古村治彦です。

 

 今日は先日見た映画『ブルークリスマス』の感想を述べます。私の友人に映画隙の人がいて、私が岡本喜八監督に興味があると言うと、DVDを貸してくれました。私は映画をあまり見てこなかったのですが、岡本喜八監督の映画『大誘拐』を中学生だったか、高校生だったかの時期に見て面白かったので、岡本喜八監督について興味を持っていました。この他にも『独立愚連隊』「独立愚連隊 西へ」という映画のDVDも借りましたので、これらも見てまた感想を書きたいと思います。

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ブルークリスマス [DVD]

 映画『ブルークリスマス』は大変面白い映画でした。コメディでもハッピーエンドでもないので、「楽しい」と書いてよいのかは分かりませんが、いろいろと考えてしまう映画でした。

 

 映画の内容は次の通りです。ある日、世界各地で文字通り青い血液を持つ人々が出現し、その数が増えていく現象が確認されました。これは宇宙船、UFOを目撃し、それから発せられる光を体に浴びて出てくる現象でした。当初は荒唐無稽の噂話として広がっていき、非現実的だ、非科学的だとして打ち消されますが、やがてそれが本当だということになります。

 

 人類の中に青い血液を持つ人たちが出て来ていることを報告した宇宙科学を専門とする兵頭博士(岡田英次)は失踪し、その事件を追う国営放送JBCの報道局員南(仲代達矢)は奇妙な出来事に遭遇し、真実を知りながら、それを発表出来ないことになります。

 

 国防庁の特殊部隊員である沖(勝野洋)は、職務として、青い血液となってしまった人々を監視し、かつ、その真実を暴こう、拡散しようとする人々を弾圧し、最悪の場合には殺害していきます。

 

 世界各国の指導者たちは、青い血液を持つ人類が少数派のうちに抹殺することを決めます。宗教やイデオロギー、国家体制の違いを超えて、この点で一致団結します。日本でも全国民に血液検査が実施され、青い血液を持つ人々は隔離され、強制収容所に送られます。それに反対する人たちもいますが弾圧されます。

 

 沖は冴子(竹下景子)と恋に落ちます。不器用ではあるが誠実な沖と冴子は合いを深めますが、不幸な結末を迎えてしまいます。

 

 映画では、青い血液を持つようになってしまった人々は、イライラもなく、過度の競争心や嫉妬心を持たなくなり、穏やかな性格になると描かれています。ただ、血液が青くなってしまっている、ということだけです。映画では血液が青い生物としてイカが紹介されており、それは人類の血液には鉄分が含まれているのですが、それがイカの場合は代わりに銅が含まれており、そのために血液が青くなるということも説明されています。

 

 この映画を見ての感想ですが、まずは、真実とは何かということを追いかけるはずの科学と報道という2つの分野が機能しないということです。科学の場合には、「宇宙人であるとか宇宙船などというものは存在しない」という前提から宇宙船からの光を浴びた人が青い血液を持つということを税所否定しますが、じわじわとそれが広がっていくと、今度は実験(観察)の対象、実験材料とし、そのために非人道的な取り扱いをします。報道はその変わった話に飛びつきますが、やがて上の存在から口止めされ、そして最後には協力してしまう、口を閉ざした時点で協力していることになります。

 

 真実について語り、人類のために奉仕すべき分野である科学や報道が実際には時の権力に奉仕し、人道に反する行為を行った例はこれまでの歴史でも見られることですが、この映画でもそのことが描かれています。ですから、科学や報道に従事する人たちも、私たち受益者、受け手も不断の点検が必要になるということだと思います。

 

 青い血液となってしまった人々は血液以外にはそれまで通りであり、極めて普通の人間です。そして、心が穏やかになり、嫉妬心や競争心がなくなります(これは一種の麻薬のメタファーでもあると思います)。しかし、少数派であるこの人々は、多数派である赤い色の血液を持つ人々にとっては不安材料です。今のところは無害(それまでも無害で外見上は変わらないのですから当たり前です)ですが、これからどうなるか分からない、ということに、世界各国の権力者たちは大きな不安を覚えます。

 

 そして、最後には強制収容を行います。それに対して、「やり過ぎではないか」「人権侵害ではないか」という当然の反対意見も出ます。それを抑えるために、青い血液を持つ人々は、暴力蜂起を行う、それは宇宙人に唆されたからだ、という主張を流し、かつ、最後には、そのようになった青い血液を持つ人々は、人類ではない(人類の定義は赤い血液を持つ)ので、人権などなく、抹殺対象になるのだというところまで進み、この映画の悲劇的な最後につながります。

 

 この映画は1978年に公開で、映画の設定もそれくらいの年になっています。そして、1980年には青い血液を持つ人々の人口は全世界で2億人弱くらいにまで増えると予想されています。政府機関や報道機関の上層部は、青い血液を持つ人々について最初は、なにも迫害までしなくても良いではないか、と考えますが、職務上の命令のために、最後は非人道的な行動を部下に命令することになります。ここのプロットは、ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺のメタファーと言えるでしょう。

 

 私はこの映画を見ながら、「人間的」とはどういうことかということを考えました。青い血となってしまった人々は偶然からそうなってしまいました。そして、穏やかで他の人たちを争わない性格になりました。私はこの部分を世界の指導者たちは危惧し、そのような人たちを抹殺することに決めたのだろうと思いました。

 

穏やかで、人と争わないというのは素晴らしい性格ですが、それでは現代社会は崩壊してしまいます。よりおいしいものを食べたい、より高い洋服や時計、装飾品を身に着けたい、より立派な家に住みたい、といったことは、他人に見せびらかしたい、羨んで欲しいという気持ちが原動力です。逆に言えば、そのようになりたいという気持ちから人間は他人と競争もするし、少々ずるいことをしても他人を出し抜こうとします。そうして大量生産・大量消費の大衆社会が維持されます。資本主義体制も、そして社会主義体制もそうして動いています。

 

 しかし、青い血液を持つ人々は、そのシステムにとっては邪魔になります。そのような人たちは自分で満足していればそれで良いし、他の人たちを羨まないのです。それは人間にとっては一つの理想形ですが、逆の面から見れば、「人間的ではない」ということになります。そして、自分と違う(と思われる)存在に対しては、どこまでも冷酷になれる、ということがこの映画の中で描かれている「人間らしい」行動となっています。青い血液を持つ人々は、赤い血液を持つ人、青い血液を持つ人、どちらの血も流させない存在ですが、赤い血液を持つ人々は、赤い血液を持つ人、青い血液を持つ人、両方の血を流させる存在です。

 

 この映画の題名についている「ブルー」ですが、映画に出てくる青い血液の「青」と「陰鬱な」「気持ちが盛り上がらない」状態を示す「ブルー」がかかっています。悲劇的なラストシーンがクリスマスイヴの日ですから、まさにブルーなクリスマスということになります。見終わればブルーになってしまう映画ですが、私たちが生きる現代を考える上でも参考になる映画だと思います。

 

(終わり)

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