古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 国際関係論

 古村治彦です。

 日本の外交官の最高の出世は外務事務次官になって駐米大使になることだと聞いたことがある。世界各国の大使(ambassador)になるだけでも大変なことで、また、その手当なども大変な額で、数カ国の大使を務めれば都内の一等地に豪邸が建つということだそうだ。
 大使というのは海外で自分が属する国を代表する存在であり、特命全権大使(ambassador extraordinary and plenipotentiary)と正式には呼ばれるが、この大使の判断で戦争も始めることができる。西側の先進諸国ではほとんどの場合、職業外交官が昇進して大使に週にすることになるが、アメリカでは政治任用(political appointment)で大使になることが多い。

 駐日本アメリカ大使について見てみれば、職業外交官出身ではなく、古くは副大統領、連邦下院議長などを経験した大物政治家が就任しているし、エドィン・O・ライシャワーのような学者も登用された。現在のラーム・エマニュエル大使はバラク・オバマの側近で、2008年の米大統領選挙でオバマ陣営を取りまとめ、オバマ政権1期目前半では大統領首席補佐官を務め、それからオバマの本拠地シカゴの市長を務めた。

 下の記事では、ジョー・バイデン政権における政治任用の大使たちがどれくらいの献金を民主党とバイデンにしてきたかということをテーマにして記事にしている。これはバイデン政権だけではないのだが、歴代政権では、大口の献金者たちがアメリカ大使に登用されてきた。その割合はドナルド・トランプ政権では4割以上、オバマ政権で3割以上だったということだ。バイデン政権も同様に3割が政治任用だ。

 猟官制度(spoils system)とは公職の登用を政治的な理由でおこなうことだ。選挙で政権が変わると公務員が交代するということを意味する。アメリカでは民主、共和両党で政権交代(大統領の交代)が頻繁に起きるが、その度に公務員(幹部クラス)が交代になる。それはアメリカ大使にも及ぶ。その際に、選ばれる人物は各党に多大な「貢献」をした人物ということになる。その貢献とは具体的には政治献金ということになる。「spoils(スポイルズ)」とは英語で「獲物」という意味である。献金の「獲物」が大使職ということになる。

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それで、あなたは大使職を買いたいのですね(So You Want to Buy an Ambassadorship

-アメリカ合衆国政府は西洋諸国の政府で唯一、最高の外交官職位で巨額の献金者たちを報いる政府である。

ロビー・グラマー筆

2023年1月24日

『フォーリン・ポリシー』誌.

https://foreignpolicy.com/2023/01/24/campaign-donor-ambassadors-biden-diplomacy/

それで、あなたはアメリカの大使職を買いたいのですね?大きく言って、そのためには2つの方法がある。

1つ目は、政策や外交の分野でキャリアを積み、外交に関わる経験をたくさん積むことだ。2つ目は、お金を持つことだ。多くの資金を保有することだ。

大統領選挙に出馬して戦うためには実に巨額の費用がかかる。両党の大統領選挙候補は、選挙運動を支えるために大規模な資金調達マシーンを必要とするが、その必要性はより高まっている。共和党政権でも民主党政権でも、大統領選挙候補に直接寄付をしたり、当選した大統領候補のために何十万ドル、何百万ドルもの資金を集める手助けをしたりする、「取りまとめ役(bundlers)」と呼ばれる懐の温かい選挙資金提供者たちを利用し、その見返りとして大使のポストを提供するというパターンが最近になってできている。

歴代政権は、これらの巨額の寄付をして大使職を手にした人々について、外交政策の分野以外の、慈善事業、金融、ビジネス、政治、その他のキャリアを通じて必要なスキルや経験を持っていると主張してきた。

元外交官を含むこの慣行に対する批判は、「薄っぺらな」汚職の一形態であると考えられている。

ジョー・バイデン米大統領は、ドナルド・トランプ前大統領ほどではないにせよ、巨額の政治資金寄付者たちを大使のポストに起用する傾向を続けている。2020年の選挙期間中において、大統領選挙民主党予備選挙に出馬した、ある候補者はこの慣習を完全に禁止するよう求めた。

トランプ時代の大使の約44%は政治任用者(political appointees)であり、その多くは懐の温かい選挙資金提供者たちであるのに対し、バラク・オバマ前米大統領時代は約31%、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領時代は32%だった。バイデンは、政治任用大使の数を全体の30%程度に抑えると述べている。この慣行は、米国務省内でしばしば摩擦や怒りの種となっている。何十年も外交政策に携わってきたキャリアある外交官が、ハンドバッグの企業家や昼のメロドラマのプロデューサー、自動車ディーラーのオーナー、あるいは超富裕層の選挙資金提供者とたまたま結婚したコンサルタントなどに道を譲られ、大使としての重要な任務に就くことがある。

政治任用の献金者大使とキャリア外交官大使のどちらが優秀かについては、最も不満のあるキャリア外交官でさえもそのように述べているが、明確な答えはない。政治献金者大使の中には、ホワイトハウスとの密接な関係や、国務省のキャリア外交官大使にはほとんどない政治的コネクションを持ち、結果的に非常に有能で、外国政府から求められている人さえいる。それに比べ、キャリア外交官の中には、何十年も経験を積んで、最も人気のある上級職に就いたにもかかわらず、大使のポストで苦労している人もいる。

しかし、巨大な資金提供者に大使のポストを与えるというのは、他の西側諸国の政府にはない慣習であり、中国の台頭によりアメリカが紛れもないグローバルリーダーとしての役割から脱落するにつれ、より厳しく問われている。寄付者たちは通常、西ヨーロッパ、南アメリカ、カリブ海諸国の国々で知名度の高い重要な大使の任に就くが、キャリア外交官はサハラ以南のアフリカ、中東、中央アジアでそれほど重要でない任に就くことが多い。

ワシントンの最も近い同盟国は、この話の対照的な部分を提供している。最も重要な外交ポストである駐ワシントン大使あるカレン・ピアスは、40年以上にわたってイギリスの外交官を務め、過去には国連大使やアフガニスタンとパキスタンの特使を務めた。アメリカの駐英大使ポストには、投資銀行家、石油会社幹部、元提督、自動車ディーラーのオーナー、大統領の側近、億万長者の相続人などが就任してきた。アメリカはこれまで、外交官として本格的に駐英大使を務めたのは1人だけである。それは、レイモンド・サイツで、1991年から1994年まで在英大使を務めた。

『フォーリン・ポリシー』誌は、バイデンへの主要な寄付者が大使に任命された5カ国を調べるために、非営利の透明性専門団体「OpenSecrets.org」を通じた情報公開と選挙寄付の書類を精査し、彼らが寄付した既知の金額を合計したものである。

簡略化のため、2017年から2020年の選挙期間中において、各大使が民主党またはバイデンの選挙運動に直接寄付した確認金額のみを取り上げた。可能な限り、また情報が入手可能な場合に、本誌は過去20年間の民主党や選挙運動に寄付された、政治活動委員会(PAC)を通じて送られた、または取りまとめられた資金に関する情報を含め、さらなる内容を追加した。

注意点:アメリカの政治制度における選挙寄付は複雑なため、個人がいくら寄付したかを評価することが難しいケースがある。寄付者は、個人として候補者の選挙運動に直接寄付したり(法律で厳しく制限されている)、大統領の選挙運動を支援するPAC、無制限の政治支出を行えるいわゆるスーパーPAC、地方や国レベルの大統領の政党、あるいは大統領の就任初日に行われる豪華なイベントのための大統領就任資金にさえ寄付したりする。また、これらの寄付は大使の配偶者の名前で行われたり、個人として関連団体を通じて行われたりすることもある。

それでもバイデン政権は、他の政権と同様、大使のポストを「売り込む」のではなく、海外の適材適所をマッチングさせると主張している。バイデンは選挙期間中に「私は可能な限り最高の人材を任命する。誰も、実際には、彼らが貢献したものに基づいて、任命することになるだろう」と約束した。

ホワイトハウスの報道官は『フォーリン・ポリシー』誌に対し、バイデンは「世界中で私たちの外交政策課題を遂行する大使を選ぶことを非常に真剣に受け止めている」と述べ、以下の人物を含め、彼の選んだ全ての大使たちは「彼(バイデン)が長年共に働き、信頼してきた経験豊かな人物」であると特徴づけた。

ホワイトハウス報道官はまた、バイデンが大使に任命したキャリア外交官以外の大使の例として、トルコ大使には元米連邦上院議員のジェフ・フレーク、NATO大使には大西洋横断安全保障の専門家であるジュリアン・スミスを任命したことを挙げた。

それでも、バイデンが大使に選んだ他の20人近くは、「偶然にも」民主党に多額の資金を集めたり寄付をしたりした人々である。バイデン時代の大使のポストに値札をつけるとしたら、以下のようになる。

●スイス:41万9200ドル

バイデン政権のスイス大使であるスコット・ミラーとその夫は、2020年のバイデン当選を支援するファンドに36万5000ドルを寄付し、ミラー自身も2017年から2020年にかけて、民主党とバイデンの選挙運動に合計5万4200ドルを直接寄付していることが、各種報道と「OpenSecrets.org」の選挙寄付データから判明した。しかし、ミラーと夫の合計では、2010年以降、民主党の候補者や活動に対して約360万ドルを寄付している。ミラーは、デンヴァーに本拠を置くUBSウェルス・マネジメント会社の元副社長である。また、夫のティム・ギルは、LGBTQの権利に関する主要な活動家であり、慈善家でもある。2016年には、当時の民主党大統領候補ヒラリー・クリントンの選挙を支援するために、約110万ドルを寄付している。ミラーは2021年12月にバイデン政権のスイス大使に就任することが決定した。ホワイトハウスの報道官は、大使に指名された理由として、ミラーの「LGBTQ擁護活動や慈善活動のキャリア」を挙げている。

●イギリス:65万6980ドル

バイデンは、長年の民主党献金者で元駐フランス米大使のジェーン・ハートリーを駐イギリス米大使に起用した。「OpenSecrets.org」の選挙寄付データによると、ハートリーは2017年から2020年の選挙期間中において、民主党に64万5780ドルを寄付し、同時期にバイデンに特に1万1200ドル寄付した。しかし、この数字は、ハートリーが全体としてどれだけの資金を民主党に送金したり、取りまとめたりしたかを完全に網羅している訳ではない。バイデンが副大統領を務めていた2007年から2012年の間に、彼女はオバマの選挙運動のために約220万ドルを集めたと報じられた。ハートリーはバイデン政権では数少ない上級外交官の経験を持つ政治任用大使であり、ホワイトハウス報道官は彼女をロンドンでのポストに指名したバイデンの決定を擁護するためにこの点を挙げた。キャリアを通じて民主党、企業放送会社、コンサルティング会社で働いたハートリーは、2014年から2017年までオバマ大統領の駐フランス・駐モナコ大使を務めた。

●カナダ:51万4378ドル

コムキャストの元トップ幹部でロビイストのデイヴィッド・コーエンは、フィラデルフィアの政治と慈善活動で長年活躍していた。「OpenSecrets.org」のデータによると、2017年から2020年の選挙期間中で、コーエンは民主党とバイデンに51万4378ドルを寄付した。

ただし、この数字は上限ではなく下限であり、コーエンはバイデンの2020年の選挙運動のために、大統領選挙のために少なくとも10万ドルの資金調達に協力した個人のリスト、トップ「取りまとめ役」800人の1人としてリストアップされているが、彼がバイデンのためにどれだけの追加資金を取りまとめたかは明らかではない。

●ケニア:91万7599ドル

メグ・ホイットマンは、かつて『フォーブス誌』の「世界で最もパワフルな女性100人」に選ばれたこともある元企業トップで、現在、アフリカで最も経済力があり外交的に重要な国の1つとされるケニアにおいてバイデン政権下で大使を務めている。「eBay」とヒューレット・パッカードの元CEOであるホイットマンは、かつて共和党の献金者であり、2010年にカリフォルニア州知事選に共和党から立候補したが、トランプと大統領選挙の共和党候補者決定を否定し民主党への支援に切り替えた。2020年のホイットマンは、共同募金委員会である「バイデン勝利基金」に50万ドルを寄付し、それとは別に2017年から2020年の選挙期間中に民主党とバイデンに直接41万7599ドルを寄付した。

ホワイトハウスの報道官は、カナダのコーエン、ケニアのホイットマンの両氏について、「ビジネスにおける優れたキャリアと、海外でのアメリカの経済利益を促進する能力を持ち、それが大使職への抜擢に大きく影響した」と述べている。

●アルゼンチン:14万8630ドル

バイデンは、ダラスの著名な弁護士であるマーク・スタンレーをブエノスアイレスの大使に選んだ。『ダラス・モーニング・ニューズ』紙によると、スタンレーとその妻ウェンディは過去20年間に少なくとも150万ドルを民主党に寄付し、募金活動や選挙寄付の肝いりを通じてバイデンや他の民主党候補の主要な肝いりとして活動してきた。スタンレーはまた、バイデンの2020年大統領選挙の「バイデンのために働く法律家たち(Lawyers for Biden)」という部門を率いて、弁護士の組織化を支援し、大統領の選挙運動のために法的サーヴィスを担当した。2017年から2020年の選挙運動の期間中、スタンレーは民主党に14万8630ドルを直接寄付している。ホワイトハウスの報道官は、スタンレーがバイデンのアルゼンチン大使に選ばれたことについて、「40年にわたる一流の弁護士およびユダヤ人擁護者としてのキャリアを評価した」と説明している。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争開戦後、世界のエネルギー価格は高騰し、その影響は現在も続いている。日本の消費者物価指数は4.2ポイント上昇ということを盛んに報道されているが、特に電気代やガス代、ガソリン代や灯油代の高騰に驚き、不平不満を持っている人たちも多い。物価高、インフレ、生活コストの上昇ということで言えば、世界は第三次次世界大戦下にあると言える。

 ウクライナ戦争開戦後、欧米諸国はロシアへの制裁の一環として、天然資源の輸入を取り止めると発表した。しかし、実際にはロシアからの天然資源、特に天然ガスの輸出は続いていた。これまでロシアとドイツを結ぶノルドストリーム・パイプラインによって、安価な天然ガスが供給され、それがヨーロッパ諸国の生活を支えていた。それが急に途絶することはヨーロッパ諸国の人々の生活が成り立たないことを意味する。そのため、ロシアに制裁を科しながらも、「少しずつ輸入を減らしていきますからね」ということで、輸入が続いていた。

 しかし、昨年にノルドストリーム・パイプラインが物理的に破壊されたことで、ロシアからの天然ガス供給は望めなくなった。そのために北海油田を持っているイギリスやノルウェーの石油、アメリカからの液化天然ガス輸入に頼らざるを得なくなった。もちろん、これまでのロシアからの天然ガスよりも高価な買い物である。それでも背に腹は代えられないということで、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国は天然資源の供給源の変更を余儀なくされた。

 「高く買ってくれる人に売る」は人間の自然な性向である。エネルギー価格が高騰する中でもヨーロッパ諸国はまだ買えるから良い。貧しい国々は買いたくてもお金がない。そうなれば、買う量を減らして、耐乏生活に突入するしかない。新興国ならまだ良いが、貧困国では停電の頻発、停電時間の長期化が続いている。これらの国々に対して、先進諸国に援助できるほどの余裕はない。自分のところだって高い価格のエネルギーを買っていて他を助ける余裕はない。

 それではこうした国々に対して、エネルギー産出国、具体的にはロシアやサウジアラビアが値引きした値段でエネルギーを供給したらどうなるだろうか。これまでこのブログで散々書いてきているが、世界は「西洋(the West)」対「それ以外(the Rest)」で分裂している。中露が率いる「それ以外」が発展途上国、貧困国を助ければ、そちらの味方になるのは自明の理だ。実際にロシアはインドや中国に割引で天然資源を販売している。

 ウクライナ戦争が終結しなければ、こうした状況はこれまでも続いていくだろう。ウクライナ戦争が始まって1年、今こそ停戦に進むべきである。更に言えば、ノルドストリーム・パイプライン破壊を命じたジョー・バイデン大統領の「大統領の犯罪行為」と、手下たち(アントニー・ブリンケン米国務長官、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官)による「権力者共同謀議」による「戦争行為」は世界人類に対する罪である。

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貧しい国々に負担を強いるヨーロッパのガスの深刻な不足(Europe’s Hunger for Gas Leaves Poor Countries High and Dry

-豊かな国々は、世界の他の国々の犠牲の上に、エネルギーの安全保障を追求している。

ヴィジャヤ・ラマチャンドロン筆

2023年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/01/europe-energy-natural-gas-lng-russia-africa-global-south-climate/

ロシア軍のウクライナ侵攻から約1年、モスクワのヨーロッパ向け天然ガス輸出は、パイプライン「ノルドストリーム」の妨害行為、ヨーロッパの購入量減少、欧米諸国のウクライナ支援に対する報復としてのモスクワの供給調整などにより、半分以下にまで減少している。天然ガスは、家庭や産業界の暖房用エネルギーとして、また化学製品の原料として重要な役割を果たしている。天然ガスは、家庭や産業の暖房に欠かせないエネルギー源であり、化学製品の原料として、肥料、セメント、鉄鋼、ガラスなど、多種多様な製品の製造に欠かせない要素となっている。また、発電にも広く利用されており、2021年のヨーロッパの発電量のうち、ガス火力発電所は34%を占めている(アメリカは38%)。

ロシアからの供給が失われたことへの反応として、ヨーロッパ各国はあらゆる天然ガス供給源に依存し、大量の備蓄を抱えることになった。ロシアからのパイプラインによる供給が激減したため、ヨーロッパは需要の多くを世界各国から船で輸送される(液化天然ガス(LNG)にシフトさせた。その結果、2022年半ばのガス備蓄のピーク時には、液化天然ガス(LNG)の世界価格は2年前の新型コロナウイルス感染拡大時の安値から1900%上昇した。

この天然ガスの価格高騰は、ヨーロッパの産業界にもダメージを与えたが、貧しい国々に住む何億人もの人々にとっては、まさに壊滅的な打撃となった。インドとブラジルは、自国の経済を十分に支えるだけの天然ガスを確保できず、輸入を控えるようになった。バングラデシュとパキスタンは、合わせて5億人近い人口を抱えているが、産業消費と発電のニーズを満たすことができず、停電に見舞われた。液化天然ガス供給者は、より高い価格を支払う富裕層向けの貿易にシフトすることを希望している。数ヶ月あるいは数年前に締結された契約にもかかわらず、貧困国向けの貨物がヨーロッパに迂回されたり、単に全く配達されなかったりしている状態だ。

停電は単なる不便な出来事と言うだけではない。パキスタンのように、毎年45度を超える熱波が襲い、国土の3分の1を水没させた洪水からの復興に苦闘している国では、電力は生死に関わる問題である。この数カ月間、連日連夜、企業、家庭、学校、病院が数時間電気がない状態に陥っている。それは、政府が、発電所の4分の1を占めるガス火力に十分な天然ガスを輸入できないからだ。パキスタン政府によると、主要な液化天然ガス供給会社は契約を履行せず、未納の違約金を払い、より高い利益を得るために富裕国へ供給を送ることを好んでいるとのことだ。

2022年7月、パキスタン政府が行った液化天然ガス72隻分(10億ドル相当)の入札には、供給会社からの入札が全くなかった。国際通貨基金(IMF)のプログラムからの現金支給が遅れたため、パキスタンはスポット市場でガスを購入するのに苦労し、工場やレストラン、その他の事業で働く人々は労働時間の短縮と低賃金を余儀なくされている。政府機関は電力消費量を30%削減するよう命じられ、国内の街灯の半分が消灯している。

貧しい国々にとって状況が好転する兆しはない。北半球の多くの地域で暖冬が続き、ガス価格が下がっているとはいえ、既に来年にも天然ガスが不足することが懸念されている。破壊工作が行われたノルドストリーム・パイプラインは2023年も使用できない可能性が高く、ヨーロッパ諸国はこの夏、重要な貯蔵施設に補充する液化天然ガスへの依存度を更に高めることになる。さらに、EU加盟諸国は既に、今後数年間に供給が開始される可能性のある新たなガス供給を賄うための長期契約締結に強い関心を示している。ドイツやその他のヨーロッパ諸国は、今後数年間に浮体式貯蔵・再ガス化設備に追加投資し、更に多くの液化天然ガス(LNG)を吸収できるようにしようとしている。一方、世界有数の液化天然ガス輸出国であるオーストラリアは、ガス不足の可能性を懸念し、自国でのガス供給量を増やすための対策をとっている。

貧しい国々が貧困から脱却し、干ばつや洪水、暴風雨、熱波に対して強靭になるためには、豊かな国々が享受しているのと同じように、信頼性が高く、豊富なエネルギー資源を必要としている。こうした国の多くは自然エネルギーに投資しており、さらに多くの投資を計画している。しかし、中期的なエネルギー安全保障の観点からは、富裕な国々と同様にガスが必要であることに変わりはない。発電だけでなく、農作物の収穫量を上げるための肥料や、耐震性の高い建物やあらゆるインフラのためのコンクリートや鉄などの工業生産にガスは欠かせない。また、暖房や調理にもガスは必要で、日照や天候に左右される風力や太陽光発電のバックアップ電源にもなっている。

自国のエネルギー安全保障の確保を急ぐヨーロッパは、アフリカや南アジアなどの指導者たちが気づかないうちに、偽善をむき出しにしている。ヨーロッパのいくつかの国は、国際的な化石燃料プロジェクトに対する公的支援を全て打ち切ると公約している。これらのヨーロッパ諸国は、信頼できる電力と経済成長をもたらす可能性のある下流のガスインフラを建設するための資金を、貧しい国々に提供してはならないと主張している。その一方で、アメリカやEUを拠点とする多国籍企業は、東アジアやヨーロッパの富裕な国々に輸出するために、自らの資本で貧しい国々のガス埋蔵量を開発することを止めない。

この偽善の基盤は明らかだろう。EU諸国は、自国のエネルギー安全保障のために化石燃料を最大限柔軟に使用できるようにする一方で、貧しい国々が貧困と悲惨から抜け出すために不可欠なエネルギー供給を増やすための資金援助には厳しい制限を課すという、陰湿なグリーン・コロニアリズム(green colonialism、グリーン植民地主義)を推進し続けている。その一方で、自国のエネルギー安全保障のために化石燃料を使用する自由度は最大限に高めている。石炭使用量の急増による排出量の増加については、ドイツに質問してみるとよいだろう。つまり、豊かな国々がガスの備蓄や世界中の生産者との複数年の購入契約を自画自賛している間に、貧しい国々は家庭や学校、病院、工場に十分な燃料がない状態に置かれなければならない。ガスプロジェクトへの融資を阻止するヨーロッパの政策は、貧困を緩和するものでも、気候変動に対処するものでもない。

これは、欧州の政府がエネルギー転換の橋渡し燃料として天然ガスを利用することを非難するものではない。特に、石炭を代替する場合や再生可能エネルギーをバックアップする場合には、天然ガスを利用することは非常に理にかなっているのだ。しかし、アフリカやアジアの貧しい国々にとっても、自国と同様にエネルギーの安全保障と信頼性が最も重要であることを、自国の国民に配慮しているのと同様に認識すべきだ。富裕な国々は、天然ガスが豊富に埋蔵されているアフリカにおける基本的なインフラ投資のわずかな排出量にこだわるよりも、貧しい国々が経済成長できるような戦略を採用すべきだ。

パキスタンやバングラデシュのような国々は市場から値崩れし、ヨーロッパが来年も暖冬であることを祈るしかない。自国の消費者を高価なガスやガソリンから守ることには何のためらいもないのに、貧しい国々の高価なガス代を援助することは、化石燃料の補助金とみなされるため、ヨーロッパ政府はおそらく拒否するだろう。しかし、ヨーロッパ諸国は、燃料節約型の再生可能エネルギーの導入や暖房の電化にもっと力を入れることができるだろう。また、世界的なエネルギー危機の最中に原子力発電所を停止させるのではなく、既存の原子力発電所を稼働させるための緊急延長をもっと検討すべきだ。例えば、ベルギーは原子力発電所を停止しているため、より多くの天然ガスを使用する方向にあり、その代償を払うのは貧しい国々である。

最も重要なことは、ヨーロッパ諸国は、エネルギー安全保障、経済成長、貧困緩和、健康な生活に不可欠な、貧しい国々の下流ガスプロジェクトに反対することを止めることだ。

※ヴィジャヤ・ラムチャンドロン:「ブレイクスルー・インスティテュート」エネルギー・発展担当部長。ツイッターアカウント:@vijramachandran

※ジェイコブ・キンサー:「エナジー・フォ・グロウス・ハブ」上級政策アナリスト兼プログラム調整担当。ツイッターアカウント:@jakekincer

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

2月上旬、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はイギリスをサプライズ訪問した。イギリスではリシ・スーナク首相、リンジー・ホイル下院議長、更にはチャールズ国王と会談を持った。ウクライナ戦争が始まって以来、ウクライナを離れる機会がほぼなかったゼレンスキー大統領がイギリスを直接訪問し、これまでの支援を感謝し、更なる支援、特に戦闘機の支援を求めたことには重大な意味がある。それは、「ウクライナ戦争の停戦が困難なのはイギリスがいるからではないか」「日露戦争をアナロジーとして考えると、ウクライナを利用してロシアを消耗させようとしているのはイギリスではないか」ということが考えられるからだ。
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ウクライナ支援について見ていくと、アメリカが圧倒的な割合を占めている。イギリスは2番目だと威張っても、その割合は小さなものだ。NATO分で出しているという主張もあるだろうが、大英帝国だと威張っている割にはその額は少ない。しかし、戦争が始まって以来、イギリス政府関係者は声高に対ロシア憎悪を言葉にしている。
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 西洋諸国はウクライナ支援を行っているが、ウクライナが求めているジェット戦闘機の供与だけは行っていない。また、飛行禁止区域設定も行っていない。これはそのようなことをすれば、供与を行う国々が戦争当事国となり、ロシアから宣戦布告されて、戦争に巻き込まれ、ロシアからのミサイル攻撃(核兵器使用を含む)を受けるという懸念があるためだ。アメリカ国内ではウクライナ戦争の停戦を求める声、ウクライナへの支援を減額するように求める声、ロシアからの天然資源輸入を再開するように求める声が出ている。アメリカとイギリスの間にはウクライナ戦争をめぐる態度で温度差がある。
 戦争を継続してウクライナ領土の再獲得を目指しているヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は今の状態で停戦すれば、国民からの批判に晒されることが考えられる。クリミア半島を含む1991年に独立した際の領土を全て再獲得するまでは戦争を止めることはできない。戦争を止めれば自身の政権も危うい。そうなると、頼るのはイギリスということになる。アメリカはいつ手の平を返すか分からない。イギリスは北海油田の産油を西ヨーロッパに売りつけたいという意向もある。戦争継続はイギリスとゼレンスキー政権の共通の「利益」である。

 戦争では誰が儲かるのか、利益を得るのかという視点から事態を見ていくことも大事だ。そうすれば戦争の別の側面も見えてくる。

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ゼレンスキー大統領が訪英、英首相や国王と会談 議会で演説し戦闘機求める

202328

更新 202329

https://www.bbc.com/japanese/64567813

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が8日、イギリスを訪れ、首相官邸でスーナク首相と会談した。昨年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ゼレンスキー氏の訪英は初めて。その後、議会で演説し、イギリスの支援に感謝するとともに、戦闘機の供与を求めた。

ゼレンスキー氏の訪英は、イギリス軍がウクライナ兵に実施してきた訓練を、ウクライナの戦闘機パイロットや海軍歩兵にも拡大するとの見方が出ているタイミングで行われた。

ウクライナのパイロットが将来的に北大西洋条約機構(NATO)水準の戦闘機を操縦できるようにする計画は、以前から発表されていた。ウクライナはかねて、これを主要な要請として掲げていた。

首相官邸は、スーナク氏がゼレンスキー氏に対し、ウクライナの重要な国家インフラを標的にするロシアの能力を削ぐ「長距離能力」の提供を申し出るとしていた。

また、イギリスによるウクライナ兵の訓練を拡大し、さらに2万人を対象とする見込みだとした。

イギリスの支援に感謝

ゼレンスキー氏はスーナク氏との会談後、議事堂のウェストミンスター・ホールに移動し、上下両院の議員らを前に英語で演説。「塹壕(ざんごう)の中にいて、ウクライナを敵のミサイルから守ってくれている、戦争の英雄たちの代理として」自分はやって来たのだと述べ、イギリスがウクライナ兵に装備と訓練を提供していることに感謝した。

また、ロシアが侵攻した「初日から」イギリスはウクライナを支援していると強調。ボリス・ジョンソン元首相を名指しし、「ボリス、あなたは絶対に、絶対に無理だと思われていた時に、諸外国を団結させた。ありがとう」と語りかけると、聴衆からは大きな拍手が湧いた。

ゼレンスキー氏はさらに、ウクライナとイギリスの国民は共に、第2次世界大戦で自由を守り抜いたと指摘。「私たちの国民は危機に見舞われた」ものの、粘り強さを発揮したとした。

その上で、「自由は勝利する」、「ロシアが負けるのは明らかだ」と強調し、拍手を浴びた。

戦闘機を求める

ゼレンスキー氏は演説で、戦闘機を「自由のための翼」と表現。ウクライナへの供与を、英議員らと世界に対して要望した。

ロシアが今月後半にも新たな攻勢をかける見通しの中、西側諸国はウクライナへの支援をどう増強するか検討している。

イギリスは戦闘機の供与について、「現実的ではない」としている。スーナク氏の報道官は先週、英軍の戦闘機は「極めて高度で、操縦を覚えるのに何カ月もかかる」と述べた。

一方でイギリスはすでに、主力戦車「チャレンジャー2」を14台供与すると発表している。ウクライナ軍に操作の訓練も提供する予定だ。

これを踏まえてゼレンスキー氏は、演説の中で戦車の供与に言及。「防衛面でのこの強力な一歩について、感謝しています、リシ」とスーナク氏に語りかけた。そして、「世界は本当に自由を守る勇者を助け、新たな歴史を作っていく」と述べた。

ゼレンスキー氏はまた、演説の途中で、リンジー・ホイル下院議長にウクライナの戦闘機パイロットのヘルメットを贈った。

ヘルメットには「私たちには自由がある。それを守るための翼を与えてください」と書かれていた。

英政府はこの日、ロシアへの新たな制裁を発表。IT企業や、ドローンやヘリコプターの部品などの軍事機器を製造する企業などを対象にした。

ゼレンスキー氏は演説で、「ロシアが戦争資金を調達する可能性がなくなるまで」制裁を続けるよう、イギリスと西側諸国に求めた。

英国王と会見

ゼレンスキー氏は議会での演説後、バッキンガム宮殿でチャールズ国王と会見した。

国王がゼレンスキー氏に会うのはこれが初めて。

ゼレンスキー氏は議会での演説で、国王はまだ皇太子だったころからウクライナを支援してくれたとし、全国民の感謝の気持ちを伝えるつもりだと述べていた。

フランス大統領府の報道官によると、ゼレンスキー氏はこの後、パリ・エリゼ宮に移動し、エマニュエル・マクロン大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談する予定だという。

ゼレンスキー氏は9日には、欧州連合(EU)首脳会合に参加する見込みとなっている。

ゼレンスキー氏は昨年3月、英下院でビデオ演説した

ゼレンスキー氏は昨年3月に、英議会にビデオリンクで参加。英下院で演説した初の外国人首脳となった。

同氏がロシアによる侵攻以降で外国を訪問するのは、昨年12月のアメリカとポーランドに続いて3カ国目となる。

昨年の訪米では議会で演説。「ウクライナは決して降参しない」と述べ、何回かスタンディングオベーションを受けた。

ジョー・バイデン大統領もその際、「パトリオット」ミサイル防衛システムの供与など、ウクライナへの支援拡大を約束した。

ゼレンスキー大統領をめぐっては、今週ベルギーのブリュッセルを訪問するとのうわさが流れていた。9日に欧州議会で演説し、欧州連合(EU)の首脳会談にも参加するとみられている。

ただ、この情報が今週初めに流出したため、セキュリティー上の懸念からブリュッセル訪問は中止になるとの見方も出ている。

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ウクライナでのロシアの戦争が1年近く経過した中で、ゼレンスキーはイギリスを訪問した理由(Why Zelenskyy visited the U.K. nearly 1 year into Russia's war on Ukraine

ウィレム・マルクス筆

2022年2月8日

NPR

https://www.npr.org/2023/02/08/1155360051/zelenskyy-russia-ukraine

ロンドン発。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、約1年前にロシアがウクライナに侵攻して以来、ほぼ行ってこなかった国外訪問の1つとして、イギリスを訪問し、人々を驚かせた。

ゼレンスキー大統領は、予想されるロシアの攻勢と領土を取り戻すためのウクライナの反撃を準備するために、ウクライナの強力な国際的支援者からより高度な武器をウクライナ軍に供与するように求めている。

ウクライナの指導者はリシ・スーナク首相と会談し、イギリス議会で演説を行い、イギリスの支援と兵器に感謝した後、すぐに更なる支援(特に戦闘機)を要求した。また、チャールズ3世とも会談した。

フランス政府は、水曜日にゼレンスキーがパリを訪れ、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相と夕食を共にすることを確認したばかりで、今回の外遊はゼレンスキーの予告なしのヨーロッパツアーの最初の足取りとなる。木曜日には、EU理事会のシャルル・ミシェル議長が彼を招待したため、他のEU首脳との会談のためにブリュッセルに移動する可能性もある。

ゼレンスキー大統領がイギリスを訪問した理由は以下の通りだ。

●規模第2位のウクライナ支援者(Ukraine's second-biggest backer

イギリス議会によれば、イギリスはアメリカに次いでウクライナにとって2番目に大きな支援国であり、2022年2月以降、27億ドル相当の軍事支援を約束しており、今年もそれに匹敵する支援を約束するとしている。イギリスは、ロシアの侵攻に対して経済制裁を加える上で重要な役割を担っている。そしてスーナク首相もまた、前任者と同様にキエフを訪問している。

また、スーナク首相は先月、ウクライナにチャレンジャー2戦車を贈ることを約束したが、これは米国とドイツが戦車供与を発表する2週間前のことだった。ウクライナ軍の要因たちが1月29日にイギリスに到着し、イギリスの戦車で訓練を受けた。

しかし、ウクライナは更に一歩踏み込んで、戦闘機の提供を求めている。

ウクライナの防空は、ロシアがウクライナ領土の広い範囲を支配することをほぼ防いできた。しかし、自国の格納庫には、ソ連時代のスペアパーツに頼らない運用可能な航空機がほとんど残っていないと英国のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute)」の国際安全保障担当部長ニール・メルビンは指摘している。メルビンによれば、西側の航空機システムの採用を拡大しなければ、ウクライナ軍は長期的に、陸上部隊の攻撃力に見合うだけの空戦力を身につけるのに苦労することになると主張した。

●イギリスは戦闘機の訓練を約束したが、今のところジェット機の提供はない(Britain promised warplane training, but so far no jets

ゼレンスキー大統領は、12月のアメリカのように、国防費を決定するイギリス議会から承認を求めるという他の国々で使ってきた戦術を継続した。

水曜日にウェストミンスター・ホールで行われた演説で、彼はリンゼイ・ホイル下院議長に象徴的な贈り物をした。その贈り物とは「我々は自由を持っている、それを守るために翼を与えよ」と書かれた戦闘機パイロットのヘルメットだった。

イギリス政府は、ウクライナ軍に対する軍事訓練を、戦闘機のパイロットまで拡大すると発表した。「この訓練によって、パイロットは将来的にNATO標準の高性能戦闘機を操縦できるようになる」とイギリス政府は声明の中で述べた。

この誓約には戦闘機の提供を約束するとまでは書かれていない。

しかし、ロイター通信は、イギリス政府報道官は記者団に対し、「スーナク首相は国防相に、どのようなジェット機を提供できるかを調査するよう命じたが、はっきり言って、これはウクライナが今最も必要としている短期の能力ではなく、長期の解決策である」と述べたと報じた。

●イギリス国民の支持を維持する(Maintaining public support

何世紀もの歴史を持つイギリス議会の衣装や儀式用ローブの中で、いつものアーミーグリーンのスウェットシャツを着たこの戦時大統領の姿は、イギリス国民にウクライナの軍事的必要性を思い起こさせるものとなるだろう。

ロシアと戦うウクライナに対するイギリス国民の支持は依然として高い。戦争が始まって数カ月、ウクライナ人の家族を家に迎え入れた何万人もの英国人に代表されるように、ウクライナの人々に対する関心も高いのである。

1月24日に発表されたイプソス社の世論調査の結果では、イギリス人はウクライナ人を助け、ロシアを孤立させる努力を続けることに、調査対象の他の国よりも強い支持を表明しているということになった。

ゼレンスキーは、この支持を当然とは考えていないようだ。今回の訪問は、政治家だけでなく、イギリス国民にも戦争がまだ終わっていないことを思い知らせるためのものなのかもしれない。

アレックス・レフがワシントンからこの記事の作成に貢献した。
(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
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シーモア・ハーシュ
 ハーシュの論稿の最後の3分の1をご紹介する。アメリカとノルウェーは共犯関係になった。ノルウェーにしても北海で産出する石油で大儲けしたいところだった。北海油田で言えばイギリスの方が産出額じゃ多い。ウクライナ戦争によってエネルギー価格の高騰が続くことで利益を得ることができる。イギリスがウクライナに強い後押しをしているのはこういうところにも理由があるのだろう。

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 作戦はバルト海でのアメリカ主導のNATOの演習(毎年開催)に紛れて実行されることになった。各国からの多くの艦艇が参加することで「森の中に木を隠す」ことができ、デンマークやスウェーデンに察知されないということも期待できる。しかし、作戦決行が近づいてまた難題が持ち上がってきた。バイデン大統領が現場に対して、演習の直後ではあまりにも露骨すぎるので、爆薬を遠隔操作で爆発させる方法を見つけ出すように要求してきたのだ。現場は混乱したが、それでも方法は見つかった。それは特定の周波数の合図で爆発させることであった。しかし、海上や海面、海中には様々な音源があり、それらに反応して偶発的に爆発する危険はあった。しかし、作戦は無事に成功した。

 アメリカの主要メディアはノルドストリームの爆破について「不思議だ」「ミステリーだ」などと空っとぼけて報道した。何のことはない、多くの人が「アメリカがやったに決まっている」ということが、ハーシュの論稿で明らかになった。それでもアメリカ政府は「フェイクだ」「嘘だ」「作り話だ」としらを切り通すしかない。アメリカ大統領が秘密命令を出して、他国の施設を攻撃させたというのは犯罪行為であり、何よりも戦争行為である。今回のノルドストリーム爆破を理由にして、ロシア、ドイツ、デンマークがアメリカに宣戦布告してもおかしくはない。ウクライナ戦争の当事国であるロシアに対して、アメリカはウクライナ支援に一定の制限を設けることで直接戦争にならないように気を遣っている。そうした努力が全く無駄になってしまう。

 バイデン個人について言えば、このような犯罪行為が明らかになって、大統領選挙への悪影響は大きいだろう。簡単に言えば、再選の可能性は潰えてしまう。連邦下院で過半数を握っている共和党が議会の調査権を使用してこの問題を追及し、何かしらの証拠や証言が出れば、バイデンはアウトということになるし、たとえ確固とした証拠や証言が出なくても、バイデンへのマイナスの影響は大きい。ノルドストリーム爆破事件はウクライナ戦争を変えるほどの大きな爆弾になる可能性がある。

(貼り付けはじめ)

この時、パナマシティにある海軍の秘密のベールに包まれた深海潜水集団が再び活躍することになる。パナマシティの深海学校の出身者たちがアイビー・ベルズ作戦に参加した。アナポリスの海軍兵学校を卒業し、海軍特殊部隊(ネイヴィーシールズ)、戦闘機パイロット、潜水艦乗りになることを目指すエリートたちにとって、この学校は避けたい場所に映るものである。もし、「ブラック・ショア(Black Shore)」、つまり、あまり好ましくない水上艦の司令部に所属しなければならないのなら、少なくとも駆逐艦、巡洋艦、水陸両用艦の任務が希望される。最も華やかさに欠けるのが機雷戦(mine warfare)である。そして、機雷戦に参加する潜水士たちがハリウッド映画に登場したり、人気雑誌の表紙を飾ったりすることはない。

前述の情報源は「深海潜水の資格を持つ最高の潜水士たちの世界は狭いコミュニティで、最高の中でも最高の潜水士たちが作戦のために採用され、ワシントンのCIAに呼び出されるので心の準備をするようにと言われる」と語った。

ノルウェー政府とアメリカ政府は作戦の実行地域と作戦内容を決めていたが、別の懸念も存在した。それはボーンホルム島周辺海域で異常な水中活動があれば、スウェーデンやデンマークの海軍の注意を引き、通報される可能性があるというものだ。

デンマークはNATOの最初期加盟国の1つであり、イギリスと特別な関係にあることは情報機関でも知られている。スウェーデンは NATO 加盟を申請しており、水中音波と磁気センサーシステムの管理で 優れた技術を有しており、スウェーデン群島の遠隔海域に時々現れては浮上するロシア海軍潜水艦の追跡に成功した実績を持っている。

ノルウェー側はアメリカ側と協力して、デンマークとスウェーデンの高官数名に、この海域での潜水活動の可能性について一般論として説明するよう主張した。そうすれば、上層部の誰かが介入して、指揮系統から報告書を排除することができ、パイプライン破壊作戦の実行を保護することができる。(ノルウェー大使館に対して、この記事についてコメントを求めたが、返答はなかった。)

ノルウェー政府は、他のハードルを解決するための重要な存在だった。ロシア海軍は、水中機雷を発見し、作動させることができる監視技術を持っていることが知られている。アメリカの爆発物は、ロシアのシステムから自然な背景の一部として見えるようにカモフラージュする必要があり、そのためには海水の塩分濃度に適応させる必要があった。ノルウェー側にはその解決策があった。

ノルウェー政府は、この作戦をいつ行うかという重要な問題についての解決策も持っていた。ローマの南に位置するイタリアのガエータに旗艦を置くアメリカ第6艦隊は、過去21年間、毎年6月にバルト海でNATOの大規模演習を主導し、この地域の多数の同盟諸国の艦船が参加してきた。6月に行われる今回の演習は、「バルト海作戦22(BALTOPS 22)と呼ばれるものである。ノルウェー側は、この演習が機雷を設置するための理想的な隠れ蓑になると提案した。

アメリカ政府は1つの重要な要素を提供した。それは、第6艦隊の計画担当者たちを説得して、プログラムに研究開発演習を追加させたことだ。米海軍が公表したこの演習は、第 6艦隊が海軍の「研究・戦争センター」と共同で行うものであった。ボーンホルム島沖で行われるこの海上演習では、NATOの潜水士ティームが機雷を設置し、最新の水中技術で機雷を発見・破壊するのを競い合うという内容だった。

これは有益な訓練であると同時に、巧妙な偽装でもあった。パナマシティの若者たちは、「バルト海作戦」の終了までにC4爆薬を設置し、48時間のタイマーを取り付ける。アメリカとノルウェーの関係者たちは、最初の爆発が起こる頃には、全員いなくなっているという手筈になっていた。

作戦実行日に向けてカウントダウンが始まった。「時計は時を刻み、私たちは任務達成に近づいていた」と前述の情報源は述べた。

そしてこの時、ホワイトハウスは考え直していた。爆弾は「バルト海作戦」の期間中も仕掛けられるが、ホワイトハウスは爆発までの期間が2日間では演習の終了に近すぎるし、アメリカが関与したことが明らかになることを懸念した。

その代わりに、ホワイトハウスは新たな要求を出した。それは、「現場の要員たちで、遠隔地からの命令でパイプラインを爆破できる方法を考えだすことは可能だろうか?」というものだった。

この大統領の優柔不断な態度に、計画ティームの中には怒りや苛立ちを覚える人たちもいた。パナマシティの潜水士たちは、「バルト海作戦」の期間中にパイプラインにC4爆弾を仕掛ける練習を繰り返していた。しかし、ノルウェーのティームは、バイデンが望むような方法、自分の好きな時間に実行命令を出すことができる、について新しい方法を考え出さなければならなくなった。

恣意的な土壇場での変更を任されることは、CIAにとってはこれまでも行ってきたことでもあり慣れていた。しかし、それはまた、作戦全体の必要性と合法性について一部が共有した懸念が新たに出てきた。

バイデン大統領の秘密命令はヴェトナム戦争当時にCIAが抱えていたディレンマを思い起こさせるものとなった。当時のリンドン・ジョンソン大統領は、ヴェトナム反戦運動の高まりに直面し、CIAがアメリカ国内で活動することを禁じた憲章に違反し、反戦運動の指導者がソ連にコントロールされていないかどうかを監視するよう命じた。

CIAは最終的に黙認し、1970年代を通じて、CIAが自ら進んで犯罪王位に手を染めていたことが明らかにされた。ウォーターゲート事件の後、新聞の暴露報道によって、アメリカ市民に対するスパイ活動、書外国の指導者暗殺への関与、サルヴァドーレ・アジェンデの社会主義政府の弱体化にCIAが関与しことが明らかになった。

これらの暴露は、1970年代半ばにアイダホ州選出のフランク・チャーチ連邦上院議員を中心とする連邦上院での一連の派手な公聴会につながり、当時のCIA長官リチャード・ヘルムズが、たとえ法律に違反することになっても大統領の望むことを行う義務があることを認めていたことが明らかになった。

ヘルムズは、書類化されていない、非公開の証言において、大統領からの秘密命令を受けて「何かをするときは、ほとんど無原罪(Immaculate Conception)のようなものだ」と残念そうに説明した。ヘルムズは続けて「それが正しいことであれ、間違っていることであれ、CIAは政府の他の部分とは異なる規則と基本的なルールの下で働いている」。彼は本質的に、CIAのトップとして、憲法ではなく王室のために働いてきたと理解していることを連邦上院議員たちに伝えていた。

ノルウェーで作戦に従事したアメリカ人たちも、同じような行動様式のもとで、バイデンの命令でC4爆薬を遠隔で爆発させるという新しい問題に、ひたすら取り組み始めた。しかし、これはワシントンにいる計画者たちが想像していたよりもはるかに困難な課題となった。ノルウェーのティームには、大統領がいつボタンを押すか分からない。数週間後なのか、数カ月後なのか、半年後なのか、それ以上なのか?

パイプラインに取り付けられたC4は、飛行機で投下されたソナーブイによって短時間に作動するが、その手順には最先端の信号処理技術が使われていた。そのためには最先端の信号処理技術が必要である。いったん設置された遅延装置は、船舶の往来が激しいバルト海では、近海・遠洋の船舶、海底掘削、地震、波、さらには海の生物など、さまざまなバックグラウンドノイズが複雑に絡み合って、誤って作動する可能性がある。これを避けるために、ソナーブイを設置した後、フルートやピアノが発するような独特の低周波音を連続して発し、それをタイミング装置が認識して、あらかじめ設定された時間の遅延後に爆発物を起動させるのだ。「他の信号が誤って爆薬を爆発させるパルスを送らないような強固な信号が必要となる」と私はMITの科学技術・国家安全保障政策の名誉教授であるセオドア・ポストール博士から教えられた。米国防総省の海軍作戦部長の科学アドヴァイザーを務めたこともあるポスドル博士は、バイデン大統領の後からの命令(時間を置いて爆発させたい)のためにノルウェーのグループが直面した問題は偶然の事故であったと述べた。ボストル博士は「爆薬が水中にある時間が長ければ長いほど、ランダムな信号によって爆弾が発射される危険性が高くなる」と述べた。

2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が一見、日常的な飛行を行い、ソナーブイを投下した。その信号は水中に広がり、最初はノルドストリーム2、そしてノルドストリーム1へと到達した。数時間後、高出力C4爆薬が作動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能に陥った。数分後には、停止したパイプラインに残っていたメタンガスが水面に広がり、取り返しのつかないことが起こったことを世界中が知ることになった。

●副次的な影響(FALLOUT

パイプライン爆破直後、アメリカのメディアはこの事件を未解決のミステリー(unsolved mystery)のように扱った。ホワイトハウスのリークに促され、何度も犯人としてロシアの名前が挙げられたが、単なる報復以上の自虐的行為にしかならない爆破についての明確な動機が明確にされることはなかった。数ヵ月後、ロシア当局がパイプラインの修理費用の見積もりをひそかに取っていたことが明らかになると、ニューヨーク・タイムズ紙はこのニューズを「攻撃の背後にいる人物についての説を複雑にしている」と評した。バイデンやヌーランド国務次官によるパイプラインへの脅しについて、アメリカの主要紙は掘り下げることはなかった。

ロシアがなぜ自国の儲かるパイプラインを破壊しようとしたのか、その理由は決して明らかではなかったが、ブリンケン国務長官が大統領の行動の拠り所となる根拠を示した。

昨年9月の記者会見で、西ヨーロッパで深刻化するエネルギー危機の影響について問われたブリンケン国務長官は、この瞬間は潜在的には良いものであると述べた。彼は次のように述べた。

「ロシアのエネルギーへの依存をなくし、プーティン大統領から帝国主義を推進するための手段としてエネルギーを武器化する手段を取り上げる絶好の機会である。このことは非常に重要であり、今後何年にもわたって戦略的な機会を提供することになる。しかし一方で、私たちは、この全ての結果が、アメリカの、あるいは世界中の市民にとっての大きな負担とならないようにするために、できる限りのことをする決意を固めている」。

更に最近になって、ヴィクトリア・ヌーランドは、最も新しいパイプラインの破壊に満足感を示した。2023年1月下旬の連邦上院外交委員会の公聴会で、彼女はテッド・クルーズ連邦上院議員に対して、「議員と同様に私も、ノルドストリーム2が、あなたが言われるように、海の底の金属の塊になったことを知って喜んでいる。バイデン政権全体もまた非常に喜んでいると思う」と語った。
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前述の情報源は、冬が近づくにつれ、ガスプロムの1500マイル(約2400キロ)以上のパイプラインを破壊するというバイデンの決定について、より一般的な見方を示した。この人物はバイデン大統領について「まあね、あの男には度胸があると認めざるを得ない。彼は実行すると言っていた。そして実際にやったのだ」と述べた。

ロシアが対応に失敗した理由をどう考えるかと質問したところ、この人物は皮肉を交えながら、「おそらくロシア側もアメリカが実行したのと同じことができる能力を手に入れたいと望んでいるからだろう」と答えた。

彼は話を続けて次のように語った。「美しい巻頭の特殊記事のようなものになった。しかし、その裏には、専門家たちを配置した秘密作戦と、秘密の信号で作動する装置があった」。

「唯一の失敗は実行する決定をしたことだ」。

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 古村治彦です。

 今回はシーモア・ハーシュの論稿の真ん中の3分の1をご紹介する。ノルドストリーム破壊の計画のためのタスクフォース・ティームは2021年12月に国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンによって組織された。ウクライナ戦争は2022年2月24日に勃発した。その前から既に計画されていたのだ。問題はこの計画が漏れる、もしくは計画が成功後にアメリカの仕業であるということが分かれば極めて重大な結果を招くということであった。アメリカはウクライナに支援を行っているが、ロシアとの直接の対決を避けてきた。それなのに、ロシアのガスプロムと西ヨーロッパ各国の企業が出資して建造した施設を爆破破壊するということはロシアや同盟国である西ヨーロッパ諸国に対する犯罪行為であり、戦争行為である。だからどうしてもばれてはいけなかった(動機を考えればアメリカ以外には考えられないのであるが)

 CIAがこれまでの実績からノルドストリーム爆破を提案したが、もちろん批判も多かった。失敗する可能性もあり、露見すればアメリカとバイデン政権は無傷では済まない。バイデンの再選は絶望的となったことだろう。それでも、CIAにはこれまでにも犯罪行為を秘密裏に成功させてきたという実績があった。私の個人的な見解を言えば、CIAとアメリカ軍の中の悪さを考えると、アメリカ海軍が潜水士達を派遣してCIAの作戦に協力させたというのは驚きである。ノルドストリーム破壊がアメリカにとって重要な「国策」だったことは明らかだ。

 計画中にバイデン大統領とヌーランド国務次官はちらちらと破壊計画をにおわせるような発言を行っていた。これらの発言に計画に関与した人々がじりじりしていたというのは自然な対応であろう。

 ノルドストリーム爆破作戦にとって重要なパートナーとなったのがノルウェー海軍だった。ノルウェー海軍はバルト海での経験が豊富であり、能力も高い。NATOの最高司令官はイェンス・ストルテンベルグであるが、ストルテンベルグはノルウェーの首相を務めた人物であり、アメリカの忠実な手先だ。ノルウェーは日本同様にアメリカの忠実な属国である。しかし、問題は爆破に最適の地点がデンマーク領内のボーンホルム島周辺海域であったことだ。スウェーデンやデンマークの海軍が怪しい動きを感知すれば計画漏洩の危険があるのだ。
(貼り付けはじめ)

●計画立案(PLANNING

2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに進入する2カ月前、ジェイク・サリヴァンは、米統合参謀本部、CIA、国務省、財務省の関係者で新たに結成したタスクフォースの会議を招集し、プーティンの侵攻が迫る中でどう対応するか、提言を求めた。

ホワイトハウスに隣接し、大統領対外情報諮問委員会(President’s Foreign Intelligence Advisory BoardPFIAB)が置かれている旧行政府ビル(Old Executive Office Building)の最上階にある盗聴などの危険が排除された部屋で、極秘会議の第1回目が開かれた。そこでは、いつものように雑談が交わされ、やがて重要な事前質問へとつながっていった。その質問とは以下のようなものだ。つまり、このグループが大統領に提出する勧告は、制裁措置や通貨規制の強化といった「可逆的(訳者註:いつでも元の状態に戻せること)」なものなのか、それとも「不可逆的」なものなのか、つまり、元に戻すことができない「武力行動(kinetic action)」なのか、ということだ。

このプロセスを直接知るある情報源によれば、サリヴァンは、グループがノルドストリーム・パイプラインの破壊計画を打ち出すことを意図し、大統領の要望を実現しようとしていたことが、参加者の間では明らかであったということだ。

その後の数回の会合では、攻撃方法の選択肢を議論した。海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。空軍は、遠隔操作で爆発させることができる遅延信管付きの爆弾を投下することを提案した。CIAは、「何をするにしても、秘密裏に行わなければならない」と主張した。関係者の誰もが、その利害関係を理解していた。「これは子供の遊び(kiddie stuff)ではない」とその関係者は言った。もし、その攻撃がアメリカにつながるものとなれば、「それは戦争行為なのだ(It’s an act of war)」。

当時、温厚な元駐ロシア大使で、バラク・オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズがCIAの指揮を執っていた。バーンズ長官はすぐに、パナマシティにいる海軍の深海潜水士に詳しい人物を特別メンバーに含む(これは偶然のことだったのだが)、CIAのワーキンググループを承認した。それから数週間、CIAのワーキンググループのメンバーたちは、深海潜水士を使ってパイプラインを爆発させるという秘密作戦の計画を練り始めた。

このような事例は以前にもあった。1971年、アメリカの情報機関は、ロシア(ソ連)海軍の2つの重要な部隊が、ロシア極東オホーツク海に埋設された海底ケーブルを介して通信していることを、未公表の情報ソースから知った。このケーブルは、海軍のある地方司令部とウラジオストクにある本土の司令部を結んでいた。

中央情報局(Central Intelligence AgencyCIA)と国家安全保障局(National Security AgencyNSA)から選抜された諜報員ティームが、ワシントン地域のある場所に極秘裏に集められ、海軍の潜水士達、改造潜水艦、深海救助艇を使って、試行錯誤の末にロシアのケーブルの位置を特定する計画を実行し成功させた。潜水士達はケーブルに高性能の盗聴器を仕掛け、ロシアの通信を傍受し、録音システムに記録することに成功した。

NSAは、ロシア海軍の幹部たちが通信回線の安全性を確信し、暗号化せずに同僚と普通のおしゃべりしていることを知った。しかし、ロシア語が堪能なロナルド・ペルトンという44歳のNSAの技術者によって、このプロジェクトは台無しにされてしまった。ペルトンは、1985年にロシアの亡命者に裏切られ、刑務所に送られた。ペルトンがロシアから受け取った報酬は、作戦を暴露した際の5000ドルと、公開されなかった他のロシアの作戦データに対する3万5000ドルだけだった。

コードネーム「アイビー・ベルズ(Ivy Bells)」と呼ばれたその海中での成功は、革新的で危険なものであり、ロシア海軍の意図と計画について貴重な情報をもたらした。

しかし、CIAの深海諜報活動に対する熱意には、当初、省庁間グループも懐疑的であった。未解決の問題が多すぎたのだ。バルト海の海域はロシア海軍の警備が厳しく、潜水作戦に使える石油掘削施設はない。ロシアの天然ガス積み出し基地と国境を接するエストニアまで行って、潜水訓練をしなければならないのか? CIAに対しては、「混乱状況で失敗するだろう(It would be a goat fuck)」と批判された。

この「計画中」に、「CIAと国務省の何人かは、こんなことはするなと言った。バカバカしいし、公になれば政治的な悪夢になる」と上述の情報源は述べた。

それでも、2022年初頭、CIAのワーキンググループはサリヴァンの省庁間グループに報告した。その内容は「パイプラインを爆破する方法がある」というものだった。

その後に起こったことは、驚くべきことだった。ロシアのウクライナ侵攻が避けられないと考えられていた、戦争勃発の3週間前の2月7日、バイデンはホワイトハウスのオフィスでドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した。ショルツは一時はぐらついたが、その時にはしっかりとアメリカ側についていた。その後の記者会見でバイデンは、「もしロシアが侵攻してきたら、ノルドストリーム2はもう存在しない。私たちはパイプラインを終わらせる」と述べた。
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ジョー・バイデンとオラフ・ショルツ
その20日前、ヌーランド国務次官は国務省のブリーフィングで、ほとんど報道されることなく、基本的に同じメッセージを発していた。ヌーランドは記者団からの質問に対して、「今日、はっきりさせておきたいことがある。もしロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルドストリーム2は前進しないだろう」と述べた。

パイプライン・ミッションの計画に携わった何人かは、攻撃への間接的な言及と見られるバイデンとヌーランドの発言に狼狽した。

上述の情報源は「東京の街中に原爆を置いて、それを爆発させると日本人に言っているようなものだった。計画では、オプションは侵攻後に実行されることになっており、公には宣伝されないことになっていた。バイデンは単にそれを理解しなかったか、無視したのだ」と述べた。

バイデンとヌーランドの軽率な行動は、それが何であったとしても、計画立案の参加者うちの何人かを苛立たせたかもしれない。しかし、それはチャンスでもあった。この情報源によると、CIAの高官の何人かは、パイプラインの爆破は「大統領がその方法を知っていると発表したため、もはや秘密のオプションとは見なされない」と判断したという。

ノルドストリーム1と2を爆破する計画は、突然、連邦議会に報告する必要のある極秘作戦から、アメリカ軍の支援を受ける極秘の情報作戦とみなされるものに格下げされた。この徐法源は次のように説明した。「法律上では、連邦議会に報告する法的義務がなくなった。しかし、それでも秘密でなければならない。ロシアはバルト海の監視に長けている」。

CIAのワーキンググループのメンバーたちは、ホワイトハウスと直接のコンタクトがなかったので、大統領が言ったことが本心かどうか、つまり、この作戦が実行に移されるのかどうかを確かめようと躍起になっていた。上述の情報源は、「ビル・バーンズがCIA長官として戻ってきて、実行せよと言った」と回想している。

この人物は「ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル沖の浅瀬にある適切な場所をすぐに見つけた」と述べた。

●作戦遂行(THE OPERATION

ノルウェーはノルドストリーム爆破任務の拠点として最適な場所だった。

東西危機の過去数年間、アメリカ軍はノルウェー国内でその存在を大幅に拡大してきた。西側の国境は北大西洋に沿って1400マイル(約2240キロ)も走り、北極圏の上でロシアと合流している。国防総省は、地元では賛否両論あるものの、数億ドルを投じてノルウェーの米海軍と空軍の施設を改修・拡張し、高級の雇用と高額の契約を創出したのである。この新しい施設には、最も重要なこととして、ロシアを深く探知することができる高度な合成開口レーダー(advanced synthetic aperture radar)が含まれており、ちょうどアメリカの情報機関が中国国内の一連の長距離監視サイトへのアクセスを失った時に稼働したのである。

何年も前から建設が進められていたアメリカの潜水艦基地が新たに改修され、運用が開始された。更に多くのアメリカの潜水艦が、ノルウェーの僚艦と緊密に協力して、250マイル(約400キロ)東のコラ半島にあるロシアの主要核要塞の監視と諜報に当たることができるようになった。アメリカはまた、北部にあるノルウェーの空軍基地を大幅に拡張し、ボーイング社製のP8ポセイドン型哨戒機の編隊をノルウェー空軍に提供し、ロシア全般の長距離監視を強化した。

その見返りとして、ノルウェー政府は昨年11月、補足的防衛協力協定(Supplementary Defense Cooperation AgreementSDCA)を可決し、議会のリベラル派と一部の穏健派を怒らせた。この新協定では、北部の特定の「合意地域」において、基地外で犯罪行為を行ったとして訴えられたアメリカ軍兵士と、基地での作業を妨害したことで訴えられたり疑われたりしたノルウェー国民については、アメリカの法制度が司法権を持つことになる。

ノルウェーは、冷戦初期の1949年にNATO条約に最初に署名した国の1つだ。現在、NATOの事務総長(最高責任者)はイェンス・ストルテンベルグだが、彼は熱心な反共主義者で、ノルウェーの首相を8年間務めた後、2014年にアメリカの後ろ盾でNATOの高官に就任した。彼はヴェトナム戦争以来、アメリカの情報機関と協力関係にあり、プーティンやロシアに関するあらゆることに強硬な態度を取ってきた。ヴェトナム戦争以来、彼はアメリカから完全に信頼されている人物なのである。前述の情報源は「彼(ストルテンベルグ)はアメリカの手にぴったりとフィットする手袋だ」と評した。
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ストルテンベルグ

ワシントンに話を戻すと、作戦の計画立案者たちは、ノルウェーに行くしかないと考えた。「彼らはロシアを嫌っていたし、ノルウェーの海軍は優秀な水兵や潜水士揃いであり、収益性の高い深海石油・ガス探査に何世代にもわたって携わってきた実績もある。また、この作戦を秘密にしておくことも可能であった。(ノルウェー側には他の利益もあったかもしれない。もしアメリカ側がノルドストリームを破壊することができれば、ノルウェーは自国の天然ガスをヨーロッパに大量に販売することができるようになる。)

3月のある時期、複数の計画立案者たちがノルウェーに向かい、ノルウェーのシークレットサーヴィスや海軍の関係者たちと面会した。バルト海のどこに爆薬を仕掛けるのが最適か、というのが重要な問題だった。ノルトストリーム1と2は、それぞれ2本のパイプラインで構成され、ドイツ北東部のグライフスワルト港に向かう途中、1マイル(約1.6キロ)余りの距離で隔てられていたのである。

ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れたバルト海の浅瀬にある適切な場所をいち早く探し出した。パイプラインは、水深260フィート(約78メートル)の海底を1マイル以上離れて走っている。潜水士たちはノルウェーのアルタ級機雷掃討艇(mine hunter)から、酸素、窒素、ヘリウムの混合ガスをタンクに注入して、パイプラインの上にC4爆薬を設置し、コンクリートの保護カバーで覆った。ボーンホルム沖は、潜水作業を困難にする大きな潮流がないことも利点であった。
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C4爆薬
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ノルウェーの掃海艇

数回の調査を経て、アメリカ側はすっかり乗り気になっていった。
(貼り付け終わり)

(つづく)

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