古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は二度目の夏を終えようとしている。これから秋、そして冬へと進む中で、状況は膠着状態のままである。ウクライナ側は春季大攻勢という掛け声で、反転攻勢をもくろんだが、失敗に終わった。西側諸国はウクライナに対する援助を続けているが、膠着状態に変化はない。以下の記事にあるように、西側諸国、NATOの軍事専門家たちから見れば、ウクライナ軍は「稚拙な」攻撃を繰り返しているということもその理由になるだろう。「せっかく援助してやって、効果的な作戦の助言もしてやっているのに、ウクライナの馬鹿たちは何をやっているんだ」というところだろう。
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 ウクライナ戦争も2年目になり、私たちも「慣れて」しまった。「このまま状況が変わらないで、ウクライナもロシアも飽き飽きしたところで停戦交渉という話になって、この停戦交渉がまた半年単位くらいでずるずる続いて、その間に武力衝突が起きたり、止まったりが続いて、ウクライナもロシアも、そして西側諸国をはじめとする世界各国が本格的に嫌になって停戦交渉成立への圧力が高まり、最終的に交渉成立する」というのが多くの人々が考えるシナリオであろう。

 アメリカ政府も中国政府も停戦に向けて舞台裏で静かに働きかけを行っているだろうが、ここまで来ると、ウクライナが「諦める」かどうかということになる。ロシアは自分たちが確保した地域を守備すすることに徹している。ウクライナ側が攻撃を諦めて、停止すれば、自然と停戦ということになる(条件などを決めて停戦合意をしなければならないが)。

 ウクライナ側は現在のところ、停戦する姿勢を見せてはいない。強気に、「クリミア半島を含む全てのロシアの掌握地域を奪還する」と主張し続けている。西側諸国はそんなことは不可能だと考えている。また、そんなことをして欲しくないと考えている。そんなことになれば、ロシアがどのような攻撃を加えてくるか分からない。西側諸国にどのような影響が出るか分からない。

 関係者全員が「早く停戦してくれればよいのに」としらけているのに、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領だけが恫喝しながら、援助を強要し、戦争継続を進めている。「ゼレンスキー疲れ」をどこまで全世界が許容できるかだ。いざとなれば、ゼレンスキーを排除して停戦ということも考えねばならない。

(貼り付けはじめ)
NATO
とウクライナ軍 戦局打開の「特別作戦」で衝突秘密協議5時間の内幕とは【報道1930

9/19() 6:02配信

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https://news.yahoo.co.jp/articles/239ef8708c854448cdb82e718322151ad91cb2b7

先月15日、ウクライナとポーランドの国境のとある場所で、NATOとウクライナ軍の秘密協議が行われました。そこで決まったのは、反転攻勢の戦局を打開する特別な作戦。将軍達の議論は5時間に及びましたが、元NATOの高官は、互いに不満をぶつけあう激しい攻防があったと証言しています。NATOとウクライナ軍は、なぜ衝突したのでしょうか。秘密協議の内幕です。

 NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

「まずウクライナ側は、『もっと武器が必要だ』と会談で言いました。そして、彼らは、F16や射程距離の長い大砲、特にATACMS(エイタクムス)と呼ばれる兵器を要求しました。また、ロシア軍の後方の大砲陣地や兵站補給施設まで届くミサイル。例えばイギリスのストームシャドウの供与を増やすことを要求したのです」NATO38年間勤務した元高官で現在はイギリスのエクセター大学の教授、ジェイミー・シェイ氏。8月中旬に行われたウクライナとNATOの秘密会談では、お互いに不満をぶつけ合う激論が交わされたと話します。

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

「ウクライナ側は、『武器の供給が遅すぎる、控えめすぎる。もっと早く、もっと必要だ。武器には、より攻撃的な無人偵察機や、特に長距離砲、地上・空中の巡航ミサイルも含まれるが、これらを手に入れない限り、我々ができることは限られる』とNATO側に訴えたのです。しかし、これを聞いたイギリスやアメリカの将軍たちやNATOの欧州連合軍最高司令官・カボリ将軍らは、『ウクライナは戦術に関して我々の忠告を聞いているのだろうか』という気持ちがあったでしょう。何故なら、反転攻勢に際し、NATOからウクライナ側へのアドバイスは、『敵の最大の弱点である地点を選び、そこに攻撃を集中させる。そして防御に穴を開け、その穴を突く』というものでした。しかし、ウクライナはそれをやっていなかったからです」

反転攻勢の開始後、ウクライナ軍はザポリージャやバフムトなど全長およそ1200キロにも及ぶ前線に広く展開。ロシア軍の弱点を見つけようと規模の小さなピンポイント攻撃を繰り返していたと言います。
これに対しNATO側は、ピンポイント攻撃は多くの労力と弾薬を無駄にしていて、時間もかかりすぎていると、批判的に見ていたと言うのです。

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

「西側が常に言ってきたのは、『南部に兵力を集めて進軍する』という作戦でした。しかしウクライナはまだ明らかに東部のバフムトを取り戻そうとしていました。アメリカの助言は、『バフムトは重要ではない』というものでした。ウクライナ軍はそこであまりにも大きな損害を被っていました。ウクライナにとってバフムトは象徴的な存在になっていますが、アメリカは『頼むから、そこから一線を引いてくれ』と言っていたのです。しかしウクライナ人は誇り高い。自分のやり方でやりたいのです」

誇り高いウクライナ人とNATOの議論は、5時間に及びました。そして

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

NATO側は、『このようなピンポイント攻撃をさらに続ければ、ロシア軍に反攻を開始する準備の機会を与えてしまう。そうなると、あらゆる場所でその反攻を防ぐために多くの戦力を費やすことになる。だから、どうか集中して、一点を選び、そこを突破するために大きな戦力で挑んでほしい』とウクライナを説得したのです」

NATO側が主張する戦略上の問題点と共にウクライナ側が考えなければならなかったのは

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

「ウクライナは、兵器が欲しければ、戦術に従わなければなりません。それは明らかで、ウクライナはそれを理解したようです」

ウクライナ側は、最終的にNATOのアドバイスを受け入れました。兵力を南部戦線に集中し、一点突破を狙った攻撃に戦略を転換したのです。

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏

「ウクライナ軍は今明らかに、より効果的に兵力を集中させています。彼らは西側の戦略家の言うことに耳を傾け始めている。と同時に、西側諸国がこれまで差し控えていた兵器や装備を提供する意欲も高まっています」

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「敗北なら世界大戦」 ゼレンスキー氏が警告

ウクライナ侵攻

2023918 17:30 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB181YI0Y3A910C2000000/

【ワシントン=共同】ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は17日放送の米CBSテレビのインタビューで、ウクライナが敗北すればロシアはポーランドやバルト3国に迫り、第3次世界大戦に発展しかねないと警告した。「プーチン(ロシア大統領)を食い止めるか、世界大戦を始めるか、全世界が選ばなければならない」と述べた。

ゼレンスキー氏はこれまでの米国の支援に感謝を表明した。その上で、追加の軍事支援に対する消極的な意見が米国内で広がっているのを念頭に、世界を守るため「最も高い代償を払っているのは実際に戦い、死んでいくウクライナ人だ」と訴えた。インタビューは14日に収録された。

ゼレンスキー氏はニューヨークを訪れ、19日に国連総会一般討論の演説で各国に対ロシアでの結束を訴える見通し。21日にはワシントンでバイデン米大統領と会談する。米政府は追加の軍事支援を発表する方針。

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ウクライナ戦争を終わらせるための妥当な最終手段(A Plausible Endgame to the War in Ukraine

フィリップ・ショート筆
2023年2月23日

『タイムズ』誌

https://time.com/6257800/ukraine-war-end/

※ショートは『プーティン(Putin)』の著者である。彼はまた『毛沢東:その生涯(Mao: A Life)』『ポルポト:悪夢の分析(Pol Pot: Anatomy of a Nightmare』』といった評伝を書いている。BBC,『エコノミスト』誌、『タイムズ』誌のモスクワ、北京、ワシントンDCでの海外特派員を長年務めた。

現代の戦争は全て合成物、ハイブリッド(hybrid)である。軍隊が戦場で成功するためには、市民からの支持と、その支持によって得られる資源がなければならない。これを前提にすれば、ウクライナでは西側諸国が圧勝するはずだ。ウクライナ国民は、ロシアからの侵略者に対する抵抗のためにかつてないほど団結している。ウクライナの支援者であるアメリカとその同盟諸国は、クレムリンが利用できる経済資源を凌駕する経済力を持っている。通常であれば、それは圧倒的な軍事力につながるはずだ。

しかし、ロシアの侵攻から1年経った今、事態はそう単純ではないことが判明しつつある。それは通常の戦争ではないからだ。非標準的なルールのもとで行われる限定的な紛争(limited conflict)であり、直接、間接を問わず、全ての参加者が片腕を縛られた状態で戦っている。西側諸国は、無秩序なエスカレーションを恐れて、ウクライナの国境内にとどまることを確約し、クレムリンは、プーティンがNATOとの戦争には勝てないと知っているからである。この戦争がいかに異例なものであるかを物語っているのは、ジョー・バイデンが「衝突(confliction)」を避けるために月曜日にキエフを訪問することをモスクワが事前に知らされていたことだ。戦争当事国が通常とる行動ではない。

代理紛争(proxy conflict)よりは大規模だが、全面戦争というほどでもない。ウクライナが生き残りをかけて繰り広げている本質的な闘争以上に、ウクライナは世界の3大核保有国が優位を争う血で血を洗うチェス盤となっている。ロシアは、アメリカが衰退し、同盟諸国を守ることができなくなっていることを示したいところだ。アメリカは、西側の「ルールに基づく秩序(rules-based order)」の保証人としての信用を守るために戦っている。「ビッグ・スリー(Big Three)」の中で新参者である中国は、傍観者として控えめにパートナーであるロシアを援助している。その一方で、自由世界のリーダーであり、その支配に憤慨している世界地政学におけるボス(alpha male)にどこまで反抗すべきかを計算しようとしている。

このような紛争では、情報戦(information war)は地上戦に劣らず重要である。今週、3つの核保有国は敵対行為勃発の記念日を利用して、それぞれの立場を二転三転させた。バイデン大統領がキエフを訪れ、現地とワルシャワで確約したのは、ウクライナにアメリカの支援は揺るがないという公的な安心感を与えるためだけでなく、全てのアメリカ人がアメリカの重要な利益であると確信してはいない、遠く離れた戦争に対する国内の支持を補強するためでもあった。ウラジーミル・プーティンは、ロシア連邦議会の合同会議で、ロシアは西側諸国の修正主義との生存に関わる闘争(existential struggle against the revanchism of the West)に従事しており、長期にわたる紛争が待ち受けていると語った。中国は王毅政治局委員(外務担当)をモスクワに派遣し、北京もこの戦いに参加していることを強調した。

これまでのところ、バイデンは西側諸国との同盟関係を維持するだけでなく、強化することに成功している。しかし、ホワイトハウスはヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に対して、アメリカは「ここに踏みとどまる」と公言する一方で、西側の関与(commitment)は無限ではないと非公式に警告している。プーティン大統領は、国内での反対派を冷酷に弾圧している。ほとんどのロシア人は、戦争には乗り気ではないものの、プーティンを支持し続けている。プーティンが体調不良やクーデターで倒れるかもしれないという憶測は、希望的観測(wishful thinking)にすぎない。ここ数日、西側諸国によるウクライナへの支援が急増しているが、その根底にあるものがもっと暗いものであることを忘れがちだ。

紛争1年目の大半は、情報戦の霧と戦場での出来事の移り変わりの速さによって、相反する物語が入り組んだ迷路のように入り組んでいた。戦争が2年目に入り、その輪郭がより鮮明になってきた。

プーティンは、痛みを伴わない迅速な勝利という希望が幻であることが証明されたため、少なくとも2024年のロシアとアメリカの大統領選挙まで、そしておそらくそれ以上続くであろう消耗戦(war of attrition)の見通しに不承不承適応しており、更に何万人もの死者を出している。ゼレンスキー大統領とNATOの指導者たちも、この新しい現実に適応しなければならない。今のところ、単なる膠着状態(stalemate)ではなく、袋小路(impasse)に陥っている。プーティンは、遅かれ早かれ西側の支援の流れが弱まり、ロシアはドンバス、クリミア、その間の陸橋、あるいはウクライナの抵抗が揺らげば、より広い領土を固めることができると信じ続けている。

西側諸国がキエフに先進兵器をどの程度供給し続けるかは、戦争の展開を左右する、極めて重要な要素であることに変わりはない。

理論的には、西側の十分な支援があれば、ウクライナはロシアをウクライナ東部から追い出し、クリミアからも追い出すことができるかもしれない。しかし、実際には、ロシアがウクライナ全土を占領するということ以上に、そういうことは起きないだろう。

ポーランド、バルト三国、チェコ共和国は、プーティンをここで止めない限り、次は自分たちの番かもしれないと主張し、ロシアの完全な敗北を追い求めている。しかし、ソ連に支配された歴史や脆弱性を感じ続けていることを考えればそのような主張は理解できるが、そのような懸念は間違いである。ウクライナは特殊なケースだ。NATO加盟国との直接衝突はロシアにとって自殺行為であり、プーティンの戦争中の行動は、それを回避する決意を示している。

誰も直接そうは言わないが、ウクライナがロシア軍の占領している全ての地域から追い出すことを、ホワイトハウスが望んでいるかどうかさえ疑わしい。アンソニー・ブリンケンは慎重な姿勢を示し、ロシアは2014年以前の国境線ではなく、2022年以前の国境線に戻らなければならないと述べている。ウクライナがクリミアに進攻すれば、住民のほとんどがロシア人であり、モスクワの立場からすれば、他の地域と同じロシアの州であるクリミアは、まさにバイデン政権が阻止しようと決意している、厄介なエスカレーションを起こす危険性がある。ここ数カ月、ロシアが戦術核兵器を使用するという話はあまり聞かれなくなった。しかし、プーティンが、モスクワとワシントンの間に残された最後の主要な核軍備管理協定である新START条約への参加をロシアは停止すると発表したことは、核兵器というカードがまだテーブルの上にあることを微妙に思い出させるものだ。

連合国がベルリンを占領して終結した第二次世界大戦とは異なり、ウクライナの国旗がクレムリンの上空に掲げられる日が来るとは誰も想像していない。ロシアの全面的な敗北が否定されるのであれば、最終的には政治的解決が必要となる。最も可能性が高いのは、ロシアがウクライナの占領地を保持し、プーティンがそれなりの成功を主張する一方で、アメリカはウクライナがロシアの支配に抵抗できたのはアメリカの支援が決定的だったと主張できるような、ある種の妥協案[compromise](休戦協定や非公式の分離線[armistice or an informal line of separation])である。

このような結果があらかじめ決まっている訳ではないが、最も発生可能性が高い。もしそうなれば、ウクライナ国民はそれを裏切(betrayal)りと見なすだろう。西側諸国は大規模な復興支援を提供することで、そうした反感をやわらげようとするだろう。

これは幸せな見通しではない。しかし、戦争のほとんどは最悪の結末を迎える。今回のウクライナ戦争はそうではないと考える理由はない。

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ウクライナ戦争における停戦はモスクワに報酬を与え、西側の利益を損なうということになるだろう(A ceasefire in Ukraine would reward Moscow and undermine Western interests

スティーヴン・ブランク筆

2023年6月7日
『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/4037418-a-ceasefire-in-ukraine-would-reward-moscow-and-undermine-western-interests/

ロシアの侵略が継続中だ。世界情勢への初期段階での影響を最小限に抑えようとしたり、ロシアの勝利を期待したりしていた西側の専門家たちの中には、今や、ワシントンは、事実上、自らの愚かさの代償からモスクワを救う終盤戦戦略(endgame strategy)を打ち出すべきだと主張する人たちもいる。

この戦争には勝てない、何年にもわたる消耗戦になる、核のエスカレートは避けられない、などという多くの意見が出ている。従って、ワシントン(そしておそらくヨーロッパ)は、モスクワに少なくともその不正な目的の一部を管理させたままで、停戦を強制するために介入すべきである。

残念なことに、これらは私たちが昨年聞いて、飽き飽きしている議論と同じであり、戦闘の経過によって、こうした主張の内容は反証されることになった。こうした主張を行っている人々は西側諸国がウクライナを支援し続ける見通しも、ウクライナがフィールドで勝利する見通しも立てていない。この路線の主張者たちはまた、将来のロシアの攻撃を平和の名のもとに確実に抑止するであろうウクライナのNATO加盟についても、それがロシアの征服を正当化し、今後何年にもわたって平和を保障しないことになるとして、懐疑的な目を向けている。

ワシントンとその同盟諸国は、ヨーロッパの平和と安全保障に関してロシアと何らかの合意をすることは不可能であることを理解する時が来た。それどころか、キール・ジャイルズが著作の中で賢明にも示しているように、ロシアは自らの意思で、そして自らの内在的な政治的・文化的構造によって、西側諸国と根本的に戦争状態にあり、そして今もそうであるのだ。西側の政策において、近隣諸国よりもロシアの安全保障上の懸念を優遇する長年の傾向は、明らかに政策立案者たちを行き詰まらせている。ロシアの安全保障は、アメリカの同盟諸国やヨーロッパの安全保障の根拠として、もはや持ち出すことはできない。

ウクライナがNATOに加盟し、西側諸国が武器を供与し、政治的行動を起こすことだけが、ウクライナの勝利をもたらすことができるのは明らかである。米情報長官のアヴリル・ヘインズは現在、ロシアは新たな攻撃を仕掛けられないと考えている。つまり、ロシアの勝利はもはや実現不可能かもしれないが、ウクライナの勝利は、確かに大規模な支援が継続されれば可能なのだ。しかし、モスクワが西側諸国全体と戦争状態にあり、ウクライナがその震源地(epicenter)であり、唯一の動的舞台(kinetic theater)であるからこそ、その支援はアメリカとその同盟諸国の利益のために必要なのである。

従って、なぜこれほどまでに多くの専門家たちが、同盟諸国や私たち自身の利益や価値を犠牲にしてまで、ロシアをその犯罪の結果から救う必要があると考えるのかを問う価値がある。おそらく彼らは、ロシアが自国の力、特に核兵器について主張することに目を奪われているのだ。確かに、核兵器が持つ意図の一つは、見物人にロシアの力と影響力を印象づけることだ。しかし、ロシアの核兵器の威力は、自爆的なロシアへの侵攻を抑止するには十分すぎるほどだが、ウクライナを打ち負かすとなると、あまり役に立たないことが証明されている。

ロシアの力に媚びへつらう知的魅力の源が何であれ、ロシアの侵略と戦争犯罪を継続的に正当化する理由としては効果を持たない。実際、ロシアの侵攻に屈することは、ロシアをその犯罪と愚行の正当な処罰から救うことを意味し、この場合、国際法、秩序、アメリカの利益と価値を犠牲にしている。更に言えば、この戦争に勝利することは不可能であり、アメリカの政策に開かれた唯一の未来は、「停戦を押し付けようとしてロシアの帝国主義を目指す原動力(imperial drive)を永続させることだ」という主張は、ワシントン側の失敗の告白なのである。

この戦争は、その悲劇性は横に置いておいて、リチャード・ニクソン大統領が「平和の構造(a structure of peace)」と呼んだものを、他の場所ではなく、ヨーロッパに構築することを可能にしていることを認識しなければならない。このような構造は、ウクライナをヨーロッパ連合(EU)に加盟させることによって、1991年の失敗を是正し、同時に、ヨーロッパに限らず、恒久的な戦争や冷戦によってのみ達成可能なロシアの帝国的プロジェクトの進展を阻止できるのだ。

この戦争に勝利することはできない、とか、モスクワが勝利と主張できるようなものを与える交渉によってのみ終わらせることができるという考えは、意志と想像力(the will and the imagination)の両方の失敗を表している。道徳的欠陥は別として、この見解はウクライナだけでなくワシントンとその同盟諸国の国益をも裏切るものであるため、リアル・ポリテイーク(Realpolitik)の厳しいテストには合格するものではない。

ウクライナへの継続的な支援は、単に勝利をもたらすだけではない。より耐久性のある新たなヨーロッパにおける安全保障秩序をもたらすことができる。いずれにせよ宥めることなど不可能で、これからも攻撃的であろうモスクワを懐柔する必要性以上の何かに基づく秩序が生み出されるのだ。

※スティーヴン・ブランク(Ph.D.):外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute FPRI)上級研究員。米陸軍大学戦略研究所教授(ロシア国家安全保障、国家安全保障問題)、マッカーサー記念研究員を務めた。現在、元ソ連・ロシア・ユーラシアの地政学、地理戦略を専門とする独立系のコンサルタントを務める。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 中国が「一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)」戦略に基づいて、世界各国に進出していることはよく知られている。日本でもよく報道されている。中国の東海岸からヨーロッパまでを陸上と海上でつなぐ、モンゴル帝国時代のユーラシアに訪れた「パクス・モンゴリカ(Pax Mongolica)」時代と大航海時代(Great Navigation)時代を彷彿とさせる大戦略だ。中国自体が外洋に出ていったのは、明時代の鄭和提督の大船団によるアフリカ遠征までだったが、中国はそれ以来の世界進出の時代を迎えている。
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 下記記事によると、中国は現在、「46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクト」を実行しており、その投資総額は「299億ドルに達する」ということだ。港湾の開発と管理(port authority)を行うことで、中国は物流で有利な立場に立つことができる。また、現在、中国人民解放軍海軍は、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、ジブチに海軍基地を設置している。これは「真珠の首飾り(String of Pearls)」戦略に基づいている。簡単に言えば、インドを包囲するという戦略だ。そして、インド洋でアメリカに対抗するための戦略である。この戦略については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で取り上げている。

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中国の海外港湾プログラム
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「真珠の首飾り」戦略

 中国の海洋進出は更に継続していく。下記記事はそのように分析している。その対象となるのが西アフリカだ。私たちは太平洋からインド洋にかけての地域に目が向いている。従って、「それならばアフリカ大陸ならば東部に進出するのではないか」と考えてしまう。しかし、中国はアフリカ西部に進出する。そのために大規模な投資を行っている。そこには。中国の壮大な戦略が隠されている。
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中国の次の海洋戦略は、「南半球の資源大国を繋ぐ大航海時代の逆ヴァージョン」となると私は考える。以下の記事にある通り、中国はこれから西アフリカに重点を置くと見られている。何故、西アフリカなのかと言えば、それは、南アメリカ大陸とつながるためだ。「中国-東南アジアインド洋(スリランカ)-南アフリカ(喜望峰)-西アフリカ-南アメリカ(ブラジル)」というシーレーンを構築する。西側欧米諸国の影響を受けない、「独立した」シーレーンが完成する。ブリックス(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、南半球にあるブラジルと南アフリカという、南米とアフリカの地域大国でかつ資源大国である国々を中国とつなぐためのシーレーン、航路ということになる。ユーラシア大陸を貫く「一帯一路」が北半球の戦略ならば、こちらは南半球での戦略となる。このシーレーンはまた、「ブリックス通貨(BRICS currency)」の成功のために重要な役割を果たすことになるだろう。

 更に言えば、中国の西アフリカ・南米への進出、「中国の南大西洋戦略」は、アメリカが、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「Pivot to Asia(アジアに軸足を移す)」、更には「インド太平洋戦略」という戦略に対抗するための中国の戦略でもある。アメリカが太平洋とインド洋で中国を「封じ込める」という戦略を推進している。それに対抗して、中国はアメリカの「裏庭(backyard)」である南米とつながろうとしている。大きく言えば、南半球を固めて、アメリカを包囲し、包囲網を縮めていくということになる。中国はそのために南大西洋に進出しようとしている。私たちの目がインド太平洋に向いている間に。中国は周到に次の世界覇権国としての準備を進めている。

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中国は世界に発展していく-そして海軍基地を次々と建設(Beijing Is Going Places—and Building Naval Bases

-次に中国が基地を建設するであろう候補地はこれらの場所だ。

アレクサンダー・ウーリー、シェン・ジャン筆

2023年7月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/27/china-military-naval-bases-plan-infrastructure/

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スリランカ・ハンバントタにあるハンバントタ国際港に寄港する中国のミサイル追跡船遠望5号2を歓迎する人々(2022年8月16日)

中国は2017年に中国人民解放軍海軍(People’s Liberation Army NavyPLAN)の初の海外基地をジブチに建設したことで知られている。中国は次はどこに海軍基地を建設するだろうか?

この疑問に答えるため、本稿の著者たちはAidDataの新しいデータセットを用いて、2000年から2021年の間に低・中所得国で中国の国有企業によって融資され、2000年から2023年の間に実施された港湾とインフラ建設に焦点を当てた。この詳細なデータセットは、46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクトを捕捉しており、その総額は299億ドルに達する。

私たちの分析の中心的な前提は、対外援助(foreign aid)や投資(investment)を通じて中国が港湾や関連インフラに資金を提供し建設することは、平時でも戦時でも人民解放軍海軍にとって役立つ可能性のある港湾や基地を示す1つの指標になるということである。それには理由がある。中国の法律では、名目上は民間の港湾が、必要な時には必要な分だけ、中国人民解放軍海軍に後方支援を提供することが義務付けられている。港湾の建設や拡張を通じて築かれる経済的な結びつきは永続的なものであり、その関係には長期的なライフサイクルがある。北京はまた、その支出に見合う非貨幣的債務もあると見ている。投資額が大きければ大きいほど、中国は便宜を図ってもらうための影響力を増すはずだ。

私たちのデータは、中国が陸上だけでなく海上でも超大国であり、世界の低・中所得国と並外れた結びつきがあることを明らかにしている。中国の国有銀行はモーリタニアのヌアクショット港の拡張に4億9900万ドルを貸し付けた。シエラレオネの総GDPは40億ドルの国であるが、シエラレオネのフリータウンには、7億5900万ドルの港湾融資を行っている。カリブ海にまで広がる世界的なポートフォリオである。その象徴的な足掛かりとなる場所はアンティグア・バーブーダで、2022年後半、中国の事業体が1億700万ドルを投じてセントジョンズ港の埠頭と護岸の拡張工事を完了させ、港湾を浚渫し、海岸沿いの施設を建設した。 

商業的な投資と将来の海軍基地を結びつけるのは、中国のビジネスのやり方をよく知らない人にとっては奇妙に思えるかもしれない。しかし、中国の港湾建設会社や運営会社の株式は上海証券取引所で取引されているが、一方で公的な政府機関でもある。港湾建設の大手企業としては、中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company, Ltd.CCCC)がある。中国交通建設は、株式の大半が国有で、上場している多国籍エンジニアリング・建設会社である。その港湾子会社の1つが中国港湾工程有限責任公司(China Harbour Engineering Company, Ltd.CHEC)である。どちらも海外での港湾建設における主要企業である。2020年、米商務省は南シナ海の人工島建設に関与したとして中国交通建設股份有限公司に制裁を科した。

海軍基地建設の立地に関する選択肢を絞り込むために、戦略的位置、港湾の規模や水深、北京との潜在的なホスト国との関係(たとえば国連総会での投票の一致など)といった他の基準も適用した。また、入手可能な場合には、一般に公開されている衛星画像や地理空間マッピングの情報源や技術も利用した。

そこから、私たちは将来の中国人民解放軍海軍基地の候補として、最も可能性の高い8つの候補地を導き出した。それらは、 スリランカのハンバントタ、赤道ギニアのバタ、パキスタンのグワダル、カメルーンのクリビ、カンボジアのリーム、ヴァヌアツのルガンヴィル、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショットである。

中国が資金を提供した港湾インフラと中国人民解放軍海軍基地立地の可能性が高い場所

中国の国有企業は、2000年から2021年にかけて、46カ国78港の拡張・建設プロジェクト123件に299億ドルの融資を約束している。この地図は、49の港湾について正式に承認された、活動中の、または完了したプロジェクトを示し、中国海軍基地として使用される可能性が最も高い8つの港湾の位置を強調している。

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注:地図には、資金提供の約束や中止または中断されたプロジェクトは含まれていない。ロシアのサベッタ港(ヤマル液化天然ガスプロジェクト)は除外されている。このプロジェクトは中国から推定149億ドルの資金提供を受けているが、研究者たちはサベッタ港のみに使われた金額を集計することができなかった。

西太平洋でアメリカを追い出す、あるいは包囲することは北京にとっての優先事項であり、インド洋ではアメリカ、インド、そしていわゆるクアッド同盟(Quad alliance)の他の国々への挑戦でもある。そして、ジブチもそうだが、候補の半分以上はインド太平洋を志向している。驚くべきことには、アフリカの大西洋側における、港湾を含む中国の投資の激しさである。中国の港湾業者について考えると、中国は地政学的に注目されているインド洋よりも、アフリカの大西洋側でより多くの港湾に積極的に投資していることになる。中国はモーリタニアから西アフリカを南下し、ギニア湾を経てカメルーン、アンゴラ、ガボンへと港を建設している。

 

西アフリカや中央アフリカに基地を建設することは、アデン湾での海賊対処任務で自国から遠く離れた場所で活動する方法を学んでからわずか15年しか経っていない海軍にとって、まだ外洋での足場を固めつつある大胆な試みとなる。大西洋の基地は、中国人民解放軍海軍をヨーロッパ、ジブラルタル海峡、主要な大西洋横断航路に相対的に近づけることになる。そして、大西洋へのシフトは流れに逆行することになる。アメリカはインド太平洋に執着しており、イギリスやオーストラリアとAUKUS安全保障パートナーシップを締結し、インドとの物流関係を深め、フィリピンやソロモン諸島に回帰し、パプアニューギニアと防衛協力を行っている。大西洋に中国人民解放軍海軍の基地があれば、ワシントンとブリュッセル(EU)の海軍に関する計算に狂いが生じ、計画立案者たちは図面に戻ることになるだろう。

また、中国は港湾を人里離れた場所に設置することを好んでいることを発見した。その一例が、アンゴラの飛び地であるカイオ港への北京の多額の投資である。十分な水深のある天然の港がないとか、天然資源に近いとか、単純な説明がつくこともある。しかし、ある海運会社の幹部によると、中国の事業体は過去に労働争議や市民の抗議行動、その他の混乱に港がさらされるのを見てきたため、現在ではこうした状況から距離を置くことを好むという。中国の事業体は、多数派で自由な支配権を確保できる、あるいはホスト国の世論の反発を避けられる、安全な新しい場所を好むようだ。これらは、海軍施設をどこに設置するかを決める際のセールスポイントにもなるだろう。

地図上で強調されている、中国人民解放軍海軍の基地の可能性が最も高いトップ8については以下をご覧いただきたい。

(1)ハンバントタ(スリランカ)(Hambantota, Sri Lanka

中国がハンバントタに投じた総額は20億ドル以上を超える。北京はこの施設を直接管理している。その戦略的立地、エリート層や国民の間での中国人気、国連総会での投票におけるスリランカの中国との連携も相まって、ハンバントタは将来の海軍基地の最有力候補である。

(2)バタ(赤道ギニア)(Bata, Equatorial Guinea

米国防総省の情報提供者は、バタ基地に対する中国の関心について懸念を示し、それを主要メディアが取り上げた。基地に関する北京の公式声明がないことは、必ずしも決定的なものではない。基地ができるという発表がなされる直前まで、中国はジブチに対するそのような意図について繰り返し否定していた。商業投資を入り口にして、数カ月以内に建設が始まった。政治的には、赤道ギニアは、カメルーンやトーゴと同様に、全て一族支配、権威主義政権で、長年にわたって政権を維持しており、後継者への政権移譲計画があるか、あるいはその話が持ち上がっている。2022年の『エコノミスト』誌インテリジェンス・ユニットの民主政体指数によると、3カ国とも世界の民主政体ランキングの最下位に位置している。 トーゴは130位、カメルーンは140位、赤道ギニアは158位である。

(3)グワダル(パキスタン)(Gwadar, Pakistan

中国とパキスタンの関係は、戦略的かつ経済的なものだ。パキスタンは、中国が推進する「一帯一路(Belt and Road)」インフラ計画の旗艦国であり、北京にとって最大の軍事品輸出先でもある。パキスタンでは、中国の軍艦は既に定着している。近代化する(modernize)に伴い、パキスタン海軍は中国製の武器を購入する最大の購入者となり、中国が設計した近代的な水上戦艦や潜水艦を運用している。グワダル自体はパキスタンの西の果てに位置し、ホルムズ海峡をカバーする戦略的な場所である。中国はパキスタン国民に、アメリカよりもかなり人気がある。問題を抱えているとはいえ、パキスタンは民主政治体制国家であるため、中国は海軍基地という概念に友好的な指導者を必ずしも永久に当てにすることはできない。グワダルがその大きな構成要素である「一帯一路」の主役である巨大な中国パキスタン経済回廊のパキスタンにおける運命には、多くのことがかかっているかもしれない。この経済回廊の成否は、中国人民解放軍海軍の基地受け入れに影響を与える可能性がある。

(4)クリビ(カメルーン)(Kribi, Cameroon

クリビ港は、中国の投資規模ではハンバントタ港に次ぐ。クリビ港はバタ港と最も競合しそうな港だが、両港の距離は100マイルほどしか離れていない。中国はどちらかを選ぶだろう。カメルーンの国連総会での議決と全体的な地政学的位置づけは、中国とよく一致している。その他では、アンゴラのカイオ、シエラレオネのフリータウン、コートジボワールのアビジャンが、北京の投資規模から、拠点となる可能性がある。シエラレオネの二大政党のうち、1つ(全人民評議会[All People’s Congress])は中国と密接な関係にある。政治集会では、支持者たちが「私たちは中国人だ(We are Chinese)」や「私たちは黒い中国人だ(We are black Chinese )」と叫んでいる。北京はこの国の政治生活に入り込むことに成功している。

(5)リーム(カンボジア)(Ream, Cambodia

現在までの公式投資は小規模だが、カンボジアのリームは何らかの形で中国人民解放軍海軍の施設となる可能性が非常に高い。アメリカや西側諸国はカンボジア人に人気があるが、フン・セン首相は北京にとっての長年の盟友である。フン・センは中国にとって重要な存在である。フン・セン首相は2023年8月に退陣し、息子の後任が予定されているが、今後もフン・セン首相が主導権を握り続けると見られている。カンボジアのエリートたちは、一帯一路構想のもとでうまくやっており、中国と緊密に連携している。2020年、カンボジアの国連総会での投票は中国と同じで、その年の争点となった100票のうちわずか19票で、イラン、キューバ、シリアよりもわずかに高い割合でアメリカと一致した。フン・センは、リームが近いうちに中国人民解放軍海軍を迎えることはないと否定しているが、証拠はそうでないことを示している。

(6)ルガンヴィル(ヴァヌアツ)(Luganville, Vanuatu

北京は何十年もかけて、自国を取り囲む第一列島線を割ろうとしてきた。中国人民解放軍海軍の基地は、おそらくそれほど大きくはないだろうが、南太平洋か中央太平洋のどこかに行かれることが理にかなっている。私たちのデータでは、この地域の港湾インフラへの中国の投資は限られているが、ヴァヌアツではエスピリトゥ・サント島のルガンヴィル港に中国から建設資金が投入されている。9700万ドルの投資は、私たちのデータによれば、ヴァヌアツの世界的な投資額のトップ30に入るもので、決して小さいものではない。そして前例もある。第二次世界大戦中、この戦略的立地にある島には、太平洋で最大級の米海軍の前進基地と修理施設があった。ルガンヴィル港前のセゴンド運河は、船団、浮体式乾ドック、航空基地、補給基地が置かれた、巨大で保護された停泊地(sheltered anchorage)だった。

(7)ナカラ(モザンビーク)(Nacala, Mozambique

モザンビークにおける中国の港湾投資は、他の地域ほど大規模なものではないが、取るに足らないものでもない。モザンビークはまた、ケニアやタンザニアといった東アフリカや南部アフリカの他の国々で見られるような、中国の融資や投資に対する反発も見られない。中国はエリート層にも一般市民にも人気があり、モザンビークのメディア・コンテンツのかなりの部分を中国が後援している。問題は、どこに基地を置くかだ。マプトは最大の港だが、モザンビーク政府とドバイ・ポーツ・ワールドが運営している。中国は、ベイラとナカラの両港の建設や拡張に資金を提供しており、両港は投資総額でトップ20に入っている。ベイラは定期的な浚渫(regular dredging)が必要なため、大型軍艦には浅すぎるだろう。ナカラは最も理にかなった港湾であり、中国による多額の投資が行われており、水深の深い港湾である。

(8)ヌアクショット(モーリタニア)(Nouakchott, Mauritania

モーリタニアは、西アフリカと中央アフリカの中国人民解放軍海軍オプションの渋滞から外れている。例えば、ヌアクショットはバタから2000マイル以上北西にある。西アフリカの国はまた、ヨーロッパとジブラルタル海峡のような隘路にもかなり近い。2020年の国連人権理事会の公聴会では、中国の香港に対する新しい安全保障法について、アンティグア・バーブーダ、カンボジア、カメルーン、赤道ギニア、モザンビーク、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、モーリタニアを含む53カ国が中国を支持した。

特別参加枠(Wild Card):ロシアか?

中国は発展途上国に資金を費やしているが、ロシア海軍の基地に艦隊を駐留させることで、先進国に近い地域に基地を確保することも可能だ。中国の視点からは、明らかなプラス面がある。アメリカとヨーロッパが脅威であるとロシアの指導部を説得する必要がなく、ロシアを誘い出すためのアメリカの魅力攻勢(charm offensive)の危険性もほとんどない。

ロシアは広大な国土全体に海軍基地を有しており、その多くは冷戦時代の遺産である。中国人民解放軍海軍の計画立案者たちにとって魅力的なのは、北太平洋にある基地だろう。そのような施設、例えばカムチャッカ半島のヴィリュチンスクにある既存のロシア軍基地は、安全で、人目に触れることがなく、既存の軍艦の停泊・修理施設を利用でき、中国人民解放軍海軍をアメリカの同盟国である日本とアラスカの間に置くメリットがある。2021年と2022年の両年、中国人民解放軍海軍とロシア海軍は、東シナ海と西太平洋で、日本の主要な島々の周回を含む大規模な合同演習を行った。中国はまた、ノルウェーとロシアの北岸に位置するバレンツ海や、バレンツ海沖の天然の港であるコラ湾でロシア海軍と施設を共有し、北大西洋へのアクセスを提供する可能性もある。

※ロリー・フェドロチコとサリーナ・パターソンがこの記事の作成に貢献した。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、元イギリス海軍将校。

※シェン・ジャン:AidData中国発展資金プログラム研究アナリスト。このプログラムで彼は過少申告されている資金の流れを追跡し、地政学上のデータ収集を主導している。中国国際発展に関するAidDataのレポート「一帯一路の資金」の共著者である。

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が始まり、2度目の夏を迎える。西側諸国はウクライナに支援を続け、今年の春にはウクライナが春季大攻勢(Spring Offensive)を開始したが、大きな成果は上がっていない。これは当たり前の話で、ウクライナ側があれだけさんざん「近々大攻勢をやるぞ」とウクライナ国内外で宣伝して回れば、ロシア側は準備ができる。防備を固めた要塞や基地を攻め落とすには、攻める側は数倍の戦力が必要であるが、ウクライナにはそれだけの戦力もない。

最近になって西側諸国がウクライナに対して、より強力な武器を支援する動きを見せているが、ウクライナ軍が戦力を落としているので、それを再強化するための「カンフル剤」ということになる。出血しながらカンフル剤で何とか心臓を動かしてウクライナを戦わせていているというのが西側の実態だ。西側諸国は一兵も出さずに、兵器を出しているから助けているでしょというふざけた態度に終始している。本当にウクライナを助けるというのならば、自国の若者たちをウクライナに送るべきだ。そうすれば戦争終結に対してより本気になるだろう。しかし、そのようなことをすれば、ロシアがどのような報復をするか分からないということで、西側は腰が引けている。

「西側(the West)」に対抗する「それ以外の国々(the Rest)」が、ロシアにとっての大後方(great back)となっている。ロシアの石油や天然資源を非西側諸国が購入している。ここで重要なのは、BRICsによる新共通通貨である。「ブリックス・ペイ」という「デジタル共通通貨」となるか、「ブリック」という通貨になるかは分からないが、「米ドル基軸通貨体制」に対する大きな脅威となる。ブリックス5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)にインドネシア、トルコ、メキシコを加えた「新G8」が貿易決済でブリックス共通通貨を利用するとなれば、ブリックス共通通貨が有効な決済通貨となり、国際通貨となる。米ドル決済体制によってアメリカは世界の石油と食料の貿易を支配する態勢が崩壊する。

 西側諸国、特にアメリカとイギリスは対ロシアで、ウクライナはEUにもNATOにも正式加盟していないのにロシアを刺激し、挑発するかのような行動を繰り返してきた。ウクライナの武力を増強し続け、ロシアに脅威を与えてきた。そのような「火遊び」の結果が今回のウクライナ戦争である。そして、ロシアが戦争に打って出ざるを得ない状況にしておいて(真珠湾攻撃直前の日本のように)、ロシアを戦争に引きずり込んで、一気にロシア経済を破綻させてロシアをつぶしてやろうというシナリオになっていた。しかし、ロシアはそのような危機的状況から脱した。っそして、ウクライナ戦争で負けない戦術に転換している。西側の短期間でのロシアの屈服というシナリオが崩れた時点で、西側の負けだ。戦争は多くの誤算の積み重ねだ。戦っている当事者たちはあらゆるレヴェルで多くの誤算を積み重ねていく。しかし、重要なのは戦略的な判断ミスを戦術レヴェルで挽回するということは困難だということだ(私はこの言葉を『銀河英雄伝説』で覚えた)。政治家の判断ミス、誤算を軍人がいくら奮闘しても挽回することはできないということだ。西側諸国の政治家の大きなミスは最後まで響くことになる。

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プーティンが正しく行ったもの(What Putin Got Right

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/15/putin-right-ukraine-war/

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ侵攻を決定した際に多くのことを誤った。彼はロシア軍の軍事力を過大評価した。ウクライナのナショナリズムの力と、脆弱なウクライナ軍がウクライナを防衛する能力を過小評価した。西側諸国の結束、NATOやその他の諸国がウクライナ支援を決定執行するスピード、エネルギー輸入諸国がロシアに制裁を科し、ロシアからのエネルギー輸出と自国を切り離す意思と能力を見誤ったようだ。プーティンはまた、中国の支援意欲を過大評価していたかもしれない。北京はロシアの石油とガスを大量に購入しているが、モスクワに対して明確な外交的な支援や貴重な軍事援助を提供してはいない。こうした誤りと失敗を全て合わせると、プーティンが表舞台から去った後も長く残るであろう、ロシアにとってマイナスな結果をもたらす決断となってしまったということになる。戦争がどのような結果になろうとも、ロシアはプーティンが別の道を選んだ場合よりも弱体化し、影響力を失うだろう。

しかし、もし私たちが自分自身に対して正直であるならば、そして戦時下においては冷酷なまでに正直であることが必要不可欠であるならば、ロシアの大統領も正しいことをしたと認めるべきである。そのどれもが、開戦の決断やロシアの戦争遂行方法を正当化するものではない。これらの要素を無視することは、彼と同じ過ちを犯すことになる。つまり、相手を過小評価し、状況の重要な要素を読み違えることである。

彼は何を正しく実行したのか?

ジョー・バイデン政権は、「前例のない制裁(unprecedented sanctions)」の脅威がプーティンの侵攻を抑止することを期待し、そしてこの制裁を科すことでプーティンの戦争マシーンの首を絞め、民衆の不満を引き起こし、プーティンを方向転換させることを期待した。プーティンは、われわれがどんな制裁を科そうとも、ロシアはやり過ごすことができると確信して戦争に踏み切った。ロシアの原材料(エネルギーを含む)にはまだ十分な需要があり、GDPはわずかな減少で済んでいる。長期的にはもっと深刻な結果を招くかもしれないが、制裁だけではしばらくの間は紛争の帰趨は決まらないと考えたプーティンの判断は正しかった。

第二に、プーティンは、ロシア国民が高いコストを許容し、軍事的挫折が自身の失脚につながることはないと正しく判断した。プーティンは、戦争が短時間で低いコストに終わることを望んで始めたのかもしれないが、最初の挫折(setbacks)の後でも戦争を続け、最終的には予備兵力を動員して戦い続けるという決断を下したのは、ロシア国民の大半が自分の決断に賛同し、出てきた反対派を抑え込むことができるという彼の信念を反映したものだった。しかし、ロシアは甚大な損失にもかかわらず、またプーティンの権力維持を危うくすることなく、大規模な部隊を維持することができた。もちろん、それが変わる可能性もあるが、これまでのところ、この問題に関してもプーティンが正しいことが証明されている。

第三に、プーティンは、他国が自国の利益に従うこと、そして自分の行動が万国から非難されることはないことを理解していた。ヨーロッパ、アメリカ、その他いくつかの国は鋭く強く反応したが、グローバル・サウス(global south)の主要メンバーや他のいくつかの主要な国(サウジアラビアやイスラエルなど)はそうではなかった。戦争はロシアの世界的なイメージの向上にはつながっていないが(国連総会での戦争非難の票が偏っていたことが示している)、より具体的な反対は世界の一部の国に限られている。

とりわけ重要なのは、ウクライナの運命が西側諸国よりもロシアにとって重要であることをプーティンが理解していたことだ。読者の皆さんに心に留めていただきたいことは、ロシアにとってウクライナの命運は、自国を守るために多大な犠牲を払っているウクライナ人にとっての命運よりも決して重要ではないということだ。しかし、プーティンは、ウクライナの主要な支持者たちよりも、コストとリスクの負担を嫌がらない点で優位に立っている。プーティンが有利なのは、西側の指導者たちが弱虫だからでも、臆病だからでも、屁理屈をこねているからでもない。

このような利害と動機に関わる、根本的な非対称性が、アメリカ、ドイツ、そしてNATOの他の多くの国々が対応を慎重に調整した理由であり、ジョー・バイデン米大統領が最初からアメリカ軍の派遣を否定した理由である。プーティンは、ウクライナの運命には数十万人の軍隊を送り込んで戦わせ、死に至らしめる価値があると考えるかもしれないが、アメリカ国民は息子や娘たちをウクライナに反対させるために送り込むことに同じような気持ちは持っていないし、持つはずもないということを正しく理解していた。ウクライナ人が自国を守るのを助けるために何十億ドルもの援助を送る価値はあるかもしれないが、その目的は、アメリカがアメリカ軍を危険な目に遭わせる、もしくは核戦争の重大なリスクを冒すほど重要なものではない。このような動機の非対称性を踏まえ、私たちはアメリカ軍が直接関与することなくロシアを阻止しようとしている。このアプローチがうまくいくかどうかはまだ明確ではない。

この状況は、ウクライナ人、そして西側で最も声高な支持者たちが、自国の運命を多くの無関係な問題と結びつけるために莫大な労力を費やしている理由にもなっている。彼らに言わせれば、ロシアがクリミアやドンバスのどこかを支配することは、「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」にとって致命的な打撃であり、中国が台湾を掌握することへの誘いとなり、どこの国の独裁者にとっても恩恵となり、民主政治体制の破滅的な失敗であり、核兵器による恐喝は簡単で、プーティンはそれを使って英仏海峡まで軍隊を進軍させることができるというサインだということになる。西側諸国の強硬派は、ウクライナの運命がロシアにとって重要であるのと同様に私たちにとっても重要であるかのように見せるために、このような議論を展開するが、そのような脅しの戦術は、おおざっぱな調査にすら耐えられない。21世紀のこれからの行方は、キエフとモスクワのどちらが現在争っている領土を支配することになるのかによって決まるのではなく、むしろ、どの国が重要な技術を支配するのか、気候変動や他の多くの場所での政治的展開によって決まる。

この非対称性を認識することは、核兵器による威嚇(nuclear threats)が限定的な効果しか持たない理由や、核兵器による恐喝(nuclear blackmail)に対する恐怖が見当違いである理由も説明できる。トーマス・シェリングが何年も前に書いたように、核兵器による応酬(nuclear exchange)は非常に恐ろしいものであるため、核兵器の影の下での交渉は「リスク・テイクの競争(competition in risk taking)」となる。誰も核兵器を1発たりとも使いたくはないが、特定の問題をより重視する側は、特に重要な利害がかかっている場合には、より大きなリスクを冒すことを避けることはないだろう。このような理由から、ロシアが壊滅的な敗北を喫しそうになった場合、核兵器を使用する可能性を完全に否定することはできない。繰り返すが、西側の指導者たちは意志薄弱であったり、臆病であったりするのではなく、賢明で慎重に振舞っているのだ。

これは、私たちが「核兵器による恐喝nuclear blackmail)」に屈していることを意味するのだろうか? プーティンはこのような脅しを使って、別の場所で更なる譲歩を勝ち取ることができるのだろうか? 答えは「ノー」である。なぜなら、プーティンが先に進めば進むほど、動機の非対称性がわれわれに有利に働くからである。ロシアが自国の重要な利害に関わる問題で他国に譲歩を強要しようとしても、その要求は耳に入らないだろう。プーティンがバイデンに電話して、「もしアメリカがアラスカをロシアに返還することを拒否したら、核攻撃を仕掛けるかもしれない」と言ったとしよう。バイデンは笑って、酔いから醒めたらかけ直すように言うだろう。ライヴァルの強圧的な核兵器による威嚇は、決意の均衡(balance of resolve)が私たちに有利な場合には、ほとんど、あるいはまったく通用しない。長い冷戦(long Cold War)の期間中、米ソ両国は、自由に使える膨大な核兵器があったにもかかわらず、非核保有国に対してさえ、核兵器による恐喝を成功させたことはなかったことを思い出すことには価値がある。

しかしながら、この状況が変化する可能性がある方法が1つあり、それは安心できる考えではない。アメリカとNATOがウクライナに提供する援助、武器、諜報、外交支援が増えれば増えるほど、その評判が結果に結びつくようになる。これが、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領とウクライナ人がますます洗練された形態の支援を要求し続ける理由の1つである。西側諸国を自分たちの運命にできるだけ密接に結びつけることが彼らの利益になる。ちなみに、私はこのことで彼らを少しも責めない。私が彼らの立場だったらそうするだろう。

風評被害は誇張されがちだが、重大な物質的利益が危機にさらされていなくても、そうした懸念が戦争を継続させることがある。1969年、ヘンリー・キッシンジャーは、ヴェトナムがアメリカにとって戦略的価値が低く、勝利への道筋が見えないことを理解していた。しかし彼は、「50万人のアメリカ人のコミットメント(関与)によって、ヴェトナムの重要性は決着した。今必要なのは、アメリカの約束に対する信頼なのだ」と述べた。その信念に基づき、彼とリチャード・ニクソン大統領は、「名誉ある平和(peace with honor)」を求めて、さらに4年間もアメリカの参戦を続けた。ウクライナにエイブラムス戦車やF-16を送るのも同じ教訓からとなるだろう。武器が増えれば増えるほど、私たちはより献身的になる。残念なことに、両陣営が自らの死活的利益には相手に決定的な敗北を与えることが必要だと考え始めると、戦争を終わらせることは難しくなり、エスカレートする可能性が高くなる。

繰り返すと次のようになる。プーティンが戦争を始めたのは正しかったとか、NATOがウクライナを助けるのは間違っているとか、そういうことを示唆するものではない。しかし、プーティンは全てにおいて間違った訳ではない。プーティンが正しかったことを認識することが、ウクライナとその支持者が今後数カ月をどのように過ごすかを決めるはずだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 ヘンリー・キッシンジャーは今年初めから、「ウクライナのNATO加盟を容認」という主張を行っている。キッシンジャーをはじめ、リアリスト系の人々はウクライナのNATO加盟に長く反対してきたので、キッシンジャーの容認姿勢は驚きをもって迎えられた。しかし、キッシンジャーの主張をよくよく吟味してみると、リアリストの原理原則から導き出された内容であることが良く分かる。
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 キッシンジャーがウクライナのNATO加盟に反対していたのは、ウクライナがNATOに加盟すると、NATOの後ろ盾を受けて、ロシアと事を構える、ロシアと戦争を起こす危険があった、ロシア側からすれば、脅威が一気に増大する、ロシア側もウクライナを自陣営に「取り戻す」ために事を構えるという事態が考えられたからだ。
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 実際には、ウクライナをNATO(特にアメリカ)が手厚く支援し、急激に武力を増強した。結果として、ロシア側は危機感を強め、ウクライナに対して侵攻するということになった。ウクライナはNATO加盟を悲願として、10年以上にわたり、加盟申請を行いながら、NATOはウクライナの加盟を認めてこなかった。しかし、ウクライナに対する支援を強め、「正式にメンバーにしている訳ではありませんよ」という建前を主張しながら、対ロシア姿勢を強硬なものとし、実質的にウクライナをメンバーとして扱っていた。

 戦争が起きてしまった以上、前提は変わった。そのため、キッシンジャーは、一転して、ウクライナのNATO加盟を容認することになった。その理由は、「軍事力を高めたウクライナを単独で行動させないために、枠にはめる、タガをはめるためにウクライナをNATOの中に入れる」ということだ。ウクライナは現在、西側諸国(the West)の手厚い支援を受けて、ロシア軍と交戦中だ。今回の戦争の前、ウクライナ軍は脆弱で、ロシア軍はすぐにキエフを奪えると見られていた。しかし、ウクライナ軍は西側の武器と最新テクノロジーによる情報奪取に成功し、ロシア軍を退かせた。ロシア軍はウクライナ東部を奪取し、現在、それら地域を守っている。ウクライナ軍は大攻勢をかけていると報道されているが、大きな戦果は挙げていない。しかし、シリア内線にも参加し、精強なロシア軍に対して、西側の支援はありながらも1年以上、戦争を継続できているウクライナ軍は周辺国の軍隊よりも確実に強化されている。ウクライナは精強な軍隊を持つ大国ということになる。そのような「変な自信」を持つと、何をしでかすか分からない。そのために、ウクライナにタガをはめるということが必要なのだ。

 また、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパに軍事力を持つ大国が出てくることは、地域のこれまでの均衡(equilibrium)、バランス(balance)を崩すことになる。ここで問題になるのは、ポーランドである。ポーランドは歴史上、2度亡国の憂き目にあっているが、保湿的に拡大志向、大国志向国家であり、ポーランドの蠢動はヨーロッパを不安定化させる。ポーランドはリトアニアと共和国を形成していた時代にウクライナの大部分を支配していた時代もある。ウクライナ西部にはユニエイトと呼ばれるローマ法王を崇めるカトリック系の宗教グループがあり。ポーランドのとの親和性が高く、ポーランドがウクライナ西部を併合するという話もあった。ポーランドがウクライナと組んで、ロシアに対して攻撃を仕掛けるという可能性もある。このような状況から、ウクライナをNATOに入れて、ポーランドと共に、しっかり監視して軽挙妄動をさせないということが重要だ。そして、ヨーロッパにおけるパワーバランス、力の均衡を構築し、紛争を未然に防ぐというリアリズムの原理に基づいた戦後処理が必要ということになる。キッシンジャーの慧眼には恐れ入るばかりだ。

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再びの世界大戦を避ける方法(How to avoid another world war

ヘンリー・キッシンジャー筆

2022年12月17日

『スペクテイター』誌

https://www.spectator.co.uk/article/the-push-for-peace/

第一次世界大戦は、ヨーロッパの名声を失墜させた一種の文化的自殺(cultural suicide)であった。ヨーロッパの指導者たちは、歴史家クリストファー・クラークの言葉を借りれば、夢遊病(sleepwalk)のように、1918年の終戦時の世界を予見していたならば、誰も参戦しなかったであろう紛争に突入した。それまでの数十年間、ヨーロッパ諸国は2つの同盟を形成して対立し、その戦略はそれぞれの動員スケジュールによって結びついていた。その結果、1914年、ボスニアのサラエヴォでオーストリア皇太子がセルビア人の民族主義者によって殺害された事件は、ドイツがヨーロッパの反対側にある中立国ベルギーを攻撃してフランスを敗北させるという全目的に適う計画(all-purpose plan)を実行したことから始まった戦争へとエスカレートしていった。

ヨーロッパの国々は、テクノロジーがそれぞれの軍事力をいかに強化したかを十分に理解していなかったため、互いに前例のない壊滅的な打撃を与え合った。1916年8月、2年間の戦争と数百万人の死傷者を出した後、西側の主要戦闘参加国(イギリス、フランス、ドイツ)は、殺戮を終わらせるための展望を探り始めた。東側では、ライヴァルのオーストリアとロシアが同等の働きかけを行っていた(feelers)。既に被った犠牲を正当化できるような妥協案はなく、また誰も弱気な印象を与えたくなかったため、各指導者は正式な和平プロセスを開始することを躊躇した。そこで彼らはアメリカの仲介(mediation)を求めた。ウッドロウ・ウィルソン大統領の個人的な使者であったエドワード・ハウス大佐の尽力によって、修正された現状維持に基づく和平(a peace based on the modified status quo ante)が手の届くところにあることが明らかになった。しかし、ウィルソンは調停に乗り出し、最終的には熱望したものの、11月の大統領選挙が終わるまで延期した。その頃には、イギリスのソンム攻勢とドイツのヴェルダン攻勢によって、更に200万人の死傷者が出ていた。

フィリップ・ゼリコウによるこのテーマに関する本の言葉を借りれば、あまり踏み固められていない道(the road less travelled)となったのである。第一次世界大戦は更に2年続き、何百万人もの犠牲者を出し、ヨーロッパの既存均衡(Europe’s established equilibrium)は取り返しのつかないほど損なわれた。ドイツとロシアは革命によって引き裂かれ、オーストリア・ハンガリー帝国は地図上から姿を消した。フランスは白骨化(bled white)した。イギリスは勝利のために、若い世代と経済力のかなりの部分を犠牲にした。戦争を終結させた懲罰的なヴェルサイユ条約は、それが取って代わった構造よりもはるかに脆いものであることが証明された。

冬が大規模な軍事作戦の一時停止を迫る中で、世界は今日、ウクライナにおける転換点を迎えているのだろうか? 私は、ウクライナにおけるロシアの侵略を阻止するための同盟諸国の軍事的努力に対する支持を繰り返し表明してきた。しかし、既に達成された戦略的変化を土台とし、交渉による和平の実現に向けた新たな構造へと統合する時が近づいている。

ウクライナは、近代史上初めて中央ヨーロッパにおける主要国(major state)となった。同盟諸国に助けられ、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に鼓舞されたウクライナは、第二次世界大戦以来ヨーロッパを覆ってきたロシアの通常戦力(conventional forces)を阻止した。中国を含む国際システムは、ロシアの脅威や核兵器使用に対峙している。

このプロセスは、ウクライナのナNATO加盟に関する当初の問題を根底から覆した。ウクライナは、アメリカとその同盟諸国によって装備された、ヨーロッパで最大かつ最も効果的な陸軍の一つを保持している。和平プロセスは、ウクライナとNATOをつなげるべきである。特にフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟した後では、中立(neutrality)という選択肢はもはや意味がない。だからこそ私は2022年5月、2022年2月24日に戦争が始まった国境線に沿って停戦ライン(ceasefire line)を設定することを提案した。ロシアはそこから征服を放棄するが、クリミアを含む10年近く前に占領した領土は放棄しない。その領土は停戦後の交渉の対象となりうる。

戦前のウクライナとロシアの分断線(dividing line)が、戦闘によっても交渉によっても達成できない場合は、自決の原則(principle of self-determination)に頼ることも考えられる。自決に関する国際的な監督下にある住民投票(referendums)は、何世紀にもわたって何度も政権が交代してきた特に分裂の多い地域に適用される可能性がある。

和平プロセスの目的は2つある。ウクライナの自由を確認することと、新しい国際構造、特に中央・東ヨーロッパの構造を定義することである。最終的にロシアは、そのような秩序の中に居場所を見つけることになる。

戦争によって無力になったロシアが望ましいと考える人もいる。私はそうは思わない。ロシアはその暴力的な傾向の割には、半世紀以上にわたって世界の均衡(global equilibrium)とパワーバランス(balance of power)に決定的な貢献をしてきた。その歴史的役割を低下させてはならない。ロシアの軍事的後退は、ウクライナでのエスカレーションを脅かすことができる世界的な核兵器の存在を消去するものではない。たとえ核兵器能力が低下したとしても、ロシアが解体したり、戦略的な政策能力が失われたりすれば、11の時間帯にまたがる領土が争いの絶えない空白地帯と化す可能性がある。競合する社会が暴力によって紛争を解決することになるかもしれない。他国が武力で領有権を拡大しようとするかもしれない。これら全ての危険は、ロシアを世界2大核保有国の地位に押し上げている、数千発の核兵器の存在によって、更に深刻化するだろう。

世界の指導者たちは、2つの核保有国が通常兵器で武装した国と争う戦争を終わらせるために努力する一方で、この紛争や長期的な戦略に影響を与えつつあるハイテクや人工知能の影響についても考えるべきである。自動自律兵器(auto-nomous weapons)は既に存在し、脅威を定義し、評価し、標的とすることができる。

この領域への一線を越え、ハイテクが標準的な兵器となり、コンピュータが戦略の主要な実行者となれば、世界はまだ確立された概念(established concept)のない状態に陥るだろう。コンピュータが、人間の意見を本質的に制限し、脅かすような規模や方法で戦略的指示を出す時、指導者はどのように統制することができるだろうか? このような相反する情報、認識、破壊的能力の渦の中で、文明はどのようにして維持可能となるだろうか?

この緊迫しつつある世界についての理論はまだ存在せず、この問題に関する協議の取り組みはまだ発展していない。おそらく、有意義な交渉によって新たな発見が明らかになる可能性があるが、その開示自体が将来のリスクとなるためだろう。先進技術とそれを制御するための戦略の概念との間の乖離を克服すること、あるいはその影響を完全に理解することは、気候変動と同じくらい今日重要な問題であり、テクノロジーと歴史の両方を把握できる指導者が必要である。

平和と秩序の追求は、時に矛盾するように扱われる2つの要素を持つ。安全保障の要素の追求と和解(reconciliation)行為の要求である。その両方を達成できなければ、どちらにも到達することはできない。外交の道は複雑で苛立たしく見えるかもしれない。しかし、その道を進むには、ヴィジョンと勇気の両方が必要なのである。

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キッシンジャー:ウクライナに単独で勝手な行動をさせないためにウクライナをNATOに加盟させる(Kissinger: Bring Ukraine into NATO to stop them from acting alone

デイヴィッド・P・ゴールドマン筆
2023年5月25日

『アジア・タイムズ』紙

https://asiatimes.com/2023/05/kissinger-bring-ukraine-into-nato-to-stop-them-from-acting-alone/

西洋のメディアの報道は、キッシンジャーがウクライナのNATO加盟を支持したことを見逃している。以下は、彼が『エコノミスト』誌に語った内容である。

ヘンリー・キッシンジャー:ウラジーミル・プーティンにとって、ウクライナのNATO加盟は強迫観念(obsession)だった。だから今、私は人々が「彼は考えを変えた、今はウクライナのNATOへの完全加盟に賛成している」という奇妙な立場にいる。一つは、ロシアはもはやかつてのような、通常の脅威となる存在ではない。だから、ロシアの挑戦は別の文脈で考えるべきだ。そして二つ目には、ウクライナがヨーロッパで最も武装した国であり、加えてヨーロッパで最も戦略的経験の乏しい指導者が率いている状態で、私たちはウクライナを武装してしまったということだ。おそらくそうなるであろうが、戦争が終結し、ロシアが多くの利益を失いながらもセヴァストポリは保持することということになっても、ロシアに不満が出るかもしれない。しかし同時にウクライナにも不満が出るかもしれない。

つまり、ヨーロッパの安全のためには、ウクライナをNATOに参加させ、領土問題について国家的な決定を下せないようにした方がよいということになる。

『エコノミスト』誌:つまり、ウクライナをNATOに加盟させるというあなたの主張は、ウクライナの防衛に関する主張というよりも、ウクライナがヨーロッパにもたらすリスクを減らすための主張ということか?

ヘンリー・キッシンジャー:私たちはウクライナを防衛する能力を証明した。ヨーロッパ諸国が今言っていることは、私から見れば、非常に危険なことだ。なぜなら、ヨーロッパ諸国はこう言っているからだ。「私たちは彼らをNATOに入れることを望まない。何故なら彼らの加盟はリスクが高すぎるからだ。従って、私たちは彼らを武装させ、最新鋭の武器を与えるようにする」。このようなやり方を機能させるにはどうしたらよいだろうか? 間違った方法で戦争を終わらせるべきではない。その結果があり得るものだと仮定すれば、それは2022年2月24日以前に存在した現状維持の線上のどこかということになるだろう。ウクライナがヨーロッパに保護され続け、自国のことだけを考える孤独な(単独行動を行う)国家にならないような結果であるべきだ。

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キッシンジャーがウクライナのNATO加盟を支持(Kissinger Backs Ukraine's NATO Bid

ブレット・フォーレスト筆

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

2023年1月20日

https://www.wsj.com/livecoverage/davos2023/card/kissinger-backs-ukraine-s-nato-bid-TEbEBq5ulGr0dBS9sPTZ

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は、ウクライナの北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)加盟を主張した。

キッシンジャーはスイスのダヴォスで開催中の世界経済フォーラム(World Economic ForumWEF)の会議にリモートで出演し次のように述べた。「この戦争が起こる前、私はウクライナのNATO加盟に反対していた。なぜなら、ウクライナのNATO加盟によって、まさに今私たちが目にしているようなプロセスが始まることを恐れていたからだ。現状のような状況下で中立のウクライナ(neutral Ukraine)という考えはもはや意味がない。私は、ウクライナのNATO加盟が適切な結果(appropriate outcome)になると信じている」。

ウクライナは2022年9月にNATO加盟申請を行った。

キッシンジャーの発言は、先月『スペクテイター』誌に寄稿した記事の中で、侵攻前の接触線に沿ってロシア・ウクライナ戦争の停戦を確立するよう主張した内容と重なる。

キッシンジャーは火曜日、戦争を終結させる計画について、このような戦闘の停止は「軍事行動の合理的な結果であり、後の和平交渉の結果とは限らない」と述べた。

ロシアもウクライナも交渉開始について特に熱意を示していない。モスクワは、ウクライナがロシアの領土獲得を承認することを交渉の前提条件としているが、キエフは、意味のある交渉を始める前に、ロシア軍がクリミア半島と他の全てのウクライナの土地を放棄することを要求している。

キッシンジャーは、短期的な交渉が「戦争がロシアそのものに対する戦争にならないようにするだろう」と述べた。ロシアが大量の核兵器を保有していることを踏まえ、ロシア国内の不安定を引き起こすようなことがないように警告を発した。「交渉はモスクワに“国際システムに復帰する機会”を与えるだろう」とも述べた。

99歳のキッシンジャーは、1970年代に米国務長官としてソ連との冷戦の緊張緩和(Cold War détente)の確立に尽力した。

キッシンジャーは次のように述べた。「私は、戦争が続いている間もロシアと対話し、戦前の路線に達すれば戦闘は終結すると信じている。戦前の線で停戦することは、開戦時に存在した問題を超えて新たに深刻な問題を提起し、軍事衝突の継続の対象とすることで、戦争がエスカレートするのを防ぐ方法だと信じている」。

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ヘンリー・キッシンジャー、ウクライナのNATO加盟反対を撤回(Henry Kissinger Reverses Opposition to Ukraine’s NATO-Membership Bid

ジミー・クイン筆

2023年1月18日

『ナショナル・レヴュー』誌

https://www.nationalreview.com/corner/henry-kissinger-reverses-opposition-to-ukraines-nato-membership-bid/

今週スイスで開催された世界経済フォーラムの聴衆を前にして、ヘンリー・キッシンジャーは、ウクライナのNATO加盟はロシア侵攻の「適切な結果(appropriate outcome)」になる可能性があると述べた。

リモートでパネルディスカッションに出席した99歳のキッシンジャーは、ロシアは内部崩壊(internal collapse)による危機を回避するために、紛争後に国際社会への復帰を認められなければならないと説明した。CNBCによると、キッシンジャーは「独自の政策を追求できる国家としてのロシアを破壊することは、その領土に1万5000発以上の核兵器が存在する今、11の時間帯からなる広大な地域を内部紛争や外部からの介入の機会を開放することになる」と発言した。

キッシンジャーは以前、ウクライナがロシア軍に攻撃され、占領された領土を割譲することを条件とする、交渉による戦争解決を求めていた。キッシンジャーがその姿勢を翻したという兆候はないが、ウクライナのNATO加盟に関する彼のコメントは、重要な撤回を意味する。

キッシンジャーは次のように述べた「戦前、私はウクライナのNATO加盟に反対していた。NATO加盟は、まさに今私たちが目にしているようなプロセスを始めることになると危惧していたからだ。現状のような状況下で中立的なウクライナという考えはもはや意味がない。私は、ウクライナのNATO加盟が適切な結果になると信じている」。

NATOは10年以上にわたり、ウクライナはいずれ集団安全保障同盟(collective-security alliance)であるNATOに加盟する可能性があると述べてきたが、加盟を早めるための具体的な措置をとることは拒否してきた。

ロシアが侵攻を開始する3カ月前、ウクライナ政府高官ロマン・マショベツは、加盟を認めて欲しいというキエフの長年の要望を繰り返した。マショベツは2021年11月にナショナル・レヴュー誌のインタヴューに対して次のように語った。「プーティンはウクライナのNATO加盟にショックを受けるだろう。ウクライナがNATOに加盟すれば、彼はウクライナに対して、ハイブリッド、非通常的、通常型、非対称など、あらゆる戦争の形態を私たちに仕掛けることはできないだろう」。

フィンランドのサナ・マリン首相もダヴォス会議で同様の発言をし、ウクライナがNATOに加盟していればロシアは攻撃しなかっただろうと聴衆に語った。また、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟国の承認を求め続けており、同盟に参加する「準備は十分にできている」とも述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 ヘンリー・キッシンジャーは100歳となった。キッシンジャーが国家安全保障問題担当大統領補佐官、米国務長官を務めてから半世紀ほどが経つ。この50年ほどはコンサルタントというか、ネットワーカーとして活躍し、世界各国の最高首脳たちに具体的な指針を与えている。現在も移動は車椅子であるが、世界各地を飛び回っている。最近では日本を訪問し、岸田文雄首相とも会談している。
henrykissinger101

 「キッシンジャーなんてまだ生きているの?」「過去の人でしょ?」「もうそんなに影響力なんてないでしょ」ということを言う人は多い。そして、下の論稿の著者であるスティーヴン・M・ウォルトも「どうしてそんなに評価されるのだろうか」という疑問を持っているようだ。ウォルトに言わせれば、キッシンジャーのキャリアには、学者、政府高官、コンサルタントの3つの場面があるが、学者としての業績(新しい考えや理論の提示)は中途半端で終わり、国家安全保障問題担当大統領補佐官や国務長官としての業績は確かにあるが、失敗もある。政府を離れてからのコンサルタント(キッシンジャー・アソシエイツ創設)からの方が50年ほどと最も長いキャリアであるが、政策提言など敗退したことはない、という評価になる。

 キッシンジャーの業績は「裏側(behind the scene)」でこそ発揮される。だから、表に出てくる内容だけで判断するのは、正確な判断ではない。彼の一挙一投足が報道されることはないが、漏れ伝わる動きは世界政治の勘所を抑えている。肝心な場所(ツボ、経絡)に適宜鍼を打つ鍼灸医のようなものだ。東洋医学のように、じんわりと効果が出てくる。それが現在の世界の状況だ。米中関係、米露関係が危険をはらみつつも、最終的な手切れまで進まないのはキッシンジャーの手当てがあるからだ。彼の米国内、海外に張り巡らせた人脈のおかげだ。

 キッシンジャーの抱える弱点は、彼の同程度の力を持つ後任者がいないことだ。キッシンジャーも人間であり、いつかは亡くなる。彼亡き後に誰がキッシンジャーと同じ役割を果たせるだろうか。管見ながら、私には彼の後任となり得る人物は思いつかない。そうなれば、大きく言えば、リアリズム側の力が弱まり、ネオコン(共和党)と人道的介入主義派(民主党)の力が大きくなる。目の上のたんこぶがいなくなり、これら2つの勢力が伸長することで、世界は大規模戦争の危機に直面する。その準備は進められている。NATOのアジアへの伸長はその一例だ。

 キッシンジャーをただの学者やコンサルタントと侮るのは間違いだ。また、「キッシンジャーは日本が嫌いなんでしょ」と訳知り顔に言うのも浅薄な態度である。キッシンジャーはそのような低次元の存在ではない。そもそも日本など世界から相手にされていないのだ。老人ばかりになって、金がなくなっていく日本にどれだけの価値があるのか。せいぜい中国の沿岸にべたっと張り付く空母、基地といったところだ。国際ゲームのプレイヤーではなく、コマ程度の存在だ。そういう認識を持って世界を眺めて、初めてキッシンジャーの凄さが少し分かるようになる。

(貼り付けはじめ)

ヘンリー・キッシンジャーの評判の不思議に関する問題を解決(Solving the Mystery of Henry Kissinger’s Reputation

-元米国務長官は天才だ、しかしそれは読者の皆さん方が考えるような形ではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/06/09/henry-kissinger-birthday-reputation-foreign-policy/

ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官に関して、この1ヵ月間、ニューヨーク経済クラブやニューヨーク公共図書館でのプライヴェートイヴェントなど、何度も100歳の誕生日のお祝いが開かれ、多くのVIPが出席している。この光景は、キッシンジャー独自のステータスを雄弁に物語るものだ。外交官のディーン・アチソン、ジョージ・ケナン、ジョージ・シュルツはもちろん、生きている間にこれほどの扱いを受けた政治家はほとんどいない。歴代大統領もそうだ。

キッシンジャーについて考える際、誰でも認めることであるが、彼は驚くべき人生を歩んできた。ナチス・ドイツからの難民でありながら、やがてアメリカで権力の頂点に立ち、70年近くもアメリカの外交政策に大きな影響を与え続けてきた。1世紀の時を経て、キッシンジャーはアメリカが生んだ最も偉大な戦略的思想家であると称賛されるようになった。彼の名前は、外交問題評議会や議会図書館のフェローシップ、いくつかの大学の寄付講座や研究センター、そして彼の名を冠したコンサルティング会社にも刻まれている。101歳を迎えてなお、これほどまでに世間の注目を集める人物は他にいない。

しかし、キッシンジャーの素晴らしい人生の中心には、難問がある。 キッシンジャーは、現在、独特の深みと知恵と洞察力を備えた外交政策思想家として常に賞賛されているが、その長いキャリアは、彼の崇拝者たちが考えているほど印象的なものではないように見える。キッシンジャーが恐るべき知性と卓越した業績を持つ人物であることは、彼の最も厳しい批判者たちでさえ認めるところであるが、問題は、1世紀を経て得た評価が十分に正当化されるかどうかである。

これが「キッシンジャーの難問(Kissinger conundrum)」である。なぜ、キッシンジャーは畏敬の念を持たれ、彼自身が世界情勢を掌握し、他の誰よりも優れているかのように扱われるのだろうか?

この謎を理解するためには、キッシンジャーの職業上のキャリアを3つのセクションに分けることが有効である。第1段階は、ハーヴァード大学で1954年から1969年まで教鞭を執った研究者としてのキャリアである。第2段階は、リチャード・ニクソン大統領(当時)の国家安全保障問題担当大統領特別補佐官、ニクソンとニクソンの後継者ジェラルド・フォードの国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官として、政府で活躍したキャリアである。第3段階は、著者、評論家、有識者としてのキャリアであり、その多くは、政府を離れた後に設立したコンサルティング会社キッシンジャー・アソシエイツの代表として行われたものである。

キッシンジャーは、ハーヴァード大学の学者として、数冊の本と多くの論文を発表し、ネルソン・ロックフェラーや外交問題評議会(CFR)との長いつきあいを開始した。いくつかの著書は広く注目されたが、結局、この時期の彼の学問への貢献は大きなものではなかった。彼の初期の著作はどれも古典という評価に値するものではなく、今日、学者たちに広く読まれ、議論されているものもほとんどない。ハンス・モーゲンソーやケネス・ウォルツのようなリアリストの著作は、国際関係の学術的研究に今なお長い影響を与えているが、キッシンジャーの学術的著作(最初の主著『回復された世界平和(A World Restored)』を含む)は、そうではない。キッシンジャーは核兵器についても多くの著作を残したが(1957年にベストセラーとなった『核兵器と外交政策(Nuclear Weapons and Foreign Policy)』を含む)、グレン・スナイダー、バーナード・ブロディ、アルバート・ウオルシュテッター、トーマス・シェリングの著作は、キッシンジャーの著作よりも核戦略の進化にはるかに大きな影響を与えた。キッシンジャーが後に出版した『選択の必要性(The Necessity for Choice)』(1961年)は評判が良くなく、ナイオール・ファーガソンのようにキッシンジャーに同情的な伝記作家でさえ、NATOに関する後の本『二国間の歪んだ関係――大西洋同盟の諸問題(The Troubled Partnership)』(1965年)は急いで書いたもので、すぐに時代遅れになったと認めている。

確かに、キッシンジャーが学問の世界に力を注いでいれば、もっと大きな影響を与えることができたかもしれない。キッシンジャーは、ウィーン会議でのヨーロッパ秩序の再構築を考察した『回復された世界平和』から続く、世界秩序に関する三部作を書くつもりであったことが現在分かっている。しかし、キッシンジャーは現実の政策課題に取り組むようになり、三部作の完成には至らなかった。そして、アメリカのヴェトナム政策を深く掘り下げるなど、こうした活動が、やがて1968年の政権発足につながった。しかし、事実は変わらない。 学者としてだけ見れば、キッシンジャーは学術界の神殿の一員ではない。

キッシンジャーが国家安全保障問題担当大統領補佐官や国務長官として残した記録は、常に論争の的となっている。中国への開放(国交回復)、ソ連との重要な軍備管理協定の交渉、繰り返されるアラブ・イスラエル紛争への対応など、注目すべき業績もある。しかし、これらの成果は、ヴェトナム戦争への支持と、戦争に勝てないという認識にもかかわらず、その長期化に直接関与したこととのバランスを取る必要がある。ニクソンとキッシンジャーはまた、戦争をカンボジアに拡大することを選択し、知らず知らずのうちにクメール・ルージュの大量虐殺支配への扉を開いてしまった。キッシンジャーがチリで起こしたピノチェトの軍事クーデターを支援したことや、1971年のインド・パキスタン戦争への対応についても、厳しい評価を下す価値がある。

これらの出来事(およびその他多くの出来事)をどのように評価するかについては、合理的な人々の間で意見が分かれるところであろう。しかし、キッシンジャーの政治家としての功績が、ディーン・アチソン(第51代国務長官)やジョージ・シュルツ(第60代国務長官)、あるいはハワード・ベイカー(第61代国務長官)の功績をはるかに凌ぐものであると評価することは難しい。これは、キッシンジャーの業績を否定するものではない。就任後の行動が彼を卓越した政治家という評価を得させるものではないことを認めているに過ぎない。

ここからは第3段階についてだ。キッシンジャーは、企業や政府、そして一般市民に対して戦略的な助言を提供するというキャリアで長い経験を持ち、重厚な書籍や新聞コラム、その他様々な形で、めまぐるしい活動をしてきた。キッシンジャーの長いキャリアを振り返って、その実績はどうだろうか?

悪くはないが、あなたが思っているほどでもない。まず、キッシンジャーは政府を去ってから多くの本を出版しているが、3冊の回顧録(邦題は『キッシンジャー秘録1-5』。『ホワイトハウス時代』『激動の時代』『再生の時代』)を除けば、どれも画期的なものではなく、学問への貢献度が特に高いものではない。最も野心的な『外交』(1995年)と『世界秩序』(2014年)は、それぞれのテーマについて長大かつ博識に考察しているが、いずれも斬新な理論的見方や挑発的で新しい歴史解釈は示していない。これに対して、キッシンジャーの回顧録は、アメリカの上級政治家が書いた個人的な記述としては最高のものであり、重要な業績であると私は考えている。アチソンの『アチソン回顧録』(『天地創造[Present at the Creation]』)だけが、それに近い。他の回顧録と同様、著者が在任中に行ったことを強力に擁護しているため、懐疑的な目で読まなければならない。しかし、世界最強の国の外交官であり戦略家である著者が、膨大な不確実性の中で、矛盾する圧力と優先順位をリアルタイムで調整しながら、どのような仕事をしていたかを、間近で見ることができるのである。また、巧みな人物描写と力強いドラマ性に満ちた、魅力的な作品となっている。

キッシンジャーの他の活動についてはどうだろうか? マット・ダスが最近指摘したように、キッシンジャーは、政府機関での勤務を、政府機関から退任後に有利なキャリアに転換させる技術を、発明し、確かに完成させたのである。 キッシンジャー・アソシエイツは、コーエン・グループ、オルブライト・ストーンブリッジ・グループ、ライス、ハドレー、ゲイツ&マニュエル、ウエストエグゼック・アドバイザーズなど、元政府高官の名前、見識、コネを多種多様な(通常は正体不明の)クライアントに提供する会社の家内工業(cottage industry)の手本となったのである。ジョージ・マーシャルのような公僕が、公の奉仕(および他者の犠牲)から利益を得ることは不適切だと考え、自分のキャリアを現金化するための儲け話を断ったが、そんな時代はとっくに終わっており、キッシンジャーはその倫理観を損なうようなことを誰よりもした。特に、これらの元高官が外交政策に関する公的な議論に積極的に参加し続け、場合によっては再び政府に戻る場合、利益相反の可能性は明らかである。問題は、彼らの公的な立場が、私的な収入を強化する(あるいは少なくとも保護する)ことを意図していたかどうかを知ることができないことである。

更に言えば、キッシンジャーは、彼が政府の職から退任して以来、私たちが直面している最大の戦略的問題のいくつかについて、ひどく間違っていた。例えば、彼はNATOの拡大を早くから支持していたが、この決定は、他のオブザーヴァーが、ヨーロッパの永続的な平和ではなく、ロシアとの直接的な衝突をもたらすと正しく予見したものである。また、キッシンジャーは2003年のイラク侵攻を支持したが、これはアメリカ史上最大の戦略的失敗の1つであることは間違いなく、2015年のイランとの核合意には反対した。そして、キッシンジャーは、関与政策によって中国の台頭を助けると、強力なライヴァルの出現を早めることになることを予見できなかった。この盲点が、2011年に出版された『中国――キッシンジャー回想録』が、明らかに両極端な結論に達した理由の一因かもしれない。

キッシンジャーが全てにおいて間違っていたと言っているのではない。現代の出来事を分析するのは難しいことであり、全てを正しく理解する人はいない。私が言いたいのは、評論家としての彼の実績は、日常的に世界情勢を論じる他の人々よりも明らかに優れている訳ではないのに、なぜ多くの人々が彼をアメリカの偉大な戦略家として称賛するのかが理解しがたい、ということだ。

従って、謎は次のようになる。誇大宣伝を無視すると、キッシンジャーは生産的で有名であり続けてきたが、最終的にはそれほど影響力のある学者ではなかった。実際の成功と憂慮すべき失敗の両方を経験した政策立案者である。そして、現代の政策問題のアナリストでもあるが、その実績は他の人よりも際立ったものではない。それでは、彼が今日享受している高い評判についてどのように説明されるだろうか?

その答えの一つは、もちろん、彼が長寿であることだ。もしキッシンジャーが70歳代後半、あるいは80歳代半ばでこの世を去っていたら、その死は多くの人々の注目を集め、アメリカ外交史における彼の地位は揺るぎないものになっただろう。しかし、現在のような象徴的な地位は得られなかっただろう。最後の1人ということは、批評家やライヴァルがほとんどいなくなり、時間の経過によって過去の罪の記憶が曖昧になり、信奉者たちが彼の評判を高める時間が長くなることを意味する。

100点満点の答えには、この説明は間違いなく役に立つが、謎に答えるには、それ以上のことが必要となる。

私は本当の理由は極めて単純だと考えている。キッシンジャーほど、影響力と名声を獲得し、維持するために、これまで、そしてこれからも、より長く努力した人はいないだろう。私はこれまで、驚くほど意欲的で野心的な人物を数多く知っているし、他の人物についてもたくさん本を読んできた。キッシンジャーはそのどれにも当てはまらない。キッシンジャーに関する多くの伝記を何気なく読んだだけでも、その野心が桁外れであること、集中力が抜群で仕事の邪魔をするような趣味がないこと、そしておそらく現代世界がこれまでに見たことのないような偉大なネットワーカーであったことが分かる。彼は、自分の役に立つかもしれない人との間にある橋を焼き切ることはしなかったし、明らかにコンセンサスから外れた立場を取ることもなく、新しい人脈を築く機会を逃すこともなく、侮辱を忘れることもなく、十分にやったと結論づけることもなかった。分かりやすく言えば、キッシンジャーは、他の誰よりも働き、魅力的で、巧みで、人々を出し抜いてきたのだ。そして、何よりも驚くべきことに、彼は今なおその歩みを止めない。

キッシンジャーはまた、影響力が自己強化されることも理解していた。あなたが十分に有名であれば、他の人々は、批判的であるよりも、支持的であり、融和的である方が、より多くの利益を得られると結論付けるだろう。キッシンジャーを追いかけることは、ジャーナリストや大学教授など、広い視野を持たない人であれば、まったく問題ないかもしれないが、外交政策の中枢で大成したいのであれば、賢い戦略とはいえない。彼は既に多くの友人やコネクションを持っていた。彼が大きくなればなるほど、野心的な政策担当者は彼の知恵を疑うよりも、彼の寵愛を求めることを選ぶだろう。

このような大きな野望は計画を狂わせることもあるだろうし、少し怖い気もするが、賞賛に値するものもある。そして、巨大な野望を持つ人々全員がキッシンジャーのようにやれる訳ではない。しかし、キッシンジャーが今受けている賞賛を額面通りに受け取る、もしくは判断に迷った瞬間に目を向けないということをしてはいけない。彼が死ぬなどと言うことは考え難いことだが、完全に無謬であるとは言い難い。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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