古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:『ディープ・ステイトの真実』

古村治彦です。
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レッド・ステイツの真実 

 西森マリー著『レッド・ステイツの真実』を読んだ。「レッド・ステイツ(Red States)」とは、アメリカの中で、共和党が優勢な州のことだ。アメリカ南部や内陸部の農業が盛んな州がレッド・ステイツだ。保守的で、キリスト教福音派が多くを占める。福音派、福音主義とはキリスト教のプロテスタントの考えで、より聖書に戻ろう、聖書を厳格に守ろうという考えだ。
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ディープ・ステイトの真実 日本人が絶対知らない! アメリカ大統領選の闇

西森マリー氏は最新刊『ディープ・ステイトの真実 日本人が絶対知らない! アメリカ大統領選の闇』(秀和システム、2020年)で副島隆彦先生と対談をしている。西森氏は日本でニュース番組のキャスターや語学番組の司会を務めた後、ヨーロッパに渡り、その後、アメリカ・テキサス州に拠点を移し活動している。カイロ大学で比較言語心理学を専攻したイスラム教徒というのはユニークな経歴だ。

『レッド・ステイツの真実』は、「レッド・ステイツに住むキリスト教福音派の敬虔な信者たちは政治的に問題になっている事柄についてどのように考えるか」ということを丁寧に描いている。福音派の人々が根拠とする聖書やユダヤ教の聖典などから引用し、その解釈を説明している。キリスト教やユダヤ教に全然詳しくない、という人でも分かり易くなっているので、「なるほど、そういうことか」という驚きが多く詰まっている本だ。一言で言って、「大変面白い本」である。キリスト教やユダヤ教の知識がほぼなくても大丈夫(あればそれに越したことはないけれど)、と是非一読をお勧めしたい一冊だ。

環境保護、中絶、税金と大きな政府、福祉政策、銃規制、死刑といったアメリカ政治では議論が沸騰している諸問題。「保守的な」キリスト教である福音派の人々(共和党支持)とリベラル派の人々(民主党)が激しい議論を戦わせている。その中で、両者は聖書などを根拠にして議論が進められている。イエス・キリストについて、リベラル派は「無抵抗主義の穏やかな伝道者」と描写し、福音派は「正義の戦士として悪と戦う」姿を描写している。また、聖書の同じ個所でリベラル派と福音派で全く解釈が異なるところもあり、大変興味深い。

私が概して受ける印象は、アメリカの「自己責任」「敵と味方を厳しく峻別し敵の殲滅を図る」という規範はキリスト教から来ているのだということだ。福音派は「貧しいのは自己責任」「無計画で無軌道で働きが悪いから貧しいのだ」と考える。それで貧しくなったのに税金で助けてもらおうなどというのはけしからん、ということになる。そして、キリスト教は隣人愛や施しを推奨しているので、困っている人たちを助けるのは人々の隣人愛や施しだけで十分だ、政府がやることではない、と考える。

キリスト教は敵と味方の二元論であり、正義のために悪を殲滅するということになる。これもまたジョージ・W・ブッシュ政権時のネオコンやバラク・オバマ政権前半のヒラリー・クリントン国務長官時代の敵を殲滅するという考えにつながっている。

本書を読むと、アメリカのキリスト教国の一面が良く分かり、その考え方もよく分かる。また、読み物としても手軽に手に取って読めるもので、是非多くの方々に読んでもらいたい。

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

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ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか? アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実 (星海社新書)

 今回は、西森マリー著『ドナルド・トランプはなぜ大統領に選ばれたのか?』を読んだ。本書の中で、テキサス州を拠点に活動する西森氏が「2016年の大統領選挙でメディアでは有利と伝えられていたヒラリー・クリントンが敗れ、ドナルド・トランプが大統領になったのか」ということを詳細に分析している

 一言で言えば、「アホでマヌケなアメリカ白人(映画監督マイケル・ムーアの著書タイトルから)と不当に馬鹿にされてきた人々が、自分たちを見下す民主党やリベラル派、共和党のエリート連中にウンザリして、既存の政治とは関係のなく、自分たちの考えを代弁してくれるドナルド・トランプを選んだ」ということだ。

 2016年の大統領選挙では、アメリカ南部は共和党の地盤なのでトランプが勝つと見られていたが、中西部、五大湖周辺の工業地帯の州は労働組合が強く、民主党支持なので、ヒラリーが勝つと見られていたが、僅差でトランプが勝利した。2016年の大統領選挙の予想を外した人々の多くは、五大湖周辺州でトランプが勝利するとは考えていなかったのではないかと思う。

 アメリカ南部にはキリスト教福音派の敬虔な信者が多く住む。私たちが日本での報道で接する姿は、大きな体で、反対派の人々といつも何か怒鳴り合いをしている怖い人々、そして人種差別を肯定する人々という印象が作られている。しかし、実際には、気は優しくて力持ち、地道な生活を営む人々ということである。また、人種差別を肯定せず(白人至上主義者やKKK会員は少数ながらいるが)、移民に関しても手続きを踏んでやってきた人は歓迎するという姿勢だそうだ。「自分の力で何とかする」「自分の力で生活している以上、何も介入しないで欲しい」という「個人主義」も根強い。

 こうした人々からすれば、健康管理は自己管理の問題であり、医療も福祉も自己責任ということになる。こうなると、政府が人々の生活に関わることには反対するということになる。医療保険(オバマケア)や教育の問題についての実態と、アメリカ南部に住む白人の考え方がこの本を読むとよく分かる。

 話は逸れるが、本書ではバラク・オバマ政権への激しい批判が展開されている。しかし、ここで少し考えてみたいのは、バラク・オバマ政権の前はテキサス州知事も務めたジョージ・W・ブッシュが8年間大統領を務めたということだ。ジョージ・W・ブッシュ政権の失政のために、人々は民主党とバラク・オバマを支持したという側面もある。ブッシュ(息子)政権の外交に関しては、ネオコンに取り込まれ、アメリカはアフガニスタンとイラクでの戦争の泥沼にはまり込んでしまった。もっと言えば、ブッシュは副大統領であったディック・チェイニーの傀儡でしかなかった。ジョージ・W・ブッシュについてのテキサスの人々の評価がどのようなものなのかを知りたい。

 本書に戻ると、重要なのは日本でも関心が高いであろうと思われる、トランプ大統領の勝因分析だ。第5章の「ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?」に網羅されている。トランプ大統領誕生に貢献したのは、ラストベルトの人々だ。五大湖周辺州の白人労働者にはカトリック教徒も多く、こうした人々はリベラルな価値観と相いれない部分もあり、単純に労働者だから労働組合に入っており、だから民主党支持という構図にはならない。また、ヒラリーのエリートが持つ上から目線に人々が苛立ち、政治と関係してこなかった、トランプに賭けるということになった。

What do you have to lose?」という言葉をトランプは選挙の演説で使ったが、「もう失うものはないでしょ、それならば自分の可能性に欠けて欲しい」という意味になる。本書の著者西森氏は「ダメ元で僕を試して欲しい」と訳しているが、まさに「これまでの政治家たちがやってきたことでアメリカはどん底になった。これ以上悪くなることはないのだから、思い切って自分に投票して欲しい」と訴えが人々の心を掴んだということになる。

 これはバラク・オバマの大統領選挙時のスローガンである「Change, yes we can」にもつながるものだ。残念ながら、大統領が代わって4年間という短期間で何かを劇的に変化させるということは誰にもできない。変革を訴えても、訴えたとおり全てを変えることはできない。今年2020年、トランプ大統領は再選のための選挙を迎える。そこで、これまでの4年間の評価が出ることになる。

(終わり)
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ディープ・ステイトの真実 日本人が絶対知らない! アメリカ大統領選の闇
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