古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 本の紹介

 古村治彦です。

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界hongkongmap001

 2019年7月29日の昼過ぎに香港に向かった。香港では香港島西部にある地下鉄の西営盤駅近くのホテルに投宿した。何となくだが深圳から香港に移ると少しホッとするところがある。ホテルにはスマホが置かれており、ご自由にお使いください、とあった。このスマホを使ってもいいし、自分のスマホのためのwi-fiにも使えた。
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 香港では通常の観光もそこそこにデモが行われていた場所に向かった。香港島の中心部にある中環(Central、セントラル)から金鐘(Admiralty、アドミラルティ)にかけては金融街で世界各国の銀行や証券会社が支社を置いている。従って、欧米からの駐在員たちも多くおり、デモ隊はここを中心にしてデモをしていた。香港大学からも地下鉄ですぐに行けるということも利点であり、世界各国のメディアに注目を集めることができるという計算もあったようだ。また、香港の立法院や中国人民解放軍の本部も置かれている。
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立法院
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中国人民解放軍本部
 私たちが香港に滞在した7月末の段階では、デモが過激化する前
で、まだまだ落ち着いていた。ただ、街のあちこちに8月5日にジェネラル・ストライキを行おうという呼びかけのポスターやチラシが貼ってあった。デモがこれから過激化していくだろうと考えられた。
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上から読んでも横から読んでも香港と加油(頑張れ)

 ホテルでシンガポールのテレビ局のニュースを見ていたら(英語での放送なので分かりやすい)、香港の地下鉄でのデモ隊と警察の衝突について放映されていた。地下鉄が動かない、プラットフォームには乗客があふれかえっていた。市民へのインタヴューで、ある男性は本を片手に「今日は本を読みたいと思っていたので、ゆっくり本を読んでいる」と答えて、間接的にデモを支持する発言をしていた。しかし、もちろん怒っている人たちもいた。

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 デモに関する落書きには「Be Water(水のようになれ)」という言葉が散見された。これは、香港が生んだ映画界のレジェンドであるブルース・リーの言葉だ。水は変幻自在に形を変える。静かな時は鏡のようにもなるし、荒れ狂う時には大地を削り、生物の命を奪う。戦国武将の斎藤道三の旗印も水であったことはよく知られている。ブルース・リーは今でも香港の人々に親しまれているということが分かるし、逆にブルース・リーよりも更に香港映画を世界に広めたジャッキー・チェンは大陸側にすり寄ってすっかり人気がなくなっているということが推察される。
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 デモに関しての私見を述べる。中国は外国から食い物にされてきた苦い歴史がある。アヘン戦争(1840―1842年)とその後の南京条約(1842年)によって国の一部が外国の植民地となり、国の富が吸い取られるという苦難を味わった。私は毛沢東が中国共産党を率いて日中戦争、国共内戦を戦い勝利できたのは、彼が自主独立(外国勢力に頼らない)ということを訴えたからだと思う(実態はアメリカからの支援で勝利をした訳だが)。外国からの支援、武器や資金の援助を受けてしまえば、その外国の意向を無視できない。中国の近代化のために、外国に頼ろうとした人たちは最終的にはうまくいかなった。これを敷衍すれば、香港の学生デモは外国に頼ろうとしている時点で、多くの中国人からの支持を得られないのではないかと私は思う。

 観光はそこそこにと決めていたが、九龍半島に渡り、リッツカールトンホテルに行って、香港市街を眺めながら、紅茶を飲んだ。シンガポールのTWGの紅茶が出され、大変においしかった。100階からの眺めも素晴らしかった。
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 リッツカールトンホテルの下に、中国の高速鉄道の駅である香港西九龍駅がある。この西九龍駅からは中国各地に向けての高速鉄道が出ている。
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 中国のホテルではフロントでも英語が通じにくかったが、香港のホテルはさすがにどこでも英語は通じた。しかし、香港市街の小さな食堂やコンビニでは英語が通じないことが多かった。これは意外であった。

 また、香港では反大陸、反中国中央政府、反中国共産党の気風が強いようだと感じた。大陸側ではウイチャットペイとアリペイでの決済が既に支配的であるのに、香港では今でも現金が通じた。ある人に聞いたら、大陸で使われているようなものを遣えるかという意識が香港の人々の間にあるらしい。また、中国語(普通語)を話すのも疎まれるようだ。同行したK氏(日本人)がタクシーやレストランで話すと、「あなたは外国人なんだから下手でも片言でも英語を使った方が良い、変に中国語を使うべきではない」と忠告されたということだ。中年以上は広東語を話しており、中国語は下手だということだ。抑揚や発音がうまくないのだそうだ。それでも若い人たちは学校教育を通じて普通語を話せるようになっているようだ。

 「場(トポス)」としての香港についての報告としては小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学』が興味深い。

 深圳と香港に行き、日本にはない活力を感じた。「最前線」にいるという感覚は日本では感じることはない。この感覚を味わうだけでも中国を訪問する意義はある。日本は閉鎖された沈みゆく船だ。そのことに気づかされる。それだけでも大きな収穫となる。

 

 以下に、『全体主義中国がアメリカを打ち倒すーディストピアに向かう世界』のまえがき、目次、あとがきを貼り付けます。是非お読みください。よろしくお願いいたします。

 

(貼り付けはじめ)

まえがき   副島隆彦

 

中国は表紙に打ち込んだとおり明らかに全 トータリタリアニズム 体主義国家である。

その別名が「共産中国(きょうさんちゅうごく)」である。みんなに嫌われるはずだ。だが、今後、世界中がどんどん中国のようになる。

 

世界中のすべての国が、中国化するのである。その代表的な具体例かつ証拠は、監視カメラ(CCTV [シーシーティブイ]。今はコミュニティ・サーキットTV[ティビー]と呼ぶ)が、街中のあらゆるところに取り付けられていることだ。アメリカも、ヨーロッパも、日本だって監視カメラだらけの国になっている。

 

中国では監視カメラによる民衆の動きの把握のことを 天 てんもう 網(ティエン・ワン)と言う。「天網恢恢疎にして漏らさず」の天網である。

私は最近、中国に香港から入って 深圳(しんせん)に行った。この中国のITハイテクの最先端の都市を調査してきた。あれこれもの凄(すご)い発展ぶりだなと、思った。それを後(あと)の方で報告する。中国にまったく行きもしないで、中国の悪口ばかり言っている(書いている)人たちは、お願いですから、せめて北京と上海に行ってください。安いホテル代込み10万円で行けます。エクスペディアなどネットで安くで予約するといい。

 中国は国民の生活を監視している国になってしまっている。もうすぐ監視カメラが中国全土に 6 億台取り付けられるそうだ。中国国民14億人の2人に1台の割合だ。まさか個人の家の中までは取り付けられないだろうが、それだって分からない。中国のすべての都市の街路には、既に付いている。

 ところが、これらの中国製の監視カメラ会社に、最初に技術を開発して売ったのは、日本の大手電機会社である。ニコンとキヤノンとパナソニックとソニーが、この公共空間のカメラの技術を一番先に開発した。日本がいまもドイツ(カールツァイスとライカ)にも負けないで、世界一の技術力を誇っているのは、この分野である。専門技術でいえば、フィルムとフィルターとレンズの技術である。ハッセルブラッド社(スウェーデン)は、DJI(中国のドローンの最大手)が買収した。

 あとのほうで載せるが(P61)、キヤノンの御手洗富士夫(みたらいふじお)会長の発言で、「キヤノンは監視カメラで未来を切り開く」と最近堂々と日経新聞に出ていた。

 中国だけが国民を徹底的に監視しようとしている国家なのではない。米、欧、日の先進国も監視国家だ。それに続く新興国も、「国民を監視する国家」になっていくのである。すなわち中国が先導して、他の国々もそれに追随する。これからの人類がたどるのは、このディストピア(幻滅の国。絶望郷[ぜつぼうきょう] 。監視国家)への道である。中国だけがますますひどい国になるのではない。ディストピア(dystopia)はユートピア(utopia、理想郷[りそうきょう])の反対語(アントニム)である。 

 人類が自分の未来を、盲目的、直線的かつ貪欲に突き進む結果、世界はこのあと、いよいよ中国のようになっていく。中国の悪口を言っていればいいのではない。

 国民生活が、権力者や支配者によって徹底的に監視され、統制される政治体制のことを全体主義(totalitarianism トーリタリアニズム)という。この全体主義という言葉を広めたのはドイツ人の女性思想家のハンナ・アーレン人である。彼女が、1951年に書いた『全体主義の起源』で、ソビエト体制を批判した時に使われた言葉である。このコトバの生みの親は、イタリア知識人のジョバンニ・アメンドラである。

 世界がやがて中国のようになっていく、という課題は、私が急に言い出したことではない。すでに感覚の鋭い言論人や知識人たちによって「世界は中国化する」という本も出ている

 もう 20 年前からイギリスのロンドンは、すべての街 ストリート 路に監視カメラが設置されていたことで有名だ。今の日本も主要な生活道路のほとんどにまで、監視カメラが設置されている。このことを日本国民は知らされていない。新宿や池袋のような繁華街だけが、カメラで監視されているのではない。 

 民衆の往来、行き来を、政府や取り締まり当局(警察)がずっと撮影して、画像を保存している国が立派な国であるはずがない。だが、どこの国の警察官僚も、必ずこういうことをやる。官僚(上級公務員)というのは、本性(ほんせい)からしてそういう連中だ。

 これは人類にとっては悲しむべき間違った方向である。科学技術(テクノロジー)の進歩が、コンピューターや通信機器(スマホ他)の異常な発達とともに、こういう監視技術を最高度に発達させた。この監視システムを維持するために、一体どれほどの警察公務員が新たに採用され続けているかについて、誰も関心を払わない。

 それにしても、全 トータリタリアニズム 体主義は強いなあ。世界大恐慌が襲いかかったとき、中国はシャッタード・アイランド(バターンと金融市場を閉じる)ので、ビクともしない。

=====

目次

まえがき 3

 

第1章 中国のディストピア化を追いかける世界

中国は巨大成長したという事実は否定できない 18

世界の知識人が描いてきたディストピア像 22

左右のどっちからも嫌われるのが一番いい 30

全体主義中国を徹底的に叩く 33

ディストピア映画の歴史的系譜 40

 

第2章 貿易戦争から金融戦争へと移り変わった

〝卑屈〟なテンセントが金融戦争に勝利する 52

銀行消滅とCCTV 59

銀行の別名は「信用」 69

アリババはNY市場から締め出されるのか? 70

中国のネット世代と実質的なデモクラシー 75

ファーウェイはアメリカのいじめに負けなかった 82

アメリカと中国の睨み合いは続く 87

中国人は国有企業が嫌い、民間企業大好き 90

半導体製造の切り札、紫光集団 96

 

第3章 中国は最早アメリカとの力相撲を恐れない

中国の技術泥棒を引っ張った「千人計画」 104

結局中国を一致団結させてしまったアメリカのミス 109

米中IT戦争と日本の半導体潰しの意外な共通点 112

サムスンを育てたのはインテル 117

新たな火種となったレアアース 120

 

第4章 中国にすり寄る 韓国、北朝鮮と台湾を巡るつばぜり合い

北朝鮮と韓国による「高麗連邦」の誕生 130

GSOMIA破棄問題で嫌韓が高まった本当の意味 132

アメリカが韓国を切ったのではなく、韓国がアメリカを切った 135

香港問題は台湾問題である 139

2020台湾総統選とテリー・ゴウの動き 142

韓国瑜はアメリカの回し者だった 145

中国は民主化するのか? 150

台湾の中国化とシーレーン問題 152

中国人はヒラリー・クリントンのことが大嫌い 154

もうアメリカの圧力などなくなってしまった 160

警戒の目はファーウェイの海底ケーブルに 164

 

第5章 中国の膨張を招き込んだアメリカの弱体化

腰砕けとなったペンス副大統領 170

「外国にいる米軍の兵隊たちは国に帰って、ゆっくり休め」 174

米中貿易戦争は、今年中に表面上は静かになる 177

イレイン・チャオはチャイナ・ロビー代表で政権ナンバー 3 180

EVの天下を取る中国にひれ伏すマスク 187

 

第6章 アフリカと中央アジアに広がる チャイナネットワーク

アフリカの一帯一路戦略 204

次の世界の中心は中央アジアになる 213

中国はアメリカからアフガンを任された 219

 

第7章 ディストピア中国の不穏な未来

新疆ウイグル問題の真実 224

私は見た、深圳の現実を 236

華強北と中国のジャイアント・ベイビーたち 238

ドローンの恐るべきパワー 248

デジタル人民元の脅威 250

 

あとがき 252

=====

あとがき   副島隆彦

 

この本『全体主義(トータリリアニズム)の中国がアメリカを打ち倒す││ディストピアに向かう世界』は、世界最大の牢獄国家、中国についての、私の 11 冊目の本である。

英文の書名は、“Totalitarian China will finish of America(トータリタリアン・チャイナ・ウィル・フィニッシュ・オフ・アメリカ)”である。このfinish off(フィニッシュ・オフ)という動詞は、「とどめを刺す、息の根をとめる」という強い意味だ。

 

『あと 5 年で中国が世界を制覇する』(2009年刊)という本も、私は書いている。この本は反共(はんきょう)右翼の人々から激しく嫌われた。「何を言うか。中国は暴動が起きて、中国共産党は潰(つぶ)れるのだ」と、彼らは、私の本に最大限の悪罵(あくば)を投げた。それで、現実の世界の動きは、その後どうですか。

 

人も国家も、より強い者に虐(いじ)められながら、這い上がってゆく途中は、善であり、正義である。より強い国の支配の下(もと)で、苦心惨憺(さんたん)しながら勝ち上がってゆく。

しかし、一旦(いったん)、勝者になったら正義[ジャスティス]justice)から 悪[イーヴォ]evil)に転化する。中国が、アメリカ合衆国を打ち負かして世界覇権(はけん)国(ヘジェモニック・ステイト)になったら、その時、巨大な悪[イーヴォ]evil)になるのである。それまであと5年だ。

人も国家も、そして企業も、2番手に付けて1番手(先頭、支配者[ガリバー])の真似をしながら必死で喰い下がっているときが、一番美しい。これまでの40年間(鄧小平[とうしょうへい]の「改革改放宣言」1978年12月18日。 40周年を中国は祝った)、私は、アメリカ帝国の後塵(こうじん)を拝しながら、蔑(さげす)まれながら、泥だらけの極貧(ごくひん)の中から、着実に勝ち上(のぼ)ってきた中国を頼もしく、美しいと思ってきた。

 

この11月20日に北京で、〝世界皇帝代理〞のヘンリー・キッシンジャーが心配した。これに対して、翌日即座に、習近平は、「心配しないで下さい。中国は世界覇権(hegemony、ヘジェモニー。ドイツ語ならヘゲモニー)を求めません(私たちは、これまでにいろいろ苦労して、人類史を学びましたから)」と発言した。

これが一番大きな処(ところ)から見た、今の世界だ。日本という小ぢんまりとした国で世界普遍価値(world values、ワールド・ヴァリューズ)を理解しようとして、私は、独立知識人として(本書第1章を参照のこと)、孤軍奮闘して来た。

 

 本書は書名が決まったのが11月11日。体調不良の中で、2週間で作り上げた。だが手抜きはない。いつもながらの全力投球だ。私の地獄の踏破行(とうはこう)に同行して、命懸けの鎖場(くさりば)にも付き合ってくれたビジネス社大森勇輝編集長に記して感謝します。

 

2019年12月

副島隆彦

(貼り付け終わり)

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

(終わり)

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 古村治彦です。 

 2019年7月27日から31日にかけて中国の深圳と香港を訪問した。副島隆彦先生の調査旅行に同行した。調査旅行の結果は『全体主義中国がアメリカを打ち倒すーディストピアに向かう世界』(副島隆彦著、ビジネス社、2019年12月21日)として結実した。私たちが訪問したのは地図の通りだ。

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『全体主義中国がアメリカを打ち倒す』から

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

 本のタイトルにあるディストピアとは技術が進み、生活全般が豊かに便利になるが、技術の進歩を利用して、政府や権力者が人々を監視したり、コントロールしたりする、一枚めくると非常に怖い世界ということになる。SF小説などのテーマとしてこれまで長く取り上げられている。ディストピア小説としては、ジョージ・オーウェルの『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』、アーサー・ケストラーの『真昼の暗黒 (岩波文庫)』、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)』が挙げられる。

 私たちは2019年7月27日に日本を午前早くに出発し、昼頃に香港国際空港に到着した。空港では日本人で中国語が堪能のK氏と合流した。空港でK氏が予約していた自動車(運転手付き)に乗り、深圳に向かった。香港と深圳の間に広がる湾にかかっている深港西部通道を通り、数十分で深圳に到着した。香港からは鉄道でも深圳に向かうことができるが、自動車で深港西部通道を使った方が早く便利だそうだ。

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 昼過ぎに深圳西部にある地下鉄の后海駅近くのホテルに到着した。ホテルは日本からインターネットの予約サイトを使って予約したもので1泊1万円程度だったが、清潔で豪華な部屋に泊まることができた。夕方に近くの火鍋屋で食事を摂り、それからタクシーで深圳の電気街・「華強北(ファーチャンペイ)」に向かった。華強北は電気製品の卸や小売りをしている店が並んでいる場所だ。夜にかけてぶらぶらして、地下鉄を使ってホテルに帰った。

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 到着翌日の28日、私たちは運転手付きの自動車を雇って深圳を回った。まずは、ファーウェイ(華為技術、Huawei)の本社に向かった。ファーウェイの本社は深圳の北部に位置し、一つの街のように広大な地域を占めている。高い建物はない。なんでも高層ビルにしてエレベーターを使って上り下りをする、エレベーターを待つ時間がもったいないということで低層にしているという話だ。その一角にはファーウェイが経営するゲスト用のホテルまである。

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 ファーウェイの隣の街区には台湾のフォックスコン(鴻海科技集団、中国では富士康)の工場がある。近藤大介の『ファーウェイと米中5G戦争 (講談社+α新書)』によると、1980年代、ファーウェイの創業者・任正非(じんせいひ、Ren Zhengfei、1944年―、75歳)とフォックスコンの創業者・郭台銘(かく たいめい、Guo TaimingTerry Guo、1950年―、69歳)は、両者が30歳代の頃から知り合いで、1980年代から協力し合って会社を大きくしていったそうだ。
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 その後、深圳市内を回った。三和人力市場という場所には衝撃を受けた。ここは元々、日雇い労働者たちの街であり、日本語で言えば、ドヤとなる安価な簡易宿泊所が集まる場所だった。今では簡易宿泊所の1階にはコンピューターが所狭しと並べられて、インターネットゲーム(ネトゲ)ができるようになっている。それは何故かと言えば、全国から若者たちが集まって1日中インターネットゲームをしているからだ。簡易宿泊所(1泊数百円)に泊まりながら、ネトゲをしている。日本でも問題になった、ネトゲ廃人たちだ。
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 この街を歩き回っていると、この場所を取り仕切っているであろう中年女性が出て来て、私たちに「写真を撮るな、写真を撮るなら金を払え」と迫られて恐怖を感じた。インターネットゲームとゲームに耽溺する若者たちという人類の行き着く先が、地廻りが支配するような場所に存在している混沌が大変に印象的だった。
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 その後、テンセントや百度の本社を見て回り、また、福田地区にあるショッピングモールに向かった。ここには日本の無印良品が大型ショップとホテルを展開している。また、モールの中には日本食レストランを集めたフロアも設置されていた。こうして見ると、日本のソフトパワーというのも侮れないものがある。無印良品のショップには日本の商品が日本とほぼ同じ値段で売られていた。家族連れが楽しそうに歩いたり、ソファーに座っておしゃべりをしたりしていた。おしゃれな生活を総合的に提案という形なのだろう。このモールの駐車場や道路には高級外車がずらりと並んでいた。ここでのショッピングや食事を楽しむことが出来るのは金持ちに限られるだろう。

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 ホテルの近くにある地下鉄の駅周辺にある店で従業員募集のポスターが出ていた。そのいくつかを見てみると、普通のお店の従業員の賃金は月3000元前後のようだ。1元は15元から16元だから、日本円では5万円程度ということになる。店長クラスはその倍の6000元(約10万円)くらいだ。日本式のエステサロンだと店長は年間20万元(月1万6000元)と表示されていた。日本円だと300万円近くだ。
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 日本と比べて3分の1くらいだと言えるだろう。物価は中国の方が安いとは言え、大都市の深圳で月5万円で暮らすのは厳しい。福田地区のショッピングモールにある無印良品や日本食レストランで楽しむのは難しい。しかし、日本はこれからも給料が下がっていくことしか考えられないのに対し、中国はこれから伸びていくぞということを実感できるし、自分は自分の力で這い上がってやるという気概も強いので、若者たちは明るい。
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 私はスターバックスにも行ってみた。ここで驚いたのは、値段が日本と変わらないことだった。レシートの写真を見てもらえれば分かるが、アイスラテとトーストを頼んで55元、日本円で約800円だ。月5万円の給料でスターバックスに通うことは難しい。しかし、お客さんはこれから増えていくだろう。また、支払いの時に、現金を使ったのだが、店員がレジの下にある引き出しからビニールに包まれた現金を出してきて、面倒くさそうにお釣りを渡してきたことだ。中国本土ではスマホ決済が支配的になっており、アリペイ、ウィチャットペイという決済プラットフォームが利用されている。中国本土の銀行口座がなければ利用できず、外国人旅行者には利用できない。それなのに、旅行者である私たちが支払いをしようとすると面倒くさそうに取り扱われる。舌打ちをされる。中国国内に限定されているという点で、「ガラパゴスじゃないか」とも思うが、16億人が使うプラットフォームである。「大きすぎるガラパゴス」なのだ。

 2019年7月29日の午前中には再び電気街の「華強北」を訪問した。電気街を歩いてみて、日本の電機会社の存在下の低下を痛感した。私が20年前にアメリカに留学した際に、生活用品を整えるために地元の小売店「ベストバイ(Best Buy)」に向かった。この時には、テレビや冷蔵庫、掃除機などは日本の電機会社の製品が並んでいた。それが今では、何とも残念なことに日本の電機会社のロゴを見ることは少なかった。

 考えてみれば、スマートフォン(スマホ)に関しても日本は主役ではない。私たちがスマホに関して話題にする時、日本の家電メーカーの名前を口に出すことがあるだろうか。中国からはoppo(オッポ)や小米(シャオミー)といった聞き慣れない名前の会社が日本に展開しようとしている。格安で質の良いスマホを提供するということだ。日本が貧しくなっていること、かつ日本のモノづくりの地位の低下が示されている。前述の近藤氏が著書で述べているように、「日本は中国の下請け」となっているのだ。
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(続く)

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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界
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 古村治彦です。
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全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

 今回は、副島隆彦先生の最新刊『全体主義中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界』(副島隆彦著、ビジネス社、2019年12月)を紹介する。

 今回の副島先生の調査旅行には私も同行した。香港から深圳に入る行程だった。深圳では中国の更なる勃興を体感し、香港では激化以前のデモを経験した。深圳ではドヤ街のような三和人力市場にある官位宿泊所付きのネットカフェで、インターネットゲームに没頭する若者たち(日本語で言えばネットゲーム廃人・ネトゲ廃人)の姿には衝撃を受けた。
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 また、深圳の街中には、ファーウェイ(深圳に本社がある)の協力もあり、最新の監視カメラ網が張り巡らされ、市役所では住民のデータ管理に最新の技術が導入されている。私たちがタクシーに乗るとすぐに運転手がシートベルトを着用するに注意した。これは私たちの安全を気遣ってのことではない。街中に張り巡らされたカメラにシートベルトをしていないことがすぐに映る、自動車のナンバープレートがすぐに解析され、運転手がすぐに分かり、同時に罰金が科される(アリペイやウィチャットペイから引き落とされるという話がある)。

 副島隆彦先生の鋭い観察眼を通した中国の最新の分析がなされている。下にまえがき、目次、あとがきを貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

まえがき   副島隆彦

中国は表紙に打ち込んだとおり明らかに全 トータリタリアニズム 体主義国家である。

その別名が「共産中国(きょうさんちゅうごく)」である。みんなに嫌われるはずだ。だが、今後、世界中がどんどん中国のようになる。

 

世界中のすべての国が、中国化するのである。その代表的な具体例かつ証拠は、監視カメラ(CCTV [シーシーティブイ]。今はコミュニティ・サーキットTV[ティビー]と呼ぶ)が、街中のあらゆるところに取り付けられていることだ。アメリカも、ヨーロッパも、日本だって監視カメラだらけの国になっている。

 

中国では監視カメラによる民衆の動きの把握のことを 天 てんもう 網(ティエン・ワン)と言う。「天網恢恢疎にして漏らさず」の天網である。

私は最近、中国に香港から入って 深圳(しんせん)に行った。この中国のITハイテクの最先端の都市を調査してきた。あれこれもの凄(すご)い発展ぶりだなと、思った。それを後(あと)の方で報告する。中国にまったく行きもしないで、中国の悪口ばかり言っている(書いている)人たちは、お願いですから、せめて北京と上海に行ってください。安いホテル代込み10万円で行けます。エクスペディアなどネットで安くで予約するといい。

 中国は国民の生活を監視している国になってしまっている。もうすぐ監視カメラが中国全土に 6 億台取り付けられるそうだ。中国国民14億人の2人に1台の割合だ。まさか個人の家の中までは取り付けられないだろうが、それだって分からない。中国のすべての都市の街路には、既に付いている。

 ところが、これらの中国製の監視カメラ会社に、最初に技術を開発して売ったのは、日本の大手電機会社である。ニコンとキヤノンとパナソニックとソニーが、この公共空間のカメラの技術を一番先に開発した。日本がいまもドイツ(カールツァイスとライカ)にも負けないで、世界一の技術力を誇っているのは、この分野である。専門技術でいえば、フィルムとフィルターとレンズの技術である。ハッセルブラッド社(スウェーデン)は、DJI(中国のドローンの最大手)が買収した。

 あとのほうで載せるが(P61)、キヤノンの御手洗富士夫(みたらいふじお)会長の発言で、「キヤノンは監視カメラで未来を切り開く」と最近堂々と日経新聞に出ていた。

 中国だけが国民を徹底的に監視しようとしている国家なのではない。米、欧、日の先進国も監視国家だ。それに続く新興国も、「国民を監視する国家」になっていくのである。すなわち中国が先導して、他の国々もそれに追随する。これからの人類がたどるのは、このディストピア(幻滅の国。絶望郷[ぜつぼうきょう] 。監視国家)への道である。中国だけがますますひどい国になるのではない。ディストピア(dystopia)はユートピア(utopia、理想郷[りそうきょう])の反対語(アントニム)である。 

 人類が自分の未来を、盲目的、直線的かつ貪欲に突き進む結果、世界はこのあと、いよいよ中国のようになっていく。中国の悪口を言っていればいいのではない。

 国民生活が、権力者や支配者によって徹底的に監視され、統制される政治体制のことを全体主義(totalitarianism トーリタリアニズム)という。この全体主義という言葉を広めたのはドイツ人の女性思想家のハンナ・アーレン人である。彼女が、1951年に書いた『全体主義の起源』で、ソビエト体制を批判した時に使われた言葉である。このコトバの生みの親は、イタリア知識人のジョバンニ・アメンドラである。

 世界がやがて中国のようになっていく、という課題は、私が急に言い出したことではない。すでに感覚の鋭い言論人や知識人たちによって「世界は中国化する」という本も出ている

 もう 20 年前からイギリスのロンドンは、すべての街 ストリート 路に監視カメラが設置されていたことで有名だ。今の日本も主要な生活道路のほとんどにまで、監視カメラが設置されている。このことを日本国民は知らされていない。新宿や池袋のような繁華街だけが、カメラで監視されているのではない。 

 民衆の往来、行き来を、政府や取り締まり当局(警察)がずっと撮影して、画像を保存している国が立派な国であるはずがない。だが、どこの国の警察官僚も、必ずこういうことをやる。官僚(上級公務員)というのは、本性(ほんせい)からしてそういう連中だ。

 これは人類にとっては悲しむべき間違った方向である。科学技術(テクノロジー)の進歩が、コンピューターや通信機器(スマホ他)の異常な発達とともに、こういう監視技術を最高度に発達させた。この監視システムを維持するために、一体どれほどの警察公務員が新たに採用され続けているかについて、誰も関心を払わない。

 それにしても、全 トータリタリアニズム 体主義は強いなあ。世界大恐慌が襲いかかったとき、中国はシャッタード・アイランド(バターンと金融市場を閉じる)ので、ビクともしない。

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目次

まえがき 3

 

第1章 中国のディストピア化を追いかける世界

中国は巨大成長したという事実は否定できない 18

世界の知識人が描いてきたディストピア像 22

左右のどっちからも嫌われるのが一番いい 30

全体主義中国を徹底的に叩く 33

ディストピア映画の歴史的系譜 40

 

第2章 貿易戦争から金融戦争へと移り変わった

〝卑屈〟なテンセントが金融戦争に勝利する 52

銀行消滅とCCTV 59

銀行の別名は「信用」 69

アリババはNY市場から締め出されるのか? 70

中国のネット世代と実質的なデモクラシー 75

ファーウェイはアメリカのいじめに負けなかった 82

アメリカと中国の睨み合いは続く 87

中国人は国有企業が嫌い、民間企業大好き 90

半導体製造の切り札、紫光集団 96

 

第3章 中国は最早アメリカとの力相撲を恐れない

中国の技術泥棒を引っ張った「千人計画」 104

結局中国を一致団結させてしまったアメリカのミス 109

米中IT戦争と日本の半導体潰しの意外な共通点 112

サムスンを育てたのはインテル 117

新たな火種となったレアアース 120

 

第4章 中国にすり寄る 韓国、北朝鮮と台湾を巡るつばぜり合い

北朝鮮と韓国による「高麗連邦」の誕生 130

GSOMIA破棄問題で嫌韓が高まった本当の意味 132

アメリカが韓国を切ったのではなく、韓国がアメリカを切った 135

香港問題は台湾問題である 139

2020台湾総統選とテリー・ゴウの動き 142

韓国瑜はアメリカの回し者だった 145

中国は民主化するのか? 150

台湾の中国化とシーレーン問題 152

中国人はヒラリー・クリントンのことが大嫌い 154

もうアメリカの圧力などなくなってしまった 160

警戒の目はファーウェイの海底ケーブルに 164

 

第5章 中国の膨張を招き込んだアメリカの弱体化

腰砕けとなったペンス副大統領 170

「外国にいる米軍の兵隊たちは国に帰って、ゆっくり休め」 174

米中貿易戦争は、今年中に表面上は静かになる 177

イレイン・チャオはチャイナ・ロビー代表で政権ナンバー 3 180

EVの天下を取る中国にひれ伏すマスク 187

 

第6章 アフリカと中央アジアに広がる チャイナネットワーク

アフリカの一帯一路戦略 204

次の世界の中心は中央アジアになる 213

中国はアメリカからアフガンを任された 219

 

第7章 ディストピア中国の不穏な未来

新疆ウイグル問題の真実 224

私は見た、深圳の現実を 236

華強北と中国のジャイアント・ベイビーたち 238

ドローンの恐るべきパワー 248

デジタル人民元の脅威 250

 

あとがき 252

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あとがき   副島隆彦

この本『全体主義(トータリリアニズム)の中国がアメリカを打ち倒す││ディストピアに向かう世界』は、世界最大の牢獄国家、中国についての、私の 11 冊目の本である。

英文の書名は、“Totalitarian China will finish of America(トータリタリアン・チャイナ・ウィル・フィニッシュ・オフ・アメリカ)”である。このfinish off(フィニッシュ・オフ)という動詞は、「とどめを刺す、息の根をとめる」という強い意味だ。

 

『あと 5 年で中国が世界を制覇する』(2009年刊)という本も、私は書いている。この本は反共(はんきょう)右翼の人々から激しく嫌われた。「何を言うか。中国は暴動が起きて、中国共産党は潰(つぶ)れるのだ」と、彼らは、私の本に最大限の悪罵(あくば)を投げた。それで、現実の世界の動きは、その後どうですか。

 

人も国家も、より強い者に虐(いじ)められながら、這い上がってゆく途中は、善であり、正義である。より強い国の支配の下(もと)で、苦心惨憺(さんたん)しながら勝ち上がってゆく。

しかし、一旦(いったん)、勝者になったら正義[ジャスティス]justice)から 悪[イーヴォ]evil)に転化する。中国が、アメリカ合衆国を打ち負かして世界覇権(はけん)国(ヘジェモニック・ステイト)になったら、その時、巨大な悪[イーヴォ]evil)になるのである。それまであと5年だ。

人も国家も、そして企業も、2番手に付けて1番手(先頭、支配者[ガリバー])の真似をしながら必死で喰い下がっているときが、一番美しい。これまでの40年間(鄧小平[とうしょうへい]の「改革改放宣言」1978年12月18日。 40周年を中国は祝った)、私は、アメリカ帝国の後塵(こうじん)を拝しながら、蔑(さげす)まれながら、泥だらけの極貧(ごくひん)の中から、着実に勝ち上(のぼ)ってきた中国を頼もしく、美しいと思ってきた。

 

この11月20日に北京で、〝世界皇帝代理〞のヘンリー・キッシンジャーが心配した。これに対して、翌日即座に、習近平は、「心配しないで下さい。中国は世界覇権(hegemony、ヘジェモニー。ドイツ語ならヘゲモニー)を求めません(私たちは、これまでにいろいろ苦労して、人類史を学びましたから)」と発言した。

これが一番大きな処(ところ)から見た、今の世界だ。日本という小ぢんまりとした国で世界普遍価値(world values、ワールド・ヴァリューズ)を理解しようとして、私は、独立知識人として(本書第1章を参照のこと)、孤軍奮闘して来た。

 

 本書は書名が決まったのが11月11日。体調不良の中で、2週間で作り上げた。だが手抜きはない。いつもながらの全力投球だ。私の地獄の踏破行(とうはこう)に同行して、命懸けの鎖場(くさりば)にも付き合ってくれたビジネス社大森勇輝編集長に記して感謝します。

 

2019年12月

 

副島隆彦

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
bakabusubinboudeikirushikanaianata001
馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください


 今回は、藤森かよこ氏の初の単著『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』をご紹介する。藤森氏は桃山学院大学や福山市立大学出教鞭を執った英文学専攻の元大学教授だ。アメリカの作家アイン・ランドの古典的ベストセラーで、アメリカの大学生の必読書と呼ばれる『水源―The Fountainhead』や『利己主義という気概ーエゴイズムを積極的に肯定するー』の翻訳でも知られている。

 今回初の単著は人生論、特に女性向けの人生論になっている。しかし、私のような冴えない中年男性にとってもなるほどと思わせてくれる内容になっている。

 是非お読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

 

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』

 

■長いまえがき

 

●本書の著者は低スペック女子の成れの果てである

 

 本書の著者はブスで馬鹿で貧乏である。ただし、鈴木大介の『最貧困女子』(幻冬舎新書、二〇一四年)に描かれているような貧困は知らない。賃金労働をしなければ食べていけないし、大不況や預金封鎖などの社会的経済的大変動があれば、すぐに食い詰めるという意味での貧乏だ。

 本書の著者はブスだ。顔やスタイルで食っていけないならばブスだ。「繁華街を歩いていてスカウトされたことがない」なら、立派なブスだ。

 本書の著者は馬鹿である。一を聞いて一を知るのが精一杯である。学校の勉強もできなかったし、地頭(じあたま)がいいわけでもない。平々凡々であり、ちょっと努力しなければ、すぐにゴミになる。

 本書の著者には、輝かしき幼年期も青春期も中年期もなかった。すべてが悪戦苦闘だった。本書の著者には、輝かしい老年期もないだろう。死ぬまで悪戦苦闘は続く。

 現代という時代は、ほとんどの人間に敗北感を感じさせる。現代という時代が人間に要求するスペックは高過ぎる。

 無理しないで自然に「ありのままに」生きていけばいい? 「ありのままに」生きていたら、本書の著者はただの廃人だ。

 

●低スペック女子向け自己啓発本がない

 

 本書の著者は、ブスで馬鹿で貧乏であり、何をするにも中途半端ではあったけれども、向上心だけは人並みにあった。だから、若い頃から自分の低スペックを何とかしたくて、手当たり次第に自己啓発本を読み漁(あさ)ってきた。

 書物というものは、ただ読むだけでは単なる時間つぶしでしかない。書物に素晴らしい助言や洞察が書かれていたら、それを実践して成果を得なければ意味がない。貧乏なんだから、消費するだけの読書なんかやっていられない。

 しかし、本書の著者は、特に成果はない無意味な読書を長年続けたあげく、とうとう気がついた。

 本を書く人間というのは、もともとスペックが高い。そーいう人の書く本は、自分のスペックの低さに苦しんでいる人間にとっては役に立たない! やっと気がついた。だから本書の著者は馬鹿だ。

 

 しかし、本書の著者は、特に成果はない無意味な読書を長年続けたあげく、とうとう気がついた。

 本を書く人間というのは、もともとスペックが高い。そーいう人の書く本は、自分のスペックの低さに苦しんでいる人間にとっては役に立たない! やっと気がついた。だから本書の著者は馬鹿だ。

 

●たとえば本多静六著『私の財産告白』

 

 貧乏な人が読むべき古典的自己啓発本に、本多静六[ほんだせいろく](一八六六―一九五二)の『私の財産告白』(実業之日本社文庫、二〇一三年)がある。一九五一年(昭和二六年)出版以来、二一世紀の今にいたるまで版を重ねてきた知る人ぞ知る名著だ。

 ちょっと話が長くなる。しばし我慢して読んでください。

『私の財産告白』の著者の本多氏は、苦学のすえに東京農林学校(東京帝国大学農学部の前身)で学んだ。ドイツに留学して林学を学んだ。帰国後は、日比谷公園を始めとして日本中のほとんどの大公園を設計し、「日本の公園の父」と呼ばれた。

 そもそも明治時代になるまで、日本には「公園」というものはなかった。領主の領地と私有地があるだけで、誰でも無料でウロチョロしていい公園は存在しなかった。だから現在にまで残る大きな公園を設計した本多氏の業績はすごい。福岡の大濠(おおほり)公園も名古屋の鶴舞(つるま)公園も本多氏の設計による。

 そのほかに、本多氏は、東京駅丸の内駅前広場の設計をした。関東大震災からの復興

原案も作成した。

 本多氏は、ドイツ留学時代に指導を仰いだドイツ人教授の生きかたに感銘を受けた。

ドイツの一流大学の教授は、ただの専門馬鹿の浮世離れしている学者ではなかった。自

身の自由な学問研究のための金銭管理や資産形成にも怠(おこた)りなかった。

 確かに、いまどきの日本の大学の研究者のように、研究費や科研費(文部科学省と日

本学術振興会が担当する学術研究助成基金助成金や科学研究費補助金のこと)だの民間

の補助金だの寄付だの他人のカネをあてにしていては、真に自由な学問研究はできない。

科研費や補助金の審査に通過しやすい申請書を作成しなくては、科研費も補助金も獲得

できない。

 いくら意義ある研究でも、「大麻の安全性とその有効利用」とか、「疾病(しっぺい)製造装置としての定期集団健康診断」とか「政府崩壊後の社会構築の方法」とか「日本属国脱却法研究」とか「日本支配層とイルミナティの連携」とか「横隔膜(おうかくまく)活用による男性妊娠法研究」というテーマは、おそらく日本学術振興会によって採択(さいたく)されないだろう。

 また審査する研究者の専門分野の存在理由を脅(おびや)かす類の研究テーマも採択されないだろう。「文学は価値があるが文学研究は趣味でしかないので、文学研究に科研費投入は公費横領であることを証明する研究」なんて研究は採択されない。審査するのが文学研究者ならば。

 ところが、さすがに本多氏は慧眼(けいがん)で独立独歩の気概(きがい)ある方だった。ほんとうの研究者になるには、自分の自由になる自分自身の資産を形成することが必要だと考えたのだから。

 で、帰国後は、夫人の協力を得て、「月給四分の一天引き貯金」を実践した。四〇代からは株式投資も始め資産を増やした。山林も購入した。売れる書籍の原稿を毎日一ページ書くことを日課とした。著書は三七〇冊を超えるまでにいたった。

 おかげで、本多氏は海外調査も自費で何度もできた。それも一流ホテルに宿泊した。日本人として堂々と臆することなく威(い)を張るために。公金である科研費を使って海外の学会に出席と言いつつ物見遊山(ものみゆさん)しているような類(たぐい)の現代の日本の大学教授とは、本多氏は志(こころざし)が違った。

 なのに、そこまでして築いた資産を、本多静六氏は東京帝国大学停年時には全額寄付した。本多氏は、かくも非凡な研究者だった。

 本書の著者は本多氏の生き方に感動した。しかし、本多氏の名著は、本書の著者にとっては猫に小判だった。デブ女にピンヒールだった。

 本書の著者は、この名著を何度も読み返した。しかし、月給の二五%預金などできたためしがなかった。こんなに単純なことでさえ実践できなかった。

 いかに名著でも、いかに確実な方法が提案されていても、本書の著者のようなスペックの低い人間には実現不可能なのだ。

 この世に出版物は多い。しかし、ほんとうにスペックの低い人間にとって実践可能な方法は書いてくれていない。

 

●たとえば上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』

 

 まてよ、本書の著者は女性なのだから、女性の問題を論じた本を読むべきであって、男性が書いたものでは参考にならないのではないか?

 そう思った本書の著者は、女性のための自己啓発書も随分と読んだ。中でも、上野千鶴子氏の著作は一九八〇年代から随分と読んだ。

 厳密に言えば、社会学者である上野氏の著作は女性用自己啓発本ではない。あくまでも社会科学の面から見た女性問題を啓蒙(けいもう)的に分析するものだ。

 しかし、本書の著者にとっては上野氏の著作は自己啓発本だった。女性がこの世界で

遭遇(そうぐう)するであろうさまざまな困難が、より大きな政治や社会や経済の文脈の中で鮮やかに分析されていた。個人の努力では超えることができない問題にぶつかり、自責することしかできなかった女性たちに、上野氏の著述は、より大きな視野を与えてくれた。

 本書の著者は上野氏の御著書を読むと、グジャグジャな脳の中がクリアに整理され頭が良くなったような錯覚を起こしたものだった。

 あなたが何歳であれ、女性としてのあなたが二一世紀の今現在置かれている政治的経済的社会的状況を把握(はあく)したいのならば、上野氏の『女たちのサバイバル作戦』(文春新書、二〇一三年)は必読だ。

『女たちのサバイバル作戦』には、一九八六年の雇用機会均等法の施行(しこう)から現在にいたる女性を取り巻く労働環境の変化と女性間格差拡大の問題が論じられている。決して楽観的にはなれない日本と世界の現在と未来において、女性がどうあるべきかという提言もなされている。

 上野氏は、もちろん政府や企業のすべきことも提言している。女性個人に対しては、経済的には「マルチプル・インカム」をめざすように提言している。要するに、いろんな方法で稼ぎなさいね、ということだ。

 上野氏は、自分自身の中に多様性を取り込むことも提言している。組織に終身雇用されて生きる従来の勝ち組の生き方は誰にとっても不可能になりうるという予測のもとに、さまざまなことをして稼ぎつつサバイバルしていくことを推奨(すいしょう)している。

 同時に、女性間格差を越えて社会構造的に弱者にならざるをえない女性同士の「共助(ともだすけ)」を提唱している。

 とはいえ、本書の著者は、上野氏の著作にいろいろ教えられながらも、「やっぱり私の求めるものとは違うなあ」と思わざるをえなかった。

 たとえば、いろいろなことができるようになってマルチプル・インカムを達成して稼ぐにしろ、「共助け」できる友人ネットワークを構築するにせよ、本書の著者には無理だ。不可能です。

 本書の著者はブスで馬鹿で貧乏だから、いろいろなことができない。何をさせてもうまくできたためしがない。

 それから、ブスで馬鹿で貧乏なので、傷つきやすいことが多く、他人とネットワークなど作れそうもない。面倒くさい。そもそも他人があまり信用できない。

 ブスで馬鹿で貧乏だからこそ、本書の著者は、人間というものが、いかに悪意に満ちたものであり、くだらない位(くらい)取り(自分のほうがここは上だとか、優れているとか、比較品定めすること)ばかりしがちなことを知っている。本書の著者には、そういう人々の悪意や邪気を包み込めるような大きな人間愛はない。

 また上野氏の言う「共助け」とは、相互扶助とか互恵関係だと思われるが、本書の著者は他人に有益な何かを自分が与えることができるとは思えない。

 ともかく、ブスで馬鹿で貧乏だと、ついつい自分自身にも他人にも過大な期待はしなくなる。ましてや政府や行政になど。

 

●たとえば田村麻美著『ブスのマーケティング戦略』

 ならば、もう少し敷居(しきい)の低い田村麻美の『ブスのマーケティング戦略』(文響社、二〇一八年)ならばどうだろうか。

『ブスのマーケティング戦略』は、自分はブスであると早々と小学校時代に自覚した田村氏の青春の記録だ。『ブスのマーケティング戦略』には、自分を商品として査定し、自分が売れるマーケットを模索(もさく)し、豊かな性体験もキャリアも男も子どもも獲得し、ブログが認められ本まで出版する過程が赤裸々に楽しく描かれている。

 この本は実に面白い。無茶苦茶に面白い。これほどに正直で率直な女性用自己啓発本はない! すべての日本の高校は、女子高校生用課題図書として『ブスのマーケティング戦略』を選ぶべきだ。

 が、本書の著者は、この素晴らしい現代日本女性の自己啓発本に対してでさえも引いてしまう。

著者の田村氏は、単なるブス (写真で見る限りそれほどのブスではない)ではない。

非常に頭のいい観察力のある女性だ。実行力も行動力も度胸もある。税理士という立派な国家資格も持っている。高校は埼玉県一番の進学校だ。立教大学経済学部出身で、立教大学大学院の博士課程前期(修士課程のこと)も修了している。二〇一八年現在で早稲田大学のビジネススクールに在籍中だ。MBA(経営学修士号)取得後は、税理士としてばかりでなく経営コンサルタントとしても活躍する予定の方である。

 ブルータス、お前もか。やっぱり、自己啓発本を書くことができる人は高スペックな

のだ。

「自分にうそをつくな! かっこつけるな! 好かれたいんだろう! セックスしたいんだろう! その愛欲・性欲を認め、エネルギーにするんだ!」と堂々と書ける女性は非凡に決まっている。

 本書の著者には、自分を商品として売り出すマーケティング戦略なんて無理だ。そんな分析力も思考力も実行力もない。だって馬鹿だもん。

 

●自分で書くしかないし老後対策も必要

 

 というわけで、この世に出版物は多いが、ほんとうに低スペック女子にとって共感できるし、実践可能な方法は書いてくれていない……と、本書の著者は、あらためて思った。

 本書の著者は、そろそろ自分の人生の果てが先に見えてきた年齢だ。だから、分不相応(ぶんふそうおう)にもこう思うようになった。じゃあ、何につけても中途半端な低スペック女子向き自己啓発本を誰も書いてくれないならば、私が書こうと。遺書のつもりで書いちゃおうと。

 現代日本には、おびただしい数の本が毎日出版されている。そこに本書の著者のような中途半端な馬鹿が書くものを加える意味はない。全くない!

 ではあるが、本書の著者には、老後対策として本なるものを書かねばならないという切羽(せっぱ)詰まった事情もある。本書の著者は、退職後に年金生活者になっても、書籍をやたらに注文する癖を矯正できない。せめて本代くらいは稼がなければ食べてゆけない。

 しかし、アルバイト的なものにせよ雇われての賃金労働はしたくない。本書の著者は、何につけても中途半端でブスで馬鹿で貧乏であるので、非正規雇用で四年間、正規雇用で三一年間の賃金労働をするのにさえも非常に難儀した。

 その楽しくない賃金労働のストレス解消のために収入はほとんど浪費したので、預金額も少ない。

 まだ現役で働いている夫がいるので、将来は夫の年金と夫の預金にたかる予定でいたが、その頼りの夫が二〇一八年秋に大腸がんのステージ3Cと診断された。

 夫の生存率を高めるべくやれるだけのことを本書の著者はするつもりだが、こればかりは神様の領域だ。

 それに加えて、国家財政破綻(はたん)に預金封鎖に新円切り替えで、庶民の預金は没収されるという噂もある。年金破綻もありえるそうだ。

 いや、日本の国家財政破綻説などは、国民から税金をさらに収奪したい人々が流すデマであるという見解もある。

 どちらが正しいのか、本書の著者にわかるわけがない。

 確実に言えることは、本書の著者の老年期も、青春期や中年期と同じく悪戦苦闘になるということだけだ。

 やっぱりね。

  ということで、収入の道を探るべく、本書の著者は本なるものを書くことにした。

 すみません。こんな志(こころざし)の低い理由で本を書くなんて。でも、これが掛け値のない真実です。

 

●本書の著者の紹介

 

 本書の著者の藤森かよこについて紹介する。

 私は一九五三年に愛知県名古屋市に生まれた。日本でテレビ放送が始まった年に生まれた。

 私は、高校生の頃から、「女だからという理由で損をする気はさらさらない」という意味でのフェミニストだった。自分で稼いで、自分で稼いだ金を好きなように自分のために消費して好きに暮らしたいだけだった。

 根が非常に怠惰なので、ほんとうは、好きなように消費できる優雅で気楽な類の家事をしなくていい高級専業主婦になりたかった。

 しかし、高収入の安全確実なエリート男を夫として絶対に獲得できるような家柄に生まれたわけではない。「玉の輿(こし)に乗る」ことができる美貌も持ち合わせていない。

 清貧で誠実な男の専業主婦となり清く正しく美しく慎ましく家事に励む生活をする気は全くなかった。私は清貧にも忍耐にも興味がない。家事はなるべくしたくない。そんな能力も体力もない。

 ならば、自分で働いて稼いで食っていかなきゃ。

 とはいえ、男女同一労働同一賃金の職は、私の若い当時は教員か医師か弁護士か官僚ぐらいしかなかった。当時の私は言語道断(ごんごどうだん)に無知であり、男女同一労働同一賃金の職種を、これら以外に知らなかった。

 これらの職種の中で、何とか私でも就けそうな可能性のある職は教員だった。義務教育の教員は無理だった。子どもには興味がない。保護者と関わるのも真っ平御免だった。残るは高校教員のみ。

 それで大学は地元の南山(なんざん)大学の文学部英文科に入学した。当時の南山大学文学部英文科(今はない)の偏差値は六〇ぐらいだったろうか。愛知県の県立高校の英語教員には南山大学出身者が多かった。私には、地元の国立大学の文学部や教育学部に合格する学力はなかった。

 有名国立大学か慶応大学か早稲田大学に行く以外は上京させないし、浪人も駄目と父に言われていた。大丈夫だよ、受かるはずないから。

 ところが高校の英語教師になるつもりだったのに愛知県立高校教員採用試験に落ちた。高校での教育実習の経験から、私は高校教員の職が勤まりそうもないと察知していた。だから落ちたショックはさほどなかった。

 しかし、ならば、さてどうしようか。

 すると、大学の英語教員になるという案が浮上(ふじょう)した。県立高校の英語教員の採用試験は狭き門だったけれども、大学の英語教員になろうとする人間の数は少ない。ならば狙(ねら)い目だ。

 大学の一般教養課程では英語は必修だ。大学の教員なら、授業があるときだけ出勤す

ればいいはず。毎日午前九時から午後五時まで働かなくていいはず。ラッシュアワーの

電車に乗る必要はないはず。夏休みもあるはず。大学の教員ならば、職場に自分の研究

室があり同僚と顔を付き合わせる必要はないはず。世間話しないですむはず。偏屈でい

いはず。

 ならば大学教員になろうと私は心に決めた。

  一九六〇年代や七〇年代は大学の新設も多かった。英語教員の採用が比較的多かった。

当時は、インターネットによる英語の自学自習システムもなかった。スカイプでの英会

話教育もなかった。英語専門学校へのアウトソーシングなどの外部に英語授業を委託し

て人件費を抑えることもなかった。どこの大学でも教養課程の英語教師を必要としてい

たので、雇用はあった。

 大学の英語教員になるには少なくとも修士号の取得が必要だと知った。だから母校の

大学の大学院文学研究科英米文学専攻(今はない)の修士課程に進学した。

 大学院では、英語教育にも文学研究にも興味はなかったので、研究の真似事をするの

に難儀した。論文なるものを書くのに非常に苦労した。

 論文を書くために買いまくり集めまくった書籍の山を眺めるたびに、「これだけ投資したのだから、絶対に元を取らねばならない!」と自分を励ましながら、どうでもいい論文を書き、どうでもいい研究発表を学会で重ねた。

 博士課程で必要単位を取得した後は非常勤講師を何年か続けながら、いくつかの大学に応募した。落選続き。地元の大学の英語教員は地元の名古屋大学出身者のひとり勝ち。もしくは東京や関西の有名大学出身者が有利。そんなあたりまえのことも知らなかった私であった。

 大学院の英文学の教授は「女の子は消費のための勉強をするべきであって、就職のことなど考えないように」と言った。失せろ、死ね、馬鹿。

 しかし、ソ連のチェルノブイリで原発事故があった一九八六年、私は岐阜市立女子短期大学にめでたく採用された。

 私は最終面接まで残ったふたりのうちのひとりではあったが、実のところ選考委員会は私ではない筑波大学出身の候補者を選ぶことを決めていた。当然だ。ところが、面接前日にその候補者が東京の大学に採用された。で、自動的に私が岐阜市立女子短期大学に採用された。奇跡が起きた!

 このときの喜びは忘れられない。これで健康保険も年金も大丈夫だ!

 私の大学院時代の後輩の女性のひとりは三七歳で自殺している。「年金のこと考えると心配で夜も眠れなくなるんです」と言っていた。私は三三歳で、やっと正規雇用の職に就けた。

 とはいえ公立の女子短大なので待遇は悪かった。名古屋から岐阜まで通うのも大変であった。長くいてもしかたないと私は思った。

 二年後に名古屋市内の金城学院大学短大部に応募して、一九八八年に採用された。ここでの採用は、選考委員にとって、地元で一番の「名古屋大学出身者より馬鹿だから扱い易くおとなしいだろう」と値踏みされてのものだった。どんな思惑(おもわく)からであろうと採用されれば、こちらの勝ちだ。これで年収は二倍になった。

 とはいえ安心はできなかった。当時から短期大学の消滅が予想されていたので、いつまでも短期大学の教員では職を失う恐れがあった。私は、あちこちの四年制大学に応募した。落選続き。やっと、八年後の一九九六年に大阪の桃山学院大学に採用された。四三歳だった。

 桃山学院大学は労働条件も非常によく、かつ学生とも楽しく過ごせた。上司や同僚にもややこしいのは少なかった。非常に非常に多忙だったけれども、充実した日々だった。

 しかし、年齢も五〇代半ばにさしかかると、ファイトが湧(わ)いてこなくなった。競争の激しい関西地域の中堅私立大学での教育サービス労働や、学内での教務関係や入試関係の仕事や、高校への出前授業などの営業活動をするのに疲れてきた。

 二〇〇八年には、すでに教師としてのやる気は消えていた。しかし、五〇代半ばで無職も困る。年金のこともある。

 そんな頃に、二〇一一年度より開設の広島県の福山市立大学に移らないかというお話をいただいた。場所を変えれば、やる気のなさに火がつくかもしれないと私は思った。

 奇しくも、あの三月一一日に大阪から広島県福山市に移動した。しかし、やはり無理だった。やる気もファイトも回復しなかった。健康問題も出てきた。定年退職を一年早め、二〇一七年三月に退職し、今日にいたる。

 これが私の履歴です。

 

●本書の構成

 

 この本は三部構成だ。青春期編、中年期編、老年期編と分かれている。老年期編がもっとも短い。私がまだ老人ビギナーだから、書けることに限りがある。ほんとうは老年期をしっかり経験した死後に書くべきだけれども、それは無理。

 少女時代編はない。子ども時代や幼い少女時代に留意すべきことは書かれていない。この本を読むあなたは、私と同じく、何をしても中途半端でブスで馬鹿で貧乏の低スペック女子だと思う。だから、子ども時代や少女時代に自己啓発本など読むはずない。

  ほんとうは、人生の競争は生まれたときから始まっている。乳幼児の時期の育てられ方は知能の発達に大きく影響を与える。一〇代の頑張りは充実した二〇代を作る。

 私の場合は、生まれてから三〇歳過ぎるあたりまで無知蒙昧(むちもうまい)であったので、その後にいろいろあがいても、遅れを取り戻すことは無理だった。まあ、しかたない。馬鹿で生まれ育ってしまったのにも何らかの意味はあるのだろう、と思うしかない。だからこそ、見える風景もあるのだろう。知らんけど。

 

●本書は「おすすめ本ガイド」でもある

 

 本書では、読めば有益な書籍もテーマに沿って紹介してある。すべて私が実際に読んで面白いし有益だと思った書籍ばかりだ。

 世に「おすすめ本ガイド」的書籍は多く出版されているけれども、私からすると、著

者の方々が取り上げる本は立派過ぎる。古今東西(ここんとうざい)の古典を並べられても困る。

 大手新聞が年末に知識人に発表させる類の「今年の三冊」なども敷居が高い。誰が読むんだ、あんなマニアックな本。新聞の書評欄も見栄を張っている感じ。読まずに書いている書評もある感じ。

 世評の定まった名著ではなく、気楽に読める類の一般書は「雑本(ざっぽん)」と呼ばれる。「雑本」だからといって内容が薄いとは限らない。有益でないとは限らない。人生を変えてくれる本が古典的名著ではなく、古書店の店先で一〇円や五〇円で売られている「雑本」と呼ばれる類のものであることは、実際に多いのだ(と思う)

 

●基本はひとり

 

 この本を手にしているあなたの立場はいろいろでしょう。独身かもしれない。既婚かもしれない。内縁関係かもしれない。同性愛者かもしれない。子どもがいるかもしれない。子どもがいないかもしれない。養子を育てているかもしれない。

 この本は、女性のさまざまな境遇の違いを敢えて無視している。どう生きるにせよ、あなたが自分で自分の人生に責任を負わねばならないことは同じだ。独身も既婚も子持ちも子なしも関係ない。

 どっちみち死ぬときは、ひとりだ。家族に囲まれてご臨終だろうが、孤独死だろうが、大地震で瓦礫(がれき)につぶされようが、核ミサイルによって蒸発しようが、大差はない。

 死ぬ瞬間に、あなたが自分の人生を肯定できるかどうかがポイントだ。何をするにしても中途半端でブスで馬鹿で貧乏だけれども、この人生ゲームを捨てずに逃げずによくやってきたね! 健気(けなげ)だったね! と自分の頭をナデナデできるかどうかがポイントだ。

 この本には、あなたにとって不快なことも書かれているかもしれない。ブスで馬鹿で貧乏なあなたは、たたでさえ不用心に無思慮に生きるはめになりやすい。そんなあなたが、それなりに世の中を渡っていくための大雑把な指針が、この本には書かれているのだから、耳障(みみざわ)りなはずだ。

 

●前もって書いておく大指針

 

 この「長いまえがき」の最後に、ブスで馬鹿で貧乏なあなたが常に常に留意しておくべきことを書いておく。

 ともかく、現実と幻想をゴッチャにしないこと。これは、現実なのか、自分の思い込みや願望に過ぎないのか、世間に流通している類のほんとうは根拠のないファンタジーでしかないのか、常に考えること。

 一般通念とかその時代の支配的考え方は、所詮はファンタジーであるかもしれないと常に疑うのは、馬鹿なあなたにとっては面倒くさいことだ。でも、あなたは馬鹿で貧乏だからこそ、この種の一般通念に騙されやすい。どうでもいいことに悩みやすい。

 現実とファンタジーを区別するということは、自分にできることとできないことを区別するということでもある。自分はひとかどの人間だとか有能だとか善意の塊(かたまり)とか錯覚しないことだ。

 カネがないとできないことを、カネがないのに、カネの合法的調達もできないのに、しないことだ。これは、個人でも組織でも同じことだ。私たちは政府ではないので、通貨発行権はない。

 こんなことあたりまえだと思いますか? ところが、あなたはブスで馬鹿で貧乏なので、こんなあたりまえのことがわからないし、できない。何とかわかり、できるようになっても、ちょっと油断すれば、元のように脳の中は現実とファンタジーがゴッチャになる。だって馬鹿だもん。

 ただし、時には、自己治癒(ちゆ)活動としてファンタジーの中に逃げ込むことも必要だ。健康にいかに悪くとも、甘い食べ物が必要なときがあるように。現実を直視するエネルギーを取り戻すために、逆説的に現実逃避もしなければならないときがある。

 私も疲れると、現実逃避でアニメの『キングダム』を視聴して、空(から)元気をつける。心が乾燥すると、韓国テレビドラマの傑作の『トッケビ』を視聴して、ロマンチックな優しい気分になる。

 また、現実の状況を超えるためのヴィジョンという積極的ファンタジーも必要だ。こ

の種の積極的ファンタジーは昔から「理想」と呼ばれてきた。

私は、この世に救済(きゅうさい)はないしユートピアも実現しないと思ってる。なのに、人類は匍匐前進(ほふくぜんしん)ながらも「理想」に向かっているとも信じている。矛盾している。矛盾していたっていい。私が矛盾していたって、誰にも迷惑はかからない。

 現実はいつも泥臭くダサくて哀しく矮小で貧乏くさくて意味不明だ。でも大丈夫。馬鹿でもブスでも貧乏でも、きちんと生きていれば、そんな現実を受け入れ愛することができるようになる。疲れたら、ちょっとの間だけファンタジーに逃げ、元気になったら、また現実とおつきあいすればいい。

 では、ゆっくりのんびりじっくり私のつっこみどころ満載(まんさい)の長話を読んでやってください。読んでいる最中にむかついても、最後まで読んでください。

 

二〇一九年夏

藤森かよこ

 

=====

 

■馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。目次

 

長いまえがき …………16

本書の著者は低スペック女子の成れの果てである …………16

低スペック女子向け自己啓発本がない …………17

たとえば本多静六著『私の財産告白』 …………18

たとえば上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』 …………22

たとえば田村麻美著『ブスのマーケティング戦略』 …………25

自分で書くしかないし老後対策も必要 …………27

本書の著者の紹介 …………29

本書の構成 …………35

本書は「おすすめ本ガイド」でもある …………36

基本はひとり …………37

前もって書いておく大指針 …………38

 

Part 1 苦闘青春期(三七歳まで) …………43

 

1・1 容貌は女の人生を決める …………44

低スペック女子の青春は寂しい…………44

ブスで馬鹿で貧乏だと、もっと貧乏になる …………47

本格的ブスは美容整形手術を受ける …………51

美容整形手術をしたくないか、できない場合 …………53

普通のブスは見にくくない自分を捏造(ねつぞう)する …………54

パッケージ美人でいい …………57

青春期こそ外観改良の費用対効果は高い …………60

 

1・2 仕事について …………62

食える職に就ける勉強をする …………62

苦にならない仕事はみな天職 …………65

意外とちょろい世間 …………68

対人免疫力をつける …………70

 

1・3 自分に正直でいることの効用 …………74

ドタキャン癖 …………74

自分に正直でいるためには練習が必要 …………76

自分に正直でいると自分を受容できる …………78

自分に正直でいるとこの世の欺瞞(ぎまん)に騙(だま)されにくい …………80

 

1・4 セックスについて …………85

ブスで馬鹿で貧乏だと性犯罪にあいやすい …………85

とりあえず男を見たら性犯罪者と思う …………87

世界はまだまだ無法なジャングル …………89

強姦され妊娠した場合の対処 …………91

若い女性は人間嫌いなくらいが妥当 …………97

性交は通過しておく …………98

結婚するなら国語能力のある男性 …………101

 

1・5運のいい人間でいるために …………107

損の貯金と大川小学校事件 …………107

運の良くなる方法あれこれ …………112

ポジティヴ・シンキングは危険 …………115

スピリッチュアル詐欺師に関わらない …………118

 

1・6 学び続けること …………120

国語能力をつける …………120

読むものは何でもいい …………122

心を守る読書 …………124

税金と社会保険について学ぶ …………127

マナー本と手紙サンプル本の効用 …………131

馬鹿に最適な語学学習 …………134

 

Part 2 過労消耗中年期(六五歳まで) …………139

 

2・1 中年の危機 …………140

中年期は苦しい …………140

人生に突然の飛躍や覚醒はない …………144

しのごの言わず賃金労働に勤(いそ)しむ …………148

生活費を十分に稼ぐ夫がいるなら家事と育児に専念すればいい …………149

中年期に見えてくる日本の仕組み …………151

中年期に見えてくる世界の仕組み …………155

ピラミッド社会における中年のあなたが実践すべきこと …………159

 

2・2 若さとの別離としての更年期 …………166

更年期(こうねんき)に関する確認 …………166

更年期障害とは …………168

更年期実例観察―家庭編 …………171

更年期実例観察―職場編 …………174

働く女性は更年期で本格的に男社会の壁を感じる …………175

 

2・3生き直しとしての更年期…………179

女は誰でもふたり分の人生を生きる …………179

更年期は自己の転換変換上昇を模索(もさく)する時期 …………181

私の更年期体験その1 …………182

私の更年期体験その2 …………187

おばさんよ、大志を抱け …………192

 

2・4 依存症について …………196

みんな依存症 …………196

安全弁としてのプチ依存症 …………199

依存症が文化を創ってきた …………202

 

2・5 性欲について …………205

女性が性欲を直視する困難さ―ボーヴォワールの場合 …………205

女性が性欲を直視する困難さ―ハンナ・アーレントの場合 …………207

女性が性欲を直視する困難さ―アイン・ランドの場合 …………209

女性には三人の男性が必要? …………212

『夫のちんぽが入らない』の衝撃 …………213

老年期に入るまでに自分の性欲を消費しておく …………215

四人の男性が必要という説もある …………219

 

2・6 年下の人間との関わり方を学ぶ …………221

現代はヒラメ人間受難時代 …………221

ヒラメになりようがないブスで馬鹿なあなたの強み…………225

他人はみな情報の束(たば)であなたの教師 …………226

 

2・7 お金について …………229

金儲けも貯金も蓄財も特殊な才能が要る …………229

その日暮らしが歴史的には普遍的 …………232

「自分のお金」について考えていれば現実から遊離しない …………234

『となりの億万長者』だけ読めばいい …………237

カネを失くすことは厄落としになる …………241

 

2・8 さらに学び続ける …………244

中年期こそ最後のチャンス …………244

読書対象を広げる …………246

地頭(じあたま)だけに頼っている人はいない …………248

フェミニズム運動の恩恵を受けている現代女性 …………250

 

Part 3 匍匐前進老年期(死ぬまで) …………257

 

3・1 日本の現代と近未来は老人受難時代 …………258

馬鹿は中年期の終わりまでには死ねない …………258

長期的に見れば老年期はより充実したものになる …………260

国民の三人にひとりが六五歳以上になる二〇二五年 …………263

長い長い長い老年期 …………266

年金財政破綻への不安 …………269

病院が高齢者のセイフティネットではなくなった …………271

高齢者をターゲットにした犯罪の跋扈(ばっこ)…………275

高齢者のモデルがいない …………280

高齢者差別社会 …………283

高齢者が高齢者を差別する …………285

 

3・2 馬鹿ブス貧乏女の強みが発揮される老年期 …………288

徒手空拳(としゅくうけん)に慣れている …………288

貧乏を怖がらない …………290

老いればみなブスになる …………294

ミステリーゾーンを進むのは慣れている …………296

ひとりでも寂しくない人間になる …………299

蛇足 私の「ひとりでも寂しくない人間でいる方法」 …………303

 

3・3 身体メンテナンス …………306

問題は口腔と歩行 …………306

からだは肛門から舌までの一本の管 …………307

歩行移動能力の保持 …………313

3・4 勉強は死ぬまで死んでもする …………317

学びなおし …………317

読みなおし …………321

次世代に無責任にならないために新しい情報にもアクセスする …………323

 

3・5 人生最後の課題としての死への準備 …………328

終活は断捨離から …………328

高齢者施設はまだまだ発展途上 …………330

高齢者ひとり暮らしへの公的支援を活用する …………333

ひとりで死ぬことはいい、問題は死体の処理だ …………335

死んだら終わりじゃないと思っていい …………338

 

あとがき …………342

紹介文献リスト(紹介順) …………346

 

=====

 

■あとがき

 

 この本は書くのに、五ヶ月かかった。もちろん毎日書いていたわけではない。体力も

能力もないので、数日書いたら、数週間は休むといった調子だ。しかし、まさか五ヶ月

もかかるとは思わなかった。

 

 二〇一九年の二月一二日に、出版コンサルタントの尾崎全紀(おざきまさのり)氏から本を書いてみませんかとお話をいただいた。

 尾崎氏は、私のブログ「アイン・ランドに関係ない藤森かよこのBlog」の記事を読んでくださっていた。尾崎さんとは面識はなくSNS上での知人だった。

 尾崎氏は、サッサとKKベストセラーズの編集者である鈴木康成氏を紹介してくださった。

「私のような低スペック女子の人生論みたいなものなら書けると思う。一ヶ月ぐらいで書けると思う」と、私は尾崎氏に答えた。そうしたら、五ヶ月かかってしまった。

 この五ヶ月の間に参議院議員選挙があった。尾崎氏は「NHKから国民を守る党」から大阪で立候補なさった。「NHKをぶっ壊す!」と言いながら忙しく選挙活動で走り回る尾崎氏の多忙さにつけこんで、私はいったんは提出した原稿を書きなおしさせていただいたりした。

 私は、翻訳はしたことがあるし、論文もそこそこ書いてきた。アメリカ文学関連の共著の本も出版してきた。しかし、書籍一冊分の分量の文章を書くのは初めてであった。六六歳にして初めてであった。

 本一冊分の分量の文章を書くというのは大変なことだった!

 プロの書き手の人が、あれだけいっぱい本を出版できるのは、やはり才能が違うのだ。力量が違うのだ。

 これからは、安易にひと様が書いた本について気軽に論評するのは、やめよう。

 私に声をかけてくださった尾崎氏に感謝します。ありがとうございます。

 KKベストセラーズの編集者の鈴木康成氏に感謝します。ありがとうございます。

 素敵な装幀をしてくださった大谷昌稔(おおたにまさとし)氏とカバーイラストを描いてくださった伊藤ハムスターさんに感謝します。ありがとうございます。

 素晴らしい「警告コメント」を書いてくださったジェーン・スーさんに感謝します。ありがとうございます。

 

 本書を書くことは、私にとっては、自分の人生をふりかえり、残り少なくなった人生をどう生きるかを考えさせる契機となってくれた。

 二〇一八年一〇月に夫が腸閉塞で緊急入院し、大腸がんが見つかって以来、私は不安や疲労のためにストレスが溜まり、体調もすぐれない。

 両親の死は経験し、それなりに愛別離苦(あいべつりく)については考えたことがあった。しかし、配偶者の大病や死の可能性に直面することは、親のそれらに直面することよりも、はるかに苦しく不安なことだ。

 賃金労働生活から解放されて無職の日々をのんびり送っているうちに、私は迂闊にも錯覚してしまっていた。「おじいさんとおばあさんは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」的日々がずっと続くような気分でいた。

 そんなはずはないのだ、やっぱり。

 

本書を書くという仕事をいただけなかったのならば、私は、その不安や恐怖から距離を置くことができなかったかもしれない。自分の死についても考えることを真剣にしなかったかもしれない。

 本書で書いたように、私は、幸福感と感謝に満ちて死ねると思う。しかし、その前に消耗し尽くさねば。空っぽになるまで自分を使い倒さなければ。ぶっ倒れるまで生き切らなくては。

 私の初めての単著を読んでくださった方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました!

 

二〇一九年秋

藤森かよこ

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 副島隆彦先生の最新刊『米中激突恐慌』が発売されます。以下にまえがき、目次、あとがきを貼り付けます。参考にして、お手に取ってお読みください。よろしくお願いします。

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米中激突恐慌-板挟みで絞め殺される日本 (Econo-Globalists 22)

(貼り付けはじめ)

まえがき

この本を書き上げた直後(9月30日)、私はヨーロッパから情報をもらった。名門ドイツ銀行(ヨーロッパ最大の民間銀行。ドイツの中央銀行[ブンデスバンク]ではない)が破綻(はたん)する。ヨーロッパに金融危機(フアイナンシヤル・クライシス)が起きる。日本円は、激しく円高になる。1ドル=100円を割って80円、60円台になるだろう。

ヨーロッパ(EU)とアメリカ(トランプ政権)の貿易戦争(トレイド・ウオー)も始まった。制裁関税のかけ合いだ。欧米白人文明の内部分裂が起きている(10月2日)。

(きん)が、この6月初めから急激に上がりだした。

1トロイオンス(31.1グラム)が1560ドル(9月4日)まで上がった。日本の国内の価格では、1グラムが5300円(9月5日。卸値[おろしね])になった。「金(きん)を買うように」と、ずっと勧(すす)めてきた私の考えの勝利である。このあと、金(きん)はもっと上がってゆく。これまで金を買ったことのない人は、今のうちに金(きん)の地金(じがね)を買ったほうがいい。長い目で見て、金はもっともっと上がる。今の2倍になる。第2章で、これからの動きを詳しく予測する。

あと一度、下(した)()し(下落)したら、そこでサッと拾い(買い)なさい。

株価は、NY(ニユーヨーク)でも日本でも、最高値を更新しつつあるように見えた。だが、もうすぐ暴落が起きる。いくら上がっていると言っても、ジェットコースターと同じで、急降下する。この動きを2カ月周期で繰り返す。今の世界の金融市場は、きわめて不安定である。

このことを投資家、資産家、企業経営者は、肌身(はだみ)でよく分かっている。私たちは注意深くならなければいけない。常に慎重になって、用心しなければいけない。調子に乗って、また大損して痛い目に遭()うのは自分だ。ただし、生来(せいらい)の博奕(ばくち)打ちの才能のある人は別である。彼らは瞬時(しゅんじ)に動く。そうでないと、勝ち残れない。そういう人々は、私の本から世界の金融の動きの知識と情報だけ、取って行ってください。

この本では、米と中が、防衛(軍事)と金融経済の両面でぶつかることで、世界が不安定になって、金融恐慌が起きることをずっと説明してゆく。

アメリカと中国が貿易戦争(トレイド・ウオー)(ハイテク、IT[アイテイ]戦争でもある)で激しく衝突するたびに、NYや東京の株価が落ちる。そのせいで、世界中が不安定だ。このことを投資家や資産家が、心配して動揺している。自分の金融資産や投資した資金が、安全に守られるか、という根本的な不安を抱えて、そのことを口に出し始めている。

「株や債券の値下がりを見越して、先物(さきもの)の売りで儲けを出そう」とか、「金(きん)の地金(じがね)が値上がり出したので、そっちに短期間だけ資金を移そう」とかいう、安易な考えはダメだ。どうも、アメリカを中心にした戦後76年目の、世界金融体制(金・ドル体制。ブレトンウッズ体制)の崩壊、終わりが近づいている。そのことを投資家や資産家が、肌合いで敏感に感じ取っている。

私は最近、彼らから、直接の苛立(いらだ)ちや訴えを聞くようになった。彼らの、投資家としての動物的な勘(かん)から来る不安に対して、私はどのような理論と対策を立てることができるか、を真剣に考えている。

米と中が、世界覇権(ワールド・ヘジェモニー world hegemony )すなわち、世界の支配権をめぐって激突している。これが今の不安定な金融市場の大きな原因である。この本の英文書名に載()せたとおり、" The US‐China Hegemonic Cold war "「ザ・ユーエス・チャイナ・ヘジェモニック・コールド・ウォー」である。それは去年(2018年)3月に、貿易戦争(トレイド・ウオー)の火ぶたが切られたときからだ。米トランプ大統領が、先制攻撃(プリエンプテイブ・アタツク)で先に手を出した。

「もうこれ以上、中国を放っておくことはできない」と。さあ、それでだ。この戦いは、アメリカと中国の、果たしてどちらが勝つか。

日本国内では、今もなお、保守的な資産家や投資家、企業経営者たちは、「絶対に、アメリカが勝つ」と固く信じている。「やっぱりアメリカは強いんだー」と威勢よく言っている。だから、彼らは「NYや東京の株は、まだまだ上がり続ける」、そして「円ドルの為替(かわせ)相場は、強いドルが続くので、1ドル=130~140円の円安ドル高になる」と予想している。そういう人が多い。果たしてそうか。

私、副島隆彦の本の読者であれば、もう少し深い知恵に基づく、別の見方をする。このことをずっと、この本で説明してゆく。

副島隆彦

=====

目 次

まえがき

第1章 「米中激突 恐慌」と日本

●中国に対する、アメリカ国民の切迫感とは

●なぜトランプは「2人の主要閣僚」を叱りつけたのか

●市場を直撃した大統領のトゥイッター

●消費税10%で日本の景気はどうなるか

●ジェットコースター相場で、下落(11月)上昇(12月)暴落(2020年1月)

●反中国の「フォアマン・レイバラー」とは何か

●〝スプートニク・ショック〟の再来

●アメリカ人は中国への親近感を抱き続けてきた

●これからの株価を予測する

●トランプの「(政策)金利を下げろ」は正しいのか

●逃げ場がなくなる先進国

●2024年、先進国の財政崩壊(フィナンシャル・カタストロフィー)が起きる

●中央銀行総裁と財務長官の違い

●トランプは、アメリカの隠された大借金を無視できない

●「強いドル」の終わり

●恐るべき中国のプラットフォーマー

●銀行が消滅する時代

●日本が買わされたのは、トウモロコシだけではなく大量の兵器

第2章 今こそ金(ゴールド)を握りしめなさい

●金(きん)を買う人、売る人が増えている

●あと2年で金(きん)1オンス=2000ドルに

●世界金価格を決めるのは上海とロンドン

●ウソの統計数字に騙(だま)されてはいけない

●中国とロシアは、米国債を売って金(きん)を買った

●最後の買い場がやってきた

第3章 米中貿易戦争の真実

●米と中の冷戦(コールド・ウオー)はどのように進行したか

●ファーウェイ副社長の逮捕と、中国人物理学者の死

●トランプを激怒させた中国からの政府公電

●「アメリカ政府による内政干渉を許さない」

●なぜトランプは折れたのか

●李()(こう)(しよう)になぞらえられていた劉鶴

●対中国制裁関税「第4弾」の復活

●妥協派と強硬派――アメリカ国内が分裂している

●米国のIT企業とファーウェイ

●アメリカに敗北し続けてきた日本

第4章 米国GAFA 対 中国BATHの恐るべき戦い

●アリババ(BATHのA)の金融商品が与えた衝撃

●追い詰められたアップル社

●トランプはアメリカ帝国の墓掘り人になる

●アリババの歴史と全体像

●7000倍の資産膨張

●貿易戦争からハイテク戦争、そして金融戦争へ

●「中国の手先」と非難されるグーグル

●ホワイトハウスに呼びつけられたグーグルのCEO

●未知なる最先端の何ごとかが進行している

第5章 金融秩序の崩壊

●日本が買わされている米国債の秘密

●ECB総裁が「恐慌突入」を認めた

●2024年、10000円が1000円になる

あとがき

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あとがき

この『米中激突 恐慌』は、表紙に打ち込んだとおり、 Econo-Globalists 「エコノ・グローバリスト・シリーズ」の22冊目である。よくもまあ22年間も、私は金融本を毎年、書き続けて、生きながらえたものだ。我ながら感心する。

 この本を書き進めながら、第4章に入ったところで異変が起きた。私の脳にひらめきが起きた。第3章までは、まあ私のいつもの金融と経済(そしてそれを世界政治の動きから見る)の、どぎついあれこれの洞察(どうさつ)である。

第4章に来て、私は急に一気に、高いところに到達した。問題は、米と中の貿易戦争が、IT(アイテイ)ハイテク戦争に姿を変えたことではなかった。現下(げんか)の貿易戦争は、本当は金融戦争だったのである。すでに5(フアイブ)(ジー)の世界規準を握った中国ファーウェイ(華為技術)社をめぐるあれこれの抗争と、米中政府間(かん)の激突ではなかった。問題は、ファーウェイではなく、アリババ(及びテンセント)だったのだ。アリババが先駆(せんく)して握りしめた、スマホ決済と与信(金融)、さらには預金機能(金融商品のネット販売だ)が、世界の金融体制を根底から覆(くつがえ)しつつある。まさしく大(だい)銀行消滅である。クレジット会社もカード会社も銀行も、世界中で消滅してゆく。

 ヨーロッパ近代(モダーン)が始まって、ちょうど500年である。この近代500年間の欧米白人文明が敗北しつつある。問題はファーウェイではなく、アリババだったのだ。真に頭のいい人は、本書の第4章を読んで驚愕してください。ついでに、ソフトバンクの孫正義(そんまさよし)氏の力(ちから)の謎と裏側もバッサリと解いた。乞()うご期待だ。

 私とともに、この20年間、「エコノ・グローバリスト・シリーズ」で走り続けてくれた、担当編集者の岡部康彦氏が、満期退職した。岡部氏が念入りに下ごしらえしてくれたので、本書の第4章の快挙も成し遂げることができた。彼との仕事での長い付き合いは、このあとも続く。記して感謝する。

2019年10月

副島隆彦

(貼り付け終わり)
ginkoushoumetsu005

銀行消滅 新たな世界通貨(ワールド・カレンシー)体制へ (Econo-Globalists 20)

(終わり)

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決定版 属国 日本論
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