古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:アベノミクス

 古村治彦です。

 今回も海外メディアで紹介された安倍晋三元首相に関する記事をご紹介する。2つの記事は「安倍晋三元首相の業績を評価する」内容である。簡単に言えば、アベノミクスで日本経済を回復させた、日本を「普通の美しい国にする(アメリカの下で戦争ができる国にする)」という目標をある程度達成した、インド太平洋地域の安全保障の枠組みを作るために、インドを引き込むことに成功した、中国との関係は冷え込んだ(対立が激化した)、憲法改正に向かって精力的に動いていた、日本憲政史上最長の在任記録を達成した、自民党最大派閥の領袖としてキングメイカーとして力をふるうところだったなど、である。

 ロシアとの関係(北方領土問題の解決を目指すもうまくいかず)、北朝鮮との関係(北朝鮮のミサイル開発は進み、日本人拉致問題は解決せず)のような「負の遺産」については書かれていない。これらの記事は言ってみれば「礼賛記事」である。

 分析として興味深いのは、安倍元首相が頑固な「ナショナリスト」から「国際主義者(internationalist)」へと臆面もなく進化したことと書かれている点だ。ナショナリストというのはアメリカからすると嫌われる。ナショナリズムを突き詰めていくと反米に貼ってしまうからだ。安倍晋三元首相を中心とする「歴史修正主義(revisionism)」や「核武装論」はアメリカにとって受け入れられるものではない。そうしたところをバランスを取りながら、アメリカに利用されてきたのが安倍晋三元首相だったと私は考えている。アメリカにとっては、防衛予算を増やしたり、自衛隊を海外で「使いやすく」したりしてくれるという点では便利な人物であるが、歴史修正主義や核武装に関してはそんなことは許さないというところだっただろう。

 安倍元首相の逝去で日本政治はこれから変化していくだろう。それだけの存在感があった。どのように変化していくかを注視していく。

(貼り付けはじめ)

安倍晋三元首相はいかにして日本を変えたか(How Shinzo Abe Changed Japan

-暗殺された元首相は複雑な遺産を置いていった。

トバイアス・ハリス筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassinated-obituary-japan-legacy-abenomics/

安倍晋三元首相は、2007年9月にそのキャリアを終えるはずだった。2007年7月の参議院選挙で自民党を惨敗させ、首相就任からわずか1年で辞任を余儀なくされた安倍首相自身、かつて期待された政治生命が終わったという見方を広く共有していたようだ。

しかし、その5年後には自民党のトップに返り咲き、2012年12月に劇的な首相への返り咲きを果たす。そして2020年9月、7年8カ月という記録的な在任期間の後に首相の座から退いた後、自民党最大派閥のリーダーとして、また世界の中でも有名な政治家として、日本政府の方向性を左右する並外れた力を持つ、キャリアの第3幕が始まった。

こうして日本の権力の頂点に立った安倍首相は7月8日、参議院選挙を控えた自民党候補の応援演説中に、暗殺者が仕掛けたショットガンの2発の爆風に倒れ、その生涯を閉じた。

安倍首相は、政治家として名高いが毀誉褒貶の激しい一族の出身であり、このような高みに上り詰めたのも当然のことだった。しかし、安倍首相は決して権力そのものに興味があったのではない。1990年代に政界入りした彼は、祖父であり元首相の岸信介からの使命を受け継いだ。それは、日本の政治家たちの助けを受けながら、米国が世界舞台で力を発揮するために課した制約、とりわけ戦後憲法と「平和」条項による日本の軍事力制約を取り除くことだった。

1990年代初頭、冷戦の終結とバブルの崩壊により、独りよがりだった政治分野のエスタブリッシュメントたちは力を失い、安倍元首相をはじめとする若い保守派政治家たちが、「戦後レジームからの脱却(break] away from the postwar regime)」の好機ととらえ、第一次政権時にそれを押し出した。

新しい保守主義者たちは、日本の国家を根本から変えようとした。戦後、内閣の中でかろうじて「同輩中の首席(first among equals)」であった首相の権力を強化しようとした。また、政府の危機管理能力を強化するために、本格的な能力を持つ防衛省、首相直属の安全保障会議など、確固とした国家安全保障体制を構築しようとした。官僚や国会議員の権力を制限した。彼らは国益を犠牲にして自分たちの狭い利益を追求しようとしてきたからだ。そして、アメリカや他のパートナー諸国と一緒に戦うことのできる適切な軍隊を日本が持つことを妨げている制約を緩めようとした。

しかし、安倍元首相がこのプログラムに欠けていたもの、すなわち経済力を身につけたのは、2007年の首相退陣後、荒野に身を置いてからである。

2006年の首相就任後、安倍元首相は経済政策の知識と経験が乏しいことを認めた。他の民主政治体制国家の有権者たちと同様に、日本の有権者たちもまず経済問題に関心を持つことを考えると、これは致命的な欠点である。2009年の自民党の大敗後、野党に戻った安倍首相は、日本経済の停滞という問題を真剣に考えるようになった。

日銀が長引くデフレーションにもっと積極的に取り組むことを望む経済評論家たちと力を合わせ、「全く新しい次元(an entirely new dimension)」の金融刺激策、拡大する財政政策、ハイテク分野への生産シフトと日本の労働力減少を遅らせるための産業・労働・規制政策の数々を盛り込んだ、後にアベノミクスとして知られるようになるプログラムを作成した。

批判者たちの中には、安倍首相がアベノミクスを自らの政治的野心を隠すためのイチジクの葉(fig leaf)として日和見的に利用していると批判する人たちもいるだろうが、事実、アベノミクスは日本の成長課題に取り組むための真剣で、持続的、かつ柔軟な試みであった。しかし、それは安倍首相が成熟した考えを持つようになったことを示すものである。安倍首相は、若手議員の頃は軍事力やアメリカによる日本占領の象徴的な遺産に固執していたが、2回目に首相になると、国力の基盤である経済力を無視できないことを学んだのであろう。より競争力の高い世界で日本の将来を確保するためには、日本経済は新たな成長基盤が必要であった。

アベノミクスのおかげもあり、安倍首相は、最初の首相に続いた短期間の首相の回転ドアを終わらせ、2回目の政権で選挙後に選挙に勝つことができた。アベノミクスは、少なくとも何年にもわたる停滞した賃金を逆転させた。企業の利益、税収、観光客の流れを押し上げ、過去最高を記録した。失業率を下げて過去最低を記録することもできた。

安倍元首相の忍耐力は、国家安全保障会議を設立し、首相官邸に官僚の人事決定を集中させ、日本国憲法を再解釈して日本の自衛隊が集団的自衛隊に従事することを許可するという長年の野心を追求することを可能にした。憲法を改正するために、深刻ではあるが最終的には失敗した入札を開始する。

また、日米関係を強化するだけでなく、インドやオーストラリアといった地域のパートナー(日米豪印戦略対話の基礎を築いた)や東南アジアの主要諸国との関係を深めるなど、野心的な外交政策を追求することができた。また、アメリカが環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership TPP)から離脱した後、日本は地域および世界の経済統合を追求する上で指導的な役割を果たすことができた。

安倍元首相の数々の成功は新型コロナウイルス感染拡大によって弱められた。新型コロナウイルス感染拡大によって経済的利益が逆転させられ、日本の国家を強化し中央集権化する改革の限界を明らかにした。2020年8月に個人の健康上の理由で辞任したとき、彼は後継者に青写真を残したが、これまでのところ、国内外で力を行使することは、これを超えていない。

一方、安倍首相は、死ぬまで強力な政治力を発揮し、財政政策や防衛政策をめぐる今後の議論において中心的な役割を果たすことができる政治家としての資質も身につけていた。安倍首相の死は、岸田文雄首相たちが埋めるべき大きな空白を残した。

※トバイアス・ハリス:アメリカ進歩センターのアジア担当上級研究員。著書に『因襲打破主義者:安倍晋三と新しい日本』がある。ツイッターアカウント:@observingjapan

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安倍の遺産は彼を超えて生き続ける(Abe’s Legacy Will Outlive Him

-ワシントンは、日本をインド太平洋における真の安全保障上の同盟国にした人物を追悼している。

ジャック・デッチ、エイミー・マキノン筆

2022年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/08/shinzo-abe-assassination-japan-indo-pacific-security/

日本の安倍晋三元首相は金曜日、奈良市で自身の政党の選挙運動中に銃撃され、死亡した。戦後の平和主義から脱却し、日本の安全保障体制、特にインド太平洋地域において、日本とその同盟諸国が自己主張を強める中国に立ち向かうために結集する中で、日本で最も長く首相を務めた人物が、東京に不滅の影響を残しているのだ。

安倍首相は4期にわたって政権を担当し、1年生き延びるのがやっとの首相もいるような不安定な政治状況の中で、2度目の政権を約8年間務めた。中国の台頭に対してより厳しい姿勢とより強気の防衛費に向けて、寡黙な日本国民を説得し、日本の軍事力を強化するとともに、クアッド(Quad)として知られる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)の見直しに向けたレトリックの土台を構築した。

ランド研究所で東アジアの安全保障問題を専門とする政治学者のジェフリー・ホーナングは、「安倍元首相は日本の外交政策と国際舞台での日本の役割を大きく前進させた。彼は、クアッドや自由で開かれたインド太平洋といったものを提唱した人物だ。彼は、崩壊しそうな時に提供される必要があったものに、構造的、概念的なアイデアを提供するのを助けた」。

日本は1990年代の「失われた10年(lost decade)」に埋没し、安倍元首相が登場するまでは、大局的な戦略的思考から遠ざかっていた。しかし、安倍元首相が「アベノミクス」と呼ばれる金融緩和政策と財政出動のカクテルで、かつて強力だった日本経済を超高速で(ワープスピード、warp speed)に戻そうとするにつれ、東京の戦略予測は変化しはじめた。

安倍元首相は、中国をあからさまに刺激することなく、非同盟のニューデリーを対話に誘い込むために、太平洋の安全保障についてインドを含めて拡大することに中心的役割を果たした。2007年、安倍首相は短い任期中に初めてインドを訪問し、インド洋と太平洋の間の「二つの海の合流点(confluence of the two seas)」についての構想を演説し、後にアメリカが採用した「自由で開かれたインド太平洋」の基礎となるヴィジョンを示した。また、2004年のインド洋大津波をきっかけに非公式に発足し、後に地域安全保障フォーラムとして再構築された「クアッド(Quad)」の立役者としても広く知られている。

オバマ政権時代に副大統領として安倍元首相と仕事をしたジョー・バイデン米大統領は、金曜日に声明を発表し、「安倍元首相は日米同盟と日米両国民の友情の擁護者であった。日本の首相として最も長く在職し、自由で開かれたインド太平洋という彼のヴィジョンは、今後も続くだろう」と述べた。

安倍元首相は、戦犯を含む第二次世界大戦の日本軍を祀る神社を参拝して批判を浴びた強固な日本のナショナリスト(nationalist)から、臆面もなく国際主義者(internationalist)へと進化した。アメリカの元政府高官や専門家たちは、安倍元首相の影響は太平洋を越えて波及していると考えている。安倍は、アメリカの権力の回廊でこの地域について語られる方法に、紛れもない影響を及ぼした。2017年、日本の政府関係者は安倍元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想をワシントン周辺で喧伝し、非同盟のインドを惹きつけようとした。このフレーズは、今やバイデン自身のトークポイントの主力となっている。そして米防総省は2018年、この地域の最高軍事司令部の名称を米太平洋軍から米インド太平洋軍に変更したが、これは安倍首相の影響力を証明するものである。

米インド太平洋軍司令官と駐韓アメリカ大使を務めたアメリカ海軍の四つ星提督(退役)ハリー・ハリスは次のように述べた。「国際的に日本が置かれている状況は、安倍元首相に一直線に戻ることができると思う。難しいことはないだろう。安倍元首相は日本と同盟にとって変革のリーダーだった。インド太平洋の両側で多くの人が彼を惜しんでいることだろう」。

戦後、アメリカ軍に占領された日本の憲法は、帝国日本の軍国主義への回帰を防ぐために平和主義を謳い文句にした。しかし、2015年には、自衛のための限定的な武力行使を容認する法案が国会で可決され、戦争の悲惨さを思い知る国民を前に、安倍首相は長年の目標であった戦争放棄の条文を削除することに失敗した。安倍首相は、国家安全保障会議の設置、2013年の日本初の国家安全保障戦略の採択、首相官邸での意思決定の一元化など、日本の安全保障機構を一新する一連の制度改革を推進することに成功した。

安倍元首相は第二次世界大戦の遺産を過去のものにしたいという願望を持っていたが、批判的な人々から、安倍元首相は歴史を修正し、戦時中に日本軍が行った残虐行為を軽視していると頻繁に非難された。そのプラグマティズムにもかかわらず、安倍首相は日本の最も重要な安全保障と貿易のパートナーの1つである韓国との関係をほぼ冷却化し、戦時中の韓国人奴隷労働者の利用をめぐって日本に8万9000ドルの賠償金を支払うよう求めた韓国の最高裁判決をめぐって、2018年に貿易戦争を開始した。

安倍首相が2度目の政権に復帰した2012年、前任の野田佳彦元首相が、中国が釣魚島と呼ぶ東シナ海の尖閣諸島の領有を主張し、激しく争う国有化を決めたことで、日本の中国との関係はどん底に陥っていた。安倍首相の在任期間中、関係は冷え込んだままだった。当時のバラク・オバマ大統領は、尖閣諸島での戦闘を含めて、アメリカの日本に対する安全保障上の関与を再確認した。

ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター長のミレア・ソリスは、「アメリカがこの地域に完全に留まっていることを確認することが中心だった。安倍元首相は、中国が覇権を握るアジアでは日本は生きていけないと強く感じていた」と述べている。

それは、自由で開かれたインド太平洋を維持しようとする彼の努力と、インド、アメリカ、オーストラリアとのクアッドへの関与を裏打ちするものであった。多くの同盟国との関係を緊張させたトランプ政権の間、安倍首相はニューヨークへ飛び、就任前にトランプと会談するなど、魅力攻勢(charm offensive)を仕掛けた。

安倍首相は、アメリカの政策立案者の頭の中にあった太平洋とインド洋の結合、地域の同盟関係の拡大について努力し、国内では平和主義者の日本が、インドは形式的に軍事的に非同盟のままでインドを仲間に引き入れるという利益を得た。

ランド研究所の専門家であるホーナングは、「中国に反発していると口先だけで言うのではなく、実際に中国に反撃することができる。自由と透明性の原則を守るだけで良い。日本政府は決して言わないだろうが、中国の影響力を抑制し、中国に一度も言及することなく中国のやっていること全てに反撃しようとする戦略であり、実に巧妙であった」。

2020年の驚きの退陣後も、安倍首相は台湾を擁護する発言をし、2020年12月には中国が台湾に侵攻すれば「経済的自殺行為(economic suicide)」と警告するなど、日本政界で力を発揮していた。2022年4月の『ロサンゼルス・タイムズ』紙への寄稿では、台湾とウクライナの類似点を強調し、アメリカの戦略的曖昧さの立場が成り立たなくなったと主張した。安倍元首相は「今こそアメリカは、中国の侵略計画から台湾を守ることを明確にしなければならない」と書いている。

そして、安倍元首相は殺害される前、日本政治のキングメイカーとなるべくしてなった。専門家や政府高官たちは、安倍首相の影響力はまだ残っていると考えている。この10年余りの間に、日本はGDPの2%を防衛費として使うようになった。何十年もの間、その半分を使うのがやっとだった日本にとって、これは急な変化である。また、日本は軍事的により攻撃的な方向へと舵を切り続けている。安倍首相の後継者である岸田文雄首相は、敵対勢力に対する先制攻撃という、ほんの数年前までは考えられなかったことを言い出している。

ホーナングは次のように述べた。「安倍首相は、中国を問題視して危険信号(赤旗、red flag)を掲げた最初の人物だ。防衛の問題だけではない。経済的な問題でもある。外交問題でもある。政府全体の問題なのだ。そういう意味で、安倍首相は実にユニークで、自衛隊のこれからのあり方を示してくれた」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント: @JackDetsch

※エイミー・マキノン:国家安全保障・情報分野担当記者。ツイッターアカウント:@ak_mack

(貼り付け終わり)

(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、岸田文雄首相の唱える「新しい資本主義」についての論稿をご紹介する。岸田首相は「新しい資本主義」という言葉を提唱しているが、その本質は「配分(分配、distribution)」にある。簡単に言えば、下がり続けている人々の給料を上げようということだ。安倍政権下で実施されたアベノミクスでの成果としてよく「雇用が増えた」ということが言われる。

雇用が増えたのは素晴らしい。しかし、問題はその質だ。雇用の質、つまり正規か、非正規かということだ。今や日本の雇用の約4割が非正規だ。時給は低く抑えられ、補助や保護はない。そして、悲しいことに低賃金で保護もない仕事を年金額が少ない老人、そして女性たちが担うという構造になっている。こうした状況で、正規雇用であるサラリーマンの給料は上がらない。国民全体で言えば、消費税増税や社会保障負担の増大、最近の円安による物価高など厳しい条件が次々と打ち出されている。

 岸田文雄率いる宏池会を創設したのは池田勇人元首相であり、その源流をたどれば、吉田茂にまで行きつく。「経済成長優先(人々の暮らしを豊かにする)、軽武装、アメリカに頼る」という考え方でやってきた。以前にご紹介した、トバイアス・ハリスの論稿でもここら辺のことが詳しく紹介されている。吉田茂の流れを汲む保守本流(池田勇人と佐藤栄作から始まる)の2つの派閥(現在で言えば宏池会と茂木派)が重視したのは配分である。それによって、日本の奇跡の経済成長の果実が国内に行きわたった。多くの場合、経済成長に伴って、格差も拡大する。しかし、日本の場合は、「格差なき経済的奇跡(economic miracle without inequality)」を実現したのだ。

 それが平成と令和の30年間で台無しにされた。「アメリカ型を導入すれば何でもかんでもうまくいく」という短慮が日本をダメにした。政治改革、構造改革といった、「改革」で日本の重要な部分まで破壊された。それを修復することは既に難しい。岸田首相が目指すのはそうした短慮や勇ましさからの軌道修正だろう。軌道修正が精一杯であろうが、安倍路線からの修正を行うだけでも大したものだ。

 私たちは日本の成功体験であるところの「格差なき経済的奇跡」路線に戻る必要がある。それは何も毎年二桁の経済成長を目指すとかそういうことではない。経済成長の果実を適正に人々に配分する、という当たり前のことを行うだけのことだ。そして、今や先進国となり、内需が主要な経済要素である日本にとっては、人々に適正に果実を配分し、それを使ってお金を回してもらって、「日本経済の血行促進」を行って、日本経済の健康を取り戻すということを行わねばならない。そのきっかけとして政治がある。

(貼り付けはじめ)

日本の新首相が公約としている「新しい資本主義」はどのようなものか(How Japan's new PM is promising a 'new capitalism'

マリコ・オオイ筆

BBC

2021年11月1日

https://www.bbc.com/news/business-58976987

日本の新首相岸田文雄は国内の富の再分配を「新しい資本主義(new capitalism)」として売り込んでいる。

しかし、SNS上には、この計画が社会主義に近いと指摘する声もあり、中国共産党の主要政策になぞらえて日本の「共同繁栄(common prosperity)」とも呼ばれている。

巨大小売企業アマゾンに対抗する日本の巨大オンライン小売企業である楽天の最高経営責任者である三木谷浩史氏「彼は資本主義の仕組みを理解しているのだろうか?」とツイートした。

三木谷氏は、岸田首相のキャピタルゲイン課税(CGT)の税率引き上げ提案について特に怒りを持っていた。投資で得た利益に対する政府の課税は、「二重課税」と呼ばれている。

議論を巻き起こしている新たな提案に対する不満を表明したのは楽天の経営者三木谷氏だけではなかった。最近の小口の個人投資家からの株式市場への新たな関心の波を一気に消してしまうのではないかと懸念している。

日本では、新首相が誕生すると株価が上昇するのが通例だが、衆議院選挙を控えた10月に岸田氏が登場すると、日経225指数は一気に下落した。

日経225指数が8日連続で下落し、現在では「岸田ショック(Kishida schock)」と呼ばれるほどの下落となった。

これを受けて岸田首相は、キャピタルゲインや配当金に対する課税の変更は当面行わないとし、キャピタルゲイン課税の税率引き上げ提案をすぐに撤回した。

このような恥ずかしい政策転換はさておき、岸田首相の経済政策のスタイルは、前任者である菅義偉氏や安倍晋三氏のアプローチとは明らかに対照的だ。

日本の大手オンライン証券会社は新規個人投資家の参入の波に乗っている。新規口座開設数は過去最高となった。

安倍晋三と菅義偉の2人はアベノミクスを推進した。アベノミクスとは、積極的な金融緩和(aggressive monetary easing)、財政再建(fiscal consolidation)、成長戦略(growth strategy)という、いわゆる「3本の矢(three arrows)」で有名な経済政策だ。この3つのレバーを使って、日本経済を何十年にもわたる低成長から脱却させることが彼らの目的だった。

安倍と菅の2人の指導者の在任期間(tenure)の間に、いくつかの成功がもたらされた。日本の株価は2倍になった。安倍が2012年12月に2度目の首相に就任した時、日経225指数は1万円を下回っていた。今年2月には1990年以降、初めて3万円を記録した。

日経225指数は、日本経済の低迷をもたらした1980年代後半の暴落から回復するのに30年かかっている。

●賃金上昇はペーを維持できず(Salaries not keeping pace

しかしながら、安倍の戦略に対しては、岸田自身を含む厳しい批判者たちが存在した。彼らは、「アベノミクスは日本国内の富裕層を更に富裕にしただけだ」と主張した。彼らは、富がより広く国民に分配されることを望んでいる。

アベノミクスは大々的に報道され、国際的にも注目されてきたが、一般市民はその恩恵をあまり感じてこなかった。アベノミクスによって貧富の差が拡大したと言う人々もいる。所得分配の不平等を測るジニ係数という指標は過去10年間でわずかに縮小しているにもかかわらず、である。

人々がお金を持っていることを実感できない理由の一つは、過去30年間で平均賃金がほとんど伸びていないことである。

●日本の平均賃金(Average Japanese wage

bbcnewcapitalism001

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の平均賃金は過去30年間、アメリカやドイツなどの国に比べて停滞している。

生産性メトリクスも上昇が限定されてきた。一人当たりの経済産出額である日本の一人当たり国内総生産(GDP)は変動しているが現在は1994年と同レヴェルとなっている。

●日本の一人当たりGDPJapan GDP per capita

bbcnewcapitalism002

国会における初めての所信表明演説の中で、岸田首相は「分配(distribution)」という言葉を12回繰り返した。対照的に、安倍首相は「成長(growth)」という言葉を11回、菅首相は「改革(reform)」という言葉を16回使った。

しかし、経済学者や投資家の中には、岸田首相のアベノミクスに対する厳しい批判は、総選挙に向けて有権者の支持を得るための策略であり、急激な変化はないと考える人もいる。

投資家のアヤ・ムラカミは次のように語った。「岸田首相が彼の経済政策全てを説明したのかどうか疑問に思っている。しかし、彼が高市さんを自民党政策調査会長に、甘利さんを自民党幹事長に起用したことを見て、岸田首相の下でも、アベノミクスは継続されるということを示唆しているということになる」。

高市早苗は安倍晋三元首相の支援を受け、与党自民党総裁選挙に出馬した。一方、甘利明は安倍政権で経済産業大臣を務め、アベノミクスの設計者の一人であった。甘利は、2016年に汚職スキャンダルに巻き込まれたことで、幹事長に起用されたことについて議論が起きた。今週末の選挙で小選挙区の議席を失った後、辞任を申し出たと報じられている。

2012年12月に安倍が首相に就任した時、日経225指数は1万円を下回っていた。今年2月には、1990年以来初めて3万円を記録した。

●勤労者たちへの配分(Delivering for workers

日本がアベノミクスに戻るかどうかはさておき、岸田氏が就任した今、最も差し迫った問題は、「日本の労働者の間で高まっている不満にどう対処するか?」ということである。

近年、日本の上場企業は過去最高の利益を上げていますが、その利益を勤勉な従業員の賃金に還元していないという批判を受けている。

投資家のムラカミは次のように述べた。「日本の経済成長は富を分配するほどには協力ではない。日本経済は海外で利益を上げており、国内ではそうではない。国内で利益を上げられていない現状で、各企業が利益を分配することは難しいということになる」。

ムラカミは自民党政調会長の高市早苗が最近提案した「現金をため込んでいる企業に課税する」という案を支持している。村上は次のように語っている。「現在、東京証券取引所に上場している企業は2500社ありますが、そのうち1割以上の企業が時価総額以上の現金・預金を持っていたり、株式の持ち合いをしていたりしている。これらの企業には、税制を通じて、国内の成長を促進するための投資を奨励すべきだと考える」。

岸田は総理総裁に選出されたとき、「国民の声に耳を傾ける(listen to the voices of the people)」と宣言したが、わずか数週間でキャピタルゲイン税を引き上げるという計画を撤回した。今後、岸田首相が投資家と労働者のどちらの声に耳を傾け、政策の方向性を決めていくのか注目される。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 菅義偉総理大臣が誕生した。安倍政権からの継続を旗印に、自民党役員や主要閣僚に大きな変更はない。大臣の横滑りや再登板も多く、目下の急務である新型コロナウイルス感染拡大と経済対策の両輪を回す政策を実行していくことになるだろう。新内閣の目玉は行政改革で、河野太郎前防衛大臣が行政改革担当大臣に横滑りとなった。河野大臣は若手の時は「ごまめの歯ぎしり」などと言っていたが、今やすっかりポスト菅、光景総理総裁の有力候補である。祖父河野一郎、父河野洋平が果たせなかった総理総裁(父洋平は自民党総裁までは達成した)に手が届く位置まで来た。

 下に掲載する記事は、アメリカが新型コロナウイルス感染拡大に対応するために、大規模な財政出動を行い、財政赤字を更に積み上げる、そうなると、ドルの価値が下落する、そして、相対的に円の価値が上がる(円高になる)、その結果として日本の輸出に影響が出る、という内容だ。アベノミクスで円安基調になって輸出が堅調であったものがそうではなくなると、菅新総理大臣は厳しい状況に直面することになる、ということだ。

 子の論稿から考えると、安倍晋三前首相は経済の難しいかじ取りをする前に政権を投げ出したのではないか。菅氏は行政改革やデジタル化という2000年からの20年でいまだに達成されない、お題目を唱えているだけだ。菅内閣の特徴は停滞と惰性となるだろう。安倍首相が再登板する際には、経済と外交が目玉だった。安倍内閣の功罪について分析も反省もないまま、とりあえず「継承」という言葉で糊塗しているが、実際は惰性と停滞だ。菅氏は警鐘を唱えている以上、アベノミクス、安倍政権下の財政政策と金融政策は堅持されることになる。麻生太郎副総理兼財務大臣(デフレ脱却担当とはお笑い草だ)が留任ということで、菅氏は麻生氏に経済のことは任せることになる。そうなれば今のまま何も変わらない。

 安倍晋三前首相は良い時に辞めたということになる。これから経済の悪化がどんどん明らかにされていくが、それに対応するのは菅新政権だ。安倍晋三氏は大きな傷を負わずに、政権から退くことができて政治的な力を温存し、細田氏から派閥の領袖の地位を引き継いで、これから自民党内政治に大きな影響力を持っていく。キングメイカーとしてはもちろんだが、自分が再びキングとして登場するということも視野に入れているだろう。

 アメリカでもそうだが、日本でも新型コロナウイルス感染拡大対策と景気対策は車の両輪で、どちらもバランスよく行うべきだということになる。アメリカでじゃぶじゃぶとマネーが供給され続けるようになれば、ドル安ということになり、日本は円高となる。輸出業にとっては新型コロナウイルス感染拡大によって世界各国で内需が冷え込んでいるということも相まって厳しい状況となる。円高になれば輸入品の値段は下がる。それによって内需が拡大すればよいが、物価は上がりづらい。そうなれば政府と日銀のインフレ2%目標の達成は難しくなる。今年いっぱいは厳しい状況は続くし、来年はさすがに今年のようなことはないだろうが、回復は難しいだろう。

(貼り付けはじめ)

菅氏は継続性を約しているが、それを実現することはかなり難しい(Suga Promises Continuity. But on Economics, He Can’t Possibly Deliver.

-円の価値が上がると、日本の新首相は輸出を守るために何か新しいことをしなければならなくなるだろう

クリス・ミラー

2020年9月15日

『フォリーン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/09/15/suga-abenomics-yen-weak-exports-strong-quantitative-easing/

日本憲政史上最長の在任期間となった安倍晋三首相が辞任を発表した時、それは一つの時代の終わりのようであった。安倍首相は日本政治をほぼ10年近く支配した。与党自民党内の様々な派閥を巧妙に動かし、野党からのプレッシャーをかわした。様々な汚職事件と影響力を行使したスキャンダルをほぼ無傷で乗り切った。最も印象的だったことは、アメリカのドナルド・トランプ大統領との関係をうまく維持した。トランプ大統領は大統領就任後しばらくの間アメリカ側が主導権を握るために日本を攻撃してばかりだったことを考えると、安倍首相の仕事は簡単なものではなかった。

安倍首相の後継首相である菅義偉は言ってみれば、大きな靴に自分の足を合わせねばならないことになった。安倍首相と同じく、菅氏も自身のキャリアのほぼ全てを政治の世界で過ごしてきた。これまでの8年間は安倍内閣の官房長官を務めた。しかし、安倍首相とは違い、菅氏は政治界一族の出身ではない(安倍首相の父は外務大臣を務めた)。菅氏は地味な農家の出身である。

安倍首相と菅氏が長年にわたり一緒に仕事をして来たという事実から考えると、これが2人の指導者の間で政策が継続されるという予測が立つ理由となる。菅氏は安倍政権の政策を立案するにあたり一定の役割を果たしたのだ。日本のメディアは、財務大臣と外務大臣を含む主要閣僚の多くは、菅氏が首相になっても留任すると報じている。

菅氏に対する最大の疑問は日本経済についてである。それは、新型コロナウイルス感染拡大によって深刻な景気後退に直面するであろう世界各国と同じである。日本は高い幹線レヴェルからは脱しているが、経済は深刻な打撃を受けている。菅氏にできることは何か?

安倍首相は「アベノミクス」と名付けた経済プログラムで人気を確立した。アベノミクスには3本の矢があった。それらは、金融緩和、財政出動の拡大、市場開放のための構造改革であった。実際には、安倍首相は彼自身が約束したほどには財政出動を行わず、その代わりに均衡予算を追求した。財政赤字は減少し(今年になるまで)、税金は上がった。しかし、もし他の人々が首相であったら、税金をもっと早く上げていただろう。構造改革に関して言えば、安倍首相は貿易のために更に日本を開くためにいくつかの方策を行った。しかし、安倍首相は勇ましい言辞ほどには革命的ではなかった。安倍首相は日本の中央銀行である日本銀行に圧力をかけて、新たな更なる金融緩和政策を実験的に実施させた。しかし、ここ数年、更なる急進的な方法は実行されていない。

菅氏は自身も立案に関与したアベノミクスの遺産に対しての意義を唱える様子は見せていない。しかし、アベノミクスは正反対の政策が同居する矛盾したセットになっている。菅氏が継続性を公約しても、アベノミクスは政策の方向性を示すものではない。コロナウイルス感染拡大に関連する景気後退に苦しむ企業や個人を支援するために日本政府がこれからも資金を投入するということについてはほぼ疑いようがない。菅氏は構造改革についても発言している。しかし、政治家にとって改革を約束することはたやすいが、それを実現することは困難である。

菅氏は金融政策において厳しい選択に迫られることになるだろう。日本は超金融緩和政策の多くを始めたが、これらは今や世界規模で実施されるようになっている。例えば、中央銀行による金融財産の大規模購入である量的緩和は2001年に日銀が始めた。アメリカ政府が2007年から2008年にかけての金融危機に対応するために子の量的緩和を試したのはそれから約10年後のことだった。日本銀行はマイナス金利、政府の借り入れコストのコントロールという実験を続けた。これらは長期的な超低金利を保証するものである。

金融緩和政策を採用し続けて20年が過ぎた。日本銀行は更なる資金投入は不可能だと確信している。しかし、アメリカ連邦準備制度は金融緩和を始めたばかりで、コロナウイルス感染拡大による景気後退を戦うための金融における道具立てを劇的に拡大するものである。アメリカの赤字は戦争をしていない時代としては前代未聞のレヴェルにまで達しつつある。この結果としてドルの価値が下がることが予想される。そして相対的に円の価値が上がる。通貨価値が上がることは日本にとっては良いことのように思われるが、菅氏に対しては大きな挑戦となる。通貨政策は日本においてこれまで議論が沸騰する問題であり続けた。日本では輸出大企業をはじめとする輸出業者が政治的な影響力を及ぼしてきた。アベノミクスの財政政策と金融政策は円の価値を下げた。それによって日本の輸出業者は利益を得た。ドルの価値が下がり続け、円の価値が上がり続け、日本の輸出業者の競争力が落ちる場合、菅氏は難しい選択を迫られることになるだろう。菅氏は安倍首相の政策の継続を約することはできる。しかし、菅氏がそのような約束をしたからといって、安倍首相と同じ結果をもたらすことができるという保証はない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 今回は、おなじみのマイケル・グリーンCSIS上級副所長兼アジア・日本部長の参院選総括を皆様にご紹介します。以下のCSISのアドレスにあるものを抜粋したものです。

 

 今回はマイケル・グリーンと彼の下にいるニコラス・シェンシェーニが総括を書いたようです。シェンシェーニは経済に強い人物です。CSISに入る前には、ワシントンで、日本のフジテレビのプロデューサーをしていたという人物です。

 

 総括についてまとめると、安倍首相の経済政策(アベノミクス)と国防政策が支持された、憲法の見直しについては、可能性はあるが、まずは経済だ、ということになっています。あまり独自色のある総括ではありません。

 

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Japan's Upper House Election

July 11, 2016

https://www.csis.org/analysis/japans-upper-house-election

 

 

Michael J. Green

Senior Vice President for Asia and Japan Chair

 

Nicholas Szechenyi 

Deputy Director and Senior Fellow, Japan Chair; Asia Program

 

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●今回の選挙の概説

 

・7月10日の参院選挙で連立与党は圧勝を収めた。安倍晋三首相の政治的な力は固められた。彼は経済の再生と国防政策に重点を置いた政策を推進する。

・選挙前の世論調査によると、有権者の最大の関心事(懸念)は経済であった。しかし、大差を付けての勝利で、国会が開会された時、安倍首相はその他の重点事項である憲法の見直しに注力するのではないかという懸念も高まっている。

・選挙後のインタヴューで、安倍首相は今秋、憲法の見直しを国会の憲法審査会で議論することになると述べた。しかし、彼は経済と人々の成長への期待を高めるために努力すると重ねて強調した。

 

●問1:今回の選挙での重要なテーマは何だったか?

 

・金融緩和、財政刺激策、構造改革で構成される「アベノミクス」と呼ばれる安倍首相の経済政策への国民投票であった。

・2012年12月に第二次政権が発足して以来、安倍首相はデフレーションと戦うことを公約としてきた。しかし、積極的な金融緩和を行ってもインフレーション目標には遠く及ばない状況である。史上最大規模の国家予算といくつかの財政刺激策が行われたが、経済成長は緩慢なものにとどまっている。財政緊縮派の批判者たちは、公的債務の規模に懸念を持っている。公的債務の規模は現在、GDPの240%にまで膨れ上がっている。

・2016年第一四半期の日本の成長率は年間換算で1.9%であったが、安倍首相は、経済の失速を恐れて、2度目の消費税増税を延期した。

・構造改革に関する政策は、過去3年間で明らかにされ、貿易の自由化、企業のガヴァナンス、女性の地位向上を含む様々な施策となって出現した。それは大きな衝撃ではなかったが、確実な成長を支援することになった。

・民進党をはじめとする野党は、アベノミクスを失敗だとし、安倍首相の経済刺激策を批判し、経済格差を縮小するために社会福祉を増進させるべきだとした。

・野党側は、集団的自衛を含む自衛隊の活動制限を拡大し、攻撃されている同盟諸国の支援を行うことが出来るようにした、昨年の秋に可決した防衛改革法案を批判した。

・安倍首相はすぐに日本国憲法の戦争放棄条項を見直し、日本の平和杉を放棄すると主張する人々がいる。しかし、このような恐怖を掻き立てる戦術を用いても、連立与党の国会コントロールを弱めることはできなかった。

 

●問2:安倍首相はどの程度政治的な力を固めたのか?

 

・安倍首相率いる自由民主党は、参院の過半数にほんの少し足りないほどの議席を獲得した。連立与党のパートナー公明党と一緒だと、過半数を大きく超える。

・自公の連立与党はより力のある衆議院ではすでに3分の2の議席を獲得している。これで、参院が衆院と異なった可決を行っても覆せるだけの力を得ている。

・今回の選挙の結果は、安倍首相の議会コントロールの力を再び強めたということになる。これでしばらく国政選挙はないということになるだろう。

・次の参院選挙は2019年だし、衆議院議員の任期は2018年までだ。自民党内に安倍首相に挑戦する人はいない。安倍首相の自民党総裁の任期は2018年までだ。しかし、自民党は阿部総裁の任期を最大2期延長できるようにルールを変更することはできる。野党の力は弱い。

・民進党は、2009年から2012年まで与党であった内部がバラバラのグループだ。当時の民主党は2011年の東日本大震災以降、人々の信任を失った。民進党は、共産党を含むより小さい野党と一緒になって、安倍氏の政策を阻止しようと絶望的な試みを行ったが、安倍氏の脅威にはならなかった。

・有権者たちは毛財政帳について厳しい目で監視していたが、こうした要素のため、安倍首相の指導力が維持された。

 

●問3:安倍首相はこれからも経済問題に集中するだろうか?

 

・安倍首相はマスコミに対して、成長戦略を進めると述べた。今秋、安倍首相は、経済刺激のために900億ドル(約9兆円)の補正予算を提案する予定である。TPP批准も行う可能性もある。TPPに関しては、自民党の中核的な支持基盤である農業従事者から激しく非難している。しかし、安倍首相は、TPPは日本の経済競争力を高め、アメリカやその他の価値観を共有する国々と共に地域の経済問題に指導力を発揮するためには必要な手段だと主張した。

・今回の選挙の勝利を利用して、経済から憲法の見直しのような他の問題に力点を移す可能性が高いという疑念が高まっている。改憲には衆議院と参議院両方で3分の2の賛成と国民投票で過半数の賛成が必要だ。

・安倍首相率いる連立与党は、小規模の中道・右派の諸政党と一緒になって参院の3分の2を超えている。しかし、安倍首相は経済政策を犠牲にして、政治的資本を憲法に関する議論のために使うことないであろう。2006年から2007年までの第一次安倍政権下、安倍首相は憲法にばかり注力し、経済問題に関心を払っていないと批判された。

・安倍首相は、彼が優先しているもう一つの政策である安全保障分野において、日本が指導的な役割を拡大させるためには、経済力が根本になると理解している。そのためには成長戦略を維持する必要がある。

・憲法を議論する余地があるのは確かだ。しかし、憲法だけがリストに掲載されている訳ではない。

 

●問4:アメリカにとっての戦略上の意義はあるか?

 

・米日同盟は日本の外交政策の礎石だ。安倍首相は両国間の経済と安全保障の結びつきを教誨しようとしている。彼は既にTPP締結に向けての交渉を始めており、国防政策を改め、安全保障同盟関係を発展させるため、アメリカとの間で新しい防衛ガイドラインを作成した。

・先日のG7では議長を務め、世界共通のルールと規範を支持した。

・安倍首相はアメリカの利益と日本の政治的安定を支える政策を実行している。今回の選挙の結果で、日本の政治的安定は確保された。そして、安倍首相は日米両国間の戦略的な関係を維持することを支持している。

 

(終わり)





 

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 古村治彦です。

 

 昨日、参議院議員選挙の投票開票が行われました。結果は、自民党と公明党の政権与党が勝利を収めました。また、改憲に賛成・反対のくくりになると、今回の選挙の結果、改憲賛成ブロックが164(おおさか維新・日本のこころを大切にする会の非改選、無所属を含む)となり、改憲の発議に必要な参議院議員の3分の2を2議席超える結果になりました。

 

 民進党はほんの少しですが、無党派からの支持を獲得することに成功し、改選時は下回りましたが、前回よりは挽回しました。共産党は、例の「人殺し予算発言」が響いてそこまで党勢を拡大することはできませんでした。

 

 自公は設定した勝敗ライン61議席を超えたので、まずは勝利と言えます。皆で「アベノミクス選挙だ」と言っていたのですから、とりあえず「アベノミクスは民意の賛意を得た」と言うことが出来ます。”Japanese voters have bought Abenomics.”となりました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

参院選

●「全121議席が確定」

 

毎日新聞2016711日 0613分(最終更新 711日 0646分)

 

 参院選は11日早朝に全121議席が確定した。自民党は56議席、公明党は14議席を獲得し、安倍晋三首相が勝敗ラインに設定した与党の改選過半数(61議席)を大きく上回った。憲法改正に前向きなおおさか維新の会は7議席を獲得し、同党などを加えた「改憲勢力」で参院(定数242)の3分の2を上回った。

 

 自民、公明、おおさか維新の3党など改憲勢力の非改選議席は88議席。参院で憲法改正の発議ができる3分の2(162議席)に達するには74議席が必要で、3党の議席はこれを上回る77議席に達した。これで衆参両院で改憲発議が可能となった。

 

 自民党は32ある1人区(改選数1)の21選挙区で勝利。比例代表でも2013年参院選を1上回る19議席を獲得したが、27年ぶりの単独過半数回復をかけた57議席には届かなかった。現職閣僚では岩城光英法相(福島選挙区)と島尻安伊子沖縄・北方担当相(沖縄選挙区)の2人が落選した。

 

 公明党は選挙区に過去最多の7人を擁立。全員を当選させるなど、改選9議席を大きく上回る14議席を獲得した。

 

 民進党は13年参院選(当時は民主党)の17議席を上回る32議席を獲得したが、改選46議席は割り込んだ。ただ、1人区は野党統一候補が11選挙区で勝利する健闘をみせた。

 

 おおさか維新の会は改選2議席を大きく上回る7議席を獲得。共産党は13年参院選に続いて東京選挙区で議席を得て、改選数から倍増の6議席を獲得した。社民党は比例代表で1議席を獲得したものの、吉田忠智党首は落選した。生活の党も比例代表1議席を獲得した。

 

(新聞記事点差貼り付け終わり)

 

 今回の参院選挙の争点は、公式的(自民党が設定しようとしたもの)には「アベノミクス、これをそのまま続けるか」ということですが、野党やメディアは「改憲が可能となる参院での改憲勢力が議席数の3分の2を占めるかどうか」という観点で報道しました。

 

 そもそも今回の参議院議員選挙では当初、衆議院の解散に伴う総選挙と同日選挙(ダブル選挙)になる可能性もありました。ところが、安倍首相は衆院解散を断念しました。この時点で、改憲に関しては及び腰である、と言うことが出来ます。2014年の総選挙と今回の参院選の争点は、アベノミクスでした。もちろん、2014年の選挙の後、安保法制を成立させましたので、争点でないことを平気でやるのは安倍政権の得意技です(「新しい判断」という言葉を安倍首相は使ってきました)。

 

 しかし、彼らの悲願の本丸である改憲に関しては衆議院、参議院それぞれの院で100名、50名の議員の賛成で発議が行われ、本会議で3分の2の議員の賛成で可決となり、国民投票にかけられます。この手続きについては、慎重さを期さなければなりません。いささかの瑕疵もあってはなりません。

 

 そうなると、まずは改憲の発議を行う前に、衆院解散を行って、直近の民意を問うことが憲政の常道です。今回はそのチャンスでした。しかし、安倍首相は衆院解散をしての同日選挙に踏み切れませんでした。それは、同日選挙にするとそれは「改憲」を大きく打ち出すことになり、そうなれば、いくらふがいない野党勢力と言ってもまとまる口実を与えてしまい、また選挙が盛り上がってしまい、衆院で改憲勢力で3分の2を取れない、自民党が解散前の議席を割り込むなんてことになってしまったら、安倍首相の責任問題に発展して、辞任ということになります。そうなれば、おじいちゃんを乗り越えるチャンスを失うことになります。

 

 私は今回の選挙結果は、「日本人の絶妙のバランス感覚が発揮されたもの」と考えます。野党がまとまって行動したことに評価を与えつつ、3分の2をほんの少し超える程度の議席(現在流行りの週刊文春のスクープで減らされることだってあり得ます)を与え、「ほれ、これで改憲ができるものならやってみろ」という態度を示したものと思います。

 

 私は、今回自民党と公明党を中心とする改憲ブロックが参議院で3分の2を少し超える議席を獲得したと言っても、改憲はかなり困難である、安倍首相が考えているような改憲はほぼ不可能であると考えます。それは国民投票で賛否を決めるまでの高いハードルがいくつもあるからです。

 

国民投票については総務省のウェブサイトが便利です。

 

※以下が総務省のウェブサイトのアドレスです↓

http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/

 

 憲法改正の発議が衆議院では100名以上、参議院では50名以上の賛成で行われます。そして、両院の憲法審査会でそれぞれ審議が行われます。合同の審査会も可能です。そして、両院の本会議で採決が行われます。それぞれ3分の2以上の賛成で可決となります。これで国会が国民に対して憲法改正の発議を行ったということになります。

 

 この可決された日から60日から180日以内の日に国民投票が実施されます。国民投票の投票率によって効果が無効になるということはなく、単純に過半数で賛成、反対が決まります。その後、賛成となった場合には、内閣総理大臣は直ちに改正の手続きを行うということになっています。

 

 国民投票では、単純に「日本国憲法を改正することに賛成ですか?反対ですか?」という設問ではありません。改正する部分、部分それぞれに設問があって、「賛成・反対」に○をするという形になります。

 

 こうして見てくると、国民投票は単純な話ではありません。憲法改正の発議はまぁできます。その時に、どのように改正するかという案を出さねばなりません。日本国憲法は前文から第96条まであります。理論的には全部を変える・修正することは可能でしょうが、実際には無理な話です。設問の数や順番のこともあります。設問が50問などとなってしまったら、いつもの選挙のように立って丸を付けていくだけでも大変な苦痛になります。ですから、設問はできるだけ絞るということになるでしょう。自民党の憲法改正草案にはいろいろなことが書かれていますが、あれを全部1回でやるということは無理です。「この部分は良いけど、これは嫌」という人が大多数になるでしょう。

 

 そうなると、自民党の内部でまずどの変更や修正を優先するかで意見が分かれるでしょう。自民党は総裁一任ということにはなるでしょうが、その議論の過程で、様々な意見や批判が党内から出るでしょう。これは大きな痛手です。

 

 更には、公明党とも調整しなければなりません。公明党は今や看板だけになっているかもしれませんが、「平和の党・福祉の党」と謳っています。「加憲」ということを言って、ある意味で「逃げ」を打っている状況ですが、そこまできたら、肚をくくり、自党の運命を決めねばなりません。自民党の陰にいて補完勢力になって、批判の弾は自民党に受けさせるというオイシイ立場は終わりになります。公明党は、自民党に同調するのか、しないのかの踏み絵を踏まされます。そして、全国に約800万世帯にある創価学会の皆さんを説得しなくてはなりません。ここも大きな関門です。また、野党でも与党でもない「ゆ」党路線のおおさか維新や日本のこころを大切にする会の意向も問わねばなりません。これらは少数ですが、彼らが抜けてしまえば3分の2に響くのですから、かなりの要求を飲まねばなりません。政治家の最大の指名は選挙に勝つことですから、選挙協力という話も出るでしょうが、実際におおさか維新と争う自公の政治家たちからは不満が出るでしょう。衆議院では自公で3分の2ですが、参議院ではこれらを含んで3分の2から2議席出ただけのことです。

 

 自民党や公明党、その他の勢力から造反が出る可能性も高くなります。それに備えて、自公側は民主党の内部に手を突っ込むことになるでしょう。アクターが複雑に入り組んでいますから、そう簡単に、スムーズに憲法改正の発議が進むとは思いません。もちろん、野党は激しく抵抗するでしょうし、院外の街頭では、抗議活動が行われるでしょう。

 

 憲法改正の発議が両院の憲法審査会で通り、本会議で審議・可決されて国民投票になります。それから60日から180日以内に国民投票が実施されます。現在の世論調査の数字では、反対が上回っています。憲法に関する議論がメディアなどを通じても盛んになるでしょう。国民投票になった場合に、通常の選挙と同じ手法が使えるのかどうかが疑問です。自公は組織票固めに走るでしょう。この組織というのは利益団体であって、単純に言えば、国の予算を分け与えてもらう見返りに投票をする、選挙運動をするということになります。自公が「国民投票で自分たちの発議に賛成の票が多かった都道府県や市町村に予算を手厚く配分する」なんてことを言えば、「・公務員等及び教育者は、その地位を利用した国民投票運動をすることができません。・組織的に多数の者を対象に、投票に影響を与えるような利益を供与したり、利害関係を利用して誘導することは罰則の対象となります」という国民投票の規定に引っかかってしまいます。

 

 また、組織の中でも色々な考えがあるでしょうから、「自民党がやることは何でもいいんだ」という人から「今回は従えないな」という人まで出ます。これは労組でもそうです。

 

 こうして見てくると、改憲の道のりは長く険しいということになります。「3分の2を取れば明日にも改憲だ!」ということにはなりません。今回の選挙の後でも改憲勢力は揃って死んだふりをしています。しかし、油断はできません。改憲勢力にとっては、今が最後のチャンスかもしれないのですから。衆議院議員の任期が2018年、次の参議院議員選挙は2019年です。それまでは確実に3分の2が確保されているのですから、このことは安倍首相にとっては大変魅力的でしょう。次の選挙ではどうなるかは分からないのですから。

 

両院で改憲勢力が3分の2を取ったという事実を踏まえて、まず私たちができることは、自民党の憲法草案を読む、その解説書(賛成・反対それぞれの立場)を読む、国民投票について知る、という極めて単純な話です。そして、改憲ブロックの中心である自民党と公明党があらゆる手段を用いてきても良いように準備をしておくことです。ですから、今回の選挙で「あいつが出たからダメだった」とか「頑張りが足りなかった」という批判はある程度までにして、反省するところはしっかり反省して、改憲ブロックに反対する、議会に議席を持つ人々と結び附き、また彼らをしっかり結び付けておかねばなりません。

 

(終わり)










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