古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:アメリカ

 古村治彦です。

 

 2020年のアメリカ大統領選挙に関して、これまで若手のスターで、候補者になりうる人物たちをご紹介してきました。今回は、大物であるジョー・バイデン前副大統領です。バイデンは、2016年の大統領選挙で、民主党の候補者として待望されていましたが、直前に長男ボウ・バイデンが脳腫瘍で亡くなったこともあり、家族で相談して、バイデンは出馬しないという決断をしました。これで、ヒラリー・クリントンが民主党の大統領選挙候補者となり、最終的に敗れてしまいました。

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ジョー・バイデン

 

 2020年の大統領選挙に向けて、民主党は新規まき直しを図っていますが、民主党内の分裂が深刻で、2020年もまた共和党、トランプに勝てないのではないかという悲観論すらも出ています。そうした中で、バラク・オバマ前大統領の幻影と重なるジョー・バイデンの待望論も一部にあります。オバマ―バイデンのラインであれば、民主党がまとまっていけるというのがその理由ということになります。

 

 しかし、バイデンは既に70代と高齢で、2020年には78歳となります。任期中に80代となってしまいます。それで世界一の激務であるアメリカ大統領が務まるのかどうか、ということはどうしても心配になります。ですので、2020年に大統領選挙出馬するということは難しいと思います。

 

 バイデンは2016年の選挙に出馬して、ヒラリーではなく、彼が民主党の大統領選挙になっておくべきでした。そうすれば、ヒラリーが候補者になったために離れた支持者たちがバイデンに投票して、バイデン大統領になっていたと思われます。しかし、結局、出馬しませんでした。そして、タイミングを逃したということが言えるでしょう。

 

 歴史とはこういうことの積み重ねなのだろうと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

バイデンの娘:父が2020年の大統領選挙に出馬することを望む(Biden's daughter: I hope he runs in 2020

 

マックス・グリーンウッド筆

2017年9月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/campaign/349804-bidens-daughter-i-hope-he-runs-in-2020

 

ジョー・バイデン前副大統領の娘は、父ジョーが2020年の米大統領選挙に出馬する準備をしてほしいと語ったが、同時に、「現在まで準備はしていない」とも語った。

 

アシュリー・バイデンは、『ウイメンズ・ウェア・デイリー』誌の取材に応じ、父親が出馬する計画を持っているのかどうかと質問され、「そうあって欲しいと思う」と答えた。アシュリーは続けて次のように語った。「父はこれまで以上に忙しい日々を送っています。彼は現在、バイデン財団とキャンサー・ムーンショットの仕事と、民主党の議員や候補者たちが次の選挙で当選するように応援活動に忙しいのです。彼は自身の選挙の準備をしていません。最愛の息子を失った後、父は毎日そのことを考えています。彼は時がいたれば決断するでしょう」。

 

アシュリーは次のように語る。「決断をするかしないかは紙一重だと思います。4年間あれば多くのことが起きます。私たち家族はそのことを実感しています。父は健康状態が良好で、その時点の状況を判断して、最終的に決断するでしょう。幸運を祈りたいと思います」。

 

これまで、前副大統領が大統領選挙に出馬する準備をしているのかどうか、人々の注目を集めている。バイデンは2015年に長男ボウ・バイデンが脳腫瘍で死去した後、2016年に大統領選挙の出馬をしないと決断した。

 

2017年1月に正式に退任して以降、バイデンは比較的明確な態度を維持し、バイデン財団を発足させ、今年の夏には、バイデン・キャンサー・イニシアティヴをスタートさせた。

 

アシュリー・バイデンは、健康問題がなければ、父ジョーは大統領選挙に出馬すると考えている。アシュリーは、物事はいつでも変化するということを認めながら、バイデンは「エネルギーに溢れている」と述べた。

 

アシュリーは次のように述べている。「父はエネルギーに溢れています。ですから、決断する時期が来たら、決断するでしょう。この3年間で多くのことが起きるでしょう。何が起きるかは分かりません。人生では何が起きるか分かりません。神のご加護で、私たちが健康に恵まれたら、選挙に出馬するでしょう。何が起きるかは誰にも分かりません」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は民主党の大統領候補になりうる2人の連邦上院議員に関する論稿をご紹介します。これまでに、

 

 民主党は、バーニー・サンダース連邦上院議員を支持した、リベラル・リバータリアン連合とも言うべきグループと、ヒラリー・クリントンを支持したリベラル・人道的介入主義派連合に分かれています。この2つのグループは、国内問題ではそう大きな違いはありませんが、外交政策で大きく異なります。外国への介入・干渉(intervention)をすべきかどうか、で主張は真っ向からぶつかり合います。

 

前回ご紹介したティム・ライアンは、大統領選挙でトランプが勝利したオハイオ州の政治家で、トランプ勝利の原因となった、経済のメッセージを強く打ち出し、トランプ大統領に近い政策を主張しています。カマラ・ハリスとカーステン・ギリブランドはリベラルな主張をしており、リベラル派のスターということになります。


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カマラ・ハリス

 

 カマラ・ハリスとカーステン・ギリブランドは2020年には共に50歳を超えますから、このブログでご紹介したハワード・ディーンの発言である「50歳以下が望ましい」には適合しませんが、まだまだ年齢的に問題になることはありません。2016年の選挙で元気だったのは、日本で言えば団塊の世代の人たちだったのですから。

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カーステン・ギリブランド

 

 カマラ・ハリスはサンフランシスコ地区検事長を務め、カリフォルニア州司法長官を6年間務め、2016年に連邦上院議員に初当選しました。カリフォルニア州の司法改革を進め、その手腕が評価され、民主党指導部からの期待が大きい新人議員です。

 

 カーステン・ギリブランドは、司法界で活躍した後、2006年に連邦下院議員となり、2008年には国務長官に転身したヒラリー・クリントンの後を受けて、連邦上院議員となりました。こちらも期待の大きい政治家です。

 

 民主党のライジング・スターが2020年に大統領選挙候補者となるかどうか、注目していきたいと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

カマラ・ハリスとカーステン・ギリブランドが2020年の大統領選挙での民主党の勝利を導くだろう(Kamala Harris and Kirsten Gillibrand will lead Democrats to 2020 victory

 

マイケル・スター・ホプキンズ

2017年9月3日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/pundits-blog/presidential-campaign/349036-kamala-harris-and-kirsten-gillibrand-are-the-future

 

民主党は政治状況を把握し、2016年の選挙の惨敗後の党の再建に注力している。こうした中で、党の指導部の変更が必要であることは否定できない。2016年の選挙中と選挙後、民主党の支持者たちが最も不満に思っているのは、指導部の中に多様性が欠けている点であった。民主党はバラク・オバマと写真写りの良い家族によって好影響を受けていた。それがなくなって、民主党は、ミレニアム世代を熱狂させ、支持基盤を活性化することができる候補者を見つけることに苦労している。ワシントン政治に精通している人にとっては、ミレニアム世代と民主党の支持基盤の両方に対処することは簡単な仕事ではない ということは分かりきったことである。オバマのような政治家が出てくるのは一世代(30年)に一度だ。

 

大統領退任以後、前大統領となったオバマは比較的静かに暮らしている。そして、現在の状況や事件については注意深く発言している。オバマの不在は民主党に大きな穴をあけている。ナンシー・ペロシ連邦下院民主党院内総務(カリフォルニア州選出、民主党)とチャールズ・シューマー連邦上院民主党院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)ではこの穴を埋めることはできない。更に言うと、オバマ不在による穴は、党内の2つの勢力の争いを誘発している。1つのグループは、リバータリアン志向で、バーニー・サンダース支持グループ、もう1つは政治的に穏健な、ヒラリー支持のエスタブリッシュメントのグループで、この2つは争っている。

 

2016年の大統領選挙でこの2つのグループの争いが表に出てきた。民主党予備選挙におけるサンダース支持者とクリントン支持者との間の憎悪と反目は民主党全国大会で爆発し、ヒラリーは大統領選挙本選挙で民主党をまとめることができなかった。ヒラリーは弱いメッセージしか発信できず、選挙戦略の選択肢に失敗したことで、大統領選挙運動に失敗した。ヒラリーの歴史的な敗北は、民主党の「バーニー・ウィング」から支持を受けられなかったことが理由になったことは否定できない。

 

民主党は2020年の大統領選挙を展望している。その中で、民主党を代弁し、リーダーとなるのは誰かということが大きな疑問となっている。無所属のヴァーモント州選出の連邦上院議員サンダースが2020年の大統領選挙予備選挙に再び出馬するかどうかも関心の的になっている。民主党が急速に地域政党になってしまうかどうかも人々が懸念を持っている。政権発足後1年も経たないうちに、トランプ大統領の政権運営は無秩序状態に陥っている。こうした状況下でこれらの疑問に対する明確な答えは存在しない。しかしながら、確かに言えることは、民主党の未来は女性にかかっているということだ。

 

カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)とカーステン・ギリブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が民主党内の台頭するスター(ライジング・スター)である。この2人は民主党をまとめ、支持基盤を構成する様々なグループの人々を熱狂させる稀有な能力を持っているように思われる。2人の連邦上院議員はアメリカ全土の遠く離れた場所から選出されてきているが、2人が選出される道筋はよく似ている。2人の女性議員は連邦上院議員になる前に法律家としてのキャリアをスタートさせた。2人は国民皆保険制度を支持している。ハリスは最近次のように語った。「国民皆保険は道徳上のそして倫理的な正しさについてのことだけではない。財政的な観点や納税者にとっての投資のリターンからも理屈に通ったものだ」。

 

オバマ大統領やエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)をはじめとする同僚の女性連邦上院議員たちからの支援を受けて、ハリスの全国的な知名度を高めた。ハリスは連邦上院議員に2016年に当選する前に、6年にわたって、カリフォルニア州司法長官を務めた。ハリスは家系に複数の人種がいることをオバマと比較されることが多い。ハリスは収入の格差、人種差別の是正、社会保障に関連する様々な問題に果敢に取り組んでいる。

 

ハリスとギリブランドは手加減なしに論争に参加し、そのために同僚の男性議員たちの多くと同じく政治的信条を明らかにすることで、批判を受けている。ハリスは議論に真正面から立ち向かっている。ハリスは連邦上院議員1年目に、ウイメンズ・マーチで演説を行い、ジェフ・セッションズ司法長官に対する連邦上院による公開の公聴会で、セッションズを激しく批判し、ヴァージニア州シャーロッツヴィルでの事件でトランプ大統領がきちんと対応するように求めた。昨年11月の大統領選挙の開票終了後、暴発寸前の有権者たちを前にして、ハリスは「私は戦う」と宣言した。連邦上院議員に就任して1年も経っていないが、ハリスは彼女の言葉を忠実に守っている。

 

同じことがギリブランドにも言える。2006年に連邦上院議員選挙に初出馬して以降、国民皆保険を訴えてきた。ニューヨーク選出の2期目の連邦上院議員であるギリブランドは、公的医療保険の導入、最低賃金の引き上げを支持し、最近では、アメリカ軍における性同一性障害の人々の入隊を制限するトランプ大統領の大統領令を批判した。ギリブランドは、ニューヨーク州北部の工業地帯に住む労働組合に加入している肉体労働者たちやニューヨーク州都市部の少数派やミレニアム世代の持つ懸念を表現することができる能力を持っている。そして、民主党員は、彼女の政治的未来についてどのようになるかと楽しみにしている。

 

ヒラリーの選挙運動はオバマの選挙運動の熱狂を再びかき立てることはできなかった。ヒラリーの選挙運動とは異なる新しい時代が民主党にやってこようとしている。ハリスとギリブランドは、ヒラリーが持っていた様々な欠点を持っていない。これらの欠点のせいで、ヒラリーは支持してくれる可能性のあった有権者を逃した。国政の場では比較的新しい参加者であり、ハリスもギリブランドも、ヒラリーがファーストレディーや国務長官を務めたことで蓄積してしまった共和党側の怒りを生み出していない。 ハリスもギリブランドも年齢や健康の点で大統領に相応しいのかどうかという疑問は出ない。2人とも 配偶者は選挙で選ばれた政治家ではないので、彼らの軽率な行為や政治上の決断に関する不公平な質問に答える必要はない。

 

ハリスとギリブランド2人が持つアメリカ大統領選挙候補者になるにあたっての最重要の特性は彼らが人々を感動させることができるという能力だ。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代にオバマは人気を急速に上げたが、現在のアメリカには人々を感動させ動かす人物が必要だ。アメリカには信じるに足るムーヴメントが必要だ。オバマ大統領は民主党支持者を感動させ、投票に行かせて、新しい道筋をつけた。ハリスとギリブランドは窒息寸前の民主党に新しい空気を吹き入れることができる。

 

頭が切れ、献身的で、人々を動かすことができる女性がアメリカ大統領になること以上に、現状維持を打破することになるものがあるだろうか?ハリスとギリブランドは、頭が切れ、業績を残した女性で、少女たちがいつの日か残された最後のガラスの天井を打ち壊すことができると思えるように出来る人物たちであることだけが理由ではない。2人は現在のトランプ大統領が象徴していない、我が国を偉大ならしめている様々な要素を徴していることも理由なのである。

 

2020年に民主党がホワイトハウスを奪還する希望を持てるとするならば、私たちは候補者を立てるだけでなく、ムーヴメントを起こす必要がある。 人々に語りかけるに足るストーリーを持ち、選挙に出る人全てが答えなければならない質問に対する答えを用意していなければならない。その質問とは「あなたはどうして立候補しているのか?」というものだ。2020年の民主党の予備選挙に立候補する人は誰でも、民主党の政策がアメリカ国民の健康を守ることができる理由を語ることができなければならない。民主党は、民主党の政策がアメリカを安全にし、人々の生活を守り、雇用を守ることができることを説明できなければならない。民主党は複雑に入り組んだ諸問題に対する回答を用意しなければならない。

 

カマラ・ハリスとカーステン・ギリブランドには、これらの疑問に答える準備ができている。民主党の未来は流動的だが、もし有権者がこの2名の女性のどちらかに信頼を寄せる場合、大統領選挙勝利への道筋は現在の状況とは劇的に異なり、スムーズなものとなるだろう。昨年11月、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに対して、悲劇的な敗北を喫した。しかしそれでもなお、民主党の未来は女性にかかっている。2020年に向けたレースをさっそく始めようではないか。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)


アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12








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 古村治彦です。

 

 今回は戦闘的左派antifaに関する論稿の後半部をご紹介します。著者のベイナートはここで重要なことを書いています。それは、暴力肯定、戦闘的であることは、自分たちを反対者と同じ存在にしてしまうという批判です。私はこの指摘ができるベイナートを尊敬しています。

 

 戦闘的左派antifaは若者を中心にして勢力を拡大しています。人種差別主義者や白人優越主義者たちが集まっている場所に出て行って、その集会の開催を阻止し、そのためには暴力を使います。これに対して、人種差別主義者や白人優越主義者、そして、トランプ支持者たちは自分たちの権利が侵害されているという意識を持ち、さらに先鋭化し、激しい行動に出ます。そして、被害者意識から更なる暴力をふるい、殺人事件まで起こしています。私は、白人優越主義、人種差別主義、ネオナチには一片の理解も共感もありません。しかし、こうした考えを信奉する人々とトランプ大統領を支持し、投票した人々をいっしょくたに扱うことには反対です。

 

 暴力は何も生み出さない、というきれいごとを言うつもりはありません。しかし、自分の権利が侵害される、生命が脅かされるといった場合に緊急的に暴力をふるうことは仕方がありませんが、それも過剰であってはなりません。

 

 ベイナートの論稿によると、antifaの活動家たちは、「人種差別主義者や白人優越主義者が集まって考えを述べることは、ひいては少数派に対する暴力を生み出すから、それを事前に阻止しているのだ」と述べているそうすが、これはアメリカの予防的先制攻撃(preemptive attack)の論理と変わりません。私は彼らの暴力肯定は、こうした論理から認められるものではないと考えます。

 

 また、antifaの活動家たちは、「どのアメリカ人が集会を行うことが許され、誰には許されないのか」を決める権威を持っている、と主張しているそうですが、これは大変思い上がった考えであると言わざるを得ません。何が正しいのかを決めるのは自分(たち)だ、という考えを持ち、それが実行されたとき、どれほどの悲劇が起きてきたかは人類の歴史を見れば明らかです。

 

 こうして見てくると、「正しさ」を自分たちで決めて、そのうえで反省がない場合、大きな失敗が起きるという人類の歴史でみられる現象が、現代のアメリカでも起きていると言わざるを得ません。トランプ支持者の中に人種差別主義者や白人優越主義者が混ざっていることは間違いありません。しかし、「トランプ支持者たちは人種差別主義者で、白人優越主義者で、ファシストだ」などと言うことは間違っています。彼ら全員がそうではないからです。そこをいっしょくたにして暴力をふるう対象にする、という行為は左派の持つ、寛容性や多様性というプラスの面を大きく損なうものです。

 

(貼り付けはじめ)

 

ポートランドはこうした状況を生み出すうえで最も重要な場所と言えるだろう。アメリカの太平洋岸北西部は長年にわたり、白人優越主義者たちを魅了した場所であった。白人優越主義者たちは複数の人種が共に生活する東部や南部からすると安息所のような場所だと考えた。1857年、オレゴン(当時は連邦直轄領)は、アフリカ系アメリカ人の居住を禁じた。1920年代まで、オレゴン州はクークラックスクラン(KKK)のメンバーが人口に占める割合が全米で最も高い州であった。

 

1988年、ポートランドのネオナチがエチオピアからの移民を野球のバットで殺害した。その直後、ポートランド州立大学の講師で『ファシストたちに抗して』の著者アレックス・リード・ロスは、「反ナチスのスキンヘッズたちが人種偏見に反対するスキンヘッズ(Skinheads Against Racial Prejudice)の支部を立ち上げた。その直後、ポートランドで反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)グループが結成された」と書いている。

 

トランプ時代の現在、ポートランドは反ファシズム闘争の砦となっている。トランプ当選後、数日にわたって、覆面をした活動家たちはデモ行進をしながらショーウィンドウを破壊した。今年の4月初旬、antifaの活動家たちは、ワシントン州に属するヴァンクーバー(オレゴン州の都市ポートランドの都市圏を形成している)で行われた「トランプと自由のためのラリー」に対して発煙筒を投げ込んだ。地元紙はこの時の大乱闘について、ライヴ会場での観客同士の押し合いへし合い(モッシュピットと呼ばれる)のようであったと書いた。

 

反ファシズム活動家たちがポートランドの82番街でのパレードを中止するように圧力をかけてきたとき、トランプ支持者たちは「マーチ・フォ・フリー・スピーチ」デモで対応した。デモの参加者の中に、ジェレミー・クリスティアンがいた。クリスティアンは屈強な男性で犯罪歴があり、アメリカ国旗を振り回していた。クリスティアンは人種に関する罵詈雑言を喚き散らし、ナチス式の敬礼を繰り返した。それから数週間後の今年5月25日、クリスティアンだと思われる男性がantifaを「パンクファンの尻軽女たちの集まり」と呼んでいる映像が公開された。

 

翌日、クリスティアンは電車に乗り、「有色人種」が都市を破壊していると叫び始めた。彼はたまたま乗り合わせていた10代の少女2人に絡んだ。1人の少女はアフリカ系アメリカ人で、もう1人はイスラム教徒であることを示すヒジャブをかぶっていた。クリスティアンは2人に対して、「サウジアラビアに帰れ」「自殺して果てろ」と言い放った。少女たちは電車の後ろに逃げ、3名の男性がクリスティアンと少女たちの間に立った。1人が「どうぞ、この電車から降りてください」と言った。クリスティアンはこの3人をナイフで刺した。1人は電車の中で出血多量で亡くなった。もう1人は病院に運ばれた後に死亡宣告された。1人は何とか命を取り留めた。

 

このサイクルは続いた。クリスティアンの事件から9日後、トランプ支持者たちはポートランドで再びデモを開催した。このデモでは、バークリーで反ファシズム活動家を殴打したチャップマンも姿を現し、参加者たちの称賛を受けた。antifaの活動家たちは警察が介入し、スタンガンと催涙ガスを使って解散させるまで、デモに対してレンガを投げつけた。

 

ポートランドで失われたものは、マックス・ウェーバーが国家が機能するために不可欠なものと考えるものそのものである。それは正当な暴力の独占である。antifaの構成員のほとんどがアナーキストであるため、反ファシストの人々は白人優越主義者たちが集まることを政府が阻止することを望まない。彼らは、政府の無能さを声高に叫びながら、自分たちで阻止したいと望んでいる。他の左派グループの活動家たちからの支援を受けて、彼らは政府の邪魔をすることに一部成功している。デモ参加者たちは今年2月、市議会での会議に何度も乱入した。それは会議が非公開で行われていたからだ。2017年2月と3月、警察の暴力とポートランド市役所のダコタ・アクセス・パイプラインへの投資に抗議している活動家たちはテッド・ウィーラー市長を徹底的に追い回した。家まで付け回し、市長はホテルに避難した。パレードの主催者に送られてきたEメールには憎悪に満ちた言葉が書き連ねられていた。その中には「警察は私たちが道路を封鎖するのを阻止することはできない」という言葉もあった。

 

こうした動きをトランプ支持者たちは恐怖感を持って受け止めている。彼らはリベラル派の拠点では、彼らの言論の自由を守ることが拒絶されているのだという猜疑心を持っている。トランプ支持者であるジョーイ・ギブソンは6月4日のデモを組織した人物である。ギブソンは私の取材に対して、「私が最も不満に思っているのは、リベラル派の拠点となっている町の市長や町長たちが警察を出動させないことです。彼らは保守派の人々が集まって話すことを望まないのです」。デモの安全を守るために、ギブソンは極右の民兵組織「オース・キーパーズ」を招いた。今年6月末、マルトノマウ郡共和党代表ジェイムズ・バカルもまた安全のために民兵組織を使うだろう、それは、「デモ参加者はポートランドの町中は安全ではないと考えている」からだ、とバカルは述べた。

 

antifaの支持者たちは権威主義に反対しているantifaの活動家の多くは、中央集権化された国家という概念に反対している。しかし、立場の弱い少数派を守るという大義名分の下に、反ファシズム活動家たちは、どのアメリカ国民が公共の場で集まることができ、誰ができないかを決定する権威を持っていると自認している。彼らが持つという権威は民主的な基盤の上には立っていない。彼らが避難している政治家たちと違い、antifaに参加している男女は投票で追い出すことはできない。彼らは選挙の洗礼を受けていないし、そもそも彼らは自分たちの名前も明かしてはいないのだ。

 

antifaが自認する正当性は政府の正当性とは反比例の関係にある。トランプ時代において、antifa運動がこれまでにないほど勢いを増しているのはここに理由がある。ドナルド・トランプ大統領は、リベラルで民主的な規範を馬鹿にし、その消滅を望んでいる。こういう状況の中で、進歩主義者たちは選択することを迫られている。彼らはフェアプレイのルールを再確認し、トランプ大統領が行う心をむしばむような行為を制限しようとすることができる。そうした努力の多くは失敗してしまうだろう。もしくは、強い嫌悪感、恐怖感、道徳的な怒りの中で、人種差別主義者やトランプ支持者の政治的な諸権利を否定することもできる。ミドルベリー大学、バークリー、ポートランドにおいて、後者の方法が採用された。そして、特に若い人たちの間でそうした方法が拡大し続けている。

 

憎悪、恐怖、怒りは理解できる。しかし、一つ明確なことがある。ポートランドの町中で共和党員や支持者たちが安全に集まることを妨げる人々は、「自分たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義に強く反対しているのだ」と考えているのだろう。しかしながら、実際のところ、そうした人々は、その思いとは裏腹に、反対している相手である人種差別主義者、白人優越主義者、トランプ支持者といった人々に対しての同盟者、協力者となってしまっているのだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





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 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカの現状を理解するうえで重要な論稿の前半分をご紹介します。次回に後半部をご紹介します。筆者は私も尊敬しているピーター・ベイナートです。

 

 この論稿で、ベイナートは暴力行為をいとわない左派グループの台頭について論じています。antifaという運動について取り上げています。「antifa」という言葉は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉で、ファシズムやファシズムを信奉するファシストに反対する、ということです。antifaの活動家たちは、人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちを攻撃しています。それに対して、攻撃を受けている側も反撃しており、現在のアメリカの暴力的な雰囲気がこうして生み出されています。

 

 ベイナートは現在の戦闘的左派antifaと人種差別主義者や白人優越主義者、ネオナチ、トランプ支持者たちのぶつかり合いについて具体的なケースを取り上げています。ポートランド、カリフォルニア大学バークレー校、ミドルベリー大学で起きた事件を取り上げています。そして、戦闘的左派antifaが出現してきた歴史について概観しています。

 

 この論稿ではファシズム(Fascism)や権威主義(Authoritarianism)といった政治学上、大変に重要な言葉が使われています。しかし、その定義については書かれていません。これらの言葉を厳密に定義することは難しいのですが、難しいと言っているだけでは、この言葉を使うことができなくなります。ですから存在する以上は荒っぽくてもなんでも定義をして使わなければなりません。

 

 ファシズムは1920年代から1940年代半ばにイタリアやドイツで出現した政治体制を支えるイデオロギー(政治思想)です。反自由主義、反個人主義、反資本主義、反共産主義を掲げる思想です。権威主義という言葉は、戦後に政治学で出てきた言葉です。フアン・リンツという政治学者が、フランコ将軍支配下のスペインの研究から生み出した概念です。権威主義体制は、ファシズム体制や共産主義体制のようなイデオロギーはなく、政治的な動員も大きくないが、政治的多様性は低いものです。全体主義(Totalitarianism)という政治思想の言葉もありますが、これは個人が全体に従属する、という考えで、ファシズム政治体制と共産主義一党独裁体制は全体主義に分類されます。全体主義の対義語は個人主義です。これらすべての体制は非民主的体制(nondemoractic regimes)となります。

 

 antifaはファシズムと戦うということになりますが、具体的には、非民主的、自由主義、個人主義を否定する考えを信奉する人々と戦うということになります。ベイナートも論稿の中で書いていますが、ヨーロッパとは異なり、アメリカではファシズムや共産主義が大きな勢力になったことがないために、これらと戦うという伝統はありません。しかし、人種差別主義(Racism)や白人優越主義(White Supremacy)と戦う、公民権運動のような伝統は存在したので、まず人種差別主義との闘いが始まりました。その後、ヨーロッパとの反ファシズム運動との交流を経て、アメリカでも反ファシズム運動antifaが始まりました。

 

 そして、現在、活動を活発化させている白人優越主義者や人種差別主義者との闘いにantifaが参加しています。そして、antifaの活動家たちは、ベイナートの論稿のサブタイトルにもありますが、「アメリカの右派の中で勢力を増している権威主義と戦っている」と主張しているそうです。私は、antifaの活動家たちがファシズムや権威主義といった言葉をどれだけ真剣に定義づけしているのか、はなはだ疑問です。なぜなら、彼ら自身が主張していることを敷衍していくと、非民主的で、危険な考えにまで行きついてしまうからです。

 

 現在ある人種差別・白人優越主義や人種差別に伴って起きる事件について対応し、その改善や解決のために戦うということは素晴らしいことです。ファシズムや権威主義という定義の難しい、人によって定義が異なる言葉で、なおかつ大変に危険な感じを受ける言葉を使うということが大変危険なことであると私は考えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

暴力を伴う左派の台頭(The Rise of the Violent Left

Antifaの活動家たちは、「私たちはアメリカの右派の中で大きくなっている権威主義と戦っているのだ」と述べている。彼らは権威主義の火に油を注いでいるのではないか?

 

ピーター・ベイナート筆

『ジ・アトランティック』誌

2017年9月号

https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2017/09/the-rise-of-the-violent-left/534192/

 

オレゴン州ポートランドでは1907年からローズ・フェスティヴァルというお祭りが始まった。2007年からはポートランドの82番街でのパレードが始まった。2013年からはマルトノマウ郡(ポートランドもここに含まれる)共和党がパレードに参加するようになった。今年になってこうした状況が変化することになった。

 

パレード開催の数日前、「ダイレクト・アクション・アライアンス」というグループは、「ファシストが町中を行進しようと計画している」と宣言し、「ナチスがポートランドの町中を何の反対もなく行進することなどできないだろう」と警告を発した。このグループは、マルトノマウ郡共和党自体に反対しているのではなく、人々の中に影響力を浸透させようと計画している「ファシスト」に反対しているのだと主張している。しかし、彼らは、参加者たちが「トランプの旗」と「トランプのかぶっていた赤い帽子(red maga hatsred “Make America Great Again” hats)」を持つことは非難すると述べた。そうした人々は女性に性的嫌がらせをし、ヘイト、人種差別、偏見を増長させているオレンジ色の肌をしている大統領への支持を普通のことにしてしまうことになるから、私たちは反対するのだと主張している。もう一つのグループである「オレゴン・ステューデンツ・エンパウアード」は、「ファシズムを壊滅せよ!ポートランドにナチスは存在させない!」と主張している。このグループはフェイスブックを通じて結成された。

 

続いて、パレードの主催者に一通の匿名のEメールが届けられた。そこには、「トランプ支持者」や「ヘイト的な言辞」を叫ぶ人間たちがパレードに参加する場合、「私たちは200名以上でパレードに乱入し、そうした人間たちをパレードから叩き出す」という警告が書かれていた。ポートランド警察ではパレードの安全をしっかり守れるだけの力がないと主催者側に伝えたので、パレードは中止されることになった。この出来事は次に起こることに兆候そのものであった。

 

進歩主義者にとって、ドナルド・トランプはただの共和党から出た大統領という存在ではない。サフォーク大学が昨年9月に行った世論調査の結果によると、民主党支持者の76%がトランプを人種差別主義者だと考えているということであった。昨年3月、ユーガヴが行った世論調査によると、民主党支持者の71%がトランプの選挙運動には「ファシズムの含意」が存在していると述べた。こうした中で、進歩主義者たちをイライラさせている一つの疑問が存在する。アメリカ大統領が影響力を持つ人種差別主義者で、弱い立場にある少数派たちの声明ではなく、諸人権を脅威に与えているファシスト運動の指導者だと確信するならば、あなたはそれを阻止したいとどれくらい望んでいるか?

 

ワシントンでは、この疑問に対して、連邦議員たちがどのようにトランプの政策に反対できるのか、どのようにして民主党が連邦下院の過半数を再奪取するか、いつどのように大統領に対する弾劾を仕掛けるか、という形の反応が出ている。しかし、アメリカ全体としては、戦闘的な左派グループのいくつかが全く異なる形の答えを出している。大統領就任式当日、顔をマスクで隠した活動家が白人優越主義者グループの指導者リチャード・スペンサーを殴打した。今年2月、カリフォルニア大学バークレー校でマイロ・イアンノポウラスがスピーチが予定されていたところ、反対者たちが激しく抗議し、スピーチの邪魔をした。イアンノポウラスはブライトバートの編集に携わった人物だ。今年3月、保守派で過激な主張を行う政治学者チャールズ・マーレーがヴァーモント州にあるミドルバリー大学で講演を行ったところ、反対者たちは彼の体をこづき回し建物の外に押し出した。

 

こうした出来事が自分たちとはどんなに縁遠く、また別々の事件だと思われても、こうした出来事の間には共通する要素が存在する。ポートランドの82番街のパレードにマルトノマウ郡共和党が参加することに反対したグループのように、こうした活動家たちは「antifa」と呼ばれる運動に関連していることが明らかになっている。「antifa」は、「反ファシスト(antifascist)」や「反ファシスト行動(Anti-Fascist Action)」を縮めた言葉だ。この運動は秘密性が高く、その活動を分類することは難しい。しかし次のことは確かに言える。antifaの力は増大している。活動的な左派の反応次第ではトランプ時代の道徳を決定することになる。

 

antifaのルーツは1920年代から30年代にまで遡ることができる。この当時、ドイツ、イタリア、スペインの町中では戦闘的な左派の人々がファシストと戦っていた。第二次世界大戦後にファシズムが退場した時、antifaもまた退場していった。しかし、1970年代から80年代にかけて、ネオナチのスキンヘッドたちがイギリスのパンクの世界に浸透し始めた。ベルリンの壁が崩壊した後、ドイツにおいてネオナチが影響力を持つようになった。こうした状況に対して、左派の若い人々、その中にはアナーキストやパンクのファンも多くいたが、彼らはストリートレヴェルでの反ファシズムの伝統を復活させた。

 

1980年代末、アメリカ国内の左派のパンクファンたちは先例に従い始めた。彼らは自分たちのグループを「反人種差別行動」と称した。理論的には、アメリカ人はファシズムよりも人種差別主義との戦いに慣れている、ということである。出版間近の『ANTIFA:反ファシストハンドブック』の著者マーク・ブレイは、こうした活動家たちは1990年代に人気のあるバンドのツアーについて回り、ネオナチがバンドのファンを自分たちに勧誘しないようにさせた。2002年、白人優越主義者のグループ「ワールド・チャーチ・オブ・ザ・クリエイター」の代表のペンシルヴァニアでの講演中にこうした人々が乱入した。この時の乱闘で25名が逮捕された。

 

2000年代になって、インターネットが発達したことで、アメリカとヨーロッパの人々の間で交流が盛んになった。そうした交流を通じて、アメリカの活動家たちは運動をantifaと呼ぶようになった。しかし、戦闘的な左派にとって、antifa運動は中心的なものとはならなかった。クリントン、ブッシュ、オバマ時代の左派の多くにとっては、ファシズムよりも、規制が撤廃された国際資本主義の方がより大きな脅威であった。

 

トランプがこうした状況を変化させている。Antifaは爆発的に成長している。「ニューヨークantifa」によると、このグループのツイッターは2017年1月の最初の3週間でフォロワー数がほぼ4倍になったと発表した。今年の夏までに15,000を超えた。トランプの台頭によって、主流派左派の中にもantifaに対して新たに親近感を持つ人々が出てきている。antifaにつながる雑誌『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌は、「左派全体から厄介者扱いされ、脇にどかされていたアナーキストとantifaが突然、リベラル派と左派の人々から、“あなたたちが正しかったのだ”と言われるようになった」と書いている。『ザ・ネイション』誌に掲載されたある記事の著者は、「トランプ主義をファシスト的だと言うためには、氷人的なリベラル派がトランプ主義に対して成果が上がるような戦いをしていないし、結果としてトランプ主義を封じ込めることに成功していないと認識することだ」と書いた。またAこの著者は急進左派は「この政治的に重要な局面において実践的でまじめな対応を行っている」と主張している。

 

こうした対応は流血を伴っている。「antifa運動」は主にアナーキストたちによって構成されているので、活動家たちは国家の存在を信頼していない。彼らは「国家はファシズムと人種差別主義と共犯関係にある」と考える。antifaの活動家たちは直接行動を好む。彼らは白人優越主義者たちが会合を開きそうな場所に対して圧力をかけ、会合を阻止しようとする。彼らは雇い主に対して白人優越主義者を解雇するように、また家主に対して彼らを追い出すように圧力をかける。 人種差別主義者やファシストが集会を開くと思われる場合に、antifaの活動家たちはその場に行って集会を破壊しようとする。阻止活動には時には暴力が伴う。

 

このような戦術に対して主流派左派から実質的な支援が行われている。大統領就任式当日にスペンサーを殴った覆面のantifa活動家の映像が撮られた。『ザ・ネイション』誌は、この活動家のパンチは「活動的な美しさ」から出た行為と描写した。『スレイト』誌は、この行為を褒めたたえる面白おかしいピアノバラードを紹介する記事を掲載した。ツイッター上では、様々な曲がつけられた映像が拡散された。バラク・オバマ前大統領のスピーチライターを務めたジョン・ファヴロウはこの映像の拡散について次のようにツイートした。「リチャード・スペンサーが殴られる映像にどれくらいの数の歌がつけられるか分からないけど、どの歌で映像を見ても私は笑い続けるだろう」。

 

暴力は、スペンサーのような人種差別主義を公言している人物たちにだけに対して振るわれているわけではない。昨年6月、カリフォルニア州サンノゼでのトランプの選挙集会において、それに反対するデモ参加者たち、その中には「antifa」に関係している人たちがいたが、彼らがトランプの選挙集会で興奮している人々を殴りつけ、卵を投げつけた。「イッツ・ゴーイング・ダウン」誌のある記事では、この暴力を「道徳的に正しい殴打」と呼んだ。

 

反ファシズム運動の活動家たちはこうした行為を防衛的だと主張している。弱い立場の少数派に対するヘイトスピーチは、少数派に対する暴力にまでつながると彼らは主張している。しかし、トランプの支持者たちと白人優越主義者たちは、antifaの攻撃を自分たちの自由に集まる権利の侵害であると考え、権利を守ろうという動きに出ている。結果として、1960年代以降、アメリカ国内でみられることがなかった町中での政治的の激しい闘いが続くことになった。サンノゼでの乱闘の数週間後、白人優越主義の指導者の一人が、トランプの選挙集会における攻撃に抗議するためにサクラメントでデモを行うと発表した。「サクラメント反ファシズム活動」はこのデモに対する反対デモを行うと発表した。結果として乱闘が起き、10名がナイフで刺されて負傷した。

 

同じような事件がカリフォルニア大学バークレー校でも起きた。今年2月、カリフォルニア大学バークリー校で計画されていたイアンノポウラスの講演に抗議する覆面をした反ファシスト活動家たちがデモ行進中、商店のショーウィンドウを破壊し、警備をしていた警察に対して火炎瓶と石を投げつけた。大学当局は「聴衆の安全に懸念がある」ことを理由にして講演を中止した。この出来事の後、白人優越主義者たちは、「言論の自由」を支持するために「バークリーでの行進」を行うと発表した。当日のデモ行進に、41歳になるカイル・チャップマンが参加していた。チャップマンは、野球のヘルメット、スキーのゴーグル、すね当て、覆面を身に着けていた。チャップマンはantifaの活動家の頭を木の杭で打った。トランプ支持者たちはこの様子を収めた映像を拡散した。極右グループが運営するクラウドファンディングのあるウェブサイトでは、チャップマンの裁判費用のために瞬く間に8万ドル以上を集めた。今年1月、このウェブサイトは、白人優越主義者の指導者スペンサーを殴った反ファシズム活動家の身元を明らかにするために報奨金を提供した。政治現象化した闘争文化が出現しつつある。antifaと白人優越主義者の両社にそれぞれ応援団が付き、闘争を彼らが煽り立てているのだ。『イッツ・ゴーイング・ダウン』誌の編集者ジェイムズ・アンダーソンは、『ヴァイス』誌の取材に対して、「この胸糞悪い闘いは傍観者たちにとっては面白いのだ」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(つづく)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

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 古村治彦です。

 

 今回はアジア地域におけるもう一つの核問題であるプルトニウム生産問題についての論稿をご紹介します。この記事の著者たちは、北朝鮮の核兵器の脅威と同様に、日中韓3か国のプルトニウム生産について懸念をもっています。プルトニウムは原子力発電所で使用した燃料を再処理することで出てきます。そして、プルトニウムは核兵器の燃料となるものです。ですから、プルトニウムを大量に生産し、貯蔵することは核兵器開発にとって必要不可欠の前提条件となります。

 

 日本でプルトニウムを生産しても、核兵器を製造することはできません。非核三原則がありますし、アメリカも許さないでしょう。ドナルド・トランプ大統領は選挙期間中、日本と韓国の核武装について言及しましたが、これをすぐに許可することはないでしょう。しかし、プルトニウムが貯蔵されるということは核兵器開発につながるのではないかという懸念を諸外国に持たせることになります。実際には中国が日本に対して懸念を表明しています。

 

 プルトニウム生産について懸念を払しょくする最善の方法は生産しないことだ、と著者たちは述べています。自民党と官僚の一部には、日本の核武装を目指す勢力がいるでしょうから、プルトニウムの生産と貯蔵をやめることはないと思われますが、それが果たして日本の安全保障につながるのかということを考えてもらいたい。諸外国の懸念と恐怖を引き起こして、割に合わないことになると考えられます。何よりもアメリカに疑念を持たせることが一番の問題ということになります。

 

今回ご紹介した論稿で重要なのは、河野太郎外務大臣の存在に焦点を当てている点です。河野太郎外相は外相就任以前から日本の原子力政策に批判的でありながらも建設的な提案をしている数少ない政治家の一人でした。今回の内閣改造で重要ポストである外務大臣に、一言居士の河野太郎氏の起用ということになり、人々は首をひねりました。どうして河野氏が外務大臣になったのか、と。対中国、対韓国の関係改善ということが理由で挙げられています。日本の原子力政策に批判的な河野氏を外相に起用したのは、今回の論稿のテーマであるプルトニウム生産問題について、安倍晋三首相が米中韓の各国にメッセージを発したのだと解釈することも可能です。

 

 このように考えると、河野太郎氏の外務大臣起用はより国際政治とリンクした重要な意味を持つものなのだと言うことができると思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

日本政府とアメリカ政府はもう一つの核にかかわる問題を抱えている(Tokyo and Washington Have Another Nuclear Problem

 

ヘンリー・ソコルスキー、ウィリアム・トビー筆

2017年817

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/08/17/tokyo-and-washington-have-another-nuclear-problem-china-korea/

 

今週、日本の外務大臣・河野太郎と防衛大臣・小野寺五典はワシントンで、アメリカ側の担当者である国務長官レックス・ティラーソンと国防長官ジェイムズ・マティスと会談を持つ。彼らは最近の北朝鮮による挑発行為に日米両国はどのように対処すべきかを議論する。今回の会談は素晴らしいものだ。日本や韓国と緊密に協力し、また中国と共同行動を取る時にのみ、アメリカは北朝鮮が与えている核兵器の脅威に効果的に対処できる。

 

北朝鮮問題は重要であるが、日米両国の担当者たちは、より長期的な、潜在的に深刻なもう一つの核に関する脅威について考慮しなければならない。そのもう一つの脅威とは、日本、中国、そしておそらく韓国におけるプルトニウムの生産量の増加である。この問題は複雑であるが、私たちが協力的に行動しても解決は存在しない。その論理構成は次の通りだ。

 

日本は、膨大な使用済み核燃料を処理するための再処理施設を2018年秋に六ヶ所村に開設する計画を持っている。六ヶ所村の再処理施設は核兵器に利用できるプルトニウムが8000キロ生産されることになる。これは年間1000発以上の核爆弾を製造できる量である。この再処理施設開設の表向きの理由は、再処理された燃料を発電用原子炉と高速炉に供給するためとされている。ここに一つの問題が存在する。現在、日本で稼働している原子炉は5つのみであり、唯一存在した高速炉は廃止されたばかりだ。つまり、これからプルトニウムが貯蔵されるはずもないのに、六ヶ所村の再処理施設を稼働させる必要はないのだ。

 

一方、中国はフランスから六ヶ所村の再処理施設の同規模の施設を購入することに合意した。最初に計画された施設に対しては大規模な反対運動がおこり、中国政府は建設を断念した。中国は再処理施設の稼働を2030年までに開始したいと望んでいる。そして、2040年から2050年にかけてこの施設から生産されたプルトニウムを利用する高速炉を稼働させる計画だ。繰り返しになるが、問題はこれから10年以上続くことになる。中国は核爆発用のプルトニウムを年間約8000キロ生産することになるだろう。

 

これがどうして問題になるのだろうか?中国はすでに数百発の核兵器を保有し、更なる核兵器製造のために必要なプルトニウムを貯蔵していると推定されている。この数字は実態に沿ったものであろう。しかし、中国がロシアやアメリカと対抗したいと望むのならば、中国は更なる数千発の核兵器用の燃料をさらに貯蔵する必要に迫られている。中国政府が核兵器用の燃料を軍事的な野心を露わにしない形で貯蔵したいと望むなら、「平和的」な高速炉プログラムの形を取ることになる。

 

韓国について見てみる。韓国は長年にわたりアメリカ政府に対して不満を表明してきた。アメリカは日本に対して核燃料を与え、その再処理を認めているが、韓国には認めていない。この点を韓国は不満に思っている。韓国の新大統領である文在寅は原子力発電所建設に反対し、米韓民生用原子力協定の下でプルトニウム生産の権利を求めない可能性がある。文大統領は大統領選挙で40%の得票率で当選した。文大統領の政敵たちは権利の存在を確認している。野党の政治家たちの中には韓国の核武装について公の場で主張している人たちが出てきている。

 

日中韓のプルトニウム生産計画はアジア地域における恐怖感と対立を高めている。日本政府の高官は非公式の場で、韓国はプルトニウムの再利用する必要はないと主張している。彼らはまた中国のプログラムについても懸念を持っている。一方、中国政府は、日本政府のプルトニウム生産計画がもたらす核兵器開発の脅威について公の場で避難している。中国政府はまた、アメリカが韓国に対してプルトニウム生産を許可するかもしれないということについて懸念を持っている。

 

このような危機的状況に関しては、簡単な解決法がある。トランプ政権はプルトニウムを燃料とする反応炉を製造する技術に対して政府補助金をゼロにすると決定した。トランプ政権は日本、中国、韓国に対して再処理施設計画を取りやめるように促すべきだ。どうしてそのようなことをすべきなのか?それは、日中韓が再処理施設計画を取りやめることで、資金を浪費するだけで実効性の乏しい核エネルギーの形態である再処理にお金を使わないで済むのだ。政治的にもこれは意味があることだ。中国政府は再処理施設建設を国民に説得できないでいるし、韓国は原子力開発計画をスローダウンさせたいとしている。アメリカ政府が対処に苦しんでいる北朝鮮問題について、同盟諸国や中国との間の協力関係は同氏も必要となる。一方、日本のプルトニウム生産プログラムは技術的にも経済的にも割に合わないものである。

 

今回の日本の代表団のワシントン訪問に話を戻す。今回の代表団には河野太郎外務大臣も参加している。河野大臣は日本国内において、日本のプルトニウム生産プログラムに対する最も厳しい批判を行ってきた人物である。昨年、安倍晋三首相は河野に対して日本政府の予算を削減する方法を質問した。河野は高速増殖炉「もんじゅ」の廃止を主張した。そして、安倍首相は河野の主張に合意した。

 

河野外相は就任後初の記者会見の場で、日米原子力協力協定が2018年7月に自動更新される前に専門家に諮問されるべきと考えるかと質問された。河野外相は諮問されるべきだと答え、日本のプルトニウム生産プログラムが示す安全保障上の諸問題について話し合われるべきだと述べた。今年初め、河野はこれよりさらに踏み込んだ行動をとった。それは、「日本政府は六ケ所村の再処理施設開設を取りやめること、原子力協力協定についてアメリカ政府と話し合うこと、プルトニウムの商業的生産の一時停止についてアメリカ、韓国、中国と協力すること」を内容とする共同宣言に河野は署名したのだ。

 

北朝鮮は重要な問題である。しかし、北東アジア地域における唯一の核に関する脅威ということではない。アメリカ、中国、日本、韓国がプルトニウム生産レースを回避できれば、北朝鮮の核の脅威に対して共同歩調を取ることは難しいことではないし、将来に発生しうるより深刻な脅威を防ぐこともできるだろう。ティラーソン国務長官とマティス国防長官はこのことを十分に考慮すべきだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





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