古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 日米関係

 古村治彦です。

 ジョー・バイデン政権成立前から、アメリカ、インド、オーストラリア、日本の戦略対話枠組である日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad、クアッド)が大きく報道されるようになった。バイデン政権の国家安全保障会議アジア・太平洋調整官(National Security Council Coordinator for the Indo-Pacific)であるカート・キャンベルが責任者の、対中封じ込め枠組である。日本の一部極右、単純なバカ右翼は「これでアメリカと一緒に中国征伐だ!」と喜んでいるようだが(自分たちだけで切り込むぞという考えがないところが奴隷根性そのものである)、事はそう単純ではない。

この枠組に入れられた、インドもオーストラリアも表面上は勇ましく、アメリカの意向に沿うように動いているように見せかけて、面従腹背、裏では「アメリカも中国も迷惑だなぁ」「勝手にやってろよ、馬鹿どもが」と言わんばかりの態度である。日本も、特に経済界は中国と全面的に衝突することは望んでいない。

アメリカは単独では中国を抑える力を持ってはいない。皮肉なことに中国をここまで成長させたのはアメリカの国内市場の旺盛な消費の結果であるが、今頃になって、インドとオーストラリア、日本を巻き込んでいざとなったら、けしかけさせようというところまで来ている。インドは中国と国境を接しているが、中国との全面的な衝突は望んでいない。オーストラリアは二面作戦である。アメリカにも中国にも両属という形を取る。これは非常に賢いやり方だ。以前にもご紹介したハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルト教授の論稿では、ドイツが米中露の間をうまく泳いでいるとして高い評価であったが、オーストラリアは米中の間をうまく泳いでいくことになるだろう。

問題は日本だ。日本も面従腹背、二面作戦で行くしかない。どことも喧嘩せず、が基本だが、日本の場合にはアメリカの属国という「立場」がある。非常に利用されやすい。国内の単純な右翼、反中反韓の人々が焚きつけられて、中国と韓国へ吠えかかる役割を果たされるだろう。エマニュエル大使のSNSへの投稿は非常に危険だ。アメリカが前面に立たず、日本が代理で中国にけしかけられる、気づいたら一緒にやっていたはずのインドとオーストラリアがいない、屋根に上ったが良いがはしごを外されてどうしようもないという状況に陥ることが懸念される。のらりくらり、どことも喧嘩しない、というのが長生きの秘訣だ。

(貼り付けはじめ)

ティーム・バイデンは外交を「アジアへのピヴォット2.0」から始める(Team Biden Should Start With an Asia Pivot 2.0

-中国を封じ込めるというアメリカの政策には、バイデンの支援者たちが認めるであろう寄りもトランプ政権からの継続性がより必要となる。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2020年10月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/10/19/biden-trump-china-india-asia-pivot/

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad、クアッド)の最新の会合が東京で開催された。この場で、アメリカが中国を封じ込めようとしている中で、多くのディレンマに直面していることが明らかになった。誰が今回の選挙でホワイトハウスへのレースに勝利するかは、このディレンマには関係がない。インドは伝統的に中国と対立することを避けようとしてきているが、そうした中でオーストラリア、インド、日本、そしてアメリカの外交担当大臣と長官が会合を持ったことが重要である。しかし、外相会談それ自体は4か国の新たな協力体制構築の明確な証拠を示すものではなかった。外相会談は、アジアにおける中国の台頭に対する懸念を共有する同盟国やパートナーとの間でさえ、ワシントンが行動を調整するのがいかに難しいかを浮き彫りにしている。

民主党大統領選挙候補のジョー・バイデンが勝利した場合、より伝統的な多国間外交政策を重視する彼にとって、この未熟なパートナーシップを更に発展させることは重要な課題となる。同時に、習近平国家主席がここ数カ月、より積極的な国際姿勢を取っている中国に対してより厳しいアプローチを約束した。このことは、アジア地域におけるアメリカの政策は、民主党所属連邦議員の多くが認めたがっている以上に、ドナルド・トランプ米大統領のアプローチとの連続性が必要であることを意味している。しかし、ワシントンのアジア政策の多くが混乱状態にあることは否定できない。より広範な見直しが必要だ。2011年に当時のバラク・オバマ大統領が発表した「ピヴォット(pivot)」戦略に類似した、より広範な見直しがが必要なのである。

中国の王毅外交部長は、4か国の戦略対話は少なくとも中国を苛立たせる能力は有していることを認めた。マレーシア訪問中、王毅は戦略対話のメンバー国が「インド太平洋版NATOan Indo-Pacific NATO)」を作ろうとしている、その目的は「地政学的な競争の火に油を注ぐ」ことだと非難した。この発言の内容は非現実的だ。アメリカは第二次世界大戦後にアジア地域にはNATOのような組織はふさわしくないと認識していた。アジア地域では、アメリカのパートナー諸国と同盟諸国は広く拡散し、個別の利益は多種多様である。新しい同盟のような関係を設立しようとした以前の失敗を経て、2017年に再生して以来、日米豪印戦略対話(Quad、クアッド)は、テロ対策、サイバーセキュリティ、沿岸警備サーヴィスといった、あまり攻撃的ではない分野を議論する低レベルの会合に限定されている。しかし、これは役に立たないという意味ではない。実際、サルヴァトーレ・バボネスが、『フォーリン・ポリシー』誌上で論じたように、戦略対話は廃止されるべきものでもない。実際、スタートは遅かったが、このグループは徐々に大きな意味を持つようになるだろう。

戦略対話の根底には、インドの考え方の変化がある。最近のヒマラヤ地域での中国との衝突を経て、ニューデリーは米中間のバランスを取る政策をほぼ放棄し、より強固に反中陣営に参加するようになっている。かつては中国への挑発的な行動を避けていたインドの政策担当者たちが、今では挑発的、積極的な行動を取るようになっている。地政学的緊張が高まっている時期に東京で日米豪印戦略対話会議を開催したのはその明らかな具体例だ。また、インド、日本、アメリカの3か国がこれまで参加し実施してきたマラバール海軍演習に、オーストラリアが参加することを発表したこともその一例である。アメリカとインドは、中国の軍事力の増強懸念し、対潜水艦戦などの分野でも軍事協力を深めている。

しかし、日米豪印戦略対話を強力に支持する人々でさえも、このグループの限界は認識している。最近の会議では、偽情報(disinformation)や新型コロナウイルスの管理など、中国に傾斜した幅広い議題が扱われたことが外交文書から読み取れる。しかし、4か国は正式な共同声明に合意することができなかった。おそらく、そうしようとさえしなかったのだろう。そう考えると、NATOのような組織を作る計画を進めるというのは、特にあり得ないことのように考えられる。北京から見ると、日米豪印戦略対話は中国を封じ込めるための攻撃的な計画のように見える。しかし、実際には慎重かつ消極的な姿勢にとどまっている。今のところ、中国の侵略という認識だけが、4か国を協力に向かわせている。今後とも、中国の行動が協力に拍車をかける可能性は高い。

ここから、アメリカの政策に関するディレンマが始まる。スティーヴン・ビーガン米国務副長官は2020年8月、日米豪印戦略対話の主な問題点を言い当てた。「中国の脅威に対応すること自体、あるいは中国からの潜在的な挑戦に対応すること自体、十分な推進力になるとは思えない。また、対話で話される内容はポジティブな議題でなければならない」とビーガンは述べた。しかし、ビーガンの上司であるマイク・ポンペオ国務長官は、北京に対してはるかに対決的な姿勢を取っている。これまでのところ、ポンペオは他の日米豪印戦略対話のパートナー諸国を怯えさせることなく、この姿勢を貫いている。しかし、他の3か国が何らかの形で中国との協力を求めていることを考えると、このアプローチには限界がある。

日米豪印戦略対話参加諸国は、中国とその行動に対して共通の懸念を抱いている。中国がインド太平洋地域の支配的な存在になるような事態は避けたいと考えている。しかし、何をすべきかについての処方箋を共有しているわけではない。ニューデリーの最近の変化を見ても、インドもオーストラリアも日本も、正当な理由なく中国を困らせたくはないのである。いずれも中国の強圧的な外交のリスクを懸念している。特にオーストラリアと日本には、維持すべき重要な経済的結びつきがある。東南アジアの国々の多くは、内心では中国の役割を懸念しているが、北京に対抗するための公的な行動を支持することには慎重で、こうした状況は各国の二枚腰の姿勢を生み出している。シンガポール出身の元外交官ビラハリ・カウシカン氏は最近、『ジ・オーストラリアン』紙とのインタビューで、「ポンペオのようなハードな封じ込めを口にすれば誰も参加しない。日本やオーストラリアであってもそうだ」と述べている。

これら全てにおいて、ワシントンにとって真の危険は、アジアへの取り組みが実際よりもうまくいっていると考えることだ。元アメリカ通商代表のロバート・ゼーリックは最近、トランプの中国政策が特に貿易面で「完全な失敗」だったと主張する、辛辣な論文を書いている。この先も、問題点のリストは長い。他のクアッド3か国との関係は改善しつつあるが、韓国やフィリピンといった伝統的なパートナー諸国との関係は破綻している。アメリカは、狭義の安全保障上の問題を超えて、より広範なアジア諸国とより深い関係を築くための経済的政策を欠いている。「中国を恐れるあまり、トランプ政権は北京の真似をし、アメリカの最大の強みである法の支配に基づく公正で革新的で競争力のある市場を破壊している」とゼーリックは『ワシントン・ポスト』紙上に書いている。

残るのは、軍事的な競争に頼った、バランスを失したアプローチである。2020年10月初旬、マーク・エスパー米国防長官は、アメリカは今世紀半ばまでに海軍の艦船を有人・無人合わせて500隻以上に拡大する計画であると述べた。国防総省の最近の調査によると、これは現在350隻の艦船を有する中国に対して海上での優位性を維持するための積極的な試みとなる。軍備拡張は、超党派のコンセンサスでもある。バイデンが勝利した場合のエスパーの後任として有力視されているミシェル・フロノイは最近、「南シナ海にいる中国の軍艦、潜水艦、商船を72間以内に全て沈める」ことができる能力をアメリカが開発すべきであると考えている。

次のアメリカ大統領が誰になるにせよ、アジアにおけるアメリカの軍事力を強化することが必要となる。中国の海軍の近代化は、アメリカの単独行動では追いつけないペースで進むと考えられる。しかし、これまで中東やヨーロッパからアジアへアメリカ軍をシフトさせる試みは、遅々として進まなかった。新型コロナウイルス感染拡大の後では、余分な資源を見つけるのは難しいだろう。どのような現実的なシナリオであっても、米国はパートナー諸国とこれまでと異なる種類の軍事関係を築かなければならないだろう。そうなるにしても、日米豪印戦略対話がこの強化された軍事協力の主要な手段になるとは考えにくい。

軍事力と反中国外交政策に傾くことで、アメリカの対アジア政策はバランスを欠くものとなっている。アメリカの元外交官エヴァン・フィーゲンバウムは、アメリカが「アジアにおけるヘッセン傭兵(Hessians of Asia)」になってしまうと警告を発している。ヘッセン傭兵とは、アメリカ独立戦争においてイギリス側が雇ったドイツ人傭兵部隊のことである。フィーゲンバウムの言葉が意味するところは、アメリカの同盟諸国とパートナー諸国はアメリカを中国に対する軍事上の釣り合いを取るための装置と考えるだろうが、アジア地域の政治上、経済上の諸問題を解決するための方策にはならないとも考えるだろう、というものだ。このようなアプローチは、ビーガンが述べた「前向きな課題」を追加しうる多くの差し迫った懸念を考慮すると、特に近視眼的であるといえるだろう。アメリカがアジアにおいて、ヨーロッパにおけるNATOのような効果的な集団安全保障システム(collective security system)を構築しようとするならば、非軍事的な関係、目標、価値の共有を反映したパートナーシップによってそれを実現しなければならない。

新型コロナウイルス感染拡大からの回復を加速させるための様々な方法は、各国の協調を進めることである。それによって各国間の関係が深化し団結する。国際貿易システムの修復はもう一つの方法である。国際貿易分野において、アメリカは環太平洋経済協力協定から脱退して以降、主導することに苦闘している。トランプ大統領の破壊的で一貫性のない政策に阻まれてきたのだ。サイバーセキュリティから人工知能と電気自動車のような出現しつつある部門を監督するルールまで、非軍事的な協調のための大きな根拠になる。しかし、繰り返しになるが、日米豪印戦略対話がそのための最適な場となるとは考えにくい。その代わり、アメリカはより広範なアプローチを必要としている。2011年のオバマ大統領のピヴォット(軸足転換)政策は、多くの批判を受けながらも、少なくとも、現在のアメリカの外交政策に欠けている目標の多くを達成しようとするものであった。それは、アジアにおけるアメリカの軍事力を強化する一方で、伝統的な同盟関係を修復し、より深い経済協力関係を構築することを目指したものである。その実行力は乏しかったかもしれないが、基本的な考え方は健全であった。バイデンが大統領になった場合、「アジア・ピヴォット2.0(Asia Pivot 2.0)」を構築することは、素晴らしい出発点となるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 昨年の大統領選挙前、「アジア諸国はバイデンの対アジア外交に疑念を持っている」という内容の論稿が発表された。ここでは備忘録の意味もあって、それを紹介する。

 内容はいたって簡単で、「オバマ大統領は中国に対して融和的で関与しよう、させようとしてきたために中国を強化させた。一方、トランプ大統領は中国には対決的な姿勢で臨んだ。バイデンが大統領になったら、融和的で関与政策に戻ってしまう。こうしたことをアジア諸国は憂慮している」というものだ。

 バイデン政権のアジア政策に関しては、中国に対して対決姿勢(クアッド)を取る派のカート・キャンベルNSCインド・太平洋調整官(「アジア政策のツァーリ」と呼ばれている)と「中国とは破滅的な結果にならないに様に競争する」派のジェイク・サリヴァン大統領国家安全保障担当補佐官がいる。この2つの流れの中で、後者の流れを主にしながら、前者の対決的な姿勢があることも意識させるという構図になっている。しかし、大きな流れとしてアメリカはアジアから少しずつ引いていく。

 昨日以下のような記事が出た。

(貼り付けはじめ)

●「キャロライン・ケネディ氏、駐豪大使に…岸田氏とも交流」

2021/12/16 10:16

https://www.yomiuri.co.jp/world/20211216-OYT1T50126/

 【ワシントン=田島大志】バイデン米大統領は15日、駐オーストラリア大使にキャロライン・ケネディ元駐日大使(64)を指名すると発表した。

 ケネディ氏はジョン・F・ケネディ元大統領の長女で、オバマ政権下の2013~17年、女性初の駐日大使を務めた。オバマ大統領の広島訪問や安倍首相の米ハワイ・真珠湾訪問の実現に貢献し、当時外相だった岸田首相とも交流を重ねた。

 バイデン政権は中国への対抗を念頭に、米英豪の安全保障協力の枠組み「オーカス」を創設するなど、豪州を重視しており、ケネディ氏にさらなる関係強化を託すとみられる。

 バイデン氏は、フィギュアスケート元世界女王のミシェル・クワン氏(41)を駐ベリーズ大使に充てることも明らかにした。

(貼り付け終わり)

 キャロライン・ケネディは民主党の超名門であるボストン・ケネディ王朝のプリンセスであり、「使い勝手」の良い人物だ。キャロラインの駐豪大使指名は、「オーストラリアをしっかりアメリカ側で確保する」という意思表示であるが、ここに重要な手駒であるキャロラインを持ってこなければならないというのは、その確保が最重要でありながら、とても難しいということを意味している。そして、アメリカはオーストラリアまで「引く」ということを示している。

 上の記事にあるが、民主党のフィギアスケートの元人気選手で世界女王にもなった中国系のミッシェル・クワンは大統領選挙でバイデンを熱心に応援しており、その論功行賞ということもあるが、現在中国が影響力を増しているアフリカに対する攻めの一手の手駒ということになるだろう。政治的な動きができるかは未知数だが、クワンの将来の政界転身に向けた箔つけのための準備ということもあるのかもしれない。

 アジア諸国の意向としては「米中が本格的に対決して、自分たちに迷惑が掛かるのはごめんだ。アメリカが衰退するなら自分たちに迷惑が掛からない形で、引いていって欲しい。中国との関係は自分たちで折り合いをつけるから」ということになる。「中国怖い、アメリカがいなくなるのは嫌だよー」というのはあまりに小児病的で単純過ぎる考えだが、日本はそれが主流になっているというのが、日本外交の弱点ということになる。しかし、その裏では「中国ともきちんとつながらなくては」という「本音」も存在し、それが機能している。

(貼り付けはじめ)

アジア地域においてバイデンは信頼に対して疑問を持たれている(Biden Has a Serious Credibility Problem in Asia

-アメリカの同盟諸国はトランプ大統領とうまくやっており、彼の中国に対する強硬な姿勢に好感を持っている。そして、バイデンの勝利について懸念を持っている。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2020年9月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/09/10/trump-biden-asia-credibility-problem/

ビラヒリ・カウシカンはシンガポールの幹部クラスの外交官を務めた。彼は物事をはっきり述べることで知られている。しかし、オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスに対するカウシカンが最近発したコメントは通常よりもかなりきついものとなった。今年8月、カウシカンはフェイスブックに「ライスが災いの種になるだろう」と書き込んだ。この時に民主党の大統領選挙候補者ジョー・バイデンがスーザン・ライスを副大統領候補者に選ぶことを考慮しているという報道が出ていた。カウシカンは、バイデンが当選して政権を担う場合に国務長官と国防長官に就任する可能性があるライスについて、中国に対して弱腰になるだろうと述べている。カウシカンは「アメリカは、気候変動における中国との協力を得るために競争を強調すべきではない、と考える人々の中に、ライスは含まれている。このような考えは国際関係の本質についての根本的な誤解である」と書いている。カウシカンはバイデンの勝利後の予測を次のように述べている。「私たちはトランプ時代について郷愁をもって振り返ることになるだろう」。

カウシカンの厳しい見方はアジア地域において知的な人々の間では例外だと考えられるだろうが、バイデン政権の外交に関しては例外ではない。アメリカのアジア地域における友人たちは、バイデンの勝利を静かに心配しており、日本やインドなどの重要な同盟諸国にとってはなおさらだ、という事実はワシントンにいる多くの人々を驚かせている。米国では、左派と右派からトランプ大統領を不快に思い、彼の政治に絶望している人々が出ている。そうした人々は、心ある外国人なら誰でもそのように考えるはずだと確信している。ヨーロッパの多くの地域ではそうかもしれない。しかし、アジアの多くの地域ではそうではない。東京、台北、ニューデリー、シンガポールなどの各国の首都の政府高官たちは、トランプ大統領の中国に対する厳しいアプローチに比較的慣れている。一方、バイデン大統領誕生の可能性が高まる中、アジアの有力者の多くは、北京に対して焦点が合わず、甘い態度をとっていたオバマ時代の不快な記憶を思い出していることだろう。その記憶が正しいかどうかはひとまず置いておいて、バイデンにはアジア地域における信用にかかわる問題があり、それを解決するのは難しいかもしれない。

民主党全国大会における演説の中で、バイデンは自身の政権の重要課題を4点挙げている。それらには新型コロナウイルス感染拡大対策や人種間の正義の促進が含まれている。中国への対処はアジア諸国の外交政策関連エリートたちの重大な懸念となっている。しかし、中国への対処はバイデンの挙げた重要課題の中に入っていなかった。今回バイデンが中国について言及しなかったことについては、東京でも注目されている。例えば4月の『アメリカン・インタレスト』誌の論説記事では、トランプに対する日本の見解がうまくまとめられていた。論説記事のタイトルは「対決的な対中国戦略の諸価値(The Virtues of a Confrontational China Strategy)」であり、日本外務省の官僚が匿名で書いたものだ。論説の中で著者の外務官僚は、オバマ時代の中国政策について、「優先的な使命は常に中国との競争ではなく、中国との関わり合いを持つことだった」と痛烈に批判している。トランプの諸政策は不完全だが、北京に対するより強硬なアプローチは歓迎されると著者は主張している。この官僚は「もし可能だとしても、トランプ大統領出現以前の世界に戻りたいと私は望むだろうか?」と問いかけている。この人物は次のように続けている。「東京にいる意思決定者の多くにとって、その答えはおそらく“ノー”だろう。なぜなら、トランプ政権下で実行が不十分でも基本的には正しい戦略を採用されている方が、オバマ政権下で実行は十分でも曖昧な戦略を採っていたことよりも良いからだ」。

公平に見て、この匿名の著者による論稿記事は日本政府の考えの一つを示している。しかし、論稿の発表には外務省の正式な承認が必要だったことは間違いなく、多くの高官の意見が反映されていると考えられる。また、2019年末に日本を訪問した際に私が聞いた話では、政府高官や外交アナリストたちは、トランプが再選されることについて、驚くほど楽観的な見方をしていた。対照的に、バイデンが当選すると、中国のパワーを管理し、抑制するための政治的意志が欠如していると多くの人が指摘するアプローチが復活するリスクがあると考えていた。

同様の思考はインド政府でも表面化している。インド外相で知性の高さで知られるスブラマニヤム・ジャイシャンカルは昨年、トランプ大統領が米印関係を損なったと考えておる人たちに反撃している。彼は「この23年の間にトランプに見られたのは、伝統的なアメリカのシステムとはまったく違うものだった。実際に、多くの分野で大胆な断固たる措置が実行された」と述べている。急速に悪化する中印関係の中で、インド政府は、トランプ大統領の混沌とした、しかし強引な反中政策を評価するようになっている。少なくとも、バイデンの登場は、インドの戦略的立場を複雑にする可能性がある。外交問題のコメンテーターであるラジャ・モハンは最近、バイデンは中国との対立を減らす一方で、トランプ大統領のロシアへの甘いアプローチを終わらせるだろうと予測している。モハンは「米露関係の新たな緊張とバイデン政権下での米中和解は、インドの諸大国との関係を確実に複雑にする」と書いている。

同様の懸念は台湾にもある。台湾の外交関係の高官たちはアメリカの対中政策の変化に敏感になっているのは当然のことだ。アメリカ合衆国保健福祉省長官アレックス・アザールが最近台湾を訪問したことはアメリカ政府との関係を深化させることになる。ワシントンに本拠を置く政策グループであるグローバル・タイワン・インスティテュートの副所長チィティン・イエは「台湾はトランプ政権第一期で利益を得た」と述べている。彼は台湾の多くの人々は「未検証の選挙公約よりも現在のコース」を支持するだろうとも述べている。

バイデン選対は、トランプの再選に安心感を持っているように見えるアジアの人々と意見が合わないだろう。多くの意味でそうするのが正しいことだ。二期目のトランプ政権は、既存の米国との同盟関係を無視した取引的なアプローチから、小さいながらも中国との軍事衝突のリスクの高まりまで、アジア地域に大きな損害を与える可能性が高い。また、バイデンへの疑念が普遍的なものではないことも事実だ。アジア地域の多くの人々は、米国の外交が対決的でなくなることを歓迎し、新たに融和(accommodation)の時代が到来することを期待している。シンガポールのリー・シェンロン首相は最近、トランプ政権ではなくバイデン政権の下で起きる可能性について次のように書いている。「米中2つの大国は、ある分野では競争をしながら、他の分野では対立が協力を妨げることのないような、共存の道を探らなければならない」と書いている。

更に言えば、バイデンは現在までのところ、オバマに比べてより強硬な対中国政策を主張してきている。今年初めの民主党予備選挙の討論会の席上、バイデンは中国の習近平国家主席を「犯罪者(thug)」と呼んだ。別の討論会では、中国を「権威主義的独裁政治(authoritarian dictatorship)」と形容した。アメリカの政治指導者たちの大多数と同様、バイデンは「中国は改革可能だ」という考えを放棄し、アメリカは、アジアに出現した競争相手である中国を打ち負かさねばならないと主張している。バイデン選対はより微かなシグナルをアジア各国に送っている。バイデンは、東南アジア諸国連合(ASEAN)への働きかけや、トランプが欠席しがちだったアジア地域の会合にバイデンが積極的に出席することを示唆している。バイデンの上級顧問の一人アンソニー・ブリンケンはツイッターに次のように投稿した。「東南アジア諸国連合は、気候変動と世界の医療レヴェルのような重要な諸問題に対処するためには必要不可欠な要素である。バイデン大統領は、重要は諸問題について、東南アジア諸国連合に出席し、関与することになるだろう」。

しかし、バイデンと彼のティームがよりタカ派的な対中国姿勢を推進する一方で、ジレンマに直面している。一つ目は人権に関してである。バイデンは、新疆ウイグル自治区に住む数百万人のイスラム教徒のウイグル族の窮状をしばしば取り上げ、この問題を北京に対する厳しいアプローチの中心に据えている。今月、チベットにも焦点を当てた厳しい言葉で、「私はアメリカの外交政策の中心に価値観を戻すことになる」と述べた。これは米国の進歩主義者にとっては魅力的なことかもしれない。アジア地域では、米国が友人に説教をしたり、民主的な改革を求めたりするという、オバマ時代の幸運とは程遠い色合いを帯びている。

さらに、気候変動問題に代表されるような第二の問題もある。バイデンは最近次のように書いている。「アメリカは中国に対して厳しい姿勢を取る必要がある。この課題に対処する最も効果的な方法は、アメリカの同盟諸国とパートナー諸国が一丸となって、中国の虐待や人権侵害に立ち向かうことである。それでも、気候変動など利害が一致する問題では、中国政府との協力を模索する」。トランプが気候問題に関心を持たないことを考えると、この緊張感がトランプを悩ませることはなかった。バイデンは気候変動問題の中国との協力を望んでおらず、民主党内からも進展を求める大きな圧力を受けています。しかし、それを実現するためには、世界最大の炭素排出国である中国への関与が必要だ。カウシカンのような批判者たちにとって、しかし、このような諸問題のリバランスがあるからこそ、バイデンは、オバマ大統領のように優先順位がバラバラになってしまうのではないかということになる。

究極的には、アジア諸国はどちらの候補者がホワイトハウスに入ろうがそれに適応するだろう。バイデンが勝利すれば、バイデンに疑問を持つ人々の懸念をすぐに和らげることができるだろう。トランプ時代の予測不可能性に郷愁を持つことはほぼないだろう。しかしながら、現在のところ、アジア諸国がバイデンに抱いている疑念は本物である。バイデンにとって最も大事なことはアメリカの有権者たちからの支持を得ることである。しかし、バイデンが今後の外交政策の中心にアジアの米国との同盟諸国との協力を据えていることを考えると、もう少し安心感を与えるべきではないか。

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対決的な対中国戦略の諸価値(The Virtues of a Confrontational China Strategy

YA

2020年4月10日

『ジ・アメリカン・インタレスト』誌

https://www.the-american-interest.com/2020/04/10/the-virtues-of-a-confrontational-china-strategy/

ある日本の外交官僚は、トランプ政権の中国に対する対決的な(confrontational)アプローチの一部を批判しているが、バランス的に見て、オバマ大統領の関与と融和(engagement and accommodation)に比べて、ほぼ全ての面で好ましいと考えている。

日本の政策立案と実行に関わるエリートたちの間にある、ドナルド・トランプ大統領に対する見方は複雑だ。外交政策の専門家たちに現在のホワイトハウスの主ジョー・バイデンについて質問すれば、批判すべき多くの点を見つけるだろう。しかし、「オバマ大統領時代が懐かしいか」と質問すれば、同じ人たちのほとんどが否定的な回答をするだろう。いや、それ以上かもしれない。

日本の政策担当者たちは、オバマ大統領のいわゆる「21世紀型アプローチ」と比較して、19世紀型の、中国の「生のパワーで地域の全ての国々を威嚇し、自分たちの勢力範囲を拡大する」というやり方と対比して、絶望した。オバマ大統領が、ライバルではなく責任あるステークホルダー(共通の利害を持つ者)として、国際問題で中国と協力する可能性について話している間、中国政府は尖閣諸島に軍艦を派遣し、スカボロー礁からフィリピンを追い出し、南シナ海に人工島を作ることに邁進した。冷戦終結後、日本はアメリカに対して中国に対する警告を発し続けてきた。トランプ大統領には様々な欠点があるが、日本はついにホワイトハウスに、この課題を正しく認識し、評価してくれる人を得たようになった。

日本はこれまでアメリカの楽観的な中国に対する関与政策に公然と反対したことはないが(最初に関与政策が始まったのはクリントン政権下だった)、日本の中国研究者たちは、それによって中国が自由主義的な民主政治体制国家になるなどとは考えていなかった。日本の中国専門家の多くは、2000年の経験に基づいて、「中国はその文化や性質を変えることはない」と主張している。中国は昔も今も将来も中国なのだ。紀元前5世紀の孔子(Confucius)の時代から、中国人にとって世界には一つの天(heaven)と一つの支配者(ruler)、すなわち中国の皇帝(Emperor of China)しかいない。中国人以外の「野蛮人(barbarians)」は、中国の優位性を認めなければならない。

日本はこのような考え方に従ったことはない。日本のインド太平洋に対する歴史的なアプローチは、自国の主権を維持しつつ、近隣諸国との経済的、文化的、そして政治的な交流を維持することであった。近年の中国の台頭に直面しても、日本は主権と繁栄を維持する決意を変えていない。それを可能にしているのは、日米同盟を中心とした現在の国際秩序と地域のバランス・オブ・パワー(力の均衡)関係だ。日本はこの現状を維持したいと考えている。

中国は、少なくとも1992年に領土法(Territorial Legislation)を制定し、尖閣諸島や南シナ海の島々を「中華人民共和国の陸上の国土」とすることを一方的に宣言して以来、一貫して現状に異議を唱えてきた。クリントン政権下での融和の試みが実施された後、ブッシュは中国からの挑戦を真剣に受け止める覚悟を持って大統領に就任した。2001年9月に発表されたブッシュ政権初の「四年ごとの国防計画見直し(Quadrennial Defense Review)」では、初めて中国の挑戦に言及し、「アジア地域に強大な資源基盤を持つ軍事的競争相手が出現する可能性がある」と述べている。911同時多発テロ事件が発生した2001年9月、日本とアメリカは、国連総会期間中に毎年行われている両国の外相・国務長官と防衛相・国防長官の会談で中国について議論する計画を立てていた。中国はすぐにアメリカの国際規模の反テロリズム活動を支援することに同意し、アメリカが他の場所に集中している間、北京は少なくとも10年間は近代化(modernization)の努力を続けることができた。中国は、老朽化した軍隊の更新と近代的なパワープロジェクション能力の開発に多額の投資を始め、近代の中国では初めてとなる大規模なブルーウォーター・ネイビーを構築した。中国は、時代遅れの軍隊の刷新と近代的な戦力投射(power projection、戦力の準備、輸送、展開)能力の開発に多額の投資を始めた。近代の中国では初めてとなる大規模な外洋海軍(blue water navy、世界的に展開できる海軍)を構築した。そして、中国はその新しい能力を活用することに躊躇しなかった。南シナ海の前哨基地は徐々に建設され、機能が高められ、2008年からは尖閣諸島周辺の日本の領海に巡視船(patrol vessels)を送り込むようになった。

政権の座に就いたオバマ大統領は、ブッシュ大統領と異なり、より強硬な姿勢を取ることはなかった。オバマ政権は、リベラル派の知識人たちが主張していたことをそのまま実行していた。それは、世界規模の諸問題での協力を重視し、中国のいわゆる核心的利益[core interests](台湾、チベットや新疆での人権侵害など)には配慮するというもので、中国をよりリベラルなアクターに育て、既存の国際秩序を支えるアメリカの負担を分かち合うことを期待した。政権最後の日まで、オバマ政権は中国が「変更可能(shapeable)」であると信じていた。

オバマ政権期、政策のコンセンサスは一枚岩ではなかった。ワシントンの中国専門家たちの中には、関与の有効性に警告を発する人たちもいた。例えば、ジェイムズ・マンの2007年の著作『中国ファンタジー:資本主義が中国に民主政治体制をもたらさない理由』では、「関与」の概念から導き出される中心的な問題は次のような疑問だ。「誰が誰に関与するのか?」というものだ。我々は本当に中国と関わっているのか、それとも中国が自らの利益のために国際システムと関わっているのか?また、誰が誰を変えているのか?私たちが中国を変えているのか、それとも中国の行動に合わせて国際システムが変わっているのか?アメリカは、中国が立ち直ることに賭けて、かなりの「防御(ヘッジ、hedge)」を行ったと言える。オバマ政権は、日米同盟を強化し、オーストラリアやフィリピンとの軍事協力を強化し、インドやベトナムを緊密なパートナーとして迎え入れた。これらの取り組みは、東京をはじめとするアジアの首都では歓迎された。

しかし、優先されたのは常に中国への関与だった。2016年のオバマ大統領の中国訪問がその具体例だ。2016年7月、中国政府は、南シナ海におけるフィリピンの主張を圧倒的に支持したハーグの国際法廷の判決を、"単なる紙切れ(just a piece of paper "と述べて無視した。その1カ月後の8月には、中国は尖閣諸島に200300隻の漁船を派遣していた。その直後に杭州を訪れたオバマ大統領は、平和維持、難民、海洋リスクの軽減と協力、イラク、宇宙協力、アフガニスタン、核の安全と責任、野生生物の密輸対策、海洋協力、開発協力の強化、アフリカ、グローバルヘルスなど、米国が北京との間で優先する事項を反映したファクトシートを発表した。中国の強圧的で不安定な行動を検閲することについては言及されなかった。その1カ月後の2021年8月には、中国は尖閣諸島に200から300隻の漁船を派遣していた。その直後に杭州を訪れたオバマ大統領は、平和維持、難民、海洋リスクの軽減と協力、イラク、宇宙協力、アフガニスタン、核の安全と責任、野生生物の密輸対策、海洋協力、開発協力の強化、アフリカ、国際的な医療など、アメリカが中国との間で優先する事項を反映したファクトシートを発表した。中国が強圧的で不安定な行動についての文言を検閲していることについては言及されなかった。

これが、トランプ大統領当選の地域戦略上の背景となった。日本はもちろん、トランプ当選という結果に誰よりも驚いた。しかし、日本政府はすぐに行動を起こした。安倍晋三首相はすぐにニューヨークに飛び、トランプタワーのオフィスでトランプ次期大統領に会った。これは前例のないリスクの高い行動だった。安倍首相は国際問題についてトランプへの対策を講じ、将来のカウンターパートとの関係を構築し、地域の重要性と中国がもたらす課題について明確なメッセージを伝えることができ、日本にとってこの賭けは成功した。2017年2月、大統領就任直後のトランプと会った安倍首相は、その範囲と野心において前例のない共同宣言(joint declaration)に合意しました。そのインパクトは2点あった。

第一に、この共同宣言は中国に対して強力な警告シグナルを発した。両首脳は、日本政府が考えていた、アジア地域の平和と安定の基盤となる基本原則全てを確認した。米国は、インド太平洋地域への新たな深い関与、領土侵略に対する核抑止力(nuclear deterrence)、そして朝鮮半島の非核化(denuclearization of the Korean Peninsula)の追求に再び取り組むことを表明した。両首脳が発表したコミュニケ(communiqué)の中には、「アメリカはアジア地域でのアメリカ軍の存在を強化し、日本は日米同盟におけるより大きな役割と責任を担うことになる」と書かれており、さらに両国の外務大臣・国務長官、防衛大臣。国防長官に「両国のそれぞれの役割、任務、能力を見直す」よう指示した。大きな構図では、トランプ自身が合意し、それ以外の「詳細」はすべて上級閣僚が担当することになった。この最初の宣言は、日本だけでなく、アジア地域全体の同盟国やパートナーを安心させた。

第二に、二国間同盟の運営に関する意思決定を変えたことだ。宣言は共同で作成されたが、その内容は日本側が同等かそれ以上に貢献した。北朝鮮への最大限の圧力、自由で開かれたインド太平洋、東南アジアの重要性など、これらの概念は全て、ある程度日本側からの提案であった。アメリカ人の中には、日本にとってのこの転換期の意義を見落としがちな人もいるかもしれない。第二次世界大戦終結以降、日本の外交政策は多かれ少なかれ米国の意向と影響力に左右されてきた。日本の官僚や政治家たちは、日本の意思決定に国際的な圧力を利用することに慣れており、「外圧(Gai-atsu)」という言葉が存在する。今回の転換は心理的にも重要な突破口となった。日本の政府関係者は、これまでのように意見を求めたり批判したりするのではなく、インド太平洋における地政学的課題に対する戦略的方向性やアプローチを、アメリカの政府関係者たちと共同で策定するという初めての試みを行ったということになる。

それ以来、トランプは、習近平との会談の前後や、北朝鮮への対話を開くことを計画する際など、重要な場面で安倍に電話をかけている。メディアの報道によると、2019年5月時点で、安倍首相とトランプ大統領は、10回会談を持ち、30回電話で話し、4回ゴルフをしているということだ。電話での会話を基に測定した、両者の関係の量は、安倍首相がオバマ大統領との関係の数の4倍になっている。これは、トランプ大統領が外国の指導者の間で築いた最も親密な関係であることは間違いない。

しかし、トランプ政権による対中対決政策の実施は、多くのアメリカ人の中で大きな混乱を引き起こしている。ジョー・バイデン元副大統領が最近の『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した論稿の中で主張したように、「その課題(中国)に対処する最も効果的な方法は、アメリカの同盟諸国とパートナーと共に団結して統一戦線(united front)を構築して、中国の人権を無視し、攻撃的な行動に対峙することだ」ということになる。トランプ大統領は、中国に対してだけでなく、同盟諸国やパートナーに対しても経済的な影響力を行使したことで、アメリカの安全保障の保証や約束の信頼性について、アジア地域全体の多くの人々の間で疑念が生じた。日本も例外ではない。2020年1月に実施された日本経済新聞の最新の世論調査では、日本人の72%が、まさにこの不確実性のために、トランプ大統領の再選を望んでいないことが明らかになった。

それでは、可能ならば、トランプ出現以前の世界に私たちは戻りたいのか?東京の多くの政府関係者にとって、その答えはおそらく「ノー」だろう。その理由は、実行されていないが基本的に正しい戦略は、実行されているが曖昧な戦略よりも優れているからだ。私たちは、アメリカが再び融和政策に戻ることを望んでいない。アメリカの融和政策は疑いなく、日本や他のアジア諸国の犠牲の上に成り立つものだ。

私たちは、日米同盟が取引の上に成り立っているものだとは考えていない。つまり、私たちは、日米の国益によりよく応えると同時に、米国のより広い利益にも資するような同盟関係を望んでいる。より平易な言葉を使えば、中国に明確に焦点を当てた同盟は、曖昧で焦点の定まらない同盟よりも、あるいは最悪の場合、最大の課題に立ち向かうことを恐れている同盟よりも、優れている。その負担をどう分担するかは、同目に関するマネジメントの問題だ。言い換えれば、プロセスの問題ということになる。同盟は、共通の国益を実現するための手段であり、目的ではないことを再確認することが重要だ。

特に西ヨーロッパ諸国は、このような計算に戸惑うかもしれないが、これはヨーロッパが中国との関係において、経済的な取引を優先させ、中国が近隣に力を行使しても指導者が見て見ぬふりをしてきた結果に過ぎない。中国の威圧を受ける側の国にとって、アメリカの対中強硬路線は、米国の政策のどの側面よりも重要だ。台北、マニラ、ハノイ、ニューデリーなどにいるアジア各国のエリートたちは、トランプ大統領の予測不可能な取引を重視する方法は、米国が「責任あるステークホルダー(responsible stakeholder)」になるように中国をおだてることに戻る危険性に比べれば、より小さな悪であると計算している。ある高名な研究者は、「アジア各国のエリートたちは、奇妙なことに、トランプの2期目について悲観的になっている(トランプが当選できないと考えて残念がっている)」と主張している。

実際には、中国からの継続的な圧力に直面しているアジア諸国は、この地域における米国の深い関与とアメリカ軍の存在の継続を切望しており、日米同盟はその重要な構成要素となっている。トランプ大統領が同盟国からどれだけ搾り取れるかを自慢することについては、静かな憤りを感じつつも、ほとんどの国は、米国の深い関与が堅固であることを条件に、負担の分担の見直しを検討する用意があるとしている。ここには、何世代にもわたって安定性を保証できるような、アジア地域の健全な新しい活力を生み出すための真のチャンスが存在している。

もちろん、中国に対してバランスを取りながら対峙する戦略のより洗練された実行は大いに歓迎されるべきだ。それは日本のような考えを同じくする同盟諸国それぞれの強みと支援を活用することだ。2021年1月に誰がホワイトハウスの主になろうとも、日本政府はアメリカと対等な立場で二国間の戦略的議論を継続し、インド太平洋における米国の優位性とアメリカ軍の存在を維持し、我々全員が大きな恩恵を受けている既存のルールを基盤とする国際システムを支持するという現在の戦略目標を賢明に実行することに、共通の努力を傾けることができるように期待している。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 日本でのカジノ開発と運営を目指していたシェルドン・アデルソン率いるラスヴェガス・サンズ社が日本進出を断念したというニュースが飛び込んできた。シェルドン・アデルソンはドナルド・トランプ大統領とは長年にわたり盟友関係にあり、大統領選挙では大口献金を行った。トランプ大統領誕生に大きく貢献した人物である。
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トランプ大統領(右)とアデルソン(真ん中)
 日本では統合リゾート(
IR)法が可決されて、カジノをどこに作るかを検討する段階に入っている。東京のお台場、横浜の山下ふ頭、大阪沿岸部などが候補地となっている。カジノ開発をめぐっては自民党所属(当時)の秋元司代議士(元IR担当副大臣)が汚職で逮捕されている。カジノをめぐっては治安の悪化やギャンブル依存症の問題もあり、反対の声も大きい。そうした中で、トランプの盟友アデルソンは日本進出を目指し、トランプ大統領も後押しをしてきた。

 コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、大きなダメージを受けているのは旅行業であり、カジノ産業だ。アデルソンはフォーブス誌の長者番付でトップ50に入るほどの世界規模の大富豪であるが、昨年11月の段階では約4兆5000億円あった資産を現在では2兆9000億円にまで減らしている。旅行業の悪化と株式市場の急落がダブルパンチとなったようだ。

 今回の日本進出断念の発表の中で、アデルソンは「既存の施設から利益を生み出すことに力を注ぐ」「マカオとシンガポールの施設から利益を生み出す」と述べている。コロナウイルスの影響もある中で、日本にまで進出する余裕はなくなってしまったということになる。

 日本のカジノ開発はコロナウイルス感染拡大と旅行業の停滞の中では進まないだろう。しかし、コロナウイルス感染拡大収束後には、「インバウンド、観光事業の目玉」として、積極的に推進される可能性がある。アデルソンは諦めたが、日本の市場を狙っている勢力はまだいるだろう。

●「横浜注力」の米ラスベガス・サンズ、日本進出を断念」

神奈川新聞  20200513 13:30

https://www.kanaloco.jp/article/entry-352906.html

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を運営する米ラスベガス・サンズが日本へのIR進出を断念したことが13日、分かった。同社がホームページ上で発表した。

 同社は、横浜市でのIR開発に注力する方針を示していた。また市は目指すIRの具体的な姿の一つとして、同社がシンガポールで運営する「マリーナベイ・サンズ」を挙げていた。

 会長兼CEOシェルドン・アデルソン氏は「日本におけるIR開発の枠組みでは私たちの目標達成は困難である。私たちは今後、日本以外での成長機会に注力する予定」とのコメントを出した。

=====

●ラスヴェガス・サンズ社は日本での開発の可能性の追求を終了:会長で最高経営責任者のシェルドン・G・アデルソンは会社の成長見込みに自信を持っている(Las Vegas Sands ends pursuit of potential Japanese development; Chairman and CEO Sheldon G. Adelson remains bullish on company's growth prospects

2020年5月12日

ラスヴェガス・サンズ社のウェブサイトから

https://investor.sands.com/press-releases/press-release-details/2020/Las-Vegas-Sands-ends-pursuit-of-potential-Japanese-development-Chairman-and-CEO-Sheldon-G-Adelson-remains-bullish-on-companys-growth-prospects/default.aspx

ラスヴェガス発。2020年5月12日。ラスヴェガス・サンズ社は本日、サンズ社が日本における統合リゾート(Integrated ResortIR)の開発を継続しないと発表した。サンズ社の会長・最高経営責任者シェルドン・G・アデルソンは次のように述べた。「日本文化への私の愛好と旅行目的先としての日本の強みへの称賛は30年以上前に始まっている。その当時、私はCOMDEXショーを日本で実施し、それ以降、私は私たちの会社が日本で開発を行う機会が持てることを常に願ってきた。日本に対する私の肯定的な気持ちは全く損なわれていない。また、日本は統合リゾートによって生み出されるであろうレジャーと観光から利益を得ることができるだろうと考えている。IR開発を巡る枠組みの中で、私たちの目標は達成不可能となってしまった。 私たちは全ての友情や友人関係に感謝の意を表する。私たちは日本において強力な関係を築いてきた。しかし、現在は私たちの持つエネルギーを他の機会に集中するべき時なのである」。

「私は私たちの会社の未来と成長の見込みについて極めて強気の考え(bullish)を保っている。私たちは、私たちの産業における主導的な市場において最高級の施設を運営している。私たちは現在マカオとシンガポールの両方で重要な投資プログラムを実行している。それは私たちの既存の施設から重要な新しい成長を生み出すためである。MICEmeetings, incentives, conventions, exhibitions)を基盤とする統合リゾートモデル(Integrated Resort model)の成功を確信している。このモデルは私たちがラスヴェガス、マカオ、そしてシンガポールでスタートさせて、発展させたものだ。こうした統合リゾートモデルについては日本以外のアジア諸国でも導入が検討されることになるだろう。特に、各国政府がレジャーと観光を経済成長の動力として増加させたいと考える場合にはそうなるだろう」。

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アでルソンはCOVID-19のために純資産の29%を失ったが、カジノ業界の長者番付では1位を保った(Adelson loses 29% of net worth to COVID-19 but still tops global gaming rich list

ベン・ブラスキ筆

2020年4月12日

ウェブサイト『インサイド・エイジアン・ゲーミング』

https://www.asgam.com/index.php/2020/04/12/adelson-loses-29-of-net-worth-to-covid-19-but-still-tops-global-gaming-rich-list/

ラスヴェガス・サンズ社会長兼最高経営責任者シェルドン・アデルソンは再び世界のカジノ産業の中で最も富裕な人物となった。『フォーブス』誌の2020年の億万長者番付では28位に入り、純資産は268億米ドル(約2兆9000億円)だった。

アでルソンと共にフォーブス誌の2020年版億万長者番付に入ったのは他に投資家のカール・アイカーンだ。アイカーンはシーザース・エンターテインメント社のエルドラド・リゾートの173億米ドル(約1兆9000億円)での買収の裏にいて取り仕切った人物だ。アイカーンは78位に入り、純資産は138億米ドル(約1兆5000億円)だった。ギャラクシー・エンターテインメント・グループの呂志和(ルイチェウー)は106位に入り、純資産は117億米ドル(約1兆2600億円)だった。

しかし、ラスヴェガス・サンズ社のトップはCOVID-19の感染拡大の中で資産を減少させた。2019年11月の段階では24位で純資産は377億米ドル(約4兆500億円)だった。109億米ドル(約1兆1600億円)もの純資産の減少は割合にすると28.9%の減少ということになり、世界的なコロナウイルスの流行によってそれだけの資産を減らしたということを意味する。

コロナウイルスの影響はフォーブス誌の長者番付の中では共通する流れとなっている。フォーブス誌は2020年版の番付を発表したがその中で、「地球上でもっとも豊かな人々もコロナウイルスの影響から逃れることはできない。感染拡大がヨーロッパとアメリカで続く中で、世界中の株式市場が急落し、多くの富が失われている」と述べている。

「私たちがこのリストの最終版を完成させた2020年3月18日の段階で、フォーブス誌は2095名の億万長者(billionaire、訳者註:10億米ドル[約1100億円]以上の資産を持つ人)を集計していた。私たちが最初にこれらの人々の純資産を集計した時の2095名という数字について言うと、1年前に比べて58名少なく、12日前に比べて226名少ない数字となった。」

「億万長者の地位を保った人々の内、51%が昨年に比べて資産額を減らしている。生の数字で言えば、世界の億万長者たちの純資産の合計は8兆米ドル(約864兆円)となったが、2019年に比べて、7000億米ドル(約75兆円)の減少となった。」

アマゾンのジェフ・ベソスは3年連続で首位となった。純資産は1130億米ドル(約12兆円)だ。2位には僅差でビル・ゲイツが入った。純資産は980億米ドル(約10兆5000億円)だ。

ノヴォマティック・グループのオーナーであるヨハン・グラフは純資産65億米ドル(約7000億円)で230位に入り、ポーカースターズの共同創設者マーク・シェインバーグは49億米ドル(約5200億円)で345位に入った。

(貼り付け終わり)

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アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

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 古村治彦です。

 先月、ドナルド・トランプ大統領が新しい駐日米国大使にケネス・ワインスタイン(Kenneth R. Weinstein、1961年-、59歳)を指名したというニュースが流れた。前任のビル・ハガティは今年のテネシー州選出連邦上院議員選挙に出馬のために、2019年7月に辞任し、離日した。それ以降は正式な大使は空席で、代理大使はジョセフ・ヤング米国大使館首席公使が務めている。
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ワインスタインと安倍晋三

 ワインスタインはシカゴ大学で学士号、パリ政治学院で修士号(ソヴィエト連邦・東欧研究)、ハーヴァード大学で政治学博士号を取得している。学者として立派な経歴だ。思想としてはネオコン派に分類される。1991年にハドソン研究所でのキャリアをスタートさせ、2011年に所長に就任した。ハドソン研究所はワシントンDCにある保守系のシンクタンクだ。日本では、元NHKのワシントン特派員で作家の日高義樹氏が研究員をしていることでも一部で知られている。ドナルド・トランプ大統領とも関係が深く、貿易政策や貿易交渉に関する顧問委員会のメンバーにもなっている。

 ハドソン研究所では2019年に日本部(Japan Chair)を創設し、日本部長として、HR・マクマスター元国家安全保障問題担当補佐官(ドナルド・トランプ政権、2017-2018年)を招聘した。マクマスターは陸軍中将から現役のままで補佐官となったが、最終的にはトランプから更迭された。その際に大将への昇進を見送られるという屈辱もあった。ハドソン研究所は軍事研究も盛んで、軍や軍需産業とも関係が深いので、マクマスターは招聘されたということになる。安倍晋三首相や小泉進次郎環境大臣といった日本側の要人もワシントンDC訪問の際にはハドソン研究所に立ち寄り、講演を行っている。
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H・R・マクマスター
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ワインスタインと小泉進次郎
 トランプ大統領の日本に対する考え方は、「あいつらは不公平な貿易慣習や制度を用いてアメリカから金を奪っている。アメリカの対日貿易赤字を何とかしなければならない。そのためにはアメリカ製品を買わせるに限る。しかも大きいものをだ。それには戦闘機やミサイルなど兵器が一番だ」というものだ。ワインスタインはそのための代理人ということになる。

 新型コロナウイルス感染拡大の収束の時期が不明であり、ワインスタイン氏の連邦上院による人事承認もいつできるか分からない。承認は簡単に降りるだろうが、その時期が不透明となると、日本にやってくる時期も分からないということになる。日本の感染拡大が落ち着かないと来られないということになると、今年中は無理ということも考えられる。そうこうしているうちに11月の大統領選挙でトランプ大統領がジョー・バイデン前副大統領に敗れるということになれば、ワインスタイン氏もさすがに日本に来ないまま辞任することはないだろうが、短期間で駐日大使を終えるということも考えられる。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領は駐日本米国大使にケネス・ワインスタインを正式に指名(Trump formally nominates Kenneth Weinstein as ambassador to Japan

タル・アクセルロッド筆

2020年3月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/487540-trump-formally-nominates-kenneth-weinstein-as-ambassador-to-japan

トランプ大統領はケネス・ワインスタインを駐日本米国大使に正式に指名した。金曜日午後、ホワイトハウスが発表した。

ワインスタインはワシントンDCにある保守派のシンクタンク「ハドソン研究所」の会長であり、最高経営責任者である。また、米国通商代表部に助言を行う貿易政策・交渉に関するアドヴァイザリー委員会の委員も務めている。

ハドソン研究所の責任者を務めている期間、ワインスタインはハドソン研究所の日本部長職を発足させ、HR・マクマスターを日本部長に起用した。マクマスターはトランプ大統領の安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。

連邦上院から承認を得なければならないが、ワインスタインはビル・ハガティの後任の大使となる。ハガティは昨年大使を辞任した。そして、引退するラマー・アレクサンダー連邦上院議員(共和党)に代わって今年のテネシー州連邦上院議員選挙に出馬する。

トランプ大統領が就任直後に日本との不公平な貿易に関する合意について批判する発言を行ったことで、アメリカ政府と日本政府との関係に高い関心が集まった。しかし、トランプ大統領は日本の安倍晋三首相との良好な関係をアピールしている。

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 古村治彦です。

 日本の安倍晋三政権とアメリカのドナルド・トランプ政権との間で貿易交渉が行われ、アメリカ側に得るところが多く、日本側に得るところがほとんどない内容で合意がなされた。日本側はアメリカ側の農産品に対する関税を段階的に引き下げる一方、アメリカの自動車輸出に関して関税引き上げをしないというアメリカ政府からの確固とした言質を取ることに失敗した。
usjapantradeagreements2019001

アメリカはTPPから脱退したが、TPPに入っていた場合と同等の日本への悪説のしやすさ(関税の引き下げ)を手にすることができた。日本の完敗ということになる。安倍晋三首相が何とかしようとアメリカのドナルド・トランプ大統領から何とか妥協を引き出そうと媚態を駆使していたことは外側から見るとよく分かるようだ。
donaldtrumpabeshinzo110

 下の記事は、日米交渉について網羅されている。貿易交渉と共に日本駐留の米軍に対する日本政府からの「思いやり予算」の4倍増(20億ドルから80億ドル)の話も絡めて書かれている。簡単に言えば、日本側はアメリカら押されっぱなしということである。アメリカ政府は韓国政府に対しても、駐留経費負担の増額を求めたが、韓国政府は明確に拒絶した。

 日本にとっての生命線は自動車輸出だ。アメリカへの輸出の20%を占めているし、自動車会社が支えている人々の数を考えると、まさに日本経済を支える柱だ。トランプ政権は、日本からの自動車輸出を「国家安全保障上の脅威」と言い出し、だから関税を引き上げることもありうると日本側に脅しをかけている。その脅しに屈した形だ。貿易合意の中で、確固とした文書で関税引き上げを行わない、という一札を入れさせることができなかった。と言うことは、これからも貿易交渉があれば、自動車への関税引き上げを脅しとして使われることだろう。

 また、日本側からの思いやり予算の4倍増もアメリカから脅されて無理やりにでも飲まされることになるだろう。6000億円の増額ということになる。日本周辺の脅威を過剰に煽り立ててアピールすることで、日本側から金を引き出すという、チンピラまがいのやり方をアメリカ側はしている。アメリカも昔ほど余裕はなくなり、背に腹は代えられないとばかりにこうした脅しをしてくる。

 こうした脅しに対しては、粘り強く交渉を長引かせるということが大事だ。そうしたことが1980年代まではできていたが、今では日本側の交渉担当者が一体どちらの味方なのか分からないという状況になっている。脅しに対しては「柳に風」「気に入らぬ風もあろうに柳かな」という態度で接するべきだろう。しかし、今の日本の状況ではそういうことができる人材もいないし、最高指導者層もとうに諦めているし、こうした上級国民がアメリカの手先となっている。年末に来年のことを話してももう鬼が笑うこともないだろうが、日本の将来はますます暗くなるということだけは確かだ。

(貼り付けはじめ)

日本は貿易に関してトランプ大統領を信頼して後悔している(Japan Regrets Trusting Trump on Trade

―貿易交渉によって日本政府はより多くを与え、より少なく手に入れた

ウィリアム・スポサト筆

2019年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/12/05/tokyo-abe-japan-regrets-trusting-trump-on-trade/

日本は、アメリカ大統領ドナルド・トランプと交渉をしようとする際のリスクを人々に改めて思いをいたさせる。日本側はアメリカのドナルド・トランプ大統領との交渉を使用とする場合のリスクについて気づくことができなかった。しかし、日本は交渉を行い、合意に達した。日本はアメリカとの貿易交渉で何も獲得しないままで合意に達したように見えたが、日本政府は今になって更に駐留アメリカ軍基地の特権に対する支払いについて交渉を行うように求められている。

貿易と駐留米軍基地に関して、日本は切り札が少ない中でできるだけ努力をしなければならないという難しい仕事をこなさねばならなかった。貿易に関する合意の中で、日本はアメリカからの農産物輸入に門戸を開放した。これによって門戸が閉ざされてきた市場(訳者註:日本)にアクセスできることでアメリカの農業従事者たちにとって利益となる。この市場(訳者註:日本)では消費者たちは平均よりも高い値段を払っていた。一方、日本は何も持ち帰ることがなかった。アメリカ政府が日本からの自動車の輸入を国家安全保障上の脅威とはとらえないと明言して欲しいと日本側は望んでいたが、曖昧な約束がなされただけだった。アメリカ政府は日本の自動車輸出を国家安全保障上の脅威と捉え、懲罰的に25%の関税をかけることを検討している。

一方でアメリカは満足して交渉の場を後にした。テーマとなった多くの物品において、アメリカ国内の製造業者たちは12か国による環太平洋経済協力協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)内と同様のアクセスを確保できることになった。トランプ大統領は就任直後にTPPからの離脱を決定した。今回の貿易合意は牧場経営者たちにとって恩恵となった。彼らは中国との貿易戦争に苦しんだが、日本の国内産牛肉よりもより低いコストを武器にすることができる。アメリカ側は低い関税率は年に70億ドル分の農産物にかかることになると述べている。しかしながら、利益はすぐに出る訳ではない。牛肉にかかる関税はこれからの15年間で現在の38.5%から段階的に9%にまで引き下げられることになる。ブドウ園にとっては、ワインに対しての関税率が2025年までに現在の15%が撤廃されることで牛肉農家よりもより大きな利益を得ることになる。

他方、日本にとっての利益はアメリカに比べてかなり不透明だ。蒸気タービン、楽器、自転車のようないくつかの特定の製品の関税引き下げは別にして、日本の安倍晋三首相が日本国内に示すことができるものは多くはない。

日本側からの主要な要求は、トランプ大統領が日本からの自動車輸出に対して関税を引き上げるという脅迫を実行しないという保証を得るというものだった。今年5月にトランプ政権は日本とヨーロッパからの自動車輸入はアメリカにとって国家安全保障上の脅威となるという決定を下した。従って、関税引き上げの可能性は消え去っていない。日本側にはトランプ政権に対する疑念が存在する。しかし、長年にわたり日米安全保障関係は最強のものだということは考えられてきた。

日本からアメリカへの自動車輸出は1986年の段階に比べて半分程度になっている。1986年の段階では日本の自動車各社は北米で巨大な生産設備を備えていなかった。日本からアメリカへの自動車輸出は、日本からアメリカへの輸出の20%を占めている。トランプ大統領が引き上げると脅している関税率のレヴェルになってしまうと、日本からアメリカへの輸出には大きなダメージとなる。

日本側はこの微妙なテーマについて確固とした内容の文書を得ることができなかった。ただ、「日米両国はこれらの合意の精神に反する手段を取ることはしない」というあいまいな文が書かれているだけだった。日本の茂木敏光外務大臣が交渉を監督していた。茂木外相は記者団に対して、トランプ大統領は安倍首相に対して「合意内容が真摯に実行される限りにおいて」関税引き上げを行うことはしないという口頭での約束を与えたと述べた。

トランプ大統領やアメリカ側への信頼感が低下していく中で、多くの疑問が出てきている。日本のマスコミは、安倍首相がトランプ大統領の歓心を買うために配慮を行ったがそれで日本側に利益がもたらされたのかどうかという疑問を呈している。安倍首相はトランプ大統領をいち早く支持し、少なくとも表面上は忠実な支持者であり続けてきた。トランプ大統領の予想外の選挙での勝利の後、安倍首相は外国の指導者の中で最も早く面会した。それから少なくとも10回は2人で会談を持った。今年5月、日本の徳仁天皇が即位して最初に会談を持った外国の指導者という名誉をトランプ大統領は与えられた。

このことは日本国内で議論を巻き起こした。日本のリベラル派はポピュリスト的でナショナリスティックな政策を強く主張している。日本の保守派はトランプ政権の反移民、反中国政策により共感を持っている可能性はあるが、しかし同時に、こうした人々は日本の指導者が公の場で媚びへつらう姿を見せることを目撃することを嫌う。

トランプ大統領は安倍首相のごますりを額面通りには受け取っていないようだ。2018年、トランプ大統領は次のように警告を発した。「私は日本の安倍首相やそのほかの人々と会談を持つ。安倍首相は素晴らしい人で、私の友人だ。彼らの顔には笑いはほとんど出てこないだろう。そして、彼らが笑う時は“アメリカを長い間利用して自分たちの利益を得ることはできないと確信した、そんな日々はこれで終わりだ”と感じる時だ」。

そして予想された通り、トランプ政権はギアをすぐに入れ替え、貿易問題から、アメリカ軍将兵と基地への日本側の支払いという微妙なテーマに重点を移した。アメリカ軍は5万4000名の将兵を日本に駐留させている。その約半分は沖縄に駐留している。沖縄本島の18%を使用している。沖縄の住民たちから長年にわたり怨嗟の声が上がっているのは当然のことだ。

アメリカ軍の大型駐留は日米軍事同盟の大きな部分である。日米軍事同盟は1960年に公的に成立し、定期的に更新され、範囲が拡大している。日米同盟によって、日本側にはアメリカによる防護が与えられる約束が与えられている。それには核の傘が含まれている。これは日本の平和主義憲法を保ち、核武装の意図を放棄するための重要な要素である。

アメリカにとって、日米軍事同盟の意義は、ロシア、中国、北朝鮮といった核武装している近隣諸国の中で裏切る可能性のない同盟国を獲得したということになる。加えて、日本側は米軍基地の土地を提供したが、これらの基地は朝鮮戦争やヴェトナム戦争にとって便利な場所になった。そして現在、アメリカが中国を次の軍事上のライヴァルと捉えている中で戦略上の恩恵となっている。しかしながら、トランプ大統領にとっては、韓国国内同様、日本国内の米軍基地はコストであり、これをアメリカのバランスシート上の利益に変えたいと望む存在である。

『フォーリン・ポリシー』誌で既に報じられているように、アメリカ政府は日本側からの貢献額を20億ドルから8億ドルへと4倍増するように求めている。これに加えて、日本は間接的なコストの支払いをしているが、その額は推定で12億ドルだ。それは基地建設のコストも入っている。日米両国政府はコストの詳細な内容を発表していないが、日本がこれ間に支出したのは推定で全コストの75%に上ると推定されている。これが意味するところは、貢献額の4倍増はアメリカ側にとっては素晴らしい利益となるということだ。米軍関係者が日本からの利益からのボーナスを受け取ることが出来るかどうかという問題は置いていても、より明確になったのは、アメリカ外交は取引でいかようにも変わる性質を持っているということだ。

ドル(もしくは日本円)によって動かす外交は日本側にとって新奇な概念ではない。日本側は外交を経済的な利益を拡大するために長年にわたり利用してきた。貿易交渉の中で、媚びへつらう態度を取ることが日本の自動車会社を守るための低コストの方法であることを示している。安倍首相はアイゼンハワー政権のチャールズ・E・ウィルソン国防長官の国家と資本主義を結合させることについての有名な(しかし誤って引用されている)発言を引用し、トヨタにとって良いことは日本にとって良いことだと結論付けた。この文脈の中で、自分をゴルフ友達だと卑下することに終始した不快な時間はどんな意味を持つだろうか?

貿易交渉において、日本側は「吠えなかった犬(訳者註:あって当然のものがないことを重要視する)」について重点を置くことが可能だった。トランプ大統領にアメリカの農業従事者の利益について自慢させながら、日本側は日本円の価値について何も言及していないという事実について沈黙を守った。

2012年に安倍首相が就任して以来、日本銀行は貨幣量の拡大を通じて経済を再膨張させるという前代未聞の施策を実行してきた。これによって日本円の価値は極めて低くなった。安倍首相が就任当時には1ドルが86円だったものが現在では109円になっている。

日本政府はこれについて様々な形で正当化をしている。日本銀行の施策は25年も続く経済におけるデフレーションと戦っていると主張している。同時に、円の価値低下は輸出業者にとっては追い風となっている。これによってトヨタをはじめとするその他の輸出企業がアメリカの輸出する際に価格を24%引き下げることができるようになった。

日本側は将来の自動車輸出への関税についての明確な約束を得ることに失敗したが、関税引き上げが行われる可能性をとにかく低くすることはできた。ここ3年間でトランプ大統領について1つ明確になっていることは、その瞬間の状況に合わせることに躊躇しないということだ。最終的に、交渉力は政策の公平性よりも重要だということになる。

日本にとってより不気味なことは、日米両国は交渉を継続することに合意していることだ。そこで日本政府は自分たちが良く知っているゲームを再び行うことになるだろう。それは交渉の相手側がうんざりするか、交渉のテーマとなった問題が亡くなるまで交渉を長引かせるという日本側得意の戦略を再び持ち出すことだ。モトローラ社の携帯電話を日本で販売できるかという問題は1980年代を通じて長く続いた問題となった。これは長年続いた交渉の後に、歴史的な補足となって日本側に残った。日本の経済産業省の官僚たちは、どんな合意も最終的なものではなく、長くゆっくりと続く交渉買い手の準備をするという考えを持っていた。

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