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イスラム国に関する5つの神話

 

ダニエル・バイマン筆

2014年7月3日

ワシントン・ポスト紙

http://www.washingtonpost.com/opinions/five-myths-about-the-islamic-state/2014/07/03/f6081672-0132-11e4-8572-4b1b969b6322_story.html

 

※ダニエル・バイマン:ジョージタウン大学安全保障研究プログラム教授兼部ブルッキングス研究所サバン記念中東政策研究センター研究部長

 

イラク・シリア・イスラム国(The Islamic State of Iraq and SyriaISIS)はロックバンドよりも頻繁に名前を変えている。 スンニ派の急進グループは、シリア国内で戦い、サウジアラビアとレバノン国内での攻撃を計画している。このグループは現在、戦う場所を変えて、イラク国内にも浸透し、「イスラム国(Islamic State)」と名乗るようになった。イラクとシリアにおいて、イスラム国はシーア派や他の宗教グループの人々を背教者として殺害している。また、同じスンニ派の人々をイラク政府の協力者として殺害している。彼らの残虐性は、彼らの目的と本当の危険性から人々の目をそらさせる効果がある。「汝の敵を知れ」精神を発揮し、本稿では、イスラム国についての神話を除去することにしたいと思う。

 

1.イスラム国はアルカイーダの一部だ

 

イスラム国とアルカイーダは長期にわたり、複雑な関係を築いてきた:かつては緊密な同盟関係にあったが、現在は敵意剥き出しの敵対関係になっている

 

 イスラム国の様々な名前は、アルカイーダとの間の緊張関係を示している。ジハーディスト・グループは、2003年のアメリカによるイラク侵攻直後にイラクを離れた。そして、その多くがアブ・ムサブ・アル=ザルカウィの下に集結した。ザルカウィはヨルダン出身で、アルカイーダとは協力関係を保っていたが、その一部ではなかった。ザルカウィは2004年10月にオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓った。そして、ザルカウィのグループはイラクでアルカイーダという名前を使うようになった。この当時、さるかうぃのグループは、アルカイーダの指導者の一人、アイマン・アル=ザワヒリと衝突を起こしている。ビン・ラディンはアメリカを攻撃対象にするように主張したが、ザルカウィと彼の後継者たちは地域での戦いに集中するように主張した。ザルカウィはイラク国内のシーア派と戦い、スンニ派に対しては、味方に引き入れるのではなく、テロ攻撃を敢行した。

 

 アルカイーダとイスラム国との間には、戦術、戦略、指導者層に関して違いを持った。イスラム国の指導者アブ・バクール・アル=バグダーディは、斬首と磔という手法を採用している。そして、バグダーディは中東諸国の政権やライヴァル関係にある諸グループを攻撃対象にし、ザワヒリが主張した「遠くにある敵」、アメリカへの攻撃しようという主張を完全に無視した。

 

 これらの相違点がシリアで明らかになった。ザワヒリは、比較的抑制的なジャブハット・アル=ナスーラをアルカイーダの代理人に任命した。バグダーディは、自分のグループがイラク、シリア、レバノン、ヨルダンでジハーディスト運動に参加すべきだと考えた。ナスーラとバグダーディがそれぞれ率いる2つのグループはお互いを刺激し合い、数千人を殺害していると言われている。

 

 イラク国内での劇的なキャンペーンの成功によって、バグダーディはザワヒリを追い越すことになった。アルカイーダは無人攻撃に追いかけ回されている。一方、バグダーディは、自分は背教者たちとの戦いを指導しているのだと主張している。彼の主張は中東地域の人々の人気を得ることになった。

 

2.イスラム国の建国の意味するところは、このグループが統治する準備ができている

 

 イスラム国は現在、シリア東部とイラク西部をコントロールしている。これらの地域の大部分は砂漠地帯である。しかし、イスラム国はシリアのラッカ、イラクのモスルといった重要な都市を統治している。イスラム国は、イスラム法の過激な解釈に基づいた統治によって正統性を増加させようとしている。そして、それによってより多くの志願兵と財政上の支援者を募ろうとしている。

 

 イスラム教徒のテロリストたちは各地で統治に成功している。ハマスは7年間にわたりガザを支配し、ヒズボラはレバノンの一部を何十年にわたり実質的に支配している。これら2つのグループは学校、病院、基本的な住民サーヴィスを運営している。しかし、イスラム国の前身組織が10年前にイラク西部を支配した時、その統治は破滅的な失敗に終わった。彼らが示した残虐さと無能さによって、イラク国内のスンニ派は遠去かった。スンニ派はジハーディストを除去するための「覚醒運動」に参加した人々であった。

 

 イスラム国は、バグダッドにあるシーア派が支配するイラク政府からの差別的取扱いに恐怖をいただいているスンニ派にアピールする可能性が高い。しかし、イスラム国から逃れている中流階級のビジネスオーナーや技術者たちであって、彼らは基本的な社会サーヴィスを運営する人々である。最終的に、イスラム国は略奪をしたり、闇市場で石油を売却したり、大規模な飢饉が阻止するための基本的なサーヴィスを作ったりした。しかし、混同してはならないのは、イスラム国が効率的な国家ではないということである。

 

3.シリアのアサド政権はイスラム国にとって憎き敵である。

 

 シリアの大統領バシャール・アル=アサドの政府は、テロリストとの戦争を宣言した。一方、イスラム国は自分たちをシリア国内のスンニ派イスラム教徒の守護者と自認し、アサド政権のような「背教者」政権と戦うと主張した。しかし、両者ともにシリア国内の穏健な反体制派の存在を敵視している。アサド政権は、この穏健派の勢力を弱めることで、政権にとって長期にわたる脅威を弱めることができる。

 

 アサド政権は、イスラム国が支配している地域での軍事行動を控えている。そして、空軍を使って、イスラム国と戦っている穏健派反体制グループに対する空爆を行ったり、イスラム国から石油を購入したりしているもしイスラム国が存在しなければ、アサド政権はそのような存在を作り出したことであろう。実際には、アサドはそのような行動を取ったのだ。3年前にシリア国内で内戦が始まった時、この戦いは、残虐さと不正義に嫌気が差した市民による蜂起だと言われた。アサド側は、この戦いはテロリストたちに対する戦いだと主張した。そして、アサド側の表現と戦術によって、内戦を変容させたスンニ派イスラム教徒たちの間で反動が起きた。イスラム国のようなグループが台頭したのだ。シリア国民は、アサド政権か、急進的なイスラム主義か、いずれかを選ばねばならないという悲惨な状況に追い込まれた。

 

 イスラム国はイラク国内で勢力を伸ばしている。これに合わせて、イスラム国とアサド政権との間の戦術上の同盟関係は終結を迎えることになるだろう。アサドはイスラム国が強大になり過ぎていると考えることだろう。イラク政府はアサドの同盟者であり、シリアとイラクとの間の国境地帯の支配権を失うことで、イラクからアサド政権に供給されていた物資や兵員の補給をイスラム国が遮断することになった。

 

4.イスラム国は手に負えない戦闘集団である

 

 イスラム国はモスルを掌握し、バグダッドに向けて進軍している。イラク国内におけるイスラム国の成功は、イスラム国の強力な軍事組織を基礎にしている。実際にはイスラム国は1万人の戦闘員しか有していない。モスルのような都市を攻撃した時は、1000人以下しか動員しなかった。

 

 イスラム国が軍事的な勝利を収めることができたのは、イラク軍の脆弱さとノウリ・アル=マリキ首相の政策の失敗があったからだ。アメリカは、イラク軍に対して数億ドル規模の軍事援助を行った。数字上はイスラム国を圧倒しているはずだった。落とし穴だったのは、イラク軍は戦わない存在であったことだ。マリキ首相は、能力のある人物ではなく、自分に忠実な人々を政治的に重要な地位に就けた。マリキ政権はイラク国内のスンニ派を差別しているので、イラク軍のスンニ派兵士の士気は低下している。彼らは自分たちを差別する政府を守るために戦いたくないと思っている。

 

 イラク軍にシーア派教徒が参加することで、多くの地域でイスラム国の進撃が止められている。イラク政府がより多くのグループを取り込み、穏健なスンニ派を味方に付けることができたら、そして、イラク軍がより統一性が取れるようになったら、イスラム国の拡大は止まり、縮小に進むようになった。これらは大きな仮定なのではあるが。

 

5.イスラム国はアメリカを攻撃したがっている。

 

 2009年にイラク国内の刑務所から釈放された後、バグダーディはアメリカ軍の刑吏たちに対して、「ニューヨークで会おう」と語った。この発言にアメリカ政府関係者は凍りついた。2014年5月25日、アメリカ市民でアブ・マンスール・アムリキと自称したモネル・ムハマド・アブサルハはシリア国内で自爆攻撃を行った。イスラム国の幹部たちの中には、ヨーロッパ国籍の人々が多く含まれている。彼らは自分のパスポートを使えば、容易にアメリカ国内に潜入することができる。また、イスラム国に参加し、シリアに渡った100名以上のアメリカ市民の中の1人がアメリカに戻り、攻撃を実行する可能性が存在する。

 

 イスラム国は潜在的にアメリカに対する脅威となっている。諜報関係者や治安関係者たちは常に警戒を怠らないにしなければならない。しかし、現在のところ、イスラム国はアメリカを攻撃対象にしている訳ではなく、西洋諸国との戦いを重視している訳でもない。実際のところ、これがイスラム国をアルカイーダから分離させた理由なのである。「ニューヨークで会おう」と言ったバグダーディの発言は誤って伝えられたものである可能性が高く、冗談である可能性もある。彼を担当した看守たちの多くはニューヨークの出身者たちであった。より重要なことは、イスラム国の行動を見ていると、彼らが西洋諸国からの参加者たちを、中東地域での戦いに投入したいと考えていることが分かる。イスラム国にとって、イスラム国の創設と維持、そして背教者たちとの戦いが最優先なのである。

 

 イスラム国はイラクと地域の安定に対する脅威になっている。しかし、オバマ政権はイスラム国の謀略宣伝を鵜呑みにしないように気を付けるべきだし、イスラム国の勢力は増大していくということを前提にしなければならない。

 

(終わり)