古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:アジア

 古村治彦です。
 ウクライナ戦争によって、ヨーロッパ地域を覆っていた偽善と「西側諸国(the West)対それ以外の世界(the Rest)」という分断が明らかになった。「○○(国名が入る)はウクライナだ」という粗雑な主張が展開され、「防衛のために防衛費の増額と装備の増強が必要だ」「先制攻撃を行えるようにすべきだ」という主張が雨後の筍のように出てきている。他人の不幸に便乗し、他人のふんどしで相撲を取る、なんとも恥ずべき主張だ。
 ウクライナ戦争を契機にして、核兵器保有を主張する政治家たちが北東アジア諸国、具体的には日本と韓国で出てきている。核兵器を保有していることでそれが抑止力となるという考えがその根底にあるが、果たしてそうだろうか。他国が攻撃してきて、進攻してきて、たとえば日本が核兵器を使用することができるだろうか。通常兵器で攻撃してきた相手に核兵器で応酬するというのは「過剰防衛」の謗りを免れない。核兵器は特に先進諸国にとって使えない最終兵器である。また、安全保障のジレンマという考え方がある。ある国(A国)が自国の防衛能力を増強すれば、隣国(B国)はそのことを脅威に感じ、こちらも更に防衛能力を引き上げる。そうなればA国はせっかく防衛能力を高めたのに、安心感が得られずに、更に防衛能力を高めるために無理をする。このような無理が続き、両国ともに破綻するということになる。
 アジア地域、特に東南アジアには東南アジア諸国連合(ASEAN)という素晴らしい枠組みがある。国家制度や経済制度が違う国々が集い、何か問題があれば拙速に断定などをせずに話し合う。このような制度こそが平和と安全を守るために重要だ。北東アジア地域の中国、韓国、北朝鮮、台湾、中国にもこのような枠組みを構築すべきだ。EUNATOのような偽善で過度な理想主義で粉飾された、本質的には戦争を誘発するような枠組みは必要ない。
 今回のウクライナ戦争を教訓は際限なき軍拡競争に走ることではない。外交と地域の枠組みによって平和と安定を守るということであるべきだ。
(貼り付けはじめ)
ウクライナはアジアに戦争を考えさせる(Ukraine Has Asia Thinking About War
-大規模な紛争の再来はアジア諸国の軍備増強につながる。

ウィリアム・チューン筆

2022年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/29/ukraine-russia-war-asia-china-military-defense-spending-geopolitics/?tpcc=recirc_latest062921

ロシアによるウクライナ侵攻に伴って、都市の破壊と市民に対する残虐行為が発生した。これによって世界の多くの国々にハードパワーの優位性を再認識させることになった。春。ブランズは『ブルームバーグ』誌に寄稿した論稿の中で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領はポスト冷戦時代の考え方、すなわち大規模で暴力的な紛争は過去のものになったという考え方を崩壊させた。

ウクライナ戦争は、アメリカの学者アーロン・フリードバーグがかつて「大国間紛争のコックピット」と呼んだ、「インド太平洋地域が最も不安定な武力紛争のリスクにさらされている」という広範な認識も覆した。ロシアがこれまで土地の強奪や紛争の扇動を何度か行ってきたが、これまでパワーバランス(力の均衡)に大きな影響を与えることはなかったが、制度がしっかりしているヨーロッパは概して安全な場所と見なされてきた。ヨーロッパに比べ、インド太平洋は、EUNATOのような平和や安全を増進する制度がなく、アメリカ、中国、インド、日本、ロシア、朝鮮半島にある韓国と北朝鮮と世界トップ7の軍隊が集結し、南シナ海、台湾、朝鮮半島、尖閣諸島などいくつかの不安定なホットスポットがあって、更に危険な場所であると考えられてきた。

ロシア・ウクライナ戦争の前から、冷戦終結後に衰退した軍事的な国家統治手段がアジアで復活しつつあることは、専門家の間で指摘されていた。これまでアジアでは、地域経済や地域制度の進化に注目が集まる一方で、ヨーロッパと同様に軍事力が地域の力学に果たす役割の重要性が過小評価される傾向があった。

現在、変化が起きつつある。ロシア・ウクライナ戦争は多くのアジア諸国が自国の防衛力の必要性を見直すきっかけとなっている。日本や韓国などのアメリカの正式な同盟諸国は、ロシアがウクライナに侵攻し、米英露が1994年のブダペスト覚書で約束した安全保障に関する合意を踏みにじっているにもかかわらず、アメリカがロシアと敵対することを拒否していることを正確に評価している。ソウルや東京から見ると、アメリカのエスカレートへの懸念は、NATO加盟諸国や日本、韓国といった条約上の同盟諸国を守る義務に優先するように見える。西側諸国の首都がエスカレートを恐れているのなら、なぜ同盟諸国を守ることに消極的にならざるを得ないのだろうか?

ロシア・ウクライナ戦争の前から、日本は中国の急速な軍拡と北朝鮮の核開発への懸念から、既に10年連続で防衛費を引き上げてきた。今、安倍晋三元首相は、ドイツの核シェアリング協定と同様に、日本国内でアメリカの核兵器を受け入れることを検討するよう提案し、古い議論を復活させた。安倍元首相は、ウクライナは1994年に核兵器を放棄したため、より強力で修正主義的な隣国ロシアに対して脆弱になってしまったと主張している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国内の核兵器保有に対する意欲の高まりを反映している。

安倍首相の提案は、後任の岸田文雄首相によって即座に否定された。しかし、与党の自民党(LDP)内では一定の支持を得ている。自民党の意思決定機関(decision-making body)である総務会(General Council)の福田達夫総務会長は、この議論を「避けるべきでない」と述べた。自民党の高市早苗政務調査会長は、核兵器を持ち込まないというこれまでの鉄則についての議論について「抑制すべきではない」と述べた。自民党以外では、一部の保守系野党も核武装の選択肢を公に出すことを望んでいる。

韓国においても、政策立案者たちはアメリカの「核の盾」に依存し続けられるかどうかを懸念している。ユン・スギョル次期大統領は、韓国とアメリカの同盟関係の強化を公約に掲げ、先制攻撃のための能力開発を目指している。ソ・ウク国防相は、韓国は北朝鮮のミサイル発射台に対する攻撃を「正確かつ迅速に」実施することができると述べた。ユン次期大統領は、1991年に撤去されたアメリカの核兵器を韓国に戻すようアメリカに求める考えだと報じられている。その他の選択肢としては、核爆撃機や潜水艦の韓国への配備を求めることも考えられる。ユン次期大統領はまた、韓国に対弾道ミサイル防衛システムを追加配備すること(過去に中国の怒りを買った措置)や、ドナルド・トランプ前米大統領時代に中断していた年2回の米韓軍事演習(野外訓練を含む)の本格的な再開を要求している。

韓国の防衛態勢の見直しは、韓国において核兵器保有に対する意欲が高まっていることを反映している。今年2月の世論調査では、韓国人の71%が韓国独自の核開発を望み、56%がアメリカ軍による核兵器の再配備を支持している。大統領府政策企画委員会のチョ・ギョンファン委員は、ロシア・ウクライナ戦争は、「本当に危機に瀕している時には、頼るべきは自分の力しかない、自分で自分自身を守るしかないのだ」ということを思い知らされたと述べた。

台湾では、ロシアの侵攻に対するウクライナの執拗な抵抗によって、中国による水陸両用の侵攻のシナリオに新たな光を当てる結果になった。ウクライナの非対称戦法、例えば小型で携帯性に優れた対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」は、台湾のアナリストが台湾軍の海・空における同様の戦術を強調するきっかけとなった。あるアナリストによると、トランプ政権発足後、台湾がアメリカから購入した18種類の武器のうち116種類は、高性能戦闘機や軍艦といった大規模なものではなく、こうした非対称能力の強化に重点を置いている武器だということだ。

その他の複数の措置も存在する。台湾のジョセフ・ウー外相は、アメリカの武器取引は更に発表されると述べた。国内では、台湾はミサイルの年間生産量を2倍以上にするつもりである。また、4ヶ月の徴兵期間を1年に延長する計画も存在する。

北東アジア地域に比べ、東南アジア諸国はウクライナ紛争を契機に軍事力を強化する動きは少ない。しかし、それでも、紛争時には外部からの支援よりも自助努力に頼るべきという考え方は、今回の戦争で後押しされているように見える。

シンガポールも戦略環境の変化を痛いほど実感している。リー・シェンロン首相は、ウクライナを自国のモデルと見ている。自国を守ろうとする意志は、「ウクライナ人が持ち続けているもので、この世界で自分たちの安全を守るために、シンガポール人が持たなければならないものだ」と記者たちを前にして語った。この発言は特定の国に向けられたものではないが、シンガポール軍は、島国への攻撃や、シンガポールが依存するシーレーンへの干渉を抑止することを目的としていると広く考えられている。アジアで最も高い一人当たりの国防費により、シンガポールの軍隊は既に東南アジアで最も優れた装備を保有している。

今年3月初め、シンガポールのン・エンヘン国防相は、シンガポール軍(SAF)が情報、サイバー能力、心理的防衛を組み合わせた新しいデジタル・インテリジェンス・サービスを立ち上げ、シンガポール軍をネットワーク化した部隊として再編成すると発表した。この決定はウクライナ情勢が原因ではないが、ロシアがウクライナで展開したようなハイブリッド戦争に対処するためにシンガポール軍を再構築すると述べた。

退任予定のフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領はプーティンを「個人的な友人」と呼んでいるが、ドゥテルテは3月、反米主義だった過去と決別し、ロシア・ウクライナ戦争がアジアに波及した場合にフィリピン軍の事施設の利用をアメリカに提案した。4月21日には、ドゥテルテはフィリピンの国軍と警察に対し、あらゆる事態に「備える」よう呼びかけた。

ヴェトナムは、モスクワとの良好な関係を持っていることから、ロシアを直接非難することを拒否している。しかし、ワシントンの出方次第では、ハノイがアメリカの言いなりになる可能性は十分にある。現在、ヴェトナムはロシア製戦闘機の購入を意図しており、アメリカによる制裁の対象になる可能性がある。フィリピンやインドネシアがロシアの武器購入計画を撤回したのと同じアメリカ制裁法に基づいているのだ。しかし、アメリカはヴェトナムが中国、特に南シナ海で対抗するために軍備を強化することに本質的な関心を持っており、ヴェトナムは安価なロシア製ジェット機を購入する意図を持っている。したがって、アメリカ・ヴェトナム合同軍事演習の再開に関連して制裁が免除される可能性もある。

アジア各国の政府は、アジア地域で戦争がすぐに起こるとは考えていない。しかし、中国は、例えば、南シナ海でグレーゾーンやハイブリッド戦法を用いることで、ロシアのやり方を模倣する可能性がある。南シナ海では、中国は既に自国の領有権主張について、ウクライナに関するロシアと同じような歴史物語を作り出している。アメリカのインド太平洋戦略に対する北京の主張は、NATOにウクライナへの攻撃を強いられたというモスクワの主張とも平行している。3月、中国の楽玉成外務次官は、NATOの拡大が戦争を引き起こしたというロシアの主張を支持し、米国のインド太平洋戦略は「ヨーロッパの東方拡大というNATO戦略と同じくらい危険だ。放っておけば、この地域は "奈落の底に突き落とされる」と述べた。ロシアがウクライナへの攻撃を正当化するために、このようなレトリックを用いたことを考えると、アジア各国の防衛強化への決意は強まっていく。

ヨーロッパは、ハードパワーの現実を残酷なまでに再認識させられた。アジアは、第二次世界大戦後、多くの紛争を経験しているので、そのような再認識は必要ない。しかし、アジアでも、ロシアの侵攻は、将来の紛争に備えるという新たな真剣さを各国政府に植え付ける結果となった。

※ウィリアム・チョン:ISEAS・ユソフ・イシャク研究所上級研究員兼研究所の論説ウェブサイト「フルクラム」編集長。「フルクラム」は東南アジアを専門としている。ツイッターアカウントは@willschoong
(貼り付け終わり)
(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 今回は少し古くなりましたが、トランプの大統領選挙当選直後に書かれたアジアの安全保障に関する論考をご紹介します。

 

 この論文では、アジア各国は、アメリカと中国との間でどちらにも偏り過ぎない態度を取るだろうということを書いています。トランプ当選はアメリカの国際社会における衰退を示す現象、大転換であった訳ですが(オバマ大統領の時に既にそれは見えていましたが)、アジア諸国はそれを敏感に感じ取っているようです。

 

 一方、アメリカの覇権がずっと、ずーっと続かないと、それにくっついて美味しい思いをしている日本のエスタブリッシュメントは、アメリカ一択、「中国は嫌い」という感情先行で、アメリカに日本人が貯めた年金資金と新幹線を差し出すということになっています。また、軍事力を増強し、海外にも出ていけるようにして、アメリカの負担を少しでも軽減して差し上げるということもやっており、アメリカ側すれば、「勝手にいろいろとやってくれてありがとう」ということになります。が、「狡兎死して走狗烹らる」です。

 

 アメリカの忠犬を勝手に気取っていても、アメリカ自体が大転換をしたら、ただの邪魔な存在になってしまうということになります。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ大統領の下、アジアのアメリカ同盟諸国はより自力での安全保障を考える可能性がある(Under Trump, U.S. Allies in Asia May Look to Themselves for Security

 

ベンジャミン・ソロウェイ筆

2016年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/11/11/under-trump-u-s-allies-in-asia-may-look-to-themselves-for-security/

 

長年にわたり、東アジアと東南アジアのアメリカ同盟諸国は密かに、地域の安定と安全保障に関してアメリカ依存から少しずつ脱却する用意をしてきた。バラク・オバマ大統領の外交政策の柱となり、民主党のヒラリー・クリントンが大統領に選ばれた継続されただろう、戦略的なアジアへの「回帰」(“pivot” to Asia)はあったが、アジア諸国の自立に向けた動きは続いた。ヒラリー・クリントンは選挙期間中、環太平洋経済協力協定には反対したが、彼女はアジアへの回帰路線を継続したことだろう。

 

ドナルド・トランプ次期大統領は番狂わせで選挙に当選した。そのために、東アジアと東南アジアのアメリカの外交政策は、ヒラリー当選の場合とは大きく異なることを意味する可能性がある。そして、アジアの同盟諸国の間で既に起きている自立の動きを加速させる可能性がある。

 

リンゼイ・フォードは2015年までオバマ政権の下で4年以上にわたり国防総省の高官たちに助言を行ってきた。リンゼイ・フォードは次のように語った。「アジア諸国は、アメリカの中東での失敗と予算を巡る争いを長年目撃し続けたために、アメリカの指導力は低下していると考え、危険や脅威を避けようと静かに行動している」。

 

アジア・ソサエティ政策研究所のアジア地域安全保障担当部長を務めるフォードは、火曜日の投開票日の後、声明を発表しその中で、「トランプ新政権がこうした恐怖心を払拭するために迅速に行動しなければ、アジア諸国の動きを加速させることになる」と述べている。

 

選挙戦期間中、トランプは、日本と韓国に対して、アメリカとの安全保障に関する協力関係にかかるコストをより多く負担するように求めると発言したり、アメリカの同盟諸国に核兵器を拡散させるというアイデアを発表したりしていた。東シナ海、南シナ海での紛争が激化し、北朝鮮が核兵器を開発し続けている状況で、オバマ大統領は大統領から退任しようとしている。本誌は、フォードに対して、東アジアと東南アジアのアメリカ同盟諸国が何を期待しているのかについて語ってもらった。

 

今回のインタヴューはEメールのやり取りを通じて行われた。要約と編集を加えている。

 

本誌:地域のアメリカの存在が薄くなっていくことに対して、アジアの同盟諸国がそれに備えていることの最も明白な具体例は何か?

 

リンゼイ・フォード:アジア諸国がアメリカ衰退の危険を回避しようとしていることの明確な証拠は、東南アジア諸国連合に参加している諸国が時に関与している、慎重なバランスを取る動きだ。これは、アメリカと中国の間で、経済的なつながりと軍事的な投資の面で、多様化を図ろうとする行動だ。最近のフィリピンのドゥテルテ大統領とマレーシアのナジブ首相の訪中はその具体例だ。私たちは南シナ海におけるバランスを取る動きも目撃している。アセアン諸国はアメリカ、中国双方にあまりにも近づき過ぎないように注意しながら行動している。

 

本誌:トランプはこうした恐怖感を和らげるためにどうするだろうか?

 

リンゼイ・フォード:トランプ次期大統領になっても、核の傘というアメリカの拡大した抑止力による関与は揺るがないであろう。日本や韓国のような国々が独自に核開発能力を持つべきだというトランプの初期の発言はアジアの同盟諸国を驚かせた。彼はこの初期の発言から後退するところを公に見せたいとは思わないだろうが、彼は核拡散が誰にとっても最善の利益とはならないこと、アメリカは核攻撃や挑発から同盟諸国を防衛するために投資することを明確にする必要がある。

 

本誌:日本やフィリピンのようなアメリカのパートナーは自国の軍事力を増大させようとしている。このような試みはどのように促進されるだろうか?

 

リンゼイ・フォード:安倍首相の下、日本は、第二次世界大戦が終結してから初めて、より「普通の」軍事大国になろうとして少しずつつま先を水の中に入れつつある。日本は慎重に「自衛」の意味の再定義を進め、軍事力に見当たった役割を果たそうとしてきている。この変化はこれからも促進されるであろうが、この変化にあたって、日本はアメリカの安全保障の傘に依存すべきではなく、自力で立つということを確信しなければならない。私たちは、日本が伝統的に堅持してきた国内総生産1%以内という制限を超えて国防費を増大させていくことを目撃していくことだろう。安倍政権が日本国憲法9条のより根本的な再解釈や変更を進めることを目撃するかもしれない。それに合わせて、自衛隊により「攻撃的な」能力を構築することも考えられる。このような事態の進展は韓国や中国といった近隣諸国に懸念を持たせることになるだろう。そして、中韓両国の軍事予算や姿勢に影響を与える可能性がある。

 

本誌:TPPの崩壊は安全保障に影響を与えるか?

 

リンゼイ・フォード:安全保障の観点から、TPPの崩壊の最大の影響は、アジア地域におけるアメリカの信頼性の喪失ということになるだろう。TPPとシリア問題の事後処理でアメリカが失敗していると同盟諸国やパートナーが見做し、アメリカは約束を守らないという結論に達したら、彼らは、アメリカの安全保障に対する関与と指導力を信頼しなくなるだろう。その結果、アジア地域の同盟諸国の間で、国際安全報賞状の問題、ISや北朝鮮の野心の抑制といった問題に対する対処で、支援のための連合をアメリカが中心となって形成することが難しくなる。

 

本誌:ここしばらくの大統領たちは北朝鮮との間にある外交に関する諸問題に対処することに失敗してきた。トランプのアプローチがどのようになるか、その手掛かりが存在するか?

 

リンゼイ・フォード:現在のアジアの安全保障において、北朝鮮の状況に対処することは最大の問題となっている。そして、次期大統領はすぐにこの問題に対する対処法を発表する必要がある。ドナルド・トランプが既に対北朝鮮計画を策定していることを示す兆候はほとんどない。また、彼自身がこれまで行われた対北朝鮮政策の失敗について理解しているとも考えられない。北朝鮮問題についての簡潔な声明の中で、トランプは中国に対して単に「北朝鮮についてはあなたたちの問題だ」と言うだろうことを示唆している。中国に任せてしまうというアプローチは失敗してしまうだろう。これからの数か月、北朝鮮問題や他の問題で、トランプが創造的な、全く新しい考えを思いつくことに期待するしかない。

 

本誌:台湾はトランプ大統領の下でリスクが増大するだろうか?

 

リンゼイ・フォード:トランプ大統領の下で、台湾がどのようになるかを予想するのには少し早すぎると思う。台湾はこれまで、アメリカ連邦議会内部で超党派の強力な支援を受けてきた。しかし、アジアの残りの地域のように、台湾も新政権について分析するための時間と、物事がどのように動くかの雰囲気を探る必要だ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)









アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





 古村治彦です。

 

 今回は、ヘリテージ財団のウェブサイトに掲載された文章をご紹介します。この文章によると、2015年10月にヘリテージ財団の研究員たちが訪日し、早稲田大学でのパネルディスカッションに参加し、防衛省を訪問したそうです。

 

 こうした機会にどういう話があったのかは分かりませんが、「東アジアにおける安全保障環境は悪化している。従って、日本はより大きな負担と責任を負うようにすべきだ」というこの文章の内容から、何となくどういう話があったのかは推測できます。

 

 より厳しい2016年になっていきそうです。

 

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日本におけるエネルギーと安全保障(Energy and Security in Japan

 

ライリー・ウォルターズ(Riley Walters)筆

2015年11月23日

ヘリテージ財団ウェブサイト

http://dailysignal.com/2015/11/23/energy-and-security-in-japan/

 

 今年の10月、ヘリテージ財団所属の研究者たちの代表団は日本を1週間にわたって訪問する機会を得た。同時期、日本はエネルギーの多様性を高めることとアジア地域における安全保障環境の変化と挑戦について専門家たちが知識を得ることが国益の増進につながることが明白な状況であった。

 

日本国際協力センターを通じて、研究者たちは「カケハシ・プロジェクト:ザ・ブリッジ・フォ・トモロー」に参加した。このプロジェクトに参加することで、ヘリテージ財団の研究員たちは多くの官僚や学者たちと会う機会を得た。

 

 東京にある早稲田大学で一連のパネルセッションが開催された。学者と官僚は、日本の安保法制に関する反対の考え、批判を発表した。日本政府は地域と国際的な安全保障におけるより積極的な役割を果たすことが出来るようになり、集団的自衛権を認める法律を成立させた。日本国民の中には、日本を国際的な紛争に巻き込ませてしまう立法における変化について懸念を持っている人々がいる。早稲田でのセッションでも多く表明された考えがこうした懸念を反映していた。

 

 代表団は日本の防衛省を訪問する機会を得た。この時、代表団はアジア地域における安全保障に関して日本が直面する真の懸念を知ることが出来た。中国、ロシア、北朝鮮それぞれによる軍備増強、軍事予算の拡大、戦略的な軍備配置がそうした懸念を引き起こしている。南シナ海における安全保障環境を一例として挙げたい。日本が輸入する石油と天然ガスの3分の2は南シナ海を通っている。この地域は日本の国益にとって重要である。特に2011年以降、エネルギー輸入量が増加している状況でその重要性は増している。

 

2014年、日本の航空自衛隊は東シナ海と北方領域における中国とロシアの航空機の侵犯に対応するために900回以上のスクランブル発進を行った。

 

 アメリカの政府関係者たちは、日本の安全保障政策の変化を長年待ち望み、その変化を歓迎している。そして、この変化のおかげで日米二国関係が強化されるだろうと述べている。「2016年版インデックス・オブ・USミリタリー・ストレングス」に書かれているように、アジア地域の環境は「好ましい」状況にコントロールされてはいるが、アジア地域に駐留するアメリカ軍の装備は時代遅れになりつつあり、厳しい状況になっている。中国とロシアはアメリカの国益にとってのリスクであり続ける。一方で、北朝鮮の脅威は深刻な状況だ。北朝鮮政府は核開発プログラムを継続している。こうした事態に対応して、東アジア地域のアメリカの同盟諸国は、地域の安全保障に対してより大きな責任を共有することが重要になっている。

 

 アメリカと日本は60年以上にわたり同盟関係を堅持している。そして、これからも同盟関係が堅持され続けることは疑いないところだ。アジア・太平洋地域において古くからの、そして新しい脅威が存続している状況で、脅威に対応するためにアメリカと日本がアジア地域にある他の同盟諸国と緊密に協調することが何よりも重要だ。

 

ライリー・ウォルターズ:ヘリテージ財団付属デイヴィス記念国家安全保障・外交政策研究所研究アシスタント

 

(終わり)







 
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