古村治彦です。
2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。BRICS(ブリックス)を中心とする非西洋諸国(the Rest、ザ・レスト)の台頭と重要性について書きました。是非手に取ってお読みください。
世界規模で電気自動車の需要が高まる中(電気自動車の有効性については疑問がある)、電気自動車の肝となる電池(バッテリー)に使われるニッケルでは、世界最大の埋蔵量(約23%)を占め、鉱石生産量の約半分(約48%)を占めるのがインドネシアだ。
インドネシア成否はニッケルの重要性を理解しており、精製していないニッケルの輸出を禁じている。国内に精製工場を建設し、精製済みのニッケルの輸出が必要となっている。世界の電気自動車競争において、電池(バッテリー)が重要だ。インドネシアは電池を製造するところまではいっていないが、精製する段階までは来ている。そのために、電気自動車分野で世界をけん引する中国企業がインドネシアに投資を行っている。インドネシア国内への産業投資の約3分の1は金属部門に流れているが、その多くはニッケル分野だ。
インドネシア政府はこれから電池製造に進もうとしているが、まずはニッケル精製を行っている。これは、2000年代のユドヨノ政権から始まり、2010年代のジョコ政権と続き、今年の選挙で当選したプラヴウォ政権でもこの動きは続く。
日本ではパナソニックが電気自動車用の電池(バッテリー)を製造している。日本にとって重要なのは、テスラだけではなく、中国電気自動車企業BYDにも電気自動車用の電池(バッテリー)を供給することである。そのために、インドネシアとの友好関係をしっかりと固めることである。日本からも積極的に投資を行うべきだ。それこそは日本の経済だけではなく、安全保障にとっても重要である。
(貼り付けはじめ)
インドネシアはニッケル産業に大きな野望を抱いている(Indonesia Has
Grand Ambitions for Its Nickel Industry)
-同国が今週投票に向かう中、ジャカルタの大統領府の将来により焦点が当てられることになる。
クリスティナ・ルー筆
2024年2月13日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/02/13/indonesia-election-nickel-economy-energy-jokowi-prabawo/
世界中でエネルギー転換の機運が高まるずっと以前から、ニッケル大国(powerhouse)インドネシアは、豊富な鉱物資源を活用して自国の経済を変革し、国際市場においてより大きな影響力を行使することを夢見てきた。
化石燃料からの世界規模での脱却と、グリーン・テクノロジーの原動力となる重要鉱物の需要の高まりが、ジャカルタの野心を加速させている。ニッケルは電気自動車用バッテリーの主要部品に使用される。インドネシアは世界最大級のニッケル埋蔵量を誇り、2022年には世界供給量の半分を採掘したインドネシアほど、世界のニッケル分野で大きな権益を主張できる国はない。
現在、水曜日には1億人以上の有権者たちが10年ぶりのインドネシアの新しい大統領を選出するために投票所に向かうことが予想されており、ジャカルタの大統領府の将来により焦点が当てられることになる。現在のジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、許容される最長任期である10年間権力を握った後、2024年10月に退任する予定であり、彼の後継者が国の急成長するセクターを具体的にどのように形成し続けるのかについて疑問が生じている。
ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス社の政策アナリストであるアレックス・ベッカーは、「インドネシアが、世界の他の地域でより価値の高い原料を生産することを望んでいる訳ではないことは明らかだ。本格的な電池とまではいかなくても、少なくとも精製ニッケルを生産することで、自分たちの世界での価値を高めたいのだろう」と述べた。
こうした野望は、ジョコ政権下で具体化され、ジョコウィは世界的な投資を呼び込み、インドネシアを地域の電池製造大国に作り変える努力を強め、一時はOPECと同様の、ニッケルカルテルの設立を提案したこともあった。より付加価値の高い製造能力(川下化[downstreaming]として知られるプロセス)を構築することに熱心なジョコウィは、2020年に未加工ニッケルの輸出を禁止した。この動きは、主に中国企業など、関心を持つ投資家たちに対して、代わりにインドネシアで製錬所を開発し、国内で鉱物を加工するよう促した。ジョコウィは大統領在任中、ジャカルタはボーキサイト、パーム油、石炭の輸出を様々な時点で制限してきた。5月には銅鉱石の輸出の禁止が実効化される予定だ。
ジョコウィの後継者をめぐる競争は始まっている。 3人の候補者が大統領の地位を争っている。その3人は、残忍な独裁者スハルトの親族であり、人権侵害を行ったとして告発されている現国防大臣プラヴウォ・スビアント、元中部ジャワ知事ガンジャール・プラノウォ、元ジャカルタ知事アニエス・バスウェダンだ。
プラヴウォは、ジョコウィの実の息子であるギブラン・ラカブミン・ラカを副大統領候補としているが、最近の世論調査では、水曜日に50%以上の票を獲得すると予測されており、現在のところ最有力視されている。どの候補者も50%以上の得票を得られなかった場合、選挙は6月の決選投票に持ち越される。2人はジョコウィの政策の継続を誓い、経済的繁栄への道を歓迎しており、ギブランはライヴァルたちを「反ニッケル(anti-nickel)」だと非難している。
プラヴウォは投票を前の声明で次のように宣言した。「この粘り強さこそ、私たちが維持しなければならないものだ。私たちは電気自動車のバッテリーや電気自動車を輸出した方がいいのであって、他国に加工してもらうために生のニッケルを輸出した方がいいということはない」。
オーストラリア国立大学インドネシア研究所所長で『インドネシアの資源ナショナリズム』の著者イヴ・ウォーバートンは、「彼らの主張は、私たちは鉱物の下流部門で多くのことを達成しており、プラヴウォ・ギブラン政権の任期中も同じ道を歩み続けるだろう、ということだ。この特定の政策介入に関して、他の候補者たちがプラヴウォやギブランと差別化を図るのは困難なことだった。なぜなら、政府および政府の数字によれば、それは大成功だったからである」と述べた。
例えば、2014年にジョコウィ政権が誕生した当時、インドネシアのフェロニッケル(ニッケルの加工品)の輸出額は8300万ドルだったが、2022年には58億ドルにまで膨れ上がった。輸出だけでなく、インドネシアでは現在、外国直接投資(foreign direct investment)が記録的な水準に達しており、その約3分の1が同国の金属・鉱業部門に注ぎ込まれている。
インドネシアのニッケル産業育成への取り組みは、ジョコウィの在任期間よりも10年以上前に遡る。当時のスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は2009年、企業に国内の鉱山労働者たちを雇用するよう命じる法律を導入し、全ての鉱山への取り組みは国益の増進に焦点を当てるべきだと強調した。外国からの投資を誘致するために、ユドヨノ大統領は2014年にインドネシア初のニッケル未加工品の輸出禁止も課したが、その制限は2017年に緩和された。
ウォーバートンは、「インドネシアのニッケル部門に対する野望は、ユドヨノ時代と2009年の鉱山法にまでさかのぼる。それ以来、インドネシアは鉱物からより多くの価値を引き出すべきだと法律で定められている」と述べた。
しかし、その後数年間、この業界は多くの課題に直面し、特に製錬所の爆発やその他の死亡事故の報告を受けて業界の汚染、環境への被害、安全上の問題に対する懸念が高まっている。最も致命的な事件の1つとして、12月に中国のニッケル工場で爆発があり、21人が死亡、数十人が負傷した。
インドネシアの政治リスク分析コンサルタント会社リフォルマシ・インフォメーション・サーヴィス代表ケヴィン・オルークは、「ニッケル川下政策の本当の問題は、セーフガードが全くないように見えることだ」と言う。
ニッケル部門の将来には、他の課題も立ちはだかる。中国の大手投資家たちやBYDを含むEVメーカーが数十億ドルの投資をインドネシアに集めている一方で、ジャカルタのアプローチは他の有望なパートナーたちやアメリカを含む国際市場からインドネシアを遠ざける危険性がある。
ジャカルタはワシントンとともに、インドネシア企業がインフレ抑制法を通じて多額の税額控除を利用できる限定的重要鉱物貿易協定の締結を推進していた。しかし、この入札はワシントンで激しい反発を引き起こし、昨年10月には9名のアメリカ連邦上院議員がそのような協定に反対する書簡を書いた。
アメリカ連邦上院議員たちは書簡の中で、「私たちは、インドネシアの労働権、環境保護、安全性、人権に関する基準に懸念を抱いている」と書いている。また、中国企業のインドネシアへの投資やジャカルタのニッケル鉱石輸出禁止に対する懸念も書簡の中で挙げられていた。結局、貿易協定は実現しなかった。
エネルギー転換の需要が新型EVバッテリーの開発を後押しする中、専門家たちによると、技術状況の変化もジャカルタの将来計画を複雑にする可能性があるという。ニッケルは、現在普及している強力なニッケル・マンガン・コバルト(NMC)電池の重要な構成要素だが、企業の一部はニッケルを使用しない新型電池に目を向けている。
ピーターソン国際経済研究所のシニアフェローであるカレン・ヘンドリックスは昨年11月、「インドネシアのニッケル埋蔵量と産業への野心は、電池化学の変化によって価値が低下する恐れがある。NMCバッテリーの優位性はつかの間かもしれない」と書いている。
その一例がテスラだ。ジャカルタは数年にわたりテスラからの投資誘致に努めてきたが、テスラはインドネシアへの投資に難色を示し、代わりにインドネシアの豊富な鉱物資源を必要としないバッテリーを採用している。
オーストラリア国立大学のウォーバートンは次のように述べている。「その多くは、技術の進化の早さにかかっている。当初の計画では、ニッケルがこの産業を本格的に立ち上げるために必要な主成分であるという考えに長い間基づいていた。市場は、それが転換する可能性を示唆しているようだ」。
※クリスティナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌特派員。ツイッターアカウント:@christinafei
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(終わり)
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