古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中国政治

 古村治彦です。

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界hongkongmap001

 2019年7月29日の昼過ぎに香港に向かった。香港では香港島西部にある地下鉄の西営盤駅近くのホテルに投宿した。何となくだが深圳から香港に移ると少しホッとするところがある。ホテルにはスマホが置かれており、ご自由にお使いください、とあった。このスマホを使ってもいいし、自分のスマホのためのwi-fiにも使えた。
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 香港では通常の観光もそこそこにデモが行われていた場所に向かった。香港島の中心部にある中環(Central、セントラル)から金鐘(Admiralty、アドミラルティ)にかけては金融街で世界各国の銀行や証券会社が支社を置いている。従って、欧米からの駐在員たちも多くおり、デモ隊はここを中心にしてデモをしていた。香港大学からも地下鉄ですぐに行けるということも利点であり、世界各国のメディアに注目を集めることができるという計算もあったようだ。また、香港の立法院や中国人民解放軍の本部も置かれている。
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立法院
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中国人民解放軍本部
 私たちが香港に滞在した7月末の段階では、デモが過激化する前
で、まだまだ落ち着いていた。ただ、街のあちこちに8月5日にジェネラル・ストライキを行おうという呼びかけのポスターやチラシが貼ってあった。デモがこれから過激化していくだろうと考えられた。
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上から読んでも横から読んでも香港と加油(頑張れ)

 ホテルでシンガポールのテレビ局のニュースを見ていたら(英語での放送なので分かりやすい)、香港の地下鉄でのデモ隊と警察の衝突について放映されていた。地下鉄が動かない、プラットフォームには乗客があふれかえっていた。市民へのインタヴューで、ある男性は本を片手に「今日は本を読みたいと思っていたので、ゆっくり本を読んでいる」と答えて、間接的にデモを支持する発言をしていた。しかし、もちろん怒っている人たちもいた。

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 デモに関する落書きには「Be Water(水のようになれ)」という言葉が散見された。これは、香港が生んだ映画界のレジェンドであるブルース・リーの言葉だ。水は変幻自在に形を変える。静かな時は鏡のようにもなるし、荒れ狂う時には大地を削り、生物の命を奪う。戦国武将の斎藤道三の旗印も水であったことはよく知られている。ブルース・リーは今でも香港の人々に親しまれているということが分かるし、逆にブルース・リーよりも更に香港映画を世界に広めたジャッキー・チェンは大陸側にすり寄ってすっかり人気がなくなっているということが推察される。
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 デモに関しての私見を述べる。中国は外国から食い物にされてきた苦い歴史がある。アヘン戦争(1840―1842年)とその後の南京条約(1842年)によって国の一部が外国の植民地となり、国の富が吸い取られるという苦難を味わった。私は毛沢東が中国共産党を率いて日中戦争、国共内戦を戦い勝利できたのは、彼が自主独立(外国勢力に頼らない)ということを訴えたからだと思う(実態はアメリカからの支援で勝利をした訳だが)。外国からの支援、武器や資金の援助を受けてしまえば、その外国の意向を無視できない。中国の近代化のために、外国に頼ろうとした人たちは最終的にはうまくいかなった。これを敷衍すれば、香港の学生デモは外国に頼ろうとしている時点で、多くの中国人からの支持を得られないのではないかと私は思う。

 観光はそこそこにと決めていたが、九龍半島に渡り、リッツカールトンホテルに行って、香港市街を眺めながら、紅茶を飲んだ。シンガポールのTWGの紅茶が出され、大変においしかった。100階からの眺めも素晴らしかった。
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 リッツカールトンホテルの下に、中国の高速鉄道の駅である香港西九龍駅がある。この西九龍駅からは中国各地に向けての高速鉄道が出ている。
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 中国のホテルではフロントでも英語が通じにくかったが、香港のホテルはさすがにどこでも英語は通じた。しかし、香港市街の小さな食堂やコンビニでは英語が通じないことが多かった。これは意外であった。

 また、香港では反大陸、反中国中央政府、反中国共産党の気風が強いようだと感じた。大陸側ではウイチャットペイとアリペイでの決済が既に支配的であるのに、香港では今でも現金が通じた。ある人に聞いたら、大陸で使われているようなものを遣えるかという意識が香港の人々の間にあるらしい。また、中国語(普通語)を話すのも疎まれるようだ。同行したK氏(日本人)がタクシーやレストランで話すと、「あなたは外国人なんだから下手でも片言でも英語を使った方が良い、変に中国語を使うべきではない」と忠告されたということだ。中年以上は広東語を話しており、中国語は下手だということだ。抑揚や発音がうまくないのだそうだ。それでも若い人たちは学校教育を通じて普通語を話せるようになっているようだ。

 「場(トポス)」としての香港についての報告としては小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学』が興味深い。

 深圳と香港に行き、日本にはない活力を感じた。「最前線」にいるという感覚は日本では感じることはない。この感覚を味わうだけでも中国を訪問する意義はある。日本は閉鎖された沈みゆく船だ。そのことに気づかされる。それだけでも大きな収穫となる。

 

 以下に、『全体主義中国がアメリカを打ち倒すーディストピアに向かう世界』のまえがき、目次、あとがきを貼り付けます。是非お読みください。よろしくお願いいたします。

 

(貼り付けはじめ)

まえがき   副島隆彦

 

中国は表紙に打ち込んだとおり明らかに全 トータリタリアニズム 体主義国家である。

その別名が「共産中国(きょうさんちゅうごく)」である。みんなに嫌われるはずだ。だが、今後、世界中がどんどん中国のようになる。

 

世界中のすべての国が、中国化するのである。その代表的な具体例かつ証拠は、監視カメラ(CCTV [シーシーティブイ]。今はコミュニティ・サーキットTV[ティビー]と呼ぶ)が、街中のあらゆるところに取り付けられていることだ。アメリカも、ヨーロッパも、日本だって監視カメラだらけの国になっている。

 

中国では監視カメラによる民衆の動きの把握のことを 天 てんもう 網(ティエン・ワン)と言う。「天網恢恢疎にして漏らさず」の天網である。

私は最近、中国に香港から入って 深圳(しんせん)に行った。この中国のITハイテクの最先端の都市を調査してきた。あれこれもの凄(すご)い発展ぶりだなと、思った。それを後(あと)の方で報告する。中国にまったく行きもしないで、中国の悪口ばかり言っている(書いている)人たちは、お願いですから、せめて北京と上海に行ってください。安いホテル代込み10万円で行けます。エクスペディアなどネットで安くで予約するといい。

 中国は国民の生活を監視している国になってしまっている。もうすぐ監視カメラが中国全土に 6 億台取り付けられるそうだ。中国国民14億人の2人に1台の割合だ。まさか個人の家の中までは取り付けられないだろうが、それだって分からない。中国のすべての都市の街路には、既に付いている。

 ところが、これらの中国製の監視カメラ会社に、最初に技術を開発して売ったのは、日本の大手電機会社である。ニコンとキヤノンとパナソニックとソニーが、この公共空間のカメラの技術を一番先に開発した。日本がいまもドイツ(カールツァイスとライカ)にも負けないで、世界一の技術力を誇っているのは、この分野である。専門技術でいえば、フィルムとフィルターとレンズの技術である。ハッセルブラッド社(スウェーデン)は、DJI(中国のドローンの最大手)が買収した。

 あとのほうで載せるが(P61)、キヤノンの御手洗富士夫(みたらいふじお)会長の発言で、「キヤノンは監視カメラで未来を切り開く」と最近堂々と日経新聞に出ていた。

 中国だけが国民を徹底的に監視しようとしている国家なのではない。米、欧、日の先進国も監視国家だ。それに続く新興国も、「国民を監視する国家」になっていくのである。すなわち中国が先導して、他の国々もそれに追随する。これからの人類がたどるのは、このディストピア(幻滅の国。絶望郷[ぜつぼうきょう] 。監視国家)への道である。中国だけがますますひどい国になるのではない。ディストピア(dystopia)はユートピア(utopia、理想郷[りそうきょう])の反対語(アントニム)である。 

 人類が自分の未来を、盲目的、直線的かつ貪欲に突き進む結果、世界はこのあと、いよいよ中国のようになっていく。中国の悪口を言っていればいいのではない。

 国民生活が、権力者や支配者によって徹底的に監視され、統制される政治体制のことを全体主義(totalitarianism トーリタリアニズム)という。この全体主義という言葉を広めたのはドイツ人の女性思想家のハンナ・アーレン人である。彼女が、1951年に書いた『全体主義の起源』で、ソビエト体制を批判した時に使われた言葉である。このコトバの生みの親は、イタリア知識人のジョバンニ・アメンドラである。

 世界がやがて中国のようになっていく、という課題は、私が急に言い出したことではない。すでに感覚の鋭い言論人や知識人たちによって「世界は中国化する」という本も出ている

 もう 20 年前からイギリスのロンドンは、すべての街 ストリート 路に監視カメラが設置されていたことで有名だ。今の日本も主要な生活道路のほとんどにまで、監視カメラが設置されている。このことを日本国民は知らされていない。新宿や池袋のような繁華街だけが、カメラで監視されているのではない。 

 民衆の往来、行き来を、政府や取り締まり当局(警察)がずっと撮影して、画像を保存している国が立派な国であるはずがない。だが、どこの国の警察官僚も、必ずこういうことをやる。官僚(上級公務員)というのは、本性(ほんせい)からしてそういう連中だ。

 これは人類にとっては悲しむべき間違った方向である。科学技術(テクノロジー)の進歩が、コンピューターや通信機器(スマホ他)の異常な発達とともに、こういう監視技術を最高度に発達させた。この監視システムを維持するために、一体どれほどの警察公務員が新たに採用され続けているかについて、誰も関心を払わない。

 それにしても、全 トータリタリアニズム 体主義は強いなあ。世界大恐慌が襲いかかったとき、中国はシャッタード・アイランド(バターンと金融市場を閉じる)ので、ビクともしない。

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目次

まえがき 3

 

第1章 中国のディストピア化を追いかける世界

中国は巨大成長したという事実は否定できない 18

世界の知識人が描いてきたディストピア像 22

左右のどっちからも嫌われるのが一番いい 30

全体主義中国を徹底的に叩く 33

ディストピア映画の歴史的系譜 40

 

第2章 貿易戦争から金融戦争へと移り変わった

〝卑屈〟なテンセントが金融戦争に勝利する 52

銀行消滅とCCTV 59

銀行の別名は「信用」 69

アリババはNY市場から締め出されるのか? 70

中国のネット世代と実質的なデモクラシー 75

ファーウェイはアメリカのいじめに負けなかった 82

アメリカと中国の睨み合いは続く 87

中国人は国有企業が嫌い、民間企業大好き 90

半導体製造の切り札、紫光集団 96

 

第3章 中国は最早アメリカとの力相撲を恐れない

中国の技術泥棒を引っ張った「千人計画」 104

結局中国を一致団結させてしまったアメリカのミス 109

米中IT戦争と日本の半導体潰しの意外な共通点 112

サムスンを育てたのはインテル 117

新たな火種となったレアアース 120

 

第4章 中国にすり寄る 韓国、北朝鮮と台湾を巡るつばぜり合い

北朝鮮と韓国による「高麗連邦」の誕生 130

GSOMIA破棄問題で嫌韓が高まった本当の意味 132

アメリカが韓国を切ったのではなく、韓国がアメリカを切った 135

香港問題は台湾問題である 139

2020台湾総統選とテリー・ゴウの動き 142

韓国瑜はアメリカの回し者だった 145

中国は民主化するのか? 150

台湾の中国化とシーレーン問題 152

中国人はヒラリー・クリントンのことが大嫌い 154

もうアメリカの圧力などなくなってしまった 160

警戒の目はファーウェイの海底ケーブルに 164

 

第5章 中国の膨張を招き込んだアメリカの弱体化

腰砕けとなったペンス副大統領 170

「外国にいる米軍の兵隊たちは国に帰って、ゆっくり休め」 174

米中貿易戦争は、今年中に表面上は静かになる 177

イレイン・チャオはチャイナ・ロビー代表で政権ナンバー 3 180

EVの天下を取る中国にひれ伏すマスク 187

 

第6章 アフリカと中央アジアに広がる チャイナネットワーク

アフリカの一帯一路戦略 204

次の世界の中心は中央アジアになる 213

中国はアメリカからアフガンを任された 219

 

第7章 ディストピア中国の不穏な未来

新疆ウイグル問題の真実 224

私は見た、深圳の現実を 236

華強北と中国のジャイアント・ベイビーたち 238

ドローンの恐るべきパワー 248

デジタル人民元の脅威 250

 

あとがき 252

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あとがき   副島隆彦

 

この本『全体主義(トータリリアニズム)の中国がアメリカを打ち倒す││ディストピアに向かう世界』は、世界最大の牢獄国家、中国についての、私の 11 冊目の本である。

英文の書名は、“Totalitarian China will finish of America(トータリタリアン・チャイナ・ウィル・フィニッシュ・オフ・アメリカ)”である。このfinish off(フィニッシュ・オフ)という動詞は、「とどめを刺す、息の根をとめる」という強い意味だ。

 

『あと 5 年で中国が世界を制覇する』(2009年刊)という本も、私は書いている。この本は反共(はんきょう)右翼の人々から激しく嫌われた。「何を言うか。中国は暴動が起きて、中国共産党は潰(つぶ)れるのだ」と、彼らは、私の本に最大限の悪罵(あくば)を投げた。それで、現実の世界の動きは、その後どうですか。

 

人も国家も、より強い者に虐(いじ)められながら、這い上がってゆく途中は、善であり、正義である。より強い国の支配の下(もと)で、苦心惨憺(さんたん)しながら勝ち上がってゆく。

しかし、一旦(いったん)、勝者になったら正義[ジャスティス]justice)から 悪[イーヴォ]evil)に転化する。中国が、アメリカ合衆国を打ち負かして世界覇権(はけん)国(ヘジェモニック・ステイト)になったら、その時、巨大な悪[イーヴォ]evil)になるのである。それまであと5年だ。

人も国家も、そして企業も、2番手に付けて1番手(先頭、支配者[ガリバー])の真似をしながら必死で喰い下がっているときが、一番美しい。これまでの40年間(鄧小平[とうしょうへい]の「改革改放宣言」1978年12月18日。 40周年を中国は祝った)、私は、アメリカ帝国の後塵(こうじん)を拝しながら、蔑(さげす)まれながら、泥だらけの極貧(ごくひん)の中から、着実に勝ち上(のぼ)ってきた中国を頼もしく、美しいと思ってきた。

 

この11月20日に北京で、〝世界皇帝代理〞のヘンリー・キッシンジャーが心配した。これに対して、翌日即座に、習近平は、「心配しないで下さい。中国は世界覇権(hegemony、ヘジェモニー。ドイツ語ならヘゲモニー)を求めません(私たちは、これまでにいろいろ苦労して、人類史を学びましたから)」と発言した。

これが一番大きな処(ところ)から見た、今の世界だ。日本という小ぢんまりとした国で世界普遍価値(world values、ワールド・ヴァリューズ)を理解しようとして、私は、独立知識人として(本書第1章を参照のこと)、孤軍奮闘して来た。

 

 本書は書名が決まったのが11月11日。体調不良の中で、2週間で作り上げた。だが手抜きはない。いつもながらの全力投球だ。私の地獄の踏破行(とうはこう)に同行して、命懸けの鎖場(くさりば)にも付き合ってくれたビジネス社大森勇輝編集長に記して感謝します。

 

2019年12月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今年に入って、中国・上海郊外の義烏市からロンドンまでの貨物輸送鉄道が開通したそうです。7500マイル(約12000キロ)を16日間でつなぐというものだそうです。

 

この鉄道線は、中国が2011年に発表した「一帯一路(One Belt, One Road)」構想の一環であり、この一帯一路構想は、シルクロードと海のシルクロードの再構築、という中国のユーラシア大陸とアフリカ大陸、インド洋を「獲得する」ための大構想です。

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 以下に紹介する文章にもありますが、太平洋でアメリカと日本から受ける圧力を受け流すために、後背地として中央アジア、そして遠くヨーロッパ、アフリカまで包含する大構想です。 

 

 一帯一路構想は鉄道だけではなく、道路やパイプライン、航路でもつながるということであって、まさにこれから、「ユーラシアの時代」がやってくるという予感がします。
 


(貼りつけはじめ)

中国の「新シルクロード」急行、出発進行(
All Aboard China’s ‘New Silk Road’ Express

:太平洋からロンドンまでの中国の鉄道は、アメリカとの関係が緊張を増す中でヨーロッパ志向になっていることを示す

 

ロビー・グレイマー筆

2017年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/01/04/all-aboard-chinas-new-silk-road-express-yiwu-to-london-train-geopolitics-one-belt-one-road/?utm_content=buffer9f622&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

中国の「新しいシルクロード」は輝かしい新しい道を獲得した。中国東部の浙江省からロンドンまでつなぐ鉄道サーヴィスが始まる。中国鉄路総公司は1月2日に、上海市郊外で人口100万を抱える都市である義烏市から初めて貨物輸送列車が出発したと発表した。これは、物流における素晴らしい企てだ。この鉄道は全長7500マイルを誇り、16日間をかけてヨーロッパ各国の大都市や首都をつなぐ。

 

より重要な事は、義烏・ロンドン鉄道線は、中国の「一帯一路」政策という地政学的な野心をあらわにするものだ。この一帯一路政策は、中国と中央アジア、中東、ヨーロッパを繋いだ古代の貿易ルートである「シルクロード」を再び作り上げることを目的にしている。アメリカは中央アジアに安全保障をもたらそうという野心を持っている。そして、米中の貿易関係が悪化し、ドナルド・トランプ次期大統領と彼の政権移行ティームが示しているように、中国に対して厳しい姿勢を取っている。この「新しいシルクロード」は、中国にとってより重要性を増すものとなる。

 

古い貿易ルートであるシルクロードを通じてアジアとヨーロッパを繋ぐという中国の目標は、「ベルト・アンド・ロード・イニシアティヴ」など多くの名前で呼ばれている。これは、世界人口の60%を占める65の国々の間で貿易がやりやすくするということなのである。中国は鉄鋼やセメントといった主要な産業部門で生産力過剰に苦しんでいる。そこで、中国は経済を健全なペースで成長させるために必要な新たな市場を探している。

 

ブルガリアの財務大臣や世界銀行幹部を歴任したシメオン・デジャンコフは、「中国は、自国の労働力と建設資材を輸出しているのだ」と述べている。

 

また、中国の国営銀行はそれぞれ、輸送と建設インフラのために2500億ドルの融資を行っている。ピーターソン国際経済研究所の報告によると、「一帯一路」プロジェクトに対する投資は最大で4兆ドルにまで達すると見込まれている。

 

この鉄道はお金の面だけではなく、中国の外交政策にとっても僥倖である。オランダ国際関係研究所の欧中関係専門家であるフラン=ポール・ヴァンダー・パッテンは、「新しいシルクロードは、中国が外交政策面で持っている多くの目的を混合して含んでいる」と述べている。ヨーロッパと環インド洋地域のエネルギー、鉄道、港湾に対する中国の投資は、経済的な利益よりも地政学的な利益を中国にもたらす可能性が高い。

 

ヴァンダー・パッテンは「投資によって、中国はアジア、アフリカ、ヨーロッパでの外交的な影響力を強めることができる。東アジア地域でアメリカと日本から受けている地政学的な圧力に対してそれで対抗することができる」と述べている。

 

中国は、アメリカとの関係が緊張感を増していく中で、ここ数年、国内消費を増加させようとしているが、現在でも輸出に依存している。このプロジェクトは中国にとってさらに重要になっていくことだろう。トランプは自由貿易を声高に批判し、自分の周りに中国を叩く経済学者や貿易に関するアドヴァイザーを集めている。彼らは中国がアメリカ経済を苦しめていると非難している。このことは中国の指導者たちを心配させている。アメリカ貿易通商代表部によると、2015年の米中の貿易関係は合計で6594億ドルに達するものとなっている。

 

アメリカが関税率を上げ、通貨戦争を起こすようなことがあると、ヨーロッパに向けた新しいシルクロードは、中国にとっての格好の避難所となるだろう。

 

デジャンコフは次のように述べている。「トランプ次期政権が貿易面で厳しい態度を取ると、中国は、“ヨーロッパは我々にとっての主要な貿易パートナーである”と言ってインフラを建設することになるだろう」。

 

鉄道輸送サーヴィスは大量輸送の面で最も効率的な輸送方法ではない。しかし、中国鉄路総公司は、ドイツのハンブルク、イタリアのミラノ、スペインのマドリッド向けの鉄道輸送サーヴィスを提供している。義烏・ロンドン鉄道線はコンテナ200個しか輸送できない。巨大な輸送船ならば2万個のコンテナを運べることを考えるとこの数は大変に小さい。しかし、ある種の財物であれば十分に利益を出せるものである。

 

イギリスに本社を置く輸送サーヴィス会社ブリューネル・プロジェクト・カーゴ社のマイク・ホワイトは、「ロンドンまでの鉄道輸送は、海上輸送に比べて半分の距離で済み、空路輸送に比べてコストを半分にできる」と述べている。ブリューネル・プロジェクト・カーゴ社は義烏・ロンドン鉄道線に参加している。ホワイトは、「義烏・ロンドン鉄道線の実現によって、中国との輸出入にかかわる輸送業者や荷主の多くが輸送方法について考え方を変えることになるだろう」と述べている。

 

義烏・ロンドン鉄道線は象徴的な記念碑的事業となっている。前出のデジャンコフは、「“一帯一路”構想が2011年に初めて発表された時から、この構想はヨーロッパの中心とロンドンにつながることを目的とした計画となって具体化したし、それが実現しつつある」と述べた。

 

経済大国であるイギリスは、2014年だけで6630億ドル分の輸入を行った。イギリスは、中国の輸出を基盤とした経済にとって魅力的な対象となる。ここ数年、中国はイギリスの産業とエネルギーに対する投資を増加させている。そして、中国は少なくともつい最近までは、世界第二位の経済大国への経済的なアクセスを熱望するイギリスの指導者たちから熱烈な歓迎を受けた。EU離脱後にヨーロッパとの貿易における優位を失う可能性が出てきたことで、イギリスは、中国との貿易関係を更に深めたいという希望を持つようになるだろう。

 

「一帯一路」はただ鉄道だけのことではない。「帯」は中央アジアを貫く道路とパイプラインを含む陸上のつながりを意味するものだ。「路」は、中国産の絹をローマ帝国各地の市場に送るためにインド洋で開拓された古い海のシルクロードを再び作り出すことを意味している。

 

しかし、中国の習近平国家主席は鉄道投資を最優先政策としている。国有鉄道に2020年までに5030億ドルを投資し、規模を拡大して、新たな輸出市場につなげようとしている、とブルームバーグは報じている。デジャンコフは「鉄道は新しいシルクロードにとって最重要の構成要素となる」と語っている。

 

迎える側となるヨーロッパは、義烏・ロンドン鉄道線が提供するであろうサーヴィスについて歓迎している。特に経済的に遅れていて、輸送、エネルギーなどに投資を必要としているヨーロッパ内部の周辺部は熱いまなざしを向けている。

 

ヴァンダー・パッテンは、中国の新たな鉄道ザーヴィスによって資金を得られることになるので、「ヨーロッパ各国の政府と企業は鉄道サーヴィスに対して大きな期待を持っている」と語っている。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)



アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22




 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

 古村治彦です。

 

 今回は、ご好評いただいております『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー著、古村治彦訳、ビジネスは、2014年)の、ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」に掲載した宣伝を転載します。

 

 お読みいただければ幸いです。宜しくお願い申し上げます。


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「宣伝文0011」 オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー著『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(古村治彦訳、ビジネス社、2014年)が発売中です。 古村治彦(ふるむらはるひこ)筆 2014年5月25日

 

 ウェブサイト「副島隆彦の論文教室」管理人の古村治彦です。

 

 本日は、現在、発売中の『野望の中国近現代史 帝国は復活する』を皆様にご紹介いたします。この本は、私にとって初めての中国関連の翻訳となります。本書は、中国の近現代史、具体的には1840年の第一次アヘン戦争から現在に至るまでの、中国の近代化を彩った知識人と政治家たち11名を取り上げ、その人物に焦点を当てながら、歴史を分かりやすく書いた本です。

 

 本書は原著も400ページを超える大部で、翻訳も精一杯努力しましたが、480ページ近くになってしまいました。その分、お値段も高くなってしまい、皆様には申し訳なく思っております。しかし、ページ数、内容から考えて、2冊分以上の価値はあると私は胸を張って申し上げることができます。

 

 以下に欧米の一流メディアに掲載された書評をご紹介いたします。参考にしていただき、本書をお読みいただけますようにお願い申し上げます。

 

 

 

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ニューヨーク・タイムズ紙 2013年7月18日

 

http://www.nytimes.com/2013/07/21/books/review/wealth-and-power-by-orville-schell-and-john-delury.html?pagewanted=all

 

「書評:面目を失い、そして大躍進を行った―オーヴィル・シェル・ジョン・デルリー著『野望の中国近現代史 帝国は復活する』」

 

ジョセフ・カーン(Joseph Kahn)筆

 

 中国古代史の代表作である『史記(Records of the Grand Historian)』には、越王勾践が恨みの感情をどのように涵養していったかの話が取り上げられている。紀元前5世紀、勾践は越を統治し始めた時、勾践の宿敵が越を攻撃し、勾践は捕虜となった。宿敵は勾践を奴隷とした。勾践は3年間の奴隷生活の後、解放されて、王座に戻ることが許された。しかし、勾践は王としての優雅な暮らしを避け、農民たちが食べるような粗末な食事をし、質素な生活に徹した。彼は薪を積み上げただけのベッドで眠り、天井から苦い肝を吊るし毎日嘗めた。中国には「臥薪嘗胆(sleeping on sticks and tasting gall)」という警句がある。この警句は、勾践が恥辱を忘れずに、恥辱をバネにして自分を強くしたという故事を賞賛しているのである。

 

 『野望の中国近現代史』の中で著者オーヴィル・シェルとジョン・デルリーは中国の現在の台頭の知的、文化的源泉について丁寧に描き出している。シェルとデルリーは、勾践の物語を大元帥(Generalissimo)・蒋介石は大好きだったと書いている。蒋介石は中国を統一しながら、後に台湾に追われた。著者たちは、現代中国の重要なテーマとして「恥辱」を挙げている。19世紀初めの魏源から昨年(2012年)に中国国家主席に就任した数近平に至るまで、恥辱という概念が共通するのである。魏源は、全能の中華帝国が根本から衰退しつつあると主張した中国初の知識人である。著者たちは、「中国は過去150年間にわたり外国からの侵略を受けて恥辱を被ってきたが、その屈辱感が中国の統一を維持するための接着剤の役割を果たした」と主張している。

 

 多くの国々は勝利にこだわり、その勝利の上に歴史を作ってきた。アメリカは独立戦争の勝利の上に成立した。イギリス人たちは今でも第二次世界大戦に関するドキュメンタリーを見るのが大好きだ。しかし、中国人たちにとっては今でも1842年に第一次アヘン戦争に敗れたという事件が心理的に大きな傷となっている。中国は現在、3兆ドルの外貨準備を誇るまでになっているが、それをもってしてもこの傷を癒すことはできない。第一次アヘン戦争の後、中国はまずヨーロッパ列強に、後に日本によって傷つけられ、破壊され、分割されてしまった。中国の兵士たちが日本軍を追い出し、中国が再統一したのは60年以上前のことだ。しかし、中国人たちは中国が蒙った苦しみを歴史の中にウもさせるのではなく、記憶していくという決心をした。

 

 屈辱感はたいていの場合、行動を抑制するものとなる。本書は11名の人物を取り上げ、その人生を詳しく描いている。本書の中で、シェルとデルリーは、近現代の知識人や政治指導者たちにとって恥辱は刺激となったと主張している。ある意味で、その証拠を探すことは難しいことではない。天安門広場にある国立博物館は2011年にリオープンされたがその記念イベントのタイトルは「復興への道(The Road to Rejuvenation)」というものであった。このイベントの中で、アヘン戦争は現在の中国を作った出来事として扱われている。またイベントでは、中国共産党がどのようにして中国の偉大さを取り戻したかをディズニー風に展示していた。不平等条約の一つである南京条約が締結された静海寺の敷地内にある記念館には、次の言葉が飾られている。「屈辱感を感じることは、勇気を生み出す」。恥辱は中国共産党の宣伝にとっての重要要素となっている。

 

本書の著者シェルは、中国で経済改革が始まって以降の政治と社会について報告を続けてきたヴェテランのジャーナリストである。デルリーは中国と北朝鮮の政治の専門家である。著者であるシェルとデルリーは、中国共産党が屈辱感をアピールすることの裏側にある意図を正確に理解している。しかし、本書『野望の中国近現代史』は、このような感情は中国人の心理において深い傷を残していると主張している。そして、現在の中国の政治指導者たちの文化的な遺伝子の中にはこの傷が残っているのである。中国を愛するということは、19世紀に苦しんだ面目を失うことになった様々な事件を乗り越え、過去に苦しんだ苦い敗北を繰り返さないという情熱を共有することである。

 

 アヘン戦争の残したものや中国のナショナリズムの源流を探った本は本書が最初ということではない。しかし、本書『野望の中国近現代史』が読者に提示しているのは、「西太后から鄧小平まで、中国の最重要の知識人たちと政治指導者たちは恥辱を雪ぐという国家規模の希望を叶えようとしていたという点で共通している」という主張である。彼らは屈辱を感じ、その屈辱をバネにして「富強」の途を突き進んだのだ。

 

 中国の近現代史において知識人や政治指導者たちが行ったことのほとんどは無残な結果に終わった。150年以上にわたり、中国は帝国、軍閥、共和制、共産主義と支配者が次々と変化した。中国の支配者たちは封建主義、ファシズム、全体主義、資本主義を利用してきた。シェルとデルリーは、このような衝突し合うシステムやイデオロギーの中から中国を形成したものは出てこなかったし、指導者たちも何かに固執するということもなかったと主張している。著者たちは、中国の近現代史は、国家の復興(restoration)のために何かを追い求めた歴史であると書いている。

 

19世紀初めの改革者たちは、中国史上初めて、「中国は巨大であるが弱体である」と宣言した人々である。彼らの主張は正しかったが、19世紀当時、彼らは異端となってしまった。初期の改革者たちが提案した解決策は、「自強(self-strengthen)」であった。それは、西洋の技術と方法から中国に合うものを選び出して採用することであった。しかし、何度かのより深刻な後退を経験した20世紀初頭、学者や知識人たちの主張はより大胆になった。梁啓超は「恥辱感覚協会」の創設者となった。彼は「中国文化は中国人を小心にした」と主張した。梁啓超は中国伝統の儒教的な「核」を破壊し、西洋から輸入した思想によって国を再建したいと望んだ。

 

 中国国民党の指導者であった孫文と蒋介石もまた西洋の理想を追い求めた。彼らは西洋の政治、文化、経済的原理を追い求めて苦闘した。彼らは中国を復活させるために苦闘した。シェルとデルリーは、梁啓超の唱えた「創造的破壊(creative destruction)」という考えは、毛沢東までつながっているとも主張している。

 

 毛沢東が遺した破壊、階級の敵とされた人々の殺害、膨大な数の餓死者を出した大躍進運動、破壊と無秩序をもたらした文化大革命について、本書の著者たちは、こうした毛沢東の施策を急進的なマルクス主義からではなく、受動的な儒教の伝統の排除を試みたのだという観点から見てみることを読者に提案している。毛沢東は特に、「調和」という伝統に基づいた理想を消し去りたいと考えた。そして、「永続的な革命(permanent revolution)」の追求を人々に植え付けようとしたのだ。毛沢東は、中国の伝統文化を打ち破ることで、中国の持つ生産力を解き放つことができるようになると信じていた。

 

 著者であるシェルとデルリーは、「毛沢東は鄧小平と朱鎔基をはじめとする彼の後継者たちのために進む道にある障害を綺麗に取り除く意図を持っていた」などとは主張していない。鄧小平の後継者たちは、鄧小平が計画したことを忠実に実行し、成功を収めた。しかし、鄧小平が推進した市場志向の諸改革は、たとえ毛沢東が鄧小平に破壊され尽くした状態の中国を譲り渡していなくても、様々な抵抗に遭っていたであろうということを著者たちは証明しようとしている。毛沢東の行った、流血の惨事をもたらした様々な闘争やキャンペーン与党である中国共産党は疲弊し、人々は中国に古くから伝わる秩序という概念を追放した。鄧小平の採用した戦術は毛沢東のそれは全く正反対であったかもしれないが、毛沢東、鄧小平、そして鄧小平の後継者たちが追い求めた目標は一部ではあるだろうが、全く同じ内容であった。

 

 本書のタイトルは『野望の中国近現代史(原題は、富と力を意味するWealth and power)』であるが、本書は中国の台頭に関しては決定的な説明を行っているものではない。著者のシェルとデルリーは、本書の中で、中国経済に関してはほんの数ページを割いているだけに過ぎない。中国が大国として台頭していることを描いている他の本では、中国経済が中心テーマとなっている。しかし、シェルとデルリーは、中国の現在の成功を生み出した、政治と知的な活動とその基盤となる中国文化が如何に機能して、過去の苦境を乗り越えることができたかを丁寧に描いている。中国文化は、しかし、より豊かにそしてより強力になった中国にとってより大きな挑戦を用意している。この戦いは厳しい。それは一度打ち破られた幽霊であるはずの中国の伝統文化と戦い続けることなどできないからだ。

 

(終わり)

 

エコノミスト誌 2013年8月3日

 

http://www.economist.com/news/books-and-arts/21582489-great-power-still-licking-old-wounds-marching-forward

 

中国の偉大さの復活:前進し続ける

しかし、超大国は今でも過去の傷にこだわり続けている

 

 現代中国の基礎となった精神的傷を中国人たちは1842年に受けた。イギリス軍は、南京条約によって屈従することになった中国の喉にアヘンを押し込むことになった。アヘン戦争の結果として軍事的、外交的な敗北を喫したが、現在の中国では、アヘン戦争の敗北は新しい夜明けの前の暗闇となったと考えられている。

 

 実際、中国は、他国が勝利を祝うように、敗北を賞賛する。中国は、アヘン戦争の敗北後の数十年間に多くの恥辱を被った。ひとたびは世界最高の帝国であった中国(清帝国)はヨーロッパ列強によって、そして日本によって浸食された。この「中国は外国勢力によって恥辱を被った」という事実は現在の中国を支配している中国共産党の歴史観の中心的要素となっている。恥辱の歴史を強調することで、中国共産党が「富強(fuqiangwealth and power、富と力)」を回復させる上で果たした役割がより印象的となる。

 

 しかし、恥辱は中国という国家の成り立ちの中に組み込まれている。紀元前5世紀、越王勾践は治めていた国と自由を失う結果となった敗戦を忘れないと決心し、薪できたベッドに寝て、苦い肝を天井から吊るして毎日嘗めた。この苦い味を毎日感じることで、恨みを忘れず、後に復讐を成功させるための強さを身に付けた。苦いものを食べるという「吃苦(Chi ku)」は中国ではよく使われる表現である。

 

 『野望の中国近現代史』の著者オーヴィル・シェルとジョン・デルリーはそれぞれ、ベテランの中国ウォッチャーであり、若手の中国・朝鮮半島専門家である。著者シェルとデルリーは中国の経済的成功の源流を本書の中で探っている。中国史学者の中でも最長老のジョナサン・スペンス流に、著者たちは、1842年以降に中国を変化させようと奮闘した、11名の知識人と政治指導者たちを取り上げ、彼らの人生を詳述している。本書を貫くテーマは、悪評の高い西太后から改革志向の国務院総理であった朱鎔基に至るまで、中国の指導者たちは全て、中国の恥辱の歴史を転換しようとして、自分たちなりに奮闘してきた、というものである。

 

 中国が失った富と力を回復するためには正当な儒教の教えを乗り越える必要があった。儒教は国家よりも家族を、物質主義よりも精神性を、そして経済的な利益よりも祭礼の儀式を重視するように主張してきた。こうした儒教の教えが余りに根強かったために、中国は西洋列強からの脅威に対応できなかった。実際、富強の追求は、儒教のライヴァルである法家によって初めに主張された。法家思想の哲学者であった韓非子は2000年前に次のように主張した。「賢い指導者が富強の道を習得したら、彼は望むものは何でも行うことができるだろう」

 

 中国の「復興」の実現を目指して、本書『野望の中国近現代史』で取り上げられている人物たちは、新しいスタートにこだわった。彼ら改革者たちは、西洋から学んだことや思想を中国に試そうとした。中国の近代化の道筋は、様々な「主義」に彩られていた。立憲主義(康有為)、社会ダーウィン主義(厳復)、啓蒙専制主義(梁啓超)、共和主義(孫文)を試すように知識人たちは主張した。中国の伝統的な儒教にこだわった蒋介石すらも、レーニン主義とムッソリーニが始めたファシズムに魅了された。蒋介石が魅了されたレーニン主義とファシズムはしかし彼にとっては良い結果をもたらすことはなかった。独裁者は内戦に敗れ、台湾に逃亡する結果になってしまった。

 

 西洋のモデルを中国に適用しようとした試みのほとんどは悲惨な結果として終わった。中国の持つ歴史の力は近代性を否定しているかのようであった。この点で、著者であるシェルとデルリーは毛沢東について再評価をしようとしている。著者たちは、毛沢東が主導し、悲惨な結果に終わった大躍進運動と文化大革命についてなんら幻想も持っていない。また、毛沢東は自分の死後に起きた奇跡の経済成長を予見していたなどとも主張していない。しかし、著者たちは、毛沢東の永続革命に向けた情熱によって、まっさらな状態の中国を、中国の繁栄の設計者である鄧小平に引き継ぐことができたと主張している。毛沢東は大躍進運動や文化大革命を通じて中国の伝統文化を破壊した。毛沢東は、鄧小平の「改革開放という偉大な試み」のために「あとはショベルを入れるだけの」建設現場を準備したのである。

 

 これは議論や反論を呼ぶ主張である。他の国々は中国が経験したような心理的な傷、流血の惨事、苦境を経験せずに経済的成功を収めた。そして、中国は経済力、軍事力、外交力を増強し続けている。著者たちはこうした現状を書くだけで満足していない。彼らは、中国が手に入れた力で何をしようとしているのかという疑問を著者たちは提示しているのである。

 

 劉暁波はノーベル平和賞受賞者であるが、現在投獄されている。彼はこれまでにも何度も投獄されてきた。劉暁は本書の中で取り上げられた人々の中で最も示唆に富んだ人物である。劉暁波は、中国が富強を追い求める姿勢の裏側にある意図に対して、最も辛辣な批判をしてきた人物である。彼は中国の指導者たちが西洋を追い越すべきだと主張することを「病的だ」と批判した。劉暁波は、中国にとって必要なしかし耳の痛い疑問をいくつか提示している。それらは、「中国のナショナリズムが仕える対象は誰なのか?国家の誇りというものが一般の人々の犠牲の上に成り立っている独裁的な統治を正すのはいつのことか?」というものだ。

 

 魯迅は中国が各国に浸食されていた20世紀初頭における偉大な作家であった。魯迅は、「中国人は強い人間の前では奴隷のように行動し、弱い人の前では主人のように行動する」と批判した。中国は現在権威主義体制を採用している。そして、対外的には軍事力を増強し続けている。多くの人々は、苛められてきた子供が苦しみの中で成長して、力を手に入れて周囲を苛めるようになるのか、豊かで強力になった中国が国内と世界に平和をもたらすのか、懸念を持っている。これが現在の世界において最も議論されている問題である。

 

(終わり)

 

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(終わり)







 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



「習近平は団派のようなライバル派閥の人々をわきに追いやることに成功しているのか?」という疑問よりも、もっと重要な疑問は、「習近平が権力を拡大し、絶大な力を持つことは彼自身にとって良いことなのか?」という疑問である。中央全面深化改革領導小組を例に採れば、この機関は共産中国史上最大の高度な意思決定機関だと言える。この機関には4名の中国共産党中央政治局常務委員が参加し、主席と副主席を務めている。それ以外に、10名の中央政治局委員が参加している。中央全面深化改革領導小組は良く練られた構成となっている。これによって、習近平は、経済、行政、社会、文化の各方面の諸改革の将来に向けた道筋を直接監督することができるのである。(Finance.Sina.com[北京]、2014年1月24日;BBC中国語放送、2013年12月30日;ドイチェ・ヴェレ中国語放送、2013年12月30日)また、習近平は意思決定において明確な上意下達の命令系統を、中央全面深化改革領導小組を通じて持つことになるだろうと予測されている。第18期中国共産党中央委員会三中全会において示された文書には、諸改革の秩序だった実行について次のように書かれている。「私たちは、状況全体に責任を持ち、様々な部門を調和させるという党の中核的な機能を発達させねばならない」。習近平は中国共産党の最高機関が改革の様々な側面に責任を持つようにすると決意した。しかし、習近平の決意は、李克強が強調した、経済における官僚の介入の度合いの削減と「市場と社会の創造的な力の促進」を妨げるもののように考えられる。( China News Service、2013年11月17日;Caijing.com[北京]、2013年7月13日)

 

 ここで出てくる疑問は、習近平とつながりがある人々の質と能力はどうなのか、というものだ。習近平は自分の派閥に人を集め結束させることに腐心しているようである。従って、側近たちを昇進させる際に、職業上の能力よりも個人的な忠誠心を重視しているように見える。例えば、昨年陳希が中国共産党中央組織部のナンバー2に任命されたことについて考えてみる。陳希は才能あふれる工学の専門家であり、1990年代前半にはスタンフォード大学の客員研究員をしたこともある、陳希はキャリアの大半を清華大学で過ごした。2000年代の7年間は清華大学党委員会書記を務めた。また国務院教育部と中華科学技術協会に勤務していた経験もある。しかし、陳希は人事と組織に関する経験に欠けている。更に興味深いのは、陳希は沈躍躍(Shen Yueyue、1957年~)と交代して組織部副部長に就任したという事実だ。56歳の沈躍躍は陳希よりも若いだけでなく、人事や人材管理についてより知識を持っているのだ。沈躍躍は胡錦濤前国家主席の派閥に属しており、1998年から2002年にかけて浙江省と安徽省で組織部の幹部を経験している。そして、2003年から2013年まで中国共産党中央組織部副部長を務めたのだ。陳希の昇進は、習近平が大学の同級生に対して、人事の専門家であり、誰を政府内に入れるかの門番役である趙楽際の手助けをして欲しいと望んだ結果だと結論付けるのは難しいことではない。習近平派の利益にそぐわないと思われる人物は中央組織部の推薦を受けられずに昇進が難しくなるということになるのだ。(Radio Free Asia、2013年4月30日;大公報、2013年4月18日)江沢民と胡錦濤の組織哲学と同じく、習近平は 彼の最も信頼する人物を中国共産党中央組織部や中国共産党中央宣伝部のような「重要な機関」に配している。江沢民の時は曽慶紅、胡錦濤の時は李源潮が中国共産党中央組織部長となった。彼ら2人は上司である江沢民と胡錦濤にとって掛け替えのない助言者であった。

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沈躍躍

 

 2013年11月の第18期中国共産党中央委員会三中全会で採択された文書の重要性を説明しつつ、習近平は「改革を包括的に深化させることはシステム工学的に言えば、複雑なことである」と指摘している。彼は次のようにも発言している。「必要なことは、トップがデザインをし、包括的に計画を立て計算することだ」。国営の中国新聞は更に次の世に書いている。「習近平の中央全面深化改革領導小組の主席就任は、この機関が充分な権威を持ち、決定がスムーズにかつ有効に行われるということを担保している。習近平はこのような方法で既得権益からの抵抗と妨害を排除しようとしているのだ」。(中国新聞、2013年12月31日;New Beijing Post、2013年11月14日習近平の正統性を更に強化し、人気を高めるために、習近平と彼の側近たちは、「国家主席は改革の速度を加速させるために権力を掌握しつつある」ということを示していかねばならない。彼らといえども毛沢東流の権力の事故強化スタイルから逃れることはできないのだ。

 

(終わり)



 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 古村治彦です。

 今回から中国国家主席・中国共産党総書記・中国共産党中央軍事委員会主席である習近平に近い人々の顔ぶれを取り上げた論文をご紹介します。


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習近平派の人々を明らかにする(
Members of the Xi Jinping Clique Revealed

 

Publication: China Brief Volume: 14 Issue: 3

 

February 7, 2014 03:43 PM Age: 61 days

ウィリー・ラム(Willy Lam)筆

 

http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=41933&tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=c97424fda6de2f64e09ee0e2456c6bb3#.U0VpZH-KBjo

 

 分水嶺となった第18期中国共産党大会から14カ月が過ぎた。習近平(Xi Jinping、1953年~、しゅうきんぺい)国家主席は実力者への道を順調に進んでいる。習近平は、前任者の江沢民元国家主席と胡錦濤前国家主席よりも自身の持つ権力の範囲を拡げ、深化させている。2014年1月、習近平は「国家安全保障委員会(National Security Commission)」の主席に就任した。この国家安全保障委員会は、国家警察、情報機関、司法機関を統制する機能を持つ。それから1カ月前の2013年12月、習近平はもう一つの上位統合機関である「中央全面深化改革領導小組(Leading Group on the Comprehensive Deepening of ReformLGCDR)」の主席に就任した。この機関は、2013年11月に開催された第18期中国共産党中央委員会三中全会(Third Plenum of the 18th Central Committee)の気施錠で設立が決定された。(新華社通信、2014年1月24日;人民日報、2014年1月24日;中国日報、2014年1月22日)習近平は、党、外交問題、軍事問題に加えて、複雑な国家安全保障と法執行にも取り組むことになった。中央全面深化改革領導小組の主要な機能は、経済改革手法をデザインし、実行することである。習近平は、李克強(Li Keqiang、1955年~、りこくきょう)国務院総理から経済政策の最終監督者としての役割を剥奪したように見える。(民報[香港]、2014年1月25日;大公報[香港]、2014年1月25日;“Xi’s Power Grab Towers over Market Reforms,” China Brief, November 20, 2013も参照のこと)習近平は習近平派(Xi Jinping Clique)を形成しつつあるように見える。習近平派のメンバーたちは、党、政府、人民解放軍の重要な地位に就いている。

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習近平             江沢民(左)と胡錦濤        習仲勲

 

 習近平と江沢民、胡錦濤を比較して良く書かれているのは、2人はそれぞれ上海閥と中国共産主義青年団(Communist Youth LeagueCYL)派という2つの派閥のトップであった。習近平は前任者たちのような良く組織化された忠実な追随者を持っていないように見えるということだ。60歳になる習近平は、党の長老で国務院副総理を務めた習仲勲(Xi Zhongxun、1913~2002年、しゅうちょうくん)の息子であり、彼自身は太子党(Gang of Princelings)のトップに君臨していると考えられる場合もある。太子とは党の最高幹部たちの子供たちのことを意味する。しかし、太子党は、関係が緊密な団派に比べて緩やかなグループなのである。通常の派閥であれば、明確な命令系統があり、信条や魅力でつながっている。一方、太子党は「革命の血統(revolutionary bloodline)」を共通点として持つ排他的なクラブに入っている有力な人々の集まり、ということになる。太子党の人々全員が「赤い貴族(red aristocracy)」の特権を維持するという目的を共有してはいるが、それぞれは個別のイデオロギーや野心を持っているので、太子党は一人の指導者に依存するという構造になっていない。中国の最高機関である中国共産党中央政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)の2人のメンバーである兪正声(Yu Zhengsheng、1945年~、ゆせいせい)王岐山(Wang Qishan、1948年~、おうきざん)は太子党であるが、中国共産党の指導者第6世代のメンバーたちの多くが高級幹部の子弟たちではないという事実は重要だ。第6世代の人々は1960年代生まれで、現在急速に台頭している。(香港経済報、2013年6月28日;BBC中国語放送、2013年3月14日)

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兪正声                王岐山
            

 現在の中国の太子党の主要な構成要素となっているのは、中国人民解放軍(People’s Liberation ArmyPLA)である。「革命の血統」に連なる将軍たちには、中国人民解放軍総装備部長の張又侠(Zhang Youxia、1950年~、ちょうようきょう)、中国人民解放軍空軍司令員馬曉天(Ma Xiaotian、1949年~、ばぎょうてん)、中国人民解放軍総後勤部政治委員(Political Commissar)の劉源(Liu Yuan、1951年~、りゅうげん)、中国人民解放軍海軍政治委員の劉暁江(Liu Xiaoqiang、1949年~、りゅうぎょうこう)である。

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張又侠            馬曉天

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劉源                  
劉暁江

 

従って、軍人太子党は結成されたばかりの習近平派(Xi Jinping Clique)の主要な構成要素となっている。最高司令官でもある習近平は、軍人太子党からの忠誠心の見返りとして、前任者たちに比べて、将軍たちにより配慮している。習近平は、2012年末に中国共産党総書記と中央軍事委員会(Central Military CommissionCMC)主席になって以来、人民解放軍の全ての軍管区の部隊を訪問している。2014年の旧正月の前、人民解放軍内蒙古軍管区内にある高地に置かれた部隊の将兵を訪問した時、習近平は野戦用の迷彩服を着用していた。より重要なことは、習近平は、人民解放軍の将軍たちが外交や国家安全保障の分野で声高に発言することを許していることである。(人民日報、2014年1月29日;Huaxia.com[北京]、2013年12月27日;新華社通信、2013年12月26日)

 

 習近平派のより重要な人材供給源となっているのが、習近平が福建省(1985~2002年)、浙江省(2002~2007年)、そして上海市(2007年)で勤務していた時の同僚や部下たちである。57歳の黄坤明(Huang Kunming、1956年~)は、1977年から1999年まで福建省で勤務し、その間に順調に昇進していった。1999年に福建省から浙江省に移動してまもなく、黄坤明は浙江省党委書記を務めていた習近平と直接やり取りをするようになった。黄坤明は浙江省の湖州市と嘉興市の党委書記を務めた。昨年末、黄坤明は中国共産党中央宣伝部副部長に任命された。(光明日報[北京]、2013年10月24日;大公報[香港]、2013年10月3日)貴州省長の陳敏汝(Chen Min'er、1960年~)は、習近平が浙江省党委書記を務めていた時、浙江省政府宣伝部長を務めていた。50歳の陳敏汝は、第18期中国共産党大会で中央委員に選出された指導者第6世代の9名のうちの1人だ。(人民日報、2013年10月31日;貴州日報、2013年8月22日)

huangkunming001 chenminer001
黄坤明        陳敏汝 


(続く)


 

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