を持たねばならないと警告した。「一つは臣下に由来する内なる恐怖、もう一つは外国の権力に由来する外なる恐怖」である。民主政治体制国家では、内政に不手際を起こした指導者たちは次の選挙で放り出される。独裁国家では、クーデター(coups)で倒される。また、不器用な指導者は、突然、国家が崩壊していることに気がつくこともある。外交の危機が指導者たちを戦略に向かわせるのなら、内政もまたその通りである。

これは容易に想像がつく。指導者たちは、秩序、繁栄、正義、そして自らの任期中の生存といった、国内の重要な利益に対する脅威を管理するための政治プログラムを常に洗練させている。彼らは、これらの利益を確保するために、社会的資源を動員し、政策手段を調整しようとする。言い換えれば、彼らは国内大戦略(domestic grand strategy)を策定する。指導者の中には、これをうまくこなす者もいるが、全ての指導者が大戦略策定を行うよう駆り立てられる。

これら2つの大戦略、外交分野の大戦略と国内分野の大戦略は、相互に密接に関係している。国内の平穏(tranquility at home)は経済成長に依存しており、国家の指導者たちは資源と市場を海外に求める。国内世論が揺れ動く中で、対外戦争は開始され、もしくは中止される。選挙権の拡大、福祉国家の建設、公民権の保護など、指導者たちは国内で譲歩を行い、海外でのキャンペーンへの支持を高める。主要な同盟諸国との貿易協定を強化するために、国内の規制権限が削減されるなどなどが行われる。この2つの大戦略の絡まり方のスタイルは無限大に存在する。

しかしながら、ここで私たちは概念的な問題に直面する。もし、外交と国内の二つの大戦略があるとすれば、どちらか一方が本当の大戦略ということになるのだろうか。また、指導者たちは本当にこのように考えているのだろうか。私たちはこれらの問いに対する答えを知っている。指導者たちはマキアヴェッリの言う2つの恐怖を別々の箱に入れてはいない。彼らは両方を同時に管理し、国内と海外の圧力を同時に調整する首尾一貫したアプローチ、すなわち統治のための単一の戦略(single strategy for governing)を探し求めている。

レーガン主義(Reaganism)は、国内と国外を切り離すことができない単一のドクトリンであった。クリントン主義(Clintonism)もそうだった。トランプ主義(Trumpism)、プーティン主義(Putinism)、「習近平思想(Xi Jinping thought)」も同様だ。

従来の大戦略は、決して大戦略ではない。より大きなものの一面であり、統治するための全体的な戦略である。このことを認識し、大戦略の概念をそれなりに拡張している専門家もいる。ピーター・トルボウィッツは、大戦略を「国家指導者たちが行政権力を維持・強化しようとする手段」であり、単に外交政策上の目標を追求するための手段ではないと定義している。また、アンドリュー・モナハンは最近の著書で、大戦略を「国家の利益を促進するために国家のあらゆる資源を用いることであり、認識されている敵や現実の敵から国家を守ることも含まれる」と定義している。これらの定義は、国家戦略をより広く、より統合的に見るために、分析を一段階上に進めようとするものである。しかし、結局のところ、大戦略の研究は、国家安全保障と外交政策の問題に留まっているのが通常の姿だ。

これはある程度、学問的な便宜の問題だ。学界には、国内政策と外交政策を二分する長い伝統がある。しかし、このような概念的な区分は、指導者が実際に考える方法とは関係がない。リアリズムでは、統治のための戦略についてより広い視野が求められる。

より広範な視点を持つことには3つの利点がある。1990年代に予測された市場民主主義(market democracy)が世界的に拡大し、それに収れんする(convergence)という予測は実現されていない。大国の統治戦略が再び大きく相違する時代に突入している。今後数十年間、競合する各国家戦略の利点をめぐる議論が展開されるであろう。20世紀初頭、1930年代、そして冷戦期、私たちはこれらの時代にそうした議論を経験している。どの国の改革者も、ライヴァル国のパフォーマンスに対する判断に影響を受けるだろう。その際、改革派は内政と外交を切り離して考えることはない。その際、改革派は内政と外交を分けて考えるのではなく、他国の実績を総合的に判断する。学者の役割は、このような世界的な議論を構成する手助けをすることである。私たちの理論的ツールキットが現実の会話を反映したものであれば、より効果的にこれを行うことができる。

国策に関する従来の常識が崩れた瞬間に、戦略を大きく把握することは有効だ。アメリカは今、このような瞬間に苦しんでいる。国内政策と外交政策についての古い共通理解(consensus)が崩れ、その断片を新しい構成に組み直すのに苦労している。国家政策の全体的なデザインについて話し合う必要がある。内政や外交の部分を切り離して考えるべきではない。そのためには、大戦略よりも大きな器が必要である。

広範な視野が持つ3つ目の利点は何だろうか?それは「真実性(Verisimilitude[ヴェリシミリチュード]、訳者註:英語ではtruthlikeliness)」だ。近代大戦略の父と呼ばれるマキャベリは、外交政策や内政の指針として『君主論』を書いたという訳ではない。この本は国家戦略全般の指南書(guide to statecraft in toto)だったのだ。しかし、現実主義者にとっては、この課題から逃れることはできない。指導者に区分けは許されないし、学者もそうであってはならない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は外交政策において「力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)」を前提にすることが重要だという内容の論稿を紹介する。著者は以前にもご紹介したスティーヴン・M・ウォルトだ。「力の均衡」について、ウォルトは論稿の中で、以下のように定義している。

(引用貼り付けはじめ)

力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)理論(あるいは脅威の均衡[バランス・オブ・スレット、balance of threat]理論)の基本的な論理は単純明快だ。各国が互いの脅威から各国を保護してくれる「世界政府」が存在しないため、各国は征服、強制、またはその他の危機に陥らないよう、独自の資源と戦略に頼らざるを得ないということになる。強力な国家や脅威を与える国家に直面した時、懸念を持つ国は自国の資源をより多く動員するか、同じ危険に直面している他の国家との同盟を模索し、より有利にバランス(均衡)に変えることができる。

(引用貼り付け終わり)

 簡単に言えば、世界各国は自身で脅威に対応せねばならず、そのためには脅威に直面している他国と同盟を組むこともあるということだ。その際に、その他コクトは国家体制などが全く異なってもそれは度外視される。自国の生き残りのため、そんなことは枝葉末節ということになる。その具体例が、第二次世界大戦で、アメリカとイギリスがソ連と組んだことであり、ソ連に対抗するための米中国交回復だ。アメリカは共産主義のソ連や中国とだって手を組むということだ。また、現在で言えば、アメリカは世界に民主政治体制を拡散しようと言いながら、自国に役立つ非民主国家についてはその体制転換を求めない。中東諸国や中央アジア諸国がそうだ。しかし、これらの国々が用済みということになれば、一気に体制転換を迫るということになる。

 アメリカの外交政策立案にはこのような流れがあるが、一方で、他国の体制転換を求める、もしくはイデオロギーの面で潔癖に過ぎるということもある。その具体例は、共和党であればネオコンと呼ばれる一派であり、民主党であれば人道主義的介入主義ということになる。民主政治体制の拡散に重きを置くために、かえって地域の不安定やアメリカ外交の失敗を招くということになったのは、記憶に新しいところだ。アフガニスタン侵攻やイラク戦争の失敗、アラブの春の失敗などが具体例だ。

 日本に引き付けて考えてみれば、何よりも過度な中国脅威論や台湾有事論の跋扈がそうなる。アメリカの一部の強硬派に煽動されて、そのお先棒を担いで、短慮にわっしょいわっしょいと対中強硬論を吐き、「台湾を助けるぞ」と意気込んで、アメリカにはしごを外されて、にっちもさっちもいかなくなるということが目に見える。思慮深く、かつ両方に着くという形でバランスを取ることが重要だ。それが大人の態度でもある。

(貼り付けはじめ)

誰が力の均衡(バランス・オブ・パワー)を恐れているのか?(Who’s Afraid of a Balance of Power?

-アメリカは国際関係の最も基本的な原則を無視し、自国に不利益を与えている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2017年12月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/12/08/whos-afraid-of-a-balance-of-power/

もし、あなたが大学で国際関係論の入門レヴェルの講義を受け、教師が「力の均衡(balance of power)」について全く触れなかったとしたら、母校に連絡して返金を求めて欲しい。力の均衡という考えは、トゥキディデス(Thucydides)の『ペロポネソス戦争(Peloponnesian War)』、トマス・ホッブズ(Thomas Hobbs)の『リヴァイアサン(Leviathan)』、古代インドの思想家カウティリヤ(Kautilya)の『アルタシャストラ(Arthashastra)』(「政治の科学」)に見ることができ、EH・カー(E.H. Carr)、ハンス・J・モーゲンソー(Hans J. Morgenthau)、ロバート・ギルピン(Robert Gilpin)、ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)といった現代のリアリストたちの仕事の柱になっている。

しかし、このシンプルな考えは、その長い歴史にもかかわらず、アメリカの外交エリートたちから忘れられがちである。ロシアと中国がなぜ協力するのか、イランと中東のさまざまなパートナーとの間に何があったのかを考えるのではなく、権威主義(authoritarianism)の共有、反射的な反米主義、あるいはその他のイデオロギー的連帯の結果だとエリートたちは考えがちだ。この集団的健忘症(collective amnesia)によって、アメリカの指導者たちが知らず知らずのうちに敵同士を接近させるような行動をとり、敵を引き離す有望な機会を逃すことを助長する。

力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)理論(あるいは脅威の均衡[バランス・オブ・スレット、balance of threat]理論)の基本的な論理は単純明快だ。各国が互いの脅威から各国を保護してくれる「世界政府」が存在しないため、各国は征服、強制、またはその他の危機に陥らないよう、独自の資源と戦略に頼らざるを得ないということになる。強力な国家や脅威を与える国家に直面した時、懸念を持つ国は自国の資源をより多く動員するか、同じ危険に直面している他の国家との同盟を模索し、より有利にバランス(均衡)に変えることができる。

極端な例を言えば、均衡を保つための同盟を組むには、以前は敵とみなしていた国や、将来ライバルになると理解していた国とも一緒になって戦う必要が出てくることもある。第二次世界大戦中、アメリカとイギリスはソ連と同盟を結んだが、それは共産主義に対する長期的な懸念よりも、ナチス・ドイツを倒すことが優先されたからである。ウィンストン・チャーチルは、「もしヒトラーが地獄に侵入したら、私は少なくとも悪魔については下院で好意的に言及するだろう」と言い、この論理を完璧に表現した。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルトも、第三帝国(Third Reich)を打ち負かすためなら「悪魔と手を握ってもいい(hold hands with the devil)」と、同じような心境を語っている。

言うまでもなく、「力の均衡」の論理は、アメリカの外交政策において重要な役割を果たし、特に安全保障上の懸念が明白な場合には、重要な役割を果たした。冷戦期のアメリカの同盟関係(NATOやアジアにおける二国間同盟のハブ&スポーク・システム)は、ソ連とのバランスを取り、封じ込めるために形成された。同じ動機で、アメリカはアフリカ、ラテンアメリカ、中東などの様々な権威主義政権を支援することになった。同様に、1972年にニクソンが行った対中開放も、ソ連の台頭を懸念し、中国との関係が深まればソ連にとっては不利になるとの認識から始まった。

しかし、その長い歴史と永続的な関連性にもかかわらず、政策立案者や専門家たちは、力の均衡の論理がいかに味方と敵の両方の行動を促すかをしばしば認識できないでいる。この問題の一つは、国家の外交政策は、その外部環境(直面する脅威の数々)よりもむしろその内部特性(指導者の性格、政治や経済のシステム、支配イデオロギーなど)によって形成されると考えるアメリカが持つ共通傾向に由来している。

この観点からすると、アメリカの「自然な」同盟国は、我々と価値観を共有する国である。アメリカが「自由世界のリーダー」であるとか、NATOが自由民主主義国家の「大西洋横断コミュニティ」であるとかいうのは、これらの国々が、世界の秩序がどうあるべきかという共通のビジョンを持っているからこそ、互いに支え合っているということを示唆しているのである。

もちろん、政治的価値の共有は重要ではないということではなく、民主政治体制国家間の同盟は、独裁国家間や民主国家と非民主国家間の同盟よりもいくぶん安定していることを示唆する実証的研究も存在する。しかし、国家の内部構成が敵味方の区別を決定すると仮定すると、いくつかの点で迷いが生じる。

第一に、価値観の共有が強力な求心力であると考えるならば、既存の同盟の中には結束力と耐久性を誇張してしまうものがある。NATOはその典型的な例である。ソ連の崩壊により、その主要な根拠が失われ、同盟に新たな使命を与えるための多大な努力も、繰り返される緊張の高まりを防ぐことはできなかった。NATOのアフガニスタンやリビアでの作戦がうまくいっていれば、事態は変わっていたかもしれない。しかし、そうはならなかった。

確かにウクライナ危機はNATOの緩やかな衰退を一時的に止めたが、このささやかな反転は、NATOをまとめる上で外的脅威(すなわちロシアへの恐怖)が果たす中心的役割を強調しているに過ぎない。「価値観の共有」だけでは、大西洋の両岸に位置する約30カ国の有意義な連合体を維持するには不十分であり、トルコ、ハンガリー、ポーランドがNATOの基盤であるはずの自由主義的価値観を放棄するような状況では、それが顕著となる。

第二に、力の均衡(バランス・オブ・パワー)の政治を忘れてしまうと、他の国家(場合によっては非国家アクターたち)が自分に対して手を組んだときに、驚くことになりがちだ。2003年、ブッシュ政権は、フランス、ドイツ、ロシアが協力して、安保理でイラク侵攻の承認を得ようとしたのを阻止した。この措置は、サダム・フセインを倒すことが、逆に自分たち(フランス、ドイツ、ロシア)を脅かすことになりかねないと考えたからだ(実際、そうなってしまった)。しかし、アメリカの指導者たちは、これらの国々がサダムを排除し、この地域を民主的な路線で変革する機会を握り、利用しようとしない理由を理解できなかった。ブッシュ大統領の国家安全保障問題大統領補佐官を務めたコンドリーザ・ライスが後に認めたように、「単刀直入に言えば次のようになる。我々は単に理解していなかった」ということだ。

アメリカのイラク侵攻後、イランとシリアが手を組んでイラクの反乱軍を支援したときも、アメリカ政府は同様に驚いた。ブッシュ政権の「地域変革(regional transformation)」の努力を失敗させることは、イランとシリアにとっては完全に理にかなっていたにもかかわらず、だ。アメリカのイラク占領が成功すれば、イランとシリアはブッシュの次の標的になっていただろう。彼らは、脅威を受けた国家がするように(力の均衡理論が予測するように)行動しただけだ。もちろん、アメリカ人にはそのような行動を歓迎する理由はないが、それに驚くべきではなかった。

第三に、政治的・思想的な親和性に着目し、共有する脅威の役割を無視することは、敵対者を実際以上に一体化した存在として見ることを助長する。アメリカの政府高官や評論家たちは、敵対する国同士が主に道具的・戦術的な理由で協力していることを認識する代わりに、敵は一連の共通目標への深い関与によって結びつけられているとすぐに思い込んでしまう。以前であれば、アメリカ人は共産主義世界を強固な一枚岩とみなし、どの国の共産主義者も全てがクレムリンの信頼できるエージェントであると誤解していた。この間違いは、中ソ対立を見逃した(あるいは否定した)だけでなく、アメリカの指導者たちは、非共産主義の左翼がソ連に対してシンパシーを持っている可能性が高いと誤解していたのである。ソ連の指導者たちも逆の立場で、アメリカの指導者たちと同じ間違いを犯し、非共産圏の第三世界の社会主義者に取り入ろうとしたが、しばしば裏目に出て失望することになった。

この誤った直感は、残念ながら今日でも、「悪の枢軸(axis of evil)」(イラン、イラク、北朝鮮が同じ統一運動の一部であると示唆した)という言葉や、「イスラムファシズム(Islamofascism)」のような誤解を招く言葉の中に生き続けている。アメリカ政府高官や専門家たちは、過激派を多様な世界観や目的を持った、競争し合う組織として見るのではなく、敵が全て同一の行動指針に基づいて行動しているかのように日常的に発言し行動している。これらのグループは、共通の教義によって強力に結束しているとは言えないし、しばしば深いイデオロギー的分裂や個人的対立に苦しみ、共通する確信よりも必要性から力を合わせているに過ぎない。しかし、全てのテロリストが一つの世界的な運動における忠実な兵士であると仮定すると、彼らは実際よりも怖く見えてしまう。

更に悪いことに、アメリカは過激派の分裂を促す方法を探す代わりに、過激派同士を接近させるような行動や発言をしばしばしている。分かりやすい具体例を挙げれば、イラン、ヒズボラ、イエメンのフーシ、シリアのアサド政権、イラクのサドル運動の間には、ささやかなイデオロギー的共通点があるかもしれないが、これらのグループはそれぞれ独自の利益と課題を抱えており、彼らの協力は、まとまった、あるいは統一したイデオロギー戦線としてよりも、戦略同盟として理解するのが最も適切だろう。サウジアラビアやイスラエルがアメリカにそのようにするように望む、敵対勢力に対して全面的な圧力をかけることは、敵対する全ての国々に、互いに助け合う理由をさらに増やすだけのことだ。

最後に、力の均衡(パワー・バランス)の力学を無視することは、米国の地政学的な最大の利点の一つを無駄にすることだ。西半球で唯一の大国である米国は、同盟国を選択する際に大きな自由度を持ち、その結果、同盟国に対して大きな影響力を持つことができる。地理的な孤立がアメリカに提供する「自由な安全保障」を利用すれば、地域的な対立が発生したときにそれを利用し、遠い地域の国家や非国家主体がアメリカへの関心と支援を求めて競争することを促し、現在アメリカに敵対する諸国の間に楔を打ち込む機会を警戒し続けることができる。このアプローチには、柔軟性、地域情勢に対する高度な理解、他国との「特別な関係」を嫌うこと、そして、意見の異なる国を悪者にしないことが必要だ。

残念ながら、米国は過去数十年間、特に中東において、正反対のことをしてきた。柔軟性を発揮する代わりに、同じ同盟諸国に固執し、相手を安心させることよりも、自分たちが最善と考える行動を取らせることに腐心してきた。エジプト、イスラエル、サウジアラビアとの「特別な関係」を深めてきたが、そうした親密な支援の正当性は弱まってきている。そして、時折の例外を除き、イランや北朝鮮のような敵対国を、脅したり制裁したりすることはあっても、対話することはない存在として扱ってきた。その結果は、残念ながら明白だ。

読者の皆さんにお知らせ。私は本を書き上げるため、この『フォーリン・ポリシー』誌での職務を短期間休止します。2018年2月にコラムを再開する予定ですが、世界の出来事が私を再び戦いに引きずり込むことがない限り、このコラムを再開します。それまで静かにお待ちいただくよう、よろしくお願いします。皆さんにとって楽しい休暇と平和で豊かな2018年になりますようにお祈りします。

※スティーヴン・M・ウォルトはハーヴァード大学ロバート・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプは2017年1月に正式に米大統領に就任しました。そして、トランプ政権が発足しました。政権発足後、2年が経過する訳ですが、様々な出来事があり、これまでの政権の中でも、中身の「濃い」政権発足後の2年間であったと思います。

 

 様々な出来事の中には人事異動も含まれています。これまでに多くの辞任、解任がありました。下にご紹介する記事は、外交政策、国家安全保障政策に関するポストの人事異動について簡潔にまとめたものです。簡潔にまとめたとは言いながら、たくさんの人たちの名前が出てきます。政権発足後2年(米大統領の任期は4年間)で人事異動が多く行われました。まずアメリカの閣僚級の仕事はそれだけタフでありまたハードで、大統領と副大統領以外は4年続けることは大変なことです。大統領と副大統領がハードではないということではありませんが、この2人は「疲れたから」「自分と家族のための時間を確保したい」などという理由で代えることはできません。

 

 この記事を読むと、そう言えばそういうこともあったなぁと思い出すことばかりです。経済関係の閣僚ではここまで大きな人事異動はないのとは対照的に、国家安全保障関係、外交関係で人事異動が目立ったのは、トランプ政権では、トランプ大統領のイニシアティヴが強く、彼についていけない、彼の考えとは合わないということで辞任するケースが多くなっているということが言えると思います。トランプ大統領の対外政策は一言で言って、アイソレーショニズム(国内問題解決優先主義)であり、アメリカの世界における役割を縮小していこうという立場ですから、国家安全保障関係、外交関係の人々は戦々恐々としているでしょう。その間に立つ閣僚級の人々のストレスもまた大変なことでしょう。

 

 これからの2年間は2020年米大統領選挙が最大のテーマとなります。トランプ大統領は再選を最大の目標として動いていくでしょう。アメリカ国内の景気を何とか持たせることが最大の施策であり、それ以外は二の次ということになるでしょう。外交で何かやるとすれば、中国とは何とか妥協して、景気がこれ以上悪化しないようにしつつ、アメリカに投資しろ、アメリカ製品(武器)を買え、と迫ることになるでしょう。高尚な国際政治や理想主義的なことなど語っていられない、ということで、こうした時期にトランプが大統領であるというのは、歴史の必然ということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの国家安全保障ティームは常に不安定さをもたらしている(Trump's national security team is constant source of turnover

 

モーガン・チャルファント筆

2018年12月26日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/national-security/422792-top-national-security-posts-with-turnover-under-trump

 

ジェイムズ・マティス国防長官の辞任の決断は、トランプ政権が常に不安定であることを示す最新の具体例となっている。

 

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トランプとジェイムズ・マティス

 

トランプ大統領は日曜日、マティス長官が年末に辞任すると発表した。マティスは2019年2月に辞任すると発表していたが、それよりも早くなってしまった。マティスは政権内の国家安全保障政策・外交政策の最高幹部クラスの中で最新の退任者となった。

 

数人は辞任し、数人は解任され、数人は政権内で人事異動となった。

 

2019年、トランプ大統領の国家安全保障ティームの顔ぶれは全く違うものとなるだろう。

 

これからはトランプ政権において人事異動があった国家安全保障に関連するポジションについて見ていく。

 

●国家安全保障問題担当大統領補佐官

 

トランプのホワイトハウスにおける国家安全保障と外交の諸問題についての担当補佐官にはこれまで3名が就任している。

 

陸軍の三ツ星の将軍で、トランプの大統領選挙陣営に参加していたマイケル・フリンを、トランプは2016年の選挙直後すぐに、国家安全保障問題担当補佐官に指名した。

 

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マイケル・フリン

 

フリンの任期は極めて短かった。フリンは就任して1カ月もしないうちに辞任せざるを得なくなった。フリンは、マイク・ペンス副大統領に対して、政権移行期に駐米ロシア大使との接触について誤った情報を与えたことが暴露され、辞任に追い込まれた。フリンは、駐米ロシア大使との接触についてFBIに対して有罪であると認め、ロシアの2016年米大統領選挙への介入についてのロバート・ムラー特別検察官に協力している。

 

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ロバート・ムラー

 

トランプはHR・マクマスター陸軍中将をフリンの後任に指名した。マクマスターはトランプ政権の中でより穏健な人物だと見られ、様々な問題についてトランプと衝突を繰り返したと言われていた。2015年のイランとの合意もその中に含まれていた。トランプは大統領選挙期間中、この合意について常に非難していた。

 
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 HR・マクマスター

 

マクマスターの任期も長くはなかった。2018年4月、トランプはマクマスターを解任し、ジョン・ボルトンを後任に据えた。ボルトンはジョージ・W・ブッシュ政権に参加し、中国とイランに対して強硬な考えを持つタカ派である。

 

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ジョン・ボルトン

 

FBI長官

 

トランプは2017年5月にジェイムズ・コミーFBI長官を解任する決断を下した。コミーの解任はトランプ政権において最も議論を巻き起こした出来事であった。

 

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ジェイムズ・コミー

 

コミー解任は、ロシア政府が2016年の米大統領選挙に介入するためにトランプ選対の幹部たちが協力したのかどうかについてFBIが捜査していることを、コミーが公式に認めてからわずか数か月後のことであった。

 

コミーの解任は、司法省がヒラリー・クリントン元国務長官の私的Eメールサーヴァー使用に関する捜査の指揮からコミーを外すように勧告した時点で予想がされていた。一方、後にトランプはNBCニュースとのインタヴューの中で、「ロシアに関する出来事」はコミー解任の決断の参考になったとも述べている。コミー解任についてムラー特別検察官は、トランプ大統領が司法の執行を邪魔したのかどうかについて、コミー解任の敬意を詳しく調査したと報じられている。

 

コミーは解任後、何度もトランプを批判することになった。また、連邦上院で、大統領がコミーに対してFBIによるフリンの捜査を取り止めるように要求したかどうかについて証言を行った。

 

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クリストファー・レイ

 

連邦上院は、コミーと同じくジョージ・W・ブッシュ政権に参加していたクリストファー・レイのFBI長官就任を承認した。

 

●司法長官

 

ジェフ・セッションズ前司法長官は、選挙期間中にトランプと親密な関係を築き、信頼できる側近として政権に参加した。

 

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ジェフ・セッションズ

 

しかし、アラバマ州選出の共和党所属の連邦上院議員だったセッションズとトランプとの関係は、セッションズが選挙期間中にセルゲイ・キスリャクと接触を持っていたとし、ロシアに関する捜査の指揮を行わないと発表したことで、悪化してしまった。キスリャクはその当時駐米ロシア大使を務めていた。

 

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トランプとセルゲイ・キスリャク

 

セッションズは、不法移民と犯罪集団に対する取り締まりを強化するとしたトランプの公約を実行しようと積極的に動いた。トランプは公的な場で、多くの場合はツイッター上で、セッションズを数カ月にわたり激しく非難した。2018年9月には「ヒルTV」に出演し、「自分の政権には司法長官は存在しない」とまで発言した。

 

セッションズは、中間選挙投開票日の翌日、トランプから辞任するように言われて辞任を決めた。トランプは、セッションズ司法長官の首席補佐官を務めたマシュー・ウィッテカーを臨時長官に任命した。それから、トランプ大統領は、司法長官にジョージ・HW・ブッシュ(父)政権で司法長官を務めたウィリアム・バーを指名した。ウィッテカー、バー両者ともにムラーのロシアの選挙介入に関する捜査に対して批判的な態度を取っている。

 

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ウィリアム・バー

 

●国土安全保障長官

 

退役した海兵隊将軍であるジョン・ケリーは、トランプ政権に最初国土安全保障長官として入閣した。ケリーの働きはすぐにトランプから尊敬され、関心を持たれることになった。そして、2017年夏に大統領首席補佐官に異動することになった。

 

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ジョン・ケリー

 

トランプはラインス・プリーバスに代わってケリーを大統領首席補佐官に就けるという決断を行った。これはトランプ大統領の日常的な行動の具体例を示している。それは、既に政権内で高位の職にある人物を空いたポジションに就けるというものだ。

 

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ラインス・プリーバス

 

こうした行動の結果として、旅行禁止や国境警備の手法といったトランプ大統領の議論を巻き起こす政策を実行するにあたり中心的な役割を果たす省庁のトップがしばらく空位になってしまった。

 

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キリステン・ニールセン

 

トランプは最終的にキリステン・ニールセンを後任に選んだ。ニールセンはジョン・ケリーの次席を務め、またジョージ・W・ブッシュ政権にも参加していた。しかし、2018年秋になりすぐに、トランプは11月の中間選挙後にニールセンを更迭する意向だという報道が数多く出るようになった。

 

●国務長官

 

トランプは、エクソンモービル社CEOであり、自身が選んだ最初の国務長官だったレックス・ティラーソンとたびたび衝突したことは既に知られている。イラン問題からパリ気候変動合意まで多くの点で衝突した。ティラーソンは昨年、国防総省で開催されたある会議の席上でトランプのことを「愚か者」と呼んだと報じられた。

 

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レックス・ティラーソン

 

今年3月にトランプがツイッターを通じてティラーソンを解任したことに誰も驚かなかった。トランプはツイッター上でイランとの核開発を巡る合意の放棄について両者の意見が合わなかったと述べた。

 

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マイク・ポンぺオ

 

トランプはすぐにCIA長官だったマイク・ポンぺオを次の国務長官に指名した。外交政策についてタカ派的な考えを持つ元カンザス州選出連邦下院議員だったポンぺオを政権の中でより人の目に晒される地位に就けた。ポンぺオは、北朝鮮の核兵器開発プログラムの停止に関して、北朝鮮を交渉のテーブルに引き出す試みにおいて推進役を担った。

 

CIA長官

 

ポンぺオの国務長官就任によって、CIA初の女性長官が就任する道が開かれた。ジナ・ハスペルは長くCIAに勤務したヴェテランで、トランプによってCIA長官に指名され、2018年5月に連邦上院において54対45で人事を承認され、CIAを率いることになった。

 

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ジナ・ハスペル

 

ハスペルの就任承認は平穏にはいかなかった。911当時多発テロ事件以降のテロ容疑者たちに対する尋問には批判も出ており、こうした尋問についてのハスペルの関与について様々な角度からの調査が行われた。

 

ハスペルは歴代のCIA長官と同じく、就任以降、目立たないようにしていた。しかし、アメリカを拠点にして活動していたジャーナリストのジャマル・カショギがイスタンブールのサウジアラビア領事館で殺害された事件についてCIAが情報を掴んでいたことがマスコミで報じられたことで、ハスペルはスポットライトの当たる場所に再び引きずり出されることになった。

 

●米国連大使

 

2018年10月、ニッキー・ヘイリーは2018年いっぱいで米国連大使を辞任すると突然発表を行った。

 

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ニッキー・ヘイリー

 

サウルカロライナ州知事を務めたヘイリーは、トランプ政権発足後からすぐに、政権の外交政策における重要な人物となった。そして、国際問題についてのトランプの行動を支持してきた。早い段階でヘイリーはトランプからの尊敬を勝ち取り、トランプとの間で合意ができない場合でも、独立した姿勢を貫き続けた。

 

ヘイリーの辞任の発表は、共和党所属の連邦議員たちと保守派の人々の間に失望をもたらした。

 

ヘイリーは2020年の米大統領選挙に出馬しトランプに挑戦するために大使を辞任するのではないかという憶測を否定し、公的な仕事から退いて「休息を取りたい」と述べた。

 

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ヘザー・ナウアート

 

トランプは、フォックス・ニュースのキャスターを務め、国務省報道官を務めているヘザー・ナウアートをヘイリーに後任に指名した。しかし、国連大使の地位を閣僚レヴェルから引き下げることをトランプは計画している。

 

●国防長官

 

先週、マティスはワシントンに衝撃を与えた。マティスは2019年2月に辞任すると発表した。その中で、彼はトランプ大統領と政策面で合意が出来なかったことを示唆した。辞任の決断は、トランプ大統領がシリアから米軍を撤退させると発表してから数日後に行われた。トランプ大統領の米軍撤退の発表は幅広い層から批判を受けた。

 

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ジェイムズ・マティス

 

多くの人々は、マティスこそは、無秩序に陥りつつある政権を安定させる存在であり、第二次世界大戦後のアメリカの同盟関係を守る人物であると考えた。民主、共和両党はマティス辞任のニュースを受けて狼狽した。これ以降、トランプと連邦議員で彼を擁護してきた人々との間で亀裂が生じることになった。

 

連邦上院院内多数派総務ミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は木曜日、「アメリカの世界における指導力に関するいくつかの重要な点」について大統領と合意できない点があったのでマティスは辞任するということを知り、「酷く動揺」したと述べた。

 

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ミッチ・マコーネル

 

トランプは外部からの批判と、トランプとマティスとの間の相違を明らかにしたマティスの辞任についての書簡に苛立ったと報じられている。そして、日曜日に、マティスは2018年の年末までに辞任すると発表した。

 

トランプはツイッターを通じて、マティスは、アメリカが、アメリカの納税者の犠牲の上に、「多くの」富裕な国々の軍隊に対して「実質的に補助金を支給し続けている」ことを認識していないと述べた。トランプは更に、マティスを二カ月も早く追い出して、臨時の国防長官にパトリック・シャナハン国防副長官を任命した。

 

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パトリック・シャナハン

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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