古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中国政治

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界を大きく見るための枠組みを提示しています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年は中国にとっても厳しい年となりそうだ。経済が減速し、若者たちは就職で苦労し、結果として、社会に対する幻滅や国家に対する信頼が揺らぐということになる。中国は経済運営に関して、人類史上でも類を見ないほどにうまく対応してきた。日本の戦後の成長は「奇跡の経済成長」と賞賛されてきたが、中国の経済成長は期間とその規模で日本を上回っている。

 2024年の中国に関する5つの予測という記事が出た。この記事によると、中国の2024年は暗いようだ。不動産価格の下落、若者の就職が厳しい状態、若者たちの幻滅はすでに起きており、今年も続くということだ。中国の不動産価格は下落するだろう。日本の都市部の不動産価格の高騰は中国マネーが入ってきているからであり、中国の富裕層は日本に目を向けている。中国の若者たちの厳しい現実と幻滅に中国政府は本格的に対処することになるだろう。

 中国の政治指導部で複数の閣僚の更迭が起きたが、これは、アメリカとの不適切なつながりがあったためだ。中国の最高指導層はこの点を非常に厳しく見ている。敵と不用意にかつ不適切につながっている人物を排除するということで、非常に厳しい態勢を取っている。それだけ米中関係のかじ取りが難しいということも言える。お互いに、敵対的な関係にはなりたくないが、好転するという状況にはない。ジョー・バイデン政権はウクライナとイスラエルという2つの問題を抱えて、更に中国と敵対することは不可能だ。何とか宥めながら、状況を悪化させないようにしようとしている。

 台湾の総統選挙は民進党の候補が勝利すると見られている。これで何か起きるということは米中ともに望んでいない。現状がそのまま続くことになる。台湾に関しては、バイデン政権が超党派の代表団を送り、台湾の代表もアメリカで活発に動いているようであるが、大きな変化はないだろう。アジアで何かを起こすことは、アメリカにとっても致命傷になってしまう。アジアの平穏は世界にとっても重要だ。日本も中国とは敵対的な関係にならないように配慮していく2024年になるだろう。

2024年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2024

-台湾に関する小さな危機から若者層で拡大する幻滅まで、来年(2024年)に中国が直面するであろう5つの問題について見ていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2023年12月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/26/china-predictions-2024-taiwan-economy-xi-jinping/

2020年代は今のところ、中国の失われた数十年のように感じられる。経済は減速し、若者は幻滅して、職を失い、彼らの親は資産価値の暴落を目の当たりにしている。経済は減速し、若者たちは幻滅し、職を失い、親たちは資産価値の暴落を目の当たりにしている。2023年は北京にとって困難な1年であり、次の1年もそれほど幸せなるとは見えない。以下に、2024年の中国に関する5つの予測をまとめた。

(1)台湾の小規模な危機(A Taiwan Mini-Crisis

台湾では1月13日に総統選挙が行われ、今年は海峡における小さな危機から始まる可能性がある。蔡英文(Tsai Ing-wen)総統の下で働き、民進党(Democratic Progressive PartyDPP)に所属する現台湾副総統、頼清徳(Lai Ching-te)が、世論調査の結果では僅差でリードしている。彼の選出は北京を激怒させるだろう。彼はより独立した台湾の擁護者であり、中国共産党 Chinese Communist Party (CCP) に強く反対しています。

頼は、北京の最終防衛線(レッドライン)である台湾の正式な独立や中華民国を名乗ることはないと述べているが、台湾の主権は「事実(fact)」であり、北京の基準では候補者全員が独立派であることを念押ししている。

頼が勝利すれば、海軍の作戦行動や領空侵犯など、北京の積極的な動きが予想される。先週、習近平が11月にジョー・バイデン米大統領と会談した際、台湾との統一について発言したという報道があり、ワシントンはパニックに陥ったが、侵攻の可能性は極めて低い。特に中国が他の危機と闘っているときには、それは危険で困難なことだろう。

1月13日に台湾の野党・国民党(KuomintangKMT)が勝利したとしても、いくつかの問題が生じる可能性がある。国民党は民進党よりも親中派だが、この島の鍵を中国政府に渡すことはまずないだろう。中国当局者は、国民党の選挙勝利を台湾における中国の影響力の表れとみなして、その重要性を過大評価している可能性がある。最近の調査では、台湾の有権者の17%が中国を主な関心事だと答えたが、その2倍以上が経済を選んだ。

(2)拡大する不動産苦境(Growing Property Woes

中国の住宅価格は何年にもわたって危険な状態に陥っていたが、2024年はついに危機の瀬戸際に立たされる年になるかもしれない。今年の不動産開発業者たちの危機は、カントリー・ガーデン(Country Garden)のような、かつては比較的安全と考えられていた企業にまで及んだ。しかし、中国政府が本当に恐れているのは住宅価格の下落だ。結局のところ、中国の家計資産の70%は不動産に投資されている。

政府はデータを改ざんし、解説者たちを脅迫して、中国経済が実際にどれだけ厳しい状況にあるのかについて人々が語るのを阻止しようとしているようだ。現在、公的な住宅価格指数と実際に市場で売れる不動産価格の間には大きな乖離がある。多くの都市では価格が少なくとも15%下落し、北京では最大30%下落している。

こうした傾向が広がるにつれ、公式の数字ですら現実をよりよく認識する必要が生じる可能性があり、そうなるとより広範囲にわたる信頼の危機を引き起こすことになるだろう。

(3)政治指導者の交代(Political Leadership Shake-ups

2023年には、秦剛(Qin Gang)外交部長と李尚福(Li Shangfu)国防部長という2人の最高指導層の指導者たちが失脚した。両者の解任の全容は依然として不透明だが、習近平が昨年トップポストに忠実な人物を詰め込んだにもかかわらず、中国共産党の最高指導部の政治は新年を迎えても不安定なように見える。

それは驚くべきことではない。習近平は政党政治において有能であるが、彼の統治は、特に過去3年間、中国にとって酷いものとなった。義務的な崇拝によっても、彼は不安を感じたり、多くの人がこの国の現状について自分を責めていることを認識したりするのを止めることはできない。この不安は、習近平の気まぐれに生命、富、自由が左右される他の指導部にも影響を与える。こうした緊張が来年、劇的な政治な結果を生み出す可能性が高い。

派閥や協力者たちについて語られることはあっても、中国共産党の政治はある意味で組織犯罪の力学に似ている。もし習近平に対して重大な動きがあるとすれば、それは習近平が推し進め、後援してきた人々から起こるかもしれない。

(4)若者たちの幻滅(Youth Disillusionment

先週、AP通信のデイク・カン記者は、過去3年間の中国における大衆の気分の変化を捉えた2つの微博(Weibo)メッセージを自身のアカウントで共有した。2020年6月、見知らぬ人が彼に「中国から出て行きやがれ(Get the fuck out of China)」とメッセージを送った。 今月(2023年12月)、同じアカウントから「申し訳ありません」というメッセージが届いた。

中国の若者の多くがここ数年で同じ道をたどった。国家主義的な教育は、2020年の夏に新型コロナウイルス感染症に対する明らかな勝利とともにもたらされた誇りと勝利の感情を彼らに呼び起こし、世界の他の国々が緊急体制を取る一方で、中国は比較的正常な状態に戻った。その感情は西側諸国、特にアメリカに対する敵意(hostility)の高まりと融合し、アメリカを非難するパンデミックに関する、複数の権力者共同謀議論(conspiracy theories)が定着した。

しかし、2021年と2022年の中国の新型コロナウイルス感染ゼロ政策への不満と経済危機が相まって、国民、特に若者の感覚は大きく変化している。この変化の兆候の1つは、中国の対米世論が急上昇していることである。これは、中国政府の方針に対する不満を表現する暗号化された方法である。 2024年には、2020年代の初めに既に明らかだった将来に対する悲観が更に悪化する可能性が高くなる。

民衆の間にあるナショナリズムの低下と若い新卒者たちの悲惨な経済見通しが、中国の18歳から24歳のうつ病の増加につながっているようだ。若者の失望と怒りは2022年12月に爆発し、中国は新型コロナウイルス感染ゼロ政策に反対する過去数年で最大の大規模抗議デモを経験した。来年(2024年)はそのようなことはないだろうが、虚無主義と他国への逃亡願望(そうする資力のある人々の間での)は、2024年もいわゆる逃避学(runology)を煽り続けるだろう。

10年前、中国共産党が反体制派潰しに走った主な理由の1つは、党が若者の支持を失っているという確信だった。この新たな恨みに対する政府の対応は、強制的な愛国心の誇示とネット空間の検閲強化を主張することだろう。2023年には、別のゲーム機性が終わったが、中国政府に中国の若者が望むような未来を提供する能力はほとんどない。

(5)米中関係の崩壊はないが、回復もない(No Collapse in U.S.-China Relations, but No Recovery Either

2023年11月にサンフランシスコで行われた習近平とバイデンの首脳会談は成功し、双方はこれを勝利とみなしたようだが、長年下り坂だった関係に一時的な冷却期間をもたらした。重要なのは、北京とワシントンのハイレヴェル軍事協議が再開されたことだ。中国の国営メディアでは、反米的な言動は比較的控えめだが、それでも絶え間なく流れ続けている。

それが長続きするとは思わない方がいい。両大国間の構造的緊張は十分に激しく、何らかの新たな危機が中国をいわゆる狼戦士モードに戻すことは避けられないだろう。しかし、この態勢が2020年のような高みに達することはないだろう。中国には、しばらくの間、あまり大きな問題を起こすリスクを避けるために十分な他の問題がある。

選挙期間中、ワシントンの反中レトリックが関係を悪化させるという懸念は常にある。しかし実際のところ、アメリカの有権者たちは投票箱を前にして中国を気にしていないようだ。本当に危険なのは、中国による選挙干渉の試みかもしれない。選挙干渉は、中国系有権者の多い地域の特定の政治家を狙ったものだろうが、おそらくはドナルド・トランプ支持路線に沿ったものとなるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題になって3年余りが経過している。思い返してみればその最初は中国の武漢市であった。その当時、日本でもアメリカでも武漢市での混乱の様子や人々が戸惑い慌てている様子を連日報道していた。中国政府はうまく対応していない、強権的に人々を抑圧している、中国はパンデミックでたいせいに大きな影響が出るのではないかというような主張もなされていた。その後、同じような光景が世界各地で見られた。西側諸国の感染者数や死亡者数(それぞれ1000人あたりの数)を見れば、先進諸国がうまく対応してきたと評価する人は少ないと思う。

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に感染拡大初期の中国の様子を現地に住む人物が回顧して書いた記事が掲載された。その内容は「中国政府がいかに効果的に新型コロナウイルス感染拡大に対応したか」というものだ。著者エリック・リーは英語で文章が書けるくらいの人物であり、おそらく中国以外の英語圏で教育を受けたものと考えられる。中国系の苗字であるが、国籍は中国ではないのではないかとも考えられる。中国の上海に在住し、子供たちは中国の公立学校で教育を受けているところから、中国でこれからも暮らすことを選択しているのだろう。彼の各内容はある程度割り引いて読まねばならないだろうとは思う。

 しかし、中国が新型コロナウイルス感染拡大に対して国家を挙げて、ある程度効果的に対応したということは認めなければならない。私は中国の対応は、「戦時態勢に向けた訓練」という意味が強かったのではないかと思う。第三次世界大戦が勃発し、中国が攻撃を受ける場合を想定しての

 中国の戦時態勢を率いるのが習近平だ。習近平がこれまでの慣例を破って、中国国家主席として3期目に突入しているが、このブログで何度も指摘しているが、戦時態勢構築のためである。中国国民は「賢帝」習近平を先頭にして戦時態勢の準備を進めているということになる。習近平の人気、支持率の高さは一般国民の意思が反映されているという解釈もある。「賢帝」という言葉はいささか過剰な高評価とも思われるが、そういう評価があるということを私たちは知っておくことも良いのだろう。民主的な選挙で選ばれた指導者が「賢帝」になり得ないということを私たちは身近で経験できているのは悲しいことだ。

(貼り付けはじめ)

習近平は「賢帝」である(Xi Jinping Is a ‘Good Emperor’

-一人の中国の擁護者は、なぜ新型コロナウイルス感染拡大によって習近平、党、北京への信頼が高まったかを語る。

エリック・リー筆

2020年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/14/xi-jinping-good-emperor-coronavirus/

上海では、生活も仕事も徐々に平常に戻りつつある。私も同僚もオフィスに戻った。レストランやバーも再開し、入り口で体温チェックをしている。私が出資している中国最大の自転車シェアリング会社「ハローバイク」は、利用者が大流行前の70%に戻ったと報告している。中国の他の地域でも程度の差こそあれ、同じようなことが起こっている。永遠に続くと思われた悪夢は、もう終わったのかもしれない。この機会に、中国の社会と政府について私が学んだ5つのことについて話してみよう。中国は時宜を得て正しい指導者を持つという幸運に恵まれた。

中国の人々は、自分たちの政治機関を信頼している。私たちの中国に対する理解は、権威主義的一党独裁国家(authoritarian one-party state)は国民の真の信頼を維持することができないという定義に支配されてきた。しかし、そろそろそれを脇に置く時期が来ている。大自然がこれほどのインパクトを与えてくれたのだから、もはや現実は無視できない。

2020年1月23日、中国政府は武漢市を封鎖し、更に総人口5600万人の湖北省全域に人類史上最大の検疫(quarantine)を命じた。2日後、チベットを除く全ての省が最高レヴェルの健康緊急事態を宣言し、7億6000万人以上の都市住民が家に閉じこもり、必要な時だけ外出を許され、公共の場ではマスク着用が義務づけられた。ほとんどの農村も閉鎖された。当時、全国で報告された感染者は571人、死亡者は17人であり、その後の世界的な状況を考えると、むしろ少ない方であった。

この措置の大きさには中国全土が驚かされた。人口2400万人の上海で、数日前まで渋滞していた道路が一夜にして人も車もいなくなった。最初は1週間か2週間で終わるだろうと思っていた。しかし、封鎖は継続した。人々は家に留まり、通りは空いたままだった。

何億人もの人々が即座に、そしてほぼ完全に封鎖に従ったことは、私にとって本当に驚きとなった。中国に行ったことがある人なら、中国の人々がどれほど手に負えないように見えるかを知っているだろう。中国の正規の警察は非武装である。上海の街角では、交通違反の切符をめぐって警察官と口論している人を見かけることがよくある。これほど長い間、多くの人がこのような大規模な封鎖に完全に服従したのは、自発的な行動以外に説明のしようがない。確かに、誰も病気になりたくないという利己心で説明できる部分もある。しかし、教養ある若者の大群が政府の命令や警告に公然と反抗してビーチやクラブに集まり(少なくとも初期の段階では)、警察の厳しい取締りが今も続いている他の国々と比較すれば、利己心だけでは説明できないことは明らかである。政治機関の専門性と自分たちを守る能力に対する国民の極めて高度な信頼だけがこのような服従をもたらす。

このような服従は、中国の厳格な治安維持体制によるものだと主張する人もいるかもしれない。これは2つの理由で的外れである。第一に、治安部隊が有効なのは少人数の活動家に対してであり、数億人の膨大な人口が集団で不服従を選択した場合には有効にはならない。第二に、感染拡大期間中、監禁を強制する大規模な強制行動があったという報告はほとんどなく、証拠もほとんどない。

また、中国政府は国民とのコミュニケーションにも余念がない。毎日、市、県、全国的レヴェルで新しいデータが発表された。テレビでは毎時間、政府の専門家たちが新型コロナウイルスと国の対応について詳しく話していた。どの新聞も、ソーシャル・ディスタンシングを置くことの重要性について書いている。つまり、信頼は盲目的なものではなかった。

中国の市民社会は健在だ。2月初旬に中国のソーシャルメディアにどっぷり浸かっていたら、逆の結論になったかもしれない。文化大革命終結後の最大の国民的トラウマの中で、国民の怒りが渦巻いていたのだ。15年前のSARS流行後に政府が構築した、地方当局が北京に早期警報する仕組みは、コロナウイルス発生の初期段階で明らかに失敗していた。その原因は、官僚が悪い知らせを上層部に伝えることを恐れていたためと推測され、中国の政治体制に重大な欠陥があることが露呈された。12月にコロナウイルスの危険性を最初に警告し、地元警察から口止めされた武漢の医師李文亮が自らウイルスに感染し、騒動は最高潮に達した。それだけを見れば、中国のチェルノブイリの瞬間、あるいは「アラブの春」の始まりと見る向きもあろう。しかし、結果はそうではなかった。

中国中央政府が人類史上最も大規模な疫病対策に動員をかけると、国は一つにまとまった。50万人のヴォランティアが湖北省の最前線に向かい、衛生要員、検疫要員、後方支援要員として健康と生命を危険に晒しながら活動した。全国では200万人以上の国民がヴォランティアとして登録し活動した。ソーシャルメディアは、彼らの感動的なストーリーや画像で溢れ始めた。カフェやレストランでは、ビジネスが壊滅的な損失を被っているにもかかわらず、ヴォランティアに食べ物や飲み物を無料で提供していた。ある写真には、武漢のコミュニティワーカーが宅配用の薬包で肩からつま先まで覆われている様子を写したもので、話題になった。ほぼ全ての地域で24時間体制の検問所が設けられ、ヴォランティアと警備員が出入りを管理し、人々の体温をチェックした。また、多くの地域がヴォランティアを組織し、高齢者などの弱い立場の住民の生活をチェックした。14億人もの人々が、全ての道路、全ての地域、全ての村で、このようなことが起こっていることを想像してみて欲しい。犯罪はほぼ皆無だった。

インターネット上では、政府や様々な社会機関がコロナウイルスの特徴やパンデミックの進行状況について膨大な量の情報を発信した。ソーシャルメディアでも大規模な市民参加型の情報発信が行われた。今、私はCNNBBCで、欧米諸国の専門家や当局者たちが、ウイルスが硬い表面やエアロゾル状で生存できる時間の長さなどについて話しているのを見ている。しかし、こうしたことは、2月の時点で既に何千万人もの中国のネットユーザーが毎日、毎時間話していたことだ。

政府はトップダウンで、パンデミックに対する「人民の戦争(people’s war)」を呼びかけた。そして、これはまさにボトムアップで起こったことだった。私はこれまで、中国では権威主義的な政党支配国家が市民社会の発展を許さないから市民社会が弱いのだという、多くの政治思想家の共通認識を、多少なりとも信じていた。しかし、それは、市民社会が国家とは別のもの、あるいは国家と対立するものであるという、一般的なリベラル派の定義に基づいていることに思い至った。中国の市民社会を古典的な定義、すなわちアリストテレスが「コイノニア・ポリティケ(koinonia politike)」(国家と区別されない政治的共同体)と呼んだもので見てみると、このパンデミックを通じて、おそらく世界で最も活気に満ちているように見えた。

中国では、国家の能力は市場よりも重要である。中国に限らず、最も議論が尽きないテーマの一つが、市場と国家の関係(relationship between the market and the state)である。今回は、国家が勝利し、大勝利を収めた。最も熱心な新自由主義者以外には、市場の成長とともに国家の能力を維持することが、何百万人とは言わないまでも何十万人もの死者を出すかもしれない想像を絶する破滅から中国を救ったことは極めて明白である。

1月下旬の疫病対策が始まると、中国国家は行動を開始した。中央政府は国家の医療資源を調整し、いち早く湖北省に集中させた。全国から217の医療チーム、42,000人以上の医療関係者が機材や物資とともに湖北省に派遣された。中央政府は、約17千台の人工呼吸器の湖北への輸送を調整した。その結果、流行の中心地である湖北省では、人工呼吸器が大きく不足することはなかった。

At the onset of the counter-epidemic operation in late January, the Chinese state swung into action. The central government coordinated national medical resources to quickly concentrate on Hubei province. In total, 217 medical teams with more than 42,000 medical personnel were dispatched to Hubei from around the country, along with equipment and supplies. The central government coordinated the shipment of around 17,000 ventilators to Hubei. The result was that the epicenter of the outbreak never experienced any major shortage of ventilators.

武漢では、10日間で1000床の巨大な新病院が建設された。その後、コンヴェンションセンターなどの既存の建造物を利用して、市内16カ所、計1万3000床の仮設病院を建設し、隔離された環境で軽症の患者を治療した。工業用マスクの原料を生産する国営エネルギー大手シノペックは、35日間かけて生産ラインを設計し直し、医療用マスクの生産に対応させた。自動車メーカーも組立ラインからマスクや医療用品を送り出した。マスクの生産量は1月の1日2千万枚から2月下旬には1億1600万枚になった。

それでは、これらのことを誰がやったのか? 全国から湖北に派遣された医師や看護師は、ほとんどが国営病院に勤務する国家公務員であった。病院を建設し、マスクを製造したのも国有企業である。

広大な国土にもかかわらず、この作戦は非常によく組織化されていた。北京から、中央政府が毎週、時には毎日、地方に対策を展開する。北京から、中央政府が週単位、時には日単位で地方に施策を展開し、地方政府には、その地方の事情に合わせた自由な発想で指示が出された。そして、省政府が市や県に同じように下降線を引いていく。また、その逆もある。また、その逆もしかりで、地方政府から北京へも意見が上がってくる。例えば、武漢のある学術チームは、既存の病院では、感染の恐れのある軽症の患者を多数収容することができないことを発見し、「仮設病院」のアイデアを提案した。その結果と提案を北京に送ったところ、承認され、24時間以内に実施するよう命じられた。

また、中国は国家としては経済危機の影響を和らげるために迅速に行動した。企業への直接の補助金に加え、政府は労働法の施行方法を調整し、不況時に従業員に給与を全額支払う義務を免除するようにした。その代わり、各企業は従業員を解雇せず、最低賃金と健康保険を維持するよう求められた。また、地主が国有企業の場合は、家賃の減額や免除を受けることができた。

中国共産党が中心的な役割を果たしてきた。この危機を乗り越えるにあたり、3名の人物が無名から全国的な名声を得るに至った。警告を無視した最初の内部告発者である李医師は、新型コロナウイルスで死亡した。鍾南山は、このパンデミックのための国家公衆衛生総責任者であり、アメリカのアンソニー・ファウチと同様に、対疫病作戦の表の顔として活躍している。張文宏は、上海で流行対策活動を主導してきた華山病院の医師である。経歴も地域も世代も全く異なる3人だが、2つの共通点がある。まず、全員が医師である。コロナウイルスを最初に警告し、警察に口止めされた武漢の医師がウイルスに感染したことで、騒動は最高潮に達した。

この試練の中で、中国共産党は最も目立つ存在であった。張は、私の家の2ブロック先にある病院で働いている。上海防衛のための医療チーム編成について語る彼の姿がヴィデオに収められていた。「党員は問答無用で真っ先に行け!」と叫んでいた。このヴィデオはインターネット上で大いに拡散された。

連日、武漢に向かう中国共産党の旗の前で宣誓する党員ヴォランティアの映像が中国のインターネット上に溢れ、自分の命より他人の命を優先させることを誓った。4月29日現在、前線で死亡した496人の医療従事者とヴォランティアのうち328人が党員である。

中国の習近平国家主席は「賢帝(good emperor)」だ。何年か前に、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマが、「悪帝問題(bad emperor problem)」という言葉を作った。権威主義的な政治体制では、たとえ良い統治者が出るにしても、この体制では悪い統治者が権力を持って国を滅ぼすことを防ぐことはほとんどできないという理論的な意味である。今は、この理論を議論する時期でも場所でもない。しかし、今、私が知っていることは、習近平は「賢帝」だということだ。

1月28日、習近平は世界保健機関(WHO)のトップとの会談で、自分が伝染病対策作戦の直接の責任者であることを国民に告げた。このとき、未来はこれほど暗く、不確かなものではないと感じたが、日和見主義や責任回避はこの最高指導者の性格には存在しない。武漢と湖北を封鎖することは、非常に大きな結果をもたらすので、彼一人の決断であったろう。武漢・湖北の封鎖は、彼一人の決断であったろうが、結果的に国家を破滅から救う決断となった。彼は、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)の会議を主宰し、政策指示を出し、それを公表するという前代未聞の行動に出た。公の場ではマスクを着用した。17万人の第一線の政府関係者や有志とテレビ会議を行った。まさに「人民の戦争」は、全国民の前で彼自身が主導した。

習近平は強力な指導者として、特に国際的に、しかし国内的にも非難されることが多かったし、今後もそうであることは間違いない。欧米諸国のメディアや政府は、メディアや政治的異論に対する規制を強化し、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する政策が物議を醸しているとして、習近平政権を攻撃している。国内の反対派の中には、北京に政治権力を集中させようとする最近の動きに反対する者もいる。しかし、私の知人や中国の政治評論家の間では、最も厳しい批判をする人たちでさえ、この一世一代の危機における彼の舵取りを認めている。私は、この後、習近平の国民的人気は急上昇すると思っている。

習近平の指導力は、政府全体の社会的信用を高めた。初期段階でミスがあり、その結果、発生時の対応が遅れたことは明らかである。そして、特に内部告発者(whistleblower)である李医師の明らかな口封じに対する正当な怒りもあった。しかし、中国がほとんど知られていないウイルスに不意を突かれたことも事実である。今、中国人は、14億人の人々が数ヶ月にわたって何が起こるかを世界に示した後にもかかわらず、多くの国の政府がパンデミックの抑制に苦心しているのを恐怖の目で見ているため、自国政府の最初の誤りは、検討と反省に値するものの、もはやそれほど許しがたいとは思えない。中国のインターネット上には、武漢に向かうヴォランティアが中国共産党の旗の前で宣誓する画像が溢れかえっていた。

私にとっても、世界中の多くの人にとっても、新型コロナウイルスは生涯で最も特別な出来事であることは間違いない。ビジネスマンとして、政治学を学ぶ者として、確かに影響を与えた。しかし、親として最も感情的な影響を受けたのはこの出来事だった。私の子どもたちは、上海の公立学校に通っている。1月27日、上海は2月に予定されていた春学期の開始を延期すると発表した。子供たちは喜んだ。しかし、その喜びは長くは続かなかった。2週間後、上海市教育局から学校再開の命令が出た。上海市教育局では、全教育課程をオンライン学習に対応させるべく、記録的な速さで準備を進めていた。その新しい教材がメールで送られてきて、プリントアウトするように言われた。2日目に自宅のインクジェットプリンターが壊れた。そこで、業務用のレーザープリンターを購入し、中学校の教科書を1000ページ以上印刷した。

全ての学校は、毎日、朝8時から夕方4時まで、中国語、数学、物理、英語と、普段の学校と同じようにパソコンの画面の前で、次々と授業を続けている。宿題は毎晩、プリントアウトしたものを写真に撮り、学校のシステムにアップロードして提出する。翌朝、採点され、訂正を求められる。子供たちが家にいるのは良いことだ。しかし、私たち親の負担は大変なものだ。子供たちにこれほど怒鳴ったことはなかった。

3月19日の朝、私は目を覚まし、約2カ月間毎朝続けてきたように、前日のコロナウイルスの数値を確認しようとスマホに手を伸ばした。その朝、中国で確認された感染者数は8万928人、累積死亡者数は3245人であることを確認した。「新たな確定症例はゼロ!」となった。

私は急いで1階に降りて、子供たちに良い知らせを伝えた。子供たちの臨時教室になっているダイニングルームに入ると、国歌の前奏が聞こえてきて、私は足を止めた。子供たちは制服姿でパソコンの前に立ち、国旗掲揚の儀式を見守っていた。私は久しぶりに涙を流した。

※エリック・リー:ヴェンチャー・キャピタリスト、政治学者。上海在住。

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 古村治彦です。

 21世紀に入り、2030年頃に中国は経済成長を続け、アメリカを逆転するという予測がなされるようになった。1820年当時、当時の清朝が支配した中国は世界のGDPの3分の1を占める世界最大の経済大国であった。現在は16%ほどを占め、25%ほどを占めるアメリカを追いかけている。中国の経済成長率がアメリカの経済成長率を上回り続ければ、GDPで中国がアメリカに追いつき、追い越すということになる。

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 日本は経済成長がない状態が約30年間も続き、1968年に当時の西ドイツを抜いて世界第2位の経済大国になったものが、2011年に中国に追い抜かれて、42年ぶりに世界第3位に後退した。世界第3位でも大したものではあるが、世界のGDPに占める割合は5%ほどであり、アメリカと中国に置いて行かれている現状だ。ここから奇跡の経済成長を起こして上位2カ国に追いつくということは絶望的だ。日本は衰退国家である、ということを前提にして議論を行うことが建設的であると思う。

 中国の近現代史、特に1949年の中華人民共和国成立後の大きな流れとしては、大躍進運動(Great Leap Forward、1958-1962年)とプロレタリア文化大革命(Great Proletarian Cultural Revolution、1966-1976年)である。中国建国から1978年からの鄧小平が主導する改革開放(reform and opening-up)までの約30年のうち、半分以上の期間は動乱状況にあったが、それを起こしたのが建国の父である毛沢東であったことは皮肉なことであった。大躍進運動は、第二次五か年計画(five-year plan)の中での農産物の大増産と鉄鋼の生産量の急激な拡大を目指し、無残に失敗した。ソヴィエト連邦に依存せずに、急激な経済成長でイギリスを抜いてやろうという野心的な政策であったが、無残な失敗に終わった。鉄鋼生産に関しては、農村に粘土で釜を築いて鉄を溶かして鋼鉄を造るという「土法高炉」が用いられた。しかし、これでは実際には粗悪な鉄しか製造できなかった。農民たちはこの作業に熱狂して、自分たちの鍋や鎌を溶かして「鋼鉄」を製造した。

 中国は半導体製造で「大躍進運動」に比する動きをしていると下の論稿の著者は述べている。半導体の国産化を目指すあまりに無理をして失敗するだろうというのが結論だ。半導体製造の国産化はしかしながら重要な政策である。ウクライナ戦争勃発後、半導体不足が世界規模で発生し、日本国内ではエアコン、冷蔵庫や洗濯機など半導体を使用する家電の品不足が続いたことは記憶に新しい。半導体は現代世界においては産業の米である。半導体がなければ生活が立ち行かないということになる。更に言えば、高度な武器にも使われることを考えると、安定供給は国家安全保障にとっても重要である。世界の現状は不安定化しており、第三次世界大戦の可能性が高まっている。

 中国はこれまでの歴史の失敗を教訓にして、半導体の確保を進めるだろう。それは経済問題というよりも国家安全保障上の政治問題ということになる。

(貼り付けはじめ)

習近平の産業面での大きな野心は失敗するだろう(Xi’s Grand Industrial Ambitions Are Likely to Flop

-疑念の遺産が中国の指導者の意思決定を妨げている。

クリストファー・マーキス筆

2022年10月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/14/xi-mao-campaigns-chips-industry/

習近平は、間近に迫った第20回中国共産党大会で中国の最高指導者の3期目を担当することを目指して、共産主義中国の革命家だった毛沢東の悲惨な在任期間の後、数十年にわたる指導者たちを縛ってきた規範を破っている。習近平の動きを毛沢東の再来(second coming)に譬える人は多い。毛沢東の革命スローガンを頻繁に引用して自らの戦略を正当化し、演説では毛沢東の真似をし、毛沢東の記念碑を訪れる。

しかし、毛沢東の遺産は、習近平と彼の中国統治へのアプローチを理解する上で、どのように役立つのだろうか?

毛沢東の統治の強力な側面は、政治運動と産業界の野心を組み合わせたものであった。1950年代後半、毛沢東は中国が工業化においてソヴィエト連邦の成功に早く追いつくことを望んでいた。毛沢東が主導した大躍進政策(Great Leap Forward)では、農業の労働力を工業に振り向け、鉄鋼生産の失敗から、農民たちに金属製の調理器具を溶かすことが命じられた。その結果、3年にわたり大飢饉が発生し、少なくとも3000万人が餓死した。そして、1960年代から1970年代にかけて、毛沢東が開始した文化大革命(Cultural Revolution)は敵を排除し、民衆を革命に動員し続けた。この10年間、中国は制度上の激変と混乱に見舞われた。

習近平は毛沢東のように、「力を結集して大きなことをやる(Concentrate strength to do big things)」という毛沢東スローガンで推進する産業重視のキャンペーンに執着している。習近平が最高指導者として3期目に入る中で、これらはより一般的になる可能性がある。しかし、大躍進運動の時と同様、習近平の計画は経済の現実を把握できていないように見える。その最大の例が、「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」プログラムで打ち出された、半導体分野で世界的リーダーを目指す中国の動きである。

10年前、私は中国を代表する半導体メーカーであるSMIC(中芯国際集成電路製造有限公司、Semiconductor Manufacturing International Corp)の社内に5カ月間滞在し、創業者のリチャード・チャンをはじめSMIC幹部たちと何度も話し合いした。彼らは、半導体生産の複雑さとグローバルな相互接続性(globally interconnected nature)を考えると、中国が低付加価値アプリケーションで使用される数世代前のチップを提供する低コストサプライヤー以外の何者でもあり得ないと認識していることを明確に示していた。中国は、グローバルな知識や供給チェイン、特に工作機械へのアクセスが限られており、これが永続的な障害となっていた。

今日、半導体製造の専門知識は、これまで以上に世界の様々な地域に拡散し、それぞれが数十年にわたる研究開発の上に、独自の長所と比較優位性(comparative advantage)を持っている。しかし、中国の半導体開発は独自性があり、自給自足(self-sufficiency)を目指しており、経済的動機よりも政治的動機、特に台湾の半導体産業の優位性によって形成されており、その指針は大きく異なっている。例えば、SMICの上海工場では、地元政府を満足させるために4000人を雇用しているが、台湾の同種の工場では1000人しか雇用していないと聞いたことがある。

最近になって、このような中国のやり方には根本的な問題があることが分かってきた。2014年に発足し、通称「ビッグファンド(Big Fund)」と呼ばれる中国集積回路産業投資ファンド(China Integrated Circuit Industry Investment Fund)は、2回の資金調達で400億ドル以上を集めた後、その大部分が失敗に終わったことが判明した。最近行われた一連の粛清では、汚職の横行が非難される中、ビッグファンドに携わった様々な金融・技術関係者たちが逮捕された。また、数十億ドルの資金を誇った多くのチップ企業が、1つもチップを製造することなく倒産している。政府の補助金や助成金が実質的に無制限である以上、資源の方向性を誤り、効果のない目標に向かったとしても不思議はない。

2015年に発表された「メイド・イン・チャイナ2025」計画では、中国は2020年までに国産化率を40%にするはずだったが、実際にはわずか16%にとどまっているのが現状だ。私が滞在していた頃、SMICは「中国トップ5の特許保有企業」と喧伝していた。しかし、特許の質ではなく量にこだわったため、10年後の現在でも、最先端メーカーから2世代(約4年の開発期間)も遅れており、私がSMICのキャンパスに住んでいた頃とほぼ同じ状態である。

習近平の半導体への取り組みは、1950年代の毛沢東の製鉄への取り組みの2020年代版だと私は考える。表向きは賢明な開発優先策だが、トップダウン式のキャンペーンの論理に導かれ、経済的現実との関連性を欠くため、失敗に終わるだろう。それでもさすがに大飢饉を引き起こすことはないだろう。アメリカをはじめとする世界各国は、中国のこの分野での成長を制限するためのチップ政策を実施する際に、中国のキャンペーン戦略の失敗を念頭に置くべきである。最終的に達成できない目標に慌てるのではなく、アメリカの指導者は多国間アプローチに焦点を当て、いかなる金銭的インセンティヴも中国での観察可能な生産と密接に関連することを確認する必要がある。

習近平が毛沢東的な人格崇拝を復活させたことはよく知られているが、それが権力への渇望によるものである以上に、なぜ彼が毛沢東以後の指導者の規範を覆す必要を感じているのかについては、あまり合意が得られていない。毛沢東のもう1つの主要な政治運動が、いくつかのヒントを与えてくれる。

学者たちは、文化大革命として知られる10年にわたる国家公認の暴力が、中国の民衆に永続的な悪影響を与えたことを明らかにしている。政治学や経済学の研究によると、文化大革命を経験して、一般市民の間の信頼感が著しく低下し、制度、特に政治指導者に対する尊敬の念が薄れることが明らかになっている。

クンユアン・チャオとの共同研究で、企業経営者にも同じようなパターンがあることが分かった。文化大革命の経験者たちは、賄賂などの犯罪に手を染め、借金を踏み倒し、海外に移住して中国からの脱出を目指す傾向が強い。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のヨンイ・ソンは、「文化大革命は人を獣に変えてしまった」と述べている。不動産開発業者のフアン・ヌーボーは、「文化大革命は、それを経験した人々を "悪魔(鬼)"にした」と述懐している。

習近平の国内・国際規範に対する姿勢には、こうした信頼の欠如が見て取れる。習近平は文化大革命の産物である。革命家一族の子孫で、1962年に粛清された父親は文化大革命で何年も獄中にいたが、習近平は地方に追放された。陝西省の農村で7年間暮らし、15歳で正規の教育を受けた後、1975年から1979年まで北京に戻って清華大学に「労働者・農民・学生」として通うまで、事実上、教育を受けることはなかった。中国のプロパガンダは、彼がこの時期に学んだとされる一般労働者への共感を強調するが、真実はもっと暗いのかもしれない。習近平は2000年、中国人ジャーナリストのチェン・ペンとの対談で、そのことをほのめかしている。彼は次のように語った。「権力とのつながりがない人々は常にこれらのことを神秘的で新奇なものであるとみている。しかし、私が見ているのは、権力、花、栄光、喝采といった表面的なものだけではない。私は、牛舎(紅衛兵が使用した即席の牢獄の呼称)や、人々がいかに熱くなったり冷たくなったりするかを見ている」。

従って、彼が継承に関する事前の中国の規範や法律を無視したことは驚くことではないのだろうか? 中国が世界貿易機関から香港の統治に至るまで、国際的な合意を無視するのは当然だろうか? そして、中国は習近平に逆らうと他国の国民を拉致して投獄するのか?

第20回党大会後、前例のない3期目に突入した習近平は、その地位を確保し、新型コロナウイルス感染拡大対策をはじめとする強硬な政策手法も和らぐのではないかと予想するアナリストたちもいる。しかし、文化大革命の影響の深さを考えると、一般的には逆で、党大会後、習近平は更に奮起し、これまで明らかに習近平が志向してきた毛沢東戦略をさらに強化する可能性がある。

横断的歴史比較(cross-historical comparisons)には、常に何事も鵜吞みにせず、疑いの目を持つことが重要だ。しかし、毛沢東のキャンペーンが習近平の政治とガヴァナンスに与えた影響から学ぶべきことは多いし、それは中国が経済的な問題を抱え続け、それに伴って西側諸国との緊張がますます高まることを予感させる。

※クリストファー・マーキス:ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクール中国経営学担当シンイ記念教授。著書に『毛沢東と市場:中国企業の共産主義的ルーツ(Mao and Markets: The Communist Roots of Chinese Enterprise)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 先週末に中国共産党第20回党大会と第20期中国共産党中央委員会第1回総会(1中総会)が閉幕した。政治局員24名と政治局常務委員7名が発表された。中国国内政治で大きな力を持っていた中国共産主義青年団(共青団)派は追い落とされた。胡春華国務院副総理は政治局員にも残れずに降格となった。第6世代(1960年代生まれ)と共青団派のプリンスが失脚したということになる。政治局常務委員、政治局員はほぼ習近平派に独占された形になる。
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 今回の人事では、金融や銀行業務に精通した人物ではなく、航空、宇宙、軍事といった部門の優秀なテクノクラートたちが引き上げられ、政治局員(24名)に抜擢された。このことについては本ブログで既にご紹介した。下にリンクを張っているので是非お読みいただきたい。

※「第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 2022年9月15日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html

※「習近平体制の延長:フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を彷彿とさせる戦争対応体制の構築ではないか 2022年9月11日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86579263.html

 中国は国外の動乱、混乱に備える体制を整えつつある。具体的にはウクライナ戦争から端を発する第三次世界大戦とも言える状況に備えるということだ。ウクライナ戦争で世界は既に戦時状況になっている。物価高や食料不足、エネルギー不足の生活への影響は深刻さを増している。習近平の第3期政権は国内外の難題に対処するために構築された戦時体制政権である。

 私たちが危惧するのは、アメリカや日本などにいる、短慮、思慮不足、好戦的な、戦争煽動家たちが「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻撃する」「アメリカと中国が戦う」などという根拠のない誇大妄想的な言辞を振り回し、状況を悪化させ、最悪の結果を引き起こすことだ。中国が今台湾に侵攻するメリットはない。既に着々と経済的な統合を進めている。私たちが恐れるべきはアジア地域での戦争だ。戦争を起こしてはいけない。安倍晋三元首相が銃撃によって暗殺され、日本の好戦的なグループは頭目を失っている状態だ。日本の地理的な位置、アメリカとの関係を考えるならば、日本は実は非常に危うい立場にある。「日本は何があっても戦争をしない」という立場を鮮明にすることが何よりも重要だ。

 話が逸れた。中国にとって、2042年の「アヘン戦争後の屈辱の南京条約締結200年」、2049年の「中華人民共和国建国100年」の2040年代に「中華王国(Middle Kingdom)」として、あらゆる面で世界最大最高の国家に復帰することが何よりも重要だ。その過程で台湾との関係はますます深まって実質的な統一、統合は果たされるだろうし、国家体制もまた変化していくことだろう。私たちは今時代の分岐点、大変化の前の混乱の中にいる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回党大会:習近平は圧倒的な人事権を行使するが、経済復活の糸口は見つかっていない(The 20th Party Congress: Xi Jinping Exerts Overwhelming Control Over Personnel, but Offers No Clues on Reviving the Economy

ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)筆

2022年10月24日

『チャイナ・ブリーフ』(ジェイムズタウン財団)

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-jinping-exerts-overwhelming-control-over-personnel-but-offers-no-clues-on-reviving-the-economy/

習近平・中国共産党中央委員会総書記は、先日閉幕した第20回党大会と第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記が圧倒的な勝利を収めた。習近平が選んだ政治局常務委員たちは、純粋な支持者ばかりだが、イデオロギーやプロパガンダ、「党建設(party construction)」などに精通した官僚が多く、金融や経済に精通した実利的なテクノクラートはほぼ皆無に等しい構成となった。その結果、「新型コロナウイルスゼロ」をはじめとする習近平の保守的で準毛沢東主義的な政策の多くは、当分の間、継続されることになりそうだ。

●習近平派のために他派閥が一掃された

中国共産党の中枢である新しい政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)では、習近平は引き続き中央委員会総書記と中央軍事委員会主席を兼任する。他の6人の政治局常務委員は習近平派とされる。2002年から2007年まで浙江省で習近平の下で働いた上海市党委書記の李強(Li Qiang)が国務院総理に就任する予定だ。その他、最高意思決定機関には現職の政治局常務委員を含む習近平の盟友が就任する。全国人民代表大会(National People’s Congress)常務委員長に就任する中央紀律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)書記の趙楽際(Zhao Leji)、中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference)主席に就任する思想家の王滬寧(Wang Huning)らが名を連ねる。李強のほか、習近平の子飼いの3人が昇進した。北京市党委書記の蔡奇(Cai Qi)は中国共産党中央書記処書記に、広東省党委書記の李希(Li Xi)は次期中央紀律検査委員会に就任する。中国共産党中央弁公庁(CCP General Office)主任で習近平の秘書長を務める丁薛祥(丁薛祥)は常務副総理に就任予定だ(新華網:10月23日;明報:10月23日;日経アジア:10月23日)。

次期政治局を構成する24人の委員と次期中央委員会を構成する205人のうち、習近平に忠誠を誓う人々が大多数を占めている(新華社・ウェイボ:10月23日)。13人の一般政治局員の引退によって、習近平には習近平派閥の人物たちを系政治局員に登用する機会を与えた。全中央委員205人のうち133人(65%)が新たに就任したため、習近平は反主流派グループや他派閥のメンバーを排除する余地が出た(新華網:10月22日)。新政治局委員24人のほぼ全てが習近平派閥だ(Radio Free Asia:10月23日)。新疆ウイグル自治区の馬興瑞(Ma Xingrui)党委書記は、中国航天科技公司(China Aerospace Science and Technology CorporationCASC)の元総経理で、中国国家宇宙局局長を務めた。遼寧省党委書記である張国清(Zhang Guoqing)は、中国北方工業集団公司(China North Industries Group Corporation)の副社長を務めた。浙江省党委書記の袁家Yuan Jiajun)は中国航天科技公司の経営トップを務めた。山東省党委書記の李干杰著名な核物理学者である(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

次期政治局には、中国共産党の他の2大派閥である共産主義青年団(Communist Youth League FactionCYLF)と上海閥(Shanghai Gang)の代表はいない。元広東省党委書記で元共産主義青年団第一書記の胡春華(Hu Chunhua)副総理は、政治局の一般委員の座と常務副総理に就くと予想されていた。しかし、胡は、政治局常務委員会はおろか、政治局にも残れなかった(Zaobao.com:10月23日;連合日報:10月23日)。この「一党独大(yidangdudaonly one party running the show)」という異常な現象は、最高指導者である習近平の隣に座っていた、共青団派の指導者で胡錦涛元前総書記が、土曜日の第20回党大会閉会式の半分ほどで無残にも引きずり出されたことに起因していると言われている(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月22日)。新華社通信は、この出来事について胡錦濤が急病になったからだと報じた。しかし、オブザーヴァーたちの間では、胡錦濤は新しい中央委員会と政治局常務委員会の名簿に公然と不満を表明しており、それは自分の長い間守ってきた派閥の傍流化を示すものであったからだというのが一致した見方である。文化大革命以来の主要な党大会では、胡錦濤のような公然の反対表明は珍しい(ジャパン・タイムズ:10月23日;Hong Kong Free Press:10月22日)。

習近平のもう一つの大きな業績は、中国共産党綱領を改正し、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on socialism with Chinese characteristics for a new era)」を今後の党と国家の指導原理として明記したことである。これは「2つの確立(two establishes、两个确定、Liang ge queli)の1つである。もう1つの「確立」は、習近平が「中央党当局の核心であり全党の核心(core of the central party authorities and the core of the entire party)」であり続けることで、実質的に毛沢東主席と同じ地位に昇格させることだ(Gov.cn:10月22日;人民日報:10月22日)。

●中国式近代化(Chinese-style Modernization

習近平思想の重要な要素は、いわゆる「中国式近代化(Chinese-style modernization、中国式代化、zhongguoshi xiandaihua)であり、習近平は10月16日の党大会冒頭報告で初めて提起した(新華社:10月16日)。事実上、中国式近代化とは、最高指導者である習近平が21世紀の中国の状況に適したと判断したマルクス主義・社会主義の教義のみを全ての政策決定の基盤とすることを意味する。習近平自身が示した定義によれば、「中国式現代化」は、党の厳格な指導、中国式社会主義的教訓の堅持、「質の高い発展(high-quality development)」の実現、人民の「精神世界(spiritual world)」の充実、共同富裕(common prosperity)の達成、人間と自然のバランスの追求、世界平和と「全人類運命共同体(common destiny for all mankind)」の目標の推進といった要素から構成される(VOA Chinese,:10月20日;人民日報:10月19日)。

習近平の大会報告では、鄧小平の「改革開放政策(reform and open door policy)」について4回言及されているが、習近平は経済発展や国際市場の開放よりも、国家の安全や内外の敵との「争斗(waging strugglesdouzheng)」を優先させたことが明らかである。今後の政策では、特に半導体やAIなどの先端分野における自立を意味する「内部循環(internal circulation)」、公企業と民間企業の両方を厳しく管理することを含む経済の党管理、共同富裕の推進、アメリカとその同盟諸国の「反中(anti-China)」政策がもたらす挑戦への言及と見られる「複雑で困難な世界情勢(complex and challenging global situation)」への国民の備えといった、準毛沢東主義的、閉鎖主義的価値観(autarkist values)に重きが置かれるだろう(BBC Chinese :10月16日)。

外交については、習近平チームは、特に中国の台湾再統合と世界のルール設定者としての「中央の王国(Middle Kingdom)」の地位の回復に関連して、ナショナリズムを引き続き昂揚させるだろう。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、アメリカとの差を縮め、世界最強の国にすることも、第20回大会以降の中国共産党の優先課題である。改訂された中国共産党綱領では、北京が「台湾独立に断固として反対し、阻止する」ことを初めて指摘した。これに対し、旧綱領は「中国共産党は民族統一を実現する責任がある」とだけ述べていた(Chinanews.com:10月24日;News Radio French International:10月23日)。

●外交・軍事政策(Foreign and Military Policy

習近平による閉会演説を含む第20回党大会期間中、アメリカに対する言及はなかった。しかし、最高指導者の習近平と幹部たちの発言は、アメリカ主導の「反中国(anti-China)」連合との全面的な競争激化を意図したものであったように思われる。習近平は繰り返し、党大会の出席者たちと全ての中国人に、他国の「覇権主義と虐め(hegemonism and bullying)」に対抗することを呼びかけ、「闘争を行う勇気と闘争に長けること(rave enough to wage struggle, and to be good at waging struggle)」を促した(NPC.gov.cn:10月24日;News.cn:10月18日)。国際ビジネスや中国人と欧米人の通常の人的交流の分野でも、習近平は中国当局が経済的配慮よりも国家の安全保障を優先させることを示唆している。習近平と新しい政治局は、軍事的近代化に対してより多くの資源を投入する可能性があり、台湾や南シナ海で「熱い戦争(hot war)」が勃発する可能性が高まる(VOA Chinese:10月18日;Deutsche Welle Chinese:10月16日)。

習近平は、外交政策の遂行を最新鋭の軍に大きく依存していることを反映し、「68歳定年」の常識を破り、中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠(hang Youxia)を更に1期5年続投させた。張副主席は1950年生まれで、今年退任するものと思われていた。しかし、張副主席の父親と習近平の父親が国共内戦以来の親しい間柄であったことから、張は最高司令官である習近平から全幅の信頼を寄せられている。7人の委員からなる中国共産党中央軍事委員会の新任将官2人である、何衛東(He Weidong、1957年生まれ)副主席、苗華(Miao Hua、1955年生まれ)委員は、福建省の第31野戦軍や、福建省と浙江省の南京軍区(現在は消滅)にいた経験がある。習近平は1985年から2007年まで、福建省と浙江省で様々な役職に就いていた時に、この2人の将官と初めて知り合った可能性が高い。何副主席は台湾を管轄する東部戦区司令部の元司令官であり、苗華はヴェテランの政治委員(political commissar)で、現在は中国共産党中央軍事委員会の政治工作部部長を務めている(Businesstoday.com.tw:10月23日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

他の新委員は、軍の規律と腐敗防止を担当する張勝民(Zhang Shengmin、1958年生まれ)、中国人民解放軍陸軍司令員を務め、統合参謀本部参謀総長への就任が予想されている劉振立(Liu Zhenli、1964年生まれ)、航空宇宙技術に優れ、現職の中国共産党中央軍事委員会装備開発部長である李尚福(Li Shangfu、1958年生まれ)の3人だ(Headline News. HK:10月24日;Breakingdefense.com:10月17日)

●結論(Conclusion

社会主義諸国の主要な党大会や会議の多くは具体的な目標への確かな道筋を示すよりも、大言壮語や誓約が多いにもかかわらず、習近平をはじめとする指導者たちの報告が行われた第20回党大会では、「中国式近代化(Chinese-style modernization)」、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」、「闘争の敢行(daring to wage struggles)」など、ほとんど理論化された概念ばかりが強調されている。国家統計局が2022年第3四半期のGDP成長率を3.9%と発表したばかりだが、世界銀行など独立系の研究者やシンクタンクの多くは、中国経済の年間成長率を約2.8%かそれ以下と予想している(Scio.gov.cn:10月24日;CNBC.com:10月18日)。この4カ月間、経済の指揮を執った退任する李克強(Li Keqiang)総理は、外資導入の拡大と新型コロナウイルス感染対応体制の合理化を求め、習主席の訓示に反している(China Brief:7月18日)。しかし、李総理をはじめとする国務院のテクノクラートが推奨する唯一の「切り札(trump card)」は、経済成長を引き上げるためにインフラプロジェクトへの刺激策を強化することだ(Rthk.hk:8月30日;English.gov.cn:7月29日 )。しかし、政府投資は古くからある手段であり、過剰なレバレッジ、無駄、支出に対するリターンの減少を招きやすい。習近平とその取り巻きは今大会での圧勝を喜んでいるが、特に最近アメリカとその同盟諸国から中国に科されている厳しい制裁とボイコットを考えると、彼らは国民と国際社会に対して中国経済の立て直しが可能であると納得させなければならない。

党大会の人事で気になるのは、欧米で教育を受け、市場原理を重視する幹部が次々と退任していることだ。引退した李克強首相の最後の発言の中に、「黄河と長江の水は逆流しない(the waters of the Yellow and Yangtze River won’t flow backwards)」という言葉があった。これは、習近平が行った毛沢東主義復古(restoration)を叱責したものと見られている。この他、習近平の側近だったハーヴァード大学出身の経済学者の劉鶴(Liu He)副首相、アメリカの大学の経済学教授だった中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang)、銀行監督官庁トップの郭樹清(Guo Shuqing)らが欧米諸国で仕事を経験した経歴のある幹部たちが退任することが明らかになった。

新中央委員会メンバー表から、劉鶴に代わる経済担当副首相の候補は国家発展改革委員会主任の何立峰(He Lifeng)が確実視されている(新華網:10月22日)。しかし、何立峰が習近平の信頼を得たのは、主に福建省で長年一緒に仕事をしたことが理由である。何力峰には改革派としての資質がほとんどない。習近平は、数字に強いテクノクラートよりも、プロフェッショナルな党員を好むため、中央委員会と政治局には経済や金融の専門家が少ないという事情もある。この状況を改善し、新型コロナウイルスゼロ体制から厳しい党による経済統制まで、硬直したイデオロギー的教条を形だけ譲歩しない限り、中国が2049年までに超大国の地位を獲得するという夢を実現できるとは、中国と海外の観測筋は信じてくれないだろう。

※ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済プログラム修士課程非常勤講師を務める。中国に関する著書が6冊あり、代表作に『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。最新作は『中国の未来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ社、2020年)である。

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 古村治彦です。

 来週に第20回中国共産党大会が予定されている。ここで新しい人事が行われ、習近平国家主席の続投、第7世代(1970年代生まれ)が指導部層に多く入ってくると見られている。今回の共産党大会は非常に重要な大会ということになる。

 中国人民解放軍(People’s Liberation Army)は1927年8月1日の南昌蜂起が健軍の日とされており、軍の徽章には「八一」の文字が入っている。人民解放軍を統括(領導)するのは中華人民共和国中央軍事委員会(Central Military Commission of the People’s Republic of China)だ。中央軍事委員会には中華人民共和国中央軍事委員会と中国共産党中央軍事委員会(Central Military Commission of the Communist Party of China)の2種類が存在するが、メンバーと役職は全く一緒なので、実質的には中国共産党中央軍事委員会が中国人民解放軍を統括する。中央軍事委員会主席は国家主席である習近平が務め、副主席2名と委員は中国人民解放軍の将官から出ている。中国人民解放軍は中国共産党に従属している形となっている。

 私たちは報道で「中国の習近平国家主席」という言葉を耳にする。「中国で一番偉いのは習近平なのだ」ということは分かっている。しかし、どれくらい偉いかということは分かっていない。習近平は中国国家主席(アメリカの大統領に相当する国家元首)、中国共産党中央委員会総書記(中国共産党の最高幹部、党首に相当)、中華人民共和国中央軍事委員会主席(これはそのまま中国共産党中央軍事委員会主席)を務めている。習近平は中国全体を領導する中国共産党のトップであり、中国人民解放軍のトップであり、中国という国家のトップ(行政府の国務院を従えている)ということになる。

 最近になって、中国人民解放軍がクーデターを仕掛けて習近平国家主席を追い落とそうとしたという噂が流れた。法輪功という中国で禁止されている宗教に関連するメディアが出所で、それをインドのメディアが報じたことで話が大きくなったようだ。しかし、以下の記事にあるように、これは「中国の政治について知識がないために流れた噂話で、それが大きくなった」ということのようだ。

 中国人民解放軍がクーデターを起こそうと思えば、これまででもいくらでも機会があった。しかし、中国人民解放軍はクーデターを起こしたことはなく、中国共産党に従ってきた。大躍進運動や文化大革命といった国家的な動乱状態にあっても、動きを自重してきた。それは、国共内戦を指導した鄧小平以来の我慢強さであり、「軍が軽挙妄動すれば国家が乱れて外患を誘致することになる」ということが分かっているからだ。

 人間は自分の希望に沿うような形で将来を予測してしまうことが多い。また、ベクトルのかかった情報を流して自分たちに有利なように状況を作ろうとする。どのようなベクトルがかかっているのか、誰が利益を得るのか、ということを考えながら情報報に接するだけで、根拠のないうわさ話に振り回されることはだいぶ少なくなる。

(貼り付けはじめ)

誤ったクーデターの噂が中国政治について明らかにすること(What a False Coup Rumor Reveals About Chinese Politics

-根拠のない物語がすぐに拡散したが、これは北京の内部での動きについて、どれほど多くの世界の人々が誤解しているかを示している。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年9月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/28/china-false-coup-rumor-viral-politics/

今週のハイライト:クーデターについての根拠のない噂は北京政治に関する誤解を荒木かにしている。ウクライナの対ロシア侵攻についての成功が台湾でいくつかの疑問を生じさせている。中国の国連大使が領土の一体性について曖昧な声明を発した。

●クーデターに関する誤った噂話が拡散(False Rumor About Coup Goes Viral

先週末、李橋銘上将が習近平国家主席に対してクーデターを起こしたという、まったく裏付けのない中国に関する主張が、中国の亡命者たちの間で、そしてインドのメディアにも大々的に流布された。習近平は火曜日、公の場に姿を現し、噂を一掃した。もちろんクーデターの話は嘘だったが、一時的に多くの人に伝わり、著名人までもが噂を繰り返した。

習近平国家主席が中国共産党内でクーデターに直面する可能性は全くないとは言えない。いつか遭遇するかもしれない。中国の経済や政策の失敗は拡大し、中国のエリートたちの不満も高まっている。しかし、先週末のような根拠のない主張は、中国国外でも頻繁に見受けられる。このような噂がどのように広まり、なぜ広まったのかを考えると、中国政治の中枢についていかに知られていないか、そしていかに酷い誤解を受けているかが分かる。

今回のクーデターの噂はよくあるパターンに沿ったものだった。中国の亡命者たちの反中国共産党的な部分は、北京の内部での陰謀の噂話でしばしば騒がれるが、そのほとんどは何も根拠がない。ソーシャルメディアは、かつてはマイナーな亡命新聞やゴシップサークルの間でしか共有されなかった話を増幅させる。今回のケースでは、中国で飛行機が欠航という反体制派ジャーナリストの主張が噂の発端となった。クーデターの前兆は中国の宣伝機関の掌握ということになるだろう。

1999年に中国で禁止された、国際的な新宗教運動である法輪功(Falun Gong)は陰謀論的な話を共有する傾向があり、通常、こうした噂を広める重要な役割を担っている。法輪功系のジャーナリストは9月23日、この噂を取り上げ、何度もツイートした。そこから、インドのメディア、特に国粋主義的なチャンネルであるインドTVと一部の政治家がこの話を増幅させた。しかし、中国に詳しい学者たちが繰り返し反論したため、やがてこの噂は沈静化した。

それでは、今回の噂は中国の政治について何を示しているのだろうか?

第一に中国共産党の厳しい情報統制が噂を呼び起こす。先週末のクーデターの証拠とされたのは、習近平が9月22日に中央アジアから帰国して以来、公の場に姿を現していないことだ。習近平も人間であり、インフルエンザにかかったり、休んだりする。しかし、中国共産党は指導部層を非常に大切にしているため、病気や休暇を公式に認める訳にはいかない。もしそのようなことを認めると、指導者たちは弱者ではなく、努力し、英雄的であるというイメージが崩れてしまう。

このような警戒心の強さは、中国共産党の地下運動としての歴史の名残であり、中国の官民の機関に共通する特徴である。中国共産党の指導部は部外者と情報を共有しないので、彼らの私生活を調査することは、中国で深刻な問題を引き起こす近道となる。習近平とその側近は、海外で過ごした後、単に隔離されていた可能性もある。しかし、政府がそのようなことを発表する訳にはいかない。

世界の大多数の人々は中国の日常的な現実を知らない。飛行機が欠航になったというニューズについても、新型コロナウイルス・ゼロ体制で中国の飛行機が頻繁に欠航になっていることは、中国の人々がよく知っていることなので怪しく思えたかもしれない。一方、全長80キロ(ほぼ50マイル)の車列が北京を取り囲んだという主張は、首都に住む数千万人の住民が誰もその写真を投稿しないことでそれが本当ではないと信じる必要があった。中国の検閲は厳しいが、全てを包含している訳ではない。

中国以外の世界における中国での生活に関する知識と実際の生活との差は新型コロナウイルス感染拡大期間の孤立によって大きくなっている。注目すべきは、中国に特派員を置いているインドのメディアが、噂を増幅させるのではなく、むしろ弱めたことである。

最後に、軍隊は中国を救うことはないだろう。中国におけるクーデターに関する噂は、ほとんどの場合、軍部が権力を掌握することに焦点が当てられている。しかし、それはレーニン主義国家における権力の正統性と中国共産党が軍を強く支配していることについて根本的に誤解している。旧ソ連でも中華人民共和国でも、軍隊が国家の重要な部分であるにしても権力闘争を主導したことはない。反習近平運動を想定した場合、軍隊は宮廷の護衛はしていても、クーデターを主導するのは中国共産党のメンバー自身であろう。

しかし、部外者が軍に注目するのは、トルコからタイに至るまで、独裁国家の多くは軍が権力を握り、自らを国家の救世主と見せかけてきた歴史があるからだ。習近平と中国共産党はまた、中国において真の野党権力の源泉となりうる他のあらゆる組織を効果的に破壊してきた。軍事クーデターはあり得ないが、中国共産党の崩壊を願う人々には、それしか残されていないのかもしれない。

●私たちが追いかけているもの(What We’re Following

台湾は戦えるのか? ウクライナがロシアとの闘いで防衛に成功した一方で、台湾の人々は自分たちの軍隊が任務に耐えられないのではないか、中国の侵略によって、台湾は2022年よりも2014年のウクライナのようになるのではないかと懸念している。台湾は重武装だが、2020年にジャーナリストのポール・ファンが『フォーリン・ポリシー』誌がに寄稿した記事の中にあるように、徴兵制をわずか4カ月に短縮したことで軍隊を弱体化した。

しかし、韓国やイスラエルのように、敵対的な隣国を前にして採用している軍事国家(garrison state)という考えに、台湾の人々のほとんどは熱狂していない。しかし、台湾は、島国(island state status)でない国々とは事情が異なる。台湾の自由は、おそらく海岸や海上で勝ち負けが決まるため、防衛側に有利となる。

中国の曖昧な国連安保理声明。ウクライナ占領地でのロシアによる虚偽の住民投票を受け、中国の張軍国連大使は国連安保理で声明を発表した。「ウクライナ問題をどのように把握し、どのように処理するかについて私たちの立場と提案は一貫しており明確である。それは全ての国家の主権と領土の一体性が尊重されるべきであるということである」。ここで疑問が生じる。中国が言っているのは、誰のための領土の一体性なのか?

張大使の発言は、国民投票の正当性を前提にすれば、親ウクライナ的とも親ロシア的とも解釈されかねない。この発言は、戦争中、中国がしばしば平和や国際秩序に言及し、どちらかを非難したり支持したりすることはなかった典型的なものである。一方、中国の国営メディアや検閲機関は、親ロシア的に傾いている。

●テクノロジーとビジネス(Tech and Business

スパイの告発。中国は、アメリカ国家安全保障局(U.S. National Security Agency)が政府出資の重要な大学の機密人事情報にアクセスしたと非難している。確かにその可能性はあるが、攻撃者がアメリカ英語のキーボードを使用していたなど、いくつかの証拠は決定的なものではないようだ。

興味深いことに、ハッカーはアメリカ東部標準時の午後4時に退社し、週末は仕事をしていないという証拠がある。これは、中国政府のハッカーを特定する際によく使われる方法(例えば、最近行われたフェイスブックの影響力工作に関する調査)で、中国政府の職員が享受している2時間の昼休みを思い起こさせるものだ。

不動産業の資金難。カイシン(Caixin)の調査によると、地方政府は不動産市場の崩壊によって生じた資金調達の穴をあらゆる手段で埋めようと必死になっている。地方債を販売する地方政府の資金調達機関が、自ら事業に乗り出し、政府から土地を購入するよう圧力をかけられている。地方財政収入に占める不動産売買の割合は、税金を除いて計算すると、2000年にはわずか5.9%だったが、2021年には42%を占めるようになった。

しかし、このギャップを地方自治体の資金調達手段が埋められるものではない。国が値下がりを容認するのを待っている買い手の需要がないのだ。2020年以前にも、地方政府の資金調達車は債務危機の発生に寄与した。

弱い人民元(人民元安)、弱気な予測。中国人民銀行による下支え努力にもかかわらず、人民元は下落を続け、月曜日には対ドルで28ヶ月ぶりの安値をつけた。来月開催される中国共産党第20回全国代表大会を前に、強い人民元(人民元高)はアメリカとの経済力の均衡を意味すると一般的に考えられているため、弱い減(人民元安)は恥ずべき事態となりかねない。

更に悪いことに、来年の中国経済の見通しが暗澹たるものになりそうだ。世界銀行は4月に発表したGDP成長率の予測を5%からわずか2.8%に引き下げ、他の金融機関もこの動きに追随している。中国のような発展途上の経済では、これは国民にとって景気後退のように感じられる。政府が設定した5.5%の成長目標に達しないということは失敗ということになる。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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