古村治彦です。

 ビッグ・テック(Big Tech)とは、GAFAと総称される。グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、これにツイッターやネットフリックスを加えた、アメリカで操業され、本社を置く情報産業分野の巨大企業のことである。ビッグ・テックは先進諸国を中心にして、人々の生活に深く入り込んでいる。

ツイッターやフェイスブックは私たちの生活にとって欠かせないサーヴィスとなっている。これらを通じて友人とやり取りをし、情報を得ている。アマゾンでは何でも買い物ができるようになっている。アップルのスマートフォンであるアイフォンを使い、何か分からないことがあればグーグルで検索する。テレビを見ずに、ネットフリックスでドラマやヴァラエティー番組を見る。若い人たちはそのような傾向にあるという。動画配信サイトユーチューブはグーグルの傘下にあり、写真を中心としたソーシャル・ネットワーク・メディアであるインスタグラムはフェイスブックの傘下にある。

 私たちの生活はビッグ・テックに大きく依存している。そうなれば、ビッグ・テックが私たちに与える影響も大きくなる。加えて、ビッグ・テックは大きな力を行使するようになっている。また、時価総額ではこれまでの大企業を追い抜いている。これらを使用している人たちなら分かってもらえると思うが、ツイッターやフェイスブック、ユーチューブ、インスタグラムは無料で使用できる。それなのにどうして巨額の利益を生み出せるのかというと、それは広告収入だ。

 これまで広告の媒体と言えば、新聞や雑誌の紙媒体、テレビやラジオの放送媒体が中心だった。しかし、新聞や雑誌の購読者数の減少、テレビやラジオの視聴者数、聴取者数の減少により、広告は徐々にインターネット上に移っている。そのために、ビッグ・テックは巨額な利益を上げることができるようになっている。

 そうした中で、アメリカ国内では、「ビッグ・テックを反独占・反トラストで解体せよ」という声が上がっている。連邦議会議員では、共和党のジョシュ・ホーリー連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)とエイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)がその急先鋒だ。両議員はほぼ同時期に「ビッグ・テックの巨大さは危険だ、解体せよ」という内容の本を出版した。現在、私はジョシュ・ホーリー議員の『The Tyranny of Big Tech』(そのまま訳すと、ビッグ・テックの暴政、暴力的支配)の翻訳を進め、初めの訳稿を完成し、担当編集者に送付した。これから、表現の統一や誤字脱字の訂正、ブラッシュアップのために赤ペン入れを行う。
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ジョシュ・ホーリー
 ホーリー議員は1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事(銀行勤務)の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、外見もハンサムで、周囲は「将来はアメリカ大統領になるに違いない」と考えていたという。1998年に母親の出身校である西部カリフォルニア州にあるスタンフォード大学に進学した。ここでも成績優秀で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。超名門のロースクールに進学するためには学部時代の成績が4点満点で3.8から3.9なければならず、日本風に言えば「全優」でなければならない。法科大学院在学中は、学内誌の『イェール・ロー・ジャーナル』誌の編集委員を務めた。学内誌の編集委員も成績が良くなければ務められないポジションだ。バラク・オバマ元大統領はハーヴァード大学法科大学院時代に学内誌の編集長を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得た。

 2017年からはミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグ・テックの危険性を認識した。2017年11月、ホーリーは州司法長官として、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査開始を指示した。グーグルの利用者のデータ収集、データ利用についての捜査が実施された。また、グーグル使っての検索の際に、利用者にバイアスを与えるような検索結果の表示がなされているのではないかということも捜査の対象となった。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカが利用して2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、ホーリーはフェイスブックの捜査を行った。

 2018年の中間選挙でミズーリ州連邦上院議員選挙に出馬し、共和党予備選挙で圧勝し、本選挙で民主党所属の現職議員(2期連続当選中)だったクレア・マカースキルを破って当選した。2019年から2021年までの期間、アメリカ連邦上院で最年少の議員となった(当選時39歳)。
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ワシントン訪問中のザッカーバーグ
  議員当選後、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグと直接対決し(ホーリーの議員事務所をザッカーバーグが訪問した)、「フェイスブックが持っているインスタグラムとワッツアップ(アメリカの
SNSサーヴィス)を売却して欲しい」「フェイスブックを解体して欲しい」と直接述べて、拒絶されている。ホーリーは連邦上院司法委員会内の反トラスト・競争政策・消費者の権利小委員会の共和党側委員を務めている。小委員会の委員長は、エイミー・クロウブッシャー議員だ。
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エイミー・クロウブッシャー
 ホーリーは彼の経験をまとめて本として出版することになったが、最初の出版社である、大手の「サイモン・アンド・シュスター」社が、ホーリーが2021年1月6日の連邦議事堂での事件に関与したということで出版を拒絶した。その後、保守派の出版社「レグナリー・パブリッシング」社が出版を引き受け、出版にまで漕ぎつけた。出版された本はベストセラーとなった。

現在、民主・共和両党で、巨大になり過ぎたビッグ・テックと対峙する動きが出ている。これから、このブログでも紹介していきたい。

(貼り付けはじめ)

ジョシュ・ホーリー議員の「出版取り止めとなった」本が現在ベストセラーに躍進(Josh Hawley’s ‘canceled’ book now a bestseller: reports

-『ビッグ・テックの暴力的支配(The Tyranny of Big Tech)』が出版からわずか数週間で、『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌とアマゾンのベストセラーリスト入りを達成。

ドン・カリッキオ筆

『フォクスニュース』

2021年5月16日

https://www.foxnews.com/media/josh-hawleys-canceled-book-now-a-bestseller-reports

ミズーリ州選出のジョシュ・ホーリー連邦上院議員の履歴書に、新たに「ベストセラー作家」という言葉が加わることになる。

メディアの複数の記事や報告によると、共和党所属の連邦上院議員ホーリーは最近『ビッグ・テックの暴力的支配(The Tyranny of Big Tech)』を出版し、成功を収めている。

『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌のハードカヴァー・ノンフィクション部門で、ホーリーのシリコンヴァレー批判書が第6位にランク付けされた。2万部以上を売り上げた。

この本はまた、アマゾンの「今週の最も売れたそして最も読まれた本ベスト20」部門で、15位にランクしている。

ホーリーの本がベストセラーのランキングに入ったことは、出版社のサイモン・アンド・シュスター社がホーリーの本の出版を取り止めた1月の状況からの大逆転のようなものだ。出版が取りやめになった際、ホーリーは、出版社の決定について「アメリカ合衆国憲法修正第1条への直接的な攻撃」と表現した。

ホーリーはその当時に次のように書いている。「サイモン・アンド・シュスター社は私との契約を破棄した。その理由は、私が自分の選挙区の有権者たちを代表し、連邦上院の議場で選挙結果の正当性についての議論を主導したためだ。出版社は私の正当な行動を反乱(sedition)と再定義したのだ」。

サイモン・アンド・シュスター社は、ホーリーの本の出版を取り止めたのは、2021年1月6日の連邦議事堂における暴動に関連して、「危険な脅威におけるホーリーの役割」が証明されたからだと発表した。

ホーリーが連邦議事堂前に集まった群衆の中で、議事堂に向かって手を挙げている写真が広く拡散されて、そのために、ワシントンDCにおける破壊とホーリーが結び付けられることになった。

保守派の出版社レグナリー・パブリッシング社は、サイモン・アンド・シュスター社が契約を破棄した後、ホーリーの本の出版権を取得した。

本の中で、ホーリーは、今日の情報産業の巨大企業と過去の泥棒男爵たちとを比較し、「大企業がこれからも経済と政治における力を増大させ続けることを許すと、アメリカの自由は存亡の危機に晒されることになるだろう」と書いている。

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テクノロジーという点についてのクロウブシャーとホーリーはどのように見ているか(How Klobuchar and Hawley See Things When It Comes to Technology

-両議員は政治的な立場は正反対であるが、両者は出した最新刊で共にビッグ・テックは危険だと主張している。奇妙なことに、両者の主張はそっくりだ。

シラ・オヴァイデ筆

『ニューヨーク・タイムズ』紙

2021年5月13日

https://www.nytimes.com/2021/05/13/books/amy-klobuchar-antitrust-josh-hawley-tyranny-big-tech.html

皆さん、米連邦上院議員が書いた反トラスト法に関する本を読んでみたいと思われないだろうか?読みたくないとおっしゃる?2人の議員の反トラスト法に関する本はいかがだろうか?

共和党所属のジョシュ・ホーリー連邦上院議員(ミズーリ州選出)と民主党所属のエイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出)は最近それぞれ本を出版した。両議員の本のページ数を合わせると825ページになるが、両者の本はアメリカの大規模で強力な企業に対する懐疑主義の歴史についての本である。

私は2冊とも読んだが、皆さんにお薦めすることはしない。

しかし、これら2冊の本が素晴らしいのは、政治的な立場が正反対である2名の連邦上院議員が一致した結論に達している点だけにある。両議員は、アメリカの巨大過ぎるビジネスのエリートたち、特にグーグル、フェイスブックそしてアマゾンのようなテクノロジー関連巨大企業を従順にさせるために、より厳しい規制、新しい法律、より積極的な姿勢の判事や市民運動が必要だと主張している。2冊の本の略語は、「テディ・ルーズヴェルトは善で、ビッグ・テックは悪だ」というものだ。

私は過剰な偽装工作をしたいと思わない。クロウブシャー議員の著作『反トラスト(Antitrust)』はより深く調査され、包括的なものだ(いささか包括され過ぎている)。ホーリー議員の著作『ビッグ・テックの暴力的支配(The Tyranny of Big Tech)』は支離滅裂な内容である。しかし、2冊の本を読んで私が学んだことを説明させて欲しい。
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両議員は「巨大さ」は悪ということで一致している。現代のアメリカ政治における奇妙な光景、それは、グーグルやフェイスブックのような強力なテクノロジー企業が、党派をまたいだ憎悪を生み出していることだ。こうした主張を行っている人々に共感者はほとんどいないだろう。両議員は特にそうであろう。両議員にとって、テクノロジー企業の力は、巨大企業が好き勝手に行動することを放置した場合の問題点を象徴している。奇妙なことに、両議員の主張は一致している。

ホーリー議員の本は冒頭で、2019年にマーク・ザッカーバーグと会った際に、上院議員がザッカーバーグに対してフェイスブックの解体を迫ったという逸話で始まる(ザッカーバーグはもちろんノーと答えた)。ホーリー議員は「ビッグ・テックの泥棒男爵たちは、経済界や政府の内部に存在する、巨大さと力の集中を信奉するイデオロギーを背景にして、力を伸ばしてきた」と書いている。

クロウブシャー議員は次のように書いている。「ビッグ・テックが実施している膨大な数のM&A(合併と買収)、桁外れの独占力、グロテスクな排除行為は、巨大さの力を例示するものだ」。

皆さんは、両議員の本の内容はよく似ていると思われないだろうか?

ホーリー議員とクロウブシャー議員は、経済学者や法学者の中には、アメリカの多くの産業分野で集中が加速していることは、所得格差をはじめとする多くの問題の根本原因になっているという見解を示す人とたちが出ていると述べている。この考えによると、アメリカの法律が効果的に競争を行わせることができれば、アメリカ人はより良い医療を受け、携帯電話の料金は下がり、自分に関わるデジタルデータの扱いをより自由にできるようになるということだ。

いやはや、両議員はテディ・ルーズヴェルトを愛している。両議員は、ルーズヴェルトが当時の鉄道、石油産業、金融、その他の産業分野における大企業の泥棒男爵に挑戦していた時のことについて、郷愁を感じている(このような歴史観、特にホーリー議員の歴史観は少しずれている)。

英雄崇拝の重要な点は、歴史上、アメリカの法律とアメリカの一般的な人々は、力を持ち過ぎたと感じた大企業に対して戦いを挑んできたというものだ。両議員は、企業の「巨大さ」に反発する、市民と政府の犯行の精神を取り戻したいと考えている。これは、法科大学院教授で独占禁止の主唱者であるゼファー・ティーチアウトが、昨年出版した企業の独占に関する本の中で効果的に指摘している点でもある(そうなのだ、反トラストについての本は数多く出版されている)。

1894年に起きたプルマン・ストライキと南北戦争後に起きた農業の独占に反対する、グランジ運動(農民共済組合運動)についてじっくりと読みたい方は、クロウブシャー議員の本を読むと良い。両議員は、企業の独占が人々の生活に及ぼす影響を、影響を受ける人々に見てもらい、関心を持ってもらおうとしている。両議員が共有しているメッセージは、システムや経済が自分のために機能していないと感じている人たちは、反トラスト法に取り組むべきだということだ。

最良の考えなのは、それを「反トラスト」と呼ぶことを止めるということだ。クロウブシャー議員は、反トラストという言葉はスタンダード石油のような19世紀の巨大企業の産物であり、21世紀を生きるアメリカ人にとっては無意味な言葉だと述べている。彼女の発言内容は正しい。クロウブシャー議員は、競争政策や独占、あるいは単に「大きさ」について語り始めるべきだと述べている。そうなのだ、クロウブシャー議員は、自身の本のタイトルを「反トラスト」にしていることは認めている。

連邦議会についてはどうだろうか?両議員は、政府の監視部局や裁判所は、巨大記企業がより巨大になり、力を濫用することに制限を加えることに失敗したという点で一致している。この問題について、両者ともに自分たち自身や同僚の政治家たちを非難するための十分な時間を取っている訳ではない。

立法府の仕事は、法律を書き、各企業にできることとできないことを示すことだ。そして、司法省のような政府の監視当局に予算をつけ、ルールを強制する権限を与えることで、力を強めることだ。言い換えると、「上院議員のお二人、それはあなた方の仕事でしょうが」ということだ。両議員はそれぞれの本において、ビッグ・テック各社を規制するための法案を準備中だと述べている。しかし、そのような法案を通過させることができなかったことや、そもそもその法案が良い内容だったかどうかについては、あまり語られていない。

クロウブシャー議員は、2017年に、フェイスブックなどのインターネット企業に、従来のメディアの情報開示と同様に、組織が政治広告にどれくらい費用を支出しているかを開示させる法案を主導しました。これは成立しなかった。

両議員は自分たち自身のことを話す時は絶好調だ。クロウブシャー議員は、19世紀末にスロヴェニアから移民してきて、過酷な環境と低賃金で、炭鉱で働いた自身の親戚たちについて話をする。彼女の言葉によると、一般的な市民が悪辣な大企業と戦い、独占を抑制して労働力の真の競争を実現するための法律を請願したからこそ、今の彼女があるのだ、ということになる。

ホーリー議員の話に説得力が増すのは親としての心配を話す時だ。私たちのほとんどと同じく、彼もスマホに多くの時間を使ってしまっており、そのことを子供たちが気付いているということを述べている。ホーリー議員は、幼い息子がスマホやタブレットに夢中になっているのを見て悩み、家族がスクリーンに割く時間や関心に敏感であろうとしている。

ホーリー議員は、私たちが最新の情報機器を常に使うことで頭脳に異常をきたすということよりも、ビッグ・テック各社の力に対して不満を持っているようだが、これが正しいかどうか私には分からない。スマートフォンやパソコンの画面を見ている時間の長さによる影響についてはよく分かっていない。しかし、ホーリー議員の考えには耳を傾けるべき点がいくつもある。スクリーンを通じてのつながりだけではなく、現実の生活共同体を大事にする、政府が介入して、人々に終わりなく、延々とスクロールさせる技術やユーチューブやティックトックで使われている次から次へとヴィデオを自動的に勧めてくる技術を禁止させるようにすべきだ。

推薦図書:なぜ薬に高いお金を払うのかを知りたい人や、子供がインスタグラムに夢中になることを心配している人には、私は2人の議員の本を手渡さないだろう。その代わり、似たような内容でありながら、より短く、より読みやすく、強力な企業が世界に与える影響について深く考える人々の間ですでに影響力を持っている2つの作品を紹介したい。

ティム・ウーの2018年の本『巨大さの呪い(The Curse of Bigness)』は短い、分かり易く。魅力的な本である。その本の中で、ウーは、アメリカの独占の歴史と今日の強力な企業によるリスクを取り上げている(私はこの本を短いと述べただろうか?)。リナ・カーンの2017年の法科大学院の論文「アマゾンの反トラスト・パラドックス[逆説]Amazon’s Antitrust Paradox)」は知的な砲弾である。この論文の中で、カーンは、数十年にわたるアメリカの法律の発展と、アマゾンのような新興の巨大企業の力の影響についてアメリカの法律はいかに対処に失敗してきたかを述べている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める