古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:『ビッグテック5社を解体せよ』

 古村治彦です。

 喪中のために新年のご挨拶は遠慮させていただきます。

 2021年は大変お世話になりました。ありがとうございます。本年2022年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年はおかげさまで、久しぶりに単著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)と翻訳『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、徳間書店)を出版することができました。本年も何とか本が出せるように精進してまいりたいと存じます。

 皆さまにおかれましては、益々のお引き立てを賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。本年が皆さまにとって素晴らしい年となりますよう、衷心より祈念申し上げます。

 

「あらたまの 年立ち返る 朝より 若やぎ水を くみ初めにけり」


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 「自由主義は衰退しているのか」という問題は大きな問題であり、ここで簡単に答えが出るものではない。「もうダメだ」という人もいるし、「いやいや信じよう」という人もいる。今回紹介するパトリック・デニーンは「自由主義は衰退している」という考えを主張している。そして、これに対して、書評を掲載している『エコノミスト』誌はそうではない、と主張している。ドナルド・トランプが大統領選挙に当選して大統領を務めた期間、このような論争が数多く行われた。そもそも、自由主義や保守主義といった言葉の定義がとても難しい。

 アメリカでは自由主義が衰退しているということを示すような事例が数多く起きている。そのために先行きに悲観的になっている人たちも多くいるようだ。アメリカでリベラルと言えば、現在では左派の進歩主義派を指す。これに対して、嫌悪感を示す保守主義派もいる。

 しかし、問題は、アメリカ国民の人権や自由が脅かされているという現実だ。手前味噌で申し訳ないが、『』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)の中で、アメリカ連邦上院議員であるジョシュ・ホウリーは、なぜビッグテック(フェイスブック、ツイッター、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、ネットフリックスなど)と戦うのか、ということについて、アメリカが共和国であり続けることを守り、人々の自由と権利を擁護するためだとしている。私たちが便利に使っている道具が私たちの自由や権利を侵害しているのが現状だ。そのために、アメリカの共和制と民主政治体制が脅かされているのである。

 少し古い記事で恐縮だが、大きな流れとして、「自由主義が衰退している」ということは、生活の実感としてある。そして、そのことを私たちは警戒感を持って受け入れねばならない。

(貼り付けはじめ)

自由主義は過去400年間で最も成功した思想である(Liberalism is the most successful idea of the past 400 years

しかし「その最盛期は過ぎ去ってしまった」というのがある最新刊の主張だ。

『エコノミスト』誌

2018年1月27日Jan 27th 2018

https://www.economist.com/books-and-arts/2018/01/27/liberalism-is-the-most-successful-idea-of-the-past-400-years?fsrc=scn/fb/te/bl/ed/liberalismisthemostsuccessfulideaofthepast400yearsacalltoarms

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●『リベラリズムはなぜ失敗したのか』(パトリック・デニーン著、角敦子訳、原書房、2019年)

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●Why Liberalism Failed. By Patrick Deneen. Yale University Press; 248 pages; $30 and £30.

 

過去4世紀の間、自由主義(liberalism)は成功を収め、敵全てを戦場から追い落とした。ノートルダム大学の政治学教授パトリック・デニーン(Patrick Deneen)は、現在、自由主義の崩壊は、傲慢さと内部矛盾が入り混じったものになっていると主張している。

自由主義の黄昏の日々の残骸は、いたるところで見ることができるが、デニーン教授が注目しているアメリカではその傾向が顕著だ。自由主義の創始者の信条は粉々にされている。機会の平等は、高貴な者たちの責務(noblesse oblige)という考えを持つ古い貴族制度から超然としている実力主義の貴族制度を生み出した。民主政治体制(democracy)は、滑稽な劇場へと堕落してしまった。技術の進歩によって、より多くの分野の仕事を無意味な雑用に変化させた。デニーンは、「自由主義の主張と市民の生きている現実との間のギャップ」は、今や「もはや受け入れられない嘘」ほどに大きくなっていると書いている。それを証明するのは、1000機の自家用ジェットがダヴォス会議に参加し、「分断された世界で共有される未来を創造する」という問題について議論している姿ではないだろうか?

デニーン氏は「自由主義(liberalism)」という用語を、一般的な意味ではなく、哲学的な意味で使っている。デニーンは、トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes)やジョン・ロック(John Locke)に代表される政治理論の偉大な伝統について言及しており、現在アメリカ人がこの言葉から連想する漠然とした左派的な態度のことではない。しかし、彼の最新作は哲学の分野の成果を再び持ち出して、繰り返したものではない。政治理論家のほとんどは、自由主義が2つの独立した流れに分かれていると主張している。一つ目は、自由市場を賛美する古典的自由主義(classical liberalism)と、公民権を賛美する左派自由主義(left-liberalism)だ。デニーンにとって、それらは根本的な統一性を持っている。ほとんどの政治理論家たちは、自由主義のあり方についての議論は自分とは関係ないと考えている。デニーンは、自由主義は支配の哲学(ruling philosophy)であり、裁判所の判決から企業の行動まで全てを決定するものだと主張している。理論は実践である(Theory is practice)。

根本的な統一性の根底にあるのは、個人の自己表現だ。古典的自由主義者も左派自由主義者も、「人間は権利を持つ個人であり、夢を実現するためにできるだけ多くのスペースが与えられるべきだ」と考えている。政府の目的は、権利を擁護することだ。このシステムの正当性は、同意した大人の間の「社会契約(social contract)」に対する共通の信念に基づいている。しかし、これには逆説(paradox)が生じさせる。自由主義的な精神は、あるときは市場の効率性(market efficiency)の名の下に、またあるときは個人の諸権利(individual rights)の名の下に、継承された慣習(inherited customs)や地域の伝統(local traditions)を機械的に破壊する。その結果として、市場の創設者(market maker)として、また法の執行者(law-enforcer)としての国家の拡大の余地が生まれる。ホッブズの著作『リヴァイアサン』の表紙には、主権者である君主に立ち向かう何千もの原子化された個人が描かれており、現代の自由主義を完璧に表現している。

デニーンは自分の主張をうまく主張しているが、繰り返しが説得力につながると勘違いしているところもある。近代的な自由主義が登場する以前の哲学者たちは、自由とは自己表現(self-expression)ではなく自己修養(self-mastery)であり、快楽主義的な欲望(hedonistic desires)を満足させるのではなく、それを克服すること(indulgence)だと考えていたことを読者に主張している。デニーンの著作は、横行する商業主義に対する左派の不満や、自己愛の強いいじめられっ子の学生に対する右派の不満、さらには原子化や利己主義に対する一般的な懸念など、現在の幻滅の雰囲気を見事に捉えている。しかし、これら全てが自由主義の失敗に帰結すると結論づけたとき、彼の主張に説得力があるだろうか?

彼の著作には2つの致命的な誤りがある。一つ目は、自由主義の定義についてだ。アメリカ人学者JH・へクスターは、アメリカの歴史学者たちは2つの陣営に分かれていると確信している。一つ目は、「細分主義派(splitters)」(永続的に分類を行い続ける)であり、二つ目は、「非細分主義派(lumpers)」(物事をひとまとめにすることで一般化し続ける)だ。デニーンは過度に非細分主義的だ。彼は、自由主義の本質は個人を制約から解放することにあると主張している。

実際のところ、自由主義には、幅広い知的伝統が含まれており、権利と責任、個人の表現と社会的な結びつきの相対的な主張をどのように交換するかという問題に対して、いくつもの異なる答えを提供している。個人の自由への制約を取り除くことに最もこだわっている古典的自由主義者たちでさえ、原子化について苦悩している。ヴィクトリア朝中期の人たち(19世紀の半ばの人たち)は偉大な機構創設者たちだ。自発的な組織から株式会社まで全てを創設した。19世紀のイギリスの政治家ロバート・ロウの言葉を借りれば、「小さな共和国群(little republics)」ということだ。これらは、国家と社会との間のスペースを埋めるために設計されたものだった。後の自由主義者たちは、中央からの権限委譲や国民教育制度の創設など、さまざまな試みを行った。

デニーンが自由主義の本質にこだわることは、彼の本の2つ目の大きな問題につながる。彼は、自由主義が自らを改革し、内部の問題に対処する能力があることを認識していない。19世紀後半のアメリカは、ビジネス貴族の誕生、巨大企業の台頭、政治腐敗、社会が勝者と敗者に分かれることなど、現代にも通じる多くの問題を抱えていた。しかし、自由主義的な伝統の中で、多くの改革者たちが、これらの問題に正面から取り組んだ。セオドア・ルーズヴェルトは独占に対抗した。進歩主義派は政府の汚職を一掃した。大学の改革者たちは、学術的なシラバスを近代化し、機会に向かう梯子を築いた。自由主義は死滅するのではなく、自らを改革していった(Rather than dying, liberalism reformed itself)。

デニーンが、近年の自由主義の記録が悲惨なものであると指摘しているが、これは正しい。また、前近代的な「自由」の概念である「自己修養(self-mastery)」や「自己否定(self-denial)」から世界が学ぶべきことが多いと主張しているのも正しい。自由主義にとっての最大の敵は、原子化ではなく、昔ながらの貪欲(greed)である。ダヴォス会議のエリートたちは、役得やストックオプションで皿をますます高く積み上げる。しかし、人々が自由主義の矛盾(contradictions)から解放される唯一の方法が「自由主義そのものからの解放」であると主張するのは間違っている。『リベラリズムはなぜ失敗したのか』を読むための最善の方法は、弔辞(funeral oration)としてではなく、行動を起こすための呼びかけとして読むことだ。自分の生活を向上させろ、ということだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。  
 2021年12月3日に副島隆彦著『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』(ビジネス社)が発売される。副島先生の中国研究は既に10冊を超えた。私も2019年に副島先生のお供で深圳と香港を訪問した。その時の様子はこのブログでもご紹介した。
『全体主義中国がアメリカを打ち倒す』(副島隆彦著)発刊記念中国訪問記(1):深圳編
『全体主義中国がアメリカを打ち倒す』(副島隆彦著)発刊記念中国訪問記(2):香港編  
 『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』では、中国最高指導部が、「災い転じて福となす」戦略で達成した成果7つについて書いている。その7つについては、「はじめに」から以下のように引用する。
(貼り付けはじめ)
(1) 「デジタル人民元」がアメリカのドル覇権を叩き潰しつつある。デジタル人民元 が 世界通貨体制の 要(かなめ)となるだろう。
(2)  台独[たいどく](台湾独立派)を叩き潰して、アメリカが台湾に肩入れし、手出し干渉することを撃退する。日本やオーストラリアごときは、その手駒(てごま。paw ポウ)に過ぎない。
(3)  習近平は、勉強させ過ぎ(過酷な受験勉強)の子供たちを救出した。精鋭(せいえい)国際教育集団(OSIEG)という巨大教育産業(全国学習塾チェーン)を叩き潰して倒産させた。ニューヨーク上場株式消滅。ゲーム・アニメ・動画も同じく弾圧した。
(4)  経営危機の「恒大(こうだい)集団」を始め最大手不動産デベロッパーを、うまく国家の住宅政策に取り込んだ。恒大は同業種の国有企業が吸収合併(マージャー ・アンド ・アクイジジョン)。過熱した住宅価格も2割下げる。そしてゆくゆくは、14億人の全ての民衆(国民)に床面積100㎡(30坪)の高層住宅を持たせる(買えるようにする)。
(5)  ”中国版ビッグテック” (アリババ、テンセントなど)を、デジタル人民元の仕組みの中に解体的に取り込む。
(6)  9月24日に、ビットコインと全ての仮想 通貨(かそうつうか。暗号資産 クリプト・アセット)を最終的に禁圧し、国外追放にした。鉱山(マイナー)主たちの多くがアメリカのテキサス州に逃げた。仮想通貨はやがて叩き潰され、世界通貨体制の中にブロックチェーン技術を中心にして取り込まれる。  新しい世界通貨体制(ニュー・ワールド・カレンシー・オーダー)は予定通り、やがて、中央アジアのカザフスタン国に、すべての国の政府と中央銀行が集まって、国際条約で発足する。
(7)  生物兵器(バイオウエポン。細菌爆弾、ジャームボム)としてのコロナウイルスの武漢への攻撃を、中国は完全に撃退した(2020年9月に習近平が勝利宣言をした)。中国はディープ・ ステイト(陰[かげ]に隠れた世界支配者ども)の中国攻撃を、内部に攻め込ませる形で迎撃(げいげき)して粉砕した。中国の勝利だ。  このあとのm(メッセンジャー)RNAワクチンという世界民衆大量殺戮(さつりく)の邪悪な生物化学兵器も中国は見抜いて防御した。愚か者の日本や欧米の白人たちは、これから国民がたくさん死ぬ。(1-4ページ)
(貼り付け終わり)
 重要なのは、中国国内に分裂や分断をもたらさないことである。そのために習近平政権は、「共同富裕」という考えで、中間層を増大させ、いまだに貧しい6億の農民の報酬を引き上げることを宣言した。分厚い中間層はどの国にとっても安定と発展のためには不可欠な要素である。そのために急激な高度経済成長でもたらされた格差を是正する。
 更に言えば、一時期の日本よりも厳しい受験戦争から子どもたちを解放すること、そして、スマートフォンやSNS、ゲームへの依存から救出することを目指している。この点が重要だ。なぜならば、若者たちのスマートフォンやSNS、ゲームへの依存は、すでに先進諸国でも問題になっているからだ。これらは孤立感や憎悪を増幅させる。その結果として、社会は壊れていく。私は、2021年11月25日に『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)を出版したが、そこにも同様のことが書かれている。現在、世界各国が抱える問題は共通しており、それは深刻なものとなっている。中国も例外ではない。そして、中国最高指導はそれらの諸問題を逆手(さかて)にとって、「禍を転じて福と為す」ということで、より良い状態を生み出そうとしている。
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ビッグテック5社を解体せよ 
 ここでちょっと宣伝をさせていただくと、私は2014年に『野望の中国近現代史』(オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー著、ビジネス社)という翻訳本を出版した。 この本は非常に重要な本だ。本ブログ2021年7月9日付記事「「恥辱の世紀」から「復興」へ「歴史のバトン」をつなぐ中国:「富と力」を求めた200年間」で、2021年7月1日付でアメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された「中国共産党はこれまで常にナショナリスト政党であった(The Chinese Communist Party Has Always Been Nationalist)」(ラッシュ・ドシ筆)という記事を紹介した。
「恥辱の世紀」から「復興」へ「歴史のバトン」をつなぐ中国:「富と力」を求めた200年間
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 この記事は『野望の中国近現代史』の内容をそのまま要約したものだった。現在はほぼ絶版状態になっており、新刊本は書店では手に入らないし(アマゾンでは残り1点だそうだ)、電子書籍版もないので、中古本を買っていただくしかないが、中国の近現代史を大づかみに一気に理解したい方には最良の一冊である(少し分厚いですが。私の高校の同級生は2度読んだよと言ってくれました)。アメリカの知識人階級の中国近現代史理解は本書でできていると言っても良いだろう。
 最後に私の中国体験を書いておきたい。2019年に中国を訪問したが、それ以前にも行ったことがある。私は1984年、当時小学4年生だったと記憶しているが、地元鹿児島の南日本新聞社主催の「子ども遣唐使」という小中学生だけの中国訪問ツアーに参加した。これは、鹿児島の薩摩半島の南端にある坊津(ぼうのつ)という場所に、奈良の唐招提寺の開山となった鑑真和上(がんじんわじょう)が漂着した歴史があること、当時は日本からの中国への渡航も制限が緩和されたこともあっての子どもたちの訪問団が実現したということだったと思う。前年が第1回で、それに参加した子どもの保護者から話を聞いた親が勧めてくれたという記憶がある。私にとっては当然ながら初めての海外旅行だった。その頃の鹿児島で海外旅行に行く小学生なんてほぼいなかった。
 私たちは鹿児島空港から長崎空港へ飛び、長崎空港から中華民航機で上海に向かった。私たちの訪問地は上海と無錫だった。上海空港はただただ広かったが、飛行機が到着した場所から空港の建物まで歩いた。私はそれまで子供ながらに鹿児島空港と羽田空港を利用した経験があったので、雑草が生えている滑走路を歩きながら、「タラップもないなんてなんてみすぼらしい」という感想を持った。中国側からは通訳の方もついて、ホテルに着き、翌日からは観光や少年宮と呼ばれる教育施設の訪問などがあった。
 私が記憶しているのはパンダだ。やっぱり子供である。私は親戚もいた関係で東京には毎年のように行っていたので(こんな子供もまた鹿児島では珍しかった)、日本の上野動物園でパンダを見た経験はあった。上野にいたパンダは空調の聞いた檻(というよりも部屋)に入っていて快適そうだった。一方、上海動物園のパンダ。上海のパンダはただの檻に入れられて、夏の猛暑の中、水風呂にひたすら入っていた。そして、夏バテのためか昼寝をしていた。そこに、白人の親子もおり、子どもたちがパンダを起こそうとして「ヘイ、パンダ」「ヘイ、パンダ」と呼び掛けていた。「英語でもパンダはパンダって言うんだな」という妙な感心をしたことを覚えている。
 上海の動物園には中国人の子どもたちもたくさん来ていたが、皆一様にランニングシャツに短パンだった。そこに外国語を話すこざっぱりとした格好の子供たちの一団がやって来たのが異様だったのか、私たちの後ろを同年代の子供たちがついてきた。私は子供心に、「日本が戦争をして負けた後の写真やドラマ、ドラマでよく見る格好だ」と思い、中国は貧しいんだと実感した。それから40年ほど経った訳だが、その時一瞬邂逅した、日本の子どもたちと上海の子どもたちは今や中年になっている訳だが、その生活はどうなのだろうかと考えると、大きな逆転があったのではないかと容易に推測できる。彼らは中国の高度経済成長を経験し、私たちは失われた30年を経験した。
 それから由緒のあるお寺を訪問した。その中身については全く覚えていないが、私は壁に何か描かれていたが乱暴に消された跡があることに気付いた。それが歴史のあるお寺にそぐわないと子供心に思ったのだろう、通訳の方に「あそこだけどうしてあんなに汚れているんですか」と質問した。通訳の方は「文化大革命というものの跡です」と教えてくれた。私は「文化大革命とは何ですか」と質問した。その答えは「日本に帰ってお父さんとお母さんに聞いてください」というものだった。それでこの話は終わり、あまり良くないことなのだろうと察することができた。それから、この通訳の方は何かと私に気遣いをしてくれるようになった。どこかに行くたびに私の感想を聞きたがり、面白そうに聞いてくれた。他の子どもたちはちょっと違うと思ってくれたようだ。
 後日談では、私が入学した高校の美術室にはベランダがあり、そこは高校生たちが隠れてタバコを吸うスペースになっていた(今はそうではないと思います)。私はそこの掃除当番になって毎日吸殻を捨てていたのだが、ある日壁にうっすらと「造反有理」と書かれているのを見つけた。これは文化大革命のスローガンだと知っていたので、恐らく学生運動の名残なんだろうと納得した。その後、その高校の出身者である私の叔父に話をしたら、「懐かしいなぁ、それを書いたのは私だよ」と教えられて、小学4年生で知った文化大革命という言葉が非常に身近に感じられた。
 1984年はロサンゼルスでオリンピックが開催された年だ。ご多分に漏れず、私もオリンピックを楽しみにしており、コカ・コーラを何本か飲むと貰えた(というシステムだったと思う)、マスコットのイーグル・サムの付いたグラスを集めていた。中国訪問中はオリンピックの開催期間でもあったので、ホテルのテレビでオリンピックを見ることになったが、当然のことながら、中国での放送は中国選手ばかりが映る。今ではそんなことは何とも思わないが、当時子どもだった私は日本選手の活躍が見たかったので大いに不満だった。 ホテルでテレビを見ていた時に、日本のドラマの吹き替えが多かったのも印象的だった。「赤いシリーズ」と呼ばれたドラマで、山口百恵が出ているシリーズが丁度放送されていた。「わぁ、山口百恵だ、懐かしいなぁ」と思ったことを覚えている(山口百恵は私がもっと小さい頃に既に引退していたので)。また、上海のバンドのあたりには、三田佳子がキャラクターの三洋電機の洗濯機の大きな広告があったことを覚えている。
 中国訪問中、私は誕生日を迎えた。ホテルでは心づくしのケーキを出してくれた。しかし、このケーキはスポンジがパサパサ、クリームも日本のものとは違う感じで、子どもたちの口には合わなかった。また、ある時に通訳の方と話していて、自転車が給料1カ月分だと教えてくれて、その給料は日本円で言えば8000円くらいと教えてもらえた(通訳の方の給料はもっと高かったと思う)。私の親は教師をしていたが、それよりもずっと高い給料をもらっている(それでも日本では真ん中くらい)ということを知っていたので、中国の貧しさを実感した。
 私が子どもの頃に中国を訪問して40年、中国は日本を逆転した。これからその差は広がっていくだろう。一人当たりのGDPはまだ日本が上回っているが、それもいつまで続くか分からない。日本の衰退・縮小が続き、中国が成長を続けていけば、自然とそうなる。既に中国の都市部では生活水準で日本を上回っているところが出ている。中国が本気で中間層の厚みを増そうとして、配分や再配分に本腰を入れていけば、生活水準は上がっていく。ランニングシャツに短パンだった上海の子どもたちは今や一流ブランドの洋服に身を包み、あの頃こざっぱりとした格好をしていた私たちはどうだろうか、ユニクロの洋服を着て満足している。この大きな逆転を実感することは歴史の大きな流れを実感することだと私は思う。副島先生の中国研究本を読みながら、なぜか昔話を書きたくなった。長くなってしまって申し訳ありません。ご寛恕の程、お願いいたします。 (貼り付け終わり) (終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 古村治彦です。

 2021年11月25日に『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)が発売になりました。2021年11月29日(月)に産経新聞長官2面の下に広告を掲載していただきました。ありがとうございます。
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ビッグテック5社を解体せよ

 以下に、推薦文、目次、訳者あとがきを掲載します。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

推薦文

 この度(たび)、今のアメリカでビッグテック解体の急先鋒であるジョシュ・ホウリー Josh Hawley の『ビッグテック5社を解体せよ』の邦訳が出ることを、私は心の底から喜ぶ。

 ジョシュ・ホウリーは、1979年生まれで、38歳で上院議員選挙に当選した。私は彼に注目した。彼は一貫してトランプ前大統領に忠実だ。ホウリーはミズーリ州の司法長官を務めた真面目なインテリの大秀才だ。

 彼が書いた本の書評を読むと、その中身が「ビッグテックを解体せよ」 “Break Up Big Tech” だと知った。是非日本でも出版すべきだと考え、この度徳間書店から、私の弟子の古村治彦(ふるむらはるひこ)君に翻訳の話があり古村君が丁寧かつ正確に翻訳した。

本書は、最大手出版社のサイモン&シュスター Simon & Schuster から出版されるはずだった。だがホウリーは今もトランプ派であることを理由にして出版を取り止めた。この決定の裏にはビッグテック5社、特にフェイスブックからの強い「要請」があったとされる。 

その後ホウリーはサイモン&シュスターと和解して、シカゴの老舗の出版社で、保守思想の名門のレグナリー社 Regnery Publishing から、2021年5月に出版された。出版されるとすぐにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位になった(2021年6月)。ビッグテックの一角のアマゾンでもベストセラー入りした。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙の民主党寄りのリベラル新聞書評では、「内容が不正確」と悪口を書かれた。それを跳ね飛ばしてベストセラー入りを続けたことは痛快だった。

「ビッグテックを解体せよ」の動きは、ドナルド・トランプ前政権が、2020年10月にグーグルを独占禁止法違反で訴えたときから始まった。12月にはフェイスブックを従業員に対する差別的処遇で訴えた。次のバイデン政権も「ビッグテック解体」の動きを受け継ぎ強力に継続している。ビッグテック解体のために3人の若い人間が台頭した。1人目は、FTC(連邦取引委員会 Federal Trade Commission)委員長になったリナ・カーン(Lina Khan 1989年生)女史だ。何とまだ32歳の才媛である。リナ・カーンはイエール大学法科大学院(ラー・スクール)在学中の2017年に、イエール・ラー・レヴュー誌に “Amazon’s Antitrust Paradox” 「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を発表して注目を浴びた。内容は「現在の独占禁止法では、価格の面ばかりが強調されている。安い商品とサーヴィスを売りさえすれば正義(ジャスティス)だ、ということはもはや無い。アマゾンが実際に行っている反競争的な諸行為を取り締まるべきである」と書いた。

FTC(連邦取引委員会)の委員長に抜擢されたリナ・カーン(32歳)。イエール大学法科大学院在学中の2017年に「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を書いて一躍注目された才媛。ビッグテックの独占体制を叩き潰す司令塔である。

2人目は、司法省(ジャスティス・デパートメント)の独占禁止法担当の次官補(assistant attorney general for the antitrust division)に指名(現在、人事承認中)されたジョナサン・カンター(Jonathan Kanter 1973年生。48歳)だ。ジョナサン・カンターは弁護士として長年中小業者の代理人となりグーグルやアップルとの裁判を闘ってきた。司法省は2020年10月にグーグルを独禁法違反で提訴した。2023年から公判が始まる。司法次官補になったカンターがこの責任者を務める。

3人目は、ティム・ウー(Tim Wu 1972年生。49歳)だ。ティム・ウーの父親は中国系の移民で、カナダの名門マクギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了した。その後、いくつかの大学で教鞭を執り、2006年からコロンビア大学法科大学院教授。ティム・ウーは、前述したFTC委員長に就任したリナ・カーンとコロンビア大学で同僚である。ティム・ウーはホワイトハウスの国家経済会議(NEC(エヌイーシー))に入り、テクノロジー競争政策担当の大統領特別補佐官(special assistant to the president for technology and competition policy)に就任した。ウーが2021年7月に出た大統領令(executive order(エグゼクティヴ オーダー))を書いた。ホワイトハウスからビッグテックを八つ裂きにする仕事をする。

これに呼応して、立法府のアメリカ連邦議会から、ビッグテック解体の戦いを進めるのが、本書の著者ジョシュ・ホウリーだ。ホウリーは、上院の司法委員会に所属し、独占禁止法(米ではAnti Trust Act(アンチ トラスト アクト))小委員会に入っている。委員長は、2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬した、エイミー・クロウブシャー(Amy Klobuchar 1960年生。61歳)議員(ミネソタ州選出)だ。クロウブシャーはクソ真面目な女性政治家としてアメリカ国民の信頼が厚い。本書『ビッグテック5社を解体せよ』と同時期に、クロウブシャーも『独占禁止』 Antitrust という本を出版した。民主、共和両党の上院議員2人が、同趣旨の本を出すのは、「独占禁止法違反だ」とからかわれて話題になった。2人は対ビッグテックということで強力に協力する。

このようにビッグテック包囲網、ビッグテック解体の準備が着々と進んでいる。特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに対する攻撃は厳しい。プラットフォーム(巨大窓口)を利用者に無料で使わせて、個人情報を集め、集めた膨大なデータを利用者に断りなくアルゴリズム(コンピュータの計算方法)に当てはめて、個人の嗜好や性格まで分析する。それを広告収入に結び付けて大きな利益を出す。世の中のために何も作らない虚業(きょぎょう)に対する怒りが高まっている。ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903~1950年。46歳で没)のディストピア(絶望郷)小説『1984年』に出てくる「ビッグ・ブラザーがあなたを見張っている」をもじった「ビッグテックがあなたを監視している」 ‘Big Tech Is Watching You!’である。

 本書『ビッグテック5社を解体せよ』は、アメリカの独占禁止の歴史から、ビッグテックの危険性についてまでの全体を描いている。現在アメリカで何が起きているかの最新の情報を得ることができる。本書は、アメリカ政治の最新の動きを日本に伝える。私が本書を強力に推薦する所為(ゆえん)である。

 2021年10月

                                    副島隆彦

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ビッグテック5社を解体せよ──目次

推薦文 1

序文 Preface 15

第一部

第一章 独占の復活 The Return of the Monopolies 24

●共和政体の守護者セオドア・ルーズヴェルトの敗北 30

●大企業優先自由主義に支配されてきたアメリカ 41

第二章 泥棒男爵たち The Robber Barons 46

●独占資本家たちによる大企業優先自由主義に導いた「泥棒男爵」 50

●巨大ビジネスの先鞭をつけた鉄道事業 53

●企業家たちは自由な競争より独占を選んだ 65

●市民の自立こそが共和国の源泉 71

第三章 最後の共和主義者 The Last Republican 76

●一部のエリートに支配されない自由を確保するのがアメリカの共和主義 80

●大企業経営者たちに挑んだセオドア・ルーズヴェルト 91

第四章 大企業優 先自由主義の大勝利       

The Triumph of Corporate Liberalism 97

●企業の巨大化を進歩だと考えたウィルソン 99

●ウィルソンが変質させた自由 105

●ウィルソンによって骨抜きにされた独占禁止法 118

第二部

第五章 依存症に苦しむアメリカ Addicting America 126

●インターネット依存症を蔓延させた罪 132

●こうして市民は単なる消費者に変えられた 144

第六章 反社会的メディア Anti-Social Media 158

●SNSの最大の被害者は子供たち 160

●ネットは怒りを増幅させる装置 171

第七章 検閲担当者たち The Censors 184

●ザッカーバーグと議会で直接対決 188

●ニューズキュレイターによって操作されるニューズ 201

●トランプ当選で半狂乱になったグーグル社員がとった行動 206

●地球最大のニューズ配信装置となったビッグテック 212

●リベラル派の教育機関としてのビッグテック 224

第八章 新しい世界秩序 New World Order 227

●グローバル経済から最大の利益を上げる 230

●中国と結びついたビッグテック 237

●独占から利益を引き出す厚かましいやり口 239

●グローバライゼーションの勝者と敗者 249

第九章 不正操作されているワシントン Rigging Washington 253

●書き換えられた通信品位法第230条がビッグテックの楯となった 255

●ワシントンのエリートを使った強力なロビイング活動 261

●エリートの、エリートによる、エリートのための政府 267

第三部

第十章 私たち一人ひとりにできること What Each of Us Can Do 274

●子供たちにスマホを与えない決断 276

第十一章 新しい政治 A New Politics 286

●グーグルとフェイスブックは独占禁止法違反の容疑者 290

●「追跡をするな」という権利を我らに与えよ 300

●人々を依存状態にする機能を廃止させよ 304

●個人に訴訟する権利を与えよ 306

●アメリカの自治のシステムを回復させよ 308

訳者あとがき 310

=====

訳者あとがき

 本書は、Josh Hawley, The Tyranny of Big TechRegnery Publishing, 2021)の邦訳だ。本書の英語での原題を直訳すれば、「ビッグテックの暴政(ぼうせい)」や「ビッグテックの暴力的支配」となる。しかし、邦題は『ビッグテック5社を解体せよ』とした。それは、著者であるホウリーが実際に使っている言葉であり、本書の内容を簡潔に表していると考えるからだ。

著者のジョシュ・ホウリーについて簡単に紹介する。ホウリーは1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、大いに目立つ存在で、周囲の大人や友人たちは、「ジョシュは将来アメリカ大統領になるに違いない」と噂していたという。

 ホウリーは1998年に西部カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に進学した。大学を優秀な成績で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。在学中は、成績優秀者しかなれない学内誌の編集委員を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得て、アメリカ合州国最高裁判所主席判事ジョン・ロバーツの事務官からキャリアを始めた。その後は弁護士事務所に勤務し、ミズーリ大学法科大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執った。

2017年からミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグテックの危険性を認識し、2017年11月、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査を開始した。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、フェイスブックの捜査を行った。このときに他の州の司法長官たちに一緒に戦おうと呼びかけたが誰も反応しなかった、と彼は本書の中で述懐している。

 2018年の中間選挙でのミズーリ州連邦上院議員選挙で共和党の候補者となり、当時現職だった民主党の候補者を破り、連邦上院議員となった。ホウリーは当時のドナルド・トランプ大統領からの強力な支持を得た。これが初当選の後押しとなった。ホウリーは、連邦上院司法委員会の独占禁止法小委員会に所属し、「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網の一員として活躍している。委員会では、ビッグテックの経営陣を召喚(しょうかん)し、不正行為などを厳しく追及している。

 本書は大きく分けて三部構成となっている。第一部は第一章から第四章までで構成されている。第一部では、独占monopoly(モノポリー)の出現と繁栄の歴史を詳述している。1870年代から鉄道産業や石油産業を中心に、巨大企業による独占によって、「泥棒男爵」と呼ばれた資本家たち(代表的人物はジョン・P・モルガン)は莫大な富を蓄積した。それと同時に、資本家たちは独占を正当化するために、「大企業優先自由主義corporate liberalism(コーポレイト リベラリズム」というイデオロギーを生み出した。

こうして独占が正当化され、そうした動きに抗うことが難しくなっていく中で、独占に立ち向かったのが、ホウリーが傾倒しているセオドア・ルーズヴェルト大統領(第26代)だった。しかし、彼の闘いは失敗に終わった。

 その後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(第28代)が出現し、大企業優先自由主義を称賛し、「個人の自由とは個人的な生活の中に限定される。政治に参加する必要はない。また、物質的な豊かさを保証するのは政府と大企業の役割だ」という考えを定着させた。結果として、経済的に自立し、政治参加する普通の人々が力を持ち、統治する政治体制である共和政治体制が危機に瀕することになった。

 アメリカの共和政治体制が危機に瀕したこの時期と、現代の状況が酷似(こくじ)しているということを著者であるホウリーは私たちに訴えている。彼がビッグテック解体を叫ぶのは、人々に損害を与える独占の解消ということももちろん理由にあるが、現状が続けば共和政治体制 republic(リパブリック)と民主政治体制democracy(デモクラシー)の護持(ごじ)が困難になるという危機感がその根底にある。

第二部は第五章から第九章までで構成されている。第二部では、ビッグテック各社が、雨リカ社会や経済、そしてアメリカの人々一人ひとりに、いかに損害を与えているかを、多くの具体的な事例を挙げて説明している。

「ツイッターやグーグル、フェイスブックは利用者に無料で使わせているが、どうやって利益を出しているのか」、「広告収入が大きいと聞いたことがあるけれど、どうなっているのか」という疑問を皆さん方も持たれたことがあると思う。第二部では、ビッグテックのビジネスのからくりと実態が明らかにされている。多くの方に自分のこととして、驚きといささかの不快感を読み取ってもらえるはずだ。

 ビッグテック、特にソーシャルネットワーク・メディアのプラットフォームplatform(巨大窓口)の最大手フェイスブックのビジネスモデルとは、簡単に言えば、「利用者にプラットフォームを利用させて集めた個人データを断りもなく勝手に使って、より洗練された広告を行うことで、金(かね)に換えている。その副産物として、人々の精神に悪影響を与えている」ということになる。

 ビッグテックの共通のモデルは次の通りだ。あらゆる種類の個人データを膨大に集め、それをアルゴリズムalgorithm(コンピュータの計算方式)に当てはめて、利用者よりも早く、その人が欲するものを導き出して、それに合った内容の投稿や記事、そして広告を表示する。その過程で、既存のマスメディアや小売業者に圧力をかけて記事や商品を提供させる。また、ビッグテック、特にフェイスブックは、個人データとアルゴリズムを使って、選挙の際に有権者の投票行動をコントロールしている。また、ビッグテックのプラットフォームが日常生活の中に浸透していき、人々、特に子供や若者たちの精神に悪影響(自殺やうつ症状の増大など)を与えている実態も詳細に紹介されている。

第三部は、第十章と第十一章で構成されている。第三部では、私たちはビッグテックからの悪影響からいかにして自分たちを守るか、そして、アメリカの共和政治体制と民主政治体制をいかに守るか、修復していくかということが書かれている。ホウリーが家族で行っている取り組みは私たちの参考になる。その内容は、スマホやパソコンを一定の時間を決めて使わないこと、子供たちには携帯機器を使わせないで外で遊んだり、一緒に本を読んだりすること、家族や友人、ご近所との付き合いを大切にすることだ。ホウリーは「これこそがビッグテックとの戦いにとって重要な力になる」と述べている。

 ごく当たり前の簡単なことであり拍子抜けしてしまう。しかし、現代において、この当たり前で簡単なことを実行することが難しい。また、スマホやパソコンに何時間も触らないことも難しい。携帯機器に触らないと不安な気持ちになってしまう人も多いはずだ。これは、ビッグテックのプラットフォームや携帯機器が私たちの生活に深く浸透していることを示す証拠だ。本書の中に使われている表現を使えば、私たちは、体の中に溜まったビッグテックからの影響(毒素)を外に排出するために、断食をしなくてはいけない。

本書の校正作業中、「フェイスブックが社名をメタMetaに変更する」というニューズが飛び込んできた(2021年10月29日)。創業以来最大の逆風が吹き荒れる中で、名称変更と仮想空間へ軸足を移すことで危機(内部告発や広告収入の減少など)を乗り越えたいという意図があるとニューズ記事で解説されている。ホウリーをはじめとする政府や議会で形成された「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網によって、フェイスブックは苦境に陥っている。

ホウリーは2024年の大統領選挙の共和党候補者予想に名前が挙がる人物だ。ある調査では、ドナルド・トランプ、マイク・ペンスに続いて3位につけるほど、知名度と人気が高まっている。ホウリーは共和党に所属しているが、大企業寄りの主流派・エスタブリッシュメントには与していない、トランプ支持派のポピュリストPopulistであることが分かる。

ポピュリズムPopulismとは悪い意味の言葉ではない。日本では大衆迎合政治などと訳されてマイナスイメージだが、本当はそうではない。機能不全に陥った、腐った中央政治に対しての、草の根の人々からの異議申し立て運動のことだ。彼を押し上げ、ワシントンに送り込んだのは、アメリカのごく普通の人々だ。

 ホウリーは「普通のアメリカ人が力を持ち、政治に参加して、共和国としてのアメリカの運命を決めよう」ということを主張している。ジョシュ・ホウリーはこれから、アメリカ政治で存在感を増していき、やがて大統領になるかもしれない。是非これからも注目していきたい楽しみな人物だ。

最後に師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦の言葉をいただいだ。また、本書の翻訳にあたり、徳間書店学芸編集部の力石幸一(ちからいしこういち)氏には大変お世話になった。記して深く感謝申し上げます。

 2021年11月

                           古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 本日、2021年11月25日に私が翻訳しましたジョシュ・ホウリー著『ビッグテック5社を解体せよ』(徳間書店)が発売になります。以下に推薦文、目次、訳者あとがきと、ビッグテック各社に関する反独占のバイデン政権の人事についての記事をご紹介します。参考にしていただいて、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ 

(貼り付けはじめ)

推薦文

この度(たび)、今のアメリカでビッグテック解体の急先鋒であるジョシュ・ホウリー Josh Hawley の『ビッグテック5社を解体せよ』の邦訳が出ることを、私は心の底から喜ぶ。

ジョシュ・ホウリーは、1979年生まれで、38歳で上院議員選挙に当選した。私は彼に注目した。彼は一貫してトランプ前大統領に忠実だ。ホウリーはミズーリ州の司法長官を務めた真面目なインテリの大秀才だ。

彼が書いた本の書評を読むと、その中身が「ビッグテックを解体せよ」 Break Up Big Tech だと知った。是非日本でも出版すべきだと考え、この度徳間書店から、私の弟子の古村治彦(ふるむらはるひこ)君に翻訳の話があり古村君が丁寧かつ正確に翻訳した。

本書は、最大手出版社のサイモン&シュスター Simon & Schuster から出版されるはずだった。だがホウリーは今もトランプ派であることを理由にして出版を取り止めた。この決定の裏にはビッグテック5社、特にフェイスブックからの強い「要請」があったとされる。 

その後ホウリーはサイモン&シュスターと和解して、シカゴの老舗の出版社で、保守思想の名門のレグナリー社 Regnery Publishing から、2021年5月に出版された。出版されるとすぐにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位になった(2021年6月)。ビッグテックの一角のアマゾンでもベストセラー入りした。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙の民主党寄りのリベラル新聞書評では、「内容が不正確」と悪口を書かれた。それを跳ね飛ばしてベストセラー入りを続けたことは痛快だった。

「ビッグテックを解体せよ」の動きは、ドナルド・トランプ前政権が、2020年10月にグーグルを独占禁止法違反で訴えたときから始まった。12月にはフェイスブックを従業員に対する差別的処遇で訴えた。次のバイデン政権も「ビッグテック解体」の動きを受け継ぎ強力に継続している。ビッグテック解体のために3人の若い人間が台頭した。1人目は、FTC(連邦取引委員会 Federal Trade Commission)委員長になったリナ・カーン(Lina Khan 1989年生)女史だ。何とまだ32歳の才媛である。リナ・カーンはイエール大学法科大学院(ラー・スクール)在学中の2017年に、イエール・ラー・レヴュー誌に Amazons Antitrust Paradox 「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を発表して注目を浴びた。内容は「現在の独占禁止法では、価格の面ばかりが強調されている。安い商品とサーヴィスを売りさえすれば正義(ジャスティス)だ、ということはもはや無い。アマゾンが実際に行っている反競争的な諸行為を取り締まるべきである」と書いた。

FTC(連邦取引委員会)の委員長に抜擢されたリナ・カーン(32歳)。イエール大学法科大学院在学中の2017年に「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を書いて一躍注目された才媛。ビッグテックの独占体制を叩き潰す司令塔である。

2人目は、司法省(ジャスティス・デパートメント)の独占禁止法担当の次官補(assistant attorney general for the antitrust division)に指名(現在、人事承認中)されたジョナサン・カンター(Jonathan Kanter 1973年生。48歳)だ。ジョナサン・カンターは弁護士として長年中小業者の代理人となりグーグルやアップルとの裁判を闘ってきた。司法省は2020年10月にグーグルを独禁法違反で提訴した。2023年から公判が始まる。司法次官補になったカンターがこの責任者を務める。

3人目は、ティム・ウー(Tim Wu 1972年生。49歳)だ。ティム・ウーの父親は中国系の移民で、カナダの名門マクギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了した。その後、いくつかの大学で教鞭を執り、2006年からコロンビア大学法科大学院教授。ティム・ウーは、前述したFTC委員長に就任したリナ・カーンとコロンビア大学で同僚である。ティム・ウーはホワイトハウスの国家経済会議(NEC(エヌイーシー))に入り、テクノロジー競争政策担当の大統領特別補佐官(special assistant to the president for technology and competition policy)に就任した。ウーが2021年7月に出た大統領令(executive order(エグゼクティヴ オーダー))を書いた。ホワイトハウスからビッグテックを八つ裂きにする仕事をする。

これに呼応して、立法府のアメリカ連邦議会から、ビッグテック解体の戦いを進めるのが、本書の著者ジョシュ・ホウリーだ。ホウリーは、上院の司法委員会に所属し、独占禁止法(米ではAnti Trust Act(アンチ トラスト アクト))小委員会に入っている。委員長は、2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬した、エイミー・クロウブシャー(Amy Klobuchar 1960年生。61歳)議員(ミネソタ州選出)だ。クロウブシャーはクソ真面目な女性政治家としてアメリカ国民の信頼が厚い。本書『ビッグテック5社を解体せよ』と同時期に、クロウブシャーも『独占禁止』 Antitrust という本を出版した。民主、共和両党の上院議員2人が、同趣旨の本を出すのは、「独占禁止法違反だ」とからかわれて話題になった。2人は対ビッグテックということで強力に協力する。

このようにビッグテック包囲網、ビッグテック解体の準備が着々と進んでいる。特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに対する攻撃は厳しい。プラットフォーム(巨大窓口)を利用者に無料で使わせて、個人情報を集め、集めた膨大なデータを利用者に断りなくアルゴリズム(コンピュータの計算方法)に当てはめて、個人の嗜好や性格まで分析する。それを広告収入に結び付けて大きな利益を出す。世の中のために何も作らない虚業(きょぎょう)に対する怒りが高まっている。ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903~1950年。46歳で没)のディストピア(絶望郷)小説『1984年』に出てくる「ビッグ・ブラザーがあなたを見張っている」をもじった「ビッグテックがあなたを監視している」 Big Tech Is Watching You!’である。 本書『ビッグテック5社を解体せよ』は、アメリカの独占禁止の歴史から、ビッグテックの危険性についてまでの全体を描いている。現在アメリカで何が起きているかの最新の情報を得ることができる。本書は、アメリカ政治の最新の動きを日本に伝える。私が本書を強力に推薦する所為(ゆえん)である。

 2021年10月

                                    副島隆彦

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ビッグテック5社を解体せよ──目次

推薦文 1

序文 Preface 15

第一部

第一章 独占の復活 The Return of the Monopolies 24

●共和政体の守護者セオドア・ルーズヴェルトの敗北 30

●大企業優先自由主義に支配されてきたアメリカ 41

第二章 泥棒男爵たち The Robber Barons 46

●独占資本家たちによる大企業優先自由主義に導いた「泥棒男爵」 50

●巨大ビジネスの先鞭をつけた鉄道事業 53

●企業家たちは自由な競争より独占を選んだ 65

●市民の自立こそが共和国の源泉 71

第三章 最後の共和主義者 The Last Republican 76

●一部のエリートに支配されない自由を確保するのがアメリカの共和主義 80

●大企業経営者たちに挑んだセオドア・ルーズヴェルト 91

第四章 大企業優 先自由主義の大勝利 The Triumph of Corporate Liberalism 97

●企業の巨大化を進歩だと考えたウィルソン 99

●ウィルソンが変質させた自由 105

●ウィルソンによって骨抜きにされた独占禁止法 118

第二部

第五章 依存症に苦しむアメリカ Addicting America 126

●インターネット依存症を蔓延させた罪 132

●こうして市民は単なる消費者に変えられた 144

第六章 反社会的メディア Anti-Social Media 158

●SNSの最大の被害者は子供たち 160

●ネットは怒りを増幅させる装置 171

第七章 検閲担当者たち The Censors 184

●ザッカーバーグと議会で直接対決 188

●ニューズキュレイターによって操作されるニューズ 201

●トランプ当選で半狂乱になったグーグル社員がとった行動 206

●地球最大のニューズ配信装置となったビッグテック 212

●リベラル派の教育機関としてのビッグテック 224

第八章 新しい世界秩序 New World Order 227

●グローバル経済から最大の利益を上げる 230

●中国と結びついたビッグテック 237

●独占から利益を引き出す厚かましいやり口 239

●グローバライゼーションの勝者と敗者 249

第九章 不正操作されているワシントン Rigging Washington 253

●書き換えられた通信品位法第230条がビッグテックの楯となった 255

●ワシントンのエリートを使った強力なロビイング活動 261

●エリートの、エリートによる、エリートのための政府 267

第三部

第十章 私たち一人ひとりにできること What Each of Us Can Do 274

●子供たちにスマホを与えない決断 276

第十一章 新しい政治 A New Politics 286

●グーグルとフェイスブックは独占禁止法違反の容疑者 290

●「追跡をするな」という権利を我らに与えよ 300

●人々を依存状態にする機能を廃止させよ 304

●個人に訴訟する権利を与えよ 306

●アメリカの自治のシステムを回復させよ 308

訳者あとがき 310

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訳者あとがき

本書は、Josh Hawley, The Tyranny of Big TechRegnery Publishing, 2021)の邦訳だ。本書の英語での原題を直訳すれば、「ビッグテックの暴政(ぼうせい)」や「ビッグテックの暴力的支配」となる。しかし、邦題は『ビッグテック5社を解体せよ』とした。それは、著者であるホウリーが実際に使っている言葉であり、本書の内容を簡潔に表していると考えるからだ。

著者のジョシュ・ホウリーについて簡単に紹介する。ホウリーは1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、大いに目立つ存在で、周囲の大人や友人たちは、「ジョシュは将来アメリカ大統領になるに違いない」と噂していたという。

ホウリーは1998年に西部カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に進学した。大学を優秀な成績で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。在学中は、成績優秀者しかなれない学内誌の編集委員を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得て、アメリカ合州国最高裁判所主席判事ジョン・ロバーツの事務官からキャリアを始めた。その後は弁護士事務所に勤務し、ミズーリ大学法科大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執った。

2017年からミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグテックの危険性を認識し、2017年11月、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査を開始した。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、フェイスブックの捜査を行った。このときに他の州の司法長官たちに一緒に戦おうと呼びかけたが誰も反応しなかった、と彼は本書の中で述懐している。

2018年の中間選挙でのミズーリ州連邦上院議員選挙で共和党の候補者となり、当時現職だった民主党の候補者を破り、連邦上院議員となった。ホウリーは当時のドナルド・トランプ大統領からの強力な支持を得た。これが初当選の後押しとなった。ホウリーは、連邦上院司法委員会の独占禁止法小委員会に所属し、「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網の一員として活躍している。委員会では、ビッグテックの経営陣を召喚(しょうかん)し、不正行為などを厳しく追及している。

本書は大きく分けて三部構成となっている。第一部は第一章から第四章までで構成されている。第一部では、独占monopoly(モノポリー)の出現と繁栄の歴史を詳述している。1870年代から鉄道産業や石油産業を中心に、巨大企業による独占によって、「泥棒男爵」と呼ばれた資本家たち(代表的人物はジョン・P・モルガン)は莫大な富を蓄積した。それと同時に、資本家たちは独占を正当化するために、「大企業優先自由主義corporate liberalism(コーポレイト リベラリズム」というイデオロギーを生み出した。

こうして独占が正当化され、そうした動きに抗うことが難しくなっていく中で、独占に立ち向かったのが、ホウリーが傾倒しているセオドア・ルーズヴェルト大統領(第26代)だった。しかし、彼の闘いは失敗に終わった。

その後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(第28代)が出現し、大企業優先自由主義を称賛し、「個人の自由とは個人的な生活の中に限定される。政治に参加する必要はない。また、物質的な豊かさを保証するのは政府と大企業の役割だ」という考えを定着させた。結果として、経済的に自立し、政治参加する普通の人々が力を持ち、統治する政治体制である共和政治体制が危機に瀕することになった。

アメリカの共和政治体制が危機に瀕したこの時期と、現代の状況が酷似(こくじ)しているということを著者であるホウリーは私たちに訴えている。彼がビッグテック解体を叫ぶのは、人々に損害を与える独占の解消ということももちろん理由にあるが、現状が続けば共和政治体制 republic(リパブリック)と民主政治体制democracy(デモクラシー)の護持(ごじ)が困難になるという危機感がその根底にある。

第二部は第五章から第九章までで構成されている。第二部では、ビッグテック各社が、アメリカ社会や経済、そしてアメリカの人々一人ひとりに、いかに損害を与えているかを、多くの具体的な事例を挙げて説明している。

「ツイッターやグーグル、フェイスブックは利用者に無料で使わせているが、どうやって利益を出しているのか」、「広告収入が大きいと聞いたことがあるけれど、どうなっているのか」という疑問を皆さん方も持たれたことがあると思う。第二部では、ビッグテックのビジネスのからくりと実態が明らかにされている。多くの方に自分のこととして、驚きといささかの不快感を読み取ってもらえるはずだ。

ビッグテック、特にソーシャルネットワーク・メディアのプラットフォームplatform(巨大窓口)の最大手フェイスブックのビジネスモデルとは、簡単に言えば、「利用者にプラットフォームを利用させて集めた個人データを断りもなく勝手に使って、より洗練された広告を行うことで、金(かね)に換えている。その副産物として、人々の精神に悪影響を与えている」ということになる。

ビッグテックの共通のモデルは次の通りだ。あらゆる種類の個人データを膨大に集め、それをアルゴリズムalgorithm(コンピュータの計算方式)に当てはめて、利用者よりも早く、その人が欲するものを導き出して、それに合った内容の投稿や記事、そして広告を表示する。その過程で、既存のマスメディアや小売業者に圧力をかけて記事や商品を提供させる。また、ビッグテック、特にフェイスブックは、個人データとアルゴリズムを使って、選挙の際に有権者の投票行動をコントロールしている。また、ビッグテックのプラットフォームが日常生活の中に浸透していき、人々、特に子供や若者たちの精神に悪影響(自殺やうつ症状の増大など)を与えている実態も詳細に紹介されている。

第三部は、第十章と第十一章で構成されている。第三部では、私たちはビッグテックからの悪影響からいかにして自分たちを守るか、そして、アメリカの共和政治体制と民主政治体制をいかに守るか、修復していくかということが書かれている。ホウリーが家族で行っている取り組みは私たちの参考になる。その内容は、スマホやパソコンを一定の時間を決めて使わないこと、子供たちには携帯機器を使わせないで外で遊んだり、一緒に本を読んだりすること、家族や友人、ご近所との付き合いを大切にすることだ。ホウリーは「これこそがビッグテックとの戦いにとって重要な力になる」と述べている。

 ごく当たり前の簡単なことであり拍子抜けしてしまう。しかし、現代において、この当たり前で簡単なことを実行することが難しい。また、スマホやパソコンに何時間も触らないことも難しい。携帯機器に触らないと不安な気持ちになってしまう人も多いはずだ。これは、ビッグテックのプラットフォームや携帯機器が私たちの生活に深く浸透していることを示す証拠だ。本書の中に使われている表現を使えば、私たちは、体の中に溜まったビッグテックからの影響(毒素)を外に排出するために、断食をしなくてはいけない。

本書の校正作業中、「フェイスブックが社名をメタMetaに変更する」というニューズが飛び込んできた(2021年10月29日)。創業以来最大の逆風が吹き荒れる中で、名称変更と仮想空間へ軸足を移すことで危機(内部告発や広告収入の減少など)を乗り越えたいという意図があるとニューズ記事で解説されている。ホウリーをはじめとする政府や議会で形成された「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網によって、フェイスブックは苦境に陥っている。

ホウリーは2024年の大統領選挙の共和党候補者予想に名前が挙がる人物だ。ある調査では、ドナルド・トランプ、マイク・ペンスに続いて3位につけるほど、知名度と人気が高まっている。ホウリーは共和党に所属しているが、大企業寄りの主流派・エスタブリッシュメントには与していない、トランプ支持派のポピュリストPopulistであることが分かる。

ポピュリズムPopulismとは悪い意味の言葉ではない。日本では大衆迎合政治などと訳されてマイナスイメージだが、本当はそうではない。機能不全に陥った、腐った中央政治に対しての、草の根の人々からの異議申し立て運動のことだ。彼を押し上げ、ワシントンに送り込んだのは、アメリカのごく普通の人々だ。

 ホウリーは「普通のアメリカ人が力を持ち、政治に参加して、共和国としてのアメリカの運命を決めよう」ということを主張している。ジョシュ・ホウリーはこれから、アメリカ政治で存在感を増していき、やがて大統領になるかもしれない。是非これからも注目していきたい楽しみな人物だ。

最後に師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦の言葉をいただいだ。また、本書の翻訳にあたり、徳間書店学芸編集部の力石幸一(ちからいしこういち)氏には大変お世話になった。記して深く感謝申し上げます。

 2021年11月

                           古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

 

(貼り付けはじめ)

独占禁止とビッグテックについて、バイデンは自身の中道派のルーツに戻らねばならない(On antitrust and big tech, Biden must return to his centrist roots

ダニエル・A・クレイン筆

2021年4月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/technology/547921-on-antitrust-and-big-tech-biden-must-return-to-his-centrist-roots

アメリカ合衆国大統領は、独占禁止法とビッグテックをめぐる激しさを待つ議論に介入できる、限定された権限を持っている。その中でも最も重要なのは、連邦取引委員会(FTC)と司法省反独占局(Justice Department Anti-trust Division)という反独占機関の責任者を指名することだ。バイデン大統領は既にこのオプションを実行している。連邦取引委員会委員長にリナ・カーンを指名し、同様の決定として、国家経済会議(NEC)の反独占の責任者(czar)にコロンビア大学のティム・ウー教授を指名した。

カーンとウーは独占禁止についての賢明な、そして実績を積んだ思想家である。それぞれ取引委員会委員長と大統領特別補佐官に選ばれたのは当然だ。しかし、両者は、反独占に関する新ブランダイス主義派出身であり、このグループについては民主党内部でも議論が起きている。バイデンが自分の政権の反独占政策の運命を新ブランダイス派に結びつけたいと思わないのなら、連邦取引委員会委員長や反独占担当司法次官補など他の重要な人事には、異なる哲学的方向性を持つ人物の起用を検討すべきだろう。

反独占の動きは、ビッグテック各社に対する追加訴訟を提起するかどうかから、法改正の可能性、基本的な目的に至るまで、あらゆることが問われる極めて重要な瞬間に立たされている。概して言えば、反独占に関しては大きく3つのグループが存在する。

一つ目の陣営は、実業界に好意的な保守派と呼びたい。このグループは、現在の反独占に関する諸政策と諸原理はほぼ正しく、反独占に関する劇的な変化は経済効率、消費者の福祉、技術革新、経済的自由、そして世界におけるアメリカの国益に脅威を与えるだろうと考えている。二つ目のグループは、改革志向の中道派と呼びたい。このグループは、反独占の動きは消費者の福祉と経済効率に集中すべきだという点で一つ目のグループに同意している。しかし、改革志向の中道派は、現行の反独占の法執行と法律上の諸原理は、独占と支配的な企業に対してあまりにも許容的だと考えている。改革志向の中道派は、政府や民間の原告が訴訟を起こしやすくすることで、独占禁止法の施行を再び活性化させようとしている。最後に、新ブランダイス主義者陣営は、独占禁止法の執行を再活性化することをやはり望んでいるが、消費者の福祉と経済効率の分離されない追求こそが問題の根っこにあると考えている。アメリカ最高裁判事を務めたルイス・ブランダイスの哲学である、巨大さの呪い(The Curse of Bigness)に従い、新ブランダイス主義者たちは、消費者の利益を明らかに脅かすかどうかにかかわらず、企業の支配に異議を唱えるために反独占の動きを展開したいと考える。

これら3つのグループについて興味深いことは、これらのグループの相違が党派の相違のラインに沿ってはいないということだ。政治的に右派の立場を取る人々の多く(彼ら自身は自分たちを新ブランダイス主義者と呼んではいない)は、社会的そして政治的発信についてのビッグテックの強力な支配を打破することといた社会的そして政治的な目的を達成するために独占禁止法を機動的に使用せよと訴えている。対照的に、政治的に左派の立場に立つ人の中には、ビッグテックと協力関係を持ち、過度に攻撃的に反独占政策を進めるとビッグテック製品に大きく依存している有権者たちからそっぽを向かれるのではないかという懸念を持っている人たちもいる。私は、ビッグテックを排除するとそこに力の空白が生まれて結果としてリベラルな政治観に対して共感を持たない企業がそれを埋めてしまうのではないかという懸念の声を多く耳にしている。

こうした政治的な複雑さを考えると、バイデンが新ブランダイス主義者たちとだけ協力するというのは賢い選択ではないということになる。彼が実業界に好意的な保守派を反独占に関する人事で起用することはないというのは明らかだ(選挙結果というのは影響力を持つ!)。しかし、反独占の動きの中に改革志向の中道派を入れることは考慮すべきだ。この結論を支持する2つの重要な理由が存在する。

一つ目の理由は、原理原則に関わることだ。反独占に関しては軌道修正(course correction)が必要だということは幅広いコンセンサスが得られている。しかし、完全な見直し(wholesale re-thiking)が必要だということは動揺のコンセンサスが得ら得ていると結論付けるのは時期尚早だ。新ブランダイス主義者たちが席を占めているのは明らかだが、改革志向の中道派にも席を与えられるべきだ。

二つ目の理由は現実的なものだ。新ブランダイス主義の立場がより広範な政治的な支持を得られるか全く不透明であり、このグループと政権があまりにも緊密な関係を持つことは政治的なリスクを伴うことになってしまう。ニューディール時代、ルーズヴェルト大統領は、独占禁止や競争、大企業について様々な見解を持つ人々を政権内に配置するという現実的な決断を下した。政治的な風向きや現場での事実の変化に応じて、様々な人々に責任者としての役割を求めた。もしバイデンが新ブランダイス主義者たちと感懐を深めれば、ルーズヴェルトのような選択肢は持てないことになる。

独占禁止に関する大きな決断がこれから待っている。ホワイトハウスは、柔軟に対応できるような形で人事を行うべきである。

※ダニエル・A・クレイン:ミシガン大学フレデリック・ポール・ファース記念講座教授

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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